短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――さて、欧州で何かと忙しい黒田と調。この二人は手空きである事により、万が一に備えての準備を行っていたからだ。暇であるという事は、不測の事態に備えるための時間ということだ。その予測通り、フェイトとドラえもんから『次元震が欧州で観測された』と連絡が入り、黒田の運転でロマーニャはローマを散策していると……――


「ん?あれは……マリアじゃないか?B世界の」

「本当だ。狼狽えてる……。ギャラルホルンを使って転移したわけじゃないみたいですね、あの顔…」

「時間軸はいつ頃だと思う?」

「さあ。ギアを見ないことには」

マリア・カデンツァヴナ・イヴは特徴的なピンク色の髪をしているため、どんな世界でもわかりやすい。特徴的なヘアスタイルのためもあるだろう。A世界では篠ノ之箒と魂レベルの繋がりが深い彼女だが、B世界ではどのような経緯を辿っているのか。話せればいいが、パニックしている現状では難しいだろう。

「しばらく様子見てみよう。お前の姿を見られるとややこしいしね」

「はい」

二人は尾行した。マリアもシンフォギア装者であるため、並の尾行なら気づくが、二人は戸隠流の高度な忍術を心得ているため、マリアに気配を悟らせなかった。


「ふう。戸隠流を習っといてよかった」

「私は、師匠からそのまま引き継いだのが吉と出ました。もうちょい時代が先なら、オフィスビルをすいっ―と滑って通り抜けるんだけど…」

「ああ、よく磁雷矢さんがやってる」

「ええ。マリア、のび太くんから『メロンパン食べてそうな生徒会長』だとか『レフティモデルのギター持ってそう』とか言われてるんだよなぁ」

「お前だって、某アイドルアニメに似た声が…」

「それ言ったら邦佳さんだって」

しょうもない会話だが、元の世界にはない光景がマリアBの目の前に出現したのは、それから間もなくだった。

「あれは赤ズボン隊だ。怪異でも追ってるのかな?」

「あ、マリアが固まった」

ちょうど、スクランブルで怪異に対応しに赤ズボン隊が飛来したからだ。当時、ダイ・アナザー・デイで活躍できなかった事もあり、赤ズボン隊は存続の危機に立たされていた。元々は『ロマーニャ公国の優秀なウィッチを空・陸・海軍から関係なく選ばれた、ロマーニャ公直轄精鋭部隊』という触れ込みであったが、プロパガンダ色の強い部隊でもあった。現世代の『フェルナンディア・マルヴェッツィ』、『マルチナ・クレスピ』、『ルチアナ・マッツェイ』の三人はその実力を発揮できぬまま、作戦序盤にユダシステム開放状態のゴースト無人戦闘機と遭遇、一蹴された。まとめてハイマニューバーミサイルの餌食となって負傷、その後に容態が悪化して瀕死の重体となり、療養を余儀なくされた。その後、ドラえもんがタイムふろしきをかける前に、ロマーニャの軍病院に後送されてしまい、そこの治療が手間取ったため、次に目覚めた時には作戦が終わっていた。ワイヤーフラグメント弾頭のワイヤーで三人とも腕か足の一本がちぎられて欠損しており、昏睡状態の内に生体再生が行われ、そこからリハビリも行ったので、Rウィッチ化の処理を受けるまで時間がかかっている。ロマーニャ公はこの戦績に大きく落胆し、解散すら仄めかしたが、フェデリカ・N・ドッリオ少佐やルッキーニ、王女の弁護でそれは免れた。そのため、フェルは雪辱に燃えており、(レイブンズにライバル心を持っていた)要撃任務に積極的だった。三人はその後、ボラー連邦との戦争に参加、雪辱を果たし、レイブンズ後の世代の溜飲を下げる活躍を残すが、それは未来の事だ。

「どうします、マリア、参加しちゃいそうですよ?」

「それだとややこしいから、先手を打って参加しよう。私もゲッター線に選ばれてるから、ストライカーなくても飛べるようになったから」

「私はシュルシャガナがメンテ中なんで、箒さんから借りたアガートラーム使います」

「んじゃ行くよ!」

二人は赤ズボン隊の援護のため、それぞれ戦闘態勢に入った。この時、調はアガートラームを借用して使用し、邦佳は圭子と同じように、マフラーを媒介にゲッター線の力を使って飛行態勢に入る。

