――ある日、なのはは自分の世界で放送されていたアニメとこの世界で実働しているスーパーロボットや兵器にその姿や性能に於いて差異が見受けられる事をデータベースから知り、驚いていた。

「前にはやてちゃんの家で見たアニメだと、確かマジンガーZの馬力は最終仕様で、80万馬力だったけど、ここだと95万馬力……アニメと実在兵器の差と言えばそれまでだけど、なんだか不思議だなぁ」

なのはが見ているのは元祖スーパーロボットのマジンガーZのデータであった。なのはの世界では、『漫画』として存在しているが、漫画で描かれたマジンガーZと、この世界において、過去に実在したマジンガーZとでは、形状や性能において、差異が多く見受けられた。特にエンジンの出力においてはこの世界の技術力が優れているためか、15万馬力も差がある。95万馬力という数値は後継機のグレートマジンガーですらも、カタログスペックでは凌ぐ数値であるが、グレートマジンガーがZより優れている由縁はどこにあるのか、なのはは首を傾げた。

「なんでだろう?これだとグレートマジンガーよりZのほうがパワーあるんだけど……」

「グレートマジンガーがZより優れているのは装甲材の差と内部構造とエンジンのマッチングが取られているからさ」

「アストナージさん。どうしたんですか今日は」

「今日は非番でな。ちょうど本を借りようと来たんだけど、お前がここにいるのは予想外だった」

日頃、ラー・カイラムの搭載メカを整備するアストナージであるが、この日は久々の非番だったとの事。アストナージはなのはにメカニックとしてマジンガーZとグレートの整備をした身から、Zとグレートはどこで差がついたのかを説明する。


「マジンガーZは当初は今のビューナスAと同じ位のパワーだったんだ。当初はそれで十分戦えたんだが、次第に敵が強くなっていって、Zはエンジンを載せ替えを伴う大改装を二回行なった。だが、装甲については超合金Z以上のものが無かったから装甲厚を増やしたりしたりの小手先の対策は行われたが、根本的には建造当初から変わってなかった。それがミケーネ帝国と戦った時に裏目に出てしまったんだ」



それはミケーネ帝国との戦いで兜甲児とマジンガーZが辛酸を舐める事になってしまった要因の一つであった装甲面での強化の立ち遅れの、アストナージなりの説明であった。無敵とさえ謳われたマジンガーZの最期はミケーネ帝国の戦闘獣軍団の前に膝を屈した、悲劇的結末であると。

「ああっ……!」

その時のマジンガーの姿が映像ライブラリーに映し出されるが、その姿は悲惨の極み。無敵とさえ謳われた姿はどこにも無く、落ち武者のようなボロボロの姿。刀折れ矢尽きる、といった様相で、崩れ落ちていくZ。鉄の城との諢名を誇ったスーパーロボットは無残にミケーネ帝国の前に屈した。操縦者の兜甲児も瀕死の重傷で、殆ど意識のない状態で操縦桿を握っているだけだ。と、そこに颯爽とグレートマジンガーが出現するのだが、その登場の仕方があまりにも“できすぎてる”のだ。



「あのぉ……なんかこれ、できすぎてるような気が」

「だろ。だけど、兜博士と鉄也によると、グレートマジンガーの最終調整に手間取って出撃が遅れたからあんな登場になったらしい」

「最終調整?」

「グレートマジンガーは確かにZより飛躍的に高性能だ。だけど、整備にかかる時間がZより長いんだよ」

「長いって……もしかしてスクランブルダッシュのせいですか?」

「そう。飛行能力を持たせたおかげで、あのへんの回路構造が複雑になって、思ったより衝撃に弱い構造になってしまったんだ」

それはグレートマジンガーが有する、唯一無二にして、最大の弱点。全般的にZより優れているグレートがZに劣るただ一つの部位。それはスクランブルダッシュへの被弾による機能停止である。

「それでスクランブルダッシュを展開したままでの地上戦闘は避けてたんですね、鉄也さんは」

「そう。あそこの付け根を攻撃されたら一瞬、全機能が停止してしまうのがグレートマジンガーの持つ唯一つの泣き所でね。グレートブースターが造られたのはそれのカバーをするためでもあるんだ。スーパーロボットと言えども完璧ではないって事さ」


――スーパーロボットと言えども、どこかに弱点と言える場所はある。もっとも、マジンカイザーや真ゲッターロボともなれば、神に等しいために弱点は無いが、そこまで行ってしまうと人智を超えているのであるが。あのグレートマジンガーにさえ弱点があるということに、なのはは意外そうであった。


