艦むす奮戦記
第三話


――伊勢達がリムパックで活躍する中、、我が地方隊に新たなニューフェイスが登場した。金剛の三人の妹たちである。

「司令、金剛姉様の妹の比叡です」

「同じく、榛名です」

「霧島です」

「おお、よく来てくれた!」

金剛のティータイムに付き合わされ、紅茶が好きでもないのに飲ませられていた私には朗報であった。これで紅茶地獄から開放されるからだ。




「提督〜〜!ひ、比叡達が来たというのは本当デスカ〜!?」

「あ、お姉様〜!」

「OH〜比叡〜!」

金剛型の金剛以外は日本生まれ、日本育ちなので、妙な英語交じりの話し方はしない。ただし特徴があるといえば、比叡は最期の出来事が深層心理に深く影響を及ぼしたか、姉ラブ。榛名は比較的まとも、霧島は委員長系キャラである。

「これで私達姉妹が全員揃ったネ〜!」





金剛は家族と言える三人の妹が来たことに喜んでいるが、国を取り囲む事情は深刻であった。曲がりにも西側諸国の一員であったはずの韓国が日本憎しのあまり(反日教育を受けた世代が国家の中枢を支配したため)にこの日、中国と同盟を結んでアメリカの勢力圏からの離脱を表明したのだ。親韓派の政治家や識者らはこの事件を機に一気に立場を失い、次々に失脚。国内世論も韓国人の日本人への弾圧が露骨化したのに怒り、にわかに沸騰し始めていた。

「そうだ早速だが、上から私に直接指令が届けられた。本艦隊も『対韓国及び中国を想定した訓練』を積んでおくように』との事だ」

「韓国と中国デスカ?何かグレードダウンしたような……」


「まぁ。太平洋でアメさん相手にドンパチしてたお前らから見ればそう見えるな」

金剛は生まれ変わって初の戦が前世では日本の一部だったり、滅びかけて分裂していた国であった国々が相手になりそうなのに落胆したようである。前世では超大国へと成長しつつあったアメリカ相手に立ち回りを演じ、戦史に名を残しただけに、かつては歯牙にもかけなかった国が敵国と聞かされても拍子抜けしてしまうようだ。

「とりあえず、リムパックから伊勢達が帰ってきたら艦隊編成を組み立て直すぞ。駆逐艦らには国境近くの警備任務に行ってもらっている。駆逐艦の数が足りないのがウチの悩みだしな」



――そう。この時期の我が地方隊は駆逐艦娘の不足が課題であった。6隻しかいないのが玉にキズ。『重巡や空母を行かせると相手が怒るから困る』と外務省から要請があったので、軽巡以下の艦娘で警備任務に就かせていた。旗艦である軽巡をローテーションを組ませて交代させる方法で国境付近の警備を行わせていた。リムパックが終了して数週間後の事であった。












――リムパック終了から数週間後 日本 中国との国境付近のとある島


「暁ちゃん、奴さんの動きは?」

「今のところ大人しいよ。中国語で海上保安庁の船に何か言ってる」

「俺達は保安庁が手に負えなくなった時が出番だ。いつでも出れるように待機を続けてくれ」







21世紀初めにこの島の領有権問題は浮上した。戦争を避けたい、当時のお互いの政権の思惑もあって、しばらくは小康状態が続いていた。だが、中国国内事情の悪化で放っておくわけにはいかなくなったらしく、ここ最近は睨み合いが続いている。海上保安庁(GHQが戦後に沿岸警備隊を作らせる目的で海軍の掃海隊の一部を独立させる形で設立させた組織。我々の知る同名組織と異なり、『軍隊組織の一つ』である)の巡視船の警告にも関わらず、中国公船は退去する気配はない。『公船』は政治屋達の国内向けの説明である。軍艦と言うと左派政党の反発が予想されているため、派遣されてくる船を公船と説明するのがここ数十年の政治家達の説明手段だった。





