――未来の日本に滞在している一人の少女と言うべきだろうか―?

長い髪をポニーテールに括り、片方の裾を根元までぶった切っている改造ジーンズ、腰のウエスタンベルトには七天七刀を携える、特徴的な服装の「神裂火織」。
その大人びた外見から、元の世界で関わった「幻想殺し」を持つ少年−上条当麻曰く、「結婚適齢期を過ぎているようにしか見えない」と称されているが、
実はまだピチピチの18歳である彼女は未来の地球の混沌とした状況に呆れさえ感じていた。
度重なる戦争によって疲弊する経済や人々、そして人間が宇宙に進出してもなお存在する対立……。

それでも彼女は戦いに身を投じていた。`この未来を少しでもいい方向に持っていくために`

「昭和30年代くらいの未来予想図では22世紀などは「明るく幸福な未来が待ってる」と言われていたと聞いていましたが……随分と闘争に満ち溢れてしまったものですね」
「だが……、これが現実というものだ。人間は`戦いを捨てられない生物`とはよく言ったものだ」

神裂はホテルの一室で彼女に仕事の依頼をしてきた地球連邦のとある高官と雑談をしていた。高官が持ち込んだ仕事の依頼は以下の内容で、「王立国教騎士団への援軍として
大英帝国に向かって欲しい」との事。王立国教騎士団という、聞きなれない単語に首をかしげた彼女であったが、高官からその組織についての説明がなされた。

王立国教騎士団とは「元は大英帝国とイギリス清教を半十字教の化物から守るために組織されたもので、連邦政府が出来た現在でもその役目は変わっていない」との事。
噂だけは聞いたことはあるが、まさか本当だったとは。

「ヴァチカンも動いている。道中、くれぐれも気をつけてくれ」
「ローマ正教の事ですか?」
「いや……ローマ正教というよりはヴァチカン直属と言うべきか。ヴァチカンが第〜課と持っているのを知っているね?君の障害になり得る存在だ」
「どういう事です?ヴァチカンは直接的な戦力を……」
「`イスカリオテのユダ`……といえば分かるかね?存在しないとされる13番目の課、文字通りにヴァチカンの持つ唯一にして、最大の戦力」

神裂はここで初めてヴァチカンの極秘事項とも言える事実を知った。ヴァチカンが唯一保有する戦力「法王庁特務局第13課」―通称「イスカリオテ」―。
旧教(カトリック)の地上における神罰代行者。悪魔、化物、異教、異端の殲滅(絶滅か?)を目的とし、狂信者どもの巣窟でもある。
「奴等の中でも要注意なのがこの男―「アレクサンド・アンデルセン」。
その名と「首切り判事」などの数多くの異名以外の出自の全てが不明だが、
その力は一説には`聖人`すら超えるやも知れぬとされるが、驚いたことに、まったく普通の人間なのだ。……正にヴァチカンの切り札だ」

彼は神裂にヴァチカンの最強戦力―いやもしかすると、全人類の中でも強さは5本の指に入るかも知れない、眼鏡をかけた壮年の男の写真を手渡した。一見して、普通の温和な神父にも見えるが、その実態はカトリックの狂信者で、「下手な聖人より強いんじゃね?」と恐れられるほどの力を持つ男。洗礼処理がなされた銃剣を主な武器とする他は不明。
史実でも王立国教騎士団の対化物の切り札、最強の吸血鬼「アーカード」に「宿敵」と言わしめた唯一の人物。
連邦政府の高官も恐れる「イスカリオテのユダ」の名を持つ「第13課」。
神裂はヴァチカンの得体のしれない力に、一抹の不安を覚えつつも、依頼を遂行(その前にこの時代の十字教の協会で七天七刀は改めて対化物用の洗礼処理を受けており、
それが手元に戻るのを待った)するために政府がチャータした航空機に乗って、欧州に飛んだ。
待ち受けているのが、とんでも無い`異端殲滅`のバケモノと最強の`吸血鬼`の闘争だとはこの時の彼女には知る由もなかった。聖人の資質を持つとは言え、まだ10代の若者に過ぎない彼女には辛く、そしてその手をアンデットの血で汚す事になる戦いの握り拳が振り下ろされようとしていた……。
そして英国では様々な人間の思惑が交差する事となるが、それはまた別の話。













―東京では、なのはのレイジングハート・エクセリオンの修理・改修(……と、いうよりは魔改造)が行われていた。
技術については、管理局所属艦から摂取した物と既存のOTM(オーバーテクノロジーの事)を組み合わせる事で対処したので、作業は予想よりはスムーズだった。ブラックボックスである制御用Aiなどの重要部分に変更は無いが、外装とフレームはバルキリーなどと同じエネルギー変換装甲に、魔力伝達系統にはなんとガンダニュウム合金が使用されると言う贅沢ぶりである(いわばミッドチルダと地球の技術のキメラ的存在である)。
これは地球にミッドチルダの固有技術に近い「デバイス」を完全に修復できる技術が無かったのと管理局もそこそこの設備を提供した代わりに、完全には技術を渡さなかったための緊急的な措置である。一刻も早い実戦への復帰を望んだなのはの願いを叶えるべく、工廠の技術者達が奮闘したおかげで出来上がったのである。その詳細は以下の通りである。

「ガンダリウムはだめか」
「α、β、γの三種を試してみたが、微弱にしか反応は無い」
「超合金と合成鋼Gもだめだ」
実験は試行錯誤の連続であった。時空管理局の魔導士の協力のもとで行われ、
魔力伝達を感知できた装甲材を用いてみたが、どれも微弱には伝達できるが、とても実戦使用に耐えられるような数値では無かった。そこで試しに可変戦闘機のエネルギー変換装甲を外装とフレームに使ってみた。―すると。
「…成功だ!魔力をエネルギーに変換できているぞ!」
「落ち着け、装甲の強度はどうだ」
「使用者の魔力にもよりますが…大まかガンダリウムγ相当です!やりました」

この瞬間、一つの課題がクリアされた。しかし、研究に回した伝達系統の部品を地球製の物で補うというのが最後の関門として残されていた。その打開策として選ばれたのが、
過去に確認された軍所属以外のガンダムに採用されていたガンダニュウム合金であった。
この合金は採用した機体のエネルギーの変換効率を高める特性があったために今回の実験でも注目されたのである。実験で魔力の伝達が確認されると、早速、サンプルが管理局の技術で最適な加工が施され、レイジングハートの重要個所に組み込まれた。その後、3日ほどの実用試験の後になのはに手渡された。 他には戦闘力の強化に主眼が置かれた改造が施されたが、元々の内部パーツの一部は研究用に回されたためにどうしても一部が足りなかった。そこで航行艦に保管されていた「バルディッシュ・アサルト」用の予備フレームの一部が流用された。(搭載されていた理由は不明だが、おそらくフェイトのための補給物資だったのだろう)その効果と、改装に関わった、時空管理局員のアイディアで接近戦モードが追加されることになった。「ソードフォーム」と「ハルバードフォーム」である。(修理の責任者が旧スイスの出身で、彼曰く「この形は絶対ハルバードに変形する!何故あれの美しさがわからんのだぁ!?」との事。ソードについては、ハルバードが使用に適しない時の保険的意味合い。ちなみにエネルギー変換効率が高まったためか、総合的攻撃力は向上した。なのははそれを聞いてビックリ仰天。フェイトとヴィータも唖然としたとか。特にフェイトはバルディッシュの予備パーツの一部がレイジングハートに組み込まれたと聞かされた時には目が点になったとか。

「……その副産物がそれ?」

フェイトの問いに桜色の刀剣の形態を見せるレイジングハートを持ちながらなのははうなづいた。当人は修理の副産物として造られてしまったこの形態に困り果てている。

「どうしようフェイトちゃん〜〜!!私、剣なんて使えないよぉ〜!!そりゃ家に道場があって、お兄ちゃんもお姉ちゃんも剣術やってるけど……」

なのはは実家に伝わる剣術の手ほどきは受けていないし、剣術を継ぐのは兄の役目で、自身は両親が営む喫茶店を継ぐつもりだった。いくら2年ほど管理局で訓練を受けたといっても接近戦は苦手としているのにこの事態となっては……。


「今からでも遅くはねぇ。。モノにしなけりゃ宝の持ち腐れだぞ」
「竜馬さん」

いつの間にかゲッタードラゴンのメインパイロット「流竜馬」がいた。どうやら困り果てた声を聞いて、居ても立ってもいられなかったようだ。
こういう時の面倒見はいいらしい。

「2人ともトレーニングルームに行こうぜ。まずはそれからだ」

竜馬はなのはを引き連れて艦内のトレーニングルームに赴く。彼に言わせれば`戦いに武器が何であるかは関係ない`そうだ。彼はなのは達にどのようなトレーニングを課したのか。


―フェイトはロンド・ベルと行動を共にするようになってから、つぶさにこの世界を見てきた。

統一政府でありながらも、内部は決して一枚板ではない「地球連邦政府」、技術的に恒星間航行可能な技術体系を持ち、文字通りの「侵略者」と戦い、勝利をもたらすほどに強力な軍備を持つ「地球連邦軍」。
そして人類同士の戦いの中で示された「人類の持つ可能性」……歴代のニュータイプ達が示した奇跡……。彼女は記録映像を通して、その奇跡を目の当たりにした。
`史上最強にして、悲劇のニュータイプ`と言われたカミーユ・ビダンが連邦軍同士の内乱「グリプス戦役」で見せた力。


