――未来世界でウィッチ達が戦うことで多くの実戦データがもたらされた。メカトピア戦争が最終局面を迎えた西暦2200年。時に黒江は愚痴っていた。彼女たちは無事にプリベンターのエージェント(臨時)の『デュオ・マックスウェル』と合流できた。三つ編み頭の青年だが、腕は超一流。普段はジャンク屋で生計を立てている。デュオに4式ストライカーを見てもらうと、デュオはうんざりした顔でこう言った。

「あんたの機体を見たが、エンジンの軸受が焼き付いてた。ものほかの部品もイカれてる油漏れもひでえ。廃棄一直線だな」

「くそ、長島飛行機め!精度の低い個体よこしやがって」

「まっ、誉エンジンって聞いて嫌な予感したけどな。こっちの記録だと『大量生産向けじゃないのに大量生産しちゃったエンジン』なんだけど、それより工業力いいあんたらのとこにしては珍しいな。町工場で作ったのこれ?」

「そ、そうなのか……あ〜くそ!レポートに愚痴書いてやる書いてやる……」

デュオからの一言に、呪いを呟く霊媒師か何かの如き様相を呈する黒江。四式ストライカーに搭載された誉エンジンが精度の低い個体で、全力運転したら壊れましたとなっては黙ってられないらしい。一方の智子はというと……。

「うわぁ〜か、かっこいい……」

デュオの『相棒』のガンダムデスサイズヘルに首ったけであった。デスサイズヘルは改修前より機体性能がアップしたのだが、武装がビームシザースにほぼ絞られた『漢なMS』である。造形も死神を思わせるため、実に中二心をくすぐる。


「アンタのお仲間、相棒を気に入ったみたいだな。まぁ中二心くすぐる外観だしな」

「いやあ申し訳ない」

「良いってこと。相棒みたいなコンセプトの機体はガンダニュウムが合って成り立つ代物だかんな。ゲリラ戦術が前提だから単機突撃するのも珍しくないし」

「ふーん。ガンダニュウムはガンダリウムと違うのか?」

「ガンダリウムは純度が高くて高性能なチタン系合金にすぎないが、ガンダニュウムは宇宙でしか造れない素材。機体のあらゆるところがべらぼーに高性能になるから、俺達のガンダムは他のガンダムと比べても高性能になったのさ。スーパーロボットかって恐れられた事もある」

「そいやあんたらのガンダムが損傷したところ殆ど記録にないな……それだけ頑丈なのか?」

「通常のMSが軍団単位で攻撃しようが傷つかないぜ。何せ元の目的が目的だったからなぁ」

――そう。アナザーガンダムの建造目的は地球圏の制圧用としてである。実際に5人の天才博士がそれぞれの技術の粋をこなして創りあげた5機のガンダムの性能は連邦軍のガンダムをも遥かに超える総合性能を誇っており、当時の連邦軍の上層部を恐れさせたほどだ。それ故に白色彗星帝国との決戦の際には要として奮戦したのだ。



「スーパーロボット並みの装甲と火力を持ちながら高機動力……化け物じゃねーか」

「そうだ。だが、相棒はまだ優しいほうだ。トロワの奴やヒイロのゼロなんてなぁ、地形変えるわ、コロニー落とすわ……」

ヘビーアームズ改の弾薬は十分に地形を変えうるほどに強力、ウィングゼロに至ってはスペースコロニーをも一撃で消滅させられる。黒江は思わず『ゾクッ』と背筋に冷たいものが走るのを感じた。

