短編『魔法少女達の奇妙な物語』
(ドラえもん×多重クロス)



――別のミッドチルダで助けを待つ三人はものはついでとばかりに、そこの世界の住人のはやてによって機動六課へ同行を求められ、これを了承した。


「……と、いうわけや」

「なんか随分ややこしい話じゃね?要するになのはとテスタロッサにスバルがもうワンセットいるんだろ?」

「単純にワンセットとも言い切れない部分も多分にあります。性格まで行くと違いが多分に見受けられますので」

副官のグリフィス・ロウランがメンバーに事の表しを説明する。なのはとフェイトはもう一人の自分と対面したので『狐に化かされた』ような感覚が今でもあるのか、複雑そうだ。

「ここにいる高町一等空尉とテスタロッサ執務官、ナカジマ二等陸士は我々の知る当人とは全くの別人、本人たちによれば『別時空の別個体』だそうです。詳しくは本人たちから聞いたほうが早いでしょう。それではお願いします」

「恩に着る」

ブリーディングルームの壇上に立つなのはA。なのはBに比べると長身で、細い見かけによらずガッシリした体つきである。咳払いを一回したあと、説明に入る。

「グリフィス君の言うとおり、あたし達はこことは別の次元の『異相同一個体』。本当は細かい説明とかしなくちゃいかんだろうが、最重要作戦前の時に悠長に説明してる時間なんぞない。とにかくあなた達の知るあたし達自身とは『別人』と思ってくれて差し支えない」

ブリーディングルームにざわめきが起きる。なのはが持つ天真爛漫さとは全く別人のような凛とした振舞いと、軍人然とした簡潔な説明は『別人』というのを否応なく実感させられるからだ。

「それでは『どこまでが同じで、どこからが違う』のだ?」

「11歳の時までは同じで、それ以後の人生はは全く違います、ザフィーラさん。11歳からこのかた8年間、戦い続きですから」

「戦い続きとは?」

「こっちじゃ闇の書事件の後、ミッドチルダも大揺れなことが続いたんで……」

なのはAはそれとなく、自分が辿った道を示唆する。服装や体の傷などからザフィーラも事を察したようだ。続いてはフェイトが説明に入る。恐らく、三人の中で最も差異が大きいのは彼女だ。

「私も先ほどのなのはと同上だ。こんな格好でみんな驚いていると思うが、これはある世界に行っていた時に着ていた現地の魔導師の仕事着なので、みんな突っ込まないよーに」

と、断りを入れつつ説明を始める。性格の違いがよく出ており、語尾がフランクなものになっているのに驚く者が多かった。服装の違いは最初に注意したためか、突っ込むものはいなかった。



「あなたのデバイスは基本的には私と同じなんだよね?」

「基本的にはな。ただ、私のは色々弄ったからなぁ」

「弄ったって?」

「交流ができた世界の技術でかなり改造して、変形機構が複雑になってるんだ。この世界のミッドチルダの規格に合わないから、たぶん完全なオーバーホールは無理じゃなかろうか」

「確かに。バルディッシュの原型残ってないような変形だったよね、あれ……」

「話せば長いんだけどな、これが」



フェイトAのバルディッシュやなのはのレイジングハートは地球連邦の技術で幾度かの改造がなされている。バルディッシュの場合はフェイトが飛天御剣流を身につけた時に二度目の大改装がされた。その時に付け加えられた日本刀形態を、当初は便宜的に『サーベルフォーム』と呼んでいたのを、稲垣真美の発案で『天羽々斬』と呼ぶことにし、現在はそれが定着した。地球連邦の技術が入ったために変形機構がかなり複雑化。この世界のミッドチルダではオーバーホールは無理だろうともいう。実際に、この間にも整備のためにマリエル・アテンザが三人のデバイスを見てみると、カートリッジシステムやAIを除いては『所々、ミッドチルダの技術水準を超えてる部分がある』と頭を悩ませていたりする。地球連邦軍のテクノロジーはこの世界に取っては『オーバーテクノロジー』に等しい。そのために、オーバーホールは困難を極めたという。


(元の世界ではかなり技術交流も進んで、予定通りに行けば、次世代艦では地球連邦のショックカノンがアレンジされて搭載される予定だったんだよなぁ。ナチのせいでご破産だけど。技術交流の成果って凄いんだな)

