短編『プリキュア、スーパーロボット大決戦7』
(ドラえもん×多重クロス)



――プリキュア、スーパーロボット、スーパーヒーロー達が入り交じる大決戦は新たな局面へと突入する。歴代スーパーヒーロー達はミラクルライトの効力が切れた代償で動けないプリキュア達を守護しつつ、怪人軍団と戦闘を開始する――



――のぞみと交わした約束を守り、先陣を切った仮面ライダー一号/本郷猛。この時期はまだ新一号のままだが、膨大な経験の為せる業か、並みいる敵を持ち前の格闘術で蹴散らしていく――

「ここは任せろ!」

一号の強さはキュアブラックやホワイトの目から見ても、『圧倒的』と分かるほどのもので、自分達の喧嘩殺法と違う、洗練された武術の使い手とすぐに分かるものであった。足刀が決まり、戦闘員、怪人を問わず蹴散らし、吹き飛ばす。二号と違い、蹴りと手刀、合気道を主体にしての戦術であるのだが、技の一号の異名は伊達ではなく、最低限の動きで蹴散らしていく。

「す、すごい……」

「よく見ておけよ、ブラック。あれが武術の達人ってやつだ」

「ドリーム、そういうキャラだっけ?」

「そういうこたぁ、後だよ、後」

黒江は苦笑いしつつ、自身も膨大な年月で鍛えた技で怪人と戦闘員を蹴散らす。姿は借りているものの、聖闘士であるため、パワーダウンは起きず、スーパープリキュア形態を維持している。のぞみは風見志郎のようなテクニックタイプであるため、茂のようなパワー寄りの特性がある黒江が成り代わっていると、戦法に違いが明確に表れる。

「とりゃ!」

回し蹴りを二連続で入れ、怪人の首を跳ね飛ばす。柔和な印象のシャイニングドリームと反する荒々しい戦法である。そして。

「レッドマスクさん。あんたの技、借りまっせ!!」

一応の断りを入れると、九字護身法の印を結び、オーラパワーを発動させる黒江。これは聖闘士の小宇宙と両立可能な力であるので、黒江は会得後は技の破壊力増強に使っている。

「え、陰陽師みたいな印を結んで……オーラを出したぁ!?どうなってるの、ルージュ、アクア!?」

「私達にもわからないわ……。いったい……」

アクアは一応はブラックに気を使うが、事のからくりを見抜いているため、お茶を濁すような言い方であった。そして。

「ゴッド・ハンド!!」

効果音を表すならば、『ズガァァァン』とも言うべき轟音と共に怪人『アルマジロング』の胸部装甲(旧二号のライダーキックを弾き返した強度がある)を拳で貫いた黒江。これぞ、光戦隊マスクマンのレッドマスクの個人技では最高レベルの破壊力を誇る『ゴッド・ハンド』であった。動力炉を貫かれたアルマジロングは断末魔と共に爆発し、果てる。

「見たか、ゴッド・ハンドの威力!」

オーラパワーを発動させた際は光戦隊マスクマンをリスペクトした戦闘法を取る黒江。今度はマスキートンファーを造り、それで戦ってみせる。マスキートンファーを使う時は中国武術じみた身のこなしも行うため、完全にブラックは固まっているどころか、目が飛び出る勢いだ。

「……ねぇ、いったいどうなってるの……」

そうとしか言えないが、あまりにも戦い慣れしているどころか、完全に達人級の動きになっているため、流石に違和感を覚え始めるが。

「ボーっとしてるんじゃねーよ!皆の戦い方や技をよく見て盗みやがれ!」

「う、うんっ!」

発破をかけられるため、考える余裕がない。アクアとルージュも、黒江が言った『航空自衛隊の自衛官』という職業を考えても、明らかにその道のプロとしか思えない動きであるため、自衛隊の訓練だけであのような動きができるのかと訝しがる。完全にプリキュアの力には頼っていないため、そこも種明かしされた者達にとっても大いに疑問であった。

「コイツは陸自の格闘術なんだが、軽く拳を握り…体に螺旋状に力を足の裏から通すイメージで……振り抜く瞬間に拳を握りこむ!……コレが基本技の波動拳だ!」

黒江は自衛隊で素手での格闘を習った面が大きい(扶桑軍は黒江の時代でも、格闘術については護身程度にしか教えていなかった)ため、ファイトスタイルは定まっていない。そこが臨機応変にファイトスタイルを変化させられる理由である。遅れてやって来たミルキィローズ(戦車道世界に転生した彼女ではない)は完全に固まってしまい、口を大きく開けて唖然としてしまっている。

「嘘……」

パワーは自身のほうが上であるという自負があるため、ローズは完全に茫然自失状態である。(種明かしされているとは言え)

「ま、気持ちはわかるわ」

「いったいどうなってるのよ…!?」

その事から、当時の時点でも基本パワーはプリキュア5全員よりミルキィローズが上である事が分かる。ルージュが声をかけるが、ローズは完全にプリーズしている。そして、更に。

『ライダーァァ……卍キィィ――ック!!』

二号ライダーが『ライダー卍キック』で六体の怪人を超高速回転を伴うキックでぶちぬく様を目撃してしまったため、ミルキィローズはオーバーヒート状態に陥る。頭からは煙が出ており、わかりやすいほどのオーバーヒート(正確には、あまりの光景に脳みそがプリーズした)であった。

