短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――太平洋戦争にひょんなことから紛れ込んでしまった平行世界の501。彼女たちの保有機材はA世界では旧式化していたものが大多数なので、レシプロ戦闘脚の最終型が臨時で充てがわれた。これは武子の計らいで、正規の補給が受けられないため、64の厚意で弾薬や燃料が融通されていた。機材はこの時代にしては型落ちであるレシプロ機を用意するほうが難儀であった。何せ、A世界ではレシプロ機の既存のユニットはMAT設立時にウィッチが持参品扱いで持っていったりして数が減り、この時点では軍の管轄下から離れたモノが七割を超えていた。そして、B世界ではウルスラが未完成のメッサーMe262を持ち込んで騒動になった事から、ジェットに忌避感を持っていた(バルクホルンは乗り気であるが、ミーナが止めさせた)事である。これは事を知ったガランドとルーデルがミーナBを呼びつけて叱責した。


――空母のルーデルの私室――

「貴官は何を考えているのかね?」

「あ、あの、大佐殿。これはいったい」

「君の言い分を聞こうじゃないか、中佐?」

ミーナBはルーデルとの面識が無かったため、呼びつけられたら、いきなりルーデルとガランドに睨まれたので、半ばパニックである。

「ジェットの補給を固辞したそうだが、どういう理由かね?」

「は、はっ。信頼性が低く、こちらでは暴走事故も起きています。隊員に危険な真似はさせられないと判断致しました」

「中佐。こちらでは『1947年』の夏なのだよ?二年もあれば欠陥も是正され、改良も進むという事は、君とて知らんわけがあるまい?」

「に、二年……。ですが、たった二年であの欠陥がどうにかできるとは」

「君は整備とコミュニケーションを取らんが故に、技術進歩への見識が遅れているな…。いいかね?二年もあれば、フルモデルチェンジがなされるのだ。特に戦時中は」

「ああ、私だ。彼女をF-86で向かわせてくれ。B-52に便乗させ、そこから発進させろ。到着時刻は?…ああ、了解」

「あの、閣下?」

「カールスラントからヘルマ中尉を呼ぶことになった。それでしか納得しない顔だ」

「も、申し訳ありません。時間がずれている事を失念しておりまして……」

「こちらでは二年の間に世代が進んでいるのだ。リベリオンもジェットの実用化に成功し、それが世界標準となったほどの素晴らしい性能だ。こちらではそれが一線機なのだ」

「つまり第二世代の……」

「正確には第二世代ではない。音速には届かんからな」

「どういうことですか?」

「音速を超えるには、推力のみならず、空力性能なども重要なのでな」

「今の機体、『F-86』は急降下なら音速に届くが、水平だと届かんのだよ。その倍の推力を出す第二世代宮藤理論式エンジンが開発中だが、新規開発機でないと載らん」

当時、黒江の義理の娘『翼』や武子の姪などが極秘裏に技術進歩を促したため、A世界では、『スターファイター』や『スーパーセイバー』が早くも開発中であったA世界。その為、セイバーはもうじき型落ちになる。黒江は彼女らの時代から第三世代宮藤理論型ジェットストライカーをもらう一方、前史のベトナムでの教訓から、次世代機の登場を促していた。その為、本来はこの時期の最新鋭であるセイバーも供与に問題なしとされたのだ。黒江の息がかかった未来の子や孫世代が暗躍していたからだ。

「それと、紹介したい子がいる。ちょうど三河に乗っていたのを呼び出した。入り給え」

「失礼致します」

「貴方は?ルッキーニさんの親戚?」

「いや、ルッキーニ大尉のお孫さんだ」

「……は?」

「21世紀の頃からルッキーニ大尉が呼び出したのだ。トリエラ・ルッキーニ少佐。第三世代の501の隊員で、フランチェスカ大尉の後継者だ」

「どうもよろしく」

トリエラ・ルッキーニ。フランチェスカの実の孫だが、気質は祖母よりも祖父寄りで、容貌もフランチェスカより大人びている。共通点はツインテールくらいだ。声もフランチェスカに似ているが、トーンは低めで、どちらかと言えば、更識楯無に似ている。