思わぬところで関心するフェイトAであったが、裏ではメンテナンス担当者のシャーリーやマリエルがミッドチルダの正規規格に合わない(ただし、三人の故郷でのミッドチルダの最新規格には合致しているが)部品を多分に用いた三人のデバイスの整備に四苦八苦していたりしている。別の自分との質問を終えると、今度はヴィータから質問が飛んだ。




「質問!お前の年はいくつだ?こっちのお前より若いように見えるけど」

「年自体は同じさ。剣術とかしてるから、その分若々しく見えるかもな」

「何ぃ?!」

ヴィータが驚愕するのも無理ない。フェイトAの肌のハリは10代半ばで十分通用するほどのピチピチさ。(実際に高校卒業後にバイトをした時に年齢をサバ読みしてもバレなかったとか)ズレた質問ではあったが、皆に自分たちの知る三人とは明確に『別人』と認識させるのに一役買った。ただし若々しさに涙目になる別の自分に同情したらしく、フォローは入れたとか。





「それでお前たちの扱いはどうなるんだ?」

「部隊長の話では、私達は飛び入り参加だから部隊長直卒扱いになるとの事だ。正規の指揮系統に干渉するわけにはいかないからな」

これははやて一流の策だった。異次元の異相同一の人物が同じ場所にいる。これは前代未聞の事態だが、考えようによれば『能力制限を受けていない強力な魔導師が三人も手に入った』とも取れる。話を聞くに、ある一定の分野においては『戦技無双』に値する力を有すると判断した彼女は友人の顔を立てつつ、三人を遊撃兵力として活用する事にしたのだ。三人は『存在しない』故の策だった。辞令も非公式の物だが、三人も了承した。戦果はこの世界の自分たちのモノとしてカウントされるという取り決めも極秘になされていた。そのためにデモンストレーションも行う必要があるとはやてから言われてある。

「確かになぁ。お前らが二人もいるんじゃややこしいし」

「それだけじゃ私達に対して疑問を抱く者も多いと思う。部隊長の了承を得てあるが、模擬戦闘を行おうと思う。デモンストレーションと思ってくれていいが、手抜きなしで全力勝負だ。スバルからも説明があると思うが、私からは以上だ」

フェイトAはここでハッキリと『デモンストレーション』と言った。自分たちの力を見せることで全体の信用を勝ち得るという、地球連邦軍流の手段を取ったあたり、彼女も確実にロンド・ベルに毒されていた(いい意味で)。その後、最も差異が少ないスバルの説明がなされた。スバルの姿に安心したと思えば、体はもはや戦闘機人と言えるか怪しいほどの改造を受けていたと告げられるとどよめきが起こったという。

















――数時間後、説明を終えてなのはがシャーリーとマリエルのもとにデバイスを受け取りに行くと、二人は疲労困憊であった。

「いやあ参ったよ。かなりこっちの規格と違う部品とかが組み込まれてるわ、未知の素材でフレームが組まれてるわ……カートリッジシステムとかの部品交換しといたから、正常に動作するはずだよ」

「ありがとうございます。どうでした、レイジングハートは」

「なあに、別の可能性を知れて良かったよ。まさか砲撃に特化しない姿が有るなんて……興味津々だよ」




マリエルはレイジングハート・エクセリオン改のハルバードフォームとソードフォームを指して、『砲撃に特化しなかった』と言った。確かになのはBのレイジングハートは完全に『砲撃を行うためのプラットフォーム』化しており、運用法も完全に砲撃用デバイスとなっている。ブラスターモードやエクシードモードの存在がそれを物語っているが、なのはAのそれは砲撃機能は少女期からそれほど代わり映えしないが、近接格闘用モードで汎用性と安定性を高めている。砲撃に特化しない代わりに汎用性と安定性を取ったと取れる。そのため疲労困憊ながらも『興味津々』なのだ。シャーリーに至っては不気味な笑いをしながら異様にハイテンションだ。

「お、おい。シャーリー?」



ズボラななのはAが引いてしまうほどのハイテンションは語り草となったが、彼女が大変だったのはこの後。Bにホテル代として貯金を使い込んだことを詰め寄られたのである。




――なのはBの隊舎での自室

「貯金使い込んだってどういうことなの!?」

「しょうがないだろー!無一文だったんだから。使い込んだのは謝るけどさ」

「〜〜!!それでいくら使ったの?」

ぶすっと膨れるなのはB。まさか自分自身に貯金を使い込まれたとはと頭を抱えている。しかも性格の違いか、悪く言えばズボラ、良く言えば大らかな別の自分に若干呆れているようだ。


