短編『ジェノサイド・ソウ・ヘブン』
(ドラえもん×多重クロス)



――度々、黒江が言及した『成り代わり』。その期間は一年以上であり、好き勝手しまくったため、事後に色々と愚痴られたのは言うまでもない。だが、黒江が黄金聖闘士として行った事はシンフォギア世界の理を色々と凌駕しており、また、Gマジンカイザーとラ號という『世界の理を超える』超兵器の出現もシンフォギア世界を驚愕させた。ラ號は旧日本海軍の最終兵器を更に改良して運用している艦であるため、その存在はシンフォギア世界でも秘匿された――


「旧日本海軍の最終兵器……大和型戦艦の五番艦……。兄貴、日本海軍は本当に大和型戦艦を五隻も計画していたのか?」

「防衛省や厚労省に調べさせたが、それは本当だ。こちらの世界での旧海軍の開戦前の建艦計画では、その改良型を大量に揃えようとしていた。長門型戦艦以前の艦を長い年月で更新しようとしていたのは、どこも共通している。違うのは、この艦が造られた世界では、終戦まで建造が続けられていたという点だ。しかも長い年月で宇宙を飛べる艦として改装されてもいる」

「しかし、元の大和型戦艦は263mだろ?それより大きいこいつは、日本海軍の港湾施設では対応出来ないぞ?」

風鳴兄弟(翼の父と叔父)は連邦軍兵士の案内でラ號を見学していたが、ラ號は当時の日本海軍の手に余る巨大さであることを語り合う。

「ドックは日本国内の島の地下にありましたので、差し迫った戦局では、本土での整備はあまり考慮されてなかったのです」

「しかし、主砲は大和や武蔵のそれと同じだったのは腑に落ちんな。攻撃力は変わらなくなる」

「元々は僚艦と同じ51cm砲にするはずでしたが、その分しか製造出来なかったので、信濃用のそれを流用していたのです」

「樫野という専用輸送艦まで用意して運ばせていたという46cm砲。どうやって運び込んだのだ?」

「戦争中には間に合わなかったので、戦争が終わった直後の辺りに運び込んで、戦後も作業を続け、西暦2000年にかかる年代に完成はしております」

「何故、それだけ長い年月を費やした?」

「ドイツからもたらされたオーバーテクノロジーの安定化などに手間取ったのと、計画責任者が戦後日本の手に渡るのを嫌ったのも原因です」

神宮寺大佐が戦後日本を嫌悪していた(実際、1990年代までの日本の政治状況では、大日本帝国の最後の遺産であるラ號の存在を明らかにしたところで、その解体を要求するのは目に見えていたからである)のもあり、ラ號は戦後日本政府の手には渡らなかった。存在を知らされたのも、日本連邦の結成後の事だ。(戦後日本は大日本帝国を否定する事で戦後世界に居場所を作ったため、大日本帝国の所産の多くを否定しなければならないという強迫観念を持っていた。それが生粋の海軍軍人であった神宮寺大佐の憤激の理由であった)

「2000年に完成しても、表に出さなかったのは何故だ?」

「日本の政治的状況から言って、本艦の存在を許さないと元部隊員らとその子孫らが判断したからです。2010年代後半に存在を公表した際には、案の定、左派勢力が問題視していますが、国連の後身である地球連邦政府の所有であることが公表されたらピタリと収まっています」

「戦後日本は国連の権威には弱いからな」

風鳴弦十郎も納得するのは、戦後日本の政治勢力の中には、戦前日本の所産を小馬鹿にする思考があることと、それらが国連の権威の前に押し黙った事だろう。地球連邦は組織としては、『国際連合が政治的権限を持った上で、軍隊を保有した組織』であったのが始まりである。後年の地球星間連邦は『星間国家』と『恒星間国家』としての後身であり、地球連邦政府そのものは国際連合の後身である。その権威は21世紀日本の左派にはこれ以上ない錦の御旗となったのは、その世界の住人ではない風鳴弦十郎、その兄で翼の父『風鳴八紘』の想像に難くはない。

「そちらの世界では、どのような経緯を経て、地球連邦政府が樹立を?」

「長い世界戦争の果てに、日本と英国が勝者となっての樹立です。表向き、国際連合の発展という形ですが、かつての安全保障理事会の国々の殆どは零落しています。日本と英国の連合が覇権を握り、中心となって樹立されたのが地球連邦政府なのです」

