短編『ジェノサイド・ソウ・ヘブン』
(ドラえもん×多重クロス)



――野比家での修行が終わった後、調は一旦、シンフォギア世界へ帰還したのだが、黒江が好き勝手していた後では、どうにも学園に馴染めず、魔法少女事変が終わった後の春休みに、のび太の世界での西暦2000年の冬頃、今度は常駐警備員としての任務を正式に帯びて、野比家を再び訪れた。今回は別に、シンフォギアを展開する必要はなかったが、のび太を守るという使命感からか、展開状態でのび太を待っていた。――

「あれ?調ちゃん。帰ったんじゃ?」

「うん。だけど、師匠が好き勝手した後じゃ、学園にいても、それは師匠からの借り物のような気がしてね。だから、無理言ってここにまた来たんだ」

「今度は何ヶ月?」

「ううん。今回は常駐なの。Gウィッチの皆さんは太平洋戦争を控えてるから、ここには来れなさそうって言ってたから」

「なるほど。勝手知ったるところだから、好きにくつろいでよ」

「うん」

調はこの時になると、野比家の間取りなどを完全に把握していたので、のび太の部屋の窓でくつろいでいた。修行時の名残か、シンフォギア姿で通している。後に現れるBとの明確な違いとしては、背丈が150cm後半にまで伸びている、体つきが見かけとは裏腹にがっしりしたものに変化しているなどの違いがある。後で、野比家で思いっきりくつろいでいる様子をビデオで見せたら、Bに猛抗議されたという。この時からして、ドラえもんが押し入れに隠していたどら焼きを見つけて食べていたりするのだから。

「あ、そのどら焼き。ドラえもんが?」

「うん。ネズミに齧られてなかったし、置いとくとくさっちゃうから。屋根のネズミは前の時に狂音波発振式ネズミ・ゴキブリ・南京虫・家ダニ・白アリ・虫退治機で追っ払ったけど、帰って来てそうだし」

狂音波発振式ネズミ・ゴキブリ・南京虫・家ダニ・白アリ・虫退治機。ドラえもんの道具の一つで、肝心の狂音波のデータを紛失したが、ジャイアンを歌わせ、彼のストレス解消と害虫駆除を両立させるため、のび太が最近に考えだした使用法で、のび太は家の害虫駆除をしている。ドラえもんは押し入れにどら焼きを隠す癖があり、以前はペットそっくりまんじゅうを食べたら、顔がネズミそっくりになった事もある。それは調にも周知の事実であり、時々、調が押し入れのどら焼きを処理していた。狂音波発振式ネズミ・ゴキブリ・南京虫・家ダニ・白アリ・虫退治機の発する超音波はジャイアンの歌を増幅させたものであるので、シンフォギアを展開状態の調も気分が悪くなるほどで、『これは破壊兵器だよぉ〜!』と内心で悪態をつくほどの威力である。(逆に言えば、小学生当時のジャイアンの音痴さは兵器利用すら可能である表れである)効果は一回あたり数ヶ月で、秋頃にやったので、そろそろネズミが戻る頃でもある。ジャイアンの歌は23世紀のコンピュータを以てしても解析不能であり、対シンフォギア兵器にした場合、超強力なアンチLINKER的な威力を発揮、調や黒江、箒以外の適合者のギア(たとえ、響、翼、クリスであろうと)を有無を言わさず強制解除させるほどである。昏倒とセットで。これはジャイアンの声変わり前のだみ声に秘密があり、気になったドラえもんが黒江のツテで、サウンドエナジーの権威であるマクロス7船団のDr.千葉に相談して彼に調べて貰ったが、彼をして、『これ程の強烈な不快度数の歌は始めてだ』と言わしめた。彼が腰を抜かした時点で、23世紀のサウンドエナジー研究をしても謎が多いということになった。彼が導き出した結論は『声変わり前の剛田武君のだみ声が人間の不快指数を強烈に増幅させるのだ。彼は熱気バサラとは別の意味で歴史に名を刻むよ』との事。また、この頃、ジャイアンはツチノコ発見者として広人苑にその名を刻んでいたので、歌で有名になる以前に名を刻んでいる。

「ジャイアンの歌をマクロス7のDr.千葉に調べて貰ったんだけど、『彼は生まれつきの音痴では無い。その声質がメロディになると致命的になるのだ』って。声変わりすると改善されるから、子供時代特有のものらしいよ」

