――西暦2199年 −日本



「ハァ…… ハァ……」


一人、学校の制服姿で東京の街をさまよっているのは、まだ中学生ほどに見える、あどけなさを残す風貌の少女だった。 彼女の名は“御坂美琴”。年齢は14歳。年齢の割には大人びた面と純情さ、少女趣味な一面を持つ中学2年生で、日本にある“特殊な街”として知られ、かつて科学の最先端の塊とも言われた学園都市の出身。その能力から、常盤台の超電磁砲の異名を持つ、電気を操る超能力者である。彼女は今、前代未聞の事態に直面していた。


――どういうわけか空間転移&タイムスリップの2つが同時に彼女を襲ったのだ――


「ど……、どうなってんのぉぉぉぉ〜!?」


この一言が彼女の第一声であった。携帯電話は圏外(この時代では携帯電話はミノフスキー粒子の台頭によって姿を消しており、前時代の骨董品扱いである)、持ちあわせていた財布に入っていた金は古銭扱いされ、換金を薦められる始末。いきなりの事態に訳が分からず、街をうろついていたところ、拾った新聞の日付を見るととんでもない事実を認識せざるを得なかった。『自分は少なくとも100年後の未来に飛ばされた』と。頭ががどうにかなりそうだったが、ポジティブ思考で、なんとか平静を保った。その後、有無曲折を経てどうにか東京にたどりついたのである。意気消沈して、図書館の前を通り過ぎたところ、彼女は凄い人物を目撃した。それは彼女もよく知るネコ型ロボットだったからである。

――後ろからでもはっきり分かる、愛くるしい胴長短足の丸い身体と顔は間違いなくドラえもんそのものだった。この時、あたしは驚きと感激が入り交じって、頭がオーバーヒートしそうだった。ここからあたしの運命は変わっていった。そう、この時から……



「うん?」

「どうしたのドラえもん」

「いや……なんか誰かにつけられている様な……気のせいかなぁ?」

「後をつけられてる?ドラえもんがぁ?プ〜クスクス……。どうせ猫じゃないのぉ?」

「失礼な!!こう見えても未来の世界じゃモテたし、未来の世界にゃノラミャー子さんっていうなぁ……」

美琴はドラえもんと彼と一緒にいる少年―野比のび太の会話に思わず心弾ませた。
まさかドラえもんが本当に存在していて、しかもマンガ通りに野比のび太と一緒にいるとは。これほど千載一遇のチャンスは無かった。
こう見えてもファンシー系のキャラに目が無い彼女はキャラクターグッズなどを集めていた。そしてそれはドラえもんであっても例外ではなかった。不意打ちのように、いきなり話しかけるのも悪いので、彼らに気付かれないようにこっそりと後をつけた。しかし、ここで一つの疑問が浮かんだ。この2190年代は彼らが本来いるべき時代でないし、ドラえもんの時代から数えても100年近い年月が経過した時代である。美琴とて、死んでから100年以上の後、つまりとっくのとうに死んでいる人間である。最もこの年代でも学園都市が存続しているかも怪しいが……。



―あの戦争の後に学園都市の暗部がどうなったのか?あたしははどのような人生を送ったんだろう?妹達は?アイツは?

様々な思いが美琴の心に去来する。(私の時代から優に100年過ぎてるこの時代……。まさか妹達が生きてるわけ無いと思うんだけど、まさか……)

美琴のこの想いは後に意外な形で的中する事となるが、それはまだ語られるべきではないだろう。


一人、彷徨いていた美琴は逆にドラえもん達から話しかけられる事になった。(うわの空でポカンとなっていたのがドラえもんやのび太の目に止まったのだろう。)


「あの……大丈夫ですか?」

「うわあっ!?」


予想外の出来事に思わずドキンとなり、飛び上がりそうになる。まさか向こうから来るとは、と心拍数が上がり、息が上がる。

――心の準備くらいさせてよね……


「ずうっと空を見たままボーっとしてたから気になって……」

「あ、いや、ちょっと考え事してたの。君、名前は?」

「僕、野比のび太です。それで僕の隣にいるのが……」

「こんにちは。ぼくドラえもんです」

「私は御坂美琴。よろしくね」

「美琴さん、ここだとなんですから、あそこの公園で」

「んじゃ行きましょう」




ドラえもん、のび太と美琴は公園の一角で話しあった。美琴はドラえもんがこの時代にいる理由を問い、彼女も自身がここに来た経緯を説明し、ドラえもんに聞く。

「美琴さんが巻き込まれたのは多分……時空乱流だと思います」

「時空乱流?」


ドラえもんは美琴にその単語についての説明を始めた。彼によれば時間の流れには時々大きな穴が開き、極稀に人を飲み込んでしまうという。




「のび太くん、前に7万年前の日本に行った時を覚えてるかい?」

「うん。あの時説明した奴だね」

「そう。昔からよく伝承に残ってる神かくしというのはこの現象。 例として上げると1939年頃に当時の中国軍の部隊がまるごと行方不明になったとか、1910年代位に有名な作家が行方不明になったとかの事件の原因はこれじゃないかと言われてます」