「日英同盟の復活が現実に?」

「私達の世界での22世紀頃の事ですが。国連はその戦争で分裂して形骸化しましたが、日本人を納得させるにはその権威が必要だったのです。自己満足に近いですが」

風鳴八紘へ説明する連邦軍兵士。日本人の多くは、自分達の意思で国連を解体して新たな秩序を築くのを嫌う思考を、統合戦争を経ても維持しており、その世論を納得させるための名目として、国際連合の改組という形を取ったと。その便宜的な手法は、ラプラス事件などの火種となり、後に悪名高いティターンズを生み出す要因ともなる。そのため、デザリアム戦役前の地球星間連邦への改組の際には、既存の地球連邦政府を法的に解体した直後に『地球星間連邦政府』を新たに樹立させるという手法が取られている。そのため、組織としては法的連続性は僅かしかないが、前組織の法は有効とするなど、大日本帝国から日本国への改組の道筋が大いに参考にされた。連邦政府の前段階の一つであるとされる、日本連邦の樹立の際の協議もかなり揉めている。それは連邦樹立に反対していた野党が一時的に政権を握った後に、彼らが軍備にケチをつけたのが始まりであった。その政権の時、扶桑の鳩山一郎が日本にいる実孫について、『教育間違ったかなぁ」とボヤいたほど、自分達の都合しか考えていなかったし、祖父である鳩山一郎が指摘して初めて知ったほど、中国と韓国がウィッチ世界では滅びている事も知らず、現地に無知だった。その失敗を踏まえた、鳩山一郎の孫から数えて二代後の首相は再度の政権交代前に、『現地の状況を鑑み、扶桑陸海空軍は存続させるが、その指揮系統は自衛隊との統合運用を前提にし、統制は共同運用の新組織が行う』とする声明を発表し、連邦樹立にようやく道筋をつけた。これは政権交代前の方針を彼の政権が引き継ぐしかなかった末の決断であった。警察の統合が失敗に終わったショックもあり、旧内務関係者が推していた『三軍は解体、部隊は自衛隊に組み込む』案は粉砕された。扶桑皇国では軍隊の方が警察より国民に圧倒的に人気がある(レイブンズのおかげでもあるが)事による暴動が起こったからでもある。暴動を鑑みた彼が導き出したのが『扶桑の軍隊は存続したほうが自分らに火の粉がかからない』であった。『扶桑三軍の軍人は、日本では自衛隊員として取り扱うが、犯罪を犯した場合は国籍のある扶桑の軍規で裁く』という一文を入れたのが、彼が残した唯一にして最大の功績だった。連邦樹立までに取り決められた他の事項は『扶桑華族は日本では他国の貴族と同様の扱いとする』とする扶桑華族の体面への配慮(日本では憲法上、華族は消滅しているため。また、自衛隊に潜り込んでいた黒江が叙爵で騎士爵になっていたのも要因)、扶桑議会の貴族院の改革、参議院の設立とその運用の日本側からの補助、内務省の検閲の規制緩和(形骸化)などだ。軍隊と警察については、警察は互いの合同捜査局の設立、海上保安庁の扶桑分署の設立などが具現化し、軍隊は統合運用組織が三軍と自衛隊の二つを束める(その組織の長はY委員会の息がかかった自衛隊幹部)事で決着し、叙勲制度も金鵄勲章の他、陸軍独自の叙勲制度が扶桑全軍に適応されたし、自衛隊員にも現役中の危険業務従事者叙勲が認められた。これは現役中に叙勲され、それをつける権利を持つ扶桑軍人との外見上・制度上の均衡が図られたためだ。また、航空分野では、エースの文化が根づいていた空自と陸軍航空関係者が主導権を持つ扶桑空軍に押され、扶桑海軍も内部の反対(志賀少佐など)を押し切る形で撃墜王制度を取り入れた。今回の歴史において、志賀少佐は343空から64Fへの正式な改組前に部隊を去った。(横須賀航空隊に移籍後、『結果を褒めればならないというのは分かるが……部隊内の非公式であって欲しかった。若いものが増長する』と、生粋の海軍航空隊員らしい一言を、その当時は厚木航空隊にいた赤松に述べていた)結果として、組織形態は343空色が濃いが、人員においては扶桑海事変時の『旧64F』の復活に等しいので、二代目レイブンズの時代の隊史では『活動再開』とされている。これは編成上、以前と同一の隊番号かつ、幹部人員が当時とほぼ同じだったからで、二代目レイブンズも員数外でだが、協力している。また、陸海の出身を問わず、機体の整備技能を有するGウィッチが幹部級であったため、自然とGウィッチの受け皿になっている。このように、日本連邦の樹立の際の轍を地球連邦は踏んでしまったわけで、星間連邦の発足では、前組織を法的に終息させたと同時に新組織を発足させたわけだ。これはガイアとの政体統合でも同様で、地球星間連邦が正式に二つの地球とその植民星とスペースコロニー群で構成される勢力として認知されるのは、二つの地球の勢力が統合した後の事だった。