「シンフォギアまで解除出来るあの公害が……。良かった」

「君、サラッとジャイアン泣く事言ってるね」

調は修行時にジャイアンの歌で危うく昏倒しそうになった事があるため、ジャイアンの歌には強烈な嫌悪感を持っている。その事からジャイアンは不満がっている。調はそれ以来、あの手この手でジャイアンリサイタルを阻止しようとする癖がつき、ある時は『買い物に行ったジャイアンの母ちゃん』に通報するため、シュルシャガナのローラーの全速で、隣の区のスーパーまで行った事もある。

「だって、あれは歌じゃないよ。ただの怪音波だよ!?怪獣も退治できそうな」

「魔界のツノクジラが裸足で逃げ出すからなぁ。あいつの歌」

のび太とドラえもんのみが知っているが、ジャイアンの歌は魔界の並み居る怪物らすら裸足で逃げ出すほどの威力で、セイレーンの歌すら掻き消す。その事を教えると、調は更にげっそりした顔を見せた。

「本当?うぅ。今度もなんとしても阻止しないと…」

妙な事に燃える調。今回もシンフォギア姿を通すことをのび太に言い、そのまま野比家での生活を再開した。のび太の警護を担当するという実務上の都合もあった。ドラえもんはその事を知っており、シンフォギア世界に通告する役割を負っていた。





――シンフォギア世界――

「改めて、そちらに通告します。月詠調ちゃんは本日を以て、我が地球連邦軍での活動を開始しております」

「それは報告を受けたが、まさか君が実在する世界があるとは……」

「僕から見ても、貴方はゲッターロボのパイロットである流竜馬さんにとても良く似た声ですが」

黒江も思っていた事だが、風鳴弦十郎の声は声変わり後の流竜馬とほぼ瓜二つである。ゲッターロボはシンフォギア世界でも『アニメ』として存在しているので、ドラえもんはそれを踏まえて発言する。今回は本来の姿でシンフォギア世界の土を踏んだので、懐かしの大山の○代のどら声とその愛くるしさと、ドラえもんのフランクさはギャップを感じさせる。22世紀の科学者はなぜ猫型ロボットを漫画の通りに生み出したのかというのが、第二期日本連邦の科学者を悩ませている。しかしながら、エージェントとしての風格はバッチリなので、凄まじくギャップを醸し出している。(なお、ドラえもんは実のところ、黄色い当時は別次元の彼(水田わ○びボイス)とよく似ているが、若干トーンが高めの声を出していた。しかし『悲劇の素』で三日三晩泣き続けた反動で、今の大山の○代ボイスで落ち着いたという経緯がある)

「なるほど。君が異世界の存在である事はひと目見て分かるが、どうして君が生まれておきながら、戦闘ロボット全盛の世界になったのだ?」

「僕がのび太君の孫の孫のセワシくんのところに買われて10数年後の頃、小笠原諸島の南端にある南アタリア島にあるものが落下したのがきっかけです」

「南アタリア島?」

「こちらには存在しませんが、21世紀の前半の火山活動で出来た新しい島です。そこに宇宙人の星間戦争で撃墜された宇宙戦艦が落っこちて来たんです」

「宇宙戦艦?」

「ええ。その宇宙戦艦が後の地球人に『運命の矢』とも言われる衝撃を与えたのです。当然、当時の技術では解析も出来ないので、22世紀の前半に解析出来るようになってから、その研究が進んだんですが、そのオーバーテクノロジーを巡っての戦争が2120年代の後半に起こったんです」

「その技術はどのようなものなのだ?」

「当時、地球人独自の科学が一番に発達していましたが、それをして『500年は科学を進める』と言わしめるほどの価値でした。恒星間航行技術が含まれていたからです」

「その資料を拝見しましたが、純粋科学でここまでの技術は正直言って信じられません…」

ドラえもんから渡された資料を見たエルフナインが興奮気味に語る。錬金術で生み出された彼女をして、とんでもないと言わしめるほどのインパクトがあった。

「僕たちの世界では、遥かな昔、宇宙規模の超古代文明が栄えていたんです。おとめ座銀河団全体を支配していたその文明は『アケーリアス超文明』」

「アケーリアス超文明?」

「彼らは気が遠くなりそうなほどの昔、おとめ座銀河団のどこかの銀河で生まれ、やがてタキオン粒子を宇宙船のエネルギーにしだしてから急速に支配地域を拡大。絶頂の頃はおとめ座銀河団全体を支配していた。これは宇宙戦艦ヤマトの波動エンジンと同じものですが、それよりも遥かに進歩した強力なものです。惑星単位の波動砲すらあった」

