短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――地球連邦は次元震パニックを新兵器の実験にうってつけと判断し、64Fに新兵器を与えていた。その為、空母の格納庫には、まだ一部重要拠点や精鋭、特務部隊にしか行き渡っていない新型機がズラリであった――

――空母の格納庫――

「これは?」

「我が飛行隊の秘密よ。これらは別世界から仕入れた超兵器。ウチの管理下の機材なのよ」

「別世界と取引が?」

「綾香がコネを持っててね。その関係で得られたものよ。ストライカーの生産数は落ちたから、これで補ってるわ」

ミーナBは隊長としての協議のため、武子と空母に残っていた。64Fの優位性を思い知らせる意図のもと、惜しげなく機材を披露する武子。VF、MS(TMS含む)、宇宙戦闘機、特機に至るまでの布陣は地球連邦軍でも豪華極まりない構成だ。まだ制式配備前の機体も多く、実戦テストも兼ねているモノもある。ストライカーの軍配備数が落ち込んだため、このような光景が実現した。ガンダムタイプはもちろん、鉄也が持ち込んだマジンエンペラーGも含まれている他、量産型グレートマジンガーの第二期型や量産型ゲッタードラゴンもある。空母では、マジンガーはパイルダーオフ状態で、ゲッターは分離の状態で収納されている。空母では、一番容積がある区画の第一格納庫にそれらを置いている。特機は意外にも、マジンガーやゲッター系ならば容積を食わないため、量産された経緯がある。地球連邦軍でも特機はまだ配備地域の策定中の段階だが、ロンド・ベルの分遣隊でもある64Fは先行して受領している。

「どう?この兵器群は」

「はぁ。怪異相手にはオーバーでは?この時代の技術力を遥かに超えているものばかりと見受けますが」

「まぁ。敵は怪異ばかりとは言えなくなってね。それに人材の集中運用が叫ばれてるから、501は最終時には、殆どの統合戦闘航空団を取り込んでいたわ」

「殆どの?」

「ええ。貴方はもちろん、戦間期には反対したと聞いているわ」

ミーナAはまほの因子が目覚める前のブリタニアとローマの戦間期に、統合戦闘航空軍構想に反対していた。501がそのベースになる事をミーナは猛反対したが、山本五十六や源田実の強い後押しで、ロマーニャ当時の編成が実現された。ミーナは501構想時の事をつつかれたため、源田実や山本五十六の提言に反対するわけにもいかず、どんな人員が戦闘隊長要員として送られてくるかヒヤヒヤだったが、坂本がレイブンズのことを意図的に漏らしたので、今回は事無きを得た。また、源田実の言う通り、A世界では502を皮切りに、506、504などの当時に健在だった統合戦闘航空団が取り込まれていった。当初は508も取り込む計画だったが、当の508が反対したので、孝美を送り込むことで妥協された。そのため、今回は孝美は書類上は502→508→501に移籍したという事になったが、501以前の勤務実績は508のみだ。そのため、ミーナAは気苦労が黒江達によって低減され、ティーガーを見た事で、ダイ・アナザー・デイで西住まほの因子が覚醒したのだろう。

「それはもちろん、反対しますわ。20人以上のウィッチを集められるはずが……」

「集められたのよ、こちらでは。既存の統合戦闘航空団を501に集約させる事でね」

「どういう事ですか?」

「敵が異世界の軍隊の生き残りとわかった後、超兵器で攻め立ててくる彼らに、連合軍は従来の体制では為す術もなかった。そこでウィッチの生存率アップのため、エース級の集中運用が推し進められたの」

「この空母はその、転移してきた彼らの世界の?」

「そう。恒星間航行が可能な技術力で造られた宇宙空母。その気になれば、40分でノイエカールスラントにつけるわよ」

「40分!?」

「そこの世界だと、大マゼラン星雲まで、数ヶ月で行けるそうだから、驚くほどのことじゃないわ、中佐」

「そうだ、中佐。こちらでは初めまして、という事になるな」

「ハンナ・ルーデル大佐殿!?」

「そんなに驚くほどの事か?」

「あ、その、いえ。大佐殿は引退したのでは?」

「引退なんぞ、間抜けがするものだ、中佐」

ルーデルは元々、黒江と同じ体質だったので、出撃を続けていた転生前と違い、今回はG化で絶頂期のポテンシャルを永続的に保った上、早期に未来兵器を得た事もあり、空戦エースにもなっていた。