「なるほど。しかし、艦橋からマストまでの構成は大和型戦艦のそれと変わってないように見えるが?」

「中身は別物ですがね」

ラ號は大和型戦艦五番艦であり、超大和型戦艦の二番艦でもあった。大日本帝国海軍の軍艦となるはずだった名残はあちらこちらにあり、他のヤマト型宇宙戦艦よりも大和型戦艦の面影を残す。特に艦橋からマスト周りは大和型戦艦のものを内面的に改良した程度であり、ヤマトのように全面的な新造ではない。だが、それがヤマトの姉妹の中では、全面新造である二隻を除いた三隻(ラ號、ヤマト、まほろば)で最も大和型の外見を残す結果となり、姉妹らの中ではヤマトに次ぐ人気がある。


――風鳴兄弟が案内を受けている頃、黒江は智子が迎えに来たため、完全に素を出しており、まだ調の姿を維持してはいたが、振る舞いは完全に普段のそれになっていたため、切歌から文句を言われていた――

「ほら、アンタの好物のケン○ッキーのチキン。買っといてあげたわよ」

「おー、恩に切るぜ、智子!」

と、調の姿でチキンをたいあげる黒江。普段の豪快な食い方で食うので、それを見ている切歌から文句が出た。明らかに不満な表情である。

「む〜!調の姿でそんな豪快な食べかたしないで欲しいデス!!」

「しゃーねーだろ、別人なんだしよ、気にすんなよー、なんならお前の姿使うぞー?もう縛りは無くなったし」

「え!?そ、それは止めて!そ、そのままでいいデスから!!」

「こらこら、子供をからかわないの」

「子供扱いは止めてデス!」

「あたしも綾香と同じ年代の生まれだもの。あなたは曾孫より下よ、たぶん」

「……」

唖然とする切歌。クリスが黒江をばーちゃんと呼び、智子が黒江の戦友で同世代と判明し、『智子のばーちゃん』と呼んでいる。智子もそれを珍しく許した。それは響達は自分らからすれば、曾孫より下の世代にあたるかも知れないからだ。

「ここにおられたのですか、黒江女史、穴拭女史」

「お、翼か。なんだ?」

「貴方方が故郷の世界に戻られる前に、あなた方とお手合わせ願いたいのですが、よろしいでしょうか?」

「それは別に構わんよ。お前らのことをこちらから呼ぶかも知れんし、時間はまだあるしな」

「私からもお願いできるかしら」

「お前もか?マリア」

「貴方がエルフナインの目を盗んで、私と調のギアをコピーしたのは知ってるわよ?貴方には調の役目を担って頂いた恩義があるから、それは見逃すわ。その対価ね」

「知ってたか。まぁ、思い出代わりって奴だよ。それにお前のギアは修復した時に構造は掴んでたし、造るのは簡単だった」

「貴方方のその能力はどのようなものなの?」

「私達は空中元素を固定する事で、構造さえ分かれば、あらゆるモノを作り出せるの。神様になった時のオマケみたいなモノよ」

「お、オマケ!?」

「一度死んで、靖国神社に祀られて神様になったのが今の私達なのよ。だから所謂、不老不死なのよね。肉体は単に現世で行動するための器。外見はある程度調整効くわ」

「だから、見たこともないはずのシンフォギアを容易く起動出来たのか……」

「アテナに仕えて、現役の宝具である黄金聖衣を仕事着で使ってれば、シンフォギアは普段着感覚よ」

「こいつは水瓶座(アクエリアス)、私は基本は山羊座(カプリコーン)、時々、射手座(サジタリアス)天秤座(ライブラ)。代理で纏う星座を入れるとな」

「黄道十二星座じゃない!?」

「そうだ。私らは聖闘士の中でも最高位の黄金聖闘士。黄金聖衣を纏って戦うのが全力の証だ」

「それではシュルシャガナを使っていた時は……」

「力を出し切っていないって事だ。力みすぎるとエクスドライブに自動的になる上、ギアの機能が不調になることあるから、加減してたんだ」

「なんと……!?エクスドライブを人為的に発動できると!?」

「セブンセンシズをちょっとでも発動させれば、70億人分のフォニックゲインを超えるエネルギーを起こせるからな。歌を介さない方法だから、ギアのロックを力業で解除してると思ってくれ」