『分かるまい、戦争を遊びにしているシロッコにはこの俺の体を通して出る力がッ!!』

Zガンダムが摩訶不思議なオーラを纏って敵を金縛りにして飛行機形態…「ウェイブライダー」に変形し、特攻する。魔力でもない摩訶不思議なオーラに包まれて。

『憎しみは憎しみを呼ぶだけだけだってっ、分れ!!』

またある時はジュドー・アーシタのZZガンダムがオーラを発しながらその特徴的なキャノン砲を放つ。

『たかが石ころ一つ、ガンダムで押出してやるっっ!!』

ニュータイプの気合で隕石を押し返したνガンダムとその操縦者のアムロ・レイ。これを目にしてしまうと`人間の可能性`を信じたくもなる。
代表的な例であるこの3つの事例だけでも己が目を疑ってしまうが、`奇跡を起こす`とは正にこのようなことを言うのではないか。

「……一見して不可能でも決して諦めない……か。なのはもあの時、同じ気持ちだったのかな……」

かつて自分も母のためと、無茶をしたが、なのははそれを遥かに凌ぐ無茶をやってのけた。
9歳の時の`闇の書事件`でなのはが取ったのは実力差が明らかな闇の書の意志(リィンフォースT)に突撃をかました(フェイトはその場に居合わせてはいなかったが、後に伝え聞いた)。

この世界で地球と交戦した星間国家は`地球人は時として不屈の闘志を見せる`と連邦宇宙軍を恐れたと言うのも頷ける。

―なのはは『元の世界』……ミッドチルダへの早期の帰還を諦めてたのか、この管理外世界の軍人の身分を手に入れてた。
驚いたけど……この世界を平和にしたいって言う気持ちは私にもわかる。それにここも`地球`には違いない。
私にとっても、第二の故郷の地球を救えるなら、なのはの笑顔を守るためなら……私はこの世界を守るよ……。



これが今のフェイトの心の支えであった。奇しくもこの決意は仮面ライダーZXこと、村雨良がバダンとの戦いで示した決意と似ていた。彼は残留思念になってまで自らを守ってくれた姉のため、そして今の自らを確立させてくれた`仲間`達のために世界を悪の手から守った。
彼女もまた`フェイト`としての自我を確立してくれた(彼女は元々、プレシア・テスタロッサという女性技術者が事故で失った愛娘のアリシアを黄泉返させろうと狂ったように研究した末に生み出した`試作品`のクローン人間。
なのはとの出会いが今の彼女を形作った)なのはを大事に思っていた。それが彼女の行動原理となっていた。

そして、彼女は立場上、正規の軍人になったなのはとは違って、`地球連邦軍の民間協力者`として行動していた。その過程でなのはから伝え聞いた、『なのはを一撃で撃墜した蒼い巨大ロボット』の事が気にかかっており、その調査を行っていた。
ロンド・ベルの面々も『3機合体のスーパーロボットというと、ゲッターロボの一種としか考えられない』という見解で一致しており、アムロ・レイや流竜馬と共にゲッターロボGを開発した「新早乙女研究所」を訪れることになった。

基地からはアムロの運転で基地所有の4人乗りのエレカ(電気自動車)で向かったが、その道中にフェイトはアムロにジオン残党の事を尋ねた。

「アムロ大尉、あの人達―ジオン軍の生き残り―はなんで戦争が終わって何年も経つのに戦いを止めないんですか?」
「それは彼等には彼等なりの`正義`や`理想`があるからだよ。この世界の統治機構―`地球連邦政府`は今は多少改革が進んだが、基本的に地球から宇宙を支配している。
それを嫌っているスペースノイドは星の数ほどもいる。過去、連邦政府はスペースノイドに対して何の政策も成さなかった。それへの不満が地球を聖地として保存する思想と結びつき、ジオンの台頭を許す土壌になった」

アムロはフェイトの問いに率直な回答を示した。それは彼女にとってまたしても`頭をガンと殴られた`ようなショックな一言だった。そして、更に追い打ちをかけられる。

「でも……だからってあんな事……コロニーを地球に落とすなんてッ…」
「……一年戦争の時の`ブリティッシュ作戦`か」

アムロはフェイトの憤慨の理由を悟った。一年戦争当時に行われたコロニー落としは広島型原爆「リトルボーイ」約300万発分のエネルギーを一気にオーストラリア大陸などに叩きつけた。
結果、オーストラリア最大の都市であったシドニーは消滅。大陸自体にも造山活動を引き起こし、超弩級のクレータを穿った。
記録では大陸の16%を消滅させ、23億人もの人々を地獄に追いやった。彼等のこの行為は決して許されざるものだ。



「彼等はスペースノイドの開放という大義を信じてたのさ。それがジオン軍の行動における理念。ギレン・ザビはコロニー落としを`神が放ったメキドの火`と例えたが、
彼等にとってあの戦争はスペースノイドの開放のための戦いだったのさ。ザビ家一党はともかくも、大多数のジオン軍人達にとってはね。」
「開放……?理想……?だからって地球の人たちを無作為に殺していいはずが無いですよッ…!国家の理想ってだけで罪の無い人たちを戦争に巻き込むなんて……!!」

フェイトは自身に抑えきれないほどの怒りが沸いて出てくるのを感じ、いつの間にか拳を握り締めていた。
`事件に巻き込まれた人たちを救いたい`その一心で管理局の執務官への道を志した彼女には『国家の大義や理想で個人を犠牲にする』事が許せなかったのだ。
しかし彼女の所属する時空管理局とて、下手をすれば一部では自らの大義を、管理世界の実情を無視して押し付けるような行為を行っているのである。組織は一枚岩とは限らない。
彼女は純粋であった故に、大きくなりすぎた組織の弊害をまだ知らなかった。しかし彼女は後にジオン残党軍の軍人やアムロの言った言葉の意味を理解する。
それには彼女にとっては少なくともあと4年以上の歳月を必要としていた。







―新早乙女研究所

「ここが新早乙女研究所ですか?なんかアニメの通りですね」
「ああ。それはよく言われるそうだ。歴代のゲッターロボはここで造られた。博士に聞けば何か分かるだろう」

研究所を一目見るなり率直な感想を言う。

中に入って管理局のIDを見せるとすぐさま所長室に招かれ、5分ほど待っていると、所長の早乙女博士がやって来た。

「お待たせしました。私が早乙女です」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」
「ブライト艦長から話は聞いています。ご友人を襲った謎の巨大ロボットの正体を調べているそうですね」
「はい。話を聞く限りでは3機の戦闘機が合体して一機の巨大ロボットになったそうですが…明らかにゲッターロボ特有の合体の掛け声を叫んでいたそうです」
「そのゲッターの合体の単語は……?」
「`號`です。ゲッター`號`……そう叫んでいたそうです」
「ゲッターロボ……《號》だって……!?」

早乙女博士はその號という単語に驚愕した。それは現時点で彼と神隼人しか知らないはずの単語であったからだ。

「…!!知っているんですか?」
「知っているも何も……ソイツはまだこの世には存在しえないはずの機体です。この事は私とゲッターチームの神隼人君以外は知らないハズですから」

早乙女博士はフェイトに事実を語った。ゲッターロボ號は技術者を志した隼人が思案した独自の設計で作られるゲッターロボとなるはずのプロトタイプ。
「まだ非武装の試作品が製造途中の段階のはず」だと。しかし現に完全武装され、しかも合体変形機構が組み込まれた機体がなのはを襲い、重傷を負わせた。
設計図が外部に漏れたのか……いやそれにしては武装も完璧に組み込めるはずは無い。早乙女博士はただただ、首を傾げるだけだった。

―そしてどこかで、その話題の主、ゲッターロボ號が不気味に胎動を初めていた……。その大剣を持つ勇者のような姿は皮肉にも人間に向けて刃を向ける事を感じさせない勇壮さをただ寄せていた。
その剣の名は「磁甲剣 ソードトマホーク」。それは正義の使者としてではなく、ある地に潜むかつての戦いで敗れし者の怨念の使者として。









―フェイトはゲッターロボ號の事について早乙女博士から話を聞き、ますます疑問を深めた。
完成すらしていないはずの機体がなのはを襲った。どういう事なのか?早乙女博士も頭を抱えるほどの
難問。さらに驚かれる事実を知らされたのは早乙女博士のもとを、彼と交流があった`青年科学者`
結城丈二、すわなち`仮面ライダー4号`(ライダーマン)が訪ねて来た時だった。(彼は他のライダーと異なりほぼ生身の人間であるが、コールドスリープの効果により往年の容姿を保っていた)




早乙女博士は調査の助けになればと、結城丈二を紹介してくれ、彼と話をする機会をフェイトに与えた。そこで彼女は`千年王国`の野望を抱いた国の狂気を知らされた。ゲッターロボ號も彼等と関係あるかも知れないとの推測もした。



「彼等の起源から話そう。かつて、千年王国の野望を抱いて世界に戦いを挑んだ国家があった。彼等`組織はその生き残りだ」
「まさかその国って……!」
「ああ。かつてのヒトラードイツ、`ナチス第3帝国`」
「な、ナチス!?そんな……第3帝国は第二次世界大戦で負けて壊滅したはずじゃッ!?」


