艦むす奮戦記
第八話


――ある日、私は戦後の記憶を持つ隼鷹、秘書艦の金剛、響、そしてぎっくり腰を完治させた長門を呼び、極秘の協議に入っていた。それは……。

「みんな、これを見てくれ」

「提督、なんなのだ、これは?特秘事項というのは……しかも旧連合艦隊司令部のものではないか」

怪訝そうにその資料に目を通す長門。その顔が段々と驚愕に染まっていく。それは1943年頃の旧連合艦隊が実行し、終戦後も秘匿していた一級軍機を更に超えた『特秘事項』が書かれていた。そこには大和のアイデンティティを一発で崩壊させかねない事項が書かれていた。


「私達、大艦巨砲主義の真の精鋭……大和が更に赤子に見える超弩級戦艦デスカ……まさか作られていたなんて」

「しかしマル5計画は破棄されたはずだ……なぜこのような事が……」

長門は驚愕しきった顔を見せる。そこには、公式記録上は完成もしていないし、存在し得ないはずの軍艦が『作られていた』という事実が記されていたからら。その名も超大和型戦艦。真実ならば大和と武蔵すら凌ぐ存在となったはずの軍艦だ。

「新たに発掘された開戦前と1943年次の鉄の貯蔵量を記した資料と、この書類で存在が確認された。1943年次からの最後の二年でこれまで考えられた以上に資材を消費していた事が分かった。何故、開戦前に太鳳の二番艦が立ち消えになって、戦中に別型扱いになったかの真の理由がこれだ」

「そうか、全てはコレを建造するために……でも提督。大和を凌ぐ軍艦を作るには、あの時の工業力では優に4年はかかる……コレが事実としても、終戦には間に合わなかったはず」

「そうだ。その資料に書かれてるドックは大神の地下にあった。調査班が入った時には終戦後に放棄された時のままで朽ち果てていた、最終艤装中の戦艦が発見された。回収され、今は博物館船に転用する計画が立てられている。何せ100年もの間放置されたままだから、あっちこっちが経年劣化でボロボロだったらしい。都市伝説はおそらく、口伝で伝わる内に変化していったものだろう」



――この日本には、都市伝説がある。『旧日本陸軍または海軍が終戦時に秘匿した最終兵器がどこかに眠っている』と。ネットが普及した後の時代にも取り沙汰された。だが、戦後の人間たちは最終兵器を『核兵器』と考えがちで、与太話にすぎないと片付けていた。だが、確かに最終兵器はあった。『史上最強となるはずだった未完成の戦艦』として。

「お前達を呼んだのは、この超大和型戦艦が艦娘として生まれいでる可能性が出てきたからだ。朽ち果てた屍が発見された以上、転生しているのは考えうることだ。」

「しかし提督、そいつが大和を超えるというのをどこで判断したのだ?」

「長門、主砲の項目をよく見てみろ」

「何々……ご、ご、ご、ご……51cm砲だと!?」

「実際に開戦前に試作されていたモノの写真が残されていたが……完成していたのさ」

「20インチ砲……大和のあれがおもちゃに見えますネ……しかも三連装四基なんて。でもこんな大型艦、呉や横須賀でさえ整備も出来ませんヨ!?」

「だから海岸に近い地下に開戦前からコツコツと専用ドック作ってたんだろう。大艦巨砲主義者の足掻きとして」

「しかしそれでは艦政本部は大和が不沈ではないと自覚していた事になるぞ!?」

「自覚していたさ。開戦の時、用兵側は航空戦力が主戦力になることを見抜いていた航空重視派閥、日露戦争から延々と続いた大艦巨砲主義至上主義派閥に大別されていた。開戦前は後者が主流だったが、真珠湾で航空戦力が大活躍したおかげで大艦巨砲主義は一夜で時代遅れになっちまった。花形だったはずの戦艦砲手はミッドウェー直前の時期には陰口叩かれる存在に堕ち、日露戦争後から延々と積み上げてきた伝統は否定されていた。長門、お前だって自覚あんだろ?」