「ガーデルマンとは始めてかな、中佐」

「は、はい。アーデルハイド少尉と瓜二つですね……」

「よく言われます」

ガーデルマンはルーデル最初の相棒『アーデルハイド』と瓜二つだが、瞳の色は異なり、アーデルハイドに比べると、だいぶ温和な性格である。B世界には存在しないウィッチの代表的な例となるだろう。芳佳Aの医療教育に尽力したのもガーデルマンであり、彼女は芳佳の医師としての師に当たる。

「私はアーデルハイド少尉の引退後、医療ウィッチだったのを大佐にスカウトされて、そのまま僚機に。今では腐れ縁ですよ、ハハハ」

ガーデルマンもGなので、今回もルーデルの僚機を43年以降に勤めており、ルーデルの個人的な副官としても任務を負い、任地がどこでも(未来世界でも)随行し、マルセイユを迎えに、野比家に来た事もある。腐れ縁と言ったのは、その事からだ。アーデルハイドに比べると、だいぶ温和な態度であるので、ミーナも話しやすい。

「貴方は何故、ルーデル大佐の副官に?」

「元は医者志願だったので、飛び級で大学に行き、16の時に本国が陥落、そのまま軍医、18歳で大佐にスカウトされて、18で初陣でした」

「18歳!?」

「大佐も私もGなので、魔力ポテンシャルは絶頂期で固定されていますので、その辺は誤差の範囲です。遅いと言われましたが、才能があったようで、そのまま撃墜王に」


ガーデルマンはシールドは元々薄めで、本来航空ウィッチになれるほどの能力ではなかったが、歳をとってから発現した魔力は安定していたので、その飛行センスとルーデルとの波長の近さから、ルーデルに追随する事にかけては一番の適正を示していた。それをルーデルが強引にスカウトしたのが転生前である。今回はルーデルと長年共に戦った事での共鳴で、前史での能力のハンデが緩和された事もあって、ルーデルの僚機を引き続き担っている。芳佳の留学が没った埋め合わせをするため、ルーデルの好意で宮藤家に滞在した時期もあり、芳佳が『先生』と呼ぶ一人ともなった。芳佳の留学が取り消されたのは、ティターンズにトラウマを持つ海軍系参謀の思い込みからの暴走だったので、山口多聞を激怒させ、小沢治三郎や井上成美も『なんという事をしでかした!!』と怒声を発するほどだった。そのため、試験の一次選考の合格を以て、入学措置が取られ、芳佳はその期を優秀な成績で卒業した。

「宮藤少佐を筆記試験に受からせるため、扶桑に滞在したこともあるので、扶桑語は話せますよ」

「えぇ!?」

「あ、ここではハルトマン少佐も医師免許取ってますよ」

「!?!?★※」

「それでいて、あいつは64Fで一、二を争う剣客だぞ。どうだ、ミーナ」

「グンドュラ。貴方が仕組んだの?」

「いーや、あいつらが前世の記憶を引き継いだから起こった現象だ。お前だって戦車兵だし」

「ちょっとまって。剣客?剣士じゃないの?」

「剣士はアルトリア王がおられるだろうが。選定の剣の騎士王だぞ?」

「確かにそうだけど……、本当のハインリーケ少佐はどうなったの?」

「融合した。だから、彼女はハインリーケであり、アルトリア王でもあらせられる方だ。立場上、侯爵に上がったそうだ」

「ブリタニアの王位は?」

「継げるわけがないだろう。ブリタニアで何回、王朝が変わったと思ってるんだ?今の王朝までに三回くらい交代してるから、王位継承権は無い」

「でも、なんでハインリーケ少佐の立場を?」

「そうしたほうが自然だろう?ハインリーケ少佐の生家は、こちらではノイエカールスラントへの大型爆撃機の空襲でほぼ死に絶えている。だから、隠れ蓑にうってつけだった」

「財産なども?」

「ああ。ハインリーケ少佐の立場を受け継いだ以上は管理義務があるからな。ただ、ハインリーケ少佐との性格の違いは、演技で誤魔化しているところもあるが、無理があるから、やめるようにお願いした」