「立花とマリアと違うやり方でのエクスドライブか……信じられん…」

「歌でコントロールするのもやろうと思えば出来るぜ?シンフォギアのメロディの形成を制御出来るからな。お前らの学校で歌った時にやったろ?」

「ぐぬぬぬ……!私の声を使った時ですね?」

「いや、あれはお前じゃないんだ。私の弟子にお前と同じ声色のがいたから、そいつのを使っただけだ。そんなに似てたか?」

「全く同じでしたよ!?私のほうが驚きましたよ、あの時は」

「あの時はお前、平静を保てなくて、響と未来に止められてたな」

「当たり前です!自分の声色を聞くことになったんですよ!?」

「専門教育受けているから、一人ハモリで逆光のフリューゲル歌えるぞ、その気になれば」

「なんと!?」

「なぜ、軍人なのにそこまでの技能を?軍楽隊でなく、航空畑なのでしょう?貴方は」

マリアが問う。

「ガキの頃、お前らに取っては遠い昔、昭和初期の頃の話だ。お袋が某歌劇団を若い頃に志望していてな。子供三人が全員男で、諦めかけてたところに生まれたのが私だった。それで英才教育施されたんだよ。先祖が上級武士だったおかげと、ジイさんが明治の頃に官僚だったから、富裕層に入る収入はあったしな」

多少、自嘲気味に語る。黒江は母親の英才教育の成果により、演技力と歌唱力で音楽学校受験レベルを超えていたし、作詞の才能もあった。音楽学校で伸ばせば音楽家として食っていけるだけの才能はあった。それと相容れないと思われた航空ウィッチになったのは、覚醒と母親との確執からだ。母親との確執が航空士官学校へ志願した理由の一つだからだ。軍人としての才覚もあったのもそうだが、自分のアイデンティティを見出すためというのが、前史での軍人としての前半期における軍にいる理由だった。幼少の頃の苦しい日々の名残が、自分にシンフォギアを高度にコントロール出来る技能をもたらしたので、黒江としては複雑らしい。

「お袋の教育は今で言うところのスパルタ教育だった。今の倫理観なら、児童虐待もんだと思うが、あの時は当然と思ってた。それでも度が過ぎた時は、兄貴達が助けてくれたもんだ」

「それが貴方にとっての?」

「ガキん時は楽しいとは思ってなかったよ。だけど、それに歌自体は嫌いじゃ…いや、好きなんだよな、結局のところ。だから、こいつの役目を負わされた事が分かってしばらくは、お前のところにいたろ?マリア」

「なるほど。それで、今回の出来事に遭遇して、調をある一定の期間は演じてたわけね。でも私は気づいてたわ。背丈があったもの。あなた、160cm超えてたから。あの子は150とちょっとと小柄だったから」

「やっぱりか」

「ええ。一晩で10cmはいくらなんでもね」

「ああ、本当はお前くらいあるからな?身長。だから、お袋が男役にしようとしてたんだよ」

「なッ!?」

「智子、私の本当の姿の写真あるか?」

「軍のブロマイドが一枚あるわよ……あった、これこれ」

「こ、これが貴方なの?」

「どうだ。これでも魔女だと言ったろ?」

扶桑海事変末期(二度目のやり直し時)の頃、前線で戦い、飛行中に怪異へエクスカリバーをぶちかました際の写真を利用したポートレートだった。身長173cmはあろうかという長身、一見してクールビューティーに見える、癖っ毛のあるショートヘアの容貌。巫女装束(前史ではプロパガンダ用だった試作品)を纏う『カッコイイ系女子』。これこそ黒江の本当の姿だった。

「その時にやりすぎて勲章もらうわ、天皇陛下に拝謁するわ、映画に出るわ、新聞に乗るわで有名になりすぎたんだ。智子、たしかこれ、ケイが取った素材だろ?」

「そうでないと、エクスカリバーを横からでもから撮れないって」

「確かに」

「これが貴方の本当の姿……。有名になりすぎたとは?」

「ノモンハン事件相当の戦の後、広報の仕事に駆り出される事が増えてなぁ。それで神様としての記憶はあったから、プライベートを守るために、私と智子ともう一人、ケイって奴は姿を変えるようになったんだ」

「姿も自由に?」

「思い出してからは任意だ。私がこいつの姿だったのは、役目を担わされてたからだしな。お前たちの姿も使うかも知れないから、そこんところは言っとく」

「なッ!?や、やらかし宣言じゃない!?」

「私らもお前らみたいに、故郷の世界ではアイドル的人気があるんだよ。戦史に名が残るようなエースパイロットだし、魔法を扱える人種が羨望の的な世界でもあるから、別人の姿でねーとプライベート楽しめなくなっちまったんだ。昔から日本にあるだろ?『清純派で売ってたアイドルが、ゴシップ雑誌にタバコを裸でスパスパ吸ってる姿をすっぱ抜かれて人気が凋落した』っていう話。その類の話覚えてたから、プライベートとかでは姿変えるようになったんだ」