「あー!あんたはクニカ!ストライカー無しで飛べたのアンタ!?」

「いやあ、あたし。先輩達に長年仕えてるんで、覚えただけですよ。それと、コイツが箒ですよ」

……と嘯く。黒田もゲッター線に選ばれた存在であり、圭子と同じ領域の力を持つのは自明の理だが、フェルに説明するのも面倒なため、嘯くことにしたのだ。

「え!?」

フェルの驚きをよそに、黒田は斬艦刀を駆使し、怪異に斬りかかる。

「ちぇーすと!!」

斬艦刀を雷光の如く振るい、一機を細切れにして粉砕する。空中で足を自由に使えるため、細かい動きの補正が効くため、地上とほぼ変わりない動きを見せる。

「先輩達の力と技は努力で届くもんだよ、フェル。だからさ、諦めないで」

「あたし達にもできるの?」

「努力次第さ。先輩達も血と汗の結晶として得たようなものだし」

黒田はフェルがダイ・アナザー・デイでの早期脱落、作戦でのレイブンズと自分の獅子奮迅ぶりにコンプレックスを持っているであろうことを見越し、道を示す言動を取った。当主候補と目された風子との前史での別れ、お家騒動での人の闇を嫌というほど見てしまった事を期に、転生前より大人びた言動を取っている。Gウィッチの座に至るには、レイブンズの三人もそうだが、どん底を見た上で、人の心の光を信じる事が少なくとも必要なのだ。それは調も同様である。

「マリア、箒さん。アガートラーム、借りるよっ!」

調が纏った場合のアガートラームの意匠はマリアや箒が纏った際のそれよりシュルシャガナに近い色合となるが、白を基調としたカラーリングである事は代わりはない。調が黒江の戦闘能力を引き継いでいる証としては、右の篭手に『仮面ライダー555のファイズアクセル』を連想させる腕時計の形状の意匠のギミックがあり、それを起動させる事で、10秒ほど『人間が視認不可能な速さに物理的に加速させる』。本来はクロックアップ能力の補助という形で黒江の記憶で追加されているギミックだが、調は『体力温存で手っ取り早く加速する』手段として積極的に使用している。空中を飛行するため、意図的にエクスドライブ形態になった上でギミックを起動させる。きちんと元になったファイズアクセルの電子音声も再現している芸の細かさである。これにエクスドライブのスペックも加わり、怪異を一瞬で複数ポイントし、ロックオン。クリムゾンスマッシュを決めた。その能力を編み出した当人である、黒江が使用する機会はシュルシャガナ使用時の二回ほどであった。一回はローリングクラッシュを食らってもなお、自分に食い下がる響に痺れを切らして。もう一回は暴走した切歌へ放っている。いずれにしろ、平行世界にいる平成仮面ライダーの能力を模す辺り、黒江は仮面ライダーという存在の熱烈なファンであるのが伺える。

「地上のマリアはっと……。あ、目が点になってる。アガートラーム使ってるから、私がマリアの知る私自身じゃないことは、クリムゾンスマッシュも併せて分かるはずだけど…」

調は、地上でアクセルクリムゾンスマッシュを放つ自分を目の当たりにし、茫然自失に陥っているマリアBの様子にため息であった。

「時間軸がギャラルホルンを知ってる時間軸なら、その線から説明はつくけど、それ以前のガンニグールを纏ってる時間軸だと、ややこしいから嫌だなぁ。カンが当たってるのを祈ろう」

心の中で祈りつつ、アガートラームのギミックや武装を駆使し、黒江譲りの剣術を見せる。今の戦闘能力の基になった黒江がバリバリの接近戦スキーであるため、調も古代ベルカ帰りである経験と合わさり、相応の接近戦能力を得た。双方で戦闘スタイルに違いはあり、アガートラームを用いた場合では、調は高速移動を主体にするスタイル、黒江は待機アクションの無い大剣片手持ちのスタイルで、速度重視である。そのため、調の使用時は本来のギアであるシュルシャガナ使用時のスタイルを僅かながら反映している。

「はぁ!!」

怪異はシンフォギア装者やGウィッチにとっては御し易い敵と扱われて久しい。怪異は一定の期間ごとに一定のパターンでコアの構造を変化、外郭の強化をするが、Gウィッチ達はその構造を全て知り尽くしている上、本来は人が得られないはずの強力な力をぶつけるため、容易に撃破される存在と成り下がった。また、21世紀以後の水準の兵器をぶつければ、それに対応するための進化を行うはずだが、ゲッター線が強まった影響でその兆候も見られない。そのため、武器が相対的に強力となった後は、怪異は以前ほどの脅威と考えられなくなり、それもウィッチ閥の各国での衰退の理由であった。