「ああ、ローズ……。ルージュ、ローズが」

「こりゃ、しばらくはだめですよ。頭が完全にプリーズしちゃってます」

「くるみったら……。でも、こんな光景を見てしまっては仕方ないわね」

歴代の仮面ライダー達を始めとするヒーロー達が各々の技で敵を粉砕する光景はプリキュア達にとっても圧倒的な光景であった。だが、それと裏腹に、ハートキャッチまでのプリキュアたちはミラクルライトの効力が切れ、ほぼ戦闘不能である。そんな中、キュアブライトは必死にパワーを出そうとするが、何度やっても力が霧散してしまい、力がまったく出せないことに地団駄を踏んで嘆く。

「精霊の力が出せない……集められないよ…力がなんで戻らないの!!?なんで!?」

プリキュア達の力の根源は現役時代においては『レインボージュエル』と『プリズムフラワー』という二つの『希望と夢を司る超物質』に依存していた。その弊害が最悪の結果を招いた。レインボージュエルが失われたことでパワーソースを失ったばかりか、この世界の人々が『希望』を失くしてしまった事がプリキュアたちから戦う力を奪ってしまったというのは皮肉そのものであった。キュアブライトは地面を叩いて悔しがる。

「このままじゃ……舞も、いのり(咲の実妹)も、満と薫も……守れないよぉ!!どうしてよぉぉ!!」

ブライトの慟哭が木霊する。そこへ。

「あなたが守りたいものは何?」

「ピーチ……」

智子から種明かしされているため、変身後の名で呼ぶブライト。目の前に降り立ったキュアエンジェルピーチは友人の桃園ラブではないからだ。だが、ラブとの共通点(ラブは戦闘時には凛々しい振る舞いが多くなる)がないわけではないため、不思議な感じを覚える。

「あたしはみんなを……大切な人たちを守りたい!!なのに、なのにぃ……」

このような事態は経験がない上、キュアウィンディが傍にいないためか、ひどく狼狽し、ついには泣きじゃくるキュアブライト。それを見かねた智子は……

「ここは任せなさい。あたしはラブじゃないけれど、貴方達の大切な誰かくらいは守ってみせるわ」

そう微笑む。智子のその行動はかつては『扶桑海の巴御前』とも謳われたほどの扶桑軍トップエースの一人としての矜持の他、目の前で泣いている誰かに手を差し伸べることを生涯にわたって貫くのび太への敬意からの行動でもあった。その言葉と共に小宇宙を極限まで燃やし、キュアエンジェル状態を更にパワーアップさせる。

「キュアエンジェルの状態なのに、もっとパワーがあがっていく……!?え……嘘……翼がなんか……どっかの神話の彫刻みたいに変わって…!?」

ブライトのその言葉通り、キュアエンジェルの翼が黄金に輝くばかりか、より大きく滑らかな形へと変化を遂げる。それは奇しくも『射手座の神聖衣』と酷似した神々しさを感じさせる翼であった――

「あらよっと」

キュアピーチに成り代わっているが、智子は元来、徒手空拳で戦うタイプではない。そこも他のプリキュアに違和感を持たれた要因である。

「レッドファルコンのお力、お借りします!……ファルコンセイバー!!」

ファルコンセイバーを造り、自身の本領である剣技で戦い始める。

「はぁっ!」

智子お得意の剣技の冴えはここらであった。元は剣技で鳴らしたため、プリキュアの姿を借りていても百戦錬磨。本郷猛や一文字隼人のような超人に比べれば落ちるが、それでも当時のどのプリキュアよりも剣技の達人である事には変わりはない。智子お得意のツバメ返しを見せ、怪人も戦闘員もなんのそのであった。

「ついてきなさい。プリキュアの力以外の方法でも戦えるってことを教えてあげる」

智子は剣技主体で戦い始め、キュアブライトを導く。剣技を身に着けたプリキュアは数名いるが、のぞみはこの戦いには不参戦であるため、フェリーチェとスカーレットがいる。この時に智子がキュアブルーム(キュアブライト)/日向咲と交流を持った事が、後に彼女たちをウィッチ世界へ導く事になる。そして、智子を援護しにやってきたのが、超獣戦隊ライブマンのレッドファルコンであった。

「援護するぞ!」

「ファルコンさん!」

レッドファルコンは事を知っているため、敢えて何も言わずに智子を援護する。彼もまた剣の達人であるため、ファルコンセイバーを片手に、敵を薙ぎ倒していく。実質、足手まといとなっている事に負い目を感じているキュアブライト。力が失われたために飛行も封じられ、自分からはなんらアクションもできない状態であるためにひたすら、流れ弾を避けることしかできない。

『ファルコン・ブレイク!!』

レッドファルコンの必殺技『ファルコン・ブレイク』が放たれ、群がる怪人軍団を蹴散らす衝撃波を伴う斬撃が奔る。

「す、凄い……」

「あなたの相棒は味方が保護しているわ、安心なさい。……武子、ヴェスバーで援護して頂戴」

『分かったわ』

武子が自ら、F91(増加試作機タイプ)で援護射撃を行う。武子はダイ・アナザー・デイの戦功で中将に任ぜられていたため、隊長という立場を考えると、本来なら後方で指揮して然るべき立場にある。だが、日本連邦特有の『指揮官先頭』の伝統に乗っ取り、前線指揮を行っていた。『指揮官は前線で戦闘すべき』とする日本連邦独特の前時代的ともされる風潮はカールスラント連合帝国(カールスラントがオストマルクを統合した)以外には理解されにくく、ダイ・アナザー・デイでの孤軍奮闘にもかかわらず、『あそこは近代戦を理解しとらん』と揶揄する声が多い。(実際にはもっとも近代戦をしていたが…)だが、同時に、64Fの指揮官クラスのウィッチが寄ってたかって一騎当千であるが故に、他国軍隊の指揮官に多大な精神的プレッシャーを強いたのも事実だ。

