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アウターゾーン リターンズ
逆転
(アウターゾーン)
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魚が蟻を食うときもあれば、蟻が魚を食うこともある。
―――ヴェトナムの諺

高峰麗華は市会議員高峰龍之介の一人娘である。
龍之介は幾つもの会社を所有する大実業家であり、麗華が通う学園のスポンサーでもあった。
学園のある首都近郊のS市は事実上高峰家の城下町と言ってよい。
S市の人間で高峰家に表立って逆らうものは誰もいなかった。
娘を溺愛する父の庇護のもと、望むものは何でも与えられ我侭一杯に育ってきた麗華にとって、他人を踏みつけ支配することは生まれながらの当然の権利であった。
そんなある日の昼下がり−

取り巻きを従えて廊下を歩く麗華の耳に、男子生徒たちの声が飛び込んできた。
それは校舎裏で談笑する一年生たちの会話で、開いた窓から二階の麗華のところまで聞こえてくるのだった。
「おい、知ってるか?学校のすぐ前に占いの店ができたろ。あの店の占い師が最高に美人なんだよな」
「知ってる知ってる、エッチな服装で占いやってるんだよな。俺占ってもらった事あるぜ!」
「暗い部屋であの人と二人きりになると妖しい気分になってくるんだよなあ〜」
「その占い師のお姉さんってそんなに美人なのか?」
「そうだな、あのお姉さんを三ツ星料理店のフルコースに例えるなら、ウチの学校の高峰麗華はせいぜい大衆食堂のサンマ開き定食だな」
ビシィッ!
麗華の眉間に青筋が浮き上がった。

正門の真向かいはよくある店舗併用集合住宅で、占いの館「美沙里」は喫茶店「アウターリミッツ」とレンタルDVDショップ「ミステリーゾーン」に挟まれる形で、マンションの一階部分に入居していた。
「いらっしゃい」
麗華がドアをくぐると、店の奥からボディラインも露わな黒革のボンデージを纏った
ミザリィが姿を現す。
麗華は棒のように突っ立っていた。
一目見て、自分が女として全ての点で劣っている、という事実に打ちのめされてしまっていた。
「どうしたのかしらお嬢さん」
ミザリィが艶然と微笑んだ。
麗華にはそれが自分を見下した笑いに見えた。
「ふ、フン!どんな店かと思って覗いてみたけど全然大したことないわね!」
虚勢を張った麗華が両手を振り回した拍子に壁に掛かっていた奇怪な仮面を引っ掛けた。
「それ、元にもどしてくれる?」
床に落ちた仮面を指差してミザリィが言う。
「な、なによ…私を誰だと……」
「戻しなさい」
静かな、しかし尋常ではない圧力を込めたミザリィの声。
麗華は仮面を壁に掛けた。
「ド畜生――――――――――ッ!」
店を出ると同時に麗華は泣き出した。
号泣しながら自宅まで全力疾走し、部屋に駆け込むなり携帯電話を取り出して、何処かへメールを打ちだした。

その日の深夜、そろそろ店仕舞いしようかという時刻に占いの館「美沙里」に男たちが押し入った。
黒服にサングラスのガタイのいい男たちはミザリィに匕首を突きつけて言った。
「騒ぐと殺す」
麗華の私兵集団である高峰興業(株)のゴロツキだった。
一応法人登記はされているが、実態はヤクザや所属団体を追放された格闘家崩れの集団である。


[挿絵1]

男たちに拉致されたミザリィは町外れにある高級料亭「柊(ひいらぎ)」に連行された。
柊は大正14年創業の老舗である。
昭和60年代に経営危機に陥り、高峰龍之介に買い取られていた。
何十室もある料亭で庭も広い。
中でナニが起ころうと外から窺うことは容易ではない。
ミザリィは倉の中に連れ込まれた。
膳部などをしまう広い倉だった。
待っていたのは高嶺麗華
ミザリィに張り合うようにエナメルのボディスーツを纏っていた。
キツ目の美少女で発育も良い麗華のSMボンデージ姿はそれなりに色っぽい。
「いらっしゃい、歓迎するわ」
麗華は右手に握ったレディスミスをミザリィに突きつけた。
「子供が振り回すモノじゃないわよ?」
ミザリィは余裕の表情を崩さない。

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