秘めたる想い |
作者: さく 2016/06/19(日) 23:59公開 ID:AWJHGXqo7aA |
「はぁ……、大量ですわね」 「まったく、不謹慎です。学びの園をなんだと思ってるのかしら」 風紀委員として、持ち物検査の「戦利品」を眺めながら、シリカとエリーゼはぼやいた。 数としては、5〜6冊。ただし、ここに通う生徒の数を考えれば決して少ない数ではない。 「どうするんですか?これ」 シリカは椅子にもたれながらそのうちの一冊をひろい、手でもてあそぶ。 「どうするも……没収ですからね。最終的には廃棄かしら」 「それは少しかわいそうね、これ、そんなに安いものではないし」 この時代、娯楽はかなり衰退していた。 そのため、たとえ素人の手習いのようなものであっても、少なくはない人間がそれを求めた。 中でも、ロマンスものは、とりわけ人気が高く、価格も高騰しがちであった。 「そうね……でも、これはロマンスの名を借りた、いかがわしい本だわ」 エリーゼがバッサリと切り捨てる。 シリカはふぅ、とため息をつき、 「いかがわしいかどうかは、愛があるか、無いかだと、私は思いますけどね」 エリーゼは一冊の本を手に取り、すっとシリカに見せる。 「これなんて 「ええ。異性同性なんて関係ありませんわ。その人を愛していることが、重要ではなくて?」 今度は、さらりと言うシリカに毒気を抜かれたエリーゼが、ふぅ、とため息をつく。 「……まぁ、あなたがそうおっしゃるのならば、それでいいわ」 「それで、これからどうしますの?」 「さしあたって、没収した本のリストと生徒名、それと対応について文書化して、顧問の先生の指示を仰ぎます。あとは一人でもできる作業ですし、先にお帰りなさい」 「そう。それでは、お言葉に甘えて、お先に失礼させていただきますわ」 シリカは立ち上がって身支度を整えると、軽く会釈をして、部屋を出る。 「ごきげんよう。あまり根を詰めないで下さいね」 「ごきげんよう。」 シリカが去ったあと、部屋に一人残されたエリーゼは、そっとシリカの座っていた椅子に触れる。 まだ、彼女の体温が残っていた。 そして彼女の席に座る。 シリカの残り香が鼻腔をくすぐる。 ああ、シリカ… 瞼を閉じて、自分の世界に没頭する。 異性同姓なんて関係ありませんわ、その人を愛していることが重要ではなくて── 彼女の声が脳内で繰り返される。 私は、異常だ。 友人でもあり、よきライバルでもあるシリカをどうしても目で追ってしまう。 八方美人のシリカを見ていると、少しやきもきもするが、今日のように委員会の仕事を手伝ってくれたりもする。 私は、彼女を、愛しているんだろうか。 それとも、単に彼女の愛情を欲して、おのれの欲望のために独り占めしたいだけなのだろうか。 風紀委員という名も、暴走しないようにするための、自分への枷だ。 そっと目をあけ、席から立ち上がる。 先ほどの ──私は、あなたが好き。あなたの性別がたまたま女性だった。私の性別がたまたま女性だっただけなの。 ──人を好きになることに理由が必要?私はそうは思わないわ。そんな冷静に分析できる恋なんて、恋じゃないのよ。 登場人物のセリフが胸に刺さる。 私も素直になれれば、この小説の主人公のように、ハッピーエンドにたどり着くことができるのだろうか? この、荒廃した世界で。 魔獣におびえ、シェルター生活を余儀なくされる世界で。 希望の光はあるのだろうか。 没収した本を鍵付きロッカーの中にしまうと。エリーゼは生徒会室を後にしたのだった。 |
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