作者:鈴木ダイキチ
2015/03/25(水) 17:54公開
ID:6LHsTaF1YS.
【1993年10月31日 伊豆諸島沖 万能プラント・オノゴロ】
「…よし、これで問題なしだな」
「…その異常者丸出しの姿のどこが『問題なし』なのですか?」
パーティーに出席するための服装を整えた私の背後からジェニファー君のお声がかかる。
「どこがいけないのかね? ハロウィンパーティーに出席するのに?」
「…ハロウィンパーティーに何故
『なまはげ』の姿で行くのでしょう?」
「いや最初はアイスホッケーのマスクにチェーンソー持って行こうとしたんだが、周りの人が『それは危険だ』とか言うのでこっちにしたんだがね?」
こんにちは皆さん、相馬剣四郎です。
どうにかこうにか文殊君を説得する事に成功した私ですが、ここをしばらく空ける前に色々やっておかなきゃいけない事もあるのです。
その内の一つを消化すべく、これから国連軍基地(オノゴロV)で行われるハロウィンパーティーに出席しようと準備してるのに横で見てるジェニファー君の蔑みの視線が痛い痛い…
「…それで、本当にそのベックマンという軍人とコネクションを繋げるおつもりですか?」
「まあね…どうやらあの鎧衣さんとやらは榊大臣たちとも裏で繋がっているようだし、ここは彼の紹介に乗ってみようかと思っているんだよ」
「どんどん深みにはまっている気がしますが…この世界の事情に」
確かにそうだが…だが本当にシャレにならない事態が来ないという保証もない以上、こちらとしても色々と対応策を用意しておく必要があるだろう。
まずはその辺を見極めるべく、この『なまはげ』の姿で『彼』と会って顔繋ぎだけでもしておいた方がよさそうだ…後々のためにね。
「それじゃ行ってくるから後はよろしくね、ジェニファー君」
「…どうぞお好きなように」
【帝都 京・日本帝国首相官邸】
「…では、豪州政府はこちらが提示した案で満足してくれる訳かね?」
「はい、彼らとしても下手にこちらを刺激するよりも自分たちの国土からより効率良く資源を採掘出来る機械や技術を導入する方が得策と見て、ほぼ丸呑みで応じてもらえました」
相向かいで語り合うのはこの官邸の主である内閣総理大臣と、榊是親外務大臣である。
「ふ…こちらが資源活用を極限まで高める技術を手にする『可能性』を仄めかしたのが効いたか」
少しばかり悪党気味の表情でそう言った総理に榊も人の悪い顔で応じる。
「おかげで漁業に関してこれ以上は無理な干渉を強いる事はないという確約も得ました…その代わりと言っては何ですが、例の『カクテルグラス』は当面帝国のみが保有運用するという条件を出してきましたが」
「ふむ…それは別に構わんだろう? どの道我々もそう世界各国への『慈善事業』をやっていられる状況ではないのだからな」
「は…既に欧州連合には『オノゴロT』型の移動要塞を提供済みですし、少なくとも当面国際社会への義理は果たしたと言えます…少なくとも表向きは」
裏に回ればどんな無理難題や謀略を仕掛けて来るか分からない…言外にそう語る榊に総理も重い表情で同意する。
「そちらの方は内務省と情報省に頑張ってもらうしかなかろう…しかしこの先厄介なのが朝鮮半島を中心にした我が国と統一中華、そして米国のパワーバランスだな」
「はい、それが現時点での最大の難問と言えましょう」
「榊さん…正直半島はどの程度持ち堪える事が出来ると思う?」
諦観と、そして僅かな望みを込めたような総理の問いに対し、榊の回答は重く、無情だった。
「10年は持って欲しい…と言いたい所ですが、現実にはその半分持てばいい方でしょう」
「…やはりな」
朝鮮半島を防衛する主力は韓国軍、そして米軍と帝国軍(名目上は国連軍)であったが、韓国軍側と国連軍側との連携は必ずしも万全とは言えず、実際に半島防衛戦が始まった時に上手く機能するのか不安もあった。
「頼みの綱は韓国軍を束ねる老将、ペク将軍の存在か…」
「さようですな、彼の老将が未だ健在であるからこそ帝国軍と韓国軍の意思疎通や連携も出来ておりますが、もしも彼が倒れるような事があった場合は…」
「半島の戦線は一挙に崩壊してもおかしくない…か」
