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異界行き最終痴漢電車(下)【幽霊×OL】
(オリジナル)
 ちゅぽんと乳頭が解放された。
 下半身から舌の感触は消えたが、男根が子宮の中へ捻じ込まれたままだ。
 ずるずると崩れ落ちた所を後ろから抱き上げられた。
「ん――ふぐっ」
 自重で男根が深みを抉り、小刻みに体が跳ねる。
 抱えられて移動する間、亀頭部でぐりぐりと子宮口を躙られた。怒張は萎むどころか、ますます固く膨らんでいく。
 下ろされたのはドア近くの座席だった。視認できないが、座席に座ったらしい幽霊の上に尻が着地する。
 目の前には金属製のポール。
 座席に等間隔で設置された手摺りだ。開いた両足の間にポールを挟み、両手が頭の上に来る位置で握るよう促される。
「え……?」
 快感でふやけた頭に疑問符を浮かべていると、シャツの一番上のボタンがぷつんと外れた。
 ぐっしょり濡れたシャツを二の腕まで剥かれ、肩から乳房まですっかり顕になる。胸の下のボタンは留まったままなので自然と双乳が上向き、ぬるつく谷間にすっぽりポールを挟み込んだ。
 蕩けた膨らみとひんやりとした金属が擦れ合うだけで、痺れが背筋を伝う。思わず顎を反らした拍子にぶるっと乳房が跳ね、腰が浮いて恥丘をポールに押しつける格好になった。
「ひぁんっ!」
 男根と精液に押し上げられる下腹部からじゅくじゅくに熟れた陰核までポールが滑る。とっさに手を放そうとするが上からがっちり抑えこまれ、更には待ってましたとばかりにピストンが荒々しく再開した。
「あっ、いゃ、まって、ふぁあっ!」
 がつんと突き上げられてはポールで陰核を擦り潰されながら落下する。落ちた分だけより深く貫かれ、わたしは双乳を振り乱して泣き叫んだ。
 ずっしりと母乳を漲らせた乳房が縦横無尽に跳ね回る衝撃も、凄まじい快感となって襲いかかってきた。弾んでは母乳が飛沫き、ポールに当たってまた飛散する。
「ひ、ぅ……あひっ!?」
 不意に左右の乳頭を摘まれた。
 完全に両側から膨らみでポールを包み込む形で、きゅうッとまとめて握り込まれてしまう。
「いやッ、そんな、ぁ、あ、だめ、らめ、らめなのぉ!」
 律動に合わせてきゅっきゅっとポールをパイズリする状態だ。ポールに押しつけるようにずんずん内側から突かれ、剥き出しの陰核を激しく摩擦される。
 ポールに顔をぶつけそうになると、横向きに顎を掴まれて唇を貪られた。滑る舌が粘膜を撫で回し、愛しげにわたしの舌に絡みつく。
「んぐっ、ふ、ぉ、おひっ!?」
 シャツが脱げて無防備な両腋をねろりと舐められた。
 汗で蒸れた窪みを味わうように、くちゅくちゅ、ぬろぬろと舐め回される。あまりのくすぐったさに口を塞がれたまま悲鳴を上げる。
 遠距離恋愛中の恋人に再会したような激しさで口腔を犯される。勢いを増す抽送に子宮が戦慄する。
 冷えたポールが双乳に擦れ、陰核を躙られ、腋窩をしゃぶられ、わたしは短い失神を繰り返していた。ポールとの摩擦面は汗や母乳、愛液や潮や小水でしとどに潤み、滑りが良くなって律動を加速させる。
 失神の狭間に、対面の車窓が横目に見えた。
 窓ガラスには、裸よりも淫乱な姿で腰を振り、みっともないポールダンスのような自慰に耽る女だけが映っている。
 嗚呼――見られている。
 わたしの痴態が余す所なく獣《けだもの》の眼に晒され、視線ですら凌辱されている。もしかしたら、窓の外からも、ずっと……。
 びくッびくんッ! と体が大きく痙攣した。
 絶頂のてっぺんまで引きずり上げられて意識が消失する。わたしを追いかけ、膣に食いつかれた男根が射精した。
 どっぷどっぷと精液を注ぎ込まれる感覚に意識を揺り起こされる。びくっ、びくっ、と震えながら、わたしはポールに縋りついて女悦を浴び続けた。
 とろりと糸を引いて幽霊の唇が離れていく。
 両手の拘束が無くなり、不可視の男の腕の中に墜落する。
 責め抜かれた乳頭と陰核は空気に触れるだけで火傷したように疼き、甘ったるい女の蜜液をこぷこぷと溢している。
