俺の名は正木太老。そして俺には前世の記憶がある。世間一般で言うところの転生者と言う奴だ。
 この世界に生を受け、前世では体験できなかったような経験と苦労を重ねてきた……と自分では思っている。
 それと言うのも、マッド……それに鬼姫の二人に加え、個性豊かな面々に振り回され、もとい囲まれる生活を余儀なくされてきた点が大きいと言えるだろう。
 別に彼女たちのことを嫌っているわけじゃない。ただ、俺は平穏な普通の生活が送りたかった。ただ、それだけなんだ。
 だと言うのに――

 ここは俺の船――守蛇怪・零式のなかに固定された亜空間の中。緑豊かな人工惑星の中に建てられた俺の仕事場だ。
 鋭い人なら、これだけで理解できると思うが、そう俺が転生したのは前世で『天地無用』の名で知られる作品の世界だった。
 守蛇怪・零式は、マッドもとい白眉鷲羽が設計した船で、皇家の船や魎皇鬼に引けを取らない性能を有している宇宙船だ。
 まあ、零式(こいつ)が最近の俺の一番の頭痛の種なわけだが、悪気はないんだよな。設計者に似て、一般常識が欠如しているだけで……。
 話が脱線した。俺は現在、その仕事場の一角に設けられた自分専用の執務室で、山積みとなった書類に目を通しながら決裁の判を黙々と押していた。
 毎日のように続けている日課というか……俺の一日は大量の決裁書類との格闘から始まると言っていい。

「やっと半分か……」

 かれこれ二時間は作業を続けていたこともあって、体力はともかく精神的な疲労が大きい。
 どうしてこうなったのか? ただ普通の生活を送りたかっただけなのに、気付けば一国一城の主になっていた。
 現在の俺の肩書きは、銀河どころか異世界を股に掛ける大商会の代表。銀河有数の財団の設立者。
 連合国の実質的盟主。樹雷の皇位継承者と、錚々たる肩書きが並ぶ。
 まあ、名だけで実務的なことは、ほとんど人に任せきりなんだが……俺の仕事と言えば、書類に目を通し決裁の判を押すくらいだ。
 俺が凄いと言うよりは、周りが優秀な人ばかりで、いつの間にかこうなっていたと言った方が正しいんだよな。

「で? いつまで、そうしてる気だ?」

 そして、俺の前で土下座をしているうさ耳の少女。仕事をしている最中も、この調子で動かないから正直困り果てていた。
 彼女の名は、安部菜々。『ウサミン星人』を自称するアイドルだ。ああ、アイドルの方は自称じゃないので。
 これでも346(ミシロ)プロと言う大手事務所に所属する正真正銘、本物のアイドルだ。
 永遠の十七歳と言い張って憚らない二十七歳。本人はそのことを気にしている様子だが、十歳くらい誤差の範囲だと俺は思っている。
 見た目と実年齢が伴わないことなんて、宇宙では当たり前にあることだからな。もう慣れたと言っていい。
 そんな彼女だが、故あって地球人でありながら『宇宙』を知る一人となっていた。

 彼女との出会いを詳しく話すと長くなるのだが、現在うちの商会は異世界や宇宙だけでなく地球での経済活動も行っている。正確には、地球を含む連合国家圏での経済活動と言うのが正しいのだが、その経緯を話すには本にすると三冊分くらいになりそうなので今は省かさせて欲しい。
 で、現在この新国家、通称『地球連合国家』は樹雷の――正確には、俺の保護下に入っている。元々この辺りの宙域の所有者が俺の名義になっていたと言うこともあるが、そもそも新国家が設立されるに至った『盤上島』の問題が発生した原因を辿ると、俺や西南が海賊を追い詰めすぎたことに原因があるわけで――
 自分の尻は自分で拭け、が我が家の家訓だ。最後まで面倒を看るべきと言われれば、嫌とは言えなかった。