ドラえもんは自分の時代まで言い伝えられていたいくつかの伝承を例にして説明した。
確証は無いが、美琴が100年ほどの時間を飛び越えたのもおそらくこの現象によるものだと告げた。


「まさか自分がそんな目にあうなんて考えもしなかった。で、これからどうするの?」
「僕たちは兵団と戦います。そのために僕たちはこの時代に来たんです」
「兵団?それってもしかして……」

ドラえもんはここで美琴に自らの目的を告げた。「鉄人兵団と闘う事」それが最大にして、唯一の目的である。


美琴もその単語については知っていた。ドラえもんたちが幾度となく繰り広げた冒険の内でも激戦が起こったとされる冒険。彼らが死地に赴き、自らの手で地球を救った戦い。美琴はその性格ゆえに自分達だけで軍団に挑もうとするドラえもん達を放っておけなかった。何故このような選択をしたのか。それには、彼女が知らず知らずのうちに恋心を抱くようになった一人の高校生の少年の行動が頭の中にあったからであった。その少年は自分のクローン人間を使った実験を学園都市最強の超能力者に挑んでまで文字どおりの命がけで止めてくれた。「妹達」を救ってくれた。そして『ボロボロになっても誰かのために戦い、守ろうとする』彼の行動。そんな彼に美琴は心惹かれていった。そして日に日に彼に対する想いは強まり、美琴は彼の力になれないことを悔やんでいた。そして今、ドラえもんたちが多勢に無勢な戦いを挑もうとしている。自分よりも年下の子供たちが、自分が解決してきた出来事より遥かに危険な事を自分たちだけで解決しようとしている。


――放っておける訳がなかった―





「悪いけど、その戦い…私も参加させてもらうわ」

「え……ええええええっ!?」


美琴の一言にドラえもんは思わず腰を抜かしながら驚く。目の前の中学生ほどの女の子が共に兵団に戦いを挑むのを宣言したのに目を白黒させる。そんなドラえもんとのび太を尻目に論より証拠という訳で、美琴はたまたま公園の前を通りかかった、警察官に追跡されている泥棒の前に立塞がった。


「待ちなさい!!」

美琴はそれだけ言って憮然と構える。泥棒は歯牙にもかけず、突破しようと出刃包丁を構えて突撃してくる。

「ええと……何かないか、何かないか……」

「慌てると駄目な奴だなあ」


ドラえもんは慌てて道具を出そうとするが、まるで関係の無いものを出す始末であった。(日常用品や食品など)のび太にまでため息をついて呆れられてしまう。



―その時だった。不意に美琴が腕を伸ばし何かを撃ち出す態勢に入る。彼女の身体にはまるで雷神の如く、紫電の輝きが迸り、まるで電気をその身で操っているようにドラえもんには思えた。


「ドラえもん……あれって…?」

「僕にもわからない」

「美夜子さんみたいな魔法……?」

「…… いや、その類じゃない。魔法を使うにはなにかかしらの呪文が必要なはず……。だけどあの人にはそれがない……」


ドラえもんは美琴が扱う能力がなんであるか分からなかった。ただ、かつて満月美夜子がいた魔法の世界で目撃した魔法とも違う。それだけは理解出来た。息を呑んで見守るしか無かった。(ドラえもんの生まれた時代には学園都市は存在するもの、2125年当時には最盛期の力は無いので、ドラえもんが知らないのも無理ない事である)


「な、なんだ!?」

泥棒も少女が何をしようとしているか最初は理解できなかった。だが、美琴の腕に迸る紫電の光がなんであるか理解した。その力の意味を。


―たしか大昔、学園都市にいたレベル5の能力者にこんなのがいた!!「常盤台の超電磁砲」……!まさかこの時代にも同じ能力を持った人間がいるなん……―




そこまでで彼の思考は途切れた。次の瞬間には「バシュ」という音と共に、文字どおり音速の4倍の速度で打ち出されたコインがフェイスガードに覆われた彼の額にヒットしていたからだ。