「とりあえず、おたくらはブライト艦長の指示で事前の偵察と後方撹乱を命じられたんだったな?」

「あ、ああ」

「一応の確認だが、銃は使えるか?」

「一応、オートでもリボルバーでも訓練は受けてる」

「体術は?」

「剣術なら達人だと自負しているが、殴り合いは素人に毛が生えた程度。基本的に剣術で乗り切ってきたから、殴り合いは経験なくて」

「OK。日本刀を大事に使いな、あいにく持ち合わせに無くてね」

「数本で事足りるさ。それくらいは持ってきてる。おい穴拭!見とれてないで行くぞー」

「あ、はい」

と、いうわけで三人は鉄人兵団本部と繋がる重要拠点に潜入し、破壊工作に打って出た。兵団はベルギーとスイスとの地下トンネルを掘っていたらしく、かなりの距離である。

「通路内のデータはハッキングしてある。補給物資運搬と連絡用に掘った通路らしい。昔から要塞とかにはこういう通路はつきものさ」

「へえ……」

「あんたら陸軍の軍人だろ?知らないのかよ?」

「私達は航空畑で、陸戦は疎いんだ。どちらかというと空軍さ」

「ああ、なるほどね。そいや帝国日本は空軍持ってない軍隊だっけ」

「ああ。上の既得権益とかで潰されたりして設立がされないんだ。もっともこの世界からの情報のおかげで機運が高まって来てるけど」

「既得権益ってのは嫌だねえ。俺もジャンク屋してるが、大手相手だと足元見られるんだよなぁ」

「政治屋とかって新しい動きがあると潰そうとするが、どこも同じみたいだな」

「既得権益を潰されるのが怖いのさ。例えば、この時代から200年前の日本でも、新聞がインターネットに対抗したけど、結局はインターネットのほうが若者に信用力を持ったって話があったが、新しい動きをしようとするには衝突を覚悟でしなけりゃダメってことさ」

「だなあ」

黒江はデュオの言に同意する。既得権益を守りたいが故に新しい何かに抵抗する動きはどこにでもある。例えば扶桑皇国陸軍は事変前に戦車戦力の運用法を第一次大戦と大差ないとし、その思想で戦車を作ったら役立たずとの烙印を実戦で押され、大陸領土を喪失した。カールスラントの誇る戦車群に触発され、新型車の開発に躍起になったのは事変後で、黒江としては情けないと思っている。(この一言が後に彼女が色々と画策するようになる要因となったかは定かではない)

「ん〜…」

「どうした穴拭」

「なんかこう……狭い道を忍び足で歩いてると陰気くさいっていうか……」

「我慢しろ。忍者がよく城に忍び込んだろ?あれだと思え」

「う〜〜ん」

智子はこういう隠密行動に抵抗感があるようだった。普段、華々しく最前線で戦闘をしている分、そういう事に違和感を持つようである。これは人同士の戦争が久しく行なわれていなかった故の考えであった。しかし実際に飽きるほど戦争が起こっているこの世界では諜報活動など当たり前に行なわれている。その違いだ。三人はデュオが素人の二人を引っ張る形で行動し、潜入捜査を行っていく……。










――ダブルマジンガーの激闘は続いた。

『トールハンマーブレイカーァアア!!』

『ダブルサンダーブレイク!!』

マジンカイザーとグレートの雷鎚が乱舞し、鉄人兵団を破壊していく。スイスの市街地で戦うダブルマジンガーのボディには傷一つない。既に道路や旧市街地の至るところには、マジンガーブレードやカイザーブレードに切り裂かれ、『死亡した』ザンダクロスの残骸が散乱している。その屍を踏み越え、進撃する。

「ふっ、数だけは多いが、バジュラや白色彗星帝国、宇宙怪獣ほどじゃ無い。このまま蹴散らすぞ!」

「おうよ!」

グレートとカイザーが共に並び立つ様は、実現しなかったマジンガーZとグレートの共闘を思わせた。マジンガーZを相棒のように思っていた甲児は修理を望んだが、Zの損傷度が甚大であったがために、再建造に等しい手間がかかることやグレートマジンガーとの総合面での性能差が埋めがたいものがあるという事で、Zが表舞台に戻る事は見送られた。幸いにもフレームは無傷であり、ゴッド・マジンガーへ改造・流用された。最近ではドラえもんの全体復元液により、獣魔将軍との戦いの場に残されたアイアンカッターの残骸からZを復元できる可能性が生じてきたので、復活の根も出てきたものの、戦時中である故に回収のめどは立っていない。




『グレートタイフーン!!』

『ルストトルネード!』

ダブルマジンガーの必殺技が炸裂し、兵団を塵にしていく。グレートタイフーンが吹き飛ばし、そこにルストトルネードが塵にするという二段構えの攻撃。これに怯んだのを追い打ちするかのように、大技を畳み掛ける。

『ダブルバーニングファイヤー!』

ファイヤーブラスターとブレストバーンの同時照射。これで何十万といた軍団も壊滅的打撃を受ける。尚も進撃を続ける兵団に呆れつつも、グレートマジンガーとマジンカイザーはそれを迎え撃った。

