短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――次元震パニック発生時のノーブルウィッチーズはペリーヌ体制に世代交代していた。書類上は運用凍結の解除だが、メンバーがバラバラになっていたため、メンバーの全ては呼び戻せずじまいで、その代替に、レイブンズが配されていた。のノーブルウィッチーズ再編はキングス・ユニオンとガリアが進めており、それを日本連邦の左派は『時代錯誤』とせせら笑い、隊員の供出を露骨に渋ったが、華族や軍部がそれに猛反対したため、叙爵されていたレイブンズと子爵家である稲垣真美が送り込まれた。ガリアは第一次ノーブルウィッチーズを空中分解させたため、懲罰的にノーブルウィッチーズのポスト国の地位を追われており、実質的にキングス・ユニオンと日本連邦がポスト国を担った――


霞会館に古くから出入りする華族らは『重鎮華族出身者は国の鎮護の為に外国指揮下に出すこと罷りならん。新興家系出身のウィッチを出すなら文句は言わん』としたので、新華族のレイブンズ、元は分家の出自である黒田が派遣された。これは重鎮華族らに強力なウィッチが出ていなかった故の方便とも受け取れる。実際に黒田家のお家騒動は、黒田家の本家にウィッチが出ていなかった事で、事変で分家の邦佳がレイブンズに仕えて縦横無尽に活躍し、金鵄勲章の叙勲の名誉に預かった事に発端がある。しかしながら黒田本家の息女『風子』にはウィッチの才覚の発現は起きなかった。それが彼女が今回において、自傷行為や自殺未遂に走る最大のきっかけであったので、風子の両親(当主の長男夫婦)は金鵄勲章に預かり、天皇陛下が忠臣と高く評価する邦佳を疎んじた。


――その憎悪はお家騒動で天皇陛下自らの裁可で裁きが下される事で決着がつき、黒田家の大人達の多くは、分家筋の邦佳に屈服するのを良しとせずに去った者も多く、黒田家は規模は縮小している。分家筋の邦佳に屈服するのを良しとせずに去った者が多く、黒田家は規模が大きく縮小しているが、財政的には改善されている。他の華族達も、お家騒動がスキャンダルとなり、天皇陛下の介入が起きたら全国に恥を晒すと考えたため、軍部への注文は『新興家系出身のウィッチを出すなら文句は言わん』だけであった。当時の日本連邦軍総司令官は自衛隊の陸上幕僚長から地滑りでなった陸将であったため、この文面の穴を突き、黒田を送り込んだわけだ。この時の会話は以下の通り――

『侯爵家当主が欧州の合同部隊配置とはどういうことか!!』 『新華族、もしくは分家筋出身者ならよいのでしょう?』 『黒田の当主が何故入っているのだ!侯爵だぞ!』 『ですから“分家出身者”ならかまわないと言ったじゃないですか?』 『ぐぬぬ……確かに今度の当主は本家筋ではない……』 というものだった。そのため、第一次ノーブルウィッチーズの解散の原因を作った一人が収監され、欠員が生じた以外はそのまま再結成されたB部隊と違い、A部隊はペリーヌとアルトリア以外は扶桑皇国ウィッチで固められていた。隊員には501との兼任者も多いため、実質的には501の分遣隊の様相を呈している(ペリーヌからして、ノーブルウィッチーズの隊長職は引退したロザリーへの手向けでしているにすぎないとしており、501の籍は放棄していない)。これはノーブルウィッチーズの部隊再始動が、引退したロザリーの願いだったからで、ペリーヌにはそれに応えただけだからだ。そのため、事務上は501隊員がノーブルウィッチーズの隊員も兼ねる形で処理されるので、ガランドの裁可さえあれば、どこでも行けるということである――

――連合軍統合参謀本部――

「これで良かったのか、アイク」

「仕方あるまい。ノーブルウィッチーズはケチがついた部隊だ。扶桑ではそういう事は忌み嫌われる。が、退役したロザリー少佐は再結成を強く望んでいた。これが彼女へできる我々なりの償いさ、モンティ」

アイゼンハワーは亡命リベリオンの大統領に就任したものの、軍司令官であり続けた。これは本国側が彼を大統領と認めず、陸軍大将と呼んでいるためだ。そのため、亡命側は軍の最高階級の軍人が大統領になるという決まりに自然となっていく。そのため、内政担当に首相を設置する形式になる。

