短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――次元震が再度起こったのは、ある一定の人員を回収した時であった。その次元震は大規模で、はっきりと空間そのものが揺れるのが感じられるほどの物だった。この次元震が今回における最大のパニックを引き起こす事になる――



――47年。実質的に連合軍が太平洋戦線に主力を移し、太平洋戦線に注力していたのと、暗号なども日本連邦主導でデジタル式に様変わりしたのだが、欧州をパトロールしていた大和型戦艦五番艦『三河』が、この時期には無人になっているはずのロマーニャの元501基地付近で盛んに通信が飛び交っているのをキャッチした。同艦内に本部を構えているG機関はその通信内容を解析したのが。

「お母様。通信の内容が分かりました」

「内容は?」

「それが……44年以前の統合戦闘航空団で使用されていた通信回線なのです」

「別次元の501が今回は丸ごと転移してきたと見るべきだな……。クイント、彼らに返信してみろ。何か聞けるかも知れん。なんなら私が直接話そう」

ガランドは義娘と共に、通信設備がある三河のCICを訪れる。先方は通信をあちらこちらにつなげてみて、通信機器の異常がないか試行していたようで、扶桑軍の戦艦と連絡が取れたのを安堵していたようだった。

「こちら扶桑海軍第一艦隊旗艦『三河』。そちらは501統合戦闘航空団で相違ないか」

「第一艦隊?遣欧艦隊でないのですか?連合艦隊の中核が何故?それに三河とは?」

「我が艦隊は新鋭艦の訓練航海中である。貴部隊の電波を偶然、我が通信班がキャッチしたのだ。送れ」

この時期の海軍艦隊司令官は山口多聞だが、第一艦隊司令長官は伊藤整一中将であった。そのため、彼が応対した。

「その声、第二艦隊司令長官の伊藤整一中将であらせられますね?何故、第一艦隊に?」

「人事異動があったのでね」

うまく対応する伊藤。嘘ではないからだ。そして、ガランドに代わる。

「本艦にはアドルフィーネ・ガランド閣下が乗艦しておられる。今、彼女と代わる。送れ」

「ガランド閣下が?」

「坂本君、君かね?久しぶりだな」

「閣下、お、お久しぶりです。しかし、何故閣下が扶桑の軍艦に?」

「それを説明しよう。今から行く」

「閣下が扶桑の水偵を?」

「それとは違うがね。では、後程会おう。終わり」

ガランドは通信を終えると、三河の格納庫区画に行き、自身専用のVF-19をガウォーク形態で起動させ、ホバリングから飛び立つ。AVFはエースパイロットのステイタスだが、ガランドは小回りの効く19を好む。カールスラント空軍色に塗り、自身お気に入りの某リベリオン/アメリカの有名なネズミのエンブレムを尾翼に描いたその機体はまさにガランドの新たな自家用機だ。ものの数分で501基地の連絡機用の大滑走路へ滑り込む。当然ながらジェットエンジン独特の轟音に、基地にいるウィッチ達は寝ていた者も全員が跳ね起きたのはいうまでもない。

――基地――

「あれがガランド閣下の?」

「そうらしいんだが、あんなジェット機、カールスラントで開発されていたのか?」

「いえ、カールスラントの試作機のどれもあんな形状はしていないし、あんな前進翼は今の技術では作れないはずよ」

「それじゃいったい?」

地上のその様子を確認したガランドは驚かそうと、ガウォーク形態で着陸する。ファイター形態では滑走路の長さが足りないからでもある。いきなり烏を思わせる姿に変形し、垂直に着陸したので、滑走路付近の幹部達は唖然とする。

『どこに置けばいい?』

『輸送機用の格納庫に』

『それじゃ』

バトロイドに変形する。ものの一瞬の出来事だ。それで二足歩行をやらかしたので、もはや言葉がない501Bの坂本とミーナ。明らかに当時の技術水準を超越している。しかも、連絡をしてから数分で飛来できる速度性能。時速1000kmどころの話ではない。格納庫に来たところでガウォークになり、中に入れ、停める。そこで機体のキャノピーが開き、そこから見たことのないデザインの装甲服に身を包んだガランドが出てきたのも衝撃であった。