苦い口調でそう呟く総理に、榊も無言で頷く事で同意を示す。
朝鮮半島はその地政学的な立場から、常に周辺の大国によって脅かされ続けた歴史がある。
同時にその民族的な気質から党派乱立によって国論がいくつもに分裂しやすい傾向にあった。
親日派、親米派、親中派、親ソ派…それぞれがかなりの数を有する派閥であり、その対立は常に国家分裂の可能性を孕んでいると言っても過言ではない。
そんな状況で軍部が表向き一枚岩なのは、韓国陸軍の最上位者であり国家的英雄でもある老将、ペク将軍の存在のお蔭であった。
かつての朝鮮半島動乱を鎮め、国家滅亡の危機を救った老将が軍の意志を纏めているからこそ韓国軍は機能しているとさえ言われていた。
だが同時にペク将軍は既に高齢であり、いつ体調を崩してもおかしくはないと言われている。
彼にもしもの事があった場合、高い確率で韓国軍の指揮系統は混乱し、対BETA戦を戦うどころではなくなるだろうというのが米軍、帝国軍がそれぞれ内心で危惧している事でもあった。
「あの老将がいなくなった半島を韓国軍と連携しながら守り通すのは実質不可能…それが軍務省が出して来た答えだ」
「おそらくはその通りでしょう、ペク将軍がいなくなった韓国軍上層部は…いえ韓国政府までもが非常に不安定な状況に陥り、到底連携して何かをするなどという体制ではなくなるかと」
「…やはり早期に大東亜連合へ参入するよう働きかけを強めるべきかな」
東南アジア諸国を中心に日本帝国がサポートする形で結成されつつある大東亜連合だが、韓国はまだ参加の意志表示を明確にしていなかった。
「統一中華と、それからソ連が何かと裏で糸を引いて連合への参加を先延ばしさせているようですな」
良くも悪くも地理的歴史的に東南アジア諸国より遥かに近い位置にあるソ連と統一中華…この両国が韓国政府や軍に対して様々な圧力や誘い水をかけて自分たちの方に取り込もうとしていたのだ。
「あの両国に韓国が取り込まれたら米国や我が帝国との連携はほぼ有名無実となるのは必定か…」
「そうなる前に何とか彼らを大東亜連合へと加入させなくてはなりますまい」
韓国軍との連携を破綻させないために、そして今後の帝国防衛を少しでも強固な物にするためにも、韓国を大東亜連合に加盟させて安全保障の枠組みを固める必要がある…それが彼らの結論だった。
「さて…それはそれとして、例の徴兵年齢引き下げ法案だがね」
「はい、今国会中に審議を進めさせて来年前半で可決という流れにしては如何かと…」
「いや、会期を延長してでも今国会で成立させようと思う」
「!しかし総理、それはかなり…」
国会において一つの法案を通すには、様々な利害関係の調整や関係者各位の面子に配慮せずには不可能であり、それを無視すればそれを行った政治家の政治生命もが危機に陥る事になる。
総理が今国会で無理な採決を行えば、法案成立は可能でも彼自身は最悪政界から身を引く破目になりかねない…それを案じる榊に向かって穏やかな顔で総理は首を振る。
「どの道私は総理大臣を辞任した時点で政界から身を引くつもりだった…なら最後に後任者の苦労を一つくらい減らしておこうと思うのだよ」
「総理…」
後任者とはつまり自分の事であり、本来自分が請け負うはずであった徴兵制年齢引き下げに関する批判や軋轢を彼が引き受けてくれるのだと知った榊は絶句した。
そんな榊に向かって総理は淡々と、諭すかのような口調で告げる。
「勘違いはしないでくれ榊さん、私は君のためにこうするのではない…あくまでも国のためにだ」
「…」
「君があの白銀という少年たちと接触し始めた時に何を知ったのは分からん…しかし何を『決意』したのかまで分からないほどこの私は間抜けではないつもりだ」
それを聞いて僅かに強張らせた榊の顔を正面から見据えて総理は言葉を続ける。
「君があの時以来、常軌を逸するほどの強い覚悟で仕事に臨んでいた事も、オノゴロの相馬を相手に何かを持ち掛けている事も…すべては自分一人でこの先に待つ事態への責任を負うためなのだろう? だがな榊さん、だからこそ言うのだが君はそう簡単に死んではいかん」
「…!」