「今のは……?」



ドラえもんはこの光景に唖然とする。見ると、美琴の身体には凄まじい電流が走っている。これが美琴の持つ超能力―電気を操る能力(電撃使い)―であった。



「これが私の能力“電撃使い”よ」


美琴は不敵な笑みで答えた。これが彼女が学園都市で努力を積み重ねて(正確には素養を開花させた末の結果であるが)手に入れた力だった。ドラえもんとのび太は彼女の力にただ圧巻の一言。これが美琴を学園都市第3位の`レベル5`の超能力者たらしめる所以であった。




さて、美琴の能力を目の当たりにしたドラえもんとのび太はしばし言葉を失った。
彼女の見せた力は“魔法”を目にした事のあるドラえもんとのび太をして、しばし言葉を無くすほどの光景だった。しばらくしてドラえもんが口を開いた。



「美琴さん……今のは……」

「私はある一種の超能力を持ってるのよ。後天的に身につけたけど。それで発現したのが電気系統の能力。今のはそれを応用したってわけ。レールガンって知ってるでしょ?アレよ」


美琴は自身の能力について多少の説明をする。ドラえもんは「この人は頼りになりそうだ」と安堵し、改めて美琴と握手する。


「これからよろしく」
「こっちもね」


突然の事態にも毅然と振舞う美琴に心強さを感じずにはいられないドラえもんであるが、美琴の元いた時代の事を聞いていない事に気づいた。思い切って聞いてみる。

「美琴さんって元々はいつの時代にいたんですか?」

「うぅん……西暦で言うと2010年代以降。平成で言うと20年を超えてるあたりだけど?」

「僕たちが来た時代とは10年くらい離れてますね。」
「どういう事?」

ふとした疑問を口にする美琴にドラえもんはハッキリと告げた。のび太は美琴よりも年上だと。

「僕たちは1999年……平成で言えば10年か11年位から来たんです」

「へ、平成11ねんん!?それってまだプレ◯テ2も出てない頃だよね」
「え?あれって2が出るんですか?」

ここで世代の相違が出た。のび太達はバブル経済期の最盛期に生まれ、1990年代後半(1995年以降)に10代を迎えた世代、美琴の時代では20代の青年に成長しているであろう世代である。2000年代末に10代に到達したであろう美琴とは少なくとも数世代くらいの開きが存在する。たとえばTVゲームにしても、美琴は国内の某大手メーカーのTVゲーム機の第3世代機が出回っているのを知っているが、のび太達はその前の世代が登場するか?というのに心踊らせていた。住んでいる時代が10年違うだけでもこんなにも違うのかとドラえもんは関心していた。



「へえ、あれって2が出るんだ〜」


ただ、浮かれているのび太を除いてだが。そんな純粋さを持つ彼らを美琴は微笑ましい気持ちになる。



「とりあえず今日はキャンピングカプセルで寝泊まりします。僕とのびた君はみんなと別行動を取ったんで」



そういうとドラえもんは公園の一角にこう言った冒険の際にはおなじみとなった道具を地面に突き刺し、道具を稼働させる。横の立て看板には『キャンピングカプセルの設営はマナーを守って』と書かれている。こういうところで未来の面白さというのが出る。ドラえもんに促されてカプセルに入るとちょっとしたアパートのような広さであった。


「うっそ……これがあのカプセルの中……?」



寝具とトイレ、シャワー完備なんて、下手なぼろアパートより断然整っているではないか、と目をキラキラと輝かす美琴。


「風呂がついてないけど、夜露は凌げます。食事はこれで。」


そういうとドラえもんは伝家の宝刀の一つ「グルメテーブルかけ」をポケットから取り出す。ドラえもんが持つ、「全国の大飯ぐらい」の夢を実現させた、なんでも料理が出てくる道具。今回は野戦を想定したのか、持ち合わせていたらしい。


「それじゃ僕はお子様ランチ」

「僕はどら焼きとラーメンにするか。美琴さんは何にします?」

「え、私?それじゃハンバーグステーキに……」


3人が言い終えると同時に、いかにも食欲をそそられる匂いとともに料理が出てくる。しかもご丁寧にハシやフォーク、ナイフ付きだ。
最初に動いたのは美琴である。ゴクリと唾を飲んで、恐る恐るハンバーグにナイフを入れる。肉汁があふれ出し、焼き具合も良さそうだ。