「なんで駆逐艦を公船っていうのよ?」

「国内向けのパフォーマンスだよ。戦後は左派政党の声が大きかったし、国民にも戦争を避けたい思考が根付いていたからその兼ね合いで言うようになったフレーズだ。最初は本当に公船だったんだが、次第に軍艦を送り込むようになった。ここ数年は軍艦がああやって派遣されてるんだが、国民向けには公船と言い続けてるだけさ」

「ややこしい話〜」

彼女と軍の通常艦艇『涼風』が見守る中、海上保安庁の巡視船が中国船を退去させようと近づいてゆくが……。破局は唐突に訪れた。突然中国側が艦砲(127ミリ砲)をぶっ放ったのだ。巡視船は避ける暇もなく被弾、乗員を殺傷される。他の巡視船も同じように被弾し、炎上していく。

「あ、巡視船が!見た?」

「ああ。上に通報する。全艦、合戦用意!」


涼風の通報に軍は『来るべきものがきたか』と実感。ここに至って、上層部は海上保安庁の対処能力を超えるとして、自衛のための戦闘行動を容認。総理大臣も『やるからには徹底的にやれ』と通達した。ここに至って、日本に取っては一世紀近くぶりの艦隊戦が生起したのである。

「暁ちゃん、上から許可が出た!中国の連中を海の藻屑にしてやれ!」

「OK!酸素魚雷から替えたスーパーキャビテーション魚雷の威力を見せてやるわ!」


駆逐艦娘の魚雷は元来持ち合わせていた酸素魚雷から誘導魚雷へ代えられていた。それもスーパーキャビテーション現象を用いた超高速魚雷だ。威力面は空母を含めた現在艦に1,2発で大打撃を与える、もしくは轟沈を可能とするほど。主砲も艦娘用に再設計された現在形5インチ砲へ、電子装備も時代相応、対空装備も艦娘の意思で操作可能なCIWSが新規に開発され、装備された。今年度は予算の都合でミサイル装備は見送られたが、現在艦に伍する戦闘能力を与えられたのである。








「こらぁ〜!そこの中国船〜!よくもやってくれたわねぇ〜お返しよ〜!」

暁は36ノットという、この時代でも高速を発揮。中国船に肉薄する。速射砲を威嚇で5,6発ほど周囲に着弾させ、そのまま前方に陣取る。

「速射砲の餌食になりたくなかったらとっととウチに帰りなさい。その気になればあんたらを船ごと中国まで投げ飛ばせるわよ〜」

速射砲の砲身が中国船の艦橋に突きつけられる。艦娘の利点はアニメのロボットよろしく、三次元機動が可能なところと、第二次大戦型軍艦の特徴であった重装甲をそのまま引き継いでいるので、『当たる前に撃破し、万が一当ったらダメージコントロールで軽減しても打撃は必至』な現在艦と違って、一発の被弾で戦闘能力に支障をきたす程の打撃を被る事はまずない。

「どうします同志!」

「日本の言い分に従う道理はない。どうせ今回で『事』を起こすつもりだったのだ。艦娘とかなんだか知らんが、沈めてくれる!」

と、強気の姿勢の中国側は艦砲を暁に発砲する。暁はとっさにジャンプしてそれを避けつつ、空中から速射砲を食らわせる。現在艦のそれを同様のものなので、発射速度は元来持っていた12.7ミリ連装砲とは比較にならない。船体のど真ん中に命中した砲弾は中国船の船体内部で爆発し、まっ二つにへし折って沈没させる。これが事実上、戦後日本が初めて記録した『戦闘で艦艇を撃沈した』スコアであった。


そして、他の駆逐艦娘も参戦し、新たに装備した現在装備のテスト代わりに中国船を撃沈していく。

「酸素魚……じゃなかった、スーパーキャビテーション魚雷、一斉発射ぁ!」

吹雪である。酸素魚雷から変えられた魚雷の威力を確かめるべく、試し撃ちしたのだが、日本の最新技術で作られたそれは酸素魚雷がドンガメに見えるほどの凄まじい早さで中国船に向かい、ものの数秒で轟沈させる。