「脆い。ゲッター線の影響で怪異の生存能力が下がったせいだと思うけど、それでも43年よりは硬いはずなんだよね。スコアに数えられるかな、これ」

調はマリアと同じように、アガートラームの剣を蛇腹式に展開し、鞭のように奮って怪異を四機落とす。アガートラームの戦闘スタイルはA世界ではあまり見ない内に、黒江のもとに馳せ参じたため、この使い方はのび太の世界でのアニメで覚えた。そのため、マリアのそれよりかなり荒い。シグナムのレヴァンティンも参考になっているので、マリアとは使い方が異なる。怪異の外郭を蛇腹式に展開する刃で抉り、コアが露出した瞬間に叩き斬るというものなので、元来の『無限軌道で全てを切り開く』調のスタイルとは趣を異にする。また、小型怪異は剣の刃に絡めて投げ飛ばし、纏めて叩き潰すという戦闘スタイルなので、地上のマリアBは目が飛び出る勢いで固まっている。調は苦笑交じりに、天に右腕を掲げ、剣を空中元素固定で形成、決め技に入る。アガートラームの剣よりも切れ味抜群の剣を。

「龍王破山剣!!」

龍王破山剣である。彼女のここ数年の必殺技であり、シンフォギアを纏っていても使用する。その切れ味はアガートラームの剣を上回るので、決め技用と位置づけている。これはのび太がよくプレイするゲームの中のスーパーロボットの決め技でもあり、調はそれを実体化して使用しているわけだ。突き刺し、そこから必殺の一撃を見舞う。

『龍王破山剣!逆鱗だぁ――んっ!!』

斬られた怪異は炎に包まれ、消滅する。これは調Aがのび太の教育の末にたどり着いた答えである。これは強烈なインパクトで、地上にいるマリアBを当分の間固まらせるのに充分な威力を見せた。アガートラームを解除し、黒田と調が赤ズボン隊と別れ、マリアをジープに乗せ、移動する段階でようやく正気に戻ったマリアはしどろもどろになり、まともに話せない。

「ここは誰?あなたは何時?今は何処?」

これである。見かねた調が頬を往復でぶっ叩く事で、ようやく正気を取り戻した。

「あいたた!?……し、調!?貴方、その格好は!?い、いえ、それ以前に……」

「落ち着いて。今、順を追って説明するから。マリア、アガートラームはある?」

「あ、あるけど……」

「ギャラルホルンは知ってる?」

「え、ええ」

一個づつ確かめてゆく調。自分はマリアの知る自分自身とは平行世界での同位体の関係であり、事実上の別人であると説明する。そうでなければ、アガートラームを纏えた理由が説明できない。

「取り合えず、姿と名前が同じでも別人と認識してくれるとありがたい、かな?」

「なんで最後疑問形なの?」

「解ってる様で良くわかんないから勘弁して……。上への報告書が大変だから」

「報告書?」

「私の服を見て。軍服でしょ?」

「ぐ、軍服!?」

「あー、この子。士官候補生の曹長なんだ。あ、自己紹介するね。あたしは黒田邦佳。大尉で、この子の保護者って奴」

調は地球連邦軍の最新制式の女性用軍服姿であった。階級章が光っており、どこかの軍人である事が容易に分かる。マリアは、調の軍服に、既存のどの大国の軍服とも、その共通点が少ない事から、国連軍かと尋ねる。当然である。だが、良く見てみると、『U.N.SPACY』という聞いたこともない単語が見受けられた。それを直訳すれば、地球統合宇宙軍になる。これは地球連邦宇宙軍の表記が一年戦争から長らく用いられた『EFSF』が軍の体制の再構築で変更され、『UN. SPACY』となった事も関係している。もっとも、地球連邦軍は公式には『EFF』の略表記を用いているが、知名度も低いので、個別の軍を表記する場合は、国連軍時代の名残である『UN. 〜』を用いる。

「地球統合軍……?」

「正確には地球連邦軍なんだけどね。私たちは宇宙軍の所属なんだ」

「宇宙軍?シャトルか何かでも運転してるの?」

「いや、宇宙艦隊だよ」

「宇宙艦隊!?」

「あ、あれあれ」

「!?」

どこからどう見ても、全長500m近い宇宙戦艦(ラー・カイラム)が飛行しているので、マリアはまたまたど肝を抜かれた。元々、ゲートを潜って持ち込まれているので、元々の搭載機関の関係で自力での転移能力はない。元々が内惑星圏内用艦艇であるためで、波動エンジン搭載への改良が模索されているのも、ラー・カイラム級がちょうど外宇宙航行艦が主流になるか否かの際の設計であり、設計に余裕があるからだ。64Fに供与された艦艇では最大級の規模である。