「なんか、巨大ロボットだらけで、頭がゲシュタルト崩壊しそう……」

「これくらいでゲシュタルト崩壊?だらしないわよ、のぞみは慣れたわよ」

「嘘ぉ!?」

「ただし、転生先の関係だけど」

「?」

「あの子、転生先が日本軍の職業軍人でね」

「うわぁ…。なんて言おうか…」

「ただし、魔法がある世界だけど」

「あ、あの、それって」

「あたし、本当はそこの出身でね、一応、中将なのよ。戦争の時代だから、階級はやたら高くなったけど、やってる事は変わんないのよね。のぞみとラブは同じ隊の部下よ。その縁かしらね、こういうことになったのは。ちなみにパイロット出身よ」

「魔法がある世界で?」

「まぁ、普通に文明は発達してるし、魔女も箒で戦うわけじゃないし、プリキュアの後輩にもいるしね、魔法使い」

「いるんですか!?」

「ええ。キュアフェリーチェ。あの子がそうよ。あなたの10年は後輩かしら」

「じ、十年!?」

驚きの情報が伝えられ、驚天動地のブライト。先輩のなぎさを差し置いて、咲はこの事態の真相を最初に知ることになったわけである。

「それと、この人達が援軍に来てくれたのは、のぞみのおかげよ」

「のぞみちゃんが?」

「ええ。この場にいたのぞみとは別世界の存在になるのだけど、仮面ライダー一号にかけあったのよ、あの子」

「それで俺たちはやってきたわけだ。万一に備えて、装備も持ち込んでおいたが、正解だったようだ」

「そのようですね」

一号ライダーからその通達があったらしい智子。レッドファルコンもそういうように、装備を持ち込んだのは正解であった。事態はプリキュアオールスターズの手に負えるものでは無くなっているのが事実であった。そして、智子は雑魚散らしにこの技を使った。

「せぇぇぇんこぉぉぉざぁ――んっ!!」

閃煌斬。元は輝煌帝の鎧を纏う時に放つ事ができるサムライトルーパーの『烈火の鎧の戦士』の必殺技である。智子はこの時期、本当に烈火の鎧のサムライトルーパーでもあったため、会得済みであった。

「……凄い……。火柱と光が地面から迸って……辺りを焼き払っていく……」

キュアブライトはこれだけいうのが精一杯だった。聖闘士としても炎を操るのを得意とし、更に烈火の鎧の継承者でもあった智子が起こす炎はまさに敵を薙ぎ払う烈火であった。これはこの時代(プリキュアオールスターズDX2当時)に唯一の『炎を操れるプリキュア』であったルージュがやれる事を超越した行為であった。

「ルージュ顔負けだなぁ…」

「あら、私の知ってるほうののぞみも出来るわよ?」

「えーーーー!?」

この場にいない『転生者としての夢原のぞみ』も、草薙流古武術と魔力の応用で閃煌斬を放つことが出来る。そのため、のぞみと行動を共にしている方のりんはプリキュアとしてのアイデンティティの危機を大いに感じている。これはココ(小々田コージ)の転生体『野比コージ』が次代のサムライトルーパーとなった影響もあるだろう。こうして、日向咲はのぞみの先代のプリキュアの中では最初に、次元を股にかける『大いなる戦い』と関わりを持つ事になった。戦場は徐々にプリキュアオールスターズの手を離れ始め、ヒーローユニオンと地球連邦軍の連合対百鬼帝国・ミケーネ帝・バダン・デーモン族連合の争いへ変質しつつあったが、キュアブライトはそれを意識していたのかもしれない。

『らぁいこぉぉざぁーーんっ!!』

ドリームに成り代わっている黒江が超弾動雷光斬を放つ様子が見えた。剣技では黒江のほうが上であるため、雷光斬を波動として撃ち出すことも可能である。これにキュアブラックは驚天動地になり、またも茫然自失となる。

「ブラック、分かってると思うが……」

「いーや、いわせてよ。あれ、あたしの口癖なんだから…」

「好きにしな」

「ありえなーーーい!」

「言っとけ言っとけ、ありえない事なんてないって事を教えてやんよ、へへっ……」

キュアブラックのこの台詞は本人も様式美と認識しているようだ。そして、こう嘆いた。

「ドリーム、どうすればいいの!?力はあいつに盗られたままだし、こんなんじゃ、まともに戦えないよ……」

「皆の希望が力にならない時は自分の心の希望を力に変えろ!魂を燃やせ!お前らが希望を燃やす火種になって未来を照らす篝火を灯せ!!」

「で、でも、どうやって!?」

「70年代の香港映画の俳優を気取るわけじゃないが……、考えるな、感じるんだ」

その格言で黒江は何度か窮地を脱してきた。キュアブラックはわけがわからないと言わんばかりだが、黒江は手本と言わんばかりに、ナインセンシズまで小宇宙を高め、シャイニングドリームの翼を天馬星座の神聖衣のようなヒロイックかつ神々しい白金色の翼へ変化させる。

