短編『フェイトと仮面ライダーのとある散策』
(ドラえもん×多重クロス)



――戦車道全国大会第一回戦の帰り西住みほは追われていた。「何に」かというと、それはストーカーや変質者の類では無かった。自宅であるマンションまであと数百メートルというところだというのに、映画に出てくるような怪物と言おうか、怪人に追われていた。夜中に追われるというのはベタなハリ●ッド映画でも見なくなって久しい光景だが、とにかく追われていた。


「みほちゃん、伏せて!」

「ぇ、は、はい!」

聞き覚えのある声に驚きつつも、みほは咄嗟に地面へ伏せる。ややあって鈍い銃声のような音が響き、怪人が倒れたのがチラッと見えた。

「間に合ったようね」

いつの間にか圭子がやって来ていた。スーツ姿であるが、腕にはとてつもなく大口径の拳銃が握られていた。

「あなたはたしかお姉ちゃんと一緒にいた……」

「加東圭子よ。よろしくね」

IS学園での一件の教訓から、時代相応の服装の圭子。ジャーナリスト風のその姿からは想像だに出来ない凛々しさにみほは一瞬見惚れてしまうが、得物が銃なのはさすがに突っ込む。いくらなんでも実弾入りの拳銃は日本では法律的にアウトであるからだ。(もっとも別世界の住人かつ、軍人である圭子は日本の法律ではさばけないが)




「ど、どうしたんですかそれ!?それにあの、その……」

「説明は後。取りあえずここを切り抜けないとね」

みほを守るように彼女の前に立ち、特注のデザートイーグルの改造型を構える。(ちなみにこれは圭子がメーカーに直接注文して、こしられさせたもの。魔力強化の弾丸を撃ってもフレームが歪まないように強化されている)

「要点だけいうわよ。あなたを追いかけてたあのクリーチャーみたいなのはサイボーグ。動物と人間を掛け合わせて作り出された人造の怪物」

「じ、人造の怪物!?で、でも今の技術じゃサイボーグなんて作れませんよ!?」

「そう。普通なら、ね。だけどあいつらは普通じゃないのよ」

「普通じゃないって……!?」

そう。2010年代の、学園都市が存在しない地球の技術力ではサイボーグなど夢のまた夢。治療目的に研究はされているが、漫画のように“脳以外全部機械”か、肉体の半分以上を機械に置き換える事は絵空事である。それを否定するかのような圭子の発言に驚く。圭子は更に続ける。その怪物の正体を。




「昔、ナチスが戦争に負けた時、ドイツ軍の生き残りの多くは友好関係があった南米に逃れたの。その残党が戦後に研究を南米で続けて生み出した産物があいつらってわけ」

「あれを作ったのが昔のドイツ軍って言うんですか!?戦後から70年以上経ってるんですよ、そんな事……」

「信じられないと思うけど、現実よこれは」

圭子は至って現実的であるためか、涼しい顔である。本業が軍人であるためだろう。みほはここで圭子が隠している“本業”の雰囲気を西住流の血故か、感じ取っていた。

(なんだろう。この感じ……お母さん、いやもっと別の……!)


漠然とだが、圭子から常人とは違う何かを感じ取るみほ。銃の扱いといい、動きといい……明らかにその手の訓練を積んでいるのがわかるからだ。足取りが自然と重くなる。

(この子をビビらすつもり無いんだけど、まぁ訓練の癖って出ちゃうのよね)

圭子は未来世界で銃器の扱いを改めて一から詰め込み直した。そのために銃の持ち方も扶桑軍で教わった片手持ちではなく、20世紀後半以後に確立された両手で保持する“現在的”なスタイルを改めて習得、切り替えていたその関係と、圭子が敵に備えるために神経を張り詰めているので、それがみほにも伝わってしまっているのだ。

(あちゃ〜みほちゃん、すっかり怯えてるわね。かと言って、家についてもすんなり通してくれるとは思えないし……ああ、案の定戦闘員いるし〜!)

みほのアパートまではもう200mとない距離。しかし怪人の次は戦闘員である。予め待機していたらしく、狙撃銃であちらこちらから狙ってきているのを瞬間的に発動させた超視力で確認する。

(……Kar98kの狙撃仕様か……十分向こうの有効射程に入ってるのに撃ってこない。確実なワンショットキルでも狙ってるのか?でもあたしはともかくも何でこの子を狙うんだ?)