 でっぷりと熟した双乳は呼吸に合わせて浮き沈みしながら、自重だけでふるふると揺れ動く。それに誘われたように冷たい掌が膨らみを下から包み込み、マッサージのようにゆるゆると媚肉を揉みしだいた。
「んっ、ひ……あふっ」
 切ない快感が沸き起こり、わたしはきゅっと爪先を丸めた。
 シャツのボタンが全て外される。元のサイズよりとてつもなく豊かに実った乳房が転び出た。
「あっ、ぅ、おっぱ、やぁ……っ」
 膨らみを捏ねながら、幽霊の指先が乳暈を引っ掻く。乳頭をくりくりと転がされ、同じリズムで男根が胎内を攪拌する。
 わたしは両手で顔を覆い、いやいやと頭を振った。のたうつ体は自然と反り返り、愛撫を強請るように乳房を突き出す姿勢になってしまう。
 乳暈と一緒くたに乳頭を摘み上げられれば、甲高く啼いて母乳を迸らせた。
「あ、あぁぁぁ――………」
 深く咥え込んだままの男根にぐりゅぐりゅと精液を掻き混ぜられ、子宮が煮えているみたいに熱い。決定打が訪れない律動は狂おしく女の本能を焼き焦がす。
 不意に体勢が変わった。
 ゆっくりと座面に押し倒される。片足が窓側の背凭れに乗り上げ、もう片足は床に落ちて、あられもないポーズになった。
 斜め上の角度から、男根がぐぷぷ……と押し込まれた。
「あ―――っ、ひっ」
 緩慢な動きで引き上がり、速度と力加減を保ったまま沈み込む。
 正常位によるスローのピストンは、過激な快楽をすっかり教え込まれた体には狂おしい程に焦れったい。
 抽送に合わせてやわやわと乳房を愛撫され、バードキスのような優しさでちゅくちゅくと母乳を吸われる。言葉にならない焦燥感が募り、切ない熱を燻らせて身悶える。
 ちかちかと視界が白く明滅する。違う、違うの。もっと、もっと……。
「は、あ、ぁああ……ひんっ、ふ、うぅぅ……!」
 高まるばかりで訪れない絶頂に、わたしは声を上げて泣きじゃくった。
「ちが、ちぁうのっ! もっと、つよく、乱暴でもいいからっ、もっともっと抱いてぇ!」
 ずるる……と男根が亀頭部まで引き抜かれ、一息に子宮口の奥まで穿つ。
「ひ――ぁ、はっ」
 ごちゅんっ! と子宮の内壁に肉欲の先端が叩きつけられる。ごちゅっごちゅっごちゅっと切れ間ない刺突を打ち込まれ、わたしは双乳を弾ませて嬌声を響かせた。
「おっほ、あっ、いぃ、きもひ、気持ちいぃのぉ!」
 指を絡めるように両手を押さえ込まれ、反射的にぎゅっと握り返す。
 顎を掴まれて唇に噛みつかれた。両足を担ぎ上げられ、勢いを付けて胎内を滅多刺しされる。
「んぷっ、ぁ、んぅ、くぅぅ!」
 母乳を撒き散らしながら跳ね回る双乳を鷲掴まれる。痛みを覚える強さで乳頭をしゃぶられ、濡れた裸身がのたうつ。
 陰核をくりくりっと捏ねくり回されると、立て続けにカメラのフラッシュを浴びたように意識が飛んだり戻ったりする。愛液と潮と小水が混じり合った体液が生温く臀部を濡らし、床まで流れ落ちていく。
 耳殻の窪みを、首筋を、赤らんで滑る谷間を、腋の下を、欲望を孕んで膨れた腹を、しなる背筋を、くねる腰を、打ち震える尻たぶの割れ目の奥を、内腿の筋を、ふくらはぎから足首を、足の指の一本一本を、土踏まずを、徹底的に舐られる。体の内側も外側も蹂躙され、侵略され、奪い尽くされる。
 マラソンのラストスパートのように抽送が忙しなくなった。
 じゅぷじゅぷと聴覚を犯されながら、わたしのものではない誰かの息遣いが聞こえた。
 低い、男の、掠れ声が。
 下腹部がひくっひくっと震える。
 どずんッ! と、子宮口の深奥まで男根を突き立てられた。一拍空けて精液が胎内に溢れ返り、凄まじい量に接合部から漏れ出した。
 吐精は暫くの間続いた。熱に浮かされたまま呆けていると、わたしにのしかかった幽霊が身震いするように腰を揺さぶった。
「あ、ぃひっ」
 桜桃色にのぼせ上がった乳房がたぷたぷと波打つ。
 淫らに揺れる乳房の動きをじっくりと観賞されながら、精液を出し切るまで穏やかな律動に苛まれた。
「や、あっ、も、ぃあっ、ふあぁぁ……っ」