「第三世代?」

「私の母、つまり、貴方の子供世代の頃にも結成はされていたので。私の頃は第三世代という事になります」

「フランチェスカ大尉にそっくりだろう?君にも当然、子や孫はいる。だが、任務の都合で来られないというので、この子を送ってきた」

「私の子と孫!?」

「あくまで、こちら側での話だが、君は50年代に子を成し、80年代に孫が生まれる事になる。坂本少佐も、土方兵曹とゴールインし、更にその子が北郷大佐の息子と結婚する運命にある。それは分かっているが、問題はこの戦争だよ。この戦争の様相は予測がつかんのだ」

「そう。君らが来た事もイレギュラーと言える。敵はこちらの予測を超えてくるからな。」

「どういう事です?」

「未来の方向はあくまで不確定という事だよ。だからこそ、我々は孫まで動員しなけりゃならん」

「孫って」

「黒江のおば様は既に義理の娘さんなどを協力させています。あの方は2010年代では生き字引のような存在で、扶桑のフィクサーですし」

黒江は2010年代では、Y委員会の創立メンバーの生き残りの一人として、扶桑のフィクサーとなっている事が示唆される。その上でガランドはこう言った。

「歴史の大まかな流れは決まっている。だが個人の行動の選択次第でその枝葉はいくらでも変えられる。未来と連携して少しでもベストに近付ける事を努力している、運命は有るけど、運命が絶対では無いんだ、ヴィルケ中佐」

「運命は未来ではないと?」

「そうだ。ここでの君はそれを自覚したからこそ、戦車兵の資格を取っている」

「だからこそ、私にそれを示すためにヘルマ曹長を呼び寄せたのですか?」

「この世界では、既に中尉だ。15歳ほどになったと思う。今や彼女のような若手は希少でな」

「どういうことです?」

「私が見せた映像には続きがあってな。ウィッチの受け皿となる組織が新たにできたんだ」

ヘルマ・レンナルツは12歳で初陣、13歳でエースと、この時期にしては貴重な若手ウィッチである。そのため、中尉となっても、立場は先輩らの使いっ走りのままである。これはMATに1945年当時の14歳から16歳までの層が大量に移籍した弊害で、軍ウィッチも日本連邦の14歳以前の層の取り扱いが一番の難儀だった。当時、12歳から15歳までの若手ウィッチの軍籍を無くす方向だったが、扶桑側の猛抗議で『事実に則って、軍属にする』という極めて政治的な決定がなされた。クーデターが起こった当時、軍人にできる年齢がどんなに譲歩しても『15歳』と、ウィッチに取っては活動期間が限定されるような議論がなされていた。日本連邦は結成後、元クーデター軍のウィッチを原則として厳罰に処したが、年齢的に社会復帰は無理と言わざるを得ない者も多かったため、多くは戦争勃発と日本連邦結成の恩赦で釈放されていた。人数があまりに減ったための妥協策だった。また、当時は中堅がごっそり抜けたおかげで、クーデター軍に属していようと、実戦経験者は至宝であったため、勲章は剥奪されても、ほぼ往時の地位に戻り、結局は前線勤務に戻った者が続出した。その代わりに『使い捨て』同然の扱いではあったが、彼女たちは確かに扶桑軍を支え、撃墜王の名誉だけは取り戻す事に成功する。これは扶桑の平等性の宣伝に使われるエピソードとなった。それほど、ウィッチの不足は深刻であり、リベリオンほどでないにしても、扶桑も相当なモノである証明だった。64Fの編成が許されたのも、日本側のヒステリックな誹りへの対応も含まれている。まずは防空思想を軽視していないこと、独の第44戦闘団のような精鋭部隊を有している事を示すため。最精鋭に最新鋭機材を手渡している事を示すこと。扶桑は最新機材を新兵の育成に使う風習があったが、マスコミに『343空しか本土で戦ってなかったし、原爆投下を防げなかったし、東京大空襲!』となじられたため、64Fの存在が必要とされた。要はマスメディア対策だ。武子は本来の持論的に、前線の『最精鋭部隊』は受け入れがたい本心があったが、転生しているため、そこは割り切った。