「ほんの〜〜ほど……」

「えぇええええええ!?」

その金額は普段の一ヶ月当たりの生活費の過半数を超える高額。それを数日で消費したと告白されたことで血の気が引いてしまうB。その気になれば補填は容易にできるものの、痛い損失ではある。思わず大声を出してしまう。

「あ、あなたねぇ……」

「いやあ〜ホントすまんかった。たぶんはやてちゃんがどーにかしてくれるさ〜ハハハ」

なのはAはどこか楽天的である。これも師匠の影響によるものだろう。成長の過程や環境が違うと別人のようになるといういい好例であろう。しかし戦いになればビシっと決める時は決める。高校生であった故だろうか、精神的には落ち着いたところがあると思えば、諦めが悪いところもあるとなのはBは見ていた。最も、『違った道を歩んだ』自分とこうして会話するだけでも、祖父が子供の頃に見ていたという『ミス○リー・ゾーン』か、現在でもちょくちょく放送されている『世○も奇○な物語』のような珍妙な状態なのだか。


「あなた達はこれからどうするの?」

「迎えが多分来るだろうけど、スカリエッティのことも気になるから当面は協力するよ。あいつらの裏も気になるし、フェイトちゃんは妖怪『首おいてけ』状態だしねぇ」

「は、はいぃっ!?」

「スカリエッティの研究成果が、そもそも、プレシア・テスタロッサ、つまりフェイトちゃんのお母さんを狂わせた原因の一つじゃん?その技術は裏で、管理局の最高幹部が『作らせた』のさ。うちらの世界だと、それもナチス・ドイツの掌で踊らされていただけのようだけど……。フェイトちゃんは本気だ。ありゃ首を跳ね飛ばしかねないよ。気をつけな」

「ふ、ふぇええええ!?いくらなんでもそれまずいよそれって!」

「そーなんだよ。あたしとスバル、そこんとこ悩んでるんだ。スカリエッティへの怒りで完全に九州の某首おいてけな戦国武将状態になってるから」

スカリエッティの出自はどこの時空においても、『時空管理局の上層部が作らせせた人工生命体』である。なのはAの次元では、時空管理局最高評議会そのものがナチス・ドイツの元将校であり、侵攻を手助けした上にナチス・ドイツへ人員・機材を多数『提供』したという経緯がある。そのため、フェイトAは母を狂わした元凶が『自分が信じた組織の最高幹部であり、母も、自分も歴代仮面ライダーやスーパー戦隊が何代にも渡って延々と戦い続けた組織の掌で踊らされていた』事を知り、内心ではこれ以上ないほど激昴しており、スカリエッティを躊躇いなく問答無用で首を跳ね飛ばしかねないのだ。これは執務官として、実に不味い。なのはAはフェイトAに『一線』を超えさせないように心を砕いていると告白する。だが、フェイトAは完全に殺る気満々であり、そこがなのはAの悩みどころである。



「フェイトちゃんにそんなところがあったなんて……」

「こっちじゃあたしが撃墜されて行方不明になったとか、仮面ライダーとか、ショッカーとかデストロンが実在する世界があったとか、色々あったからね。それで『知ってしまった』と思うんだ。この世界の『ヤツ』が当てはまるとは限らないんだとは何度も言ってるんだけど……」

「フェイトちゃん……」

「あたしだってスカリエッティは許せんさ。だが、フェイトちゃんに取って、スカリエッティは『母親を狂わせ、クローン技術に頼って自分を生み出し、その技術がエリオを生み出した』元凶だ。アリシアさんが生きていれば違ったんだろうが……」


なのはAはフェイトAがスカリエッティに対して、異常までに敵意と殺意をむき出しにする理由を、17歳の夏頃にドラえもんの助けを借りて、独自に調べた。ドラえもんのタイムテレビでフェイトの『姉』のアリシア・テスタロッサの死、プレシアが狂気に落ちてゆく様を目撃した。アリシア・テスタロッサは生きていれば、自分たちが9歳の頃に20代後半になっているはずであった。そしてアリシア・テスタロッサが生きていれば『フェイトは普通に妹として生まれる』はずであった事もなのはAとドラえもんはもしもボックスで確認もとった。つまり『フェイトはどのような形であれ、生まれてくる運命』であるという事だ。ドラえもんもフェイトが母親を闇に堕ちさせた元凶を恨むのは当然だとしながらも、フェイトが怒りに呑まれないようにしろと忠告していた。なのはAの懸念材料はフェイトAのスカリエッティへの敵愾心であり、殺意なのだ。