「それほどの文明がなぜ滅びた?」

「内紛ですよ。文明が弛緩し始め、次第にアケーリアス内部の内紛が大きくなり、遂には銀河単位で波動砲をやたらめったに乱射しだした。その結果の自滅です。大マゼラン銀河と小マゼラン銀河は彼らの本星があった銀河の生き残りですよ」


「つまり遥かな昔に波動砲を銀玉鉄砲感覚で撃ちまくった末に、その銀河は吹き飛んだと」

「そうです。その後に天の川銀河に逃れた生き残りがそこで文明を築いたのが『プロトカルチャー』になります」

プロトカルチャーはアケーリアスの後継文明である。23世紀には判明した事だ。ただし、恒星間航行の段階でフォールド技術に発達したことでアケーリアスとは異なる独自性を持った。しかし、彼らは内紛の末にエビルシリーズを生み出した事で破滅し、その時に遺伝子操作で地球人を生み出していた。その地球人がイスカンダルから波動エンジンを得た事で、アケーリアスの真の後継の座を掴み取ったのは、なんとも言えないものがある。

「しかし、そのプロトカルチャーも50万年前に自分達が生み出した兵器の暴走で滅亡し、その後に恒星間航行技術を得た地球が後継の座についたのです。アケーリアスの真の後継者として。そこに至るまでには長い戦争があり、宇宙時代を迎えたら迎えたで、コロニーと地球の戦争が絶えませんが」

統合戦争、一年戦争、数々のネオジオン戦争……。それらが人類の業を証明している。更に星間戦争の数々。それらが一挙に起こった世界は波乱万丈も良いところだ。

「その過程で発達したのが各種の戦闘ロボットなのです。マジンガーZ、ゲッターロボ、コン・バトラーV、VF-1、そして。歴代のガンダム」

資料には23世紀で開示されている限りの情報がギッチリ詰まっていた。23世紀の闘争が生み出した戦闘兵器。宇宙戦艦ヤマトや歴代マクロスもそれに当たる。もはやシンフォギア世界の聖遺物どころの話ではない。

「更に別の次元では、オリンポスの神々が神々同士の戦争を繰り広げているのです。綾香さんはその内の最高位の闘士であり、エクスカリバーを宿しています」

「もはや我々の理解の範疇を超えているな。神々の闘士とは…?」

「それに叙任されると、人知を超えた力を身につけられます。更に綾香さんはオリンポス最高神であるゼウスのお気に入りですので」

「ゼウス!?あの一二神の長の!?」

「ええ。彼女はその娘のアテナに仕えていますがね。貴方方がお会いになった城戸沙織さんこそがアテナなのです」

アテナは数百年に一度、肉体を持って転生を繰り返す。20世紀後半においては『城戸沙織』と言う名の日本人として転生している。そのため、城戸沙織こそが現在におけるアテナなのだ。正確には城戸光政が息も絶え絶えなアイオロスからアテナを託され、孫娘として育成したのである。神であるため、肉体は13歳でありながら完璧なプロポーションを誇っており、後で黒江に『沙織さんは13歳だ』と教えられても、響達が信じなかった程だ。

「あの子がオリンポス一二神が一柱だとぉッ!?」

「ええ。神といっても全知全能ではありませんがね。彼女を守護するための闘士こそが聖闘士。綾香さんが見せた力こそはその一端ですよ」

ドラえもんの言うことは衝撃であった。ドラえもんはこうした裏方の仕事にも勤しむ一方、エージェントとして、暗殺や拉致などの非合法活動も行っている。そういうところは仮面ライダー達にとっての立花藤兵衛や谷源次郎のような立ち位置になりつつあるのかもしれない。ドラえもんは元々、のび太達四人の保護者代わりも勤めていたため、ある意味では当然の立ち位置であった。ドラえもんはこうした活動でのび太や調の手助けをしていた。










――その頃、ドラえもん世界では、のび助が気を利かせて、二人に『荒野の一ドル銀貨』、『夜の大捜査線』のセットでのリバイバル上映のチケットを渡してくれた(場所は新宿ののび助行きつけの名画座)事で、二人で映画と食事をしに行く事になった。これはのび助がクリスマスにかぶる時期に会社のプロジェクトに出席する事になり、その日は不在になるので、のび太に、というよりは調へのお詫びを兼ねていた。調は駅まで急ぐため、ギアのギミックである『非常Σ式・禁月輪』を使った。丸鋸を一輪バイクの要領で展開し、防寒対策をしてきたのび太を乗せて、駅までぶっ飛ばした。のび太の街は滅多に車も通らないので、これで15分ほどの時間を短縮した――