「なのはちゃん、今日はここにいるのね」

「美琴さん」

ふらっと御坂美琴がやってきた。ハワイからこの方、出番が回ってきてないためか暇そうである。人型機動兵器が跳梁跋扈する時勢ではいくらレベル5の超能力者と言えど、地上での肉弾戦が生起しないかぎりは出番が回ってこないため、ここのところは黒子共々、暇であった。

「暇そうですね」

「ここのところは出番ないからね。あんなのがノシノシ歩いてちゃあたしも形無しって事」

「まあね。君の場合は肉弾戦で真価を発揮するからね。ハッキングは量子コンピュータにもやれるそうじゃないか」

「ここだから言いますけど、学園都市じゃハッキング結構やってましたから……事情はあるんですけど」

「あの時代の学園都市には色々と裏があったと聞くからね」

「ええ、まぁ」

美琴はなのはには言えそうにない事情を元の時代の学園都市で抱えている。妹たちの事だ。この時代で言えば、エルピー・プルのクローン達『プルシリーズ』に相当する自らのクローンを20000体も実験用に造られ、しかもその半数は実験で既に死亡している事を。人を実験動物のように扱うことなどなのはが知れば、烈火のごとく怒るだろう。それにあの年齢で学園都市の暗部を知るというのも酷だ。アストナージと美琴はそれとなく流す形で話題を変える。


「おっ、Zガンダムじゃないの。歴史でも調べてるの?」

「いえ、あたしの世界のアニメになっててあるのと、この世界で本当にあるモノだと違いがあるのが気になって、それで」

「どこの世界にもアニメってあるのね……」

「ええ。21世紀の始めまではだいたい同じような歴史辿ってますからね」

「で、どうなの?」

「あるものと無いものがありますね。その辺面白いですね」

「へぇ。ガンダムはあるんだ」

「はい。でも、Zガンダムのパイロットのカミーユ・ビダンさんってこんなに激情的だったんですね。もっと穏やかな人だと……」

「何、君の世界のアニメだとアイツ穏やかなのか?」

「いえ、確かに一部にエキセントリックな台詞ありますけど最終的には穏やかに」

「マジか、それ?俺の知ってるアイツはエキセントリックどころじゃ無かったぞ」

驚くアストナージ。カミーユ・ビダンが穏やかと言われると、グリプス戦役時の言動はエキセントリックと言った方が正しい。例えば、ジュドーやシーブックら後輩たちの間で一番有名な台詞の『抵抗すると無駄死にをするだけだって何でわからないんだ!!』、かつての宿敵のジェリド・メサに向けて発した『貴様の様なのがいるから戦いは終わらないんだ!消えろぉ!!』など、全体的に激情的な物言いをすることが多く、精神崩壊から立ち直って、正気の状態に戻った姿で改めてジュドーが会った際、カミーユのかつての上官であったクワトロ・バジーナが本当の姿である、シャア・アズナブルとして、ハマーン・カーンと同じ道を選んだ事をジュドーが知らせると、カミーユは烈火のごとく怒ったとの談。彼としては、シャアがグリプス戦役時にあれだけ今は亡きブレックス・フォーラの信頼厚かったのにも関わらず、かつての自らの行為が偽善であると言わんばかりに隕石落としを敢行したのが許せなかったのだろう。

「それでアイツ、エゥーゴに入った時の待遇は誤解されやすいが、中尉待遇なんだ」

「えぇ〜!?本当ですか!」

「それで軍に戻った時は中尉として復帰してる。最もアイツの性格だと、最前線で先鋒してるほうが性にあってるがね」

アストナージは旧エゥーゴ出身である。そのためカミーユとは戦友の仲であるので、カミーユの性格を熟知していた。そのため穏やかな姿を想像出来ないのだろう。

「で、Zの後にZZが来て……それで間にSガンダムが挟まって、νガンダムに行くのはだいたい同じです。アストナージさん、νガンダムって本当に急ごしらえの機体なんですか?その割には凄い性能なんですけど」

「ああ、それはあたしも思ってました。確かνガンダムって急いで作った割りには無敵だったですよね?それってなんでなんです?アニメ好きとしてはすごーく気になるんですけど」

美琴となのはの疑問は最もだった。確かにνガンダムはアムロの注文通りには仕上がっているとは言いがたい急造品だ。しかしアムロの手がけた基礎設計が優秀である事、RX-78系統の正統後継機として造られた事による素性の良さ、歴代ガンダムの平均能力データをを最新技術でアップデートしていた、サイコフレーム搭載などの要因で歴代随一のバランスに優れた性能を持つに至った。それをわかりやすく説明してやるアストナージ。

