婚后光子は手元の写真を見つめている。
「あぁ。上条、・・・・・・当麻さま」
写真には、ツンツンした黒髪の青年が、めんどくさそうな顔をして写っていた。
これは、この前のデートのときに撮ったものだ。めんどくさがる彼を無理やり説得し、一枚だけ撮らせてもらった。男性というものはこういうことが、照れくさいものなのだと、なにかの本で読んだことがある。
彼との出会いは劇的であった。近道をしようと通った裏路地で、運悪くスキルアウトに絡まれた時、さっそうと現れて私のために戦ってくれたのだ。
実際のところ、名門常盤台のレベル4である彼女にしてみれば、スキルアウトを追っ払うことなど造作もないことなのだが、そんなことは彼女にとってはどうでもよかった。助けてくれた。その事実だけが彼女の心を燃え上がらせる。
幼きころから恵まれた家庭で育ち、個人的な能力にも秀でていた彼女は、ともすれば傲慢だと言われる性格に成長した。それが災いしたのか、女の取り巻きが付くことすらあれ、男性に守ってもらうということなど今までなく。当麻が初めての経験だったのだ。
しかも、話を聞くところによると当麻はレベル0、無能力者だ。光子は能力のレベルの差で人を差別することすらないものの、無能力者に関しては、どこか憐みのような感情を持ち合わせていた。だが、それは間違いだと思い知らされた。
何の能力も持たないにも関わらず、見ず知らずの私のために拳を握り締めた彼は、どんなレベル5よりも輝いて見えたのだ。
『あ、名前? いいよ、名乗るほどのもんじゃないし。あんたが無事ならそれでオッケーだ』
スキルアウトを追っ払った後、彼に名前を尋ねると彼はこう言って去ろうとした。つまり、かれは見返りどころか感謝すら求めることなく私を助けてくれたのだ。
「ああ、もう! かっこよすぎですわ!」
そんな彼から半ば強引に名前を聞き出し、そこから通っている学校も探し当てた。その際に、小憎らしい風紀委員に借りを作ってしまったのは癪だったが、彼の居場所が付き止めれるなら安いものだった。
「初めて学校の門の前で待っていたときの顔と言ったら、ふふ」
居場所を突き止めた後の光子の行動は迅速で、自分でもどうしてこんなにも必死になれるのかが分からないくらいだった。人生において初めての経験。
「これが、初恋・・・・・・。あぁ、なんて素敵なものなんでしょう」
それからというもの、時間が合う度に彼の下校を待ち伏せした。最初は戸惑っていた彼も、しだいに私の熱意が伝わったのか、段々と親密な関係になっていった。
「デートもすでに3回目。今度会うときは、いよいよ・・・・・・」
そういうと、机の上に広げてあった本を手に取り、顔を赤らめる。
「デートを3回クリアした貴方と彼は、もはや恋人同士と言っても過言ではありません。ふふ、そうでしょうそうでしょう。まさに、今のワタクシたちはラバー! そう、愛し合う二人のラブアンッピース!!」
お気に入りの扇を広げて笑ってみる。段々と気持にも熱が入ってくる。扇で風を送るくらいでちょうどいい。
「ふふ、どれどれ。次のデートはいよいよ本番! セクシーにせまって彼を落としちゃおう! ・・・・・・って! えぇ!?」
せ、せせ、セクシーにってつまり、その。彼とそういうことをすると、そういうわけだろうか。
「さ、さすがにまだワタクシには早い気が。・・・・・・でも」
そう、私と違い彼は高校生。所謂、健全な高校生男子と言うわけだ。となると、やはり、そういうこともしてみたいのが道理だろう。
「そうですわ、当麻さまになら・・・・・・」
それに、私たちは正式に付き合っているわけではない。私が半ば強引に押し掛けているだけだ。彼は、とても素敵な人だ。もちろん、私以外の女性にも常に紳士的に接しているのだろう。いつ、誰に取られるかわからない。
「そ、そんなの嫌ですわ!!」
考えただけで背筋が震える。だが、ありえないことではない。私たちくらいの年齢だと、若さは武器と言うよりも、年の差という障害として立ちふさがる。たとえば、彼の同級生の女の子が、裸で彼に迫れば、いとも簡単に彼を取られてしまうだろう。彼は紳士だが、それ以上に、男子高校生で、私は中学生なのだ。
「それならば、やることは一つ!」
次のデートで、私を彼のものにしてもらう!!