「……な、何これ!うまいじゃないぃぃぃ〜!」


イレギュラー的な出来事に遭遇したために食事にありつけなかった彼女にとって、この瞬間はまさに至福そのものであった。しかもその出来栄えは彼女の経験からいっても高いレベルであるために幸せそのもの、といった様子だ。この時、美琴は改めて、心から「ドラえもんに会えてよかった」と至福の時を過ごしていた。





――余談 201X年 学園都市


「お姉さまぁぁぁっ!!いったいどこに行かれたんですのぉぉぉぉ〜!!」
「お、落ち着いて下さい白井さん!」

「初春ぅぅぅ!!お姉さまは、お姉さまはどこに消えたんですのぉぉぉぉ!!」

黒子は初春の首根っこをつかんで振りまくる。涙目で行っているので相当に動揺しているのが容易に見て取れる。しかも携帯やGPSなどあらゆる探知手段を用いても、学園都市は愚か、外の世界のどこにも反応が無いのである。黒子の動揺ぶりも無理からぬ事だ。こうして連日、涙目で美琴の行方を探す「相方」にして、後輩の白井黒子がそこらかしらで目撃され、さらには彼―「上条当麻」にまで、その理由を問い詰めたとか。この黒子のなりふりかまわない行動は学園都市の間でちょっとした話題になり、友人達に慰めてもらったとか。

「うぅ……お姉さま……黒子は……黒子は……。」

美琴がいなくなってからと言うもの、夜な夜な黒子のすすり泣く声が常盤台中学女子寮の一室から響き渡り、常盤台中学の生徒のうわさ話にまで発展してしまったとか。










――フェイト達に加勢した地球連邦宇宙軍。彼らは高性能のMSで馳せ参じたわけである。
古参の猛者に操られる旧・ジオン軍の旧式MSに思わぬ苦戦を強いられたもの、フェイトとヴィータの奮戦に救われた局面もあり、五部五分に持ち込んでいた。
18m以上の巨体が唸りを上げ、ぶつかり合う。
―これまでに見たことの無い光景に2人は圧倒されていた。地球滞在時に目にしたSFアニメをそっくりそのまま再現したように、巨人の様な兵器が互いの死力を尽くして、戦いを繰り広げる。


「凄い……これがこの世界の戦い…!」
―― そう。これがこの世界においてたどり着いた「戦争の形」。戦車などを裏方に追いやった、新世代の万能兵器「モビルスーツ」。スケールの違いこそあれ、次元世界の魔道士同士の戦と似通っている。科学・魔法の違いあれ、やはり最後は「人」の戦いに回帰していくものなのだろう。フェイトとヴィータに指示を与えているのは白とオレンジのツートンカラーで塗装され、ユニコーンとAがモチーフのエンブレムを持つ隊長機。指揮下の部隊とフェイト達に的確な指示を与え、敵を沈黙させていく。余程の腕利きらしく、フェイトから見ても卓越していると分かる空戦戦術を見せている。



フェイトは『彼』の指示に従い、残った一機である敵隊長機―ドム・フェンフの行動を停止にかかった。18mの巨体でありながらも、MSは超科学の賜物か、フェイトの複雑な空戦機動に対応してみせるが、人という小さな目標に攻撃を当てるのはMSの照準能力では困難を極める。


「チィ……チョコマカと!!」

隊長は思わず舌打ちをするが、懐に飛び込んだフェイトはそのスピードを持ってして、一気にドムの腕を袈裟懸けに切り落とす。
次いで、フェイトが作ったチャンスを逃すまいと、追い打ちにZプラスがビームスマートガンを放つ。脚部を打ち抜かれたドム・フェンフは行動不能に陥り、やむなく降伏勧告に応じた。




この時、残党軍の小隊長は無線から聞こえてくる、自分らの事について協議している若い声に「時代は変ったものだ」と自嘲的にため息をついていた。
この時期、連邦軍は深刻な人手不足に陥っていた。幾度となく起る戦乱により若手パイロットや兵士の多くが戦死。急遽、退役していたり、予備役になっていた一年戦争やグリプスの経験者を教官や隊長クラスに添えるなどの措置が取られていたが、限界があった。
一年戦争経験者は当時の少年兵ですら20代後半に差し掛かる。実戦経験があり、なおかつ、そこそこ若いとなるとさらに人数は限られる。
そこで一部の上層部によって閉職に追いやられていた元エゥーゴ出身の将兵の待遇改善や、

