――地球連邦軍の兵器の稼働状況は良好とは言えないもので、地上軍全体では、地上軍で一年戦争末期登場のジム改やアクア・ジムが未だ稼働しているという有様であったし、歩兵装備は東西冷戦下で作られた武器が未だ多数使用されているという台所事情があった。これは地球連邦軍が解体を免れた際に倉庫に残存していた歩兵装備の多くが東西冷戦下での自動小銃なり、拳銃でしかなかったという事情からくるものであった。

――ギアナ高地

「将軍。急ピッチで歩兵装備の生産を進めておりますが、やはり当面は旧来の旧式装備で場凌ぎ的対応をするしかありません」

「仕方がない。解体を免れた時の我が軍には東西冷戦下時の博物館行きの代物しかなかったのだ。本来ならいくらなんでも退役させる予定だったと聞くからな」

「はい」

地球連邦軍には軍解体が本気で進行していたが、宇宙人の侵略で急遽存続したという経緯がある。その際に歩兵装備の現用品の多くが廃棄されていたため、白色彗星帝国戦では退役予定の東西冷戦下時に開発された多くの火器を倉庫や博物館から引っ張りだして装備させるという危機的状況にあった。(当時の人々手のひら返しぶりは有名で、完全平和主義を実現寸前にあったはずのリリーナ・ピースクラフト大統領(当時)が政権を追われるまでであった。リリーナは真摯に平和を希求していた故に、父の理想でもあった完全平和主義を実現しようとしていたし、実現寸前にまで持ち込めた。しかしながら状況の急転直下は世界を防衛戦争へ動かし、結果的に彼女は辞任を余儀なくされた)白色彗星帝国戦とガミラス戦、ゼントラーディ戦は防衛軍備の必要性を改めて人々に印象付け、地球連邦軍は国民投票で存続となった訳だ。そこからの立て直しに5年近くの月日を費やしたが、状況は悪い。なにせ宇宙軍の更新だけで工廠が手一杯で、地上軍は未だ旧式装備が第一線を張っている有様である。

「あのお方は安全保障を何も考えておらず、治安維持さえアナザーガンダムなどに依存したような政策しか考えられなかった。だからこういう目にあうのですよ」

「10代の若者にそれこそ地球圏の運命を託す方が可哀想なのだ。10代という年齢は理想に燃えている。だから回りはプリベンターという形で軍事ノウハウを残す予定だったのだ。もっとも事態の急転直下で彼女も最終的には自衛軍備を考えていたがね」

「本当なので?」

「本当だよ。彼女を弁護するが、彼女は軍備撤廃を決定した後に視察に行った先で、手のひら返しで疎まれ、赤貧に落ちた失業軍人の姿を目の当たりにしたのだ。それでその軍人の子供に『環境が変わったのはあんたのせいだ!!ぼくのパパとママを昔に戻してよ!』と罵られたのが多大なショックだったのだよ。彼女は軍人を持ち上げるだけ持ち上げた挙句に、世の中が変わったら侮蔑し、反社会者として疎んじる、人々の醜悪な姿を目の当たりにしたのだ。彼女はそれで自らの施策が数百万だかの人間に影響を及ぼすという事を自覚し、しかもジオン残党が自身の宥和政策にも関わらず、容赦無い攻撃をかけてきたのだ。それで自衛軍備の必要性に気付いた。政権があとすこし続いていれば、防衛軍として再編成する腹づもりだったのだ」


「皮肉ですね。有事が起きて始めて必要性を痛感するなんて」

「昔の日本も建前と本音で自衛隊を設立し、旧軍人を呼び戻しただろう?そういうものだ。世の中は残酷なのだよ」

――レビルは時代に翻弄されたリリーナのピースクラフトとしての生き方に同情しているようだった。リリーナは理想を貫こうとしただけだが、それが結果的に地球圏を困窮に追い込んでしまったという経緯は世の同情を買っている。『時代に翻弄された悲劇の大統領』という形で。理想を貫こうとしたその姿はカリスマ的人気を博しているが、軍隊や軍需産業に関わっていた者達には少なからず憎まれている。それ故にリリーナは新たな生き方と立ち位置を模索している節がある。それが彼女の贖罪なのだろう。結果的に白色彗星帝国戦の多くの戦死者を招く下地を作ってしまった故の、地球圏への。

「将軍が彼女を擁護するのはそういう事だったのですね?」

「彼女も決して理想ばかりで食っていけるとは考えていないさ。短絡的な日和見主義は彼女が嫌うところだ。サンクキングダムの時にも実は自衛軍備を黙認していた。そして政権を握っていた時もそうだ。非武装が平和をもたらすとは限らない事をよくわかっているよ。彼女は最終的には往年のスイスの姿を志向していたらしいしな」