「何アレ!?」

「どこからどうみても宇宙戦艦だよ」

「そ、それはそうだけど、空中を飛ぶ戦艦なんて、異端技術を使わないと……」

「科学が真っ当に発達しても、23世紀を迎えれば宇宙戦艦くらいできるって。パトロール中だね、あれは」

「私らの母艦は沿岸に停泊してる、あの空母だよ。小さいと言っても、300mは超えてるけど」

「ここは23世紀だというの?」

「うーん。違うんだ。この世界自体は1945年。第二次世界大戦が普通に行けば、終わってる年。その証拠に、日本の戦艦大和が停まってるでしょ?」

「!?」

沿岸部を通っているため、290mの巨体に改造された大和型の威容は遠目からでも容易に視認できる。大艦巨砲主義は宇宙時代では、ヱルトリウム、遠未来では天文学的大きさのゲッターエンペラーに達するので、サイズの上限はその時々の敵が理由である。ラー・カイラムも、元々はMS搭載には不都合が大きいマゼラン級戦艦を代替するためであったために量産の予定だったが、外宇宙用艦艇時代の到来で生産力の多くが『主力戦艦級』に切り替えられたため、あまり普及しない内に調達数が絞られたという経緯がある。そのため、竣工済みの全てのカイラム級に波動エンジンに機関を取り替え、武装も強化する近代化を行う計画が模索されている。

「あれが戦艦大和?時代的にあり得ない武器が見えるんだけど」

「しょうがないよ。別世界の人間が介入してるから、武器も対等にしないと戦争にならないよ。特に1945年の米軍は文字通りに世界最強だし」

「どういう事?」

「別世界の人間が介入して、その技術を以て、この世界のアメリカを掌握したんだ。だから、それを止めるために、介入者の別勢力がこの世界の日本とUKに加担したんだ」

「日本とU.KがどうしてU.Sと?U.Kは当時の連合国の中心じゃないの。どうして?」

マリアBは一応、相応の知識はあるらしい。U.Kはイギリス、U.Sはアメリカを指す。事情説明もしなければならないため、黒田が細かい説明に入る。

――調の言う通り、扶桑皇国とブリタニア連邦は世界第二位と第三位の大国であり、リベリオンの暴走を止めるために戦っているが、ブリタニアは接触当時には、既に昔年の力は失われつつあったため、21世紀英国と連合を組ませ、どうにか世界の秩序の維持が可能な範囲の経済力を持たせたが、もはや老大国と言われるほど衰退した英国はブリタニア連邦を支えられるほどの力も無く、日本連邦の援助を必要としていた。そのため、ブリタニアは思ったよりは経済面では恩恵はなかった。軍事面でも、英国海軍は衰退の一途を辿っていたため、ブリタニアの方が陣容的には豪華に見える有様である。(最も、ブリタニアもイギリスもだが、新造艦で不具合を起こす点も同じ。日本での空母大鳳と信濃も有名)お互いには、21世紀の原子力潜水艦がブリタニアにとっての、戦艦や重巡といった、砲艦外交に映える水上艦がイギリスにとってのメリットだったと言える。当時、衰退していたとは言え、ブリタニア連邦は複数の戦艦を有していた。その事は同じく傾いていた英国は海軍の砲艦外交に使えると、ブリタニアから戦艦をレンドリースし、その代わりに資金援助を行った。セント・ジョージとクイーン・エリザベスU級はこうした方法で資金が確保された。当時、ブリタニアの経済は破綻一歩手前であり、新造戦艦、それも大和型以上の規模の戦艦など、議会が許容するはずはなかった。しかし、既存戦艦は殆どが老朽化し、第二次ロンドン条約を見越した『キングジョージX世』級は前大和型戦艦であり、ライオンもちょっと改善した程度。軍部は大和型に匹敵するか、凌駕する戦艦を欲しがっていたが、維持費や乗組員の確保などの課題も多かったが、未来技術での大幅な省力化による戦艦に割く乗組員数の削減、コモンウェルスからの大規模資金援助がチャーチルを救った。その事と、カールスラントに生まれ変わった『アーサー王』の出現もチャーチルはうまく活用した。これはジャンヌとアストルフォにダメ出しされたドゴールと対照的であった。ド・ゴールはまだ血気盛んな壮年、チャーチルは老獪な老人。この差も英霊達の好感度にも作用した――