「アイク、君は軍人としては優秀だからまだいいが、私は映画で無能扱いだよ?」

「モンティ、君は守旧的だからさ」

モントゴメリーは『遠すぎた橋』などで軍事的に守旧派なのが裏目に出て、『軍事的には石橋を叩いて壊すような人物』と揶揄されていることは不満げなようだ。

「君はまだ良い方さ、モンティ。扶桑の提督なり将軍の8割は『軍事的にも、政治的にも無能』扱いされて、佐官級共々、日本側に多くがリストラの対象とされていたのに比べればな」

「本当かね」

「ああ。自衛隊の背広組出身者の多くは扶桑の参謀たちや将軍、提督を『敗北者』と言ってせせら笑っていたそうだよ」


「彼らは治安組織からの出向組だろう?そちらで言えば、ウエストポイントやアナポリスも出ていない『お巡りさん』ではないか」

これは自衛隊の設立初期の内務軍閥の名残とも言えるものであった。彼らは失態を重ねてはいたが、自衛隊内部の『文官(官僚)による武官の統制こそ正義』とする思想を戦後以来持っており、皇国軍将校らを見下していた。その事はモントゴメリーやアイゼンハワーから見れば、警察軍と解釈するべきものであると捉えていた。これは自衛隊の設立初期の内務軍閥の名残とも言えるものであった。彼らは失態を重ねてはいたが、自衛隊内部の『文官(官僚)による武官の統制こそ正義』とする思想を戦後以来持っており、皇国軍将校らを見下していた。。その事はモントゴメリーやアイゼンハワーから見れば、警察軍と解釈するべきものであると捉えていた。かしながら、肝心の軍事的才覚は全く無いため、制服組が尻ぬぐいするような事態を度々引き起こした。その中でも最大にして、下手したら過労死の問題に発展しかねなかったのが、ダイ・アナザー・デイ作戦中の『あきつ丸事件』であった。あきつ丸事件は背広組の最大の失態であった。


――自衛隊はあきつ丸事件の尻ぬぐいに追われ、日本側が多額の慰労手当を負担する羽目となった。更に、検討していた従軍記章の廃止ができなくなった。(実は従軍記章の代わりに、瑞宝章の授与をする案が革新政党等によって出されていた)黒江達の交代要員は『明野や筑波、横須賀の教官級でやっとトントンだ!』と怒鳴られ、萎縮する者もいたほどだ。教官級を戦に出すことは必ずしも劣勢を意味せず、前線に交代要員として送り出す事もある。黒江達は腕が扶桑最強級なため、必然的に交代要員はそれに見合うだけの者が選ばれる。そのため、独断で発艦した者達はそんな経歴がある者達であったし、他の者達も猛抗議を艦長に加えたほどだった。その一方で、彼らは扶桑の高官達の同位体の決断が国を焼いた事を引き合いに出し、ネガティブに事を考えているのを自己弁護しており、それが東二号作戦の混乱を招いたと言える。

「あの時、扶桑のある高官は武功章の授与をどうしようと悩んでおったよ。4割が何もせずじまいで、『教官に戻れ』と言われて憤慨していると」

「武功章は相応の武功がないと出せんが、あの時はケースがケースだったからな。結局、参加賞みたいな形で出したそうだね?」

「そうでないと収まらかったらしい。ウィッチは7、8年もすれば、親から退役を言われ始める。18、9のウィッチにとっては最後のチャンスかも知れなかったから、軍令部も参謀本部も非難轟々だったし、46年のクーデターが大きくなった原因でもある」

「で、見せしめに、それに加わった連中を情け容赦なく島流ししたものだから、前線のウィッチが足りないと来てる。だから、45年8月を最後に新規が出にくくなったから、Rの措置拡大をすることで穴埋めしたらしい」