フェイトは悪寒が走る感覚を覚えた。その国は地球の歴史上で`最悪の世界大戦`を引き起こした元凶であり、
アドルフ・ヒトラーという男の作りだした`狂気`であった。小学校の授業でも習った`世界を戦いに導いた`存在が何故……。とフェイトは狼狽してしまう。
結城丈二はフェイトを落ち着けながら二の句を告げる。



「敗北したと言っても、全部が潰れたわけじゃない。一部の軍人達が敗戦後に親ナチだった南米に地域に逃れていった。奴らはその中でも奴らは特別好戦的な3軍と武装親衛隊の部隊がその母体となっている。ナチスがオカルトじみた研究を行っていたのは有名な話だが、その中でいくつかの研究目的に振り分けられていった。ちなみに当時の連合軍側の機密文書に奴らの当時の名称がこう記されている。『最後の大隊』(ラスト・バタリオン)」と」
「……ッ!?」
「その成果で生まれたのが`改造人間`。彼等に改造された改造人間の中で唯一人類のために戦ったのが`仮面ライダー`だよ。」
「仮面ライダー……?」



―結城さんの話は嘘みたいだけど、新聞記事の中にも仮面ライダーという単語は出てきていた……

フェイトはここで仮面ライダーや組織の存在を初めて知った。この時の彼女は知る由もない。まさか彼等に後々に自分の部下となる少女が深く関わっていた事、そして戦いに身を投じていた事を。


―ミッドチルダでも実用化が出来ていいないサイボーグをどうしてこの世界が……!?


フェイトは頭の中でその疑問がグルグルと回るのを自覚し、改めて結城から事情をもっと聞くことにした。
―ナチスが何かを研究していたのは有名であるが、この世界では成功したと言うことだろう。




「200年もナチの生き残りが活動してるなんて…信じられませんよ」
「だがこれは事実だ。現に歴代組織の大幹部には元ドイツ軍将校が何人か確認されている」
ナチの生き残りが存在し、未だに世界制覇を目論んでいるなど到底信じ難い。しかしこうして、生き証人がいる以上、結城丈二の話を信じるを得なかった。







フェイトがゲッターロボ號についての調査を始めた頃。別の場所で歴代の仮面ライダー達と出会ったティアナ・ランスターは歴代ライダー達の`敵`との戦いに身を投じていた。
`敵`の名はクライシス帝国。仮面ライダーBLACKRXと死闘を演じる異次元からの侵略者で、ZXまでの10人を生み出した存在とは趣を異にする悪の組織。
彼女は時間軸の異なるなのはたちとは別に、地球で繰り広げられる戦いを生き抜こうとしていた。


「……ムウン!変んん…身ッ!ブイスリャァ!!」
「大・変・身!!」
「変……身ッ!!」

日本の守りに付いている仮面ライダーBLACKRXの援軍として馳せ参じた、歴代の仮面ライダー達はその歴戦の強さでクライシスやバダンの放つ攻撃を尽く跳ね返していく。
そんな中、ティアナは戦いに身を投じた。元の世界の戦闘機人よりも遥かに装甲の厚い改造人間に対抗し得る手段は殆ど持ち合わせていない。
かろうじて通じたのが彼女のデバイスの近接格闘戦用の「クロスミラージュ」のダガーモードであった。彼女は主に仮面ライダー達の支援を行い、時には怪人と真っ向から戦っ た。彼女はライダー達の力になりたいと、望んで戦いに身を投じ、元の世界の戦いが幼稚園のお遊戯に思えるほどの激しい実戦を潜り抜けていく。そんな中、彼女はRXに伝授される形で一つの技を身につけた。
方法はクロスミラージュの魔力刃を相手に突き刺し、そのままゼロ距離で最大出力のクロスミラージュの刃を突き刺す。
RXの`リボルクラッシュ`にヒントを得たと後に彼女は同僚に語る。名前は無いが、たとえ魔導士としては遥かに実力の高いなのは達にも対抗しえる手段として、
帰還後の模擬戦で披露することになる。そんな彼女が出会ったのは、一人の`異世界の魔女`。ティアナが空への憧れを強くした、ある出来事。


フェイトが新早乙女研究所を訪れる五日ほど前に、地球連邦政府は時空管理局と接触に成功。国交を成立させていた。連邦はその国交成立の過程で並行時空の地球の存在を知り、
その地球でかつて地球連邦軍を二部した軍閥「ティターンズ」の残党が暴れている事を知らされた。
そこで地球連邦軍は調査と討伐を兼ねた部隊を送り込んだのだ。


‐そして、 平行世界に介入した艦隊から本国に向けて、ある通信が入った。
内容は「ティターンズ残党の行動によりネウロイに対抗できる`ウィッチ`(その世界での魔女の総称)の数が減っている。現役引退した元ウィッチをも投入せざるを得なくなったので、
本国にあるタイムフロシキで若返らせる。再訓練のための人員はそちらに贈る」との通信が入った。
その第一陣が補給艦に乗って、この未来世界の日本にやって来た。その第一陣としてやって来たウィッチ達の中に、なのはとティアナの運命を変える人物がいた。
そのウィッチの名は`穴拭智子`。並行時空の日本に当たる、扶桑陸軍の中尉。彼女は陸軍撃墜王として名を馳せ、その世界の怪異と戦った乙女。世界各国のウィッチを集めた統合戦闘航空団の前身たる、源流の部隊「スオムス義勇独立飛行中隊―スオムスいらん子中隊―」の元隊長。
ウィッチとしての寿命である「あがり」(ウィッチとして戦う力を失う事)を迎え、軍には籍を残していたが、一線を退いていた。だが、ティターンズの行動に混乱する世界の軍が、急遽、未来世界よりやって来た地球連邦軍に提案した` ウィッチ若返り作戦`の白羽の矢が建てられた。
(ちなみに容姿は黒髪長髪の美人。巫女装束を纏っている)

彼女は日本の連邦軍病院でタイムフロシキを被せられ、21歳を超えようとしていた彼女は最盛期である1937〜1939年当時より若干若い(14歳ほど)状態にまで若返った。
目覚めると体が10代の時の姿に戻っていたので、智子は狼狽し、医者に詰め寄った。











「先生!!これはどういう訳なんです〜!?」
「まあ落ち着いたらどうかね、中尉」
「これが落ち着いていられるかぁ〜!!起きたら体が10代の時に戻ってたなんて、奇天烈な事が……」
「これが連合軍が考えた作戦だ。そうそうウィッチを育成出来るわけではないし、慌てて実戦に出しても戦死者を出すだけだ。そこで君のような実戦経験のある 人材を現役復帰させる措置が取られた。
我々の科学力は希望する人間をその人が望む年齢に若返らせる事を可能としている。その結果がその姿だよ。君の肉体年齢はミドルティーンの状態に戻っている。
肉体の時間そのものをレコードのように巻き戻したから魔力もその時間の量に戻るわけだ」

医者は智子の時代でもある物の表現を使って、説明する。智子は半信半疑で医者の説明を聞いていた。
やがて説明が終わると連邦軍の軍人たちにある場所へ連れていかれた。その場所は神奈川県の帝都防空の要である厚木基地。彼女は基地のハンガーに見慣れたものがあるのを認め、驚愕した。
それは彼女もよく見慣れたストライカーユニットと発進促進装置だった。

「こ、これは……」
「御覧のとおり、ストライカーユニットですよ」
「で、でも今の私はもうこれには……」
「大丈夫です。その状態ならシールドも問題なく貼れるはずです」


そう。ウィッチは501にいる宮藤芳佳の一族などのごく一部の例外を除くと、
およそ20代に戦うウィッチの生命線であるシールドを貼れなくなるケースが大半を絞める。
そのため彼女も 19〜20歳に入った頃に一線を退いた。彼女は果たして自分が姿通りの往年の実力を発揮できるのか不安だった。ストライカーユニットを纏い、起動させる。

`ブォオオオオオッ`と快調なエンジン音が響く。それはエンジンを完全にフルドライブできている事の証であった。


(この感覚………間違いない!あの時と同じ……本当に体が扶桑海の頃に戻ってる!!)
力がみなぎるかのような感覚を覚えると連邦軍が元の世界から持ち込んだと思しき、ホ5 20o機関砲と扶桑刀「備前長船」を持ち、ハンガーから発進した。
別に戦闘するわけではないが、体が`戻った`かどうか確かめるためにフル装備で発進したのだ。ちなみにストライカーユニットは44年当時の最新鋭の四式戦闘脚「疾風」である。


久しぶりに飛行を楽しむが、ギンギラギンに輝く太陽の暑さに思わず愚痴ってしまう。紫外線も自身の知る夏を遙かに超えている。


「何なのよこの暑さ!!本当にここ未来の扶桑なの……!?」


そう。未来の日本は彼女が未だかつて遭遇したことのない猛暑に襲われていた。この日の気温は35度。
この世界では21世紀より少しずつ進んだ温暖化はジオ ンのコロニー落としによってトドメを刺され、2199年の時点では北海道に到るまで半年以上が常夏の気候に変貌していた。
20世紀前半からは想像できない、太陽の放つ紫外線の暑さが直に彼女を襲ったのである。
高度10000Mを超える高高度を飛べるジェット機はともかく、彼女のストライカーユニットは比較的低い高度を飛行していたので暑さが襲ったのだ。