――往年のスイスは永世中立国として生きた。しかしながらそれを維持するための強力な軍備を保有していた。リリーナが最終的に目指そうとしたのは、そんなスイスの姿であったという。しかしながらそれを実行する前に、日和見主義のレッテル貼りを受けたのが悲劇と言われる所以である。

「軍備が多少遅れていても、人員の質が良ければどうにかなる。それはジオン残党が証明してくれている」

レビルはジオン残党を引き合いに出して、軍備の多少の質の差は人員の質の高さで補えると説く。実際に一年戦争中のMSさえ現役稼働するジオン残党軍だが、かつてエースパイロットと謳われた面々は最新型すら余裕で撃墜可能な腕を持つ。それを知っているからだ。

「我々は良くも悪くも民主主義と資本主義で生きる国家だ。政治屋のご機嫌も取らなければ予算がもらえん。プレゼンを考えておくように」

「ハッ」

地球連邦軍の財政は度重なる戦争で実はガタガタである。議会は高価な可変戦闘機や可変MSの配備を渋り、財務省と結託してあの手この手で削減を狙うので、軍隊もあの手この手で高性能兵器をドシドシ作っているのである。レビルらはこの時期には、ジャベリン後継の次期主力MS『ジェイブス』の生産計画のプレゼンを必死になって考えていた。これは第二次ネオ・ジオン戦争時から使用しているジェガンの初期配備機の老朽化が始まっており、その代替機が必要になったという切実な事情からのものであった。既にヘビーガンやジェムズガンは性能不足を理由に早期に生産中止され、ジャベリンの配備は一向に進まない。更なる新型が大型化し始めたのは、ジャベリンで小型機故の各種性能の限界に突き当たったのも大きいという。


「この戦争はもうじき終わるが、次の戦の準備は怠らずにすべきだ。銀河の星間帝国を3つも潰せば、この銀河団にある帝国主義国家の多くは我々を危険視するだろう。最悪、生存競争に陥る可能性すらある。アレクシオンやゴッドマジンガーの建造に援助を怠るな」

「ハッ。しかし将軍。よろしいのですか?因果律兵器と反因果律兵器というものを開発せよというのは?」

「どんなスーパーロボットでも、どこかの平行時空には必ず敗北した世界があるだろう。それはカイザーであろうともあり得る。その結果を現出されれば、かの超合金ニューZαであろうとも破壊されるだけだ。その結果を打ち消すための兵器は必要なのだ」



レビルは度重なる敗北で進退窮まるミケーネ帝国が強奪した兜十蔵の遺品から『マジンガーに搭載するはずであった一つの兵器』のアイデアを得たという報に、危機感を感じていた。それは因果律を活用し、平行時空での結果を現す事で勝利の結果を得ようとするもので、兜十蔵が孫を守るために、晩年期に構想していた超弩級兵器である。それを活用すればマジンガーZでもマジンカイザーに対抗可能になるほどのもので、如何なスーパーロボットでも無数の平行時空には敗北した世界が存在している以上、理論的には、それを以ってすればマジンカイザーや真ゲッターロボの敗北さえありえない事ではない。それを先に具現化し、ゴッドマジンガーやマジンカイザーなどに搭載すべきという所見を出していた。ゴッドの開発が2201年まで遅れる原因の一つに、因果律を兵器とさせないようにする『反因果律兵器』を搭載しようとしたからだという記録が数十年後に確認された。


――光子力研究所

「レビル将軍はミケーネが因果律を兵器として使われる事を憂慮しておられる。因果律を破る反因果律兵器を開発すべきという所見を出してこられた」

「十臓君がまさかそのような兵器を構想していたとは……にわかには信じられんな」

「父は私がグレートマジンガーの開発に失敗した場合、戦闘獣にZが敗北を喫する事を恐れておりました。その場合に備えて構想していたのです。そのアイデアがミケーネ帝国の手に渡っていた以上、デビルマジンガーに搭載するのは目に見えます」

「ゴッドに反因果律率兵器を搭載するのはそのためと?」

「そうです」

ゴッドの開発が難航したのは、この所見で反因果律兵器を開発する方向になったのも原因の一つであった。この時に予定された武装は以下の通り。

・トルネードクラッシャーパンチ(ドリルプレッシャーパンチのアップデート型)

・ゴッドブーメラン(グレートブーメランの強化型)

・ギガントミサイル

・ルストストリーム(ルストハリケーンの強化発展型)