「あそこの同位国は8月で戦争に負けているからな。その帳尻合わせなんだろうが…こんな時に」

ため息をつくモントゴメリー。実際に最も発現率があった扶桑がこれでは、ウィッチ戦力の未来はあまり明るくない。実際、本来なら世代の入れ替わりが起きていたはずの時代に太平洋戦争と変革が起きてしまったため、扶桑でさえ人手不足が顕著なのだ。親が強制的に退役させたケースもあり、ウィッチ部隊は1947年の段階では、64F以外はあまり維持できていない。MATへの移籍も入れると、その影響は甚大で、世代的には黒江達から坂本の世代がまた主力に戻ってきている。芳佳、菅野、雁渕姉らが例外的に若い部類に入るのだから、その事態がわかる。均年齢は24.5歳。最年長は30代前半であるので、ウィッチ部隊としては異常な高齢化である。。仕方がないが、職業軍人として残っていた者達は各世代につき、二十人いれば良いほうであるので、扶桑海世代が主力になるのは当たり前である。特に、レイブンズ世代は三人の影響で軍に残った者が特に多く、主力に戻ったのは当たり前であった。この『レイブンズ世代』は三人の影響で軍に残った者が特に多く、主力に戻ったのは当たり前であった。言わば、ここから坂本や黒田までが、所謂、黄金世代に分類されている。(最も、黒田も本来なら能力がそろそろ下降線に入る年齢なのだが、G化でそれは無くなっている。その事がウィッチ部隊の心の拠り所というのも、レイブンズが過去に受けた迫害を考えると、皮肉なものだ)

「皮肉なものだ。かつて迫害した者たちの威光に縋るなど……」

「彼女らは気づいたのさ。あの子達が血と汗と涙で築いた地位に胡座をかいていただけだったとね。それに気づけた者だけが真に英霊になれるということもな、アイク」

アイゼンハワーとモントゴメリーはウィッチ達がたどり着いた答えを語り合う。それはレイブンズの三人が幾度も転生してまで得たモノと血と汗と涙で築きあげた地位であり、その地位は兵器の技術発展で容易に崩れ去るモノである事を。英霊の座に辿りつくには、相応の血の献身が必要である。レイブンズは神殺しも行い、神闘士も海闘士も狂戦士も討った経験が前史にあり、今回でも次元世界の並みいる猛者たちに挑んでいる。

「それに気づけた者達が不死鳥のように立ち上がってきている事も知っておかんといかんな……。もし、ウィッチ達に守護星があるのなら、その星の輝く限り、真っ赤な血をたぎらせて蘇る事が求められるのかもしれんよ」

「守護星、か……」

モントゴメリーはウィッチに求められる今後の宿命といおうか、『業』を守護星を引き合いにだして例えた。坂本が過去にそうであったように、ウィッチの上がりは『戦士としての破滅』を意味する。しかしそこあら不死鳥になって甦えなければ、ウィッチは軍隊からいずれお払い箱にされる。それを覆すためには不死鳥にならなければならないと。

「日本の漫画には、サウスポーとして再起不能になっても、右投手として蘇った主人公がいたそうだ。それだよ。我々がRウィッチを推進している真の理由はな」

「一度死しても蘇る決意があるかどうかだな、モンティ」

「そうだ。あの子らは二度死んで二度蘇った。ならば、私たちはそれに応えなくてはならんよ、アイク」

二人はウィッチに死しても蘇る『不死鳥』となることを求めていく。これは数週間前ほどに直前に圭子が巨○の星と新巨○の星全巻をモントゴメリーに見せていたためで、それでアイゼンハワーも感銘を受けたらしいからだった。アフリカ戦線にいた三将軍で、最もその漫画にハマったのがパットンなのは言うまでもないが、魔球はある意味では強力な武器であったりする。(ハイドロブレイザー系列など)



――アイゼンハワーとモントゴメリーが見た漫画にあった魔球はハイドロブレイザーという形で攻撃手段として存在していた。この魔球はサイコキネシスも関係しているので、サイコキネシスの技能がある者しか投れず、黒江、ガイちゃん、調の三者しか習得していない。ガイちゃん曰く、『巨○の星の大リーグボール左一号の応用だよ』との事で、ガイちゃんは大リーグボールを破滅の魔球たる左三号以外は全て投げれる事を示唆している。彼女曰く、『三号は破滅の魔球じゃん』とのことで、その代わりに『分身魔球』の一種『蜃気楼の魔球』を習得している。当然、ガイちゃんから野球を習った調もハイドロブレイザー習得の過程でそれらを使用可能となっていた。歌を歌っている時に邪魔が入ったのに怒ったらしく、大リーグボール左一号の球を爆裂弾にし、それをガンポッドにぶち当て、敵機を破砕した。当たったのは、VF-11のガンポッドの装填された弾の雷管であり、爆裂弾の威力がそれで増幅された形となった。

