短編『のび太と埋蔵金伝説』
(ドラえもん×多重クロス)



――21世紀。野比家に電話がかかってきた。それはのび助の三番目の弟であり、のび太の叔父である『野比ムナシ』からのものだった。

――野比家

「ああ、ムナシ叔父さん?僕だけど、宝の謎を解明したの?」

「そうなんだ。今すぐウチに来てくれ」

「ちょっと待って。ドラえもんや僕の友達とかも参加したいとか言ってるから、その子たちが来たら一緒に行くよ」

電話を切り、部屋に戻ると、ドラえもんがなのは、フェイト、箒、シャーリー、黒江、圭子、それと武子を連れて来たところだった。はやては今日来る予定が、偶然にも会議とかち合ってしまい、後から来るので、ついでに黒江が武子を誘ったらしい。

「あれ?加藤大佐じゃないですか。休暇取れたんですか?」

「綾香に誘われたのよ。ついでだけどね」

「なるほど。シャーリーさん、どうです最近は」

「ミッドじゃ大変だよ。少佐に昇進の内示出たし、おまけに凄い奴に会っちまってさ……」

「誰です?」

「ジョージ・H・W・ブッシュだよ。ほら、この時代の大統領の親父。あたしらの時代じゃ、海軍の最年少艦上攻撃機乗りなんだよ。後々の大統領だと思うと、緊張しちまって……」

シャーリーは後に大統領となるであろう、ジョージ・H・W・ブッシュ青年(当時は海軍中尉)とミッドチルダで対面し、未来を知っているために緊張してしまったとのび太に言う。のび太も「なるほど」と頷く。後に大統領になる未来が分かっている青年があると、どんな一言が彼の運命に影響を及ぼすかわからないからだ。

「それで今日はオメーの叔父さんのアパートに行くんだって?」

黒江が言う。のび太も頷き、続ける。

「僕の親戚のムナシ叔父さん、売れない映画俳優で、趣味がトレジャーハンターなんですけど、一年前の正月に叔父さんと僕とドラえもんとで、叔父さんが持ってた宝の地図の謎を一つ解明し、最近に『謎が解けつつある』と連絡してきたんです。はやてちゃんは遅れるんですって?」

「運悪く会議が入っちまったそうだ。あいつは管理局で貴重になった事務処理もできる佐官だから、戦略会議への参加が義務付けられるんだよ」

「あれ?佐官なのに、なのはちゃんは出なくていいの?」

「あたしは前線担当だからね〜。はやてちゃんと違って、指揮課程は本格的には取ってないのもあるんだ」

「確かに。なのはちゃんって、どこぞの銀河帝国皇帝みたいに『前線でブイブイいわせる』ほうが違和感ないし」

「のび太くん、それってどーいう意味ぃ〜!あ、箒さんも頷かないでくださいよ〜!」

「すまんすまん。それで、宝探しとはなんだ?のび太」

「なんでも埋蔵金に纏わる事らしいです」

「埋蔵金?よく巷で言われる、戦国期だが江戸期に、どこかの城の城主などが軍資金とかとして秘匿した伝説があるあれか?」

「ええ。今回は江戸時代のものらしいですけど。はやてちゃん達には言付けしとくんで、先に行きましょう。今週はジャイアン達はスネ夫の別荘に行ってるんで、いないんですよ」

「例のあの島か。あいつはいささか、器量が小さい嫌いがあるな…」

箒は真面目なところがある故、スネ夫の器量を『小さい』と評する。これはおべっか使いがうまい反面、ドラえもんの道具を得ると高圧的に出るところが鼻につくからだろう。

「スネ夫はお坊ちゃんなんで、ワガママなところがありますから。さあ、行きますよ。黒江少佐と加東中佐はジープの運転お願いします」

「おう」

「任せて」

野比家の地下格納庫には、移動用に連邦軍の制式採用しているジープが置いてある。連邦軍が一年前に制式採用前の試作車をおいて行ったからだ。もちろん、運転免許証がないのび太は運転できないので、黒江や圭子などの『成人済み』の面々が運転している。(ちゃんとこの時代の運転免許証も保有している)一路、ムナシの住むおんぼろアパートへ向かった。