そんな彼女に基地の管制塔から通信が入る。

そんな彼女に基地の管制塔から通信が入る。

「中尉、電探に我々の`敵`が引っかかった。航空機では対処が難しい奴らだ。悪いが、そのまま迎撃に向かってくれ」
「敵?もしかしてネウロイですか?」
「いや違う。人間の手で空を飛べるように体を`改造`された怪人達の群れだ。漫画みたいな話だが、この時代では何でもありだ」
「分かりました!」


智子はそのままコースを変更。直ちに怪人たちの迎撃に向かった。



号・V3・X・RXのライダー達とティアナは苦戦を強いられていた。バダン残党が繰り出した、過去の組織から選ばれ、蘇った`空飛ぶ怪人軍団`の空襲に逢っていた。

その時の怪人の陣容は以下のとおり
・元ショッカー所属 ギルガラス
・元ゲルショッカー所属 ガニコウモル
・元デストロン ツバサ軍団 火焔コンドル
・元ゴッド神話怪人軍団 鳥人イカルス
・元ゴッド悪人軍団 コウモリフランケン

これら怪人たちは過去にライダーに葬り去られたが、別個体を改造したりオリジナルを再度作り直したりして蘇らせた空飛ぶ怪人は複数体で編隊を作り、
数で勝負に出た。一体一体は過去にライダーが倒した怪人なのでその能力は把握しているが、
スカイライダーを除くライダーの弱点である`空中戦`に徹する作戦を取 られた上に、複数体で来られてはさしもの歴戦の勇士たちも追い込まれていく。

「クソッ!バダンのヤツら考えたな……」
「ええ。俺達が苦手なテリトリーに徹するとは,奴らも馬鹿じゃないってことですね」
「しかしこのままじゃ嬲られますよ」
「こうも波状攻撃で来られたんじゃロボライダーのボルティックシューターで狙う暇もありません。弾幕を張るくらいしか……」
「……タイガーロイドの大砲の技術を応用したな」

そう。今、ライダー達に空襲をかけているコウモリフランケンの編隊の大砲の連射間隔は明らかに以前より遥かに短い。
そうなるとかつてのバダンの精鋭怪人であった「タイガーロイド」の次弾装填装置の技術を流用したのだろう。


「もらったぁっ!!」

火焔コンドルの中でオリジナルの自我を持つ個体が後ろからロボライダーを捕まえる。
「何っ!?」
「おっと動くなロボライダー。バイオライダーになろうとしたら俺の火焔が貴様を焼くぞ!!」

彼等はRXの各形態の弱点を把握していた。ロボライダーは強靭な装甲で熱に絶対的に強いが、RXより動作が遅い。バイオライダーは俊敏だが熱には弱い。そこを突いたのだ。
いくらゲル状になろうとも熱に弱いには変わりない。南光太郎は窮地に陥った。
他のライダーもロボライダーを人質に取られ、動きを止める。

「いい気味だなライダー共。さてロボライダーを俺のクチバシでバードンに襲われたウルトラ●ンタロウのようにしてくれるわ!!」
「卑怯な!!それにネタが古いぞ火焔コンドル!!そんなネタは今の子供は誰も知らんぞ!」
「ええい2号ライダー、卑怯もラッキョウもあるか!!ロボライダーよ死ねい!!」

―その時だった。空中50mほどにいた火焔コンドルに切れ込みが入り、やがて細切れになる。
ライダー達も怪人軍団も固まる。細切れになった体のすきまから細切れにした張本人の姿が見えた。そこにいたのは巫女装束を身に纏い、プロペラ機の後部を足に着けたような機械を着けた、一人のうら若き乙女だった。

「なんだお前は!!」

怪人の言葉に少女は一言だけ答えた。

「私は扶桑陸軍中尉 穴拭智子」

彼女は淡々といった。大昔の姫武者「巴御前」を彷彿とさせるような凛々しさを感じさせるその姿にライダー達もティアナもただ見惚れていた。


「さあ、この備前長船の刀の錆になりたいならかかってきなさい!」

智子は刀を構え、戦闘態勢に入った。




(`あの子`は絶対に『智子中尉〜あの時の姿に戻ったんですってぇ〜!』とか来そう……)

長年の間に、戦闘中にもそういう事を考える余裕も生じていた事に智子はかすかな笑みを浮かべると、怪人達との交戦に入った。

―それは彼女にとって久しぶりの実戦だった。敵はネウロイとはまったく違う、鳥などの特性を機械の体にすることで得た、元々は同じ人間。
(ネウロイに通じた戦法がコイツらに通じないわけない!!)

こう息巻くと魔力によって強化された先祖伝来の扶桑刀「備前長船」を構え、猛然と空中戦に臨んだ。





ティアナは呆然としていたが、相棒の`クロスミラージュ`から智子が手に持っていた刀から魔力反応があることを知らされた。


`The magic reaction can be perceived from that sword and the machine`
「えっ……?それじゃあの子(智子の外見年齢は14歳ほどになっていたためにティアナは`子供`と誤認した)は魔道士だっていうの?」



それは正確には合っているようであっていない。ウィッチは時空管理局の魔道士達と違い、何時までもその力を奮えるわけではなく、大抵は10代の内しか現役にいられない(例外はあるが)し、固有魔法を持つ者以外は魔力を直接攻撃に使わない(弾丸や刀などを媒介にする)点でも異なる。


「どういう事なの……?」

ティアナはただそれだけしか言うことが出来なかった。魔力を感じるということは魔力を扱う人間……。それも管理局の空戦魔道士とは明らかに異種の魔法としか考えようが無かった。
そんなティアナの耳に智子が放つホ5 20o機関砲の銃撃音が届く。
`ズドドド`と明らかに質量兵器特有の発射音としか思えない音が響き渡り、怪人軍団の翼に穴が開いていき、失速して高度を落とす者が出始める。

「何やってんのそこ!!攻撃しなさい!!」


智子の叱責に我に返ったライダー達は智子を助けるべく、攻撃を開始した。
最初に先陣を切ったのは仮面ライダーX。脚部のハイドロジェットを使って空高くジャンプし、空中で]の文字を描きながら急降下する。翼に穴を穿たれ、失速しながら降下する怪人には逃れる術は無い。

「]!!必殺キィ――ックゥッ!!」


―これぞかつてゴッドの秘密警察第一室長「アポロガイスト」にとどめを刺した必殺技「]必殺キック」である。見かけは通常のキックと同じだが、威力を強化しているため、通常時を上回る破壊力を持つ。それを表すように]のピンと伸ばした右足は怪人の装甲を薄紙のように貫き、そのまま吹き飛ばす。

次いで行動を起こしたのはV3。

「X3ィきりもみキィ――ック!!」

きりもみ回転を加えた飛び蹴り一発で相手の装甲を貫き、さらには追いうちのチョップで相手を両断してみせる。仮面ライダーの中でも古株に位置し、1号と2号の不在の際にはリーダシップを取る事が多いのでこれくらいは当然と言える。思わぬ援軍の登場により態勢を立て直す事に成功したライダー達。
RXもロボライダーから通常形態に戻り、反撃を開始する。こうなると形勢は完全に逆転したと言っていいだろう。

「よし……これで良し」

敵の翼を機関砲で狙い撃って、地上の`味方`にも攻撃できる高度にまで降下させる。地上の味方を支援するのも怠らない。その点をしっかりと心得ているのが智子をエースたらしめている面だ。

「リボルケイン!!」

その甲斐もあって、RXの必殺武器「リボルケイン」が失速し、墜落する鳥人イカルスの脇腹を貫く。彼最大の必殺技であるこの攻撃はどんな敵の装甲であろうと貫ける。そしてお決まりのポーズを決める。

ライダー達が反撃を開始した様子を見届けると、
「未来にはなんとも変わった奴がいるわね」と独りごち、なおも空戦を続ける。
「`疾風`は快調……まだまだ行ける!!」


彼女はかつての愛機であったキ44「鍾馗」の直系後継機であるキ84「疾風」の機動力やホ5の大火力に惚れつつ、突撃を敢行する。

「備前長船兼光」を縦横無尽に振るい、巴御前の異名に恥じない獅子奮迅で、敵を斬っていく。

ライダーのサポートに徹しつつ、智子の空戦の様子を見ていたティアナはその空戦機動の華麗さに目を奪われた。まるで敵の攻撃を始めから分かっていたかのように最小の動きで攻撃を避けていく。


「あの子……スゴイ。あれだけの攻撃に被弾しないなんて」



そう。ティアナの知る由もないが、智子は1940年代前半における、扶桑(日本)陸軍最高レベルのエースで、その空戦の腕前は管理局で言えば教導隊所属の空戦魔道士にも相当する。

(もしかしたらフェイト隊長やなのはさんよりも……?)