圭子はなんだかんだ言って航空畑とはいえ、軍人生活は10年以上。未来世界での経験も加味された結果、この時期にはある程度の陸戦もこなせるようになっていた。元々狙撃を得意としているだけあって、狙撃銃のカタログスペックは頭に入れていた。なので、疑問に思ったのだろう。

――実はこの時のバダン(ナチス残党)側としては優秀な戦車兵を更なる侵攻のために欲していた。あらゆる次元世界から出自、人種、年齢を問わず(彼等はナチ残党ではあるが、かつての党がプロパガンダとして盛んに宣伝していた“アーリア人”は大首領、幹部も信じていないので、人員やシンパに有色人種も多数存在している)非合法な手段も使って集めていた。西住姉妹も当然ながらその標的として選定されたというわけだ。

「いいんですか、少尉殿。ウィッチが護衛についていますよ」

「例の対魔力弾は持ってきている。それにここは船の上とは言え、市街地だ。迂闊な行動は謹め」

「ハッ」

学園艦の西住みほが住むマンションの周囲の住宅に潜り込んだ旧ドイツ軍歩兵部隊は彼女を拉致すべく行動していた。拉致用に銃の規格に合う麻酔弾を装填したものと、敵の殺傷目的の実弾を装填したものと役割を分担しての狙撃を狙っていた。彼等にとっての敵の行動は計算の範囲内なのだろう。

「旧型の怪人はやはり戦力として当てにならないようだな……まぁライダーのように金かけておらんからな」

ゲルショッカー時代に作られた怪人の再生体があっさり倒されたのに関わらず彼等は至って冷静であった。再生怪人は彼等に取って使い捨てにすぎないのが伺える。狙撃態勢は維持するもの、発砲は慎んでいるのは隠密行動故だ。(銃に音を軽減させるサプレッサーはついていないため。銃が旧型なので規格があわないせいもある)




(そうか、市街地だから迂闊に撃てば音が響いていて騒ぎになるから一発で決めたいんだな。奴さんの台所事情も大変なんだな)

圭子は敵がこれ以上の行動に出ないのをこう感くぐり、みほを連れてこの場を強行突破、みほの住んでいる部屋に滑りこむ。部屋に入ると、みほに窓とカーテンを閉めさせ、自身は防弾板を窓に取り付ける。

「なんで私が狙われるんですか?それにあなたはいったい……?」

「こうなったら全て話すわ。あなたが奴らのターゲットみたいだしね」


圭子は事の詳細を話し、みほに自分の本来の姿も教える。自分が別世界の日本陸軍の航空兵である事、自分がここに来た目的を。

「それじゃあなたは本当は本物の兵隊さんなんですね?それも旧軍の……」

「ええ。別世界だからあなたの知る大日本帝国じゃ無いけどね。私の世界は平行世界同士で国交があるから、そこを経由してここへ来たの」

「そうですか。あの、こう言っちゃ失礼だと思うんですけど、旧軍って戦車に弱いイメージが……」

「いいのいいの事実だしね」

旧軍と言うと、戦車に弱いイメージがあるのを正直にスバリと言うみほ。圭子も仲間の北野古子(愛称はルコ)から戦車兵や装甲歩兵の苦労を聞いていたので、みほの言葉に同意した。

「チハの弱さはあなたも知ってる通り。あたしのいた世界は10倍の国力あるけど、上層部の思想のおかげで歩兵戦車として造られたからあの性能ってわけ」

「東条英機首相のせいですか?」

「そう。あの人のせいで私達の世界でも前線の将兵が苦労させられたってわけ」

圭子は若い頃に友軍戦車の悲壮な戦いを目にしている。全ては後知恵だが、結果的に扶桑皇国の戦車行政が後手後手に回った事を苦々しく思っているらしかった。



「戦車開発の方向性はドイツが示したものが正しいと分かって、上は慌てて方向転換した。膨大な犠牲と引き換えに。人間相手じゃない戦争だから良かったと言うべきか、それとも……まぁ途中からそうなったけど」