ラルはアルトリアの上官であるが、騎士王であった事をいち早く知った事から、仲間内では『臣下』のような態度を貫いている。これは御坂美琴の性格が入ったためもあるかもしれない。

「グンドュラ、貴方、まるで部下みたいな態度ね」

「騎士王には相応の礼で接しなくてはならんよ。相手はブリタニア人なら誰でも知っている、伝説の円卓の騎士だぞ?英霊と言っていい。我々などは青二才ですらないよ」

ラルはアルトリアに敬意を払うような態度を取る事を公言し、その自覚を明示する。実に謙虚な態度である。だが、円卓の騎士の多くのように盲従ではない。モードレッドがそうであるように、アルトリアのカリスマに依存していて崩壊したのが円卓なのだ。ラルはアルトリアとは『臣下であるが、諌める役目も負う』と言った関係を持つに至った。

「貴方らしくないわね」

「だが、円卓の騎士のように盲従でもない。そこは当たり前だ。イエスマンだったら、臣下はいらんよ。それに、私は同期や先輩らに睨まれてる立場なんでな。ノイマン大佐やお前と言った適任者をぶっ飛ばして、抜擢されたのでな。フーベルタには目ン玉が飛び出るくらいに驚かれたよ」

「フーベルタは元気?」

「いや、今はまだ治療中だよ。王と私で救出作戦を実行してな。捕虜収容所から脱走してきたあいつをどうにか捕まえられた」

「捕虜収容所!?」

「当たり前だ。今の戦争は人間相手だ。捕虜収容所くらい当然だ。奴曰く、サフォノーク中佐は敵の語り難いほどの拷問で全身に火傷を負い、精神に異常を来していたと言った。可哀想に」

『ブロニスラヴァ・F・サフォーノフ』オラーシャ海軍中佐は捕虜収容所で凄惨なる拷問で全身に火傷を負い、顔の半分に火傷を負った事で精神に異常を来たし、フーベルタは『見捨てざるを得なかった』と沈痛な表情で証言している。ティターンズはウィッチには薬物で強化人間に仕立て上げ、ウィッチ同士で殺し合いさせる行為を行っており、これは主に選別官の裁量が大きい。(ティターンズが捕虜への処置を強化人間に切り替えたのは、捕虜の脱走が原因で、サフォーノフ中佐はその処置の被験者とされ、行き過ぎた薬物強化の果てに『殺戮マシーン』と化してしまい、かつての友であるラルがその手にかける事になるが、それはまだ先のこと。その際、ラルはサフォーノフが薬物で洗脳されており、もう過去の記憶を一切戻せないと悟った瞬間、慟哭し、せめての友情で、超電磁砲で以て痛みを与えずに屠ったという)

「貴方、まさか」

「私だって、彼女は『できれば助けたいわよ』!でも、強化人間にされていたら、もう戻せない。その時は倒すしか無いのよ、ミーナ!」

ラルは感情的になると、口調や声のトーンが御坂美琴のそれになるようになった。その際には日本語を用いるが、ミーナBは幸い、日本語を理解できるため、キャラが大きく変わった事に驚く。口調が14歳の女子中学生のそれになるので、大人びたラルとはアンバランスだが、それがラルの今回における人間的魅力でもある。

「貴方……!?」

「あたし、感情が高ぶるとね。こうなるのよ。ある異世界の子と共鳴した影響でね。驚いた?」

「外見が変わらないから、すごくアンバランスよ、それ」

ミーナBも日本語で返す。ラルはこの状態になると、御坂美琴と同じ振る舞いを見せる。そのため、本来よりだいぶ幼い印象を与える。元が悪童と言われたほどの腹黒女王であったので、美琴の素直なところが出るようになったのは歓迎されている。元々、腹黒だったのが、ある意味で健気で、一本筋が入っていた御坂美琴の性格が入る事で、方向性が是正されたと言える。これと真逆の方向に至ったのが圭子で、本来の温厚な性格から、超がつくほどの銃撃狂となり、好戦的な面を隠さなくなった。そのため、ラルが悪童の名を多少は返上したのに対し、圭子は悪童街道一直線で、扶桑海事変での『扶桑陸軍の狂気』の異名が年月の内に『空軍』に置き換わった以外はそのままである。