管理局最高レベルのエース達の機動を見慣れたティアナにそう思わせるほどに智子とストライカーユニット「4式戦闘脚 疾風」は空中に綺麗な飛行機雲を描きながら洗練された空中戦闘機動を見せていた。敵の数も半数に減っている。戦局は逆転しつつある。



「このままでは全滅するぞ!各員、離脱だ」

コウモリフランケンの一体が不利を悟り、離脱するように促す。そして残りの怪人達も撤退を始めていく。追撃を行なおうとする智子だったが、軍から`深追いは禁物`だと戒められて渋々と従う。そして地上の味方の無事を確かめるために地面に降り立つ。


「大丈夫でしたか?」

先ほどとは打って変わって敬語を使って話しかける。さすがに軍人なだけあって、TPOを弁えている。

「おかげで助かった。君は?」
いの一番に智子のもとに来たのは2号ライダー、すなわち一文字隼人。彼女の姿を見てすぐに何であるかを悟ったようだ。変身を解除した上で話しかける。

「申し遅れました。私は扶桑陸軍中尉、穴拭智子といいます」

「扶桑陸軍?……そういえば近頃、軍内の資料で`ウィッチ`とか言う単語がよく出ると聞いていたが、君がそうか」
「ウィッチのことを知っているんですか?」
「これでも本職はジャーナリスト方面でね……カメラマンだけど。まあある程度は」

仮面ライダー2号こと、一文字隼人は本職がカメラマンなので、各方面に知り合いがいた。それはこの時代でも変わっておらず、ウィッチの事も友人の軍人から聞き出していた。なのでウィッチのことも理解できたのだ。
智子もまさか初対面にも関わらず、ウィッチの事をすぐに理解できる柔軟性をもった人間がいるとは、と関心する素振りを見せる。

続いてやってきたのはティアナ。智子の事が気になったのか、駆け足である。
「あなたは?軍人には見えないけど」
智子の問いにティアナは「ティアナ・ランスター。時空管理局の魔道士で、2等陸士。よろしく」と自己紹介した。

「私は穴拭智子。扶桑陸軍中尉。よろしく」

智子も自己紹介し返す。智子の`中尉`という言葉にティアナは反射的に`「し、失礼しました!」と慌てて敬礼する。

「軍隊の常識では兵卒から見れば`中尉`は雲の上の存在」ということを改めて自覚した智子は陸軍式の敬礼をし返す。

「まあ、そう硬くならない。私もあなたとそう年齢は変わらないし、智子でいいわ」(実年齢でなく、外見年齢だが)そう答えてティアナの緊張をほぐしてやる。

智子はさすがに指揮官を長年してきただけあって、こういう事は手馴れている。ティアナも緊張が溶けて落ち着いたのか、親しげに会話を続ける。


「ちょっと待ってティアナ。時空管理局って言ったわよね?」
「そうだけど?」
「説明してくれる?なんか頭がこんがらがりそう……」


互いにどこがどうなっているのか、理解には時間がかかりそうだと溜息をつく2人。
これ以降、智子とティアナは所属組織と階級、時代の差を乗り越えて、親しく付き合う事になる……。
これが`凡人`(彼女に才能はあるのだが、周りに才能ある人材が多すぎたために自分に自信が持てないの意味)と、自分を卑下していた魔法少女と扶桑陸軍きってのエースと言われたウィッチの接触だった。













‐後日 

地球連邦政府は比較的友好的に時空管理局との関係を築いていた。これは対話が出来ない勢力(恐竜帝国、ガミラス帝国や白色彗星帝国など)との生存競争を経験したためで、友好が可能な勢力との接触を国民が求めていたためでもある。
結果、両国間の交流も始まっていた。

そんな中、扶桑皇国から2199年を訪れていた穴拭智子はティアナと仮面ライダー二号=一文字隼人の紹介や、本国からの命により、地球連邦軍の演習に参加していた。前線への復帰を機にこの世界の`自分`の異名の一つ「白色電光戦闘穴吹(最も彼女は字違いで`穴拭`なのだが、未来世界では担当官のミスで穴吹として記録されてしまったので連邦軍の書類上ではそう記されている。)を改めて襲名。教導のために訪れた演習場で後に友人のティアナ・ランスターの直属上官となるはずの`高町なのは`と対面することになった。


−私は今、不思議な出来事に遭遇してる。仲間の上官になるはずの女の子が幼い姿で私の前に立ってる。見た感じは歳相応の普通の子なんだけど、ティアナ曰く、此頃にはもう`無敵のエース`としてもう名を馳せていたって言うけど……。可愛いわね。

「あなたが今日の相手?」
「はい。高町なのはって言います。今日はよろしくお願いします!」
「私は穴拭智子。あなたのことは聞いてるわ。お手柔らかに頼むわ」

自己紹介しつつ、なのはは純粋無垢な笑顔を見せる。その笑顔は智子に`自分がああいう風に笑ったのはいつだろうか`と感じさせ、智子は心のなかで自分に苦笑しつつも笑顔で自己紹介を返す。

−この人が別の地球の空戦魔道士……。それも日本陸軍きってのエースで`扶桑海の巴御前`って呼ばれてるんだよね?そう考えるとシグナムさんみたいだなぁ……。

なのはの方もウィッチがいる世界のことは、軍内発行の新聞などを読んで知っていたので、幾度か智子の勇名は耳にしている。別の世界の`魔法使い`にて、`扶桑海の巴御前`の異名を持つ日本陸軍(正確に言えば扶桑皇国陸軍)のエース。刀を接近戦に使うという点では、ヴィータと同じ守護騎士`ヴォルケンリッター`の烈火の将「シグナム」やフェイトと同様だが、あの2人とはまた違うタイプだ。巴御前という、大昔の武芸で歴史に名を残した姫武者の名を異名として頂くのだから相当な使い手なのは間違いないだろう。




2人はそれぞれ模擬戦の準備をする。智子は扶桑皇国陸軍軍服(未来世界で暮らしているうちに式典に出席する機会ができ、正装の必要が生じたので元の世界の参謀本部から改めて取り寄せた)から戦闘時の巫女装束と小具足姿に着替え、なのははバリアジャケットを纏う。

それぞれ出揃ったところで武官からルールの説明がなされる。なのははウィッチが用いている小型無線機を耳に付ける(時空管理局側の魔導師が用いている念話はウィッチ側には未知の概念だという)と、その場で飛行魔法を発動できる彼女の方が先に飛び立ち智子が来るのを待ち受ける。ウィッチはストライカーユニットを用いて飛ぶので、通常の飛行機同様に飛び立つのにある程度の滑走距離がいるのだ。地面に出現する、`ミッドチルダ`式でも`ベルカ`式のいずれでも無い魔法陣に新鮮な感覚を覚える。

「待たせたわね」

智子が4式戦闘脚「疾風」を纏って上昇してくる。航空ウィッチの使うストライカーユニットはレシプロ機の後部をそのまま足に着けたようなものだ。世界が違うと飛行魔法の技術も異なる事も妙実に表している。魔力を動力源にしているのは時空管理局の兵器に通じるものがある。何やら物騒な機銃も持っているが、もちろん模擬弾なので安心した。

「それじゃ始めるわよ。せっかくの模擬戦なんだから初太刀で落ちないでよ?」
「そっちこそ。行きますよ〜!」

智子はなのはと会話するうちに、自分の口調が自然と10代の頃のそれに戻っていることを改めて自覚する。やはり肉体が若返りを果たすと、気まで若くなるらしい。不思議なものだ。

外見年齢14歳、実年齢20代前半の機械化航空歩兵と、弱冠11歳の空戦魔導師の2人は空戦を始めた。スピードはなのはに分があるが、空戦機動での小回りの良さなどでは智子の疾風が確実に上回っている。

なのはは火力と防御力重視で、空戦機動時の機動性はあまり高くなく、飛行特性は飛行機で言えば火力での一撃離脱戦法を主とする欧米の戦闘機に近いだろう。

智子が先程から見ていても、日本(扶桑)機特有の軽やかな機動を見せる自分に、今一歩のところで追従しきれないのが分かる。その点は技量でカバーしているようだが……やはり空戦機動力の差はテクニックだけでは埋めがたいらしい。

「ディバイィィィィン……バスターァァァァッ!!」

なのはの初撃は得意とする砲撃魔法からだった。極太いビームの奔流が智子を襲うが、ネウロイとの戦闘でこの手のビーム攻撃は見慣れている。智子はその持ち前の技量で蝶が舞うが如くの神業的な機動で回避する。

「嘘っ、今のを避けられた!?」
「伊達に扶桑海の巴御前の異名を持っちゃいないわよ。狙いは正確なようだけど……それだけで私を落とせると思ったら大間違いよ」

智子は不敵に笑う。扶桑海事変以来、幾多の戦いをくぐり抜けてきたという自負。まだまだ若い連中に遅れは取らないとばかりに、
先祖伝来の扶桑刀(日本刀)「備前長船」を構える。なのはは幾つかの事件で剣術の達人を見てきたし、時空管理局の仕事で何回か刃を交えたこともある。

だが、それは`剣`であって、日本刀の類を使う相手とは初めてである。それも一般的な打刀ではなく、太刀である。
太刀は主に白兵戦闘には向かず、馬による機動戦で使われたというのをどこかの資料か何かで目にした事があるが、
智子はそれを苦にもせずに縦横無尽に振るっている。まるで自分の体の一部のように。しかも魔力を媒介に剣を強化したり、
刀身のエネルギー源にするのではなく、普通の日本刀の刀身に魔力を纏わせるのだ。さながら昔のヒーロー番組のようである。