人間相手の戦争。圭子の故郷ではティターンズの出現まで長らく起こっていなかった出来事。それ故に扶桑皇国陸軍には一種の楽観論が蔓延っていた。それを扶桑海事変の事実上の敗北(勝利とされているが、ユーラシア大陸領土の損失という犠牲が得たものと吊り合わないため)が粉砕し、戦車が歩兵の支援兵器という考えはティターンズによって完全に葬り去られた。そのため東条英機の一派は完全に面子を潰されてシンパに至るまで失脚した。完全な対戦車用戦車が扶桑に登場するのは44年の四式および45年の五式中戦車系列の実用化の時であった。みほはそれを聞いてげんなりしてしまう。


「……すごくグダグダですね。だから日本陸軍の戦車ってイメージ悪いんだよなぁ」

そう。みほも黒森峰在籍当時の戦車道の試合において、日本陸軍戦車を使う“知波単学園”と戦う時には強豪と戦う前のウォーミングアップ相手にちょうどいい弱小校と認識していた節があったらしく(あくまで当時のことだが)、自嘲するような口ぶりを見せる。

「そう言えば秋山さんが前に言ってたっけ……戦前の日本戦車が弱かったのは陸軍の上層部のせいだって。その通りなんですね」

「ええ。これには弁護の余地ないわね。強いて言うなら大日本帝国のあまりにも貧弱な国力のせいもあるけどね、ウチらの世界はねぇ」


みほは秋山優花里が日本戦車について熱く語った時の事を思いだして一言言う。圭子は当事者として、多少フォローは入れるが、殆ど弁護していない。扶桑皇国は海軍大国として強大なために国防予算が陸海軍で対等のはずなのに、陸軍上層部は海軍に嫉妬していた。それが扶桑海事変での陸海軍の縄張り意識として表われ、前線の自分たちにしわ寄せが来た事への怒りが圭子の心の中にあるのだろう。

「ぶっちゃけてますね……」

「前線部隊に上層部のバカのしわ寄せが来るからよ。上と前線との間の認識の違いなんて軍隊じゃよくあるもの」




みほは思わず圭子に同情してしまう。古今東西の軍隊で前線と中央との認識の違いなどよくあるからだ。ここまでいくと完全に愚痴だが、愚痴も吐きたくなるほど貯めていたのだろう。

「愚痴になっちゃったけど本題に戻すわ。あなたは…いや、貴方達姉妹は今、狙われている」


「なんで私が狙われているんですか?それにお姉ちゃんもって?」

「あなた達姉妹は戦車長として優秀な才能がある。たとえそれが武道であろうとも、ね。そこが奴らが目をつける材料になったのよ。特にあなたは柔軟な戦術や戦略が立てられるから、お姉さん以上に重要な標的と見られてると考えていいわ」

そう。みほはまほと違い、家の教えである『突撃あるのみ!』、『勝てばよかろうなのだァァァァッ!!』(西住流の教えを圭子はそう考えた)には囚われない自由な発想で戦略を立てられる才能がある。それが軍隊の残党であるナチス(構成員は国家社会主義ドイツ労働者党の略で、NSDAPと呼ぶ)の興味をそそったのだ。

「旧ドイツ軍に興味を持たれるなんて、なんかお化けに好かれてるみたいです」

「その通りよ。あいつらは“亡霊”だもの。帝国ドイツの、ね。まぁ、あたしも人のこと言えた義理じゃない生年月日だけどね。二次大戦中に20代だからこの時代だと90超えてるし」

「え、ええ〜!?」

圭子の生年月日は1919年、年号で言えば大正8年の生まれである。1945年当時では26歳。この時代ではひ孫がいても何ら不思議でない老婆の年頃。いざ聞かされると驚かずにはいられない。

「今、普通に生きてたらあたしなんておばあちゃんよ〜それもヨボヨボの」

おどけて笑って見せる圭子。時と次元を超えられる発明が起こしたこの出会い。みほには圭子が自分より有に65歳以上は年上のはずなのに、自分よりちょっと年上な姿と、現在人と変わらない、気さくな雰囲気(実際は肉体年齢的にはみほのほうが上だが、おねーさんオーラを圭子が発しているためにそう感じた)の『おねーさん』にしか見えないのが不思議そうだった。

「まるでドラえもんみたいな話ですね」

「いや……ドラえもんなら本物と会ってるけど?」

「!!」

ここでみほの表情が一変する。女の子らしく、可愛い系のキャラには目がないらしい。幼少期に見たアニメ(実家ではもっぱら戦車で遊んでいたが、人並みにはアニメは見ていた。それは一人暮らしをしている現在でも続いている)キャラの実物と面識があると言われると気になるののは当然。目の色が変わっていて、顔に似合わずのがぶり寄り(圭子曰く、双○山関顔負けだったとの事)を見せる。



「ほ、本当ですか!?」

(うっ、双○山顔負けのがぶり寄り!)