「……プラチナ色の……翼……」

「行くか」

「ま、待って!」

黒江はエクスカリバーを構え、突撃していく。ブラックはその背中を追いたい気持ちを燃え上がらせる。それは最初のプリキュアとしての意地でもあった。

「来るか?人の高みの到達点に?」

「何がなんだかわかんないけど……後輩に無理させちゃ……プリキュアの看板がすたる!!」

ブラックは黒江の問いかけへの回答代わりとして、フラフラしつつも立ち上がり、咆哮を上げる。すると、何かが弾けたように、オーラが表れ、ブラックを包み込む。そして、オーラが弾けると、彼女は超形態への再変身をしていた。違うのは、翼が通常の同形態より神々しい、滑らかな形状のものへ変わっていた点だろう。

「なにこれ……ミラクルライトなしで……変身できた……それに……体が軽い!!」

「掴めた様だな、夢の翼を」

微笑む黒江。ブラックも流石にのぞみのキャラではない大人びた態度に疑念を持ったが、野暮なことはしないことにした。それが彼女なりの礼儀でもあった。

「援護しますわ」

「頼むぞ、スカーレット」

「伊達に燦然と輝く王剣持ちではありませんのよ、ドリーム?」

キュアスカーレットが燦然と輝く王剣を手に援護を行う。

『王剣よ、我が想いに応えなさい!……クラレント・シャイニングローリア!!』

クラレントはモードレッドが持つと、史実通りに邪剣として歪むが、キュアスカーレット/紅城トワが使えば、カリバーンと同等の威力を以てして道を開く光となる。剣の形状もモードレッド使用時に比べると流麗で美しい白金の剣となる。これはモードレッドが本来の持ち主であるアルトリアに生前は認められなかった事に由来する事実でもある。この時期は文字通りにプリンセスであるキュアスカーレットが使う場合にのみ本来の性能を発揮するが、後にアルトリアと和解した後のモードレッド、更に後はペリーヌ・クロステルマンも使用が可能になる。その影響でペリーヌ・クロステルマンのトネールはエクレールにパワーアップし、彼女もキュアスカーレットになれるようになる。ガリア議会で見せた時にはトワの協力で変身したが、後に自己の意志で変身が可能になり、アストルフォと共に、フランス所属のプリキュアと認識されるのだった。






――2020年 新野比家――

新野比家では、黒江と入れ替わったのぞみ(黒江は容姿をダイ・アナザー・デイ後期からは『サクラ大戦3』のエリカ・フォンティーヌを模した姿に切り替えていたため、その容姿になっている)が気を揉んでいた。のび太も息子の入学式を終えるとすぐに戦闘態勢に入って、現地へ向かったと知らされ、留守番担当の朝日奈みらいが世話をしている。

「なんか、色々誤解されそうな姿だね、それ」

「先輩が2000年代初めくらいのゲームのヒロインを模して変身してるからね。あたし、別に十字教の信者じゃないんだけどなぁ」

と、今の服装が教会のシスターに見える服装であることを愚痴るが、黒江はダイ・アナザー・デイ後期以降、その姿を大いに活用しており、ドジっ子シスターを装いつつ、情報収集に用いている。

「でもさ、あたしの姿になって、プリキュアに変身しなくても、先輩なら普通に強いじゃんー!趣味じゃないのかなぁ、これ」

「あの人はオカシイくらい強いからねぇ。前に変身して手合わせしたんだけど、普通の姿じゃ、手も足も出なかったよ」

「やっぱりぃ」

「欧州に受けが良いからその辺狙ってそうだけどね。仕方ないけど、あたし達の現役時代の時の力はシックスセンスの範疇でしかないからねぇ。根本的にポテンシャルが違うんだよなぁ」

みらいもそこに言及するが、通常形態のプリキュアであれば、黒江と智子は普段着の状態で充分に圧倒出来る。黒江は空中元素固定能力を活用して容姿を変えているが、それは半分は趣味ではないのかと感ぐる。(半分は実益だが)

「つぼみちゃんとえりかが現役の頃の戦いに敵味方が介入して、派手にドンパチするわけじゃん?」

「うん」

「そこにいるプリキュアが何人、Z神に選ばれるのか」

「さあね。ゼウスは色々お節介だけど、わたし達の味方だからね。五、六人は見いだされるんじゃないかなぁ。一つの世界線に付き、因果を引き込めるのはそのくらいが限度だって言ってたし」

「すると……、あたしたちは違う世界線から数人づつとココ?」

「特別枠でナッツも入るかもね。こまちさん、惚れてたし」

「ありえるね。あ、あの時はまだ、いつきちゃんはなってないし、ゆりさんは妖精が死んだ上に、プリキュアの種が割れて、変身できなくなってるから、ミラクルライト降ってる側なんだ」

「そう言えば、前に聞いたなぁ」

「問題はレインボージュエルが無くなった後、その頃のプリキュアたちは力の供給を断たれて、戦えなくなることさ。だから、ヒーローユニオンに援軍を頼んだんだ。頭を下げて、ね。」

「あたしたちの頃はそれと別だしねぇ、力の供給源」

「そうなんだよ。あたしたちはあの頃、二つの超物質にエネルギーを依存してた。だから、それ以外のエネルギー……みんなが心に持つ希望や夢を媒介にして、バイパス回路を作ることで対応したけど、あの頃の時間軸じゃ、それはできない」

「トワちゃんやはーちゃん達が向かったのは、そのためなの?」

「うん。その頃のプリキュアじゃない子……、響にマナちゃん、めぐみちゃん達なら、レインボージュエル、ないしはプリズムフラワーに依存していないから、問題なく戦える。あたしとラブちゃんの立場は先輩らに任すよ」