「えーと、プログラムは?」

「まず夜の大捜査線、最後が荒野の一ドル銀貨。途中で30分の休憩が入るよ」

「えーと、切符を買ってっと」

この時代はまだIC乗車券は登場していないので、調が切符を買った。(ス○カやパ○モが出てくるのは当分先)パ○ネットカードの出たての頃であるので、それを買っても良かったが、調のいる時代では既に消えているため、考えが及ばなかった。そのため、古風な切符での普通電車への乗車となった。調は新宿区までの間、のび太の隣に座ったあと、ウトウトしていつしか眠ってしまい、のび太にマフラーをかけてもらっていた。これ以後、調のギアのデザインには仮面ライダーのようなマフラーが加わるが、それはこの時のことが嬉しかったからである。意外に純情な面があるのがわかる。(正式なデザインのマイナーチェンジはこの日に風呂から上がって再展開した後でなされる)やがて、新宿に着き、名画座で映画を見る。映画の合間の休憩でトイレ休憩とポップコーンを買い、荒野の一ドル銀貨を見る。ジュリアーノ・ジェンマの鮮やかなガンプレイに二人は夢中になる。のび太にとってはこっちのほうがメインだったようだ。彼自身は不運な最期を遂げたが、銀幕での勇姿はこうして、後世の若者に影響を与えている。のび太が戦いの際にポンチョを着ていることが多いのは、多分にマカロニ・ウェスタンの影響である。また、この時期には調も体術を極めており、黒江が武器のヒントを得たスーパーロボットの同系統機から着想を得て、『ライトニングフォール』、『ライジングメテオ』などの技を得てもいる。これは響の体術がパンチ主体であるため、それとの差別化の意図もあった。実際にそれらは後の次元震パニックで戸隠流のスキル共々、大いに活用し、響Bを上回る破壊力でB側に畏れられる事になる。また、聖闘士でもあるためのスピードとパワーも加味されるので、この時にはフロンティア事変当時の翼やマリアを圧倒的に上回る総合力に、ギア着用状態でも飛躍している事になる。また、黒江由来の雷の力を調は主に破壊力とスピードの強化に用いるので、ある意味では忍者に近い特性を手に入れたと言える。緑と白線のマフラーを二本するようになったので、デザインが響とかぶる心配があったが、マフラーの巻き方が一号達と同じオーソドックスなタイプなので杞憂に終わったという。


――そのマイナーチェンジ版のギアは調の心象に反応して着用が可能となり、また、ライジングメテオやライトニングフォールの映像を響に送ったところ、ものすごく感心されたとか。後に次元震パニックで響Bに対して使用し、全員が揃ったB側のど肝を抜いたという。その際の様子は以下の通り――

――1948年――

「さあて、こっちの本領発揮と行きますッ!ハァァッ!!」

調のギアに二本のマフラーが出現し、ギアの脚部にブースターらしき意匠が出現し、ヒールから目的に最適なブーツ型に脚部が変形する。そこから回し蹴りで竜巻を発生させ、相手を拘束する。それよりも空高く舞い上がり、足に雷を纏わせる。

『ライトニングフォォォ――ルッ!!ぶち抜けぇぇッ!!』

この場合は響Bが認識出来ないほどの速さの足刀を食らわせ、地面に叩き落とす動きで放った。響Bは一瞬で地面に叩きつけられ、プラズマエネルギーによる大爆発に巻き込まれる。

「何よ、これ……」

「なんだよ、あいつ、一体何をやりやがった!?」

「向こうの調はどうなってるのデス!?」

「私だって、何がなんだかわからないってば!響さんが反応できない動きで蹴りを入れるなんて……」

B側はこの時、新たに来訪した者達も、先に現れた二人も絶句するほどのカルチャーショックを受けた。

「あー、あれか?多分、超音速で動けても、やっと反応できるかどうかだな。あいつ、極超音速で動いてたし」

見ていた黒江が解説する。調Aは人間の視覚を超えた次元のスピードで動いており、いくらシンフォギアを纏っていても、極超音速は反応できないと。通常の形態では、頑強さとパワーが飛躍したに過ぎず、根本的なスピードは青銅聖闘士に届くか否か。視覚が強化されると言っても限界があり、極超音速で動く調Aを捕捉出来ないのも当然であった。瞬間的に加速するからというところもあるが。

「つまりあいつはマッハ3以上で動いてたってことかよ!?」

「ああ、ギアのリミッターがイカれる寸前程度の力を出してる状態だよ。それ以上加速すると、ギアのリミッターが物理的に外れるぜ」

「どういうこと?」

「私達が本気を出せば、ギアのリミッターじゃ力を抑えられなくなるって事だ」

総数301655722種類のロックが施されているシステムだが、黒江、箒、調Aには何ら意味をなさない。気合を入れるだけでリミッターを強引に解除することも容易なのである。