「やったぁ!フフフ〜今度こそ暁の水平線に勝利を刻むわよ〜!」





ガッツポーズを取り、転生後発初の戦果に喜ぶ吹雪。ここで大日本帝国海軍が信仰していた水雷戦隊戦術の妙を発揮できた事に喜ぶ。艦娘となった事で、かつての屈辱を貼らせたのだ。艦娘たちの活躍でこの衝突の勝利を得た日本。その数日後、マスコミに向けてこの衝突が公表されると、マスコミは当初こそは政権と軍を『先に手をしたのではないか』と批判したが、この戦闘を利用する形で日本に対し、中国が韓国と連名で正式に宣戦布告すると、そのような批判は吹き飛び、逆に中韓を非難する報道一色になった。ネットでは『現金なものだ』や『昔からまるで成長していない』との大手マスメディアへの批判も見られた。日本側の宣戦布告を行うかは協議中であった。






――国会議事堂 

「首相、マスコミの報道はご覧に?」

「うむ。現金なものだよ。一日で手のひら返しとはな……若い時にネットで見た言葉の意味がようやく理解できたよ。前の大戦の時に旧軍部に迎合していた時から成長していないよ……」

「軍を戦時編成へ移行させます。民間業者やアメリカ軍との連携を再確認させます」

「頼む。全部隊に戦闘態勢を通達、外務省を通して国連に非難決議案を出させるが、常任理事国が起こす戦争に対して効果があるか疑問だが」


「やらないよりはいいでしょう。国際社会への大義名分も建ちますし、左派の奴らも黙らせらせます」

「うむ。早急に行なわせる。奴さんも常任理事国の建前上、国連で協議の場に出せばすぐは本土攻撃は出来んだろう。昔の『まやかし戦争』のようにな」












この時期、政治家の世代が移り変わり、昭和50年代後半から60年代生まれが中堅を終え、ベテランに差し掛かっていた。この時の総理大臣は昭和60年代生まれで二人目の総理大臣。1980年代末生まれもこの時期には60代に入りたてになっていた。世代的には青年期から常に評価がわかれているが、ネットが普及し始めた時期に青年期を迎えた故か、ネットを活用した戦略を得意とする。しかしこの男の手腕は至って平凡と思われ、与党の重鎮らからも『コイツは良くて幹事長止まりだろう』と見られていた。が、前総理が汚職で辞職、逮捕された事で、政権崩壊を危惧した重鎮らによって、周囲からクリーンなイメージを持たれ、実際に若き日から政治的駆け引きによる成り上がりと無縁で生きてきた彼を抜擢する形で後任総理を決定、政権を維持した。意外にも、宰相としてそこそこ優秀であった彼はのんべんだらりと野党との討論を躱しつつ、なんだだんだで人気を維持、無事に二年目を迎えていた。そこに今回の事件の報が舞い込んできたのだ。


「総理、野党への答弁はいかがなされます」

「決まってるだろう?中国から宣戦布告を受けましたとしか言いようがない。国防大臣を通して、海軍と空軍に『こちらに非はない』事を示すための証拠写真の用意をさせるように指令を出し、アメリカ大統領にはこちらが正しい事を証明する声明を根回ししてある」

「あとはマスコミや国民へ私やあなたが説明すればいいだけですな」

「うむ。世論は紛糾するだろうが、やがて収まる。日本人は意外にちゃっかりしているからな……。仮想敵国だらけの状況で一世紀近く戦争と無縁でいられたのは米軍の力や、軍の努力が相なった奇跡のようなものだ。これで国民も平和は無条件で続くものではない事に気づくだろう……私の母がよく言っていたよ……『日本人はいざという時は上手くやっていく』と」

「でしょうな。前の時もそうでしたから」

総理大臣は官房長官にいう。『戦時』の招来が自分の時に来てしまった事への嘆きは見せず、むしろ達観、もしくは楽観的とも取れる発言であった。日本人の高い順応性は災害時や戦時でも変わらない。それは過去の事例が証明している。それを確認した時の内閣は正式に戦時への突入を決議した。

