 ようやく止まった――と安堵したのも束の間、ぐるんと体をひっくり返さた。もちろん挿入されたままで。
「ひぐっ!?」
 長い座席の一番端、ドア脇の仕切りを兼ねた手摺りスペースを掴まされて座面に膝を立てる。
 仕切りの上半分は支柱のポールがあるだけで、腰を後ろに引かれると、壁とポールの間から身を乗り出す前傾姿勢になる。Iカップに到底納まり切らない豊乳は、当然のごとく外側へばるんっと飛び出した。
 両手で手摺りを掴んでいる所為で胸を強調する羽目に陥り、まるで色情魔のような媚態に発狂しそうだ。はひはひと呼吸が逸れば逸る程、乳房は健気に上を向いて紅潮し、膨れた乳頭と乳暈から母乳がしとどに流れ落ちる。
 つぅ……と、はちきれそうな膨らみを下から上へと舐められた。
「は、ぁ、んぁぁッ」
 汗が溜まった麓から乳暈の縁まで、舌が何往復もする。伝い落ちる母乳をちゅっちゅっと吸いながら、こそばゆい強さでひたすら愛撫される。
「ひぃ、ひっ! そんなぁ、んっ、んんんぅ!」
 わたしは太腿をきつく擦り合わせ、くねくねと身を捩って悶絶した。
 結果的に男根を一層咥え込み、ゆったりとしたピストンで煽られて両目を剥く。
「あ、ゃ、やら、やらやらぁ! め、んなぁ、らめひえぇ……っ」
 呂律が回らない口で必死に慈悲を乞うても、許される筈もなく。
 弓のようにしなった背筋をなぞられ、突っ張った尻たぶをやわやわと揉み込まれる。割れ目を開かれて菊門の窄まりをくるくると撫で回さると、ひゃんひゃんと子犬みたいに啼くしかない。
 すっかり伸びたストッキングの吊り紐をくいくいと引っ張られ、薄い布地と太腿の隙間に長い指がわざとらしく潜り込む。ささやかな悪戯すらもどかしい快感を生み、堪え切れなくなったわたしは泣いて懇願した。
「ぅお、おっぱいっ、おっぱぃちゅうちゅうしてよぉ! やさしくしなふていぃかりゃ、おなか、おく、いっぱいずんずんってひてぇ!」
 つ――と這い上がってきた舌先が乳頭に巻き付いた。
「ふみゃ!?」
 じゅるじゅると舌の上で乳頭が転がる。口唇が乳暈まですっぽりと押し包み、舌と口腔を使ってむしゃぶられる。
「あっ、ぁ、あっ、んぃあぁぁぁぁッ」
 待ち侘びた悦楽に感度は最高潮に達し、絶頂まで押し上げられた勢いで母乳が爆ぜた。
 どずっ! と怒張の切っ先が子宮の天井を貫いた。
「ひぎぁッ」
 どずんっどずんっと獰猛な抽送が双乳を跳ね上がる。先っちょをしゃぶられながら重力と遠心力で乳房を揉みくちゃにされ、わたしは女體をくねらせて咽び泣いた。
「はひっ、ぃく、いきゅ、いってるのにも、ぁ、いっちゃ……ぁぁあああっ!!」
 媚肉の花弁が満開に咲いた秘裂から、ぷしゅあっ! と潮が噴き出した。
 絶頂に砕けそうな腰に逞しい腕が巻き付き、逃げ出す隙も与えず怒張を胎の底まで叩き込む。
 全身が瘧のように戦慄いた。
 浮き上がった血管の筋を感じる程いきり立った男根が内臓を迫り上げ、ぶるるっと震えて爆発したように射精する。びゅ――っびゅっびゅっと精液が胎内に溢れ返る感覚に、わたしは声を詰まらせて気絶した。
 ずるずるとへたり込むと、後ろから抱えるように体を支えられる。
 耳元で男が荒い呼吸を繰り返している。抱擁に身を委ねて放心しながら、わたしは幽霊は最初から一体だけなのではないかと考えた。
 手も口も無限に現れるが、よくよく思い返すとどれも同一人物のものだ。聞こえる声は一つ、胎内に埋まったままの男根も一つ。
 ふと、ぼぉぉ……んと、くぐもったノイズが車内に流れた。
『……ァ……次ハ、ヒラサカァ……次ハァァ、ヒラサカ――……ォ、オォリノォ、方ハ、オ忘レ物ノナイヨォニィ、ゴ注意下サァイ――』
 ぶつ、ぶつ、と途切れがちに、不気味なアナウンスがのったりと繰り返される。
『ゲ、現世ヘェ、オ戻リノオ客様ハァ……次ノヒラサカ駅ニテ、乗リ換エトナリマァス……降リタホォムノ反対側、一番ホームノデ、電車二オ乗リ下サイィィ……』
 現世へ戻ると、確かに言った。
 はっと我に返る。次の駅で電車を乗り換えれば、生きて帰れる!