・ゴッドブレード(超合金ゴッドZ製の剣。カイザーブレード同様の形状)

・ゴッドサンダ―(サンダーブレイクの強化発展武装。サンダーブレイクと違い、招来させた雷鎚を直接叩きつける技)

・ニーインパルスキック(グレートから引き続き採用)

・インフェルノブラスター(ブレストバーンの発展型)

・ゴッドスパーク(シャインスパークのマジンガー版)

・スーパーノヴァ(カイザーノヴァ同様の武装。反陽子により威力はカイザーノヴァを上回る)

これがゴッドの予定された武装である。グレートマジンガーのアップデート型らしく、同機のそれが強化発展された武装を多く持つのがわかる。武器の名前はこの時は書類に仮称との注意書きがなされており、後の完成時と異なった名を持つのもある。カタログスペックでは十分にカイザーにも当たり負けしないが、それでもレビルが不安を覚えるあたり、デビルマジンガーの底知れぬ恐ろしさが伺える。早乙女博士は兜剣造らにこの時、数多くの助言を残した。そして彼が世を去った後にゴッドマジンガーは完成するのであった……。








――アナハイム・エレクトロニクス フォン・ブラウン支社

「リ・ガズィカスタムが完成したが、どこに納入すんだ?」

「ロンド・ベルさ。アムロ大尉が予備機に欲しがっているからちょうどいい。素のリ・ガズィより性能は上だ。お蔵入りよりはマシさ。制式採用されたからな」

この時期、地球連邦軍はグリプス戦役後に独自に生産していたZ系量産機の一つ『A/FMSZ-007U』とリ・ガズィの上位機種を兼ねる機体を求めた。そこで凍結された『リ・ガズィエース仕様』開発計画を復活させ、再設計を施した上で2200年に1号機が完成したのが『リ・ガズィカスタム』である。当初はアムロ・レイ仕様機として設計されていたのをエース用の上位機種として再設計して製造させた。その過程でビームライフルが試作型に変えられ、かつてのAK-47を模した形状のモノへ換装された。アムロ・レイの機体として1号機が与えられた辺りは、ある意味では当初の目的は達成したと言えるだろう。

「しかしこんな高コスト機体、軍部が量産認めたな?」

「グリプス戦役後に独自ラインで作ってた機体とリ・ガズィの上位機種を兼ねるそうだ。リ・ガズィでも一応流通はしたからな」

「まあ当初の目論見とは違ったが、空挺師団が主に顧客になってくれたからある程度は利益になったしな」

「性能不足と言われるが、グリプス戦役時のZと同じ程度のポテンシャルはあるはずなんだがねえ」

「MS自体の性能向上がすごいからな。グラナダはもうクイン・マンサのダウンサイジング化に成功しつつあると聞くぞ」

「本当かよ」

「まあ今のロンド・ベルの敵ではないさ。シャア・アズナブルやハマーン・カーンを倒した超エース級がいる上に、スーパーロボット軍団だ。エルピー・プルのさらに劣化コピーみたいなクローン人間ごときで倒せるものか」

「エルピー・プルの『姉妹』の中で最高の能力だったプルツーは既に亡く、キャラ・スーンに落とされた者が大半だからな。生き残りがいたとしてもプルツーの能力には届かないだろうしな」


アナハイムのエンジニアの中でも、フォン・ブラウン支社の者は連邦軍担当なため、旧エゥーゴの頃から連邦の味方が多い。グラナダが旧ジオンの軍需産業出身者が多いので、ネオ・ジオンの黙認された工廠と化しているのとは対照的である。グラナダがジオン系テクノロジー主体で高性能機を造れば、フォン・ブラウンが連邦系主体でガンダムを作るという技術競争が社内で繰り広げられている。彼らはグラナダがネオ・ジオン最大最強の機体であったクイン・マンサのダウンサイジング化に成功しつつあるという報を聞くと、このような会話をした。それはプルツーのような猛威を振るえる能力のプルの『姉妹』はもはや存在し得ないという安心感からの者だった。実際、再建途上のネオ・ジオン軍を支えているのは舞い戻ってきた公国時代の撃墜王たちであるからだ。