タブー視されていた旧・ティターンズ所属兵の正規軍への復帰(思想的に問題なしとされた場合のみだが)も一部認められるようになった。それでも復帰する人数より若手が負傷・退役する人数が上回るのだからたまったものではない。あとは生き残ってきた若手が実戦に適応し、中堅どころに成長するのを待つしかないだろう。



余談はここまでにして、残党軍を沈黙させた連邦宇宙軍とフェイト達はひとまず互いに状況を説明しあうべく、話し合いの場を設けた。宇宙軍側は部隊を代表して、隊長機のパイロット―アムロ・レイがフェイトとの話し合いに応じた。



機体から降り立った長身の若い男―アムロ・レイはメットを脱いで素顔を見せる。
フェイトの彼に対する第一印象は「ずいぶん人当たりのよい優しそうな男性」と表現すればいいのだろうか。フェイトは密かに「良い人そうでよかったぁ〜」と胸を撫で下ろしていた。




「やあ。さっきは助けてくれてありがとう。僕は“アムロ・レイ”。地球連邦軍の大尉だ。よろしく」


その人のよさそうな男性「アムロ・レイ」はニコッと笑って握手を求めてきた。

「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。」


フェイトも差し出された手を握り返す。ここでフェイトは不思議な感覚を覚えた。温かくて大きい何かに包まれたような……不思議な安心感が広がっていくのを感じを受けた。


――何となくだけど、『この人は信じられる』。そんな気がするような……。

「早速だが、君たちが見せたあの不思議な力について教えてくれるかい?」

「はい。あれは「魔法」です」
「魔法?」

アムロはフェイトから彼女らが使った力について説明される。聞いているうちに彼は「彼女らが使う「魔法」は純粋な魔法というよりは科学の応用といった方が正しいかもしれない」と考えた。それは何故か?実のところ、この世界では人為的に超能力者を作ることも可能であり、現に日本には「学園都市」というとんでもない地域が存在している。さらに彼には所属部隊の任務の性質上の都合ゆえに、各地域に点在する「魔術」を用いる宗教組織との接触の経験があった。その経験を踏まえると、フェイト達の「魔法」はどちらかと言えば、科学サイドに分類されるのだろう。


「ううむ……別の次元で確立された『科学に近い魔法』……か。」

「…… どういう事ですか?」

「ややこしいんだが、コッチ側には魔法がある。僕も詳しくは知らないんだが……」

アムロはフェイトに自身の知る範囲内でだが、この世界の魔術についての説明を行う。
地球にはいくつかの宗教があるが、その内の最大勢力を誇る“十字教”が主役に近いこと、水面下で幾度かの分派同士の抗争が起っている事、魔術が行使される光景を一度だけ目にした自分の印象としては、おそらくフェイトの知る魔法とは趣を異にするだろうとも付け加えた。フェイトは管理外世界とされていたはずのこの世界に「魔法」が存在することに驚きを隠せない。そんな彼女にアムロは何故、ここにいたのか、ここにいる目的を問う。
フェイトは「友達を探しているんです」といい、一枚の写真を見せる。それは彼女が組織の同年代の同僚と一緒に写っている写真であった。フェイトの隣に写っている茶髪の小女。おそらくこの子がフェイトの「友達」であろうか。

「…… この子が?」

「はい。任務でこの世界に来ていて……その途中で連絡が……」

「……よし。僕たちと一緒に来るかい?この世界は戦争の真っ只中で、単独で動くのは危険だ。僕たちでよければ君の力になる」


アムロは闘争に満ち溢れている、この世界の危険性から、フェイトに自分たちと共に行動するように提案した。軍や警察のネットワークや情報網を駆使すれば、フェイトの友達を探すのもグンと楽になるだろう。差し出がましいとは思うが、彼生来の優しさからかそう言わずにはいられなかった。


「あ、ありがとうございます!」


フェイトはアムロの提案を飲んだ。彼女もこの世界の危険性は先の戦闘で理解していたし、なによりも見知らずの自分たちにいきなりこう提案してくれたという安心感がアムロからの提案を受け入れる最大の要因であった。そんな彼女の横ではヴィータが部隊の隊員たちに「よっ!ハンマーっ子!」などとからかわれていたりする。一応彼女もアムロへの自己紹介を済ませた。(周りの軍人たちに遊ばれながらだが)