 胸の下に巻き付く腕に力が籠もる。
 存在を主張するようにぐりぐりと男根を捩じ込まれ、両足がぴんっと突っ張った。
「ふ、んぁ!」
 子宮を穿るように腰を揺さぶられる。放さないとばかりに抱き竦められると、快楽よりも絶望感と悲しみが打ち勝って涙が溢れた。
「ひ――うっ、うぅ……ひ、ん、あぁ……」
 こんな時ですら悦びを覚えてしまう女體が恨めしい。
 幽霊の腕に押し上げられた双乳はゆさゆさと縦に横に善がりながら母乳を滴らせ、従順に男根を呑み込む胎はだらだらと涎を垂らして座面を濡らしている。自分の体の浅ましさに打ちのめされて、わたしは子供みたいに両手を顔に押し当てて嗚咽した。
 ……はぁ――っと、氷のように冷たい溜め息が首筋に落とされた。
 びくっと震えると、項垂れた頭を優しく撫でられた。これまでにない仕草に戸惑い、おそるおそる肩越しに振り返ると接吻された。
 透明な舌がちろりと唇を舐め、すぐに離れていく。ますます訳が分からず困惑するわたしに構わず、幽霊は肘の辺りにたぐまっていたシャツを伸ばして肩に掛けた。
 見えない男の指が、一番下からボタンを一つずつ留めていく。元の大きさからサイズアップした乳房の下で引っ掛かり、何とか膨らみを押し込めようと試行錯誤したものの(その間、名残り惜しそうな手つきで揉まれたり乳頭を弄り回されたりして身悶えた)、ほぼ丸出しの状態で諦めた。
 腰を下から押されて立つように急かされる。慌てて近くのポールを掴んで踏ん張るが、立ち上がった拍子に挿入されっ放しの男根に子宮をつつかれて短い絶頂に何度も見舞われた。
「はっ、んぁ、あひっ」
 ひくんひくんと戦慄く足を片方ずつ持ち上げられ、タイトスカートを穿かされる。
 精液をたっぷり孕んだ腹が邪魔をして本来より高い位置でウエストのホックを留めるしかなく、ノーパンの尻たぶがギリギリ隠れる程のミニ丈になってしまった。
 きちんとハイヒールを履かされたのにミルクを垂れ流す爆乳を曝け出し、ぴっちりとしたミニのタイトスカートの下にはストッキングの隙間からはみ出た生足がちらちらと覗いている。更に頭から爪先までねっとりと体液にまみれ、いやらしい事この上ない。
 丸めたブラとパンティを押し込んだバッグを渡される。両手で手提げ紐を持つと、ぐんと体が浮いた。
「は――んぅ!」
 横向きに抱き上げられても、相変わらず怒張は胎内に居座っている。電車の振動やわたし自身の身動ぎの所為で甘々と小突かれてしまい、男にしがみついて気を遣り続けた。
「あっ、やぁっ……やら、らめ、おにゃか、ちゅんちゅ、しちゃ、あ、あひぃんッ!」
 時折ゆるゆると腰を揺すられ、男根に絡みつく膣の収縮につられて体が丸まる。引き寄せた腕の間で乳房がひしゃげ、擦り潰された乳頭からぴゅくぴゅくと母乳が零れた。
 ごとん……ごとん……と、レールの軋みが緩やかになっていく。電車が徐々に減速し始めたのだ――次の駅で停車する為に。
 小刻みな抽送の間、男根の鈴口からはこぷこぷと精液が零れ続けていた。断続的な絶頂をわたしのみならず男も味わっている最中らしく、呼吸が乱れている。
 気持ちいいんだ、『彼』も。
 下腹部が疼いて男根を思い切り締めつける。男が低く呻き、ぶるるっと腰を戦慄かせて吐精した。
「は、あぁ、ぁぁぁ………」
 ひゅう、と、視界の端を白い光が走った。
 暗闇だけが広がっていた車窓の外がぼんやりと明るい。
 吊り革が電車の進行方向に振り切り、車両が揺れて停止した。
『ア、ァ、ヒラサカァ……ヒラサカァ……』
 駅名を告げるアナウンスが流れると、目の前のドアがゆっくり開いた。
 薄ら寒い夜風が吹き込んでくる。
 ドアの向こうは無人のプラットホームだった。
 鉄骨の柱に支えられた屋根に覆われてはいるものの、風に吹き曝しだ。『ひらさか』と書かれた駅名の看板の下に、古ぼけたベンチがぽつんと置かれている。
