ボスガンに叩き斬られた南光太郎はベットの中でふと、夢を見ていた。
かつてBLACK時代に偶発的に並行世界へ飛んだ時のことを。
それを端々とだが、思い出していた。

「ハッ!?お菓子を踏んだ…これは!」

彼は一見、どこにもいそうな青年であるが、
その実態は悪の組織「ゴルゴム」に改造された改造人間―全ての悪の元凶であったはずの組織であるバダンや正義を守ってきた側である、
歴代の10人の仮面ライダーすらもその存在を知りえなかった真の`歴史上最後の仮面ライダー`。
いわば ZXに続く11号ライダーとも言うべき存在「仮面ライダーBLACK」なのだ。
彼はZXまでの歴代ライダーがバダンとの戦いにひとまずの決着をつけて長き眠りについた後に日本を守っていた人物でもある。
しばしの休息を経て、ゴルゴムとの戦いが佳境に入りつつあったこの時、彼は不思議な体験をする事になった。

−とある日、彼は愛車の一つ「ロードセクター」と共に自身の体に埋め込まれた「キングストーン」が偶発的に引き起こした摩訶不思議な現象より姿を消す。
彼はどこに行ってしまったと言うのか?

―彼が元居た地球とは別の西暦2000年代序盤 東京 

「…ここはどこだ?」

光太郎は気がついたら見知らぬ地に居る事に気付き、あたりを見回す。
すると、あたりのポスターに「風華」と言う文字が書かれているのが見えた。
「聞いたことが無い地名だな…まさかゴルゴムの仕業か!?」
彼は口癖であるこの台詞を発すると、すぐさま辺りの散策に出た。

歩いて行くと学生が多いのがわかった。どうやら自分がいるのは学校の近くのようである。
そして町内掲示版に貼られている一枚のポスターに自然に目が行く。
そこには「警備員募集中…ご連絡は風華学園まで」と書かれていた。
突然の事なので生活費を持ち合わせていない彼にとってはうってつけの仕事と言えた。ヒーローと言えども生活費の確保は必須なのである。
手持ちの携帯電話ですぐさま掲示板に書かれている番号に電話をかけた。電話すると、ついたらすぐ面接になるとのことなので、
着ている服の襟を直してとりあえず身なりを整えるとロードセクターを駆って面接がある場所―風華学園に向かった。

―風華学園内

「ここか…」
手短な所にロードセクターを止めると、学園の中に入る。見たところのどかな学園の風景が広がっている。
腕時計を見ると午後になっているようなので人通りは少ない。とりあえず正門から入ってみる。しばらく歩いていくと、横からなにやら物騒な音がした。
「誰だ…貴様?」

振り返ると銃を持った一人の少女が立っていた。青みがかった長い髪の毛が印象的な美少女であった。

「そういう君は誰だい?学生のようには見えないが」
「失礼な!これでもこの学園の学生だ。…お前の名前は?」
「南光太郎。警備員のアルバイトの面接を受けに来たんだけど…ところで…頼むからその銃を下ろしてくれ…」
「…おっと。つい癖で。貴様に一つ忠告しておく。ここのバイトはかなりキツイから覚悟しておけ」
「そ、そう。君の名前を教えてくれないか」
「久我なつきだ。それじゃ私は用があるからこれで」

「ありがとうなつきちゃん」
光太郎はなつきと別れると、面接の場所である学園敷地内にある理事長の邸宅に向かった。
(ふう。これで学園内に顔見知りが出来た…ひとまず安心だ)
彼は安堵の表情を浮かべると、改造人間としての身体能力を活用して地を駆けた。

 

10 分ほど走っていると、とんでもなく巨大な洋館が目の前に現れた。明治かそのくらいに建てられたのだろうか。
そんな威厳と壮麗さをただ寄せている。思わず ‘学校の敷地内にこんな洋館があっていいのか?‘と感想が思い浮かぶ。
玄関の呼び鈴を鳴らすとピンクの髪の色をした10代後半ほどに見える「姫野二三」と名乗るメイドが応対をした。
光太郎は彼女にこの館の主の部屋に案内される。目的地に着くと、一応ドアは自分で開けた。

 

 