「それに、今はマスメディアを味方につけんと、参謀の首が飛ぶ時代だ。最精鋭部隊の一つや二つアピールし、文化財保護しないと、責任取らされるから、厄介だ」

「?」

「ノイマン大佐を知っているな」

「ハッ。大佐がどうかしたのです?」

「うむ。ノイマンは前職を更迭され、少佐へ降格させる案まで出た」

「ノイマンの奴、デロス島の遺跡に怪異が巣を作ったという理由で、遺跡を犠牲にして倒す案を立ててしまったのが運の尽き。弁解も虚しく、半年間の自宅謹慎と給金の半額カットだ。勲章剥奪は避けられたがな」

エディタ・ノイマンはこの事で未来世界のギリシャに猛抗議されてしまい、必死の弁解も虚しく、未来世界のギリシャの強い圧力で職を更迭され、懲罰として、大尉までの降格まで検討された。ノイマンは更に国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)からの抗議声明でも名指しされてしまった。これにノイマンはひたすら困惑しており、マルセイユに憔悴した姿で相談しに来るほど、精神的に疲弊していた。見かねた地球連邦が『あまりやり過ぎても現場が萎縮してしまう、精神的に本人だけキツい思いをしてもらうのがベターだろう』と助言した事で、ノイマンは尉官への降格は免れた。しかしこの騒動が原因で、ガランドの後継レースからは脱落してしまった。そのため、結局は同位体がドイツ空軍総監になっていたラルがガランドの電撃的な指名で後継者となったのだ。ガランドが退役できなかったのは、ラルの悪童の評判で、『トチ狂ったのか?』と同期や先輩後輩に問い詰められたからでもある。ハルトマンは少佐になっていたので資格はあったが、『えー、やだよー総監なんてやるくらいなら退役するー!』と嫌がった事、『F-104の扱いを誰が教えんのさ』と述べ、ラルを推薦した。つまり、ラルの就任は消去法でなったと言える。因みに、バルクホルンは候補にならなかった。理由は『シスコンであるから』らしい。(後に少将となるが)伯爵(ヴァルトルート・クルピンスキー)がガランドに、自分相手のバルクホルンの手紙を見せ、内容が『よくも私のクリスに手を出してくれたなぁぁ!伯爵!死ぬ覚悟をしろ!』と私情全開であるのをガランドが知り、若手時代の暴走癖もあり、候補から外したという。G化で落ち着いた面はあるが、基本的に感情的な面が多すぎるので、ハルトマンのほうが有望と見なされた。

「それで貴官もケチがついていたため、ハルトマンの推薦でラルになった。本当に消去法だったんだ」

「お察しします……」

消去法でラルが選ばれたと聞き、ため息のミーナB。

「ミーナおば様、ガランド閣下の苦労をお分かりになって。ラル閣下を推薦した事を、『世紀の血迷い』なんて言われてるんですよ」

「お、おば!?」

「そりゃそうだ。トリエラから見れば、君はおばあさんと同世代なのだから当然だ」

「私なんぞ、20代でおばあちゃんとか言われるからな。私の個人秘書は義理の娘、副官は義理の孫だ」

「閣下?」

「まあ、理由は色々とあってな。孤児院から子供を引き取ったら、後で分かった事だが、その子は次元漂流者で、元の世界では大人で、子供と旦那がいたんだ…」

自嘲気味のガランド。子供を育てたら、次元漂流者で、元の世界で子供と旦那がいたという複雑な事情を抱えていたというオチで、今回においても同様だった。仕方がないので、ナガジマ家も取り仕切る事になった。この時点では元ナンバーズ更生組も引き取っており、ガランドはG機関の公式化と大将の給金が家計の助けになっている。