「あ、ああ……」

「おそらく、あの宮様を担ぎあげていた一派が空母機動部隊が自分たちを奈落の底に追いやるのを認められなかったんだろう。それで護衛艦や空母に使う予定の鉄をちょろまかしたんだろさ。それでどうやって知ったんだ?提督」

「当時のそのドックの管理責任者の懺悔というべき手記が残されていて、それで判明した。ドックの責任者は自分達の願望のせいで皇国を破滅させた事を悔いて、部下ともども自刃している。8月14日の時点で艤装は70%に達していたらしい」

それは暗に、かの大艦巨砲主義者であった宮様の威光を利用していた派閥が帳簿をいじくり回して、空母と海防艦整備を妨害していたという情けない有様であったという事を示していた。戦争中の整備計画は後世から『作れないのに、書類上の数を増やしただけ』とされているが、実際の当事者たちは『作れる見込みがあった』から計画を立てていた。だが帳簿を弄った行為は国賊と言われても仕方がない。結果、戦争そのものの敗北を招いたのだから。

「複雑だったろうな。自分達は皇国を救えると信じて、極秘に作ってたのにその前に破滅したのだから」

「大和型の戦訓で、全体防御が施されたらしく、完成していれば満載排水量で12万トンに達するはずだった。残骸調べると主砲塔は備え付けられていたが、細かい対空火器や電探はついていなかったらしい」

「で、終戦と同時に闇に葬られたという訳デスカ……」

「そうだ。いいか?これはお前達と俺だけの極秘事項だ。軍も発表していない。表向きは『未成状態の大和型の残骸が発見された』として発表予定だ。くれぐれも大和に言うなよ。自分より強い戦艦が生まれる予定だったなんて知れば精神的に立ち直れん可能性がある」

「了解」



――この事項は大和にも伏せられ、私と私の特に信頼する艦娘のみが知り得た。これは大和は坊ノ岬沖海戦の時の連合艦隊司令部に不満こそ漏らしてはいないが、死への片道切符を切る事を主張した神重徳大佐を心底憎んでいるであろう事は容易に想像できる。大和は坊ノ岬沖海戦の直前は捷一号作戦を考え、武蔵を、瑞鶴を、金剛を死なせた彼が地獄に落ちるのを望んでいたとさえ吐露したと隼鷹が報告した時、それは確信へ変わったと話す私に、長門は悲しげな顔を見せた。

――矢矧、酒匂……お前たちがいれば大和の心を救えるのに。私は先代の連合艦隊旗艦でありながら……無力だ……。

長門は連合艦隊の文字通りの最期を味わった。大和が連合艦隊の崩壊を決定づけた作戦を練った参謀を憎んでいることに、『大和の幼い故の怒り』を感じ取ったからだ。長門は1945年次には既に25年の艦齢を誇ったが、大和は坊ノ岬沖海戦時でさえも5年未満だ。子供同然であった大和には、栄光の連合艦隊が瞬く間に崩壊していった1944年からの最期までの光景はトラウマでしかないのだろう。長門はまだ見ぬ阿賀野型の三女と四女に向けて、心の中で嘆いた。













――後日。

「武蔵……なのか?」

「久しぶりだな、長門」

この日、長門は休暇を取って街に繰り出していた。そこでまさかの再会をしていた。大和の実妹である武蔵である。名前と裏腹に、眼鏡をかけた、一見してインテリ風の服装は、姉と全く似ていない。褐色の肌であるのも手伝って余計にその印象を強めている。

「お前、何をして生活していた?」

「記憶が蘇える前は学生をしていた。お前も似たようなものだろう?」

「うむ」


――軍艦から生まれ変わっても、すぐに軍艦時代の自我と記憶が蘇るとは限らないと武蔵は言う。間宮のように、市井の生活を一定時間過ごした後に、艦娘である事を自覚する者、金剛姉妹のように、すぐに軍艦時代の記憶などが蘇った者と、個人差があると。