「ふう。歌ってるのを狙って来るなんて、無粋な連中には相応の報いをしなきゃあね」

「大リーグボール左一号か?今の」

「ええ。ハイドロブレイザー習得の過程でガイちゃんが教えてくれたんですよ」

マガジンの後部がへしゃげ、雷管をマガジン外板が叩く形になってマガジン内部で暴発連鎖したのだ。

「聖闘士の集中力なら大リーグボール1号程度ならキャッチボール感覚で投げられますよ?二号もその気になれば」

「そいやそうだ」

「青銅でも音速の殴り合いだし」

「それ、信じてもらえねぇんだけど」

「ですよね〜。実際に見ないとこれは」

「でもよ、奴さん――坂本少佐二号――は腰抜かしてんぜ?」

「そうでしょうねぇ。それに、坂本少佐二号さん、こっちの事情知らないだろうから、戦略爆撃機の搭載量が20トンを有に超えてるのも知らないんじゃ?」

「バルキリー見てるし、大丈夫じゃね?」

会話が続く。A世界では結局、1940年代終わりを目指して、人類同士の戦争の準備を行っていたのが、怪異によってお流れになっていたのを、『よそ者』のティターンズが先鞭をつけた事になり、各国はそれに転換せざるを得なくなった。ウィッチ閥が疎んじられ始めたのも、ティターンズが未来兵器と、戦争続きだった結果、極限まで洗練された戦略と完成された戦術で人類連合軍を駆逐していった事に発端がある。ウィッチ世界ではエアランド・バトルも電撃戦、空母戦の概念もその理論は史実通りにあるが、ウィッチ閥が実権を握っていたため、研究が停滞していた。扶桑は未来世界との接触が早期であったのと、当初は前線で無かった事による時間的余裕と、ミッドチルダ動乱でそれをモノにできただけ良かった。だが、他の国々の多くはこの戦争でそのノウハウを得ようとしているため、日本の内部に同位国を危険視する風潮があると、軍事的援助を断られるケースが有った。(日本人が未遂とは言え、革命を助長したオラーシャは日本に恨み節を言っているが、史実ソ連の悪行を持ち出して非難する者も多いため、オラーシャは対応に苦慮し、この戦争では静観を決め込んだ)。オラーシャは革命騒ぎで国力に重篤なダメージを被り、ウクライナの独立などで、前身のモスクワ大公国とベラルーシを合わせた程度にまで零落しており、軍事的には将校の8割が内ゲバで死亡、または亡命、政治的には貴族の殆どが各地に亡命する(生きて国外を逃れられたのは、直前の5割程度)などし、国内情勢はもはやズタボロだった。また、同位国のロシアが冷淡な対応を取ったのもあり、その怒りは扶桑へ亡命した者へ向けられ、それはサーシャも例外ではなく、サーニャを罵ってしまい、レヴィにぶっ飛ばされた結果、気まずくなって数年は音信不通を貫いている。そのため、オラーシャは『今後100年は確実に立ち直れない』と評されている。民生支援については、日本には旧ロシア帝国の立ち位置のオラーシャに好意的な者も多いので、映画関係者を中心に活発に行われている。)カールスラントは帝政ドイツの立ち居位置な事で、肯定派と否定派でドイツ人が割れ、結局、ナチス・ドイツの方向性に行かせないようにすることで決着した。これは日本や独の左派が帝政カールスラント(当時は前史と同じく、カールスラント連合帝国になっていた)のナチ化を異常に恐れた事、独系の国家が海軍を拡大するのを日本や米国が危険視した事でカールスラントが抗議を加えたからだ。カールスラントはかつての大洋艦隊の再建を夢見ていたが、結局、日本や米国の横槍で、大型艦艇の大量保有は諦められ、Uボートの製造を行っていく。しかしながら、今の国土の位置的な意味で、ある一定の抑止力としての『ショー・ザ・フラッグ』としての意味合いの強い水上艦隊の保有が認められる。その過程で、旧・愛鷹(ペーター・シュトラッサー)が返還された。このため、10年以上放置状態であった事での莫大な復帰工事費が支払われたため、カールスラント海軍はメンツ丸潰れであった。(この復帰工事費の支払いは、扶桑新空母の建造費に充てられた)この事は太平洋戦争前に、扶桑の新京で欧州各国軍海軍の協定が結ばれたが、排水量の制限はリベリオンが仮想敵国になったために消え失せ、大型艦の保有制限がブリタニア(1941年当時)基準の隻数で7割の保有が最大で認められた。それが最終的に国際条約化した『新京条約』で認められている。

