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ミズノフチ〜フカイモリ 第二章〜【触手×少女】
(オリジナル)
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 朝靄が森を白く染めていた。
 枝葉の隙間から射し込む光が木陰に残る夜の気配をサッと拭い去る。賑やかな小鳥たちの囀りが聞こえてくる頃には、金色の朝陽が森の隅々まで染み渡っていた。
 ――しかし、清々しいその光景の中に異質な存在が紛れ込んでいた。
 逞しい幹を持つ大木の根元に、一人の少女が横たわっていた。力なく手足を投げ出し、長い胡桃色の髪は無惨に乱れている。そして、その白い素肌を覆う物は何一つなかった。
 微かな呼吸に合わせて浮き沈みする豊かな双丘。今にも零れ落ちてしまいそうな果実は、柔らかな円を描いたまま奇跡のように少女の胸に収まっている。サクランボ色の小ぶりな乳首は、誰かの接吻を待っているかのようにぷっくりと立ち上がっていた。
 ほっそりとした腰、肉づきのよい桃のような尻。正に世の若者が夜の夢に描く艶めかしい肢体は、しかし生々しい陵辱の残滓に塗れていた。
 少女の肌という肌にはベッタリと白濁した粘液がこびりつき、足の付け根には痛々しい血の色が残っていた。青ざめた頬に幾筋も刻まれた涙の痕。辺りには、様々な体液が混ざり合ったむっとするような臭気が立ち込めている。
「ん……」
 ふと、少女――ティルデの可憐な唇が小さな声を洩らした。瞼が震え、長い睫毛がゆっくりと上を向く。煙水晶を嵌め込んだような濃灰色の瞳がぼんやりと宙を泳いだ。
(……眩しい)
 キラキラと瞬く木漏れ日にティルデは目を細めた。全身を包む冷たい空気にふるりと体が震える。
(わたし……生きてる?)
 何度も瞬きを繰り返し、ティルデは周囲を見渡した。呑み込まれてしまいそうな暗い闇も、恐ろしい蔦の化け物も幻のように消え、穏やかな朝の森が優しく微笑みかけてくる。
 ティルデはのろのろと起き上がった。泥のように絡みついてくる倦怠感、身動く度に疼く下腹部の痛み。強烈な喉の渇きを感じた瞬間、どっと涙が溢れた。
(全部、全部夢じゃない……本当にあったことなんだ。あんな化け物に犯されて、玩具にされて……それでも生きてる)
 喜びと悲しみと恐怖がグチャグチャに混ざり合い、嵐となって胸の中で渦巻いた。美しい、それ以上にいやらしく様変わりした自分の姿は、笑いたくなるほど魔物と交わった女に相応しかった。
 ティルデは暫く声を詰まらせて泣いていたが、ザワザワと風に揺れる木々のざわめきにハッと顔を上げた。朝を迎えたとは言え、ここはまだ森の中――どこに魔物が潜んでいるか分からない場所なのだ。
(早くここを離れよう。森を出て……家に帰らなきゃ)
 きっと祖母が心配しているに違いない。ティルデは力の入らない足を叱咤し、大木に縋ってなんとか立ち上がった。光の射す方へよろよろと歩き出す。
 足を動かす度、とことん貪られた秘所が快感の余韻に震える。たぷたぷと揺れる乳房が二の腕の内側で擦られ、徐々に凝っていくのがいやというほど分かった。
 魔物はティルデの中に快楽の火種を植えつけたらしい。燻る熱は単純なことで呆気なく高まり、少女を苛んだ。
 零れる吐息が切なく掠れ、必死に前を向く瞳は劣情に潤んでいる。朦朧とする意識の中、ティルデは歯を食い縛って進み続けた。
 やがて――木立が途切れた。
 唐突に視界が開け、サアッと明るい光が広がる。思わず目を細めたティルデは息を呑んだ。
 濃い緑の屋根にぽっかりと開いた天窓の向こう、青く高い空が見えた。そこから降り注ぐ陽光は大きな泉の水面に照り返され、一面を白銀の輝きで満たしていた。
 湖とも見紛う泉は透き通った碧い水を湛え、舞い踊る妖精たちが笑うように光りさざめいている。ティルデは陶然とその幻想的な美しさに見入っていたが、べたつく全身の汚れを思い出した。
(体を洗いたい……喉も渇いてるし、少しくらいなら休んでも大丈夫だよね?)

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