「お前はいつ、自覚した?」

「去年の10月だ。ちょうど私が沈んだ日、猪口艦長がシブヤン海で私と運命を共にする時の夢を見てから『目覚めていった』。数ヶ月もすれば戦艦武蔵としての記憶が完全にはっきりし、艤装も展開できるようになった」

「そうか…。大和がお前のことを気にしていたぞ?シブヤン海の時のことを……」

「私はあの時のことは気にしていない。むしろ、お前達と共に戦えた事を誇りに思うさ。だが、大和のやつは結構見かけによらず精神的に熟達していないところがあった。我が姉ながら、心配させる奴だよ」

長門は武蔵が生まれ変わっていて、軍にまた属してくれる事に安堵した。隼鷹から『大和は武蔵の最期を看取れなかった事を悔やんでいる』と聞かされていたからだ。武蔵は大和より精神的に熟成しているように思えるのは、恐らく、古賀峯一大将などの影響を受けた側面があるのだろう。

「長門、付き合ってもらえるか?」

「あ、ああ。構わんが、何をする気だ?」

「クルージングだよ。タクシーぃ〜!」

「し、しかし……ってこら!押し込むな!」

「港まで頼む。連れと見に行きたいもんでね」

武蔵はタクシー乗り場に待機していたタクシーを呼び、長門を乗せて港に向かった。港につくと、艤装を展開し、海に入る。しかしここで長門は驚いた。艦時代のサイズになると思いきや、人間サイズのままだからだ。

「何ぃ!?武蔵、それはどーいうことだ!?説明しろ!」

「私も最近制御できるようになったんだが、
どうやら私達には、艤装展開状態でも、ある一定の範囲でサイズを制御できる能力があるらしい。その態度から察するに、気付いたのは私が最初のようだな」

艦娘という存在はまだまだ謎が多く、艦娘自身でもよくわからないところが多々ある。武蔵は市井の生活をしている内に、その未知の領域の一端に気づき、制御下に置いたのだろう。これは軍事的意味で大いにメリットである。艦娘はフルサイズでは、駆逐艦といえども100mを超える。これでは隠密行動には向かないと頭を悩ませていたからだ。

「ど、どうやってやるんだ!?コツは!?」

「知らん!気がついたらできていたからな……為せば成る!」

「無責任な〜!ええい、ままよっ!」

必死に念じながら艤装を展開しつつ飛び込む。近代化の途上なので、新造された連装砲の他にはCIWSとVLSがつけられているし、電探も新型だ。目をつぶっている辺り、怖いのが伺える。


「……お、おおおおおおおおお〜!できたぁ〜!」

目を開けてみると、視線はフルサイズ時の215.8mの巨人でなく、人間サイズのそれのままである。小躍りしながらガッツポーズを取る。戦時中故か、港には人気はない。

「お前の速度は何ノットだ?」

「25は出せるか?」

「よし、二、三日もあれば中国近くの日本海に出れるな」

「お、おい。何をする気だ武蔵!?」

「決まっているだろう。中国海軍にご挨拶と洒落込むのさ」

「ま、待て!もう日本海にはイ号の奴らが送り込まれている!お前が出て行っても目立つだけだ!」

「心配はいらん。大和はすでに顔バレしているが、私は公的には『いない』し、顔バレはまだしていない。それに、私の存在自体を知っているものが敵にどれだけいる?」

「そ、そうか!お前は一級軍機であった上に、今は大和しか有名でない!」

「そうだ。敵を殲滅してしまえば目撃者はいなくなるし、敵は大和を注意しているが、私まで考えは及ばんだろう」

――そう。世の中は戦艦大和をよく記憶し、連合艦隊悲劇のシンボルとして著名だが、武蔵は『ミリタリーに詳しければ分かる』程度の知名度だ。その証拠に、この時代においてでさえ武蔵の骸の調査はされていない。そこを突くのだろう。