婚后光子の、尽くして差し上げますわ!!「いやぁ、美味かったな。でも、よかったのか? 今回もあんなとこで」
「えぇ。ワタクシ、らーめんというものは食べたことが無かったので、興味がありましたの。大変美味しくて、びっくりしました」
私がそう言うと、彼は「そいつはよかった」と笑った。どうやら、彼はあまり裕福ではないようで、私がお嬢様であることを気にしているらしい。
「・・・・・・別に、かまいませんのに」
「ん? なんか言ったか?」
ぼそりと呟いた独り言が、彼の耳に届いたらしい。なんか、段々と腹が立ってきたので、つい言ってしまった。
「ですから、別に気にしなくてもかまいませんの! ・・・・・・ワタクシは、当麻さまと一緒でしたら、どこでだって満足ですのに」
「そ、そうか。そりゃ、すまなかった。逆に、気ぃつかわしちまったな」
ふん、と思いつつも彼の顔を見ると、うっすらと紅くなっていた。まさか、さっきの私の言葉に照れてくれたのだろうか。
「当麻さま・・・・・・」
本来ならば、私が謝らねばならないはずなのに。本当に、どこまでこの人はかっこいいのだろうか。
「おっと、もうそろそろ寮の門限だな。バス停まで送るよ」
そう言って、いつもの別れの言葉を告げる彼。
「・・・・・・―――です」
「え―――?」
「嫌です」
「い、嫌ですってお前。お前の寮、門限厳しいんだろう?」
彼が、驚いた顔で聞いてくる。確かに、私がこんな駄々をこねたことは今までにない。
今、この人の手をつながずに、いつ繋ぐというのだろう。
そっと、手を取った。暖かい、彼の掌。そういえば、手を繋ぐのは初めてだ。
「ちょ、」
彼が、顔を耳まで紅く染めた。そうだ、今、告げるのだ。
「今日は、外泊届をだしているので、その―――」
彼の鼓動が、速くなる。
「―――帰りたく、ありません」
シャワーの音が耳に響いてくる。
やけに薄暗い部屋の中、上条当麻は精神を落ちつけていた。
「落ち着け、落ち着くんだ上条当麻。お前は今、とんでもない過ちを犯そうとしている」
腕を神に祈るように組み、当麻は一人、本能と戦っていた。
「確かに俺は、婚后が好きだ。もはや、何も言うまい。そこは認めよう」
そう、デートを重ねるにつれ、それは紛れもない事実となっていていた。婚后光子。俺が、偶然に不良から助けた、一人の少女。
初めは、少し困った後輩だった。俺を好いてくれるのは嬉しいが、相手は中学生。いくらなんでも、付き合うとか、考えられなかった。
だが、デートを断りきれない内に、重ねてしまった。婚后のいいところを、見てしまった。もちろん、中学生離れした肉体も、意識してしまっていた。
「さ、最低だ俺は」
いつもなら、不幸だ―と叫んでいるところだが、今回は違う。不幸なんかじゃない。純粋に、自分が引き起こしてしまった、自分の責任だ。
「まだ、あそこで断っておけば」
そう、あの手を、ふりほどいておけば。まだ、戻れたかもしれない。
「だけどさぁ! あんなこと言われたら健全な男子高校生である上条さんはどうしようもなくなるのが普通ですよね!!」
誰に向かうでもなく、言い訳を放つ。
だが、なんとかしないといけないのも事実だ。
「話、つけないとな」
ラブホテルにまで連れ込んでおいて、こんなことを言うのは、彼女を傷つけるだけであろう。だが、彼女はまだ中学生なのだ。ここで一時の感情に流されてしまっては、もっと大きな傷をつけることになってしまう。
そう、もともと、彼女の勘違いから始まった恋なのだ。聞けば、初恋と言うではないか。偶然にも不良から助けてくれた自分を、過大に評価してくれているだけなのだ。それはそれで嬉しいのだが、彼女ならば、もっとふさわしい相手がいるだろう。
「よし。たとえ、あいつが泣くことになっても。ここは―――」