「まー、よく言われるわ。だけど、ケイさんよりまともなつもりよ?あの人、昔は狂気の象徴みたいな感じだったし」

ラルは14歳モードで圭子を評した。それは端的に言えば、扶桑海七勇士の中でも有数の狂気持ちである事を肯定するも同然である。言わば狂戦士的な『ウォーモンガー』でありつつ、頭が回る。それが圭子の現在の本質であるのだ。圭子が戦士としての面を強化されたなら、ラルは本来なら持っていた『少女らしさ』を取り戻したと言えるだろう。『ウォーモンガー』で有りつつ人の機微に智い。それが圭子だった。








――こちらは坂本とモードレッド――

「モードレッド卿、一つ聞いていいか?」

「なんだ?」

「この世界はどうして、大和型に対抗するのを目指した戦艦が多いんだ?」

「まー、この世界は『人類同士の戦争』をいずれ起こそうと考えてたんだ。ヒスパニアの怪異も、扶桑海の事も『他人事』のように考えてたから、1938年の段階だと、古い戦艦の更新を大義名分にして、世界各国が計画を立ててたし、ブリタニアはライオンの建造に入ってた。扶桑が大和型の存在を主砲以外を公表したもんだから弾みがついて、そのまま世界各国はどんどん作っていったんだ。大和型自体も増やす事になったんだけど、空母ウィッチ閥が異議を唱えて揉めてた。だけど、呉がやられたショックと工事の進捗率の高さを鑑みて、そのまま完成したわけだ」

「そうか……」

「まー、怪異がいなくなりゃ、いずれは起こった事さ。それが起こったのがこの世界だよ。大和型は五隻で打ち止め、その次の超大和型戦艦を揃えた。未来技術が前提でなきゃ、不可能だったよ。戦艦は平均で2000は乗組員を食うしな。平時でも」

モードレッドも一応、戦艦の本来の必要乗員を知っていた。戦時では戦艦は2500人から3000人の乗組員を必要とし、その人数の多さもあり、戦後に一気に消えた艦種な事も。最も、それは時代相応の技術での事で、未来技術で省力化がされれば、戦艦は砲艦外交などにも有効な艦種である。その事もあり、扶桑は省力化を最も積極的に行い、殆ど宇宙戦艦同様に強化している。

「戦艦はロケット弾が発達すれば消えてゆく運命だったからな。それを考えりゃ、ウィッチがいる世界はクリーンだ。アトミックボム、つまり核兵器がロケットに積まれて、それを持ってる陣営が睨み合いして、それで平和が保たれてる世界も多いからな。戦艦を使うほうが地球環境にゃ優しいよ」

「そうか、そのような世界があるのか…」

「80%はそうなるぜ。確実にな。実際問題、ロケット弾が誘導されるようになれば、戦艦の大砲は時代遅れになったけど、結局は艦砲のほうが安上がりになるくらいにお高くつくようになるし。確か、日本連邦のロケット弾は一発で一軒家が何軒も買える金額が消えるとか」

「!??」

「そりゃそうだ。この時代みてぇに撃ちっぱなしじゃないようにする誘導装置を積むとだな、金がかかるんだよ。思いっきり。だから、艦砲が見直されたんだ」

「一周回ったのか?」

「まー、潜水艦さえ封じれば、戦艦のいなくなった海は大型化した駆逐艦しかいねぇからな。艦砲射撃すんには非力だ。だから、21世紀に試行錯誤されたけど、戦艦作ったほうが良かったなんて駆逐艦も多いぜ」