北条響(シャーリー)のことは呼び捨てであるあたり、以前より関係が深化した事が窺えるといった様子のみらい。

「わたしも混じりたかったよ〜。だけど、リコが忙しすぎてさ…」

「リコちゃん、ラグナメイル乗りしてて、おまけに本当に魔法少女で、シンフォギア世界の子の妹さんの転生者だから、あの子が過保護気味でね」

「ああ、あのマリアって子(のぞみとみらいについては、それぞれ外見は現役時代に戻っているが、精神的は成人後のそれを保っているため、認識としてはマリア・カデンツァヴナ・イヴは『年下』になる)」

「プリキュアな上に、凄腕のラグナメイル乗りなんだから、大丈夫だって言ってるんだけどなぁ」

「なんて言った?」

「肉弾戦やってるアンタらよりメカ乗りやってる方が安全だろう?って。ちょっと乱暴になったけど、当たってるじゃん?」

「言えてる。リコも困るくらいにシスコン気味だもんなー」

マリアは十六夜リコが『かつて亡くした実妹の魂と記憶を引き継いでいて、輪廻転生を体現した存在』であると知ると『神様が与えてくれた贈り物』と形容するほど大喜びし、ダイ・アナザー・デイ以後は過保護気味にリコへ接している。当のリコもマリアの気持ちを尊重し、前世での姉を立てており、折衝任務では『セレナ・カデンツァヴナ・イヴ』の名を実質は別名義に用いているが、敢えてシンフォギアは纏わず、アガートラームを正式にマリアに譲渡している。

「あの子、キュアマジカル見たら、目がぐるぐるになるんじゃないかなぁ」

「言えてる。それで、みらいちゃんは行けなくなったけど」

「私達ははーちゃんしか単独変身できないからねぇ。リコが仕事に行く前に変身しとくべきだったよ〜……」

「いちかちゃんとあおいちゃんはパティシエの修行で、戦闘どころじゃないからなぁ」

「ゆかりさんは?」

「講道館の試合の審判員とかで、扶桑本土にいるよ」

「あの人、転生先が武門の名家なんだっけ?」

「うん。講道館と武徳会の会長や幹部を歴任した軍人一家。ゆかりさん、戸籍上はもうアラサーだって」

「それでプリキュアかぁ…。そういえば、あおいちゃん、バンドしてなかった?」

「うん。先輩がツテで音楽プロデューサーに紹介するとか言ってた」

「リコが言ってたんだ、前世は自分が犠牲になることでみんなを救ったって」

「あの子が過保護なのはそれが?」

「たぶんね。だから、リコがプリキュアなのを知って、心の中でずいぶん動揺したみたいなんだ」

「生まれ変わっても、戦場にいるからね。それはあたしらもだけど」

「わたしも肉体を再生したから、似たようなもんか」

「それで今度こそはって、先走っててね」

「気持ちはわかるけどね。平行世界のあたしの場合はなんだろう?」

「それは簡単だよ。力の差だよ。エターナルと戦ってた頃ののぞみちゃんは、ナイトメアと戦ってた頃より一段は上のパワーになってたわけじゃん?それでもピンチになる事あるじゃない?それが、いきなりやって来た別の自分自身は普通のスーパープリキュアより上の姿になれて、自分が傷も負わせられない奴を圧倒的な強さで倒した。普通に考えて、妬むよ」

「それもそっかぁ。そうだよねぇ」

「そんなに強くなってるのに、『メンバーの引き抜きに来ました〜』じゃ、向こうののぞみちゃん自身は納得しないよ。言葉じゃね」

「やっぱ、拳で語り合う的なアレ?」

「だねぇ。ストナーサンシャイン撃っていいって言ってたよ、綾香さん」

「先輩はあたしを殺す気かーーー!」

そこで流石に怒りたくなったのぞみだが、最終手段としてのストナーサンシャインの使用には納得していた。ゲッターエネルギーには浄化作用もあるからだ。最終的にはそうなりかけるが、ドラえもん、のび太、ラブの三者が仲裁し、のぞみの同位体は難を逃れるのだ。そこを想定するあたり、自分は所々で直情傾向がある事を自覚していると同時に、みらいが自分の考えを理解している事に安堵するという二つの心理を覗かせるのだった。

「二人共、おやつ買ってきたよ〜」

ドラえもんがおやつを買ってきた。もちろん、どら焼きである。

「ドラえもん君。どら焼き好きだよね」

「僕は正統派だよ。ゲテモノにするキッド達の気が知れないよ」

ドラえもんは『甘すぎない』という持論を持つどら焼き愛好家である。ザ・ドラえもんズの仲間達が寄ってたかってゲテモノ味に仕上げる(マスタード、からし/醤油、タバスコなど…)ため、余計にそうなったらしい。のぞみとみらいはどら焼きを受け取り、手にとって食べる。

「ドラえもん君、駅前商店街の菓子屋と揉めた事あるんだって?」

「古い話さ。のび太くんが小学生だった頃の話だしね。菓子屋のおじさんもこの頃には息子さんに代替わりしてるからね」

のび太が小学生の頃、ドラえもんは駅前商店街の菓子屋の主人とどら焼きの味で論争を繰り広げた末に『自信ぐらつ機』を使った事がある。その時に菓子屋の主人が『ロボットにわしのどら焼きの味が分かってたまるか!?』と激怒されたと言い、ドラえもんが一応はロボットと認識されていたのが分かる。また、その菓子屋の主人は2020年にはその息子に代替わりしている事も確認された。