「そーいう事だったんですか」

「ああ。それでνガンダムの真の姿がHi-νガンダム。アムロ大尉の設計に忠実に造られたモデルで、結果的には強化発展型になったガンダムさ」

Hi-νガンダムこそ言わば真のνガンダムであるとアストナージはいう。基礎設計に最も忠実で、νガンダムにはない機能が備わっている完成型だと。今はテストを終え、アナハイム・エレクトロニクス社に戻されて、アムロ・レイ用としての最終調整中だとの事。


「でも、これだけガンダムが有名だとプラモとか出てるはずですよね?ガンプラとか言って、あたしの世界じゃプラモデルの人気者なんですけど」

「あるよ。アナハイムの玩具部門が精巧な奴を売りさばいてるんだよ。開発チーム監修なんて触れ込みの奴なんて一万円以上するぞ」

「え?円ですか?ドルとかじゃ無くって?」

「連邦政府が造られた時、統一通貨にするって案あったんだが、昔のユーロとかも何だかんだいって揉めただろ?その時も結局揉めちゃったんだよ。ドルにしろとかポンドにしろとか……なのでふるいに掛けられて地域別に5つ程の通貨を存続させる事になったんだよ。ちなみにアジアは円。ヨーロッパはユーロ、南北アメリカと太平洋地域はドルとか言った感じで。だから地域別に経済を分けたわけ。妥協の産物なんだけど、宇宙時代になったから統一する動きもまた出てきている。プラモの値段一つとっても地域で違うのは不便だからね」

「どこも大人の事情ってあるんですね」

「まぁね。お、そうだ。宇宙戦艦ヤマトは調べないのか?」

「ヤマトかぁ。ウチのお父さんが子供の時に続編がやってたって言ってたなぁ。この世界でもヤマト無敵なんですか?」

「ヤマトも前の戦いの白色彗星帝国戦でこっぴどくやられたからな。一歩間違えれば特攻してた」

「特攻!?そんな……」

「テレサがいなければヤマトは間違いなく特攻を選んだだろうと言われている。たしかその時の映像が……あった。当時、ヤマトの救援に駆けつけた残存艦隊が撮影したヤマトの姿だ」

「ひ、ひどい……!」

「こ、これは……!」

美琴もなのはもその惨状に絶句した。あの宇宙戦艦ヤマトの美しいは無く、全ての砲塔を使用不能にされ、艦載機のコスモタイガーの残骸が周りに漂う、幽霊の如き哀れな姿を晒していた。対する白色彗星帝国の最大の切り札である巨大戦艦――地球連邦軍には白色彗星帝国戦当時に既にヱクセリオン級、ヱルトリウム級が就役していたためにそんなに常識外れではない――は新マクロス級や数多のスーパーロボットらの必死の攻撃にも関わらず、戦闘能力は衰えず、逆にコン・バトラーVとボルテスVに大打撃を与える姿が映し出される。スーパーロボットを以ってしても白色彗星帝国最大最強の戦艦は抑えられず、その猛威を見せつける。そして映像はそれより2時間前の時刻の地球連邦軍本星防衛艦隊の当時の旗艦だったアンドロメダの壮絶な最後を映し出す。これはヤマトの通信レコーダーに残されていたアンドロメダ艦長の土方竜大将の今際の言葉も添えられていた。アンドロメダは拡散波動砲で白色彗星帝国の本体の姿を晒し、撃破に成功したもの、出現した巨大戦艦に対し、麾下の友軍とともに巨大戦艦に果敢に砲撃戦を挑むが、巨大戦艦の戦闘能力を削ぐことには成功するも、力負けして大破し、撃沈確実となったその姿を。

『ヤマト、生きているなら聞いてくれ!敵巨大戦艦の弱点は各ブロックの継ぎ目と下の巨大砲だ!そこを狙え!…』

「ひ、土方さん?土方さぁ――――ん!!」

これが土方竜の最期の言葉だった。アンドロメダは制御不能のまま、超巨大戦艦に突っ込む形で沈没していった。ヤマト艦長代理の古代進の悲痛な叫びがこの戦闘の悲しさを象徴していた。

「これが白色彗星帝国との戦いなんですか!?こんなの悲惨過ぎます!」

なのはは思わず感情的になり、叫んでしまう。地球連邦軍と白色彗星帝国の戦いもこまでいくと、悲惨の一言でしかないからだ。

「だが、こうしなければ地球はもっと悲惨な状態に陥っていた。だから死兵になってまで戦うしかこの時の俺たち地球連邦には残されてはいなかった」


白色彗星帝国戦は地球連邦軍が追い詰められた、一年戦争以来の戦いである。地球連邦宇宙軍の優秀な人材を喪失してしまっただけでなく、戦後にも多大な影響を残した。この巨大戦艦との交戦時、ヤマトに残された艦載機戦力は定数の4割にも満たない20機という状況。それなのに戦い続けるヤマト。宇宙空間に光が瞬く度に夥しい数の人々が死んでいくのだ。これを悲惨と言わずに何というのだろうか。そして本星の残存艦隊が合流し、戦闘を続けるも決定打を与えられず、刀折れ矢尽き、万策つきかけた地球連邦軍の前に救世主のように現れた反物質人間『テレサ』。彼女はその身を犠牲として、巨大戦艦を消滅させた。