「失礼します」
ドアを開けてとりあえず挨拶をすませる。次の瞬間、彼は驚きの光景を垣間見る事になった。
彼を面接する張本人である理事長はまだ小学生ほどにしか見えない少女だったからである。
「初めまして。私がこの学園の理事長を務める‘風花真白‘です」
「南光太郎です。…あなたがこの学園の…いやあ何と言ったらいいのか…正直驚きました」

真白はそんな光太郎の驚きが新鮮に思えたのか、微笑を浮かべる。

「光太郎さん、さっそくですがアルバイトの条件についてですが…」
「はい」
その後の20分ほどの面接の中で、光太郎は格闘技なら自信があると力説(仮面ライダーなので当然だが)した甲斐もあって、無事採用された。
こうして生活費の確保に成功した南光太郎は風華学園の警備員としての生活をスタートさせ、
その日の夜から仕事が始まった。最初の仕事は「高等部の夜の見回り」と言うものだ。警備員室に荷物を置くと、校内の見回りを始めた。
「ここは…っと。よし問題ないな」

彼は懐中電灯を片手に職員室の周辺を見回りしていた。
夜なので校内に残っているのは当直の教師くらいだろうが、
念に念を重ねるに越したことはない。こうしてゴルゴムの悪事を突き止めたのも一度や二度ではないのだから。

「そうだ。この際だから外も見回りしておくか」
そして校内から外に出る通路から一旦外に出てみると、地響きと轟音が同時に起こった。

「何だあれは!?」

彼の目に映ったのは何やらSF映画にでも出てきそうな怪物と一人の女性が戦っていると言う、ある意味映画のように奇妙な光景だった。
彼は仮面ライダーとしての性が疼いたのか、すぐさま現場に駆け足で向かった。
光太郎が目撃した、怪物と戦っている女性であるが、彼女の名は「杉浦碧」。この学園の臨時教師として高等部の日本史を担当している。
ちなみに年齢は‘じゅうななさい‘を自称している。

「まったく今日は厄日なの〜!?せっかく論文が上手くいったと思ったら‘オーファン‘がわんさか出るし、パソの調子は悪いし…うわぁっ!」

愚痴を言っている間隙に正面の相手とは別の所から攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。
受け身を取る間もなく地面に叩きつけられるかと思われたその時。一人の男が彼女を救った。

「大丈夫かい?」

その男は服装や髪形などのあらうる点で‘1980年代からやってきました〜‘との印象が強く与えていた。しかしその姿に碧はふと不思議な既視感を覚えていた。
「あ、う、うん…。き、君は?」
「南光太郎。アルバイトの警備員ですよ。何なんですかこの怪物は?まるでハリウッド映画だ」
「説明したいけど、今はそれどころじゃないって〜!」

オーファンの攻撃が碧をお姫様だっこしている光太郎に迫る。

「…くっ!」

なんとか攻撃をよけて碧を安全な所に下ろす。

「君、何を…!」
「ここは任せてください!こういうのは俺の役目ですから」
「や、役目って…こいつらは君の力でどうにかできるような物じゃな…!?」
「大丈夫ですよ。俺はこういう存在には慣れてますから」

そういうと光太郎はいったん、跳躍でちょうどいい場所を確保すると、あるポーズを構る。
それは彼の体の改造人間としての機能を起動させるためのポーズであった。

「そのポーズ…まさか!?いや、そんなまさか」
そのポーズに見覚えがあったらしく、様子を見ていた碧が驚きの声を出す。それもかなり驚いているようで、目を白黒させている。
「化け物ども、この学園の平和を脅かす事は断じて許ざん!!…変んんん身ッ!!」

ポーズを取り終えると、光太郎の体に機械のベルトが出現し、まばゆい光が彼を包みこむ。
彼が変身する瞬間、碧の心の中に浮かび上がっていた、光太郎への既視感の正体が解明された。
まだ年端もいかぬ子供の頃に憧れを抱き、自分の信条にもなっている「正義は勝つ」事を体現した存在の一つ。その名は―

「仮面ライダー、BLACKッ!!」

これが彼にとって、この世界での初めての変身であった。思わぬ出来事であったが、
怪物と一人で戦っている女性を放っておける性格ではないと言う事は彼自身も自覚していた。
正にイレギュラー的な事態だが、これが風華での光太郎の戦いでの初変身であった。