「条約と軍備整備で、ほとんどの国の参戦が遅れてるからな。戦ってるのは、日本連邦、キングス・ユニオン、それとウチだぜ。政治的に説明難しいぜ、少佐二号に」

「カールスラントも義勇軍出してますしね」

シャーリーと調はため息を付き合う。A世界は政治的にややこしい状況になっており、坂本二号に説明が難しいと愚痴る。

「カールスラントは下手に全面参戦したら、ノイエカールスラント(ブラジル北部からギアナ周辺)が前線になりかねんからな」

「ラルさん」

「坂本二号には、エアボスの仕事してる一号に説明させておくよ。インカ(南リベリオン大陸西岸からアンデス付近)が日和ってるし、マヤの連中は敵につこうか迷ってるそうだ。ウチもそれほど楽観視できんのだ。アステカ(メキシコ)はリベリオンに喧嘩売る良いチャンスとか言ってるのをなんとか押し止めてる感じだし」

「リベリオンをカナダ、えーと、ファラウェイランドでしたっけ?で横腹突けないんですか?」

「無理だ。カナダ、いやファラウェイランド軍の全軍よりリベリオンの一個軍団のほうが質的に優位だし、空軍が弱すぎる」

ラルは調に『カナダ相当の国はリベリオン戦で戦力にならない』と断じる。元々、リベリオン経由で武器を得ていたため、キングス・ユニオンには連邦内部に居るのにも関わず、非協力的であるファラウェイ政府。これは同国の立場に由来するもので、実質的にファラウェイ抜きで戦力を勘定せねばならぬキングス・ユニオンの苦境は如何なものだろう。

「それに、あの子達をどう扱うんだい?これでホテルに軟禁ってわけにもいかなくなったよ?」

アストルフォが言う。基地ごと転移してくるのは予想外だったし、芳佳やリーネ、それにルッキーニが『座して見ている』事を良しとしないのは分かっている。それに苦慮するラル。

「後でご三方に指示を仰ぐ。協力してはくれると思うが、自由は制限させんとな」

「新京の範囲内だけにしとこう。君らの言う前史で影武者やらせたように」

「それしかないな。人物像が根本的に違うものも多くなってるから」

アストルフォは英霊特権で、軍内では高級将校待遇で遇されている。自由奔放な『彼女』だが、もともと男性だった名残で、口調は生前のままだ。だが、元々女装していたため、行動の端々が女性的である節が多く、今回の転生はその状況に肉体が合わせられたと言うべきだろう。

「まだ問題がある。ミーナだよ。二号ににこんな写真見せてみろ。泡吹くぞ」

ラルは最大の問題と言い、ミーナAの近影をアストルフォに見せた。Aはローティーン(11から12歳)に戻っている上、G化で西住まほとして覚醒したのか、まほの生き写しに変貌し、パンツァージャケットを羽織るようになっている。カチューシャからは『なんだか被ってない?』とぶーたれられている他、みほからは『お姉ちゃんが増えたみたい』と好評である。(実際問題、そうであり、杏自身も芳佳に代役を頼むなど、良好な関係を築いている)互いに交流を行っており、戦車道世界の面々はパルチザンでの戦功の名誉の授与のために未来世界に呼ばれており、そこでミーナAはみほと対面したわけだ。G化したミーナAはまほと程よく融合し、言わば『ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケが西住流戦車道を極めたら?』というIFの可能性の具現化である。

「お、なんだ?何話してる?」

「グンドュラ、貴方がこそこそしてる時って、たいてい、ろくな事にならないのよね。その写真、見せてくれないかしら」

「……お前、泡吹いても知らんぞ?」

「どんな写真なのよ、それ」

写真を渡され、キョトンとなるミーナ。

「なにこれ、子供の頃の…じゃない?でも私の顔よね?」

「お前自身だよ。ただし、この世界で変化を起こした後のお前だ。ウィッチを若返らせ、能力を復活させる方法が超科学で実現したんでな。お前、46年には上がるだろう?」

「え、ええ。だけど、若返らせるって」

「私らのように、前世の記憶を引き継ぎ、ウィッチとしての力が永続的になったウィッチをGウィッチと呼ぶが、お前はそれに至るまでに、その処置を経る必要があった。我々はそれを『R化』と呼んでいる」