2人の模擬戦は実戦経験に勝る智子の優勢に進んでいた。なのははその圧倒的火力で圧するもの、どれほど強大な火力を誇ろうとも当たらなくては無用の長物に過ぎない。智子の空戦機動はそれをなのはに示していた。これまでただ火力で押してきたなのはには何度目かの、フェイトと初めて対峙した時やヴィータ戦ともまた異なる`圧倒される`戦闘`であった。

「くぅっ、今度こそッ!!」

智子がレイジングハートの射程に入り、魔力のチャージを開始する。
しかし此頃のなのはの砲撃魔法はチャージ時間を長く要する物ばかりで、蝶のごとく華麗に舞う智子に命中を望める物では無かった。
ましてや、智子はなのはを遥かに上回る空戦の熟練者。ワンパターンとも言える砲撃魔法を見きられるのは至極当然であった。拘束魔法をかけようにもその兆候を読まれ、まるで当てられていない始末であった。ここに至っても、智子は自身の切り札とも言える空戦機動戦術を未だ温存していた。扶桑海事変で彼女の名を高めた`ツバメ返し`とその改型`ツバメ返し改`。この時、智子はなのはの手の内を全て読みきっていた。たとえスターライトブレイカーをぶち込まれようが
備前長船でビームを叩き切ればいいだけの事だ。

「……久しぶりにやってみるか」

智子はストライカーユニットを巧みに操り、両足それぞれ別方向に動かし、瞬間的に推進力を別々の方向に向ける。

なのはに「自分がまだまだ`青二才`である事」を知らしめるため、そして多少うぬぼれ気味な根性を叩き直すべく、ついに必殺とも言える秘技を使った。

「まだまだ甘いわよ`お嬢ちゃん`」

神がかり的な機動で一瞬のうちに背後を取り、備前長船を居合いの要領で振るった。魔力で強化された備前長船は重装甲を誇るはずのバリアジャケットの上着部分を細切れに切り裂いた。これは主にキ27を装備時に用いた初代ツバメ返しである。

「えっ……!?」

余りにも一瞬の出来事だったので何が何やら理解出来ていない。なのはをハッとさせたのは愛機のレイジングハートの`声`だった。

「The shin battle ends. It is …… mastering and your defeat though is regrettable.」
(模擬戦は終了です。残念ですが……マスター、あなたの負けです)

ハッとなり、自分の姿を確認する。するとリアクターパージ(現実の装甲で言えばリ・アクティブアーマーのように砕け散ることでダメージを最小限度に抑えるようなもの)が起こり、完全に上着を`破壊されているのがはっきりと分かった。あの時(ヴィータとの初戦時)よりも硬いはずのバリアジャケットをこうも簡単に、それにレイジングハートによる防御魔法すら発動させぬほどの素早い一撃で粉砕するとは……。

‐もしかして智子中尉の剣技はフェイトちゃんやシグナムさんレベルなの……の?

その瞬間、なのはは智子の剣技をそう認識したとか。

「う〜、負けたぁ〜!!」

完敗に近かった。スピードはこちらの方が上回っていたもの、機動で完全に及ばなかった上に誘導魔法すら一撃も命中させられなかった。それにしてもなぜ気づかない内に一太刀浴びせられたのか。それが理解出来なかった。

「あなたは少し射撃戦に傾倒しすぎよ。接近戦に持ち込まれた場合も少しは考えなさい?」

智子の言葉に思わずうなづく。確かに今の自分は接近戦に持ち込まれた場合、実に脆い。
あのゲッターロボ(この時にはフェイトからゲッターロボの事は知らされていた)と戦った時にしてもそうだ。瞬く間に必殺技を放たれ、一巻の終りだった。

「はい。だけどどうすればいいんですか?」
「後で私の部屋に来なさい。接近戦を乗り切る術を伝授するわ」
「あ、ありがとうございます!!」

智子はニコッと笑う。それはなのはの潜在的な素養に気づき、`光る原石`である彼女を磨き上げたくなった気持ちも含まれていた。戦いの中で素養を開花させた例は智子のかつての部下「迫水ハルカ」を始め、いくらでも存在する。智子はこのなのはという少女を一人前に育て上げる決意をし、後日、なのはが属する部隊であるロンド・ベルへの出向を正式に志願する事になる。







新早乙女研究所ではドラゴンをも超える‘最強の‘ゲッターロボの研究開発が進められていた。その名は「真ゲッターロボ」、早乙女博士がさらなる研究を進めて生まれた産物であり、ゲッター線の力を最大限に引き出すために開発が進められている新型機建造プロジェクトであった。


「光子力研究所の「黒鋼の神」計画が思うように行っていないだと?」

早乙女博士は研究員からの連絡に困惑の表情を浮かべた。マジンガーZ亡き後の光子力研究所は戦いを、科学要塞研究所とグレートマジンガーに委ねる状況にあった。そこで地下勢力対策に新型マジンガーが建造される運びになったのだが…。

「反陽子エネルギーの安定性が問題らしいのです。装甲・フレームは完成したのですが、動力源の出力調整が困難らしく…」
「して完全な実用化は可能なのか?」
「弓博士は『おそらく今次大戦中の実用化は不可能』だと」
「…そうか」
落ち込むような態度を見せる早乙女博士。完成すればゴッドマジンガーとでも呼ばれるべきである機体が今次大戦中に日の目を見ることは無くなった報せに相当落胆している。今次大戦に間に合う機体はこの研究所で開発中の真ゲッターのみになってしまった。

「コン・バトラーVやボルテスXはまだ修理中で、ダンクーガも前の大戦で大打撃を受けてしまっている今、自由に行動できるスーパーロボットは数少ない。だからこその真ゲッターなのだ」

「博士。この真ゲッターというのはそこまで強力なのですか?」
「そうだ。新型ゲッター炉は低出力でもシャインスパークの10倍以上のエネルギーを引き出せる。最大出力での運転を行ったら何がどうなるか、ワシでも見当がつかん」

研究員は絶句した。早乙女博士が作ろうとしているのは「神」に等しい力を持った何かであることに驚きを隠せない。

その時だった。実験でゲッター線の濃度を上げていったのだが、ゲッター線の数値が80を超えた瞬間、真ゲッターロボの目に瞳が現れたのだ。

「ど、どうしたことだこれは……!?」
「分かりません……ゲッター線の指数を上げていったら突然……」
「こいつには……ゲッターに意思があるとでも言うのか……!?」

建造途中の機体を見上げながら早乙女博士はこう呟いた。まるでゲッター線の大いなる意思が人類を導いているかのように……。

「博士、これは……?」
「建造途中の機体です。まだ炉心の調整段階なのですが、名前は`真ゲッターロボ`。この機体は極秘事項だったのですが、こうなったら仕方が無い」
「じゃあ……これが新型のゲッターロボなのですか」

格納庫の光景に何事かと駆けつけたフェイトは瞳を宿すゲッターロボを見上げる。

「ええ」
「……真ゲッターロボ……」

―まるで何かに引かれるように、胎動する超エネルギー`ゲッター線`の意志を体現する存在`真ゲッターロボ`。何かに導かれるように真ゲッターは不気味にその炉心を唸らせていた。フェイトは`ゲッターロボに何かの意志があるのだろうか`とただ、真ゲッターを見つめ、一言だけ呟いていた。ゲッター線は何のためにあるのか?宇宙の繁栄のため、それとも地球人類の極限的な進化のためなのか、それはまだ分からない……。












−新早乙女研究所にて結城丈二から聞かされる形で`バダン`の存在を知り、さらに真ゲッターロボの姿を目撃したフェイトは`どうしたらいいのか`と悩んでいた。

−今の私じゃみんなを守れない……もっと強くなりたい……!

フェイトは`事件`を契機に史実以上に`なのはやみんなを守る!!`という気持ちを抱くようになっていた。以前に交戦したジオン残党軍の軍人達の言葉がこの瞬間にも彼女の心に響く。『何故争いは無くならないと思う?』

戦士たちの言葉はまだ子供でしかないフェイトの心に大きな衝撃を与え、`戦いとはなんぞや`との問いを彼女に課し、同時に信念や戦う理由を考えるきっかけとなった。同時に自分の力のなさを痛感し、`強くなりたい`と思っていた。そんな事を考えながら浅間山を下山し、アムロたちとは別行動を取っての帰り道を歩いていると、一軒のロッジが目に留まった。ロッジの庭で日本刀を素振りして、何かの特訓に励んでいる一人の少女の姿が目に止まった。その少女はフェイトより2、3歳ほど年上のように見え、巫女装束と小具足を纏った`日本の姫武者`のような姿の女の子だった。





 扶桑から来訪して間もない、一人のウィッチがいた。休暇を取り、現地の刀鍛冶から「対化物」用の洗礼処理を受けた日本刀を受け取った帰りに、貸ロッジを借りて、そこで剣術の腕を磨いていた`魔のクロエ`黒江綾香大尉はフェイトの姿を視認すると山を妙な格好で歩いている(綾香は知る由もないが、フェイトは飛行魔法を使うためにバリアジャケットを使用していた)少女に声をかけてみた。荷物らしきものも持ってないなど、山を歩くにはあまりの軽装だったためだ。