 

‐そうそう。それからだっけ。あの子達と関係持ったのは。
それにしても、なのはちゃんと`碧ちゃん`、ティアナちゃんと`舞衣ちゃん`って今から考えてみると、思い切り声似てるんだよなぁ……。

光太郎は風華学園の警備員のバイトをしつつ、彼女らの様子を見守る事にして、しばし生活を送った。
だが、運命は残酷といえるほどの進行を見せ、次第に同じ能力を持つ「HIME」の争いとなっていく。光太郎はそれを止めようと奮闘するが、
叶わず、次第に脱落者が増えていく。やがて、ついに光太郎から見ても微笑ましい関係であったはずの「鴇羽舞衣」と「美袋命」
が争いあうという状況が発生してしまい……。

「2人ともやめるんだ、こんな事誰も望んじゃいない!!」
「光太郎さんは黙ってて!命は……命は……巧海を!!」

‐舞衣ちゃんは精神的に脆い面があったが、弟の巧海君が目の前で消えてしまった事でそのタガが外れてしまった。
2人を止めるには変身しか手段はなかった……。それが俺が碧ちゃんの願いに答えられる唯一の方法だった。

光太郎は風華学園に身を置いていた時期にHIMEの一人であった「杉浦碧」と仲が良かった。
碧曰く、「子供時代に見ていたヒーローを思い出すからね〜」との事で、光太郎もそれは満更でもなかった。
それ故に大学院生である自分と違い、まだ高校や中学生にすぎない他のHIME達の大半は精神的に弱い。それが争い合う原因となる事を危惧
していた。それが最悪の形で起こった。それを悔やみ、目の前で起こるこの戦いだけでも止めるために変身した。
そしてその後に黒幕を「消滅」させ、血で血を洗うような戦いに一応の決着をつけた。

‐その後、あの世界がどうなったのか。ライドロンで確かめる事は可能だが……俺は信じたい。あの子達の心を。

光太郎はあの世界がどうなったのか、気になってはいた。それ故、夢を見たのだろう。時空管理局とはなのはやスバルとの交流以後、
関係を持っているので確かめる手段はある。あのような争いが起きていないことを祈るばかりの光太郎であった。
最近、HIMEと似たような能力を持つと思われる少女の姿が夢に出てくるようになったのも
心の欲求にキングストーンが応えたためであろうかと考える。

 

‐それは光太郎も知る、ある少女が後世に血筋を残した証であった。夢の中でその少女が言った`ユメノアリカ`という言葉。
それは光太郎があの世界で見せた希望が残した証であるかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‐欧州にて戦力再編を急ぐ地球連邦軍。戦力不足を補うために旧型扱いとなっていた「ブラックタイガー」をも倉庫から
引っ張りだして戦力として加えるという涙苦しい状況となっていた。一線機である「コスモタイガーU」は欧州配備分の稼働率は
激戦に次ぐ激戦で定数の半分まで落ちており、撤退の時間稼ぎにハミングバードによる爆撃をローテーションしているという
有様であった。

「欧州空軍の稼働率は低下している。損耗に補充が追いつかないというのはどうにかできんのか」
「現在、新型を含めて戦闘機などを生産しておりますが……」
「初期配置分のコスモタイガーは在地撃破分も含めて消耗してしまった。しょうがないから、
ブラックタイガーを引っ張りだして動かしているんだぞ」
「わかっております。そのために将軍が本土防空部隊の一部を移動させて欧州へ向かわせているようです」
「将軍閣下が?それはまた凄い」
「それと将軍が直接戦線の指揮を取られるそうです」
「将軍閣下自ら?」
「はい」

欧州戦線はダンケルク陥落が決定的となった結果、予断を許さない状況となっている。その為に
レビルが自ら戦線の指揮を取る事となり、欧州に向かっている。

どうやって向かっているというと……。

 