「閣下はまだ25だぞ?それがおばあちゃんだ。くるぞー、これ」

「大佐、その足は」

「義足だ。片足吹き飛んだからな」

ルーデルは次元震パニックまでに片足を欠損し、義足になっている。これは概ね前史と同じ流れである。金属製の義足だが、神経接続で以前と変わらぬ動きが可能なため、ルーデルは未来世界のパラリンピック代表候補生(今回)になってもいる。

「まー、吹き飛んだと言っても、別世界のいい義足が手に入るからな。生活に不自由はしとらんさ」

「こいつ、別世界のテクノロジー応用の生体再生を断った物好きだぞ、中佐」

「戦時中に悠長な事はやれん。私は飛んで、敵を落として、爆弾をぶち込む。それだけだ」

「リユースPデバイスとかに手を出してないだけ自重してると思っていいかね?大佐」

「あれはジオンの技術で、失伝してたのを、ドラえもんが福祉目的で復活させたんでしょ?高いし…」

「ジオンは可笑しいからな。あれで超強いザクを作って、ガンダムを一機倒したというが眉唾物だ」

「あのサンダーボルト宙域の都市伝説ですか」

「ああ。あのデバイスを軍事に使ったかどうかは共和国が否定してる都合、調べられんしな。それに、RPDはBDIやIFSよりジャミングに強いってんで一部の移民星系だと重宝がられてるそうだぞ?」

「義足か義手装着必須なのを改良できれば、そりゃいいでしょうね」

「モビルトレースシステムの応用でどうにかなったそうだ」

「基本的に神経電位拾うシステムですしね」

――リユースPデバイスはジオンが人的資源を回すため、傷痍軍人の戦線復帰を容易にするために大戦末期の頃に制作したとされる技術で、それを組み込んだ高機動型ザクはフルアーマーガンダムすら凌ぐ戦闘能力を見せたとされるが、当時の技術で人体の動きを完全にトレースできる機体は無かったため、一種の都市伝説とされる。だが、デバイスの技術はいつしか組織の手に渡り、仮面ライダーらが資料を奪い、それをもとにドラえもんが復元、更に改良を施したのが地球連邦型デバイスである。(つまり、オリジナルと違って、義手や義足の存在を必要としない)福祉目的がその使用目的だ。その後、ドラえもんによって、払い下げザクF型ベースの改造機(パイロットはスネ夫)で模擬格闘戦をしたところ、ジェガンR型と拮抗する成績を残し、更なる改良と理論研究が進んだ結果、VFの技術応用もあり、ユニコーンガンダム系列の『インテンション・オートマチック・システム』と混じり合い、MSの操縦が簡便性を増し、地球連邦軍はジオン残党との戦力差を決定的にするのだった――





――戦争そのものは小康状態にあるが、出現したB達はシンフォギア装者、ウィッチを問わず、戦闘能力で言えば、A世界の同一人物に及ばない者が多数派(黒江達のように、B世界ではエクスウィッチであるものもいる)であるので、取り扱いは大変であった。今回、Bを同行させないため、戦闘能力の差を見せたり、存在の格差を見せるなど、アレヤコレヤの手を使った黒江A達。それは調も同様で、平行世界の自分自身と風鳴翼は厄介な存在である。そのため、戦闘能力の差を見せて、精神的に叩きのめす事で置いてきたのだが、色々と異なる事情を抱えているので、Bに情報は殆ど開示できない。そのため、実質的にのけ者扱いな事に、Bから不満のメールが届いている。それにため息の調A。

――艦内のとある場所――

「邦佳さん、見てくださいよ。これ」

「うーん。連れて行っても足手まといだしねぇ。あたしでも勝てるレベルだしね、向こうの調」

調はB世界ではあくまで翼や響の支援を担当していたため、単独では戦力に数えられない。それは自分自身で自覚している。邦佳はレイブンズよりは戦闘能力は落ちるが、それでも並のシンフォギア装者であれば、一撃で倒せるほどのレベルの強者であるので、謙遜している。