――野比ムナシの住むおんぼろアパート『オンボロ荘』

「うわぁ。見るからにオンボロだぁ」

「叔父さんは稼ぎが無いからね。そこそこ役はあるんだけど」

野比ムナシは端役で食っている俳優だが、稼ぎは少なく、のび太にさえ借金しようとするほどで、のび太も呆れ気味だ。大人数で押し掛けるのははばかられるくらいの小ささだ。

「ムナシ叔父さん?僕だよ〜」

「お、来たな。入ってくれ」

「お邪魔します〜」

と、言うことで、とりあえず全員入って、自己紹介を終えた後、ムナシは事の説明に入る。

「僕は去年、ドラえもんやのび太と一緒に宝の地図を発見した。その謎を解明したんだ」

「なんて書いてあったの?」

のび太に頷き、ムナシは語り出す。宝の出自を。

「宝の出自はどうも、天正大地震で町ごと消えてしまった帰雲城に由来するんだ」

「帰雲城?」

「元は内ヶ島氏が岐阜に築城した城なんだが、どうも江戸期に入る頃、辛うじて難を逃れた元家臣らの一族が一部持ちだしていたのを、当時の藩の殿様が管理していたのを、税金対策で埋めたのが始まりだそうだ。その時に加えたものも含まれるから、大判小判の価値は現在で言うと5億円超える」

「やろうよ叔父さん!ドラえもんの宝探知機使えばすぐ見つかるよ!」

「ところがそう問屋は卸さない。八ッ神山のどこかに城を作って、そこに隠したらしいんだ」

「前に行ったところだね」

「うん。だけど、あの辺りに城なんてあったかなあ?」


ドラえもんも首をかしげる。その山一帯に足を運んだ(宝探しごっこセットを使った際に行った事がある)が、城があるとは誰も言ってなかったからだ。ムナシは補足する。

「税金対策と言ったろ?多分、江戸時代に入る頃、一国一城令が出される前にこっそり作っていたんじゃないか?奥の奥、森林と谷に囲まれた場所に作ったから、その更に子孫達もわからなくなったし、明治政府も日本陸海軍も、GHQの指令を受けた米陸海軍も見つけられなかったのかも」

「その城を見つけるって言ったって、城の外観がわかんねーと見当もつかないぜ?」

「城の外観は天守は江戸城に似た姿らしいが、不明瞭なんだ。本当に天守があるかどうかもわからない。屋敷だったのかも知れないし、砦だったのかもしれないじゃん?」


シャーリーへのムナシの言は当たっていた。その城、仮に『八ッ神城』は江戸初期にこっそりと作った城だが、当事者が死んだ後に伝説化している。日本政府、日本陸海軍、GHQの命を受けた米軍も埋蔵金目当てで求めた『幻の城』。意気込むムナシだが、その城を探し求める者は他にもいた。バダンである。彼らは旧日本陸海軍に潜ませていたシンパから情報を得ており、財宝を求めて、部隊を向かわせていた。それを更に察知したヒーローたちも、仮面ライダーV3、X、ストロンガー、スカイライダーを21世紀の日本へ送り込み、銀河連邦も宇宙刑事シャイダーを派遣していた。





――そんなこんなで、のび太達は会議が終わったはやてと合流し、どこでもドアで山についた。た。ヴィータやシグナムも一緒で、ヴィータ曰く、「はやてが行くんならあたしも行く!」との事。よほどメカトピア戦争に最後まで関われなかったのが悔しいらしい。

「でもよ、なんでこんな大人数なんだよ、のび太」

「黒江少佐が誘ったり、なのはちゃんのお目付け役だったりでこうなったんだよ。……ハァ、フゥ……」

八ッ神山は傾斜の緩い山のはずだが、荷物を多く持ってきたのが災いしたか、のび太は早くも息も絶え絶えである。

「もう、毎日毎日、昼寝ばっかりしてるからだよ」

ドラえもんは呆れ気味だ。はやては普段の『怠け者』ののび太に感心したりで、箒もドラえもんと共に呆れ顔、黒江や圭子、シャーリー、なのはとフェイトには、のび太のバテバテはいつもの光景と化しているため、軽く流す。武子はそんな光景が新鮮そうだ。

「ねぇ、圭子」

「何?」

「あなたが子供たちの面倒を見るなんて、どういう風の吹き回し?あなたなら向こう側じゃないのかしら?」

「武子、それは昔の話だって!そりゃ昔はやんちゃしてたけど」

「『あの時』は肝冷やしたわよ。あんな事しだすし……」

「お、覚えてたのか?あれ」

「あなたに『あれ』を手に取るまでは忘れてたわ、完全に。だけど、手にとった瞬間に走馬燈のように、『記憶』が写った。その時に思い出したのよ、あの時の約束を。歴史の帳尻合わせなんでしょうね。あなた、あれした後は大変だったわよ、かなり」