「―――当麻、さま。・・・・・・シャワー、あがりました」
ここで、上条当麻の理性は崩壊した。
「―――悪い。こんなこと、いけないとは思うんだが、止まりそうもねぇ」
私の上の彼が、申し訳ないという顔で口を開く。
優しい彼のことだ、私を傷つけまいと、このような状況になっても、色々と考えてくれていたのだろう。
「そんなこと、言わないでください。悪いというのなら、ワタクシがそうですわ」
そう。シャワーから上がり、ベットの上で考え込んでいる彼を見て、悟ったのだ。彼が、優しさから私を拒もうとしていることを。
だから、迫ったのだ。―――裸で。
「・・・・・・せめて、出来るだけ優しく抱いてやるから」
彼はそう言うと、優しくキスをしてきた。
「―――っ!?」
唇を重ねるだけの、キス。それなのに、身体がどうしようもなく火照ってしまう。
「恐いか?」
身体を固くしたのがばれたのだろうか、彼が尋ねる。それに、首を振って答えた。
「大丈夫、です。・・・・・・ただ、初めてでしたから」
ファーストキス。素直に、この人でよかったと思えた。もっと欲しいと、目を閉じて彼にねだる。
「―――っ、ん!? んぅ、―――ふぁ」
舌を、入れられた。激しくはない。彼もそんなに経験はないのだろう。歯がときおり当たるような、ぎこちない口付け。
「んぅ、ぷぁ。ちゅ、んっ。当麻、さま。好きです、大好きです!!」
どこからともなく、叫んでいた。どうしても伝えたかった。私のせいで、順番はめちゃくちゃだが、これだけは伝えねばならないと感じたのだ。
「あぁ。俺も、―――好きだ」
照れくさそうに、彼がそう言った。言ってくれた。
ただ、これではダメだ。
彼の口元に、指を押し付ける。
「それじゃ、嫌です」
「い、嫌って。どうすれば」
あぁ、慌てる彼も素敵だ。こんなにも、愛おしい。
「―――名前、呼んでください。それで、好きって。言ってください」
「―――〜〜〜っ!!?」
彼が、真っ赤になった顔で必死で何かを言おうとする。
「こ、婚后―――」
「怒りますよ?」
ぎゅ、と。彼の腕を抓った。
「―――み、光子。好きだ」
「―――はい」
キスをするために身体を近づける。彼の鼓動が凄く早い。
「触って、いいか?」
「・・・・・・はい」
どこを? とは聞かなかった。おそらく、胸やあそこや、私の女性の部分。大丈夫、この人になら、触ってほしい。
「―――ひゃっ!!?」
背中を、なでられた。
「うぉ、すまん。弱かったか?」
「い、いえ。その、少し予想外なところでしたので」
「そっか」
「んっ――――!!!」
彼の指が背中をなぞるたびに、ぞくぞくとしたものが腰のあたりから駆け抜ける。はっきりいって、―――気持ちいい。
「ひゃぅ、んっ!!」
背中だけでなく、首筋や鎖骨の辺りもなでられる。くすぐったいのか気持ちいのか、頭がおかしくなりそうな感覚。
かり、と。胸の周りをひっかかれた。
「―――ふぁっ!!」
「ん? 気持ちいのか?」
「そ、そんなことありません!!」
つい強がりを言ってしまう。だが、彼には通じなかったらしい。胸の周りを、指で優しくなぞられる。いつのまにか、動く手は二本になっていた。
「あふっ、んっ!! ふぁっ!! と、当麻さまっ!!」
「ん、どした? 気持ちよくないか?」
「き、気持ちいいです!! だから、ふぁんっ!!」
「なら、いいじゃないか。嫌なのか?」
「い、嫌じゃないです、けどっ!!」
そう嫌ではない。ただ、先ほどから、彼は一度も触れてくれないのだ。こんなにも優しく胸を触られ続けているのに。
「当麻さまの、いじわるっ!! んっ!!」
「いやぁ、俺もあんまり経験あるわけじゃないからさ。触ってほしいところとか、言ってくれないと分かんないぞ?」