 それに以前もテレビ番組の収録が村にきて一騒動があったように、テレビやインターネットの普及による情報伝達速度の飛躍的向上によって、俺が生まれ育った『正木』の村についても世間から隠し通すことが難しくなってきてはいたのだ。とはいえ、正木の村に住んでいる人たちは、そのほとんどが樹雷第一皇妃の子孫や関係者たちだ。これを公にするわけにはいかない。
 それに恒星間移動技術を持たない初期文明惑星への過度な干渉も、銀河法で禁止されている。太陽系に新国家が設立され、そこに地球が含まれているからと言って、宇宙の秘密を何も知らない人たちに公言することは出来ないと言うことだ。そのため、俺たちのことを知る関係者は、地球でも極一部の人間たちに限られている。
 そうしたことから俺が代表を務める〈正木商会〉は、地球での商業活動を始めることになった。所謂、連盟との橋渡し役。地球に置ける交渉窓口。そのためのカモフラージュと言う訳だ。勿論、他にも理由はある。先程も言ったように、いまのままでは〈正木の村〉を隠し通すことは難しい。問題が起きる度に対処するのも面倒だ。そこで木を隠すなら森の中と言ったように、村の外へと手を伸ばし、地球の経済や文化に溶け込むカタチで生活の地盤を構築しようと考えたわけだ。
 それに宇宙に限らず、地球の中にも俺たちのことを知る者のなかには、現状に不満を持っている人々や国は多い。
 そうした不満を抑えるため、餌を撒き、手綱を握ると言う意味でも商会が持つ役割は大きかった。

「ううっ……そう言うのなら、ナナの話を聞いてくださいよ」

 で、話を戻すが、菜々と知り合ったのは地球での活動が軌道に乗ってきた最中のことだった。
 うちの商会は自分で言うのもなんだが、かなり手広く商売をやっている。勿論、宇宙のものを地球に持ち込むわけにはいかないため、活動には制限はあるが、俺の本業は『哲学士』だ。既存の技術から新たな使い道を模索し、地球でも再現可能な商品を開発することくらい難しい話ではない。まあ、ほとんどは子供の頃にマッドの見よう見まねで作った自由研究レベルの玩具なんだがな……。水穂さん曰く、それでも十分な利益になっているとの話なので問題ないだろう。
 話が脱線したが、そうしたことから昨今のアイドルブームに乗っかって、三年ほど前、新たな事業を起こした。それがアイドル事業部だ。
 現在、891(ハクビ)プロダクションの名前で、そこそこの数のアイドルが所属している。なかには当然、宇宙の関係者もいて、最近テレビでよく名前が売れているところだと、海賊ギルドの広報でローカルネットアイドルをやっていた経験のあるカルティア・ゾケルや、『みんな大好き正木卿メイド隊』通称『MMM』あたりが有名だ。鬼姫の罠に嵌められて水穂や林檎も一昨年ユニット曲を披露し、新人とは思えない爆発的ヒットを記録したりと、順風満帆と言える成果を上げていると言えるだろう。
 で、菜々はそうして知り合ったアイドルの一人なのだが、実は彼女を連れてきたのは林檎だった。
 立木林檎。『鬼姫の金庫番』とも呼ばれ、その家名からも察することが出来るように樹雷四皇家の一つ『竜木』の皇眷属だ。
 そんな彼女と菜々がどうやって知り合ったかと言えば、とある番組の収録で偶然一緒になったそうだ。

「素直に白状した方が早いと思うぞ?」

 菜々が俺たちの秘密を知るに至った経緯、それは林檎の勘違いだった。
 ウサミン星人を自称する菜々の言葉を真に受けた林檎は、彼女を関係者だと勘違いして『柾木家』の宴会に招待したのだ。
 仕事では一切ミスをしない林檎だが、ああ見えて天然なところがあるからな……。それ以来、菜々は誤解されたまま現在に至る。

「……白状したら、どうなると思いますか?」
「お前がどうこうと言うより、林檎さんが自責の念から仕事も手に付かない状況になりそうだな。そうなると商会だけでなく樹雷も少なくないダメージを負うことになるだろうから、人的・経済的な損失は銀河規模で波及する可能性が……」
「スケールが一々大きすぎます! ナナを良心の呵責で殺す気ですか!?」

 事実だから仕方がない。伊達に『鬼姫の金庫番』と呼ばれていないと言うことだ。

「というか、ウサミン星って本当にあるんですか?」
「おい、自称ウサミン星人」

 ワウ人という犬によく似た宇宙人がいるくらいだ。俺は知らないが、ウサギの姿をした宇宙人がいても不思議ではない。
 林檎が信じ切っていると言うことは、恐らくはいるのだろう。ウサミン星と言う名前かどうかはわからないが……。