「1945年は1945年だけど、色々違う歴史を辿った世界だから、日本連合艦隊が絶頂期の練度と規模を保ってるし、U.K海軍も多くの戦艦を持ってる。さっきの怪物が主敵だったからね、本当は」

マリアに黒田が言う。見かけは黒田のほうが年下だが、立場的には上になるためか、黒田はマリアBへ対等に接している。黒田は飄々とした振る舞いでありながらフレンドリーであるので、芳佳と同じく『緩衝役』の役目を担っている。芳佳も黒田も、アクの強い面々と接してきた事で、自分がクッションになっている事を自覚しており、そのあたりで共通する属性を持つ。今回は芳佳が角谷杏としての人格にも覚醒しているために共通点が増え、意気投合したとのこと。

「あの化物はなんなの?」

「マリア、お前の言うノイズと似たようなものだよ。違うのは、もしかしたら惑星の知的生命体への免疫機能かも知れないってところさ」

「免疫機能!?」

「もっと別の世界にゃ、銀河の天文学的単位で宇宙怪獣って形でいた存在だよ。その世界は銀河中心部の巣をブラックホール爆弾でぶっ飛ばしたけどね」

未来世界での銀河中心殴り込み艦隊の事を示唆する黒田。マリアはひたすら唖然とすることしかできない。

「私達は別のお前に会ってる身でね。ここにいる調がその証明だよ」

頷く調。別の自分が広い世界には無限にいて、
自分はその可能性の一つを垣間見ている。スケールが大きすぎる話である。

「私は色々と出来事を経験したから、マリアの知ってる私とは違うんだ。年齢も見かけより上だし」

「えーと、見かけは15で、実年齢はいくつだっけ?」

「25になります」

「に、にじゅうごぉ!?」

調Aは古代ベルカでの10年の経験を加味し、自分が大人になった自覚がある。それが切歌Aのコンプレックスにもなったわけだが、マリアBにとっては信じがたい事の連続だった。

「中世と近現代が混じり有った様な世界の戦争を経験してきたんだ、大国が滅ぶ様な。だから、軍人に志願するのに抵抗感は無かったよ」

「……だからアガートラームを?」

「いや、それはまた別の要因でできるようになったんだよ。これが長くなるんだ。私がお世話になった人で、邦佳さんの上官の人が絡んでくるから」

「そうなんだよ。これはついたら説明するよ。お、アレはダブルゼッツーのウェイブライダー。訓練飛行だな。ジャンヌの奴、飛ばしてるなぁ」

黒田と調がジープから空を見上げると、訓練飛行中のダブルゼッツーの勇姿が見える。ジャンヌがダイ・アナザー・デイから愛機としているが、依代となったルナマリアの技能程度から、日本自衛隊からは射撃の腕をネタにされている。射撃寄りの特性の機に乗る割に、接近戦技能はルナマリア譲りの技巧者ぶりであるので、『プルトニウスに変えたらどうだ』と言われている。実際、後世でのイメージと違い、ジャンヌ自身は接近戦の技能は槍主体であったが、依代の関係で苦手だった技能が改善され、結果的にオールラウンダーになった。MS操縦技能もそうなっているため、パイロットとしてもエースパイロット級になったと言える。

「あの人、生前と違って、インファイターですよね?」

「依代になった子の関係じゃないかな?訓練されたパイロットだったしね」

「あの妙な機体のことが気になるの?」

「ああ、あれ、Zガンダムの派生機の一つでね」

「ん?Zガンダムって、昔のアニメのあれ!?」

「それが実在する世界の産物なんだ、あれ。Zの後継機の一つの改良機なんだよね…」

「調、貴方が滞在してる世界って……」

「うーん。ごった煮の世界なんだ。一言じゃ説明は無理。ガンダムもマクロスもマジンガーもゲッターも同時にある上、ヒーローまでいるし……」

未来世界は説明が一言では不可能だとはっきりいう調。ダブルゼッツーが通り過ぎたかと思えば、鉄也が量産第二期型グレートマジンガーで、クスィーガンダムのマルセイユをシごく様子も見える。マルセイユのファンネルをマジンガーブレードで斬り払う鉄也。意外に、マジンガーは敏捷性にも優れた機体であるのが分かる。巨体でありながら、素早い動作をする二機に目を奪われるマリアB。