「アレにのってくれ。狭いがちょっとの辛抱だから我慢してくれ」

フェイト達を連れて行くに当たって、アムロが送迎役として指さしたのは複座型の戦闘機のコスモタイガーUだった。MSは基本的に1人乗りなので、フェイト達を乗せるには狭すぎる。そこで白羽の矢がたったのが飛来した本機であった。アムロは基地に無線で送迎役を出来る機体が無いか問い合わせた。すると「連絡機は出払っているが、戦闘機なら出せる」との事で、複座型の機体を2機送ってきたわけである。パイロットに「加速が凄いから防護服を着たままの方がいい」と言われ、念のためにBJは解除せずにそのままで乗り込む。『加速がものすごい』と言うのはこの戦闘機が恒星間航行可能な艦船の艦載機として開発されているからであり、その瞬発力は旧来のジェット戦闘機―分かりやすく例えると20世紀頃の合衆国で使われていた「F-15Cイーグル」等では比較対象にもなり得ないほどだ。
2機に一人づつ(もちろん後部座席)乗り込むと、パイロットはすぐさまエンジンに火を入れ、飛び立った。目的地は極東支部の駐屯地の一つとなっている厚木基地。この機なら4分もあればたどり着けるだろう。Zプラスが護衛につき、一行は神奈川県に向かった。






 

コスモタイガーから降り立ったフェイト達は「如何にも軍の基地です」と言う雰囲気に自然と緊張感を感じていた。兵士に伴われて基地のある一室に案内され、事情聴取を受けることになった。


地球連邦政府及び、連邦軍は過去に「イスカンダル」や「ガミラス」、「ゼントラーディ」、「メルトランディ」、「白色彗星帝国」など数多の宇宙文明と接してきた経験からか、異世界の住民である彼女らに対する疑念や敵愾心などは無く、すんなりと受け入れられた。軍の将校はフェイトに友人の消息(なのはの事)を伝えた。軍病院で保護されている身元不明の少女がそうではないかと言うことだ。しかしその少女は現在集中治療室にいて、とても確認の取れる状態では無いとも付け加え、その少女の容態が安定次第、情報をフェイトに伝えると確約した。








 都合、一時間に及ぶ事情聴取を終えた2人はホッとした気持ちを浮かべるも、基地の司令官に「民間人が戦闘行為を行った場合、戦後に罪に問われる場合もあるので、“有志の協力者”と言う風にしておくから、軍の船に乗ってもらう事もあるかも知れない」と告げられた。



「ややこしい事になったな……。でもよ、なんでアタシ達が向こうの都合に合わせないといけねえんだよ」

ヴィータは異世界側の組織にいいように使われるのではないかと危惧するが、フェイトは、

「向こうには向こうの都合があるだろうし、こちらの世界では通用しない管理局の法を振りかざすわけにも行かない」と執務官らしい、落ち着いた態度で彼女をなだめた。極東支部に行くまでには書類が受理される都合上、2日間を要するので臨時の2人用共同部屋が与えられ、生活を送ることになった。フェイトは部屋の窓から見える3段変形を敢行する可変戦闘機やモビルスーツが闊歩する光景にただただ、驚愕のため息を漏らすばかりだった。






 余談だが、この時期の連邦宇宙軍と空軍はオーバーテクノロジーで生み出された可変戦闘機と従来機を並行で運用しているが、軍の予算上の都合で可変戦闘機の大量調達が困難になり、政府に完全な置換えが不可能と判断された。さらに軍が運用していた従来機種が前大戦でほとんど失われ、現場が新型機を欲した等の理由により従来型戦闘機の新規開発が再開されたのである。その成果が大戦中期から急速に量産され始めた「コスモタイガーU」であり、旧式化した「ブラックタイガー」や「TINコッド」、「ジェット・コアブースター」などからの代替機として急ピッチで量産されている。かの「宇宙戦艦ヤマト」に初期生産機がなし崩しに配備されたのを皮切りに空母機動部隊を中心に配備されている。訓練飛行中のコスモタイガーが作る飛行機雲にフェイトは改めてかけがえのない友と再び空を駆けたいという思いを浮かべ、空への思いを新たにしていた。







――厚木基地内格納庫



フェイトとは別行動で基地の見学をしていたヴィータは「男たちの戦場」と言うべき格納庫に足を踏み入れていた。ロボットやら戦闘機が多数並んで整備を受けているのはある意味でここがSFのような技術を実現させた未来である事を暗示させる。ロボット用の銃火器も多数並べられ、「何がなにやら分からないけど、とにかく凄いぞこりゃ」と言った雰囲気をただ寄せている。