「超音速でかっ飛ばして来たが、流石に違うな」

「か、閣下。その格好は?」

「第一級機密に属する事項だ。君らと言えど、おいそれと知ることはできんよ」

嘘ではない。A世界では23世紀水準の未来兵器は第一級軍事機密と扱われており、並のウィッチでは知ることも無いからだ。

「無論、この戦闘機も第一級軍事機密に属している。歩哨を立たせておけ。色々と複雑なものなのでな」

ガランドは飄々とした態度を取る。ただし、A世界では階級が大将に登りつめている。退役を周りが慰留した代わりに、自由行動権を得るのとバーターで得た。退役を示唆したのは、義理の家族と隠棲生活を送るためであったが、後継に指名したのが『悪童』のグンドュラ・ラルであったのに、同期から正気を疑われる事態となった。周囲が必死に慰留した結果、大将昇進と、G機関の公式化による実質的な元帥府設立となった。そのため、以前よりも自由奔放さが目立っている。

「メンバーを講堂に集めろ。大まかな事情を説明する。それと私が動かせる航空隊にも連絡を入れてある」

「どういうことですか?」

「それを説明するために来たのだよ、中佐」


それから15分ほどで、ガランドは講堂で事情を説明した。今、501基地がある場所は基地にいた全員の知るロマーニャのパラレルワールドであり、基地ごと別の次元に飛ばされている事、辿った歴史も細かに違うという事を。

「細かに違うというのは?」

「坂本少佐。黒江綾香、加東圭子、穴拭智子の三名を覚えているかね?」

「あの三人ですか?扶桑海で共に戦った事がある陸軍の戦友ですが、彼女達に私達とどういう繋がりが?」

持ち込んだプロジェクターに映しだされるレイブンズの写真。A世界では普及したカラー写真である。最古参の坂本が新兵の頃の撃墜王であるので、501Bの者たちは殆ど知らず、芳佳が智子を『もらった人形のモデルの人』と辛うじて気づく程度である。B世界では世代交代が進んだので、A世界で智子が悩んだように、『陸軍三羽烏』は遠い昔の伝説と成り果てていた。坂本Bが訝しむのも無理はないが、当時の新兵であった自分が引退寸前の年齢になっている今となっては、引退して久しい人間であるからだ。

「この世界では、彼女らは現役に復帰している。しかも501の先任中隊長の任についていた。詳しくは言えんが、彼女らは『レイブンズ』と呼ばれ、君ら『リバウ三羽烏』(A世界でのクロウズ)以上の名声を持っている」

「本当ですか!?」

「証拠として開示するが、これが彼女達の現在のスコアだ」

ガランドが掲示した、A世界レイブンズのスコアはカールスラントの撃墜王達をして『おかしい!!』と言わしめるほどの常軌を逸した数であった。ダイ・アナザー・デイ作戦までに記録されたスコアは既に400機を超え、しかも『艦艇撃沈数』もスコアに入っており、B世界ではあり得ないものも入っていた。カールスラントのトップエースであるミーナたちの更に倍である。しかもその内の100機以上は扶桑海事変の1年で記録している。B世界での三人が事変中は20機から15機前後であるのを考えると、異常な数である。如何に、三人がA世界でGウィッチとしての力を奮ったかが分かる。

「……信じられない。こんなスコアを出せるものなの、ガランド」

「貴官も数年で200機に到達しているだろう、ハルトマン。それを考えれば、貴官より実働期間が長い彼女らが400機落とせるのは当然だ」

「閣下。閣下は彼女らを買っておいでのようだが、扶桑がプロパガンダ目的で水増しした可能性は?」

「バルクホルン大尉、それはない。彼女らが強すぎて、扶桑の上層部が積極的に国威発揚に用いていたからな」

証拠の映像として、事変当時に偶然に撮影されたエクスカリバーの映像を映し出す。扶桑ではモノクロフィルムであったが、リベリオンの報道班が撮影したそれは当時に出回り始めたカラーフィルムで撮影されていた。A世界での扶桑海事変後にリベリオンで発掘された秘蔵映像である。しかもトーキーであるので、黒江がエクスカリバーを発動させる一瞬が克明に撮影されていた。黒江が風を起こし、黄金の西洋剣を形成するところで、まず、黒江と旧知の仲である坂本が瞠目した。黒江は坂本Bの知るところでは、剣戟の際は扶桑刀以外は用いていなかった。だが、映像に映る黒江は西洋剣を形成している。信じられないというのが感想だった。そこで、リーネが声を上げた。剣の形に見覚えがあったのだ。