「先輩が成り代わってた時期の映像でも見せれば?腰抜かすよ〜」

「ドラえもんから一応もらってはいるんですけど、これじゃ泡吹きますよ」

「なにせ、シンフォギアが普段着だったしね、先輩」

「学園祭の映像、見せてもらったんですけど、私の姿で好き勝手してません?師匠」

「なにせ、クリスちゃんが歌って、逆転したかーって盛り上がってるところに、先輩がメドレーで歌って更に逆転だもんねー。しかもシンフォギア姿で」

黒江が響達の味方になる前、リディアン音楽院の学園祭ののど自慢大会で、黒江は『only my railgun』などを歌って得点を稼ぎ、クリスが恥ずかしがりつつ、『教室モノクローム』を歌って逆転すると、黒江はサウンドブースターを稼働させられるほどのチバソング値を誇る本領を発揮。トドメのダメ押しに、FIRE BOMBERのロックナンバーをメドレーで歌い、最後まで食らいついてきた雪音クリスを下している。最後に歌った『HOLY LONELY LIGHT』では、バサラやミレーヌと同じように、可視化された歌エネルギーの放出と歌エネルギーのオーラを見せつけている。その放出された歌エネルギーはもしも直撃していれば、響や翼、クリスのシンフォギアを強制起動させる事も容易であったほどのチバソング値であった。その際に、黒江のシュルシャガナはあまりに高密度の歌エネルギーでエクスドライブ形態に自動的になっており、三名にその戦力差を悟らせた。つまり、自然にシンフォギアの聖遺物本来のポテンシャルを発揮させられるからであるが、この選曲が潜り込んでいた切歌の思い込みを強固にしてしまい、それが黒江の災難を決定づけたとも言える。切歌はこの時の事を正気に戻った後で激しく後悔しており、それが現在の時間軸での、惑星ゾラでの修行に繋がった。切歌はデザリアム戦役を終えた後、惑星ゾラに現在は長期滞在中で、パトロール隊の一員としてバイトをしつつ、修行を続けている。切歌は黒江の成り代わり時代の負い目から、魔法少女事変が終わり、錬金術師達も天秤座の童虎に倒された後は黒江のツテで惑星ゾラに赴いた。現在は調と時たま連絡を取り合っている。

「切ちゃんにメール送ったんですけど、切ちゃん、ゼントラーディの取り押さえに苦労してるみたいです」

「ゼントラーディはパワーあるから、シンフォギアを巨人化状態で着ても難しいよ〜?」

「シンフォギアで強化して、やっとトントンだそうですよ」

「戦闘用に造られた種族だから、地球人より強めなんだよね。ゼントラーディ。ゾラは遠いけど、まぁいい環境の星だよ」

「まー、良かったじゃん。先輩が成り代わってたおかげで、お前は自分を見つめ直せたし、切歌はお前への依存を治せた。お前らが両依存じゃ、この先に生きていくのに支障をきたすからね。でも。まさか、あそこに行きたいっていうなんて、思ってもみなかったよ」

「切ちゃんも相当に考えたと思います。私とまた手を繋ぐために、私から離れるのは悩んだと思いますけど、これが切ちゃんなりの禊なんでしょうね」

「そうだなぁ。先輩が成り代わってたとは言え、お前の姿そのものに刃向けたわけだしな。後で考えたら、相手を殺しかねない行為だし、先輩がイガリマを無効化できる黄金聖闘士で無かったらねぇ」