「アリシアちゃん、か……あの子が生きてれればプレシアさんも狂わずにすんだのかな?」

「少なくともそうだろうな。どこかの次元にはプレシアさんも狂わず、フェイトちゃんも普通の生まれ方で生まれて、アリシアさんと仲良く生きている世界もあるだろうとは、あたしの友達の見解なんだけどね。それを知っていればなぁ」

なのははドラえもんの存在をはぐらかしつつも『友達』として、もう一人の自分にいった。それはフェイトが心から渇望しているのは『家族』であり、『信頼出来る誰か』であるのは明らかだ。




「フェイトちゃんはあたしに依存してきた節が有るからなぁ。子供の頃はこれが謙虚だった。あたしが行方不明になったって知らせが届いた時、この世の終わりみたいに狼狽えて、捜索打ち切って帰ってきた、あたしの当時の上官に完全武装で詰め寄ったとかってリンディさんから聞いてるくらいに」

なのはAはリンディ・ハラオウンから『帰還後』にフェイトがなのはが消息不明と聞かされた時の狼狽ぶりを聞かされた事をBに話す。上官に『なんでもっと探してくれなかったんですか!!』と詰め寄って慟哭した事、自分を探すために執務官の試験を受けた事を。

「そうなんだ……」

「そうだよ。あたしだって驚いたくらいさ。お師匠達があたしへの依存を指摘したりしたあとは改善したんだけどね」

「ここのフェイトちゃんもたぶん、同じような問題を抱えていると思う。フォローしてやってくれ」

「うん。さっきから思ってたけど、フランクだね、あなた」

「お師匠や友達の影響でね。デバイスの試し運転もあるから今日はこのへんで退散するよ」

なのはAはBと共通する事項で『悩み』をもっている。それは大小の違いであれ、フェイトの事であった。BはAの自分より大きな背中を見送りながら、表面上の態度はまったく異なるもの、根本的には同じなのだと言うことを理解したのだ。そのためこの時、なのはAとBは共通の目的で手を取り合う事になった。



――こうして、機動六課に無事合流した三人であったが、フェイトA、Bの精神的危うさという懸念材料を抱える彼女らの前途は決して明るいものばかりではない。そして三人を探す南光太郎と黒江綾香は無事に目的を果たせるのか。








――既に光太郎達が捜索を開始してから、2週間が経過していた。光太郎は黒江の目にもわかるほど憔悴していた。仲間を失うのを何よりも恐れる彼はここ数日、一睡もしていない。ライドロンからも心配されるほどだ。こうなれば一か八かで並行世界へ捜索の幅を広げるしかない。

「光太郎さん、こうなったら並行世界へいきましょう。それしかありません」

「そうだね……もうそれしかない。一か八かだ!」

一縷の望みをかけて、光太郎達は次元を飛び越える。並行時空のミッドチルダへ。一度で成功するとは思わない。だが、二人に取ってはこれが最後の希望。ライドロン自身も光太郎のために、三人がいる世界に望みを託す。そして……。




――翌日 決戦前の模擬戦闘場

「バルディッシュ」

フェイトAはバリアジャケットを展開する。モードは『天羽々斬』。あえてこのモードを使った理由は『デモンストレーション』。バリアジャケットのデザインはこれまでと趣きが異なり、青と白を基調にしたカラーリングのヒロイックなデザインである。フェイトが幼少期より常用してきた、黒基調のこれまでのものとは全く異なる印象を与える。バルディッシュの形状もまったく異なり、鍔のない日本刀状である。エリオとキャロ、スバルB、ティアナなどは衝撃を受け、唖然としている。相手は……。






「行くぞ、レヴァンティン」

シグナムである。もう一人のフェイトに興味深々であり、模擬戦闘の相手を買って出たのだ。両者は剣を構え、向き合う。しばしの沈黙の後、戦いの幕が開く。早朝の朝日が登る中、激闘は開始された。レヴァンティンと天羽々斬。2つの聖剣の名を冠したデバイスを使う者らの激突は開始されたのであった。


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