「あの剣は!?」

「どうした、リーネ」

「あの剣は……間違いない。約束された勝利の剣(エクスカリバー)です!!」

「エクスカリバー!?あのアーサー王が用いてたと言われる伝説の!?」

「軍に入る前、何かの本で読んだんです。あの人の剣は、それとそっくり同じなんです!!」

「なんだと!?馬鹿な!?アイツは扶桑のウィッチだぞ!?何故そんなものを!?」

坂本Bが困惑するのも当然の光景。ここまで感情を顕にして驚くのは、ミーナや芳佳も見たことがない。

扶桑の秘奥義『烈風斬』すら霞むほど、刀身に集束してゆく魔力。黄金の輝きを放つそれは正しく『約束された勝利の剣』。

『エクス!!カリバァアアア!!』

放たれるエクスカリバー。陸戦型怪異の軍団が有象無象の如く蹴散らされてゆく。黒江がアルトリアと同じような決めポーズを取っているのもあり、凄まじい迫力。旧知の仲であるはずの坂本が顔色を失っていることで、事の重大さを悟った一同は沈黙する。ちなみに、当時のリベリオン政府では。

「あれ、王国の連中に見せたらヤバいぞ!」

「このフィルム、AAA指定で封印だな」

「仕方あるまい、ウィッチが精神的に潰れるわ、んなもん見せたら」

という会話が繰り広げられ、フィルムは封印されていたりする。ガランドは更に畳み掛ける。今度は智子だ。

『フリージングコフィン!!』

智子が手のひらに氷を生成し、それを手のひらから広げると、周囲の怪異が瞬時に凍結してゆく。

『眠りなさい、氷の棺の中で永遠に』

智子は決め台詞とともに怪異を氷ごと粉砕した。A世界では水瓶座の黄金聖闘士であるからこその芸当だが、坂本Bはあまりの衝撃に目を大きく見開いていた。

「ウィッチと言うより神霊(ジニー)じゃない?、これ……」

ハルトマンBがコメントを出す。だが、それよりも恐ろしい映像が流れた。圭子だ(B世界では桂子)。

『たまんねぇぜ。なんてたって硝煙の匂いだ』

圭子のトゥーハンド動画が流れた。A世界での事変の際のクーデター未遂事件の際の映像だ。三八式歩兵銃と南部式の自動拳銃を構える兵士らを二丁拳銃を巧みに操り、反乱軍の兵を血祭りにあげていく。しかも、銃の弾を発射される際の銃口の向きで見切って避け、確実に相手の脳天をぶち抜いている。

『能書きだけじゃ戦争はできねーんだぜ?錦の御旗に弓引いた戦争バカ共が!』

タバコらしきものを咥えつつ、凄まじい強さを見せる圭子。ウィッチでありながら、本職の兵士を圧倒する対人戦闘術、身軽さ、その堅気にはとても見えない雰囲気。シャーリーやハルトマン、ルッキーニには受けているが、芳佳やリーネは顔を曇らせる。

『あたしゃあたしの信じるものを守る、力で何かを得ようとするなら、あたしの敵だ。事を起こすなら、引き金に手を掛けずに済む算段つけろってんだ、バカが!』

敵へそう吐き捨てる圭子。芳佳とリーネは、桂子が単なる戦闘狂でないことを理解する。坂本は圭子が、自分の知る『桂子』とあまりに言動や雰囲気が違うことに戸惑っていた。

「これが、この世界での最強のウィッチチーム『レイブンズ』だ」

「その方達が最強なのは理解いたしましたが、私たちはいったいどうなっていますの?」

「ペリーヌ・クロステルマン中尉。君は少佐に昇進し、501隊員と506の隊長を兼任している。それと君は……なんと言おうか。二重人格が覚醒めてだな。…目を回さんでくれ」

そう言って、ガランドはペリーヌBに、モードレッドとして活動している際の写真を掲示した。モードレッドと言えば、円卓を崩壊させた裏切り者。その人格がA世界の自分に宿っていたという衝撃で卒倒してしまう。

