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セーラー服と×××【触手×少女】
(オリジナル)
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(……すっかり遅くなっちゃった)
 街灯の白い明かりがぽつぽつと並んだ道を栞《しおり》は足早に歩いていた。プリーツスカートから伸びた太股を冬の風が撫でる。ローファーの踵がアスファルトを蹴る音と一人分の影だけが少女の後を追いかけてくる。
 栞は近隣の公立高校の二年生である。特別、部活動に所属している訳ではなく、普段ならとっくに帰宅して自分の部屋で寛いでいる時間帯だ。しかし、今日は図書室で大幅な図書の入れ替え作業が行われた為、図書委員である彼女も駆り出されたのだった。入れ替え作業は予想以上の大仕事で、へとへとになった図書委員たちがようやく解放された頃には午後八時を回っていた。
 高校から栞の自宅までは徒歩で二十分ほどかかる。通学路は大通りを外れた住宅街の中にあり、日が暮れるとぱったりと人気が無くなってしまう。最近では不審者の目撃情報もあり、なるべく一人で歩きたくない道だ。
 自宅に連絡して母親に迎えに来てもらえればよかったのだが、生憎今日は同窓会に出かけてしまっていた。父親はもっと遅い時間帯にならないと仕事を終えて帰ってこないし、一人っ子の栞にはこんな時に頼れる年上の兄弟もいない。
 通い慣れた道とはいえ、寒さよりも心細さが栞の肩を縮こませた。セーラー服の上にココアカラーのダッフルコートを重ね、首元に赤いマフラーを巻いた上半身はもこもこと着膨れているのに、黒のハイソックスを履いただけの両足が何とも心許ない。むっちりとした十七歳の太股は、夜目にも生白く柔らかそうだふった。
 ふと、等間隔に続いていた明かりが途切れた。栞は足を止め、ぽっかりと広がる暗がりに目を向けた。
 そこは住宅街の真ん中に作られた児童公園だった。そこそこの広さがあり、子供達の遊び場としてだけでなく、住宅街を突っ切る抜け道としても活用されていた。
 夜の公園は日中とは真逆に危険な場所だ。柄の悪い連中がたむろしているかもしれないし、それこそ不審者が現れてもおかしくない。……でも、ここを通り抜ければかなりの近道が出来る。
 栞は一瞬躊躇ったものの、公園の中へ足を踏み入れた。
 外から見た以上に敷地内は暗かった。木々はのっぺりとした闇になり、風に何かを囁いているようだ。遠い明かりに浮かぶ遊具の影もどこか不気味で、どんどん速まっていく鼓動に栞は後悔し始めていた。
 遊具のスペースを行き過ぎ、ようやく反対側の通りが見えてきた。栞の唇が安堵の息を零した瞬間、花壇の茂みからがさりと音がした。
 栞は息を呑んで硬直した。
 黒い茂みの中で何かが動いている。茂みが揺れ、葉陰からそれは現れた。
「ひっ」
 思わず悲鳴が漏れる。
 ズルズルと茂みの中から這いずり出てきたのは、巨大な蚯蚓《ミミズ》だった。……だが、明かりに照らされた表皮は緑と茶色が混じったような色合いに滑《ぬめ》り、成人男性の拳よりも太い先端からはを磯巾着《イソギンチャク》を連想させる舌をチロチロと覗かせている。
 こんな生き物が、この世にいたのだろうか。
 立ち竦む栞の足元まで迫っても、蚯蚓の尻尾は茂みから出ていない。無数の舌を蠢かせながら蚯蚓は鎌首をもたげ、栞の右足に巻きついた。ぐにゅりと柔かく湿った感触がハイソックス越しに伝わる。
「いっ、やぁ!」
 弾かれたように体の自由を取り戻した栞は、夢中で蚯蚓から逃れようと右足を動かした。しかし蚯蚓は緩慢に拘束を強めながら、ズリズリと膝から太股へと這い上がっていく。恐怖に見開かれた栞の瞳に、茂みから次々に頭を出す蚯蚓の群れが飛び込んできた。
「あ、あ……嘘……」
 最早それは蚯蚓などではなく、茂みの奥に潜む怪物の触手だった。触手は栞の四肢に絡みつき、軽々と少女を持ち上げた。スクールバックがどさりと落ちる。
 栞は悲鳴を上げる事も出来ず、意味もなく唇を戦慄かせた。青褪めた頬を涙が冷たく伝っていく。

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