「え、ええ……」

思わず冷や汗をかいてしまう圭子。ドラえもんやのび太と撮った写真を見せる。運良く持っていた一枚だ。

「ほ、本当だ〜〜!」

みほの表情がパァッと明るくなる。写真には紛れも無い、着ぐるみではない、『本物』のドラえもんが写っている。姿は自分が物心ついてきた時にリニューアルした時のものではなく、20代後半以後に人気がある、旧シリーズのそれだ。

「騒ぎが終わったら、この子たちを紹介してあげるわ。それまで生き残らないとね」

「はいっ」

そう。ドラえもん達を紹介するにも、この旧ドイツ軍との戦いを生き延びなければならないのだ。この世界に潜り込んでいる戦力は未知数。なので歴代の7人ライダーが全員同行しているし、連邦軍も『大げさ』としか思えぬ大兵力を展開している。

「お姉ちゃん、大丈夫かな?」

「大丈夫よ。あなたのお姉さんには最強の護衛がついてるから」

「最強の護衛……?」

「そう。軍隊よりも強くて優しい人達が、ね」

圭子はみほに7人ライダーの存在をそれとなく示唆する。圭子もフェイトも心から尊敬し、憧れる伝説の7人。全てのヒーローにとってあの7人は特別な存在。それ故にスカイライダーやスーパー1たちには越えられない壁がある。7人ライダーの影響力は意外に大きいのだ。その7人の内、ストロンガーは電気使いのよしみでフェイトの仕事のフォローに回っていた。










――日本 プラウダ高校

「ほらよ、この世界の日本での戦車道がある学校の資料と、確認した敵の戦車の写真だ。各地のコンテナ船のコンテナの中に積み込んで運んでいた」

「ありがとうございます」

「すまねえな。お前さんを巻き込んじまって」

「構いません。カチューシャの笑顔を壊すような輩はシベリアに送って凍死させますから」

なんと二人とともにいたのはプラウダ高校の副隊長の「ノンナ」であった。彼女は帰宅途中に拉致されそうになったが、そこをストロンガーとフェイトが撃退。なし崩し的にこの事態に巻き込まれてしまった学生の二例目になってしまった。


「つまんない事聞くが、お前さん……本当に日本人か?」

「はい。私達はロシア語に堪能ですが、れっきとした日本人ですよ」

そう。プラウダ高校の面々はロシア語に堪能である。旧ソ連軍戦車を使用するのと相成って独特の雰囲気がある。ストロンガーもネイティブと勘違いしてしまったほどだ。

「敵は旧ドイツ軍の生き残りなのですね?」

「そうだ。ここの世界に来てる師団は第5SS装甲師団。SSの中でも強敵だ。勝てるか?」

「その師団は赤軍を恐怖させた装甲師団です。相当熟練した機甲師団で無ければ渡り合えません。使用する戦車はなんです?」

「コンテナに隠されていたのはケーニッヒティーガーの改良型とレオパルト2ぽい新型だった。恐らく奴らも軍備更新途中なんだろう」

「ケーニッヒティーガーとレオパルト2……。恐らく、ティーガーは半分自走砲扱いですね。MBTと重戦車は一緒の編成にはしないでしょうから」

「なるほど。フェイト、みんなに今の内容を打電してくれ」

「分かりました」

安全のために旧式のモールス信号で海底基地と他のライダーへ連絡するフェイトを尻目にストロンガーはノンナに色々質問していく。こうしてノンナは西住姉妹と同様、この旧ナチスドイツ軍と地球連邦軍+ライダー達の争いに巻き込まれたのであった。後日、この事はカチューシャの知るところになり、カチューシャの一存によってなし崩しにプラウダ高校戦車道部は7人ライダーや連邦軍に極秘裏に便宜を図る、“協力者”にカテゴライズされ、カチューシャやノンナは地球連邦軍の部隊への情報提供や部隊の移動の手引きに奔走する生活を送ることとなった。



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