水穂に頼まれた美瀾の案内と護衛。それに何故か、桜花も同行する事になった。
 本来なら任務に桜花を連れて行くような真似、許可できるはずもないのだが、鬼姫が勝手に『彼女なら別に構わないでしょ。何なら、そのまま太老の副官でもやってみる?』と簡単に許可してしまった事が原因にあった。
 いつもの悪い癖だ。あれは絶対に面白がってやっている。水穂も呆れた様子で溜め息を漏らしていたし。

「お兄ちゃん、これは何?」
「フフフッ、こんな事もあろうかと用意した……『桜花ちゃんお出掛けセット』だ!」
「…………」

 ポカンとした表情で桜花が固まっていた。
 桜花の手に握られたアイテムは、その名も『桜花ちゃんお出掛けセット』。俺が発明したアイテムが全部で七点収納されている小さなポーチだ。
 中は空間圧縮されていて、見た目に反して巨大な物が入るので持ち運びにも困らない。内部構造の広さからして宇宙船くらいなら問題なく入るはずだ。美星のキューブを想像して欲しい。あれは亜空間に仕舞ってあるアイテムを呼び出すキーとしても使えるのだが、これはポーチの中その物に空間を圧縮して閉じ込めてある。発想元はドラ●もんの四次元●ケットだった。
 手を突っ込むと使用者の思念を読み取って考えた物を取り出せる。しかも内部の空間は時間が固定されているので食べ物を入れたところで腐る心配もない。かなりの高性能品だ。役立つアイテムなのだが、少々地味なのが玉に瑕だった。

「……お兄ちゃん、これは?」
「魔法少女大全。付属のステッキを使うと魔法少女に変身できる。戦闘用スーツとしてはかなり高性能だと思うぞ?」

 特撮物の変身アイテムとかもあるのだが、それより桜花なら魔法少女しかない。変身物といえば美少女には魔法少女。それ以外はありえない選択肢だ。それにこれは俺の自信作の一つといっても過言ではないくらい高性能な代物だった。
 魎呼の一撃にだって耐えられる防御性能に、最大出力の砲撃魔法は山すら吹き飛ばす。まあ、個人の能力や特性に応じて最適化されるので誰でもそこまで使いこなせると言う訳ではないのだが、それでもなかなかの代物だと思う。

 それにあのステッキには量産型ではあるが、 鷲羽(マッド)が開発した演算装置が組み込まれている。勿論、ステッキがデバイスの役目を果たし、某魔導師的なマルチタスクも余裕で可能だ。エネルギー源には魔力なんて胡散臭い物ではなく、誰でもある程度は扱えるように機能制限版の劣化型クリスタルコア。ステッキの柄の部分に嵌められている宝玉から供給されるように作ってある。
 ちなみに最初に作ったオリジナルの魔法少女大全には劣化版などではなく、龍皇にも使ったオリジナルのクリスタルコアを使ってみたのだが、余りに強力すぎて汎用性に問題がある事が分かったのでそうなった。
 最大出力で惑星を破壊できるほどの力を持った魔法少女。使用者の能力に左右されるとはいっても、使いこなせれば某白い悪魔≠謔閧煖ーろしい存在になれる代物だ。あれはさすがに危険過ぎると俺も思ったので工房に封印してある。
 某リリカル風に言うと『ロストロギア』に相当するアイテムではないだろうか?
 そもそもこの世界のアイテムは、どれも文明の劣る世界の人達から見ればオーバーテクノロジーの塊なので、そういう表現自体が意味のない話なのだが――

「……こっちのは?」
「メディカルナースちゃん。パーソナルデータを解析し、治療用ナノマシンを体内に注入する事で怪我や病気を治療してくれる。腕や足がちょん切れたくらいなら問題なく再生するよ。病気は未知の物でもない限り大抵は治ると思う」

 使用回数など勿論無い。RPG(ロールプレイングゲーム)などに出て来ればバランス崩壊必至アイテムだろう。
 付属の栄養ドリンクは皇家の樹の実を元に作成したハイポーション。メディカルナースちゃんは怪我や病気を治してくれるが体力や疲労まで回復してくれる訳ではないので、こいつの出番と言う訳だ。
 このドリンクは現在、工房で生産中だ。林檎に渡して財団の収入源とするべく酒に変えて貰っているが、それでも使い切れないほどあるので栄養ドリンクにする事を思いついた。以前に鷲羽(マッド)が俺に『栄養ドリンク』と称して怪しげな飲み物を飲ませていたが、あんな怪しげな物と違って、これはちゃんとした栄養ドリンクだ。
 余り大量に生産出来る物でもないのだが、身内に渡すくらいなら十分な数が確保できている。桜花のポーチには差し当たり二ダース、二十四本入れておいた。
 他にもお出掛けに必須なアイテムを合計七点ポーチに入れてある。これだけあれば、余程の事がない限り心配はいらないはずだ。