「これから帝国に押し寄せるであろう苦難は過去にない…いや、我々の想像を絶するほどの物になる筈だ。 そしてそれに対処するには今の君のような覚悟を持った人間でなければ出来ないだろうし、もしも君に何かあった時に代わって同じ事をやれる人間がいるとは限らないのだ。」
「総理…」
「君はこれからその覚悟を持って多くの敵を作りそして恨みを買う事になるだろう…おそらくはこの私に対するそれなどとは比べ物にならない程に…だがだからこそ君は一分一秒でも長く総理の椅子に座り、この帝国を異星起源種から守らねばならん。 そしてその日が来るまでは決して死んではいかんのだぞ?」
総理には分かっていた。
間もなく任期を全うし、後任を榊に譲る事になるこの椅子が…日本帝国内閣総理大臣の座がどれほど重い責をこれからかけられることになるのかを。
だからこそこの椅子に座るのはその重さに耐える事が出来る人間でなくてはならないし、榊がそういう人間だからこそ無理をするあまり命を縮めるような事をせず、BETAの脅威から帝国を守り切るまでは彼に生きていてもらわなくてはならない…この国と国民のためにも。
総理の意志と期待を込めた言葉を受けた榊是親は、無言のまま頭を下げてその期待に命を懸けて応える決意を胸にした。
【1993年11月1日 伊豆諸島沖 万能プラント・オノゴロ】
「さて、それじゃ行ってくるよ諸君」
そう出立の言葉を告げる私に向かって風車大尉たちが渋い顔で仰いますには…
「どうしても日本中を見て回るんですかい、相馬さん?」
「護衛はつけますが正直完全な安全の保障が…」
「もしもの事があってからでは遅いと思いますが?」
とまあ、皆さん有難迷惑なレベルにまでこの私を心配して下さってます(溜息)
「あのですね皆さん、私だって赤ん坊じゃないんですから何も好き好んで危ない場所に行こうとか思ってませんし、自前の安全策もちゃんと用意してるんですから…」
そういって彼らを安心させようとするも何故か納得してはくれないようだ。
だいたい(赤ん坊の方がまだ安心出来るんじゃねーか?)とか(本当に危ない場所に行ったりしないのかこの人?)とか(そもそもその自前の安全策とやらを使った場合何が起きるんだ?)とかいう台詞をわざわざ顔に書いて見せなくてもいいじゃないかアンタたちも!
「相馬さん」
っと、白銀君までナンデスカその目は?
「…何故急に日本中を見て回ろうなんて言い出したんですか?」
そう問いかけて来る彼の目には純粋な疑問とこちらの意図を知りたいという気持ちがあった。
うん、それじゃあ答えてあげないとね(年長者としては)
「それはね白銀君、自分自身で善悪を判断できるようになるためだよ」
「え?」
「私は今まで日本帝国やこの世界にとっての善悪に関わらない、いわば彼岸の立場にいたんだよ。 しかしこれからはそうも言っていられなくなるかも知れない…だから自分自身で少しでも多くの物を見聞し、判断の材料や今後自分たちがやるべき仕事の方向性を自分の目と耳で探したいと思っているからさ」
「…」
「…君なら分かるだろう白銀君? 何も分からない場所にいきなり放り出された無知な人間には善悪の判断すら出来ないという事が」
「!ツッ…それをどうして…」
そう言いかけて慌てて口元を押える白銀君の顔は本気で引き攣っていた(やはり本当か…あの話は)
「ま、その話は戻ってからゆっくりしよう…それじゃ皆さん、行ってきます」
そういって私は用意させた高速艇(まこと君謹製)の搭乗口に向かう。
さて、最初はどこから見て回ろうか…北海道とか行ってみるかな?それとも九州か…?
美味い酒と食べ物があるといいんだが…(いかんつい本音が)
第43話終わり
【おまけ・純夏よ、ちょっと話がある】
「え〜と…お話ってなに、武ちゃん?」
「お前…相馬さんに何か漏らしたのか?」
「え? べ、別に漏らしてないよ、本当にあの人には何も言ってないし…」
「…あの人には?」
「だ、だからお話した相手は文殊さんで相馬さんには何も…あ…」
「…お〜ま〜え〜は〜〜〜!!!!(大激怒&梅干し)」「イタタタタタ…ゴメンなさいタケルちゃ〜〜ん…イタイイタイイタイよお〜〜〜〜(涙)」
「なんだって他人にホイホイ話したりしたんだよ!?」
「だ…だって文殊さん00ユニット作ってくれるって言ったから…」
「んな!?」