戦艦の時代が再び訪れるには、宇宙戦艦の時代を待たねばならないが、未来世界に於いては、日本連邦とキングス・ユニオン、アメリカ合衆国が有していた記録があるので、戦艦は艦種識別では21世紀に復活している。新造可能な能力を持つアメリカ以外はブリタニアや扶桑からのレンタルだったが、戦艦の威容は砲艦外交にうってつけなこともあり、日本連邦で特に好まれた。映画撮影にも用いられており、扶桑で記念艦になった長門は映画撮影によく用いられ、レンドリースされた『三河』も大和型関連の映画で盛んに使用された。大和型も長門型も、日本では現存しないため、扶桑で現役、もしくは記念艦となった艦艇を動員するのは当たり前であるので、大和型は比較的任務を負っていない、新造の三河が広報部の指令で映画撮影に供された。そのため、戦争映画に一種の『革命』が齎され、扶桑海軍の協力もあり、リアルさが増した(急降下爆撃機が急降下爆撃を披露したモノもある)ものが生まれていった。特に、改造機ではない『本物』の急降下爆撃機(九九式艦爆)が、退役した扶桑海軍経験者達の手で急降下爆撃を見せるモノは高く評価されたという。また、空母赤城の撮影に供されたのが、同型艦であった『愛鷹』(元・ペーター・シュトラッサー)であったのも、何かの縁であった。そのため、空母天城(天城型)と愛鷹は銀幕の中で『本来に想定されていた役割』を演ずるという奇妙な艦歴を辿ったという。それはカールスラントにとっては1920年代の思惑が見事に失敗した事も示すため、カール・デーニッツ提督が選んだこの施策は後世で賛否両論を呼ぶ事になる。






――また、カールスラント海軍で空母機動部隊の整備が諦められ、潜水艦整備に軸足を移す過程で、ペーター・シュトラッサーの扶桑への返還は部内でかなり揉めていたが、デーニッツの『10年も放置したものなど、今更役に立つのか!』という言葉で返還が決まった。扶桑に莫大な復帰工事費を支払う羽目になった財務関係者は大いに愚痴り、また、日本やアメリカから空母機動部隊の保有の夢を笑われるなど、海軍は踏んだり蹴ったりだった。カールスラント海軍は潜水艦隊を大増強する代わりに、空母機動部隊を諦めた事になる。史実からして、ドイツの手に余るとさえ言われた空母は、バダンの鹵獲品の再利用でお茶を濁され、海軍航空隊の設立も諦められた。(その際に、グラーフ・ツェッペリン自身から愚痴られたため、ゲーリングは会議から排除された)代わりに、空軍ウィッチが空母の指揮下に入る事で妥協が図られ、結局、カールスラントは扶桑やブリタニア、リベリオンに次ぐ空母大国になり損ね、その代わりに潜水艦大国へと成長してゆく。水上部隊が実質的に『ショー・ザ・フラッグ』的な位置づけになってしまった事は、その後の冷戦期に於いて、カールスラント海軍の苦悩として語られる事になる。新京条約の制限が完全に解除されたのは、冷戦期が終焉した1991年と、随分と後年の事で、そこからカールスラントは狂ったように大型水上艦の整備に邁進してゆく。冷戦期が終わった頃に邁進し始めるのも、皮肉なものであるが、長年の枷から開放された軍隊はそういうもので、その様子は『抑圧された子供が大人になったら、狂ったように欲しかったモノを買うのと同じ』と評されたという。

「カールスラントは同位国が世界征服を目論んだ分、警戒されててな。海軍の軍備が制限されてるんだ。ブリタニアの7割の戦艦が持てれば良いほうだと思うぜ?多分、50年くらいは世界トップ5には食い込めねぇな」

「随分と横暴じゃないか?」

「ロマーニャもガリアも、今後20年位はまともな海軍の再建は無理だろうから、ブリタニアと扶桑がリベリオンと戦うしかないのさ。ガリアは分散していたのを各個撃破されたり、自沈したから、まともな軍艦は殆どねぇからな」