「うへぇ、そんなだったか?そっちのほうが覚えてないんだよなぁ」

――歴史改変時にやった『無茶』で、圭子は前のような長期入院こそ免れたが、欧州には魔力の減衰が急激に訪れ、短期間しか居られず、20で一線を退いたことになっている。だが、それは今の圭子には、『殆ど覚えがない』空白期間の出来事である。武子曰く、魔力減衰が何故、急激に訪れたのが理解できず、かなり落ち込んだとの事なのだが、圭子自身は覚えがないために首を傾げる。武子は続け、黒江も、口調が未来の自分に引っ張られたのか、言葉使いが若干荒くなったのが『未来の自分が宿っていた』名残りとして残り、自分自身で違和感を感じていたとの事。

「そういえば、未来行く前にそんな感覚あったな……。今となっちゃ凄いオチだけど、未来の自分の影響が過去の自分に残るってのは不思議だぜ」

黒江は武子の言に心当たりがあったようだ。タイムパラドックスなどの絡みで、三羽烏には、所々で『1939年から1944年まで』の記憶が欠落していたり、有耶無耶になっている。友人関係の記憶はあるのだが、細かいエピソードは『覚えがない』ものも多い。三羽烏の共通の悩み事は現在それで、歴史を変えた事で生じたエピソードの補完をタイムテレビで行っていたりしている。

「今度、私達の欧州でのエピソード、教えろよな。私は半年くらいは審査部で飼い殺しに近かったそうだが」

「いいわよ。綾香、あなたの欧州での細かいエピソードなら、神保大尉が知ってるから、聞いてみたら?事情は話してあるわ」

「先輩に?参ったなこりゃ。神保先輩にゃ頭上がんねーんだよなぁ」

黒江の欧州時代の先輩である神保大尉は、黒江が64戦隊や第1戦隊以外ではほぼ唯一、頭が上がらない人物だ。欧州時代の黒江の面倒をよく見、飼い殺しで落ち込んでいた黒江を立ち直らせた恩人である。なので、さすがの黒江も神保大尉の前ではかしこまってしまうのだ。

「あなた、自由奔放そうだけど、それでも神保大尉には頭上がんないのね?意外だわ」

クスッと笑う武子。黒江は上層部相手にも口八丁で渡り合うのに、神保大尉には頭があがらないという人間関係を持つのは可笑しいらしい。黒江は赤面しながら、「る、るせーな」と一言言う。恥ずかしいらしい。武子は過去改変の影響で、改変前は『第一戦隊の時の戦友の一人』でしかなかった黒江との関係が『かけがえなき親友』であり、公の場では『腹心』となっていることに嬉しさを感じ、改変前と違って、三羽烏のメンバーから外れた(改変前では、三羽烏というと智子・圭子・武子を指した)ことを気にしていない。黒江のほうが罪悪感を感じているのとは偉い違いだが、これは黒江に『武子の本来のポジションを奪ってしまった』という負い目があるからだろう。

「みんな、そろそろ谷が見えてくるが、その谷こそ、城への第一歩だ。」

ムナシの言葉に、坂道を歩いてきた一同は目的地の地殻に差し掛かったことを実感した。谷底へは数百mほど続いており、ここを経て、山を中腹まで登ればあるとの事だが、江戸期に城を隠すのにはちょうどいいが、衛星写真が取れる21世紀でさえも発見できないものなのかと一同は感くぐる。谷底へはドラえもんが重力ペンキを塗って降りる。タケコプターは人数分ないからで、妙にケチっぽいところを見せた。

「うお、すげえ森林。よくこんなところが残ってんなぁ」

「学園都市の領域外ですから。多摩地域も学園都市に開拓されてるけど、この辺は手付かずなんです」

日本政府はこの時代、学園都市の統制は取れておらず、事実上は独立国も同然の権勢を誇った。そのために手つかずとなったと思いきや、ここで異論が出る。

「ん?この辺り、見覚えがあると思えば……そうだ、思い出したぞ」

「何を思い出したんです、シグナムさん」

「ああ、何年か前に何かの記事で読んだんだが、時空管理局の航行艦……当時の新鋭艦だったL級だったか?が数十年前に試験航海中に次元震を起こす大事故を起こしたんだ。その次元震はどうもこの世界に伝わっていたらしく、この辺り一帯は空間閉鎖状態になっていたんだ。この世界が安土桃山時代の末期から江戸初期になるあたりからな。それに気づいた連邦政府が国交樹立後に管理局に通報して、この時代で閉鎖を解除したのが書かれていた。たぶん、城は安土桃山時代のままだろう。時間が経っていないからな」