 わたしは息を呑み、ホームを挟んだ反対側を凝視した。
 電車が停まっている。いつも乗っている路線の車両に違いない。
「……あ」
 早くしないとドアが閉まってしまう。呆然としていると、わたしを抱えたまま幽霊が動き出した。
 ホームに降りた。そのまま反対側の電車へ真っ直ぐ向かっていく。
「ふ、ん、ぅんっ」
 幽霊にも足があるのか、歩いているような腰の動きが接合部から伝わってくる。絶頂から脱し切らない体がぴくぴくと跳ねた。
 ぴたりと男が止まった。
 微かな吐息が耳朶を掠める。すっかり胎内に馴染んだ男根が、ずるる……と後退する。
「は、ぉ、ひぅ、あ、あぁ……」
 膣の内壁をのったりと削られ、頭がくらくらした。男根が完全に引き抜かれると、栓を失った胎内からどぷどぷと精液が流れ出した。
 太腿が冷たく濡れる。男の形にぽっかりと開いたままの秘裂から空っぽになった胎まで、喪失感に切なく疼く。
 ハイヒールの爪先がゆっくり下ろされた。
 現世行きの電車の、ドアの内側に。
「あ――」
 ふらつく足でなんとか立つと、幽霊の手がするりと離れていく。
 目の前には『彼』がいるはずなのに、誰もいない。がらんとしたホームを風が吹き抜けていく。
「ま、待って!」
 声を上擦らせて引き留めると、指先でそっと頬に触られた。
「あ……あの……あ、ありがと、う」
 上手く回らない舌でなんとか感謝を伝えると、くすりと笑う気配を感じた。
 唇を塞がれる。
 咄嗟に目を閉じると、舌を差し込まれて口腔を愛撫された。ひたすら愛おしむような、優しい触れ方だった。
 ぷるるる――と、発車ベルが鳴り響く。
 幽霊の唇が離れ、再び頬を撫でられた。

「こちらこそ」

 腰に響くような、低い、男の人の声が囁いた。

「俺の我儘に付き合ってくれて、ありがとう」

「さようなら」

『ドアガァ、閉マリマァス……ドアガ、閉マリマァァス……ゴ注意下サァ、イ……』
 ぷしゅう、とドアが閉まった。
 わたしは窓ガラスに飛びついた。
 窓の向こうに青白く揺らめく人影が立っていた。水面に映った影のように不安定で、背の高い男の人という事ぐらいしか分からない。
 窓ガラスに置いた手に、ぼんやりとした手が重なった。見上げると、男の人が薄く微笑んでいる。
 電車が滑り出した。
 ホームに佇む人影が遠ざかる。『彼』の姿をよく見ようと窓ガラスに顔を寄せたわたしは、ぎょっとした。
 反対側の電車は最後尾の車両だけ明かりが点り、前の車両から先は真っ暗だ。わたしが『彼』と乗り合わせたのは最後尾の車両だったのだ。
 電車は前方へ行けば行く程闇に呑まれ、先頭車両近くは車体すら視認できない。
 でも――乗客がいた。
「ひっ」
 最後尾より一つ前の車両、車内の様子がぼんやりと浮かび上がる。
 蠢く影がひしめき合い、青白い手形や人面が幾つも窓ガラスに張りついていた。あの世へ行く亡者の満員電車だ。
 無数の影の奥に一人だけ、女性がいた。
 明らかに生きた人間だと分かった。わたしと同じ年頃の女性は衣服を剥かれ、乳房や局部を丸出しにして亡者達に犯されていた。
 群がる影に埋もれ、仰向けの姿勢で乱暴に揺さぶられている。
 限界まで開かれた両足の間、亡者の怒張を突き立てられた陰部と菊門。四方から伸びる手にいたぶられ、痛々しく腫れ上がった乳房。
 泣き叫ぶ口にまで男根を突っ込まれると、白目を剥いて女體をしならせた。
 現世行きの電車がひらさか駅のホームを抜け、女性を乗せた異界行きの電車が暗闇に消える。わたしはへなへなと座り込んだ。
「あの人……連れて行かれちゃった?」
 疑問を口にしながらも、恐ろしい確信があった。
 もしかしたら、他の車両にも同じように亡者達の道連れにされた女性が乗っていたのかもしれない。