「やはり無理だったか」

「閣下、私はどうなってます?」

「イェーガー大尉。君はこうなっている」

シャーリーはA世界では、熱血漢的なところが生じた。IS『武天八極式』を操り、右手の自在可動有線式右腕部を駆使し、敵の機動兵器を掴み上げ、『弾けろぉぉぉ!!』、『弾け飛べぇ!!』など、どこかで聞いたような熱い台詞回しと共に敵を破砕する。そのため、A世界では、日本自衛隊からはいじくり倒されていたりする。映像を見て、エイラがバカ笑いしだしたが、そのエイラの目が点になった。フェネクスのコックピットに座る自分が映し出されたからだ。

『フェネ――クス!!』

叫びとともにフェネクスがガンダムタイプに変身する映像が入る。巨大ロボに自分が乗っていて、しかも、不死鳥を思わせるデザインの人型に変身する。エイラは先程までのバカ笑いが消え失せ、呆然としている。更に実姉のアウロラもそれを模したデザインの装甲服のようなものを纏い、戦う映像も流れたので、エイラは思わず叫んだ。

「う、う……ウソダーーーー!!」

「諦めろ、これはこの世界では現実だ」

「うぅ……。この世界での501はどうなってるんだ?ガランドさん」

「敵が怪異だけでは無くなった影響で、統合戦闘航空団も統廃合が進められ、最終的には統合戦闘飛行隊も一個追加した編成だった。つまり、君達の世界での501、502、504、506の四つと第31統合戦闘飛行隊を一つの部隊にまとめた編成となり、それでロマーニャ戦を潜り抜けた」

「なんで、そこまで統廃合が?」

「新たな敵が平行時空の23世紀の人間達と判明した後、分散配置では各個撃破されてゆくのみであると分かり、当時に欧州方面に比較的近く、まだ存在していた統合戦闘航空団と、そいつらにアフリカを追い出され、開店休業状態だった第31統合戦闘飛行隊を一つにまとめた。503と505の2つは既に壊滅していたし、敵は超科学で造られた兵器を持ち出して来ている。それに対抗するために、こちらも相応の態勢が必要だった」

分かりやすい例として、ティターンズのフラッグシップ機である『ガンダムmk-XやガンダムTR-6』の写真が映し出される。ガンダムタイプはその意匠から、フラッグシップ機であると同時に、力のシンボルと見ることが多い。そのため、その力が示されている際の場面が映し出されている。ビーム兵器、誘導ミサイル、巡洋艦までの攻撃程度ではびくともしない重装甲。そして、その大きさで空戦を可能にする推力。まさに巨大な敵である。そしてそれらに対抗するための力、即ち、そのティターンズを鎮圧するためにやってきた地球連邦正規軍の機体群も併せて紹介する。

「つまり、この世界の私たちは、別世界の未来人達のいざこざに巻き込まれたのですか?」

「そうなる。私が乗ってきた機体も、その世界の人間達が持ち込んだモノを確保した機体だ」

ここでタネ明かしが行われ、23世紀世界の状況が説明される。果てしない戦争の繰り返しの果てに、『人間の限界』にたどり着いてしまった航空機としてのAVFはシャーリーBを惹きつけた。

「大気圏内速度、マッハ5.5!?すっげー!!」

「これらの機種が実用化される段階で、ハードウェアが人間がおおよそ耐えられる限界に達してしまってな。コレ以降はソフト面での改善が主になっている」

「すごい速さだ……。しかし、これらすらもまだ常識的な兵器に入るとは?」

「コレを見給え」

一同が更なる驚愕に染まる。ラ號、Gヤマトと言った、天駆ける『大和型戦艦の進化のカタチ』、マジンエンペラーGや真ゲッターロボ、マジンカイザーなどのスーパーロボットがもたらす『海を割り、地を裂き、空を切り裂く』神の如き力。ここまで来ると、もはや人造神と言って差し支えないほどの力である。