「ああ、ある年代より上の人達がよく例えに出す……。でも、正式には貴方達は軍人でしょう?」

「プロパガンダとかに使われるくらいに人気あるから、似たようなもんだ。だから、公な任務とかでも、従軍記者が随行する時以外は姿を変えてるんだ、記憶を思い出してからは。イメージって奴は人を縛るからな」

レイブンズは二度目の扶桑海事変のなやり直しを経ての現在では、プライベートでは姿を変えるようになっており、この時点では、圭子はレヴィの姿で固定したが、智子と黒江は数人をやりくりしている状況であった。黒江はこの成り代わりで、調とマリアの姿を獲得した事になる。

「さて、聖衣はアテナの許可ないと私闘に使えないから、マリア。お前のアガートラームのコピーを使わせてもらう。シュルシャガナはエルフナインが整備してるんでな」

「違うギアをホイホイ纏えるの!?」

「お前だって、ガンニグールとアガートラーム纏ってるだろ?」

「私のようなケースは本来、稀なケースよ!?」

「従神とは言え、一応は神格なんだから、その辺は何でもありって奴よ。やっちゃいなさい」

「おう。『Seilien coffin airget-lamh tron……』」

「嘘ぉッ!?」

この時が、黒江が初めて、シュルシャガナでないシンフォギアを纏ったと言える出来事だった。この時は調の姿を維持していたため、一同は驚愕した。IFの姿を具現化したとも言える姿でもあったからだ。

「武装の配置以外は全く同じ……アガートラームだわ……。信じられない。ギアをここまで完全に複製出来るなんて……」

「直せるんだから、複製も出来るって奴だよ」

「信じられないデス……。もし、調がアガートラームに適合していたのなら……こうなっていたかも知れないデスか……

「貴方が神格というのは本当なのですね……黒江女史……」

アガートラームは黒江の心象の都合か、武装配置がマリアと逆の配置になっている以外は、マリアのそれと同様のギアだった。通常、ギアは同一の聖遺物をベースにしても、個人で姿が違う(例えば、アガートラームの場合、マリアとその妹のセレナでは意匠が違う)が、マリア同様、その強い意思が反映されたらしく、奇しくも同一の姿となった。これは『確固たる信念と意思の成せる業』であり、箒が後に起動させた際もマリアと同じ意匠である。

「綾香さん、シュルシャガナの整備が終わったので……って、えぇえええっ!?」

シュルシャガナの整備を終え、ひとまず黒江に返却しに来たエルフナインが腰を抜かすほど驚き、それを聞きつけた響とクリスが場に駆けつけ、これまたすったもんだの騒ぎとなり、話がますますこんがらがったため、智子が呼んできて、その仲介に立った剣鉄也の判断で『全員で綾ちゃんに挑めばいい』とばかりにバトルロイヤルとなり、装者達を鍛えた。後に立花響が語ったところによれば、『とても楽しそうでした。あれが綾香さんの素なんだろうなぁ』とのことで、この時の模擬戦を経て、マリアは正式に黒江へ自分の姿を仮の姿として使うことを許可し、後に調もマリアに続く形で許可を出した事から、二人の姿を仮の姿として使用していく事になる。また、黒江がコピーしたシュルシャガナとアガートラーム、また、翼に配慮して言わなかったが、実はコピーしていた天羽々斬はそれぞれ自らや箒、フェイトが用いる事になる。フェイトは時空管理局の技術局に依頼し、バルディッシュに天羽々斬を組み込み、自前のバリアジャケットを展開した上で、その防御効果を維持したまま、防御力を上げるため、『Imyuteus amenohabakiri tron』の聖詠で天羽々斬のギアを纏うという変則的な方法で運用し、獅子座(後にコンバートして、牡羊座→蠍座と変遷する)の聖衣を使うまでもない事態にはそれで対応してゆく事になる。これは射手座→双子座にコンバートした箒と同様であったという。黄金聖衣を使うと、戦術単位では完全に威力過剰な事もあり、三人はシンフォギアの力を『通常戦闘で用いるには扱いやすい』と好むようになってゆく。後に三人と同じ立場に立つ事になる調も、のび太らと親交を持つ頃にはそれを認める発言をしたという。



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