「本物の宇宙人を相手に、言葉を取り繕っても仕方ないですし……」
「俺は地球出身だ。純粋な地球人かと言われると微妙なんだけど……」

 微妙な空気が二人の間に流れる。そうなんだよな。俺も、自分は地球人だと胸を張れる自信がない。
 そう言う意味では、地球人でありながら『ウサミン星人』を自称する菜々はある意味で大物と言えるだろう。
 まあ、永遠の十七歳らしいしな。

「いっそ、本当に宇宙人になってみるか? それなら嘘にはならないし」
「……え?」
「どっちみち、お前の対応を決めないといけなかったしな。丁度良いと言えば、丁度良いか?」
「……え? え?」

 俺たちのことを知られたからには、口封じか、記憶を操作するか、仲間に引き入れるかのどれかしかない。
 これまで密かに様子を観察してきたが、誰かに話すような素振りはなく意外と義理堅い人間だと言うことはわかっている。
 あらかじめ、そのことで鬼姫とも相談をしたのだが、俺の好きにして良いという返答だった。
 それに、菜々以外にも同じような地球人の協力者はいるしな。前例がないわけでもない。

「銀河の歌姫(アイドル)*レ指してみないか?」


   ◆


 菜々を帰らせ、残りの仕事を片付けていると再び転送ゲートが発光して、そこからまた誰かが入ってきた。
 学生服の上に白衣を纏った少女。一ノ瀬志希。彼女も菜々と同様、知っている側の人間だ。
 だらけきった表情で来客用のソファーにダイブすると、そのままクッションに顔を埋める志希。
 相変わらず自由と言うか、なんというか……。何しにきたんだ。こいつ……。

「くんくん。この匂い……菜々ちゃんきてた?」
「相変わらず、鼻が良いな……実は、ワウ人が祖先だったりしないか?」

 鼻をひくひくと鳴らしながら、そう尋ねてくる志希を見て、俺は感心するやら呆れるやら複雑な感情を抱く。
 匂いだけで誰がきていたかを当てるなど、お前は犬かと問いたい。自称ウサミン星人よりも、ずっと地球人離れした特技を持っていた。
 しかし、こんなのでも菜々のように偶然ではなく、自力で俺たちの正体に辿り着いた稀有な地球人の一人なのだから驚きだ。
 海外の有名大学に留学していた経験を持ち、十八歳にして既に幾つもの特許を持つ化学の申し子。所謂、天才と呼ぶに相応しい少女だ。
 あのマッドが興味を持つくらいなのだから、そのレベルの高さが窺えるだろう。
 専門は薬品の研究と言うことだが、よくある偽物などではなく本物の『惚れ薬』を作れるという点には、俺も驚かされた。

「こんなところでサボってて大丈夫なのか?」
「あれ? この前もらった課題のことなら、まだ期限あるよね? もう少しで目処が立ちそうだから待って欲しいんだけど」
「いや、そっちじゃなくてアイドル≠フ仕事の方は大丈夫なのか? って質問なんだが……」
「……にゃ?」
「おい、いま目を逸らさなかったか? お前、また抜け出してきただろ……」

 こう見えて彼女は菜々と同じ346に所属するアイドルの一人だ。なのによく抜け出しては、うちに避難してくるんだよな。
 そもそもサボるくらいなら、なんでアイドルを続けているのか謎だ。まあ、飽きっぽいのが理由だろうが……。
 常に面白いこと、刺激を求めていないと生きていけない。そういう点では、マッドと気が合うのもよくわかる。
 彼女が『哲学士見習い』としてアイドルの傍ら俺の助手をしているのも、マッドが彼女のことを気に入ったからと言うのが理由として大きかった。
 言ってみれば、押しつけられたのだ。まあ、悪い奴じゃないんだがな……。
 それ故か、彼女は俺のことを『先生』と呼んでいた。マッドが『師匠』で俺が『先生』って感じらしい。
 正直、志希の言っていることは半分も理解できない。彼女なりの理屈はあるみたいなのだが、天才故か感覚で物を語る癖があって本人も上手く説明できないからだ。

