いやさー、最初はただのパーティーで知りあったロシア人ってだけだったアルよ?
いやまじでさー、身長差もありまくりでルックスは天地で。
でも何故アルか? 初対面アルよ? 男同士アルよ?
なのに…、何故お互い一目惚れアルか!?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
広々とした大広間、高い天井からさがっているシャンデリア。 床にはきめ細かい刺繍の赤い絨毯が敷いてある。
様々な民族衣装やドレスに身を包んだ各国の外国人が、楽しげにバイキング式の料理を皿に取っている。
言うまでもなくここはパーティー会場である。 場所は中国、北京。
集まっている人々は皆、{世界友好会}というまぁなんか「世界はひとつなんだから違う国の人同士でも仲良くして行こうぜ!」みたいな集まりである。
年に数回、こうして地域別にパーティーを開くのである。
ちなみにここはアジアなので、当然アジアに住む外国人が集まる。 さらに言うとヨーロッパではフランス、欧米ではアメリカでやる。
最も今老酒のグラス片手に歩く我は、中国人だからどーでもいいのだが。
「ふぃ〜〜。 まぁまぁアルなぁ〜。 ック!」
我の名前は蟹・上海(シエ・シャンハイ)。 純血で生粋の中国人男性である。
太極拳だの少林拳だのを毎日趣味でやっていたら、何故か150歳まで生きてる。 不思議は続き、なんと外見は22歳168cmのままなのだ!
しかし、さすがに身体は弱ってくる。 今や手足は女性のように細くなってしまい、もともと女顔なので余計に間違えられやすい。
…まあ、チャイナドレスを着て(勿論下にズボンを履いている)シニヨンでセミロングの髪を結っていてはどうしょうもないかもしれない。
だが! 初めに言っておくが、我は断っっじて女装趣味があるとかではない!
元々チャイナドレスは男性用の物もあるし、現に今着てる赤いチャイナドレスがそうだ。
セミロングなのは切るのが面倒だからだ! もっと言うと金を払ってまで切る必要が無いと思ったからだ!
「ん? おお、点心がアルね」
好物を見つけて、嬉しくて手に撮った時だった。
「お? いよぉ〜、蟹ちゃんじゃなぁ〜い♪」
その甘ったるい声に、すっかり酔いは醒めてしまった。 カクテル片手に長身の男が「あははは」とか言いながら手を振って、軽々しく寄ってくる。
「君のお兄さん、アルフォンス・アントワーヌだよぉー!!」
「うげっ。 ま、また来てたアルか、アルフォンス…」
近づいてきたフランス人である彼は、男でありながら輝く美しい金髪に、
エメラルドのキリッとした眼、そして175cmの高い身長という、女性であれば誰もが惚れてしまいそうな外見の持ち主だ。
アルフォンスは我の言葉に反応すると、わざとらしく涙目でハンカチを噛んだ。
「酷いっ! そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃなぁい!」
「いつまで我に付きまとうアルか! 我は男って言ってるアル!」
あれは去年だったろうか。 我は中国観光中のアルフォンスに(運悪く)出会ってしまい、アルフォンスは薔薇を一輪取り出すと、我の前に跪いて告白してきたのだ。
当然断ってさっさと忘れようとしたが、どうしたものか、アジアパーティにちょくちょく来るようになってしまった。
「だってェ〜、俺どっちもイケちゃう口なんだもん…」
「……そうゆう事をさらっと言うんじゃねえアル。」
こんな趣味だから、顔が良くても彼女のひとつもできないのだ。 時々可愛い子を見つけて口説いては振られている。
「そうゆうことって? えーまさか蟹ちゃんそっち系〜!?」
「我を茶化すんじゃねえアルこの変態!」
「それ、お兄さんには最っっっ高の褒め言葉だよ!」
そう言うアルフォンスの顔は、真っ直ぐで純粋その物だった。
…何故か頭が痛くなってきた。 酒的な理由じゃないのはわかっているが。 我は無意識に頭を押さえる。 あー、段々落ち着いてきた。
これは夢だ。 うん、夢だ。 現実だとしてもアルフォンスはここに存在しない生命体なんだ。 そうだ、きっとそうだ。
そんな念じすらもバラバラに打ち砕く甘ったるい声。
「あれー、蟹ちゃんどしたの? 飲み過ぎは女の子にはよくないよ」
そう言ってアルフォンスはパチッとウインクしてくる。 もうどっから突っ込んでいいのか判らないが、取りあえず突っ込んでおく事にした。
何故なら「もういい加減あったま来た!」からである。
次の瞬間アルフォンスの右頬に強い衝撃が走り、彼は宙を舞って床に落ちた。 頭には零したワインをかぶっている。
「え!? ちょ、シ、蟹ちゃん!?」
「いいっ加減、我を『ちゃん』付けで呼ぶんじゃねーアル! 後何アルか今の『女の子』って…我は女でも子でもねーアルよ! 外見判断はやめろゆーてるアル!!」
何故皆我をそんなふうにしか見てくれねーアルか!
我だって…我だって、
いつか彼女作りたいアルよぉーーっ!!!!
なのに何で女扱いされなきゃならねーアルか? 我は男て言ってるアル!
「し、蟹ちゃん落ち着いて落ち着いて!」
アルフォンスが酔って暴れそうになった我の方を掴んで止める。 でもまた…
「うっせェアル! お前のせいアル! つーか何でまた『ちゃん』付けするアルかぁ〜っ!」
「ああ、うんゴメンね! ちゃんと蟹って呼ぶから落ち着いて! ね、ね?」