「ガリアだが、どうしたんだ?リシュリュー級があるんじゃ」

「あんな雑多な寄せ集めのどこが海軍だっての。最新鋭のリシュリューも、前大和型だぜ?虚仮威しだよあんなの」

モードレッドは現在の自国に辛辣な評価である。リシュリューももはや前大和型戦艦でしか無く、陳腐化している。また、自国が荒廃しているため、まともな訓練もままならない上、残された新型艦『ブルゴーニュ級』(アルザスの残存した船体の修復と完成)の建造すら棚上げ状態である。皮肉な事に、ティターンズが接収した『アルザス』、『ノルマンディー』はアイオワ級よりも重装甲で完成し、結果としては高いポテンシャルを証明はしたが、敵艦としての活躍はド・ゴールを大いに憤激させ、完成に執着するのも無理からぬ事である。モードレッドがガリア海軍を『寄せ集め』と馬鹿にするような態度を取るのも、生き残って稼働状態の軍艦よりも、植民地の港で無様な姿を晒している艦艇のほうが多い事が理由だった。旗艦であるジャン・バールすら、前大和型であることなどから、置物同然の日々を送っている。残酷だが、ガリア海軍は怪異による鉱物資源の消耗が激しいことを理由に再建が後回しにされた事から、この頃には時代遅れの誹りを受けるガリア海軍。新戦艦の建造が遅れた事はガリアの凋落の証とさえ嘲り笑われたが、その代わりに空軍と陸軍は一定の質は保ったため、その方面での大国として再建されていくことになる。

「この戦では宛にできないと」

「そういう事だ。大和や武蔵と撃ち合える戦艦の戦場にジャン・バールが来ても、一撃で轟沈しかねぇよ」

「しかし、それらがあるんじゃ、如何に大和型でも」

「超大和型戦艦がある。今度のは610ミリ,カール自走臼砲と同じ口径の砲を積んだのだぞ」

「待て待て!!おかしくないか!?610ミリだぞ!?」

「しかもカノン砲だぞ。どーだ。パワーアップでドーラを積む案もあるんだぞ」

「なんだその、子供が考えたみたいな馬鹿げたプラン!!」

「敵が造り始めたらしいしな。えーと、80cm砲の連装砲×4の恐ろしい艦を」

「はぁ!?世界びっくりショーの出展物じゃないんだぞ!?」


「金田中佐が50万トンのやつ考えてたろ?それが現れた場合、70万トンいくそうだ」

「ハハハ…あり得ない。造船科学的に…」

もはや造船科学の限界でも極めようとしているとしか思えないその新戦艦の性能概算に呆れる坂本B。しかし、既に350m級が扶桑で使用され始めている時代、それらも夢ではないのが今のA世界だ。それらは三笠で不完全である航空機運用能力を完全にした移動要塞とも言えるモノで、垂直離着陸機のみならず、通常の固定翼機の運用能力すら与えられる予定である。戦艦のセオリーを守るなら、大和型での格納庫を拡大し、そこから電磁カタパルトで離陸させる設計が模索されているが、これは64Fの機体を運用したい狙いがあるからだろう。

「まーな。でも、旅客船が10万トン超えが当たり前になる時代が来るのはわかってるから、敵との果てしないシーソーゲームを続けると、100万トンもあり得るぜ」

「嘘だろ?」

「21世紀、アンタが死ぬ頃には、10万トンの旅客船が世界の海を我が物顔で走ってるよ」

「21世紀か。私はその頃には90だぞ?」

「いや、あんた、21世紀迎える頃にはまだ70か80だろ?」

坂本は1945年で20で、1925年生まれ(大正14年)になるため、80歳は2005年に迎える事になる。従って、A世界の前史では75歳で亡くなった事になる。坂本Aはその時に、死に際の弱り果て、老い果てた姿を黒江に晒したのを恥と考えており、今回はG化で若い姿を努力なしで維持できるためもあり、今の時点の容姿を維持する事にしている。そのため、容姿では現時点の圭子と同年代に見える事になる。20前後の圭子と坂本、17前後の智子、15の黒江と、黒江が最も若々しい容姿になっているのが分かる。Gウィッチの容姿は精神状態も加味されるので、精神状態が成熟していると20代前半、そうでないともっと若くなるので、智子と黒江の両名は子供っぽい側面が反映されているといえる。

「いや、そんな事言われてもな〜。私にとっては、まだ50年以上先になるし。それと、ここの黒江はどこか子供っぽいから驚いたよ。話を聞いて、心に傷を負ったのは分かるがな…」

「ここのあんたは、それを憂いるあまりに、独善的に動いて、あの人の心の傷を抉ったからな?同じ轍を踏むなよな。根っこの部分は変わらんだろうから、付き合いが有るのなら、あまり袖にする様な事はすんなよ?」