「桜花ちゃんを危険な目に遭わせる訳にはいかないしね。保険だと思って持っといて」
「色々と突っ込みどころ満載だけど……ありがとう」

 余り嬉しそうじゃない桜花。
 折角、女の子向けに花柄≠フポーチにしたのに趣味に合わなかったのだろうか?
 女性のファッションにはさすがに疎いしな。そうしたセンスには乏しいので、これからの課題とも言うべき点だ。
 中身だけでなく、デザインの勉強も必要かと考えさせられた。





異世界の伝道師/鬼の寵児編 第70話『マッドの資質』
作者 193






 で、場面が一気に変わるが美瀾の案内をする当日がやってきた。港で美瀾の到着を待っていると一隻の船が停船し、そこから美瀾とその付き添いと思しき一団が降りてきた。
 九羅密美瀾――九羅密家の現当主で、あのGPアカデミーの校長『九羅密美守』の弟。ある事件でGP長官から整備部主任に降格され、それ以降彼がどうしていたかなどは俺は知らない。
 この知識だって原作知識から来るモノだし。まあ、ちょび丸が撃沈される現場には俺もいたのだが……というか気付いたら魎呼と一緒に魎皇鬼に乗ってグルグル回っていた。
 懐かしい思い出だ。ちなみに、その時の俺の年齢は一歳だ。仮にも幼児が乗っているのに無茶をしないで欲しかった。
 酔っ払いの魎呼に言ったところで無駄な話だというのは自覚しているが。

 そう言う訳で、全く美瀾とは因縁がない訳ではない。あっちが俺が関与していた事を知っているか知っていないかは話が別だが、その後の頂神三人を交えた会談の場には俺も居たし、美咲生とマシスが結婚するという話になった現場にも出席していた。
 その辺りの話で原作と違った点があったといえば、『時間を過去に戻してやり直す』とか大層な事を言っておきながら時間が巻き戻らなくて、赤っ恥を書いた訪希深を魎呼が大爆笑した事か。結局、怒り狂った訪希深に魎呼はボコボコにされていたが……。
 その後、『太老の所為じゃ!』とか、理不尽に騒ぎ立てる訪希深(幼女)の八つ当たりに悩まされたのでよく覚えている。
 そう言えばあれからなんだよな。俺が訪希深に付き纏われるようになったのって……。
 迷惑な話だ。もう少し神様らしい貫禄のある人物だと思っていたのに、中身は丸っきり我が儘な子供だった。
 上手く行かなかったからって他人の所為にするのはどうかと思うぞ。仮にも頂神と言われる存在の癖に。

 と、話が脱線した。てな訳で、直接話をした事はないが面識はある。クリスマスパーティーから数えれば会うのは三回目という事になるのか?
 美星と同じ褐色の肌に金色の髪。年老いた姿ではあるが、十三年経っても全く変わる事のない老人の姿がそこにはあった。
 服装は、さすがに整備部の作業服ではなく九羅密家の正装を身に纏ってきたようだ。
 今日は整備部主任としてやって来た訳ではなく、九羅密家の当主として樹雷に訪問している。後に大勢控えたお付きの者達を見れば分かると思うが、これでも世二我の筆頭と言われる九羅密家の当主。樹雷と対等の立場にある国の重鎮なのだ。
 世二我の権力を実質握っている裏の最高権力者は美守と言われているが、公的には一番偉いのは美守ではなく美瀾だ。

「九羅密美瀾様ですね。案内役に任命された正木太老と申します」
「同じく案内役の平田桜花です」

 さすがに公的な場では桜花も立場を弁えているようだ。いつもの小悪魔振りは見受けられない。
 夕咲や兼光について色々と参加している所為か、俺よりもこうした公的な場への参加回数は多いというし、その堂々とした様子からも場慣れしている様子が窺えた。

 俺と桜花が自己紹介すると、美瀾の周りを固めていた人達からどよめきの声が上がる。『あれが麒麟児』『武神の後継者まで』とどうやら俺と桜花の事を言っているようだ。
 まさか、ここにまで『麒麟児』の話が伝わっているとは……。
 正木の村でそんな風に呼んでくれる人は確かにいたが、あれは前世の記憶があって子供らしからぬ行動を取っていた所為で、変に思われてつけられた渾名のようなものだ。本物の天才とは違う。どちらかと言うと勘違いが引き起こした過大な評価と俺は考えていた。
 とはいえ、それを言ったところで話が通じるとは思えないし、前世がどうの言ってる時点で頭のおかしい奴と思われるのがオチだ。
 ここは仕事に専念して、敢えて否定も肯定もせず黙っている事にした。麒麟児と呼ばれるよりも、変人と思われる方がずっと嫌だ。

「九羅密美瀾だ。こうして話が出来て嬉しいよ。太老くん、それに桜花ちゃんも」
「こちらこそ、お会い出来て光栄です。そう言えば、美瀾様が俺を案内役に指名してくださったとか」
「うむ。君とは一度じっくり話がしたくてね。美星が世話になっておるようだし、先日は美兎跳が迷惑を掛けたみたいだしの」