「この後、フレちゃんとケーキ食べに行く約束してるんだけど、先生も一緒に行く?」
「唐突だな……。そんなことを言うために、訪ねてきたのか?」
「そこのキャロットケーキが凄く美味しいらしくてねー。優しい香りがするんだってー」
「人の話を聞けよ……」

 頬に手を当て、だらけきった表情で嬉しそうに話す志希。いま彼女の頭の中はケーキで一杯なのだろう。
 ちなみにフレちゃんと言うのは、宮本フレデリカと言って志希と同じ部署に所属するアイドルの一人だ。
 何度か顔を合わせたことはあるが、類は友を呼ぶと言うか、志希と同じか、それ以上に変な子だった。

「ん、誰かきたみたいだな」

 呼び出しのベルが鳴ったことに気付き、俺は手元のコンソールを操作して空間モニターを呼び出す。
 モニターに映し出されたのは、東京某所にある891の事務所だった。
 ここと事務所は繋がっていて、来客があればすぐにわかる。
 他にも樹雷の宮殿やジェミナーの屋敷も座標を登録済みで、仕事を円滑に進めるために転送ゲートを設けていた。

「迎えがきたみたいだぞ」

 そう言って、志希にも映像を見せてやる。そこにはロビーで、受付の女性からゲスト用のパスを受け取る二人の少女が映っていた。
 一人は、さっき話にもでたフレデリカと言う名の少女。日本人の父親とフランス人の母親を持つハーフで、母親譲りの金髪が特徴的な少女だ。
 そんな彼女の腕を隣でガッシリと掴んでいる女子高生は、城ヶ崎美嘉。ギャルのカリスマと呼ばれている346のアイドルだ。
 派手な見た目に反して根は純情且つ真面目な少女で、よく同じ部署に所属する志希やフレデリカに振り回されていた。
 大方、志希を連れ戻すために事務所を訪ねてきたのだろう。

「美嘉ちゃん! どうして、ここにいることが!?」

 ガガーンと効果音を口にしながら、驚いた様子で大きなリアクションを取る志希。
 そりゃ、バレるだろ。志希が仕事を抜け出して、ここに来ることは今回が初めてではない。
 彼女が失踪する度に、美嘉が迎えにきているのだ。さすがに何度も同じことが続けば、予想が付かないはずがない。
 しかも今回はフレデリカも一緒だ。恐らく彼女が一緒と言うことは、既に共犯であることがバレているのだろう。
 美嘉も大変だな……。今度、栄養ドリンクでも差し入れてやるか……。

「ううっ、フレちゃんの裏切り者〜! こうなったら……先生、匿ってー!」
「却下」
「ええ……もうちょっと教え子に優しくてもいいんじゃないかなー? ほら、いまなら志希ちゃんの匂いを嗅がせてあげてもいいよ? くんくんって」
「それは、いつもお前がやってることだろ。ちひろさんに一緒に怒られるのは勘弁だからな。俺も仕事が残ってるし、いまなら林檎さんの小言もついてきかねない」
「にゃはは……それはあたしも勘弁して欲しいかな……」

 俺と一緒に林檎の説教を受けたことのある志希は、少し顔を青ざめた様子で笑って誤魔化す。
 ちひろさんと言うのは、千川ちひろと言って346のアイドル部門で働く事務員の女性だ。
 普段の仕事振りを見ている限りでは、よく気の利く物腰柔らかな大人の女性と言った印象を受けるのだが怒らせると恐い。
 346に所属するアイドルだけでなく、プロデューサーにも一目置かれる存在だった。
 さすがに観念した様子で、大人しく俺の後をついてくる志希。

「そう言えば、今朝きいたんだけど、うちの事務所とコラボやるってほんと?」
「ああ、舞台演出の協力要請がきててな。なら一緒にやったら、どうかって話になった」
「なるほど、なるほど。先生のところの会社、いつも舞台装置が凝ってるもんね〜。と言うか? あれってOKなの? チートって奴じゃないの?」
「チートって……俺が子供の頃に夏休みの自由研究で作ったレベルのものだぞ? 地球でも再現可能な技術しか使ってないはずだし、何が問題なんだ?」
「先生はーもう少し自分のことを自覚した方が良いと思うよ? あたしが言うのもなんだけど」