そう、分かっていて彼はやっているのだ。私の口から言わすために。
「ふぇ、当麻さまっ!! さ、触って!!」
「ん? さっきから触ってるぞ?」
「そうじゃ、なくてっ!! ――――――ってください」
「もう一回言ってくれよ」
「さ、先っぽ!! 先っぽ触ってください!!」
「こうか?」
「――――――っ!!!!?」
身体を何かが走り抜けた。彼の指だからだろうか、焦らされたからだろうか。自分で触るときとは比べ物にならない感覚。
「ふぁっ!! んぅ!! はぁんっ!!」
「つねるのがいいのか?」
「ひゃぁ、んぅ!! と、当麻さまぁ」
「なんだ?」
「き、気持いい!! 気持ちいいです!!」
「そっか。それにしても光子は胸大きいな」
彼が、胸を揉みしだいた。甘い感覚が走り抜ける。
「い、いやですか?」
「いや、最近の中学生ってこんななのかなって。あー、でもビリビリ見る限りじゃあ光子が特別いい身体なのか」
ビリビリというのが誰かは知らないが、どうやら私の身体を気にいってくれているらしい。
「・・・・・・嬉しい」
「へ? なんか言ったか?」
間抜けな顔の彼に言ってあげる。私は、貴方が欲しいのだと。
「当麻さま。ワタクシ、もう―――」
触ってほしいと、彼の手を自ら誘う。一瞬、彼が驚いたのが分かった。
「光子って、結構エロいのな」
「そ、そんなことありません!!」
「まぁ、俺は好きだけど。ほら」
「ひゃぁっ!!」
「うわ、びしょびしょじゃないか」
「だ、だって当麻さまが、ぁんっ!! ふぁあっ!!」
彼の指が入ってくる。どうしよう、たまらなく気持ちいい。
(はしたない女だって、思われちゃう)
「ふぁ、んっ!! はうっ!!」
「・・・・・・ごめん、光子。俺、もう」
彼が何を言いたいのかは理解できた。私も、もうはっきりいって限界だ。恐れはまだあるが、この人ならば構わない。
「ええ、きて。ワタクシも、当麻さまの、欲しいです」
「―――入れるぞ」
彼のが、入ってくる。私の中を広げて。
「んぁ、はぅ!!」
「す、すまん。痛いか?」
「だ、大丈夫です。続けて、ください」
こんなときでも私の心配をしてくれる彼。ああ、本当にこの人でよかった。
「当然だけど、初めて、だよな?」
「―――はい。大切に、守ってまいりましたわ」
彼を抱きしめる。後悔なんてない。彼が、私の初めての人。
「―――動くぞ」
「ふぁ、あんっ!! んっ!!」
「す、すまん。もう、限界かも」
「いい、です。ワタクシも、もう。きて、きてください」
そして、彼のものが私の中に流れ込んだ。
「あぁ、俺はなんて最低なことを」
「当麻さま、ワタクシはきちんと想いを伝えましたわ。それで、そんなことを言うのはあんまりだと思いましてよ」
ベットの上で頭を抱える彼に言う。ここまできたのだから、もう少しちゃんと私を見てほしい気がしないわけでもない。
「いや、お前を抱いたのは、まぁ、いいとして。その、中に出しちまった。すまねぇ。もしなんかあったら、責任はとるから」
「―――〜〜〜っ!!?」
突然、彼の口から出た言葉に心臓が飛び出そうになる。それはそれで、なんて気持ちが出てくる。
だが、どうやら彼は勘違いしているようだ。
「あの、当麻さま。それなら、心配なさらずとも結構ですわ」
「え?」
「その、少し恥ずかしいのですが。ワタクシ、まだなので」
きゃ、と顔を覆う。同級生には秘密にしていること。
「え、まだって、つまり」
「まぁ、多少遅いのですけど、ワタクシの年齢なら結構いるみたいです。まぁ、ワタクシは身体のほうがそれにしては幾分発達してますけど」
「えと、つまりは」
「ワタクシにも、若さの武器があったと、そういうことですわ」
そして、上条当麻の理性が崩壊した。