――新聞やTV、ラジオ、インターネットなどの各メディアに『中国と韓国、日本政府に宣戦布告を通達』の文字が踊り、国民が戦争の匂いを自覚し始めた中、軍部は戦時体制への移行を行っていた。我が地方隊もそれは同じであった。

「それじゃ艦隊編成を発表する。第一艦隊の旗艦は当面は金剛にやってもらう。その他は比叡、高雄、愛宕、赤城、加賀、天龍、雷だ。第二艦隊以降は伊勢達の帰投を待って決める。……以上」







横須賀地方隊は艦娘の運用に宛てがわれたので、横須賀にいる通常部隊は多少の艦艇と補給艦などのみに絞られた。艦娘の増員が今後多数見込める事と、将来的に長門型戦艦や大和型戦艦などの大型艦が転生してくる事で、専用の実験施設や工廠の必要が出てくる見込んでの施設増設も来年度予算に含むようにと要請した私はこの日以降は艦隊訓練を重視する日程を組んで、艦娘達の平均練度を上げていった。他の通常艦隊の協力も仰いで共同訓練で新たに加わった比叡以下の金剛型姉妹たちの練度も上げていき、戦闘に備えたが、中国も韓国も不思議と軍の部隊による攻撃を自分から行うことはおよそ数ヶ月無かった。日本国防軍部隊の高練度と、未知の存在である艦娘によって極度の損害が生じるのを恐れたらしく、しばらくはお互いに表立っての行動を起こさなかった。



――その最中のある日

「HEY、提督。戦争が始まったというのに静かですネ」

「向こうも極度の損害が出るのを恐れてるんだろう。先進国で、しかも前大戦の反省でアメリカでさえ唸るくらいの防衛能力になってる日本に迂闊に手を出せば、どの国の軍も一定の損害が出る。例えアメリカであろうとも。それに奴さんの戦闘機は日本本土まで飛べない。中国は撃墜を避けるためもあるだろうが、韓国のは国境のある島まで行って戦闘するのもアップアップだ。財政が危ないのが続いたせいで空中給油機を買えない状態が続いたからな」

「なるほど〜ワタシの出番はマダですか?」

「駆逐艦達の平均練度がまだ規定レベルに到達してないから我慢だ。原子力潜水艦のノイズとかを覚えさせるための研修とかいろいろあるからな……」

「ム〜」

「そう拗ねるな。比叡たちも同じような状況なんだから。それに雪風に島風、翔鶴以降の空母に長門型に扶桑型、大和型……あの時の陣容考えりゃまだまだいない子ら多いしな」

「司令官〜研修終わって帰投したのです〜」

「お疲れ、電」

駆逐艦娘はこの日までに新たに村雨、初春、叢雲が加わったものの、まだまだいないほうが多く、本格行動は控えさせた。伊勢達が帰還したものの、第二艦隊の編成を考えるには至っていない。

「今の潜水艦、怖いのです〜!」

「駆逐艦なのに怖いって言っててどーすんだよ……ソーナーも装備もあの時とは違うんだぞ」

「でもやっぱり怖いのは怖いのです〜!」

電は私にピッタリとくっついて離れない。やはり狩られる側に終始あった帝国海軍駆逐艦勢には大小あれ、潜水艦への恐怖が染み付いてしまっている。潜水艦に屠られた駆逐艦は多いのは事実。電も潜水艦にやられた記憶がある。

「分かった。今日は私の部屋で寝るのを許可する」

「は、はわわ〜!ありがとうなのです!」

電は私に抱きつく。金剛はコレにムスっとなったが、金剛も一緒でいいというとすぐに起源を直してくれた。私がこの地方隊に来て、初めての至福の時間であった。途中で天龍、暁、加賀も加わり、結局私は床に寝る羽目になった。翌日、部屋に入ってきた榛名に「提督、これはいったいどういう状況なのですか
?」と言われ、これまた苦労するはめになってしまった。ああ、休暇とって家に帰ろうかな?



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