『さて、行くか!うぉおおおおおっ!ファイナルカイザーブレード!!』

マジンカイザーのカイザーブレードは取り回しし易いマジンガーブレードサイズの剣の他にもある。それはマジンカイザーの真の操縦者の証である大剣。グレートソード相当の大きさでありながらバスタードソードの切れ味の性質を持つ『この世で一番硬く、折れず、尚且つ切れ味がある西洋剣』である。胸のエンブレムが剣化して創りだされるそれはマジンガー系最大最強の剣である。それを構え、スクランダーの推力を全開にして突貫する。

『俺もあれをやるか!サンダーブレード!』

グレートはサンダーブレイクを放つ時に空に電気エネルギーを放電し、落雷を発生させるのだが、エネルギーをマジンガーブレードで受け、剣に350万ボルト(グレートマジンガーは改修が数度行われており、この時は2度目の改修で、スペックが底上げされた最初である)の電気エネルギーを蓄える。それを纏い、カイザーに続く。投擲して敵に叩きつける戦法が市街戦である都合上、使用を控える必要がある故に取った戦法だった。






――二体の魔神の戦いは衛星を通して生中継されていた。それを複雑な思いで見つめる眼があった。リリーナ・ドーリアン外務次官であった。『侵略者には死あるのみ!』がここ最近の地球連邦の考えで、ガミラス帝国や白色彗星帝国を完全滅亡に追いやっている。両帝国は傍若無人な支配者に統治されていたとは言え、国の体を成していた。ヤマトが行った戦いをリリーナは『やりすぎではないか』と考えてはいた。白色彗星帝国戦で古代進が見せた自己犠牲は大昔に日本人が持っていた精神の発露であり、自らを犠牲に地球を守ろうとしたのは理解できた。そして今、過去に自分に苦言を呈した剣鉄也の戦いを見ている。

(人々はヤマトを賞賛し、平和は勝ち取るものだと理解した。そして、あの方達も……。これがあなた方の戦いなのですね、剣鉄也……)

剣鉄也の存在意義は戦いにある。それを否定されてしまえば、彼はただの孤児でしかない。が、平和のために戦うという彼の本心を理解した、鉄也の願いを汲み取る。

「外務次官、そろそろ反メカトピアレジスタンスのリーダーとの会談のお時間です」

「分かりました」

そして彼女もまた、彼女なりの戦いをする。メカトピア本星で軍政が瓦解したであろう『未来』で政権を握るであろうレジスタンスのリーダーとの会談を行い、彼らが平和を勝ち取った後は彼らが国の未来を作るのだ。その暁には地球連邦は援助を惜しまない。戦時は戦時、平時は平時なのだ。レジスタンスのリーダーが地球に来れるほどに本星での政権側の状況は末期的症状を呈しているのが分かる。


「この戦争はあと数ヶ月、いや数週間もすればメカトピアで政権が転覆して終結します。その時にわだかまりを捨てられるか、私達は試されるでしょう」

「外務次官、地球とメカトピアはどうなるのでしょうか」

「宇宙は地球人という一種族のものではありません。分かり合うのです。過去に敵対していても、未来においては友。そう考えるのです」

リリーナはドーリアン性に戻り、外務次官として経験を積んだ現在では『地球連邦の良心』ともされる敏腕外務官である。そのためここ最近の政権は彼女を活用する事で人気を得ていた。彼女も自身が人身御供にされている自覚を持ちつつも、自分なりに立場をわきまえつつ有能な外務官として振る舞う。それが過去の戦争で散っていった人々への彼女なりの贖罪かもしれなかった。彼女は会談が行われる場所に部下共々、足を運んだ……。





――スーパーヒーロー達と兵団陸戦部隊の激闘が展開される最中、なのはは内心でドラえもん達の身を案じ、内密に念話でドラ・ザ・キッドに連絡を取る。キッドの親友テレカを介しての会話である。

(キッド君?あたしだけど、ドラえもん君達大丈夫かなぁ?)

「なあに、ドラえもんとのび太はあれしきでへこたれるタマじゃねーさ。それに栄光の七人ライダー筆頭の仮面ライダーストロンガーがついてるんだ。負けねーよ」

(栄光の七人ライダーって?)

「あん?会ってるくせに知らねーのか?教えてやるよ。暗黒組織が立て続けに現れてた、1971年からの激動の4年間を戦い抜いた一号からストロンガーの7人はスカイライダー以降の後輩達や後発のヒーロー達から畏敬の念を込めて、こう称される様になったのさ。だから安心しろ。それに俺たちドラえもんズの仲間も現地に向かっている」

(そ、そうなんだ……。ん?ドラえもん君とキッド君の友達が来てるの?)