「それよりもシン・マツナガとかアナベル・ガトーとかの公国時代の撃墜王のほうを、よほどロンド・ベルは恐れているぞ。腕一つで多少のスペック差を覆して来るからな」

「ジョニー・ライデンはいないのか?」

「奴は正真正銘の行方不明だからな。シン・マツナガも、ジョニー・ライデンがどうなったかは知らんそうな」

――ネオ・ジオンが探し求めている、かつての撃墜王『ジョニー・ライデン』。ネオ・ジオンは強化人間に安易に頼るよりも、公国時代の撃墜王を呼び戻す事に血道を上げ始め、シン・マツナガやアナベル・ガトーなどの元宇宙攻撃軍の誇った撃墜王達が戦力の中枢を担うようになっていた。シャアは突撃機動軍出身者も呼び戻したいとの意向を示し、その際にアナベル・ガトーから名が上がったのがキマイラ隊に在籍していたジョニー・ライデンであった。その時の様子はこれだ。



――西暦2200年 暗礁空域 レウルーラ

「ガトー少佐。突撃機動軍出身者で推薦したい人物がいると?」

「ハッ。元キマイラ隊所属のジョニー・ライデン少佐、いえ中佐であります」

「ジョニー・ライデン……キシリア様肝いりの戦闘大隊の隊長で、『真紅の稲妻』だったな?』

「ハッ。大佐も噂には知っていましょう。キマイラ隊の構成を』

「当時の名うてのエースパイロットなどを集めて肝いりで編成された、旧ドイツ軍の第44戦闘団や旧日本帝国海軍の343空的位置付けの部隊と盛んにプロパガンダされていた部隊だったな、ナナイ?」

「ハッ。キシリア・ザビの人事裁量権で集められた各軍の撃墜王達で構成され、機材などに至るまで最高のものを集めた部隊でした。ですが、編成時はソロモン戦後で、戦局の清涼剤的役割しか果たせなかった部隊です」

「しかし少佐、ジョニー・ライデン中佐はア・バオア・クー戦で消息不明になり、戦後の連邦軍の調査でも彼の高機動型ゲルググの残骸一つも発見できなかったとの記録があるが?」

「マツナガ大尉が合流なされた以上、彼も可能性がないわけではありません。ぜひ捜索のご検討を」

「うむ……。公国時代のパイロットはいくらいてもいい。捜索を検討しよう」

「ありがとうございます」

こうして、ガトーは後日、シャアからの裁可を得て、かつての突撃機動軍撃墜王で、自らが尊敬する軍人の一人であったジョニー・ライデンの捜索を開始する。連邦軍内部に潜り込んでいる元公国軍人の協力も得て、大規模な捜索を行うのだが、こうしてまでジオンが大っぴらに公国時代の撃墜王を求める理由は『アムロ・レイとジュドー・アーシタやブライト・ノアに再建当初に中核を担っていたレズン・シュナイダーやギュネイ・ガスなどの前線を担う人材を軒並み倒され、人的被害が甚大であるから』という身も蓋もない理由であった。実際に一年戦争からの長きに亘るゲリラ活動で逮捕された者や倒された者も多いが、シン・マツナガやアナベル・ガトーのように、『実は生存していた』エースパイロットも多い。シャアは前線を彼らに担わせる事で、第一次ネオ・ジオン戦争以来、損耗した古参兵の代わりを勤めさせ、戦力の底上げを狙っていた。MSの更新を進めさせはしてはいるが、公国軍、第一次ネオ・ジオン軍が最盛期の頃には子供であったりした若年兵が増えている彼等にとって、かつての公国軍時代に戦線を支えた撃墜王たちの存在は大きかった。












――地球連邦軍、ネオ・ジオン軍。メカトピア戦争後を見据えた行動を両軍がとり始める事は、アナハイム・エレクトロニクスは次の戦を予期し始める。両軍共に主力MSの更新が上手くいかないあたりは、平時から急に戦時に切り替わった故の苦労がある地球連邦軍と、残党軍故に旧式でも稼働させざるを得ないネオ・ジオン軍では事情が違うが、新型を欲するのは一緒だった。











――レビルは秘書に事務処理を任せ、仮眠をとっていたが、幕僚が慌てて起こしにきたので、目を覚ました。

「レビル将軍!」

「どうしたのだ?騒々しい」

「ハッ、デビルマジンガーが遂に現れました!」

「何!?」

作戦室に行くと、幕僚の全員が息を呑んでモニター場面に釘付けになっていた。レビルも思わず開いた口が塞がらなかった。モニターには、グレートマジンガーを圧倒し、マジンカイザーと対峙するデビルマジンガーの禍々しいその姿を大写しになっていた。膝をついて胸の装甲に大きな傷を負っているグレートマジンガーを守るかのように、カイザーブレードを構えながら対峙するマジンカイザー。無人となった市街地を背景に繰り広げられるこの光景に連邦軍の幕僚の全てが釘付けとなっていた。戦いは最高潮を迎えようとしていた。


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