「僕は感情も魂もあるからね。その分、ミスだってする。のび太くんは可哀想だよ。大人になって成功しても、子供の頃の色眼鏡で叩く連中がいるんだから。官僚になって、子供まで生まれて、駅前のマンションの一階まるごとを持ってる。これのどこが失敗だって?」

「言えてる。どっから見ても、勝ち組じゃん。」

のぞみもみらいも頷く。マンションの一階まるごとを邸宅扱いにして維持するだけの収入を稼げて、しかも近くで隠居している両親も養っている。21世紀では充分に富裕層に入る。


「だいいち、のび太君の一般に言われてる人物像の多くは子供時代のものさ。大人になれば、多少なりとも成長するもんだよ。それに、のび太君は正面切って戦うこと以外でも戦力なる事の証明だよ?裏方仕事ってのは、本当は重要だよ?Mr.東郷にだって、デイブ・マッカートニーがいるんだし」

「それに、のび太くんは戦うにしても、スーパー手袋使ってガチンコするより、名刀電光丸使うんだけどね。あとはスモールライト。スーパー手袋はしずかちゃんだよ。君等顔負けのラッシュでマウンテンゴリラをのした事あるんだから」

のび太はスーパー手袋を使った回数は多くなく、しずかのほうが多く使用し、ゴリラをのした事がある。しかも、歴戦の勇士であるのぞみやみらい顔負けのラッシュを見せたというので、二人は『信じられない』といった表情を見せた。しずかは意外に『やる時はやる』のだ。

「そういえばしずかちゃん、就職は?」

「大学を出た直後の時期は警官をしてたよ。ノビスケ君が生まれた後に、アドルフィーネ・ガランド閣下の誘いでG機関のエージェントに転じた。表向きは専業主婦になったって事にしてるけどね」

公務員になったしずかをG機関は雇い入れるにあたり、『警官を定年まで続けた場合に得られる総収入と同水準の収入を保証する』という条件で引き抜いた。G機関はアドルフィーネ・ガランド運営の私設組織だが、実質的にY委員会の後援を受ける非公式の『カールスラント元帥府』である。しずかは書類上は退官という事にされているが、実際はその前に公安警察に引き抜かれており、階級もG機関在籍寸前には警部であった。しずかは将来を担うと目されたほど優秀であったため、才能を惜しんだ当時の警察幹部がG機関と交渉し、待ったをかけたのである。引き抜きに当人が応じていたため、遺留に当時の日本警察は全力を注ぎ、海援隊と揉めた海保の前長官の犯した利敵行為の厳罰適応をバーターにして呑ませたとも言える。警察はしずかを足がかりにする形で海保の前長官の犯したミスを挽回し、ウィッチ世界にパイプを築くためには如何な手段も用いる決意であり、しずかはその動きを利用したのだ。公安部外事課別室調査班班長の肩書でG機関事務所にデスクを置く事になったが、事務所は数ブロック先の別のマンションにあるため、しずかは表向きは専業主婦を装いつつ、仕事を続けている。

「とはいうものの、公安にいるけどね」

「公安に?引き抜かれたの?」

「うん。公安警察はのび太くんがウィッチ世界にパイプがある事に気づいててね。その妻であるしずかちゃんを利用して、足がかりを得ようとしたのさ。しずかちゃんはそれをまんまと利用したわけ。公安警察の一員だから、専業主婦ってのは世間を欺く仮の姿さ」

「へー…。つまり、しずかちゃんは警察に入ったんだー…」

「のび太くんが実質は軍部の協力者だから、しずかちゃんは警察の道を選んだんだ。キャビンアテンダントになりたいって言ってた時期もあるんだけど、高校の頃には警察志望になってた」

「だから、ウィッチ絡みのトラブルはしずかが顔隠して担当してる事多いんだよな」

「おい、キッド。ノックくらいしろよ」

「お前さんがお嬢ちゃんたちと話し込んでるから、タイミングなくしたんだよ、ダホ」

ドラ・ザ・キッドは魚座のアフロディーテによく似たイケメンボイスだが、服装以外は黄色いドラえもんと瓜二つである。手にはマスタードをぶっかけたどらやきが握られている。

「お前、またマスタードぶっかけてんのか?」

「るせぇ。アメリカ在留の猫型ロボットの流儀だっての」

ドラ・ザ・キッドの職業は保安官である。普段は西部開拓時代(1840年代から1890年代まで)に在留するタイムパトロールの保安官である。ドラえもんの悪友の一人であるため、ドラえもんもフランクな不調で接する。

「はーちゃんから聞いたけど、のび太くんとはーちゃんを西部開拓時代に連れて行った事が?」

「ああ。新参のお前さんには初めてだな。のび太がハイスクールの頃さ。1850年代以降だな、大陸横断鉄道が通って、東部から西部まで横断する旅に誘ったんだ」

みらいとはこの時が顔合わせが初めてなドラ・ザ・キッド。大陸横断鉄道が通って、まだそれほど経たない西部開拓華やかりし頃、鉄道はならず者やネイティブアメリカンに襲撃される可能性が高く、キッドは度々、ならず者やネイティブアメリカンと戦っている。ドラ・ザ・キッドはその時代に活躍したシェリフとして名を残しており、少年時代ののび太の伝説と併せての謎とされている。

「映画で見たことあるー!まだ馬と駅馬車が移動手段の主流だった時代だよね」

「そうそう。その頃の保安官は大変だぜ。怪我は日常茶飯事でよ。こいつの妹のへちゃむくれに愚痴られてよぉ」

「キッド君、付き合ってるんだよね、ドラミちゃんと」

「僕は認めてないからな?」

「へいへい」

ドラえもんはキッドが将来に義弟にやるやもしれぬ身分であるため、ドラえもんズの中でも腐れ縁に近いと思っている。そのためか、のび太とも特に親しく、のび太が青年期に持つ銃はキッドのルートで手に入れたヴィンテージものも多いという。