「なんであの人……テレサさんはなんで地球を守ってくれたんですか?いくら地球を知ってても、地球は銀河系の辺境にある一惑星のはずなのに……」

美琴の言葉はもっともだった。何故テレサがいくら平和を祈っていたとは言え、その身を犠牲として地球を救ってくれたのか。その理由がわからないのだ。

「さあな。それはヤマトの連中でもなければ分からないよ。彼女は宇宙の愛に殉じたとしか言えない。それがヤマトの連中の証言だ。とにかく彼女のおかげで巨大戦艦は倒され、なんとか俺たちは勝った。実質的には負け同然の状態だったが、なんとか地球は守られた。ゼントラーディ軍の爆撃から復興してる途中にこの攻撃があったから、地球はボロボロ。完全復活には今後何十年単位はかかると言われるほどにね」

「そんな……」

白色彗星帝国との戦いで被ってしまった地球連邦の損害は凄まじく、本星防衛艦隊の主力の過半数、数体のスーパーロボット、軍の優秀な人材、地上の幾つかの元大国・小国地域……それらを合わせれば経済ズタボロ状態になっても不思議ではない。いくら火星を始めとして、移民惑星が増えてきていたとは言え、本星がボロボロになってしまったのだから財政は破綻状態に等しいのだ。つまり、勝ちと言うよりは事実上の敗戦に等しい損害を地球は受けたということが分かる。

「それで数年も経たない内にこの戦争にもつれ込んで、地上のかなりの範囲を占領されたってわけ。ハワイの戦いでかなり押し返したが、決定打じゃない」

「なんか一つの敵を倒しても、また別の敵が……って感じね。地球って何で狙われるんですか?宇宙の単位で言えば地球ってありふれた星のはずでしょう?」

「そこんとこはようわからん。天文学者じゃないから。とにかくここ数年間は宇宙人の襲来だとかが頻発してるのは確かだ」

美琴の疑問に歯切れの悪い答えを返すアストナージ。しかしそれは確かだ。地球に限って何度も宇宙人の襲来を受ける。その回数は地球連邦領の他の移民船団及び惑星と比べても、群を抜いている。それは地球の天文学者らの誰もが首をかしげている事なのだから。だが、とにかくこの時代、世界の地球連邦は凄惨な生存競争を生き残った。その証があのボロボロの姿で地球へ帰還していくヤマトと残存地球連邦軍艦隊なのだ。白色彗星帝国との戦いは地球連邦に何をもたらしたのだろうか。テレサは何故、地球に自らの命を犠牲にしてまで救う価値を見出したのか?それは当人と交流した経験を持つヤマトの当初からのクルーの生き残りでもなければ分らないだろう。なのはと美琴はそんな凄惨な戦争が起こっていたという事実に驚きと同時に悲しさを覚え、白色彗星帝国との戦いで、地球を守りたい一心で死んでいった数多の無名の者達の犠牲の上に、今過ごしている時間が成り立っているという事実に圧倒され、言葉もなかった。美琴となのはのその後の人生に大きな影響を残し、二人が不屈の精神を身につける一助となったのである。






――土星決戦、フェーベ航空決戦、地球最終決戦……3つの艦隊決戦を挑むしか手が無かった地球連邦軍。既に銀河殴りこみ艦隊に本星防衛艦隊の戦力の7割を抽出していた時勢では、残り三割の戦力を以て立ち向かわくてはならない以上、決戦を挑むしかなかった。そのために波動砲搭載艦がフル動員され、最終決戦ではバトル級空母も複数動員された。しかしそれらでも戦争の決定打とは成り得なかった。その象徴とも言える、アンドロメダの沈没は戦後、レビル将軍によって、こう総括された。

『此度のアンドロメダの一件は力に頼った末の破滅を妙実に表す事例であった。フェイルセーフ機構を軽視した設計が優秀な軍人を死なせたのだ。私は造船部にアンドロメダ級の改設を命じ、また、建造ドックが無事であった同型艦の建造継続に待ったをかけた』と。アンドロメダの悲劇的結末は自らの姉妹艦らに良くも悪くも影響を及ぼし、後の世の地球連邦軍・波動エンジン搭載艦及びヤマトに大いなる遺産を残したのだった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.