 前方の車両が闇に呑まれていたのは、後方よりもあの世に近づいてしまったからだろうか。先頭車両から段々と異界に引き摺り込まれ、乗客の女性は亡者達の餌食に――。
 たまたま最後尾の車両に乗っていたわたしは、亡者達に見つかる前に『彼』に助けられたのだ。『彼』に与えられた快楽を忘れられず涎のように母乳を垂らす乳房を抱き締め、わたしは身を震わせた。
 ごとん、ごとん……と車両の振動に揺られていると、強烈な眠気に襲われた。
「う……」
 瞼が開けていられず、視界が暗く狭まっていく。ドアに凭れかかって、ずるずると倒れ込んだ。
 ――そういえば、散々中出しされてしまったけれど、幽霊が相手なら避妊の必要はない?
 そんな事を考えながら、わたしの意識は眠りの淵に沈んでいった。



 どうやら、幽霊が相手でも避妊は徹底しなければならなかったらしい。
 陽性という結果を示す妊娠検査薬を手に、わたしは溜め息を吐いた。
 あの後、わたしはいつも乗っている路線の終着駅で早朝のホームに倒れている所を発見された。
 一週間以上行方不明になっていたらしく、家族から捜索願が出されていた。発見時に精液まみれのあられもない姿だった為に暴行目的の連れ去りに遭ったのだろうと判断され、警察で事情聴取を受けた。
 母親に付き添われて女性警察官からあれこれ質問されたが、まさか身に起きた出来事をありのまま伝える訳にもいかない。とても怖い思いをしたが細部はよく憶えていない、助けてくれた人がいて帰ってこられた……と口ごもりながら説明すると、母親は泣きながらわたしを抱き締め、女性警察官は痛ましそうに「無事に戻ってこられて良かったですね」と言って調書を閉じた。
 事情聴取の際、わたし以外にも同じ路線を使っていた女性が何人も消息を絶っていると聞かされた。心当たりはないかと尋ねられたが、迷った末に何も分からないと首を横に振った。
 たぶん……彼女達は永遠に見つからない。
 結局、わたしが希望しなかったので被害届は出さずに終わった。
 心配した家族からは実家に戻ってくるように言われたが、のらりくらりと躱して独り住まいのマンションへ帰った。
 いつ仕事に復帰できるのかと上司から再三連絡が来たが、医師の診断書を提出すると渋々休職を認めた。休職ついでに溜まりに溜まった有給を消化しながら、転職の準備を進める算段だった。
 現世に戻ってきてから、憑き物が落ちたみたいに今の仕事への未練が無くなった。せっかく命拾いをしたのに、セクハラ同然で人を馬鹿にしてくる同僚や上司の顔色を伺いながら残業で摩耗し続ける生活に戻る必要がどこにあるの?
 転職活動を始めようとした矢先、体調に違和感を覚えた。
 生理も来ていない。もしやと思って調べてみたら……案の定、妊娠していた。
 間違いなく『彼』の子供だ。
 幽霊が父親なんて理屈が謎だが、とんでもない置き土産を貰ってしまった。
 まだ膨らみらしい膨らみも見当たらない腹を撫でる。
 この子の存在が知った周囲の反応は考えるまでもない。ましてや、産みたいなんて言ったら――。
「よし、引っ越そう」
 この街からも実家からも離れた、シングルマザーでも子育てしやすい土地を見つけて移り住もう。
 有給を消化し切ったら退職して、当面は貯金と失業手当でなんとか乗り切ればいい。
 生きている限り『彼』に会える事は二度と無いだろうけれど、この子がいれば寂しくない。
「お父さんの分まで、お母さん頑張るからね」



 実は、わたしは『彼』と再会する事になるのだが――それはまた別の話。

作者: 棗 (ID:********)
投稿日:2023/05/01(月) 16:31
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