「ほれ、それと別の時だけど、いい一枚。へちゃむくれが後で撮ってた写真だよ」

その一枚は高校時代(17歳頃)ののび太がガンマンの服装で大陸横断鉄道を舞台に大立ち回りを演じている時のもので、ウィンチェスター・ライフルを持っている。女ガンマンな服装を身にまとったことはもファニング撃ちでならず者に対抗している。

「へー。のび太くん、ウィンチェスターも使ってたんだ」

「ジュニアハイの最高学年以降からだ。背が伸びたのがその時期なんだ」

のぞみが感想を述べた。のび太は中3からウィンチェスターライフルを使うようになり、荒野の七人を気取ったようなテンガロンハットを被った格好も好むようになった。高校以降はポンチョを着込むため、のび太の西部開拓時代への入れ込みようが窺える。また、小学生時代はリボルバーがやっとだったが、成長と共にソードオフのモデルやライフルを使うようになり、当時で最も普及していたウィンチェスター・ライフルも中学三年からである。ことはも同行するようになってからは、銃器の扱いを覚え、のび太や調の窮地を救ったことも多い。なお、のび太がチリを覚えたのは、彼女たちに食わすためであると、キッドは語る。

「西部ものそのままだなぁ。ん?もう一枚は…。」

「ん、モニュメント・バレーを通ってる時の奴だ。駅馬車で移動してるね」

「それ、休憩所に向かう時の奴さ。その時はちょうど夏だったんだ」

ドラえもんも何回か同行したが、のび太は東洋人である事から、やたらと決闘を申し込まれる。古風な決闘の様式を守るガンマンなりの礼節を学んだとは、のび太の談。のぞみとみらいはここから、ドラ・ザ・キッドとドラえもんの語る『昔々、西部で……』な話に引き込まれていくのだった。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエストって奴だな」

「ワンス・アポン?」

「昔々、西部にて〜って意味だよ、のぞみちゃん」

キッドのちょっと気取った物言いから始まる語り。教師だったわりに英語に疎い様子を見せたのぞみだが、現世では普通に英語を話せるはずなので、ちょっと不思議そうな顔のみらい。

「あれ、のぞみちゃん。英語は現世だと喋れるんじゃ?」

「軍隊じゃ昔話しないから、そういう言い回し使わないしね。初めて聞いたよ」

「へー…」

みらいは事態に巻き込まれる直前までは母親の仕事の手伝いで海外に赴く必要上、英語に堪能であったため、のぞみは軍事用語と日常会話はこなせるが、日常会話で使わないような難しい言い回しは覚えていないと思われる節があり、そこはのぞみが後輩に劣る点であり、みらいの勝利であった。







――1946年。黒江達が大決戦を戦っている頃のウィッチ世界は日本連邦がダイ・アナザー・デイで矢継ぎ早に次世代装備を投入した事で、通常装備の技術革新の時代を迎えていた。また、日本からの情報で思わぬスキャンダルに見舞われた連合軍では『未来技術が持ちこまれ、大々的に使われた』事、21世紀世界の思惑で統合戦闘航空団が統廃合された事でカールスラント、ガリア、オラーシャといった欧州列強の政治的衰退が起きた事で、主導権は日米英の三カ国とその同位国の連合へと移っていた。オラーシャが政情の混乱に伴い、連合軍から事実上脱退し、オラーシャ系の人員が連合軍引き上げられた事もあり、連合軍は日米英の三カ国の連合の軍事力に組織の維持を依存するようになった。フランスとドイツが同位国に冷淡であった事も重なり、カールスラントとガリアは国家財政の都合で軍事力供出を減らしてゆく事になったため、ロマーニャが大ダメージを負い、ヴェネツイアが敵に回った事、イタリアが援助にほぼ無関心であったことで連合軍は実質、有名無実化が進行したが、ブリタニア連邦の構成国の大半が連合軍に留まった事もあり、形式的には面目は保った。扶桑でも、クーデター後の軍隊の再編成で中堅ウィッチの多くが軍中枢から左遷させられた都合、前線部隊は義勇兵と復帰させた教官級で回すしかなくなっていた。新規志願ウィッチの数はクーデターの鎮圧後の処置に萎縮した扶桑国民の心理もあり、絶望的に落ち込んだための緊急避難的対応であった。この時代にウィッチ戦友会がクーデター軍の構成員の処置への抗議として、ウィッチ紹介をボイコットしたことが後々の兵科解体の一因でもあったことから、戦友会は後代のウィッチらに白眼視された結果、20世紀後期以降は単なる相互扶助コミュニティへと変質していく。ボイコットでウィッチの地域採用が変質し、『戦友会』そのものに疑義が呈され、退役軍人コミュニティ全体に迷惑がかかったからである。その余波で、40年代後半から1950年代にかけてだが、戦友会とは別のコミュニティが個別に生まれ、むやみに乱立してしまう問題が発生、それらを統合する流れが1960年代に生ずるまでの間、ウィッチ戦友会は冬の時代を迎えるのである――