‐インド 改ビッグトレー級陸戦艇「紀伊」(ビックトレー級の欠点を是正し、1.5倍にサイズをストレッチし、装甲を強化した戦後改修型)艦橋

「将軍、ありがとうございます。まさか私を乗せてくれるなんて……」
「なあに、お安い御用だ。君のVFはしっかりと整備させよう」

フェイトは日本を出発した後、東南アジア地域でレビル将軍の指揮する改ビッグトレー級陸戦艇に回収されていた。
彼女は拾ってくれた艦の指揮官が連邦軍の実戦部隊最高指揮官である事に驚きを隠せなかった。最高指揮官は
普通は作戦司令部かどこかに篭って後方から指揮を取るものと思っていたが、最高指揮官までもが敵の
矢面に立つというのはどこか近代以前の時代の戦争を思わせる。

レビルの容貌は一年戦争当時とほぼ変わらぬもので、優しげな風貌の老人と言った感じであるが、
軍服を着ている時の表情はまさに「軍人」そのものだ。

(もうかなりのご高齢なのに前線に立つなんて……凄いなぁ)

フェイトから見ても自ら前線で指揮を取るレビルには凄い何かを感じさせていた。それは彼が生来持つカリスマ性であった。
レビルは初等教育から士官学校までのすべての過程を「首席」で卒業した生まれつきのエリート。
その経歴からインテリと思いきや、むしろ実戦派であり。若き日は陸軍の戦車兵だったが、宇宙に行くために空軍に移籍した。
宇宙軍設立後は空軍から更に移籍。艦の指揮にも適応してみせるなどの出世コースを歩み、一年戦争では官僚主義的思考が
蔓延した連邦では数少ない実戦派軍人として名を馳せ、『帰還』後の白色彗星帝国との本土決戦……。それらを経た
彼の持つ経験は後継者育成が遅れている連邦では貴重とされ、「元帥」として生涯現役である事が彼の新たな宿命であった。

「フェイト君、時空管理局から何か連絡はあったかね」
「は、はい。管理局は連邦と今後も友好を保つ事と、物資の援助を確約したそうです。これで私やなのはのデバイス用カートリッジの
心配は無くなりましたが……右派はこの世界のことを快く思ってないようです」
「政治派閥というのはそういうものだ。全てが快く受け入れてくれるとは限らない。特に我々は科学と魔術が併存する世界だからな」
「はい。でも驚きました。吸血鬼も実在するなんて」
「`彼`の事か。彼は`過激`だからな……いやあの辺すべてか?」

彼とはアーカードの事。この時期はフェイトのみがその存在を知っていた。執務官である都合上、地球連邦が有する機関なども
調べる必要があったためだ。そのため今はHELLSING機関や第13課、ローマ正教、イギリス清教などを中心に調査中である。

「ええ。ヴァチカンの13課といい、HELLSING機関、イギリス清教……生半可な宗教とはわけが違いますね」
「十字教は世界でも有数に殺し合いをしてきた宗教だからな。あれの狂信者レベルは`人外`だ。
特にアレクサンド・アンデルセンは」

連邦軍最高指揮官であるレビルをして、アンデルセンを初めとする13課の面々はこう言わしめた。人外に到達しているという意味で、だ。
フェイトはミッドチルダにある聖王教会の人間がもし、13課やイギリス清教の面々を見たら裸足で逃げ出すに違いないと推測した。

「欧州はこれからどうなるんでしょうか」
「血肉踊る、弾丸の飛び交う阿鼻叫喚の地獄になるだろう。君には辛い出来事が多く起こるだろうが、挫けないでくれたまえ」
「は、はい」

フェイトはビックトレーの艦橋でこれから起こるであろう過酷な戦いを思い、窓から空を仰ぎ見る。

‐なのは、今行くからね……。どんな事が起きても私は……。

どんな状況でも心の輝きを見失わない強さを持つこと。それはなのは達や箒が目指し、そして南光太郎達が出会ったHIME達が願ったもの。
そしてHIMEの後に出現するであろうもう一つの力‐こう呼ぶべきか。乙HiME‐を手にするであろう、
ある少女が見せる輝き。今、フェイトの心にも光が走ろうとしていた。

 

 

 


-あとがき。

舞HIMEシリーズを出しました。今や一昔前のアニメとなってしまいましたが、個人的には好きなアニメでした。

 

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