 いつも怪しげな薬を作ってる志希にだけは言われたくなかった。これでも自重してるんだぞ?
 最新のAR技術を用いた舞台演出。それが891プロダクションの売りだ。
 とはいえ、現在の地球でもギリギリ再現が可能な技術しか使ってはいない。
 コストを考えれば、うち以外には真似できないだろうけど……そのくらい許容範囲だろ。
 346が協力を持ち掛けてきたのも、その辺りに事情があるのだろう。

「……何してるんだ?」
「んー。やっぱり先生の匂いって落ち着くなーと思って。例えるなら、お日様の香りって感じ?」
「俺は干したての布団か……」

 そう言って背中でくんくんと鼻を鳴らす志希を見て、俺は呆れた様子で肩を落とすのだった。


  ◆


「今日のお昼は皆で集まって、ミーティングするって言ってあったよね?」
「にゃはは……ごめーん。すっかり忘れてた。美嘉ちゃん機嫌直してー」
「もう、シキちゃんは、うっかりさんだねー。あ、カナデちゃんたちがきたら、皆でケーキ食べにいかない? 美味しい物を食べれば、嫌なことも忘れられると思うんだー」
「行きません。あと、フレデリカも同罪だから。二人とも反省してないよね?」

 反省しているのかわからない志希とフレデリカの姿を見て、美嘉は疲れきった様子で溜め息を漏らす。
 364の敷地内にあるカフェで、三人は残りのメンバーが到着するのを待っていた。
 取り敢えず、何か注文しようと店員を呼び止めようとしたところで、美嘉は顔見知りを発見する。

「菜々さん、何か良いことありました?」

 いつものウェイトレス姿で鼻歌を口ずさむ菜々を見つけ、美嘉は不思議そうに尋ねる。

「わかります? 長年の悩みが解消されて、お肌も十歳くらい若返った感じで――」
「え……菜々さんって確か、いま十七歳じゃ……」
「こ、言葉の綾ですよ! ナナは正真正銘ピッチピチ≠フ十七歳ですから!」

 今時の女子高生は『ピッチピチ』なんて死語は使わない。
 明らかに挙動不審な菜々に美嘉は違和感を覚えながらも、女性としてはもう一つの言葉の方が気になった。
 確かに菜々の肌をよく観察してみると、以前よりも肌が細やかと言うか、潤いに満ちた若々しい印象を受けたからだ。
 ひょっとしたらアタシより綺麗かも……と呟きながら、美嘉は菜々に尋ねる。

「そう言えば、前より肌に張りがあるような……。何か、良い化粧品でも見つけたんですか?」
「えっと、それは……」

 視線を逸らし、答えにくそうにする菜々を見て、やはりこれは何かあると確信する美嘉。
 無理に聞き出すのは悪い気がしつつも、女として気にならないはずがない。
 どう聞き出したものかと策を練っていた、その時だった。

「そう言えば、菜々ちゃん。今日、先生のところに行ってたでしょ?」
「ど、どうしてそれを……ッ!?」
「にゅふふ……志希さんは、なんでもお見通しなのです」
「んー? もしかしてナナちゃんが隠してるのって、そのことが関係してたり〜?」

 鋭い志希とフレデリカのツッコミに、菜々の表情が固まる。
 志希はともかく、美嘉とフレデリカの二人に太老の秘密を話すわけにはいかない。
 どう誤魔化すべきかと頭を悩ませること数十秒。「こ、これは……」と顔を真っ赤にしながら口を開き、

「さ、最新エステの効果です!」
「エステ? 最近できたところですか?」
「え、えっと、それは……会長さんが……」
「え? 太老さんが?」
「揉んでもらったんです! 正木会長に!」

 菜々の口からでたのは、爆弾発言とも取れる一言だった。
 思いもしなかった菜々の回答に、ピシリと音を立て呆然とした様子で表情を固める美嘉。
 そして興味津々と言った様子で「おおー」と声を上げながら目を輝かせる志希とフレデリカ。
 後に宇宙(ソラ)へと羽ばたき、トップアイドルの階段を駆け上がっていく少女たちのシンデレラストーリーが幕を開けようとしていた。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.