「これほどの破壊力をロボットに持たせる事が可能だと言うのですか!?」

「用いられているエネルギーもそれに相応しい出力を誇るものだ。下手な恒星以上のエネルギーを叩き出せるそうな」

「つまり太陽以上のエネルギーを出せるエンジンがあると?」

「宇宙戦艦だと、銀河一個分以上のエネルギーを砲として打ち出せる仕組みが実用化されている時代だ。それを考えれば、太陽を人工的に作り出すのも可能だ」

ドラえもんの時代に人工太陽の技術は確立され、統合戦争で失われているものの、ガミラス帝国が同様のモノを用いており、それを解析し、再度実用化している。仕組みそのものは一定の技術水準があれば製造可能なもので、宇宙国家ではほぼ当たり前の技術で、その精度はアケーリアス超文明のそれが最も精度が高く、後継文明のプロトカルチャーでは安定性で一歩劣るとされている。地球やガミラスのモノはプロトカルチャーのそれに匹敵する性能に到達しているが、アケーリアスのものに比べると、攻撃に脆い面がある。また、人工太陽はサイズが小型化するほど製造難易度が高くなるので、23世紀の技術水準では、ドラえもんが手のひらに持てるようなサイズの人工太陽は無理だ。それはあのガトランティスすらも持っていないものだ。

「宇宙に進出しているのなら、何故まだ地球に人が?」

「いや、一時は120億を超えた人口も宇宙戦争でかなり減り、23世紀では、純粋な地球生まれは珍しい部類に入るそうだ」

地球人と言っても、祖先に地球人がいるだけで、自分は移民星生まれだったり、移民船団生まれな地球人もかなり多い。混血も進んでおり、純粋な地球人はむしろ珍しい。(ゼントラーディやゾラ人、バード星などとの混血が進んでいるので)そのため、兜甲児や流竜馬などの純度100%の日本人は23世紀では天然記念物と言える。

「この星の人の数が減るまで戦争して……宇宙に出ても戦争するなんて、どうしてですか?」

「地球を人類のゆりかごに例えるなら、宇宙は外の海千山千な世界だ。別次元に行こうとも敵はいる。それから身を守るためには、戦うしか無いのだ、宮藤軍曹」

芳佳は多くの世界で戦争を嫌い、そこから吹っ切れるのに、リーネのピンチや坂本の窮地などを必要とする。A世界では、角谷杏の人格が覚醒めた後で一つに融合したため、比較的割り切りが早かったが、B世界の芳佳は割り切れていない面があるようだ。彼女の哀しげな表情こそが、怪異相手には戦えるが、A世界の彼女自身のように戦えるかは未知数である事の証明である。

「宮藤軍曹。これがここの世界での君だよ」

「これが私……!?」

「異名は『空の宮本武蔵』、『精密射撃の鬼』、『二天一流のプロ』……とまぁ、はっきり言うが、別人だね」

芳佳は別次元の自分の写真に驚く。坂本と同じデザインの士官服に身を包んだり、自分の母校と違うデザインのセーラー服(大洗女子のそれ)に身を包んでいる。(軍医学校卒の軍医少佐となっているため、階級は坂本に追いついている)軍医ヘ育は、欧州留学が前史と同じ理由により、扶桑側の都合でポシャった(空母天城が襲われた事に恐慌状態となった)ことで、怒り心頭のバルクホルンが統合参謀本部に怒鳴り込む一幕があり、ガーデルマンが芳佳の家庭教師として埋め合わせのヘ育をし、結城丈二が実技などを教え込む形で、扶桑での軍医資格を取得した。これは扶桑の都合で欧州で受け入れ態勢を整えていた医療学校の留学を取り消した事による外交問題化を吉田茂が懸念し、海軍に苦言を呈し、それを受け、海軍司令長官の山口多聞が激怒し、責任を取らされる形で、帰国命令を出した統合参謀本部海軍部のとある参謀が訓告と謹慎処分を下されたという。芳佳の軍医学校の無試験入学は山口多聞なりの埋め合わせであり、芳佳が転生前、日本で医師免許を取得できるだけの医学知識を得ていた事もあり、同期でトップレベルの成績を誇った。また、ガーデルマンと結城丈二による実技ヘ育も功を奏し、宮藤家の診療所は本格的な医学による治療も行える診療所として繁盛してゆく事になる。