「あんたらはいったいなんなんだよ!?」

「別のお前にも似たような事言われたぜ、クリス。オリンポス十二神を守護する存在なんだから、それくらいは朝飯前だ。それに、ここには蘇った過去の英霊もいるんだし、今更感あるけど」

「で、でもよ。なんでここまであからさまに違うんだよ!?つーか、あいつのギアって、器用貧乏感のある…」

「まー、色々あってな。お前らが『普通に行った場合の世界』の存在なら、あいつは運命が思いっきり変わった存在と言ったところだ。根本的に別人と思うほうが気が楽かもな。育て方の違った双子程度にしか似ちゃいないしな。取り合えず二〜三回死にかければ近いとこには行けるぜ?」

「クソぉ、90超えのババアのくせに…」

「それはお前らの時代までの加齢を換算した場合の年齢だ、馬鹿」

黒江はそう返す。模擬戦を見続けると、調Aはトドメと言わんばかりに極超音速で左回し蹴り→右後ろ回し蹴りで空中へ吹き飛ばし、高速移動で先回り蹴り上げでジャンプし、そこからブースターで加速した飛び蹴りを食らわした。

『レイジングストラァァイク!!』

響Bも流石にこれで昏倒した。極超音速の攻撃を食らっても抵抗を試みるのは恐らく、彼女が初めてだろう。これで、調Aが剣技のみならず、体術でもかなりの高水準の能力を誇ることが実証された。しかもスピードでは、翼やマリアがイグナイトモジュールを使った時よりも更に高速である。これに息を呑むB達。体術を用いるときはギアのデザインを変え、体術に適したデザインに変えている。ギアのデザインの変更には聖詠が必要なはずなので、それを介さずに出来るという事も衝撃だった。また、技の名前を大仰に叫ぶあたり、かなり性格が異なる事が容易に分かる。残心を決め、マフラーをなびかせて仁王立ちと言うのは、完全に響のお株を奪っている。のび太を守ろうとこっそり練習を重ねた成果と言えるが、調Bの表情は思わしくない。余りにも力の差が大きすぎるのだ。単独で戦うことを前提に鍛え上げられ、聖闘士にまでなったA。切歌と分断されれば、容易に戦力がダウンする自分。Bは『どうすればいいのか』と悩んでおり、それがAの師である黒江に相談するに至る。黒江はBに『お前はあいつじゃない。お前なりの強さを見つけろ』と、前史の経験を踏まえ、諭すように言った。これを見た赤松は『ボウズも師らしいことするようになったか』と大笑したという。



――話は戻って――


「さあて、帰りに食事でもしていこうか?」

「近くのファミレスじゃ……だ、だめかな…?」

「思ったよりお金が余ったし、ステーキくらいは頼めるかも。行こうか」

「うん!」

映画を見終えた二人は夜の新宿を歩く。あと15年ほど時代が先なら、SNSで確実に拡散されていたであろう光景だ。調はのび太にマフラーを巻いてもらった事ですっかりご機嫌だ。のび太のこの無垢な優しさこそ、調が惹かれた理由である。シンフォギアは体感温度の調整も出来るので本来ならマフラーは無用だが、のび太は気遣ってマフラーを巻いた。のび太が将来に静香のハートを射止められたのも、このごく自然な気遣いが出来る優しさだ。調はのび太の手を自然と握る。のび太も握り返してやる。のび太は誰にでも平等に優しい。それが調が自然に惹かれ、黒江達も大親友と認識する理由である。人の不幸を悲しむことができる少年『野比のび太』。彼は今、一人の異世界からの来訪者の少女の心に温かさを与えている。月詠調。元の世界では本当の家族の存在も分からずまま成長し、切歌やマリアに自然と依存していたが、不可抗力で引き離されたことでその傾向が収まり、戦士として生きるための力を得、心も成長した。だが、『温かい家族愛』に心の底では飢えている事にコンプレックスがあり、その点を埋めてくれた者達を強く慕うようになった。10年間の古代ベルカ生活が結果として、そのコンプレックスを表面化させたが、のび太の街での修行がそのコンプレックスを無くしてくれた。従って、彼女がのび太にゾッコンなのも自然な流れである。野比家への『常駐』を志願したのもそれが理由だ。のび太はそれを察しているが、敢えて問わない。その気遣いも嬉しく、調はこれ以後は野比家に居つくのだった。



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