 そう言ってガッシリと俺の手を握る美瀾。
 老人の手とは思えないほど、力強いしっかりとした手をしていた。やはり、見た目通りと思わない方が良さそうだ。

「今日は視察という話ですが?」
「半分は建て前だがね。言っただろ? 君と一度話がしたかったのだよ。とはいえ仕事は済ませないとな。案内をお願い出来るかね?」
「はい。では、先にGP支部の方へ案内しますね」

 それに思ったより悪い人物と言う訳ではなさそうだった。
 俺の中の美瀾のイメージって、暴走した挙げ句ちょび丸を無断で発進させて地球諸共天地を亡き者にしようとしたり、単細胞というか考えの足りない孫バカと言った感じの老人だった。
 それを裏付けるように、美星の装備品の殆どはこの九羅密美瀾が与えた特注品だという事は周知の事実だ。
 それだけに美瀾の礼儀正しい落ち着いた態度は妙に違和感があるというか、俺の中のイメージと懸け離れた物だった。

(まあ、公的な場だしな。さすがにそのくらいは弁えてるか)

 そんな事も分からないバカが、九羅密家の当主なんかになれるはずもない。
 美星の件が無ければ、GP長官としてもやっていけるほど恐らくは有能な人物なのだろう。
 今は、そのように納得しておく事にした。

【Side out】





【Side:水穂】

「よろしかったのですか? 桜花ちゃんまで同行させて」
「彼女は保険よ。水穂も分かってるでしょ?」
「分かりますが、寧ろ状況を悪化させて楽しんでいるだけに思えるのですけど……」

 万が一の事態を考慮して、桜花ちゃんを太老くんの補佐としてつけたのは分かる。しかし桜花ちゃんも、太老くんと同じ天樹に自由に出入り出来るという規格外の存在だ。
 確率の偏りなど、太老くんのような能力の発現が見られていないだけマシと言えるが、本当に彼女で大丈夫かという不安はあった。

「桜花ちゃんが一緒に居たら、太老だって無茶は出来ないでしょ?」

 確かに太老くんは桜花ちゃんに甘い。というか子供には全体的に優しいのだが、それで太老くんの抑止力になるかどうかと言われれば微妙だとしか言えない。正直言って、それでも気休め程度にしかならないと私は思う。
 第一、女官達を尾行させて観察している時点で、この状況を楽しむつもりなのは一目瞭然だった。
 瀬戸様の言い分には説得力がない。しかし監視をつけるのは賛成なので、ここでは敢えて何も言わない。
 万が一の事態が発生した時、素早く対応出来るように保険を打っておく必要性はあったからだ。
 クリスマスパーティー以降、大きな事件は起こっていないとはいえ、今回も安全だという保証はどこにもなかった。

「心配性ね。水穂は……」
「そう思うなら、私が心配になるような事を平然と為さらないで下さい」
「どうせ何か起こるなら、面白い方がいいでしょ?」

 分かって無くてやっているよりも、そうなるように仕向けようとする辺りがずっと質が悪かった。
 勿論、意味のない事をされる方ではない。そこに何かしらの意味があるのは知っているが、瀬戸様の場合は行動に必ず『遊び』が入っているのが厄介だ。
 それで泣かされた人達がどれだけ居る事か……。
 幾らその事で叱っても効果がないのはお約束だ。一時的には大人しくなるが、直ぐに別の面白い事を見つけると手を出さずにはいられない。
 瀬戸様が『鬼姫』や『クソババア』と呼ばれて恐れられる分には自業自得だと思っているが、それに巻き込まれる方は堪った話ではなかった。
 それだけにどうしたものかと余計に考えさせられる。一応、女官達もその事は重々承知のはずなので、殆どの娘達は瀬戸様の悪ノリに付き合っていると言うよりは最悪の事態を想定して、太老くんのために行動してくれている。
 今のところ、それが唯一の救いだと言えた。しかしその女官達も太老くんを密かに狙っているという現状があるので楽観は出来ない。

(太老くんも西南くんに負けず劣らずトラブルメイカーよね)

 いや、フラグメイカーとでも言うべきか?
 太老くんが樹雷にきてから四ヶ月余り。この四ヶ月は百年が一ヶ月に圧縮されたかのような、濃密な時間を過ごしていた。まさにアクシデントの連続だ。
 確率の天才と呼ぶなら、まさに太老くんはその名で呼ばれるに相応しい才能を持っている。

(それだけに厄介なのだけど……)

 水鏡のブリッジから、空間モニターに映る太老くんと桜花ちゃん、それに美瀾様達を眺めながらそのアクシデントが最悪の方向に向かわない事を今は祈るばかりだった。
 しかし私は気付いていなかった。アカデミーの件、それにクリスマスパーティーの件、そしてこれから起こる出来事でさえ、全ては真に災厄≠ニ呼べる出来事の余興に過ぎなかったという事に――
 私がその事に気付くのは、これから五ヶ月後の事だった。

【Side out】





 ……TO BE CONTINUED



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.