「どうしてそうだと?」

「いいか、なのは。数百年も風雨に手つかずで打たれて見ろ。普通なら木が生い茂って、荒れ果て、ボロボロになっているだろう。建物が原型を保っていたとしても、内部の機械類は経年劣化で機能せん。構造式であっても同様だ。空間閉鎖なら、時間が止まった状態だから経年劣化もないし、風雨にもうたれてない。それに60年以上も航空写真に映らないでいる理由の説明もつく」

「なるほど……」

シグナムの話は本当だ。なのはもその記事は見覚えがあるからだ。なのはは皆にそれを伝える。皆も、シグナムの仮説に納得する。

「地図によれば、谷を上がり、更に山を中腹まで上がったところにあるらしい。山に差し掛かるところで食事にしよう。トイレに行きたい者はドラえもんが仮設トイレ建てるから、そこですませなさい」

ムナシが注意事項を通達する。用を足す者はほぼ全員で、それが済んだ後に食事となった。食事はドラえもんが『グルメテーブルかけ』を使用し、それで思い思いの食事を出すことになった。のび太はもちろん、お子様ランチだったりする。



「お、お前はお子様ランチか?」

「ええ。美味しいですよこれ」

黒江はスタミナがつくようにと、『豚丼』を出してがっついている。圭子はアフリカで慣れたのか、サンドイッチを。武子は林檎とおにぎりとシンプルだ。箒は卵かけご飯、なのはは牛丼、フェイトはチャーハン、シャーリーはハンバーガーとフライドポテトである。はやてとヴィータはカツ丼、シグナムはシンプルなハムエッグである。ドラえもんは毎度おなじみのどら焼きだ。ムナシは親子丼である。

「綾香、もうちょっとゆっくり食べなさいな。今は休暇中なのよ?」

「癖になっちまってるんだな、これが。職業柄って奴か」

黒江は未来世界滞在中に早食いの習慣が身についてしまったようで、豚丼を早いペースで平らげる。それに武子が釘を差す。武子は割と食事を楽しむタイプなようで、昼休み終了間近の大学生のように、早食いで平らげる黒江に呆れたようだ。

「胃に良くないから、ゆっくり噛みなさいよ?学生じゃあるまいし」

「わかっちゃいるがなぁ、どうもな」

武子は若かりし頃から、陸軍三羽烏に振り回され気味の苦労人である。黒江が歴史改変で『三羽烏筆頭』のポジになり、改変前より茶目っ気のあるところを見せたせいもあり、現在では三羽烏のストッパーを自認している。そのため、武子自身も以前に増して『大人びた』態度を取る事が多くなったものの、カメラやフルーツ系スイーツになると、歳相応の可愛い側面を覗かせたりする。その辺りは箒に似ていると言える。

「ん?圭子、あなた、茶髪だったっけ?」

「アフリカにいる内に色素抜けたの。今じゃ茶髪よ」

圭子は本来、黒目・黒髪であった。(士官候補生時代の写真でそれが分かる)が、長年のアフリカ暮らしで色素が抜け、髪はほぼ茶髪へ、瞳も傍からみると茶色に見えるほどになった。

「親父や兄弟から言われたわよ?どうして髪を染めたって。こちとらアフリカの紫外線で色素抜けただけだっつーの!気がついたら夜が明けてたし……」

圭子は実家への帰省の際に、親や兄弟から問いつめられ、げっそりしたエピソードを話す。1945年の正月に帰省したら、髪を染めたと誤解され、誤解を解くのに時間がかかり、挙句に帰宅した父親にも問いつめられ、黒江に泣きつき、写真付きで説明してもらい、親と兄弟は分かってくれたが、終わった時には夜が明けていたという。

「半年に一度くらいしか手紙出さないからよ。これからは手紙を数ヶ月に一度くらいで出しなさいな」

「はぁ〜い…」

「あん時は私がいなけりゃ、おめーはこっぴどく親父さんに怒られるところだったしな」

「うぅ……そりゃ一年くらい連絡してなかったけどさ」

黒江も続く。圭子は地味にそのエピソードが効いているようで、がっくりと肩を落とす。とはいうものの、実は武子も以前、ミッドチルダ動乱時に黒江に『思い出したけど、偶には手紙出せよ!連絡よこさねーんだから……』と怒られており、そこはお互い様だったりする。

「おお、こ、こりゃ……!今までのは飯じゃない!!餌だ!!ヒャッホー!!」

シャーリーはグルメテーブルかけでハンバーガーに開眼するなど、そんなこんなで食事が進む一同。一同の食事する谷から見て、更に高い山の中腹に『それ』は眠っていた。空間閉鎖による影響で、誰にも手を出されぬまま、往時の姿を留めた山城、いや砦に近いのかもしれない城の天守閣が静かに一行を待ち構えていた。それを狙う魔の手があることを一同はまだ知らない。



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