「そうだ。ちっとばっか遅くなったが、連絡取れてな。そいつらの面倒は俺が見るから、オメーは自分の戦いに専念しろ」

(わかった。でも、無理しないでよ?)

「お前こそな。お前にゃ精神的に危ういところがあるからな」

(うん……。それはあたしの悪いところなんだ……いい子でいようと取り繕う。だけど、キッド君やドラえもん君達を見てて、なんか羨ましいって思うよ)

なのはは内心でどんなことにもへこたれず前向きに生きているドラえもんやのび太たちを羨ましく思っていたらしい。スバルから聞かされた、今や別の歴史に分岐した新暦75年の世界での19歳の自分が撃墜事件の悪夢にさいなまれているのに幻滅していた故か、自嘲も入っている。

「人間、誰もが弱さを持ってる。それは仮面ライダーの皆さんだろうが、スーパーロボット乗りだろうが、あのビリビリねーちゃん(御坂美琴の事)でも同じ事さ。本当の強さってのはな、力が強いとかの次元じゃねぇ。『心』の強さだ。自分の弱さも強さも脆さも、全部ありのまま受け入れろ。俺に言えんのはそれだけさ」


ドラ・ザ・キッドは珍しくかっこ良く『クサイ』台詞を決める。なのはが持っていないものは何か?を伝えた。それは撃墜されてから、心の奥底で死の幻影に怯えていた事、憧れた仮面ライダーBLACKRX=南光太郎達と共に轡を並べて戦いたいという願望から来る『強さへの渇望』、『周りに認めてもらいたい』という虚栄心などの『弱さ』、どんな敵にも立ち向かうと決めた勇気……それらを全てひっくるめて受け入れる『強さ』……それを受け入れろと。なのはは子供ながら、この一言に感銘を受けた。この時にキットに言われた事がゲッター線に当てられたのと併せて、彼女のその後の生き方に大いに影響を与えていく。それは魔法を受け入れた時に持った『初めての勇気』を思い出し、そこに光明を見出していったからかもしれない。




――この未来での戦いで、ウィッチ世界へ本式の実戦データが送られた事で、少なからずレシプロストライカーの限界点が明らかになった。加速系魔法によって音速を超えられる者はごくわずかで、スペック上の限界点は800キロ。しかもそこまで行ってしまうとマシンがオーバーヒートしてしまう危険性が高いこれはネウロイの兵装がビームが主流となった1942年以後は敢えて装甲を削って機動性を上げる改造が各国で横行した。だが、ティターンズ台頭後はそれらがジェット戦闘機とミサイルによって通じなくなり、小手先の改造ではなく、開発に時間のかかる新型機の開発と並行し、大馬力エンジンの搭載を伴う既存機の新モデルの開発と流通が促進された。だが、これはカールスラントやブリタニア、リベリオンなどの機体はモーターリゼーションが進んでいたがために成功を収めたが、扶桑皇国の既存機は性能向上の幅が小さく、結局は計画機の大半が少数生産に終わった。二式戦闘脚を除き、どれもこれも格闘性能を重視した設計のために、速度向上がうまく行かなかったのだ。零式54型は1500馬力の金星エンジンを積んだ割には性能向上の幅が歪で、運動性能は22型と同等に回復したが、52型より20qしか速度が向上せず、航続距離が短いというデメリットが生じ、少数配備に留まった。三式戦闘脚二型はマ140の開発には成功したものの、『空冷王国である扶桑で敢えて量産する意義が無い!』と地球連邦軍に判定されたが、飛燕装備の前線部隊の要望との兼ね合いで本格量産は見送りとなり、代わりにエンジンを空冷化した五式が量産される事になった。これはこのプロジェクトでの唯一無二の成功作となり、扶桑皇国陸軍飛行戦隊最後の制式レシプロストライカーの名誉を得たという。一方で予定が変更され、運命が暗転した悲運の機体もまた、存在していた。