「どういう事だ?、モードレッド卿」

「ああ。ここのあんたが今の世界に転生する前の世界での1970年代のことだそうだ。その時、アンタは数十年来の計画を実行に移し、あの人と喧嘩をしたが、あの人はあまりのショックで泣き崩れちまったそうだ。しかも、落ち着いてた二重人格が復活して。それにナオエが怒り狂って、アンタをボコボコにした。それでアンタは気まずくなって、そのまま寂しく退役して、死に際まで会えなかった」

「……そうか。あいつの心の傷を見抜けなかったのだな、ここの私は」

「あの人は可哀想な人だよ。同僚に逃され、戻ってきたら、宿舎の跡地に残ってたのは、焼け残った腕だけの死体だ。それで心を病んだんだ。今のあの状態はそこから立ち直ろうとした結果なんだ。子供っぽいのは、その時の傷のせいだろう」

モードレッドがここまで同情するのも、如何に黒江が転生前に受けた心理的外傷が大きかったかの証明だった。黒江はなまじっか、中途半端な力を残していたのも幼少期の折檻と重なって、転生しても呪縛として残った。そのトラウマは転生しても、『無力への恐怖』、『守っている実感を与えないと壊れてしまう』と言った弱さとして残り、智子や圭子はそのことに心を常に砕いている。それは黒江自身が気づかぬ内に抱いている『無力とみられる事への強い忌避』と坂本との理不尽な喧嘩別れが招いた、『自分が大切と思ったモノを何が何でも守ろうとする防衛本能の抑制が効かない』という無意識の行動指針だった。この事を坂本Aは深く悔いており、今回は自嘲的なところが多い。

「ここの私はなんと?」

「転生後はあの人にひたすら尽くしてるし、あの人を『憧れ』とか言って、持ち上げるような言動が多いから、同期からは不思議がられたし、自嘲的な訓示も多くしてる。それだけ悔いたんだろうよ。だから、袖にしちまうと、あとでしっぺ返しが来るんだって覚えてろ。ここのあんたが転生前の後半生で惨めな思いをしてたみたいにな」

モードレッドは坂本Bに忠告する。モードレッド自身が叛逆の騎士だが、健気に坂本を15年以上探し続けた黒江に共感しており、坂本のことを探し続けた前史の引退後の事を話し、坂本Bに忠告する。坂本Aは転生前、娘と黒江が対立するだろうと死に際に見抜いており、転生後に話を聞き、『案の定か』とため息をついたという。坂本Aは実のところ、人生はこれで三回目で、一回は全く別の世界線に転生していた。後でZ神がそれに気づき、その世界での空戦で戦死させる形で連れ戻した経緯がある。その際には『激しい空戦の果てに、一瞬の隙を敵ウィッチに突かれて戦死する』という、その世界で本来、竹井が辿る運命をそのまま辿らせたという。撃墜したウィッチこそ、506のマリアン・E・カールで、彼女は平行世界では、坂本と竹井にそれぞれ引導を渡した事になる。(なお、Z神によれば、敵討ちに燃える下原によって、マリアンは脳天唐竹割りでまっ二つにされ、倒されたとのこと)坂本はその前の日、その世界では面識がないはずの黒江が自分を呼ぶような夢を見ており、その世界での戦死は『Z神が黒江のために仕組んだ』と言える。この事は坂本Aがレイブンズには言っていない『秘密』で、今回でマリアンと竹井が友人な事を聞き、思わず渋い顔を見せたのは、この事に由来する。これが坂本が胸に秘めた、ただ一つの重大な秘密で、黒江と竹井の精神のためにも隠している事であった。また、マリアンの存在のためにも。

「ここの私は何回『した』んだ?」

「今回が始めてと言ってるが、それにしては魂の練り上げ具合が洗練されすぎてる。絶対にもう一回は転生してるよ。それを言ってないのが謎なんだよなー。あの人に言わないのは分かるが、竹井さんや智子さんにも言ってないのがなぁ」

モードレッドはその秘密に気づきつつあったが、黒江の精神的衛生に良くないであろう事は悟っていた。ただ、それが何であるかはわからず、首をひねるだけであった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次 次話>>

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.