「それがすごくショックで、ゾラに行くって言い出したのは、その時のことが効いてると思います」

「だよねぇ。これから、響たちが追加で来たらどうする?」

「叩きのめすしかないでしょう。どうせ話を信じてくれないでしょうし」

「お前も鍛えておいたほうがいいよ〜。そうなったら、響のステゴロをぶち破るだけの力がいるし」

「師匠はステゴロでもエクスカリバーでもボコせましたからね」

「響に響で対抗するとか?」

「なんですか、ドラえもんにドラえもんで対抗するみたいな」

「だってさ、ガンニグールの力に対抗するにゃ、約束された勝利の剣か、神剣エアくらいの力が必要だし、ゲイ・ボルグでも死なないし」

響は一時、ガンニグールと一体化していた名残で、シンフォギア世界特有の効果であるが、ガンニグールの槍とロンギヌスの槍が合わさった哲学兵装と昇華しており、シンフォギア世界であれば、神を殺せる。しかし、全く関連がない別世界の存在にはその神通力は通じない。邪神エリスにガンニグールが通じずじまいであったのがその証明だ。シンフォギア世界での神通力はロンギヌスとしての神通力であり、ガンニグール(グングニル)本来のものではなく、英語圏では『固有名詞がかなり変化したために本質が書き換えられ、本来の絶対性が喪われた』。このため、別世界の神である邪神エリスには通じず、エリスは響のガンニグールを『グングニルの欠片の力如きが』と嘲笑していた。シンフォギア世界の2000年分の『呪い』でガンニグールが強化されても、別世界の神には届かなかった。黒江はそれを『ロンギヌスの効果でグーングニルが薄められ 「神威に抗う」程度の能力に下がったからだ』と推測している。そのため、智子やGカイザーの到着が遅れていれば、響はエリスに殺されていた可能性が大きい。そのため、あくまでA世界でのことだが、響は終始、黒江に圧倒され通しだったため、『目指すべき場所』をはっきりと認識している。黒江の能力をそっくりそのまま受け継いでいる調も、『アクセルフォーム』(数十秒、人間の視認不可能な速さに加速する)の加速能力、クロックアップ能力を持ってしまっている。言わば、黒江の写し身となってしまったが故のスペックの突出は仕方がないと言え、聖詠を唱えなくともシンフォギア展開可能と、一時期の響以上のハイスペックとなっている。(実際、能力のコピー元の黒江は成り代わりの後期には、仮面ライダーの要領で『変身!!』と叫ぶことでシンフォギアを展開していた)

「いざとなったら、アクセルフォームの加速とクロックアップで対抗しますけど、あの人はタフなんだよなぁ。エクスカリバーのエネルギーを受けて昏睡には陥ったけど、五体満足だったって言うし」

「絶唱のエネルギーを吸収して放出できるから、約束された勝利の剣のエネルギーもできると思ったんだろうけど、死にかねないなぁ。エクスカリバーのエネルギーは聖なるモノだから、シンフォギアが分解しかねないし」

「師匠は『功夫が足りない時期なら顎叩いて脳揺らしちまえ、しばらく立てなくなるから』とか言ってますけど、私のギアを見る限り、その線は望み薄です」

「アクセルクリムゾンスマッシュか、ハイパーキックでぶっ飛ばしたら?あるいは龍王破山剣・天魔降伏斬するとか」

黒田の提案に頷く調A。何気に『ハイパークロックアップ』しろと言っている分、過激である。

「まー、ノーマルの響だと、音速超えれば反応できないし、アクセルの速さで充分だよ。マリアが来たら『龍王破山剣・逆鱗断』で決めちゃえば?」

「オーバーな気もしますけど、アクセルの速さで大抵はケリがつきますしね」

何気に凄い会話であるが、調もそれを当然のように受け入れているあたり、かなりレイブンズに染まっている。そういう風に教育するのが罪なのか、自然に染まって行ったかは分からないが、ともかく、調Aの価値観は『強さが自信と成れば、その全てが力となる』と言う、どこぞの仮面ライダーのようなものとなっていた。言うことがどことなく好戦的となっているのも、その価値観の発露だろう。また、Bとは言動のみならず、行動指針も違うのはよくあるが、黒江や、圭子と桂子に次いでの例と言えるだろう。ただし、黒江や圭子もそうだが、『力には力、対話には対話』というポリシーがある。23世紀では対話が成り立たない敵が多い故、後者が目立たないために知られていない。要はドラえもんに曰く、『歩くハムラビ法典』の状態なのだ。実際に黒江は、今回の扶桑海事変では、赤松と若松のバックホーンを使って、江藤を懐柔している。話を聞いてもらうにも、当時15歳前後の新米少尉がベテランの中佐とまともに話せるはずが無いので、最古参の二人に取り持ってもらったのである。江藤が黒江たちを使うようになったのは、これが今回における直接の理由である。