「R化?」

「そうだ。別世界の超科学でウィッチの肉体の時間そのものを逆行させ、能力の絶頂期にまで肉体を若返らせ、能力を維持する。これが古今東西のウィッチが求めてきたものだよ、ミーナ」

「能力の復活って、そんな簡単に」

「超高度に発達した科学は魔法と見分けがつかなくなるって奴だよ、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐。そもそも僕達の復活もイレギュラーなものさ」

「しかし、これ陸軍のパンツァージャケットじゃないか?ミーナは空軍だろう?」

「ああ、それ?ここだと、戦車兵の資格取ってるよ、ミーナ中佐。留学先で正式に取得したとか?」

「なんですって!?私がなんで戦車兵の資格なんて」

「ここでの君、六号装甲脚履いて作戦に従事した事があってね、そのことを正当化するためにも必要な資格だったそうだよ」

ロンメルが本気で『ウチの装甲師団にほすぃ』とケイに強請るほど、ミーナAはミハエル・ヴィットマンやオットー・カリウスもかくやの燦然と輝く戦果を挙げている。その際には、ロンメルが本気でスカウトしようとし、ケイに止められるまで、本気でスカウトしようとしていた。自分の装甲師団の窮地を救ったばかりか、敵師団に壊滅的打撃を与えた戦果はロンメルを大喜びさせ、ケイが『何をバカ言ってやがる、このオッサン』と止めに入るほど、ロンメルは上機嫌だった。その時の戦果は戦車兵の資格取得後に正式にスコアとなり、ミーナは異色の戦車エースとしても名を知られ始めている。

「その時の戦果は?」

「人伝に聞いただけだけど、シャーマンが15両、ジャクソン戦車駆逐車が五両、ハーフトラックが四〇両とか?」

「……それ、共同戦果だろう?」

「いや、僚車はいたけど、単騎で弾のありったけをぶち込んだらしいから」

ミーナAは当時のストライカーで行進射を命中させるほどの腕を誇り、結果、僅かな時間でM4中戦車を5両、戦闘不能に追い込んでおり、その潜在能力を見せた。ティーガーはその大きい図体や機動力の都合上から、攻勢に向かないため、待ち伏せやダックイン戦法などを積極的に用いて対応し、数の劣位を覆してみせた。ロンメルが上機嫌であったのは、お手本にしたいというほどの守勢の状況下での戦ぶりだった。

「この世界のお前はどうなっとるんだ?」

「私が聞きたいわよ、こんな事ぉ〜!」

「まー、本職の戦車兵で、ティーガーのテスト要員だったシャーロット・リューダー少尉が『凄い……ティーガーのポテンシャルを理解して戦ったんだ、中佐』とか唸ったっていうし」

「…」

もはや言葉もないミーナB。それがAの姿。空軍のトップエースにして、陸戦ウィッチとしてもエースになれる才覚の持ち主。そのため、双方から羨望と嫉妬を買うのは言うまでもないが、西住流戦車道の精神を持った故のストイックな男性的な側面から、この時期では人気が急上昇中なのであった。ブロマイドは武子、ガランド、ラルの三者の部隊運営資金の収入源になっており、カメラワークを試せるため、ケイが色々と写真を取りまくっている。中でも、パンツァージャケットを来たミーナA、私服姿のレイブンズのメンバーや白衣の上にフライトジャケットを着た芳佳Aのブロマイドは売れ筋で、パットンやロンメルなどの高官らの間で取引材料に使われたり、前線の将兵たちの間で、21世紀のアイドルのブロマイドじみた人気を持っており、それらは64以外の部隊の間で高値で取引されていたという。また、黒江のアイデアで、レアブロマイドと称した、レアな服装のメンバーのブロマイドを限定販売する案も出ている。一応、軍務中の様子を捉えた写真集はそれなりに扶桑国内で出ているが、内務省の検閲が入るため、強者を満足させるには至らず、軍に入隊した理由がこのブロマイドを買うためという者まで現れたという…。圭子が部隊運営費を賄うために編み出し、黒江が発展させ、武子が認めたこのブロマイドは関係者の間で垂涎の的となっていき、パットンやロンメルがそのために参謀本部から乗り付けてくるほどのものだったとか。



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