――ウィッチ世界では、日本式といえる『エースパイロットは最前線勤務』がむしろ定着していった。これは前線で要員を育成することが政治的要因で殆どできなくされたためで、エースパイロットを後方で『遊ばせる』よりも、前線で戦わせる事で給料泥棒の批判を躱すという政治的配慮と、連合軍全体の人手不足が理由であった。1946年になると、連合軍全体で『数が多い中堅世代』が軍部隊の中枢から遠ざけられ、新人育成に時間がかけられるようになったため、急速な人員補充が不可能になった前線部隊では、元から数が少ない古参を非合法手段も使い、無理にかき集める事が横行し、義勇兵を緊急で前線部隊の隊員として充てがう事が増加していった。扶桑は貴重な人的資源を教導部隊と精鋭部隊に集中させることになるが、ウィッチの世代交代期に入っていた都合上、教導部隊の規模を縮小させ、前線部隊の充実に舵を切るしかなく、必要上、義勇兵を多く受け入れていく。その内の四割から五割は樺太や浦塩ルートで亡命したオラーシャ軍人たちで、オラーシャ軍の元軍人達は在籍時の地位を保証された上で扶桑軍へ入隊。ダイ・アナザー・デイ後期を支え、太平洋戦争も戦い抜く。オラーシャの未来を担うとされた人材の多くはかつての仮想敵国に骨を埋める事になり、本国で失った名誉を扶桑で回復した例も多い。なお、扶桑はガイアからも機動兵器を輸入しており、ガイアの地球連邦防衛軍で採用されている『コンバットアーマー』も使用し始める。MSは戦車より高度な整備能力を求められる場合が高級機では顕著であるため、空軍より前線の整備兵の練度が安定しない扶桑陸軍では、MSよりは簡易な構造のコンバットアーマーを支持する声が多く、MSは空軍が、陸軍がコンバットアーマーを使用していく。これは陸軍の本土部隊の熟練整備兵の多くがクーデターに与したせいでもあり、日本連邦は戦闘の主力を空軍に移行し始めるが、日本の意向もあって、軽視されがちな陸軍のせめての政治的抵抗がコンバットアーマーの購入であったと言える。(コンバットアーマーは『二足歩行の戦闘ヘリ』とも言える兵器であるため、MSとは違う設計思想で生まれた。その最新鋭機であった『ダグラム』は地球連邦防衛軍(ガイア)の新鋭機でありながら、地球連邦防衛軍が無人艦艇や艦上戦闘機の整備を重視したために量産の目処が立たなかったのを、扶桑陸軍が受領し、太平洋戦争で戦果を挙げたという)。特に扶桑陸軍の精鋭部隊であった歩兵第22連隊は機械化の方針で解散(史実で沖縄で玉砕したため、バッシングを恐れた防衛省の意向)する予定だったが、コンバットアーマーの配備で従来の山砲などを廃して機械化される事になり、ガイアが軽視していたコンバットアーマー『ダグラム』を開発元よりも先に受領した部隊の一つとなった。ガイアは人型機動兵器のジャンルを軽視していたが、彼らが困っていた『Xネブラ現象』にMSが対応できたことで開発が進み、ダグラムの登場と相成った。だが、地球連邦防衛軍参謀総長『芹沢虎徹』は大艦巨砲主義と無人艦艇主義をこじらせており、ダグラムはガイアでは軽視されていたという経緯があり、そこを突いた今村均大将がライセンスを安価で購入し、生産させた。MSに比べると無骨な外見であるため、コンバットアーマーはダグラムでも、日本連邦では性能に疑念が持たれていたが、歩兵第22連隊の機械化の一環で同隊に配備され、太平洋戦争で使用されると、陸軍はMSよりもコンバットアーマーに傾倒していく。これは空軍ほど三次元戦闘は要求されないこと、整備がMSよりも楽である事が要因であり、少なくともダグラムはかなり高性能であったため、芹沢虎徹はガイアの地球連邦防衛軍で顰蹙を買う事となり、手のひらを返したように、『ダグラム以上のモノを作れ』と言い出すに至る。アースの地球連邦軍もコンバットアーマーを研究し、独自にダグラムの量産化を目論むなど、ガイアが生み出した一つの機動兵器は扶桑で花開き、扶桑軍事史の変革を起こした存在として歴史に刻まれる。扶桑軍が起草したダグラムのライセンス購入計画の名は『太陽の牙』。ダグラムの不遇を知ったのび太が扶桑陸軍を唆し、ガイアの真田志郎も噛んだといい、芹沢虎徹は役職の割に人望が薄いという現実を否応なしに突きつけられ、ダグラムの代替機の開発で挽回しようとしたという。また、地球連邦軍(アース)はダグラムの量産化を『DAM』(ダァーム)という名で独自に実現。人型機動兵器の研究に一日の長があるため、デザリアム戦役直前に部隊配備開始の段階であり、ジオン残党はコンバットアーマーを『連邦がおかしなMSを造った』と嘲笑したが、コンバットアーマーに地上の残党は圧倒されていくのであった。(ダグラム系コンバットアーマーの頭部デザインが戦闘ヘリ然としたものであったためとも、サイズと外観から、モビルワーカーと誤解されたとも。デザインで戦争はしていないという点を地で行く無骨なコンバットアーマーのデザインは扶桑陸軍に受け、地球連邦陸軍にも『戦車駆逐用機動兵器』という名目で陳腐化が目立ったデストロイドの一部代替として配備され、局地戦などで高く評価されたという。予算上は『老朽化が激しいデストロイド・スパルタンの代替機』で、ガイアで低評価とされた兵器が人型機動兵器が隆盛を誇るアースで好評なのは、置かれた環境とドクトリンの違いだけではないのだろう)



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