「危ないじゃないか、こんな所を女の子がウロチョロしてちゃ。遭難したらどうする」
「す、すみません……」

確かにフェイトのバリアジャケットははたから見れば軽装なので、山に詳しい人から注意されるのも至極当然である。フェイトは一言謝ると自分より幾分か年上に見える(現在の黒江の外見年齢は13歳ほどで、実年齢とは10年程度の開きがある)少女に話しかける事にした。事情を話すと納得したようで、中でも驚いたのは時空管理局の事も知っていた事だ。

「どうして管理局の事を知ってるんですか?」
「`扶桑皇国`って聞いたことはないか?私はそこの出身なんだ」

フェイトはハッと思い出した。なのはから連絡のあった異世界の空戦魔導師の`穴拭智子`中尉の出身世界の日本の国号。つまりこの少女は智子と同じ世界の出なのだ。そして少女は自己紹介も兼ねて自分の官名を名乗った。扶桑皇国陸軍の大尉で、黒江綾香と言う名前らしい。自己紹介をし返し、改めて自分の名を名乗る。

「それじゃ綾香さんは穴拭中尉と同じ世界から来たんですか?」
「そういう事になるかな。アイツとは同じ戦場で戦った戦友で、長い付き合いだ」

綾香は智子とは古くからの戦友である事をフェイトに教え、自身も智子同様に異名を持って呼ばれた事もあるエースの一人だという事も付け加えた。

「ここでしばらく休むといい。君の出向先には私から電話で断りを入れておくよ。出向してる部隊の名は?」
「ロンド・ベル隊です」
「例の最強部隊か。あの部隊の噂は聞いてるよ」


自分とそう変わらない年齢に見えるのに、それに見合わない落ち着きや豪胆さを見せる綾香。フェイトには彼女の背中がとても大きく見えた……。

−`魔のクロエ`。フェイトが黒江の持つその異名の意味、そしてそれとまったく同じ異名を持って恐れられた、大東亜戦争・ビルマ戦線で名を馳せた、かの飛行第64戦隊‐通称`加藤隼戦闘隊`‐所属の大日本帝国陸軍のエースパイロット`黒江保彦`少佐の存在を思い出すのはそれからすぐのことだった……。













話に花が咲き、色々な話題が出た。穴拭智子が巴御前の異名で呼ばれる理由と扶桑海事変の事。22世紀の地理の事、お互いの空戦技術談義など……。

フェイトは剣術にある程度は自信があるもの、スピード中心のタイプなので一発あまりの打撃が`軽い`。対して黒江はフェイトがまだ持っていない物を多数持ち合わせる。スピードこそ及ばないもの、`経験`にパワー、剣術の腕前は遥かに上回っている。試しに竹刀で手合わせをしてみたが、異名の通りに黒江の剣術の腕は達人級であった。才能はあるが、経験があまり無いフェイトは綾香の熟練した腕に苦戦を強いられる。

「素養はあるが、私と戦うにはまだまだだな」

黒江はフェイトが乾坤一擲で放った竹刀を軽くいなす。短い時間の手合わせだが、フェイトの潜在的才能を一目で見抜くのは流石と言うべきか。

「お前がなのはって子を守りたいって言うのはよく分かった。だが、今のままじゃこの世界じゃ生き残れないぞ」

激戦を生き残ってきただけあって綾香の言葉には重みがある。管理局でエースと持て囃され、いささか自惚れがあった自分が如何に未熟なのかを思い知らせられる。

「……どうしてそんなに`力`を求める?何のために?」
「大切なモノを守りたいんです。……昔、私は大切な人を救えなかった。もう二度と悲しい思いをするのは嫌なんです」



フェイトはかつて`心の闇`に堕ちた実の母親を最期まで救えなかった。たとえ自身が`本当`の娘で無くても、`本当の子供`である「アリシア」の代わりに作られた紛い物であろうとも`親子`であるには変りない。心を救えなかった事を心の何処かで悔やみ続けているのだろうか。綾香もそれとなく悟ったらしく「……そうか」と一言だけ言う。

「……だから私は強くなりたいんです。もう二度と失いたく無いから……大切な人達を」

フェイトはなのはという親友のおかげで自分という存在を確立させた。しかし裏を返せば一度でも精神的支柱を失えば脆い事も示している。
同じような例に、Zガンダムのパイロットであったカミーユ・ビダンが当てはまるだろう。カミーユ・ビダンも戦いの中で肉親を失い、さらには心を通わせたティターンズの強化人間「ロザミア・バダム」を自らの手で殺め、そして生涯で最初に愛し、最もかけがえの無い存在であった「フォウ・ムラサメ」をキリマンジャロで失ったのを引き金に精神の崩壊が始まり、パプテマス・シロッコによって止めを刺されてしまった。歴史的に見れば彼の精神崩壊が第二次ネオ・ジオン戦争を引き起こす遠因となった。彼は優しすぎたが、フェイトも今回の事件の報を聞いた際には顔には出さなかったもの、心中では激しく動揺し、狼狽していた。なのはがあのまま死亡していたのなら、彼同様の事態に陥っただろう。それほどに彼女に取って、なのははそれほどに大きい存在なのだ。

「……お前が強くなりたいという気持ちは分かった。だが、急ぎすぎても駄目だ。慌てずにじっくりと考えろ」

黒江は諭すように優しく語りかける。フェイトの心情は痛いほどよく分かる。だが、慌てて付け焼刃の授業を行ってもその場凌ぎに過ぎない。強くなるにはそれ相応の時間が必要だからだ。

「しばらく私と一緒に行動するのもいいが……良く考えろ。自分の答えは自分自身で見つけるんだ」
「はい……」

2日後、フェイトは黒江と行動を共にすることを決意し、その思いを伝えた。綾香もそれを了承し、ロンド・ベルへ断りの電話を入れた。ロッジにおいてある黒電話で。




「黒江大尉、フェイトちゃんの事をよろしく頼む」
「任せてくれ。アイツは私が責任もって面倒をみるよ。そう言えば、この間言ってたHI‐νガンダムってのは完成したのか?」
「完成はしたんだが、こっちに届く前に君の世界への派遣部隊が持って行っちまったよ。
向こうにいる俺の戦友からは絶賛されたが……喜んでいいのか微妙なところだよ」
「そりゃご愁傷さま」

電話の相手はアムロ・レイ。黒江は未来世界に来てからまだ日は浅いもの、横須賀基地で本国が開発中の「キ201 火龍」のテストを行っているが、その際にアムロと出会っていた。
彼はその日、νガンダムの挙動データを技術開発部に手渡すために同基地を訪れており、そこで鉢合わせしたのだ。彼等はお互いに機械オタクの電波を受信したのか、妙に馬があって意気投合した。
黒江はそれからブライト・ノアとも出会い、ロンド・ベルと個人的に繋がりが出来た。それ以来お互いに便宜を測り合い、時にはストライカーユニットの開発に協力してもらっているので、黒江にとってロンド・ベルは一番信用のおける地球連邦軍の部隊なのである。それにνガンダムはアムロ自身が基本設計を行った機体で、その入れ込みようは半端ではない。ましてやその究極の逸品とも言えるHI‐νガンダムを欲するのは当然の事だ。それがロールアウト後の配達時に急遽別の部隊に持って行かれた事を聞くとガックリと落ち込んだとか。

「そっちにVF‐17は届いてるか?」
「ああ。完全装備で3日前に横須賀航空隊から届けられたよ。ご丁寧に64戦隊のマーク入りで。芸が細かいなオイ」

綾香は個人的にバルキリーを軍から提供されていた。プロジェクトの資料に大昔のF‐4やF‐15などが提供されたのをついでにバルキリーを提供するように頼み込み、軍が苦労して回したのがVF‐17「ナイトメア」だった。ただしこの機体はVF-171の試作機に近いのか、各部に改良が施されており、 アクティブステルスシステム完備である。ほか次世代型フォールドブースターのオプション付きである。
ヘルマ・レンナルツがこの機体をひと目見るなり、乗せてくれと言ってきたが、確かにカッコいい。
しかも陸軍飛行戦隊のマークも入れてくれている。しかも先任クラスになってからの最初の所属先だった飛行第64戦隊のそれだ。

「そりゃ良かった」
「それと近々、連合軍から移民船団のジェット機の見学に行けって命令が出るってらしいから、最新機があるフロンティア船団に行くことになった。当分地球には帰れん」
「向こうじゃ釣りはあまり楽しめないから気をつけて」
「わかってる。そういえばそっちは大変になりそうだって?」
「ああ。例のアレだが、俺たちも参加を命じられそうだ」
「そっちのお偉方も考えたもんだ。一気にやろうなんて」
「一番目処が立ってる所からやるというが……どうだろう」

2人は近々実行予定の軍事作戦について話し始めた。兵団の傍受はあまり気にしていない。最新のデジタル回線はともかく、旧世代のアナログなものまでは古すぎて考えもつかないだろうからだ。これはジオン軍残党などの他勢力にも言える事であるが、勢力によっては古いモノもカバーしている場合があるので時々軍内の隠語などで誤魔化している。
2人の話はある事の現れでもあった。地球連邦軍は鉄人兵団への反攻を計画しているのである。開戦劈頭の兵団の奇襲で欧州やロシア・中国・太平洋などの地域を電撃的に占領された連邦政府だが、軍事力の主力そのものは健在であり、それらで広域の敵版図の奪還を意図している。だが、地域が広大である故、兵站面の問題もあり、一度に全ての兵力を動かせるものではない。そこで連邦軍は手持ちの情報を基に比較的大兵力がすぐに動員でき、
攻略が容易と思われる箇所から手をつける事にした。その場所は……ハワイ。