『量産型のグレートマジンガーだからって聞いたのに、どこが簡略化されてるんだよぉ!』

『翼を簡略化してコスト下げた以外はオリジナルと同等の性能だ。そこがジムとは違うんだ、ジムとは』

鉄也はグレートマジンガーの性能を知り尽くしているため、量産型であろうとも100%の戦闘能力を発揮できるが、マルセイユはクスィーガンダムの性能に頼る面がまだあり、鉄也には一歩及ばないようだ。

『うおおおっ!?』

『そらそらそら!!』

鉄也の剣戟は凄まじく、運動性能で上を行くクスィーガンダムを以てしても、マルセイユでは技能不足であり、避けるので精一杯。マルセイユは超合金ニューZ+の剣が全天周位モニターに大写しになるたびにヒヤヒヤさせられる。その剣戟は空中で行われているため、結果的には両機のアピールになる。

『うお!?サンダーブレーク!?」

『おー、よく避けたな。不意打ちだったんだが』

サンダーブレークの電撃を辛うじて避けるマルセイユ。片手で剣を持ち、お馴染みのポーズからサンダーブレーク一閃。並のパイロットであれば模擬戦はこれで終わっている。だが、マルセイユは元々、天才的な格闘戦センスを持つため、サンダーブレークにすぐに反応出来たのだ。

『危なっ!?並のジムだったら、掠っても過負荷で電子回路焼ききれるぞ!』

『ゴッドサンダーやサンダーボルトブレーカーじゃないだけ手加減してると思え』

『おっそろしい』

Gカイザーやマジンエンペラーの雷攻撃になると、もはや、いかなるMSでも一瞬で消し炭になるため、サンダーブレークは手加減に入るらしい。二機の強力さが分かるが、模擬戦に使うにはオーバーであるのがわかる。サンダーブレークは見かけは派手だが、反応弾頭運用機であれば、レーダーが死ぬ以外に効果はない。極論だが、ザクTやUのC型であれば、サンダーブレークには耐えられる。それと、サンダーブレークはまだいいが、ゴッドサンダーやサンダーボルトブレーカーは大気圏内では『直接の電流よりも、大気のプラズマ化やそれに伴う膨張と爆風で街を吹き飛ばせる』ため、使用は控えられている。

「あれが……その証明だというの?」

「グレートマジンガー。マジンガーZの正統後継者だよ、マリア。あれでも、私達の知ってる空母機動部隊の破壊力以上の力を行使できるからね。だからスーパーロボットって言われるんだよ」

「スーパーロボット……」

「最も、調のいた世界に介入したのはそのマジンガーの上位機種で、まさに『魔神皇帝』だったけど」

「まー、グレートマジンガーは勇者であっても、皇帝じゃないですからね」

マジンガーは上位機種には皇帝の形容詞や神の名を与えられる。ゴッドマジンガーや、マジンカイザー系がその例だ。神格相手では『マジンガー』では不足になるという事実はZEROには許し難いだろうが、それが現実である。

『英雄って言われないだけマシさ』

「あ、鉄也さん、会話聞いてたんですか?」

『グレートマジンガーはそこんとこの性能もいいんでな。事を成して死んでいくのが英雄、勝ち目の無いと見える戦いに勝ち目を見いだし挑むのが勇者だ。俺は後者の戦いを多く経験したんでな。勇者になることが俺には求められたんでね』

鉄也が会話に加わり、グレートマジンガーを着陸させた。その勇姿は手足が黒く、頭部の形状が開き気味な以外は往時のグレートマジンガーそのもの。ブレードの威圧感もあって、まさしく『偉大な勇者』だった。オリジナルと比べると、頭部の鋭角的な部分が開き気味なのは、ドッキング時の難易度を下げるためである。

『同じ英雄でも、スーパーヒーローは超級英雄って運命すらも捩じ伏せた方々だから、そういう人達と並び称されるなら英雄って響きも悪くは無いかもしれんな』

鉄也は言った。彼もスーパーヒーローに羨望を感じているようなニュアンスで。鉄也は過去の事、平行世界での自分の取った悲劇的な行動もあって、ヒーロー達に純粋に憧れていると。その辺は彼も英雄以前に、一人の男である表れかもしれない。彼はその世界線が訪れないように、ジュンと結婚し、ハルトマンと繋がりを持ったかも知れない。



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