「ありゃ?よく見たらZガンダムじゃねえか。色がちょっと違うけど……」

格納庫で整備を受けている白と紫のスタイリッシュな機体――Zガンダム――に思わず目を奪われる。まさかアニメの中のロボットの動く実物を見られるとは、とため息をつく。
彼女のいた地球でもロボットアニメは無論、存在した。ヴィータはあまりそういう類は見ていないのだが、ちょうど主の「八神はやて」がハマっているアニメが「機動戦士ガンダム」とその一連のシリーズであったために続編シリーズの主役機の一つとして描かれていたZガンダムの事を覚えていた。それとまったく同一の姿をしたものを見られたのは不思議な感覚だった。それに先ほど戦った機種も良く考えてみれば見覚えあるものばかりだっったと思い返してみる。と、なると…あのゴーグルの機体はもしかして―


「うん?なんだいお嬢ちゃんは」




ヴィータの姿を見かけた一人の整備兵が声をかけた。年のころは30の半ば程度であろうか。
おおよそこの場には不相応な管理局の制服姿のヴィータに気づかないわけはなく、たまたま手が空いていた彼が声をかけた訳である。
「基地を見学してたんだけど、このロボットってもしかして「モビルスーツ」なのか?」

「ああ。中でもこいつは特別製さ」

20m前後の巨体を持つ白と紫のカラーリングのZガンダム。その肩にはアムロが乗っていた機体と同じパーソナルエンブレムが描かれている。そうするとそれは俗に言う所の
彼専用のZガンダムなのだろうか。(あの人……たしかはやてに無理矢理読ませられた小説だとZガンダムを欲しがってたよな……。ここだと本当に乗ってたんだ)

「モビルスーツやバルキリーがある世界……か。まさか、マジンガーZとかはないよな」
「あるよ。Zはもう破壊されちまったけど、グレートマジンガーなら動いてるよ」

「何ぃ!?」

ヴィータはまさかそれまではないだろうとタカを括ったのが、本当にあると答えられて唖然とした。視線を移すと格納庫の一番奥の天上が高い区間にグレートマジンガーと3機の戦闘機(デザインが奇抜だ)が整備を受けていたのだから。昔のロボットアニメで描かれた、とんでもないエネルギーで動き、一騎当千の力を持つスーパーロボットまでも実在するとなればこの世界はいったいどういう技術を誇るのか。それほどに技術を発展させておきながら、魔法もまた存在するとは……。



「何がなにやらどうなってやがるんだぁっ〜!?」

次から次に起る出来事についていけなくなりつつあるのか、頭を抱えながら叫んだ。そんな彼女の叫びは格納庫に虚しく木霊した。整備員はヴィータの肩をたたきながら「もう諦めろ」と言わんばかりに「やれやれ」とため息をついていた。

フェイトも別コースで基地を見学していて一人の女性と出会った。その女性とは、神裂火織。この世界における魔術師であり、神の力の一端を使える聖人と呼ばれる特別な人間。彼女は美琴のように偶発的なタイムスリップではなく、政府の施策に基づいて、この時代に連れてこられた`過去の人間`である。この時代ともなると、タイムマシンの軍事的利用も進んでおり、歴史に影響を与えない範囲内でなら過去の人間に協力を依頼する事も良しとされていた。この施策は余程の事態で無ければ実行されないが、人材不足の極地に陥ってしまっていた連邦軍の嘆願により、幾度かに分けて実行に移される運びとなったのである。その最初の目玉として白羽の矢が立てられたのが、21世紀ごろの天草式十字凄教の女教皇であった彼女だった。聖人を連れてくるのには通常の手段では無理なので、かつての米軍の最精鋭特殊部隊「Navy SEALs」や「グリーンベレー」の末裔たる特殊部隊群を動員、殆どスパイ映画並のほとんど拉致に近い方法で連れてきた。彼女への事情説明及び、説得は政府最高級の高官などが担当。これらの懇願に近い、努力の結果、しぶしぶであるが、協力への了承を取り付けたのである。