フェイトを預かった翌日、黒江は未来世界での住まいを元・同僚に頼ろうと、穴拭智子の入居している仮家に上がりこんだ。

「穴拭〜お前んちに住まわせてくれぇ〜!!お前だけが頼りなんだぁ〜!!」
「ち、ちょっと!綾香、それがいきなり人んちに上がりこんで言う台詞ぅ〜!?」
「本当に頼む!!この世界は地理がややこしくなってるし、物価は高いし……それに……一人暮らしは寂しいんだよぉ〜!!」
「あ、あんたねぇ〜!」
「頼む!後生だぁぁ〜!第一戦隊のよしみじゃないかぁ……」
「うっ……もう、しょうがないわね……」
「おお〜!恩に着るぞ〜〜!」
「あまり釣りやらないでよ?結構家賃高いんだから」
「うん、うん」

智子はかつての戦友たっての頼みとあれば、と渋々ながら了承した。ここから二人のドタバタ珍道生活が幕を開けるのであった。








地球連邦政府は図らずしも度重なる戦乱で真っ先に逃げようとした汚職官僚が死んでいったのと、有能な軍人達の苦労の成果によって少しづつ改革は進んでいた。ジョン・バウアー議員を初めとする国防族の議員達は今次大戦での失策に焦る大統領に漬け込む形で軍令部の提案する反攻作戦を承認させた。その作戦についての協議が安全保障会議にかけられた。

この会議は大統領・国防相を初めとする政府・軍関係者たちが出席し、今後の国防関連方針が話し合われる重要な会議。軍が分裂したグリプス戦役以降は日程にあっても行われなかったり、会議そのものが省略される場合が多くなったが、軍と政府機能がほぼ正常に戻った今次大戦では行われるようになった。

「将軍、軍令部のこの作戦を君はどうするのかね」
「小官はこの提案を歓迎いたします。兵たちは一刻も早い反攻を望んでおりますし、軍令部も乾坤一擲で繰り出したのだと考えます」

国防相や大統領を初めとする面々にレビルは答える。軍側としての総意を伝える。同席している軍の高官らも含めた上で。

「反攻作戦の提案はどのようなものか」
「ハッ、軍令部は三方面の作戦を提案しております。欧州・北米・アジア太平洋の三つの方面です」
「欧州の状況は聞いている。戦力が分散していて反攻作戦を実行に移せるほどの余裕はないはずであろう?」
「ええ。欧州方面は敵の牙城です。今の戦力で挑めば間違いなく返り討ちに合うのが関の山でしょう。」
「それはつまり、どういうことだね」
「……はっきり言って欧州を今すぐ攻めるのは無謀だと申し上げます」

レビルは大統領に今の戦線の状況を改めて報告する。欧州は一部除いて完全に敵の牙城で、
今の分散している欧州戦線の戦力では攻勢をかけるのは無謀だと告げる。軍令部総長(組織改編で参謀本部から名称変更)の藤堂平九郎総長も軍政・軍令側として告げる。

「小官も将軍と同じ思いです。今の欧州の戦力では戦線の維持で精一杯で、攻勢などとても無理です」
「そうか……なんとしてもノイシュヴァンシュタイン城を取り戻したいのだがな……」

大統領は個人的に兵団の欧州方面の軍司令部の一角が設置されてしまっている、かつてのドイツの名城「ノイシュヴァンシュタイン城」を自らの手で取り戻したいという気持ちを吐露した。確かにあの城は美しいし、城愛好家や歴史家達を始めとして、国民は一刻も早い奪還を望んでいる。しかし現在の軍の実情から言って、欧州での攻勢は行えないとのことがはっきりと告げられた。しかし、この時の大統領は任期中にノイシュヴァンシュタイン城の奪還を見ることは叶わなかった。開戦時の後手後手に回った失策が国民の反感を買ってしまったからだった。この年に行われる大統領選挙の予測ではその事が彼のマイナスポイントになってしまっているし、国防関連施策の失敗を漬け込む、今期大統領選の対抗候補である国防族出身の議員が急速に支持を集めている。それへの焦りで彼が国防族からの提案を受け入れたのも、レビルの復帰を容認したこと以外、行った施策の成果が芳しくない自分に焦る故であり、国防関連の失敗がなければ「可も無く不可も無く」と言った漢字で二期も再選できたはずであり、任期終了まで間がない彼が功を焦る理由であった。

「ではどこがいいのだ」
「小官はアジア太平洋方面が狙いだと考えます」
「何故だね、コーウェン中将」

連邦軍の重鎮であり、猛将と名高いジョン・コーウェン中将が発言する。この安全保障会議に出席する資格を持っているのは将官以上に限られる。だが、連邦軍内ではこの会議に出席をすることさえ嫌う事なかれ主義者も多く、積極的に出席を行うのはレビル将軍とその信任を受ける少数の実戦派の猛将・名将たちのみ。これは白色彗星帝国戦時直後の戦後処理会議にも見られた事で、今に始まったことではない。しかし今後の国運を占う会議でこの体たらくのはどうかと軍令部総長は呆れを見せている。現に改革・旧エゥーゴ系の派閥以外の派閥からの出席者はまばらで、実戦経験皆無なために、この場での発言すら避ける者がいる始末であった。

「ハワイは重要施設が置ける場所も限られておりますし、過去に帝国海軍が奇襲をかけた例があります。それにホノルルやオワフ島などを抑えてしまえば他の地域よりは攻略は容易です」
「しかし、敵の兵力はそれなりに精強だと聞くが?空母機動部隊一個群などの並の兵力では落とせるようには思えん」

ミスマル・コウイチロウがコーウェンに疑問を呈す。彼はコーウェンは一気に畳み掛けるつもりだろうが、敵兵力を見誤れば帝都を危険に晒すことにも繋がりかねないからだ。ハワイはそれほどの地域なのだ。規模は小さいが、戦略的価値はジオンの一地方基地に過ぎなかった一年戦争の時より遙かに大きくなっている。

「コーウェン君の言う通りに行った場合、空軍・海軍・宇宙軍・陸軍の4軍すべてのアジア太平洋方面の動員可能兵力をつぎ込めば万が一の時にも対処は可能だが、敵は未知数の鉄人兵団だ。情報が少なすぎる」

山南も慎重な意見でコーウェンを制する。鉄人兵団との大規模戦は連邦軍にとっておそらく、今回が初めてになる。情報の少なさを懸念している。

「それについてはアジア太平洋方面部隊から報告が上がっている。この人物らに頼ることになるだろう」

国防相は部下に諜報部が入手したある写真をスクリーンに移す。

「誰なのです。この青狸みたいなロボットは」

その写真を見た将官の一人が怪訝そうな声を上げるが、国防相が説明する。それはドラえもんの事であった。

「そうか。このロボットを今の奴らは知らんか。これは今世紀の前半に日本地域で稼働していた子守り用の「猫型ロボット」だ」
「猫型ロボット!?あの有名な!?」

会議場がざわめく。過去に猫型ロボットが存在し、人間同様の暮らしを享受していたというのは今の将官レベルがこの世に生を受けた時には戦争で衰退していた文化であり、事実である。彼らが完全に物心つく頃には消え去ったが、そういうモノがいたということは学校で習っただけの世代。ドラえもんの時代はこの時代には遠い過去になったということの現れでもあった。

「特にこの個体はタイムパトロールなどに`ギガゾンビ事件`などの功労者として記録に残る`英雄`。その名はドラえもん」
「ドラえもん…!?この青狸が!?」
「どう見ても狸にしか見えませんが……本当にネコ型なのですか」
「ええ。とても信じられませんね」

ドラえもんにとっては侮辱ものの発言が飛び交うが、ドラえもんが歴史に足跡を残した証がそこにはあった。

「日本の名家`骨川家`や骨川家と関係の深い野比家や源家、剛田家にそれぞれ鉄人兵団らしきものと戦ったという言い伝えがあります。そしてこのドラえもんが20世紀頃の日本で暮らしていた事実もあります。彼らなら我軍の力になりましょう」
「しかしドラえもんは過去にいるのだろう。どこの時代にいるかはっきりせんと…」
「少なくとも20世紀末の西暦1999年にいるのは掴んでおります。そこに我が諜報部の部員を送り込んでいます。あとは彼らの報告を待ちましょう」

兵団の情報を思い切りあやふやに思える過去の人間、しかも子供らに頼るという、安全保障会議にしてはえらく神頼みな結論が弾きだされたが、北米攻略論も兵力動員可能数の少なさを理由に支持は無かったので、一番安全策であり、石橋を叩いて渡るようなハワイ攻略論が大統領に認可され、こうしてハワイ攻略作戦は決定された。

ドラえもん達はこうして地球連邦の時間を超えた思惑に使われることになる。そしてさらにおまけで強力な能力者がついてくるとは連邦軍も予想だにしていなかった。



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