――1944年12月末 宮菱重工業

「烈風は結局、ピエロに過ぎなかったかもしれんな」

「何故です曽根さん!烈風は素晴らしいストライカーであり、戦闘機です!山西の水上型の改造機ごときに遅れは取りません!」

宮藤一郎博士の腹心で、零式の時は設計副主任、烈風の設計主任であった曽根嘉年技師は宮藤一郎博士の遺産とも言える烈風はもはや時勢にマッチしない『いらない子』と化したのを見抜いていた。たしかに烈風は零式の正統発展型としての特性を備えているが、重戦闘機が求められる時勢。零式のような軽戦闘機の時代は終わっている。ベテランの支持は得られても、第一線を担う若手への受けは悪いという予測、東南海地震で主力工場が壊滅した以上、今すぐの大量生産は不可能である事を挙げる。

「今月の地震でウチの工場が大打撃を受けたのは知っとるだろう?南洋島に新工場をおっ立てた山西航空機が今、この時にも紫電改を大量生産しておるのに、うちは疎開中。他工場での転換生産は時間がかかる……。おまけに新式の噴流推進器(ジェットエンジン)が近いうちに台頭する。レシプロ発動機はあと半年もすれば性能向上の限界に突き当たる。富嶽でさえ、根本的に次の世代のモノには前には無力に等しい。烈風は今や望まれておらんのだ……」

「バカな、あれほどせっついておきながら、次世代の技術ができたら飽きた玩具のように捨てると!?」

「技術開発とはそういうものだよ。誉の不調と地震に暴動さえなければなぁ……」

曽根は誉エンジンの不調や東南海地震、自社工場でのストライキが烈風の不幸の原因であるのをひたすら嘆く。ハ43で真価を発揮したものの、生産が遅延している間に紫電改が大量生産され、烈風が入り込む隙間を無くしていくと。その嘆きは的中し、烈風は当初の『主力』から『ジェット機熟成までの場つなぎ』としての補助戦闘機に堕ち、その立場に甘んじ、そうしてしか存在意義を見いだせられなかったと記録されている。烈風は後継者を求められた末に、急速に進む時代に翻弄され、本来、期待された立場での活躍ができなかったと言っていいかもしれない。






――2200年のアナハイム・エレクトロニクス月支社

「例のインフィニット・ストラトスだが、模倣という形だが、めどが立った。あと数ヶ月もすれば試作機の装甲が完成する」

「思ったより早いな。しかしこの戦争には間に合わんぞ?」

「いいさ。どうせいくらでも投入する口実はあるし、将来的に重機にも応用が効く分野だしな」

「完成はいつを予定している?」

「今年の夏になれば御の字だ。コアを装甲に馴染ませる必要もあるからな」

「そうか。レビル将軍はこのプロジェクトを何のつもりで立ち上げたんだ?」

「まず、ボールの母体になったスペースポッドの代替になり、専門の訓練を受けていない女性でも鎧を着ている感覚で動かせる重機を作って戦後の復興事業の作業の効率化を図る事。もう一つは復興を目論む学園都市を抑えるため、更に暗黒組織に対抗できる装備を持つこと。これは重要だ」

「何故だ?仮面ライダーたちがいるんだ。彼らに頼れば……」

「陸軍が面子的に許さんし、彼らも安易に自分たちに頼られるのに苦言を呈している。だから彼らに『認めてもらう』ためにも必要なのさ」

「なるほど。それと学園都市への抑止力か……奴らはOTMの台頭以来、落ち目だからな。往年のようにレベル5の能力者を出せなくなって久しいしな」

彼らは地球連邦軍の委託を受け、インフィニット・ストラトスの再現と開発を担当することになった部署の担当者達だ。解析した赤椿の基本データを基に再構築する形で開発し、軍事分野と民生分野に分けて開発プロジェクトが立ち上げられた。レビル将軍の言もあって、民生分野の開発が優先されているが、軍事分野への応用がおざなりにされているわけではなく、開発は順調であった。彼らが手に持っているファイルに挟まれている写真に写っている組み立て中の機体こそ、後に『旋風』と名付けられ、日の目を見る事になる機体。開発はこの戦争の最中から初められたが、第一形態と言える完成当初の姿が現れるのさえ終戦後の事だ。この機体は紆余曲折を経て、テストパイロットの一人であった黒江の愛機となるのだが、それはまだまだ先のことであった。




――こうして、戦後を見据えた技術開発や交渉が開始されているあたり、誰もがこのスイス攻防戦こそが『最後の激戦』となると考えている証でもあった。後にメカトピア戦争(戦役とも)と呼ばれる戦いは一気に終戦へ動き出す。尽きようとする兵団の命運。正に風前の灯火であった。



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