「ここでの君は軍医少佐になっていて、それでいて、空中勤務者としても撃墜王なんだ。これが最新の君の近影だ」

「ん?白衣の上にリベリオンのフライトジャケット着てますよ?」

「ああ、扶桑でもフライトジャケット採用されたからな。ここでは」

シャーリーがフライトジャケットに気づく。扶桑では、リベリオンのようなフライトジャケットの文化は無かったが、アメリカ式の教育を受けている航空自衛隊や地球連邦軍との交流の過程で導入された。A世界でのことだが、フライトジャケットは、黒江や赤松などの空自にも籍を置く者達が扶桑空軍の設立前の段階で持ち込んでいたのが、46年の段階である雑誌にすっぱ抜かれた後、1947年の空軍組織の始動後に事後承諾のような形で採用された。黒江や赤松などは『私生活にも使える』とフライトジャケットを45年の秋から着込んでいる。特に黒江は、巫女装束や軍服での活動が困難になるほどに追っかけがついた45年から、私生活でも特に愛用している。(それも無理になってきたので、変身に至ったのが現在だが)

「え?マジっすか?」

「ああ。こんな型だよ」

「おおー!なんだこのジャケット!!すっげぇかっけー!!」

「いや、ここの君は普通に着てるが……まぁいいか」

ガランドはため息をつく。この説明がなされている間にも、南洋島では着々とガイアの発進準備が整えられている。ガランドが呼び寄せたのである。ティターンズが好機と考え、再攻勢をかける懸念が生じたため、念のために手空きである新撰組メンバーを動員していた。その間の基地の守護として、偽装も兼ねて、零戦六四型(五四型の実用量産機)装備の義勇兵部隊が移動してきている(この当時、扶桑は義勇兵の要望という形でだが、金星装備の零戦五四型を『六四型』として少数生産していた。これは扶桑としても予定外だが、ダイ・アナザー・デイ作戦用に少数生産した五四型の使い勝手が存外に良いと義勇兵に受けたため、残存機は義勇兵部隊が使用し続けており、損耗補填のためもあり、正式に正式量産である六四型に移行していた。従って、未来世界の介入で急速に消え始めた零戦系で47年現在まで生き残った、零戦最後の雄であった)


――64F基地――


「急に大事になったような?」

「ああ、主力が出るからね。今、外に出てる人達にも連絡を取ってる」

「月詠、お前は征くのか?」

「ええ。今の私は軍隊の一員ですから」

「なら、私達もついていく」

「翼さん、これはノイズとの戦闘じゃないし、普通の兵士や、ノイズでない化け物との戦闘ですよ?やれるんですか?」

「確かに、直接戦闘力はお前やあの方には劣るかも知れん。だが、心はお前達にけして引けは取らないと思っている」

「うん。私達だって、フロンティア事変や魔法少女事変を戦ったんだよ?常識外の相手には慣れたよ、もう」

「いや……そういう問題じゃないんだ」

「ならば、どういう問題なのだ」

「こういう問題です」

「ジャンヌさん……!」

「貴方は?」

「私はジャンヌ・ダルク。かつてのフランスの英霊と言えば、お分かり頂けるでしょうか」

「ジャンヌ……ダルク……だとッ!?」

同行をせがむ調Bと翼Bの前に姿を見せたのは、ジャンヌ・ダルクだった。戦闘態勢であるためか、甲冑姿である。彼女のような過去の英霊が赴かねばならぬほどの事態である事を、彼女の存在が示している。

「フランスの英霊で、聖女と謳われた……あの……!?でも、あなたは何百年も前に……」

「確かに、私は貴方方の知るような『最期』を迎えました。ですが、私は紆余曲折を経て、二度目の生を得たのです」

確かに、ジャンヌ・ダルクは1430年に死んでいる。だが、彼女を必要としたZ神の意思により、23世紀世界に存在していた人間で生前のジャンヌと肉体の組成が最も似通い、尚且つ感受性も高かったルナマリア・ホークを依代にして蘇らせた。そのため、今の彼女はルナマリア・ホークとしての記憶と感情を引き継いだジャンヌ・ダルクと言える存在。分類としては、アルトリアと同様の存在であると言える。その姿は神々しくすら思え、調Bと翼Bは圧倒される。ジャンヌ・ダルクを本当に目の当たりにする事は、彼女の名誉回復後のフランス人に言えば、羨ましがられるのは確実。ペリーヌが感涙にむせぶほどのネームバリューを誇る彼女。翼Bと調Bは呆然と、ジャンヌの言葉に耳を傾けていた。



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