彼女はタイムスリップした都合上、この時代で行動するための書類の手続きのために厚木基地を訪れていたのだが、そこでフェイトと出会うこととなった。

「あの……すいません。あなたは?」


フェイトの問いにその女性は「神裂火織」という名の日本人であると答え、自己紹介した。長い髪をポニーテールに括り、片方の裾を根元までぶった切ったジーンズが特徴的で、さらに腰のウエスタンベルトには礼刀「七天七刀」を携えるという凄くぶっ飛んだ服装の女性にフェイトは何かを感じたのか、色々と尋ねてみた。話していくうちにフェイトは自分が魔道士であると告げた。すると彼女も「私はイギリス清教所属の魔術師です」と答えた。この瞬間こそがフェイトと地球の魔術を繋ぎとめた瞬間であると同時に、彼女の運命を大きく変える事になる出会いであった。アムロの言っていたこの世界における魔法とは、いったいどういうものなのか?
そして基地の兵士たちの勧めもあって、基地内にあるトレーニングルームに赴いた。(この時代の軍隊は部署によっては無重力で働く人間も多い。そのため筋力維持のための各種スポーツやエクササイズなどの設備が下手な施設よりも充実している)こんなひょんなことから魔術師対魔道士の`似て非なるものの`対決`が開始された。一方はミッドチルダ出身の若き空戦魔道士。一方はイギリス清教所属の魔術師であり、天草十字凄教の女教皇である極東の`聖人`。2つの異なる魔法を使う人間はトレーニングルームで対峙した。はたして空戦のエース対`聖人`の勝負の行方や如何に……。




「あなたの力がどの程度か……確かめてもらいます」

神裂は背中に指していた、優に2m以上はあろうという太刀が入っている鞘を持つ。フェイトの力に興味を持ったのか、はたまたこの少女の持つ可能性に気付いたのかは定かでないが、その顔にははっきりと笑みが浮かんでいた。フェイトも自分の持つデバイスのザンバーモードよりも大きい刀を片手で軽々と持つ神裂の姿に「侮ってたら……やられる!」と真剣な表情で武器を構える。



日本刀を持つ敵と対峙するのは初めてだが、細身でありながらも最高級の切れ味を誇るという威力に畏怖を感じずにはいられなかった。


「おお、見ろよ。サムライガールとツインテールのパツ金の女の子の対決だぜ!!」

トレーニングルームにいた兵士たちも固唾をのんで、美女たちの戦いを見守ろうと視線を向ける。


『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』
              
               
フェイト・テスタロッサ・ハラオウン、神裂火織。両者の剣と刀がぶつかり合い、火花が散る。――「魔術師と魔道士」――正に世紀の対決の幕が開いた瞬間であった。





『はあああああああっ!!』



戦の先手はフェイトが取った。バルディッシュを構えて一気に先手をとるべく、大上段から魔力の刃を持つ鎌を振り下ろした。しかしその刃は相手の持つ日本刀の`鞘`の表層を抉る形で受け止められていた。そして次の瞬間。刀を抜くような動作と共に`7つの斬撃`が彼女を襲った。装甲服にあたる機能を持つBJに容易く傷を入れていく凄まじい衝撃。しかし神裂は刀で斬るどころか、刀を鞘から抜いてもいなかった。どういうことかと焦るフェイトを尻目に、神裂は表情を変えずに平静を保っていた。その瞬間、その意味をようやく悟ったフェイトは刀からワイヤーが張られている事に気づいた。これが神裂火織の得意とする攻撃の一つ「七閃」である。


「そんな……刀を抜いてもいない…!?そんな鋼線くらいで…!?

「ええ。ですがこれを潜り抜けたところで、私には切り札があります。何よりも私はまだ`魔法名`を名乗ってもいません。」

「魔法名……?」

「私たちには魔術を使うときに`真名を名乗ってはいけない`と言う因習があります。それを名乗った場合−貴方の命は保障できかねます」


そう。彼女の最高の一撃を食らえばフェイトはただではすまないダメージを食らうだろう
。それは誇張でも何でもない。彼女、神裂火織は21世紀の時点で世界に20人しかいないとされた、『聖人』なのだから。フェイトとて管理局の中でもエースとされる俊英だが、年齢・体格の差などを差し引いて考えても向こう側が有利なのは今の一撃で悟った。

――今の自分では彼女に及ばないかもしれない。だけどここで引き下がってどうする……!!私は、私はなのはを……!





その思いがフェイトを突き動かした。バルディッシュをザンバーモードに変形させて一太刀でも浴びせるべく、自身の最速の「ソニックフォーム」で一気に突進した。神裂も刀を抜いて最高の一撃を放つ体制に入った。そして自身の魔法名を名乗った。



「……貴方のその想いに答えましょう。私の魔法名はSalvare000(救われぬ者に救いの手を)」



2人の一撃……`ジェットザンバーと唯閃が真っ向から激突し、凄まじい衝撃波と轟音を周囲に撒き散らす。魔導対魔術。似て非なるものの戦いはますます白熱を極め、この日のトレーニングルームは、まるで古代ローマの「コロッセウム」さながらにギャラリーで溢れかえっていた。そして軍の公報にもその戦いについての記事が載ったとか。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.