「できれば対話したいですけど、うまくいかないんだよねぇ。100%自信あります」

「まー、事情が違うの理解してもらうことから始めないといけないから、その時点でハードモードだよ。先輩達も、扶桑海の時、坂本共々、当時のレベルを超越した模擬空戦やらかしたから、江藤隊長から査問されたし」

「その事ですか?」

「うん。後でまっつぁんに詳しく聞いたんだけど、先輩達は少尉で実務経験も初めてのはずで、立場的に隊長より圧倒的に不利だから、まっつぁんと若さんを緊急で呼んで、間を取り持ってもらったんだって」

「江藤さんのほうがガチコチになりますよ、それ」

「で、黒江先輩が電話で『あー、まっつぁん?私っす。若さんにも伝えといてください。緊急で用事が…』と言った瞬間、隊長の顔から血の気が引いたとか」

「それ、若さんのほうを恐れたんじゃ」

「性格的に、まっつぁんはアレだから、厳格な若さんのほうを恐れたかな?若さん、陸士出でないけど、士官に登り詰めた豪傑だけど、後輩の育成には厳しくて、隊長も新米の時にシゴカれたらしいし」

若松は古い世代のウィッチであり、ウィッチの入営階級が軍曹でない時代の生き証人で、赤松とは軍が違うとは言え、同期にあたる。赤松とは20年来の親友であり、今回は聖闘士+Gのよしみで黒江と元から面識があり、自分の妹に似ているという理由もあって、黒江を可愛がっていた。ただし、赤松を母とするなら、若松は父性を担った。江藤は自分の新兵時代、当時の配属された先の古参下士官だった若松にシゴカれた過去があったので、若松の参上には怯えすら見せた。若松は黒江の事を『童』と呼んでおり、堅苦しい印象を与えるモノとなっている。そのため、黒江も気さくな赤松には懐いているが、若松とは堅苦しい関係から抜け出せていない。ただし、若松も黒江との付き合いを続ける内に、性格が次第に軟化しており、当時は嫌がった『姐さん』という呼び方を許していた。そして、それから時を経た1947年時点では、末端の隊員であるが、黒江の弟子にあたる調も『若さん』、あるいは『姐さん』と呼ぶほどになった。赤松に対抗したのか、以前より軟化した態度を取っている若松。黒江とその弟子筋の者たちには優しい態度を見せる事も当たり前になり、黒江達の501着任時にスコアの問題が持ち上がった時などは、なんと赤松を自分から連れ出し、復帰間もない江藤の自宅兼店舗に怒鳴り込んでいる。そのため、赤松も501在任当時に『若はボウズ、お前と遊びたいんじゃよ』とからかっていた。また、妹が年月と共に長じ、周囲との関係をアドバイスしてくれる事もあり、若松も次第に後輩への態度が軟化し、1947年では『ツンデレキャラ』で通っている。また、蟹座の黄金聖闘士となった事で、黒江との関係を進める事に成功し、黒江の父代わりを務める事を生きがいとしている。そのため、黒江は知らずの内に、自分が転生してまで求めていた『理想の母性と父性』の埋め合わせを、自然と二人の先輩の手でされている事になる。

「若の姐さん、黒江先輩の父親代わりになれること実は小躍りするくらい嬉しがってるんだ。だから、その弟子のお前は孫扱いかも」

「孫かぁ……。うーん」

「まっ、当人が嬉しがってるんだし、大目に見てあげて。姐さん、後輩に頼られるのってあんまりなかったしね」

こうして、調と邦佳は若松の人間性についての会話を終え、二人で海岸の様子を見に行った。行ってみると、黒江達の超パワーに圧倒され、Bたちが引いている光景が広がっており、二人は苦笑するのだった。



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