「ち、ちょっと待て!味方の船に喧嘩売られても困るから、提督に連絡する」

長門は艤装に備えつけられた衛星通信で地方隊に連絡をとった。味方に誤認されて撃たれるのは御免被るからだ。

『提督か?私だ』

『おー長門か。お前、今どこだ?』

『海だ』

『海?泳ぎに行ってるのか?」

『いやあ、そのぉ。今、隣に武蔵がいてだな』

『武蔵だと!?どういうことだ説明しろ!』

『実はカクカクシカジカで……」

『……分かった。今、こっちに瑞鳳と龍驤が着任したから吹雪と響をつけて、そっちに送る。指揮は近代化が一段落してるお前が取れ。ただし事前に俺に報告なしだから、帰ったら始末書は書けよ。武蔵は識別表に登録しとく』

『分かった』

長門は始末書を書く羽目にはなったが、これで一応の承認と味方識別に武蔵を追加させる事に成功。臨時で威力偵察も兼ねて、日本海へ向かった。



――合流地点

「わ〜久しぶりやで武蔵!龍驤や!」

「おお、龍驤!お前と瑞鳳はどうやら能力を制御できるようだな」

「まぁ記憶が戻るまで紆余曲折あってなぁ……司令も驚いてたで」

「ん?ちょっと待て、龍驤。お前、ちゃきちゃきの関東人だろう!?なんで関西弁なんだ!」

「艦歴はそうなんやけどなぁ。生まれ変わってからは大阪方面に住んでたもんやから、こうなってたんや」

龍驤と瑞鳳は共にミドルティーン的な風貌である。服装などに船時代の特徴がどこかかしらに反映されていた。だが、龍驤は艦歴が横浜建造の横須賀所属であったはずが、ちゃきちゃきの関西人的口調であるという事に武蔵は不服そうだったが、武蔵とて長崎生まれの佐世保所属であったりするので、吹雪の提言でツッコミはなしになった。


――翌日 日本海

「艦載機飛ばしたら客船が遭難してると報告が入りました!」

「客船だと?場所は!」

「ここから割と近い海域です!報告だと船体に穴が開いてるらしいです!」

「よし、急ぐぞ!」


1日ほど航行し、瑞鳳がひとまず改装前なので、持ち合わせの艦載機(九九式艦爆)を飛ばして偵察に行かせると、数時間ほどで成果があった。現場に行くと、イギリス籍の豪華客船(9万トン級)が遭難していた。だが、明らかに何かに攻撃された形跡があり、余りにも不自然なのが否めなかった。

「う〜む。これは明らかに雷撃された跡だな……瑞鳳、乗員から話は聞けたか?」

「はい。船長の話だと、潜水艦か何かから雷撃されたとしか考えられないそうです」

「浸水は止まっているのか?」

「はい。今の豪華客船は浸水対策がすごいですからね。武蔵は外で見張りを。私は乗客と船員にもっと詳しく話を聞いてきます」

瑞鳳は船内に乗り込み、聞き取り調査を続けた。そこで船長から話を聞く事ができた。

「船長、日本海軍から救援活動に来たと」

「通し給え」

「失礼します」

「OH……君が『日本海軍の秘密兵器』と言われる『shipgirl』かね」

「はい、私は空母瑞鳳です。故あってこのような格好で失礼致します」

弓道着を着込んだ瑞鳳は敬礼する。見かけと反比例して大人びた態度を見せる彼女に、船長は関心した素振りを見せた。


「どのような事が起こったのです?」

「今から15分ほど前。魚雷がこちらに向かっているのを確認し、回避運動に務めた。だが、一発が命中し、浸水が発生した。一旦速度を落として排水と、ダメージコントロールに努めていたが、思ったよりダメージが大きい」

「艦艇攻撃用の魚雷が当たれば、装甲を持たない民間船は下手をすると轟沈しますからね。仲間が今、安全圏まで曳航します。受け入れ態勢を整えさせてください」

「分かった」

豪華客船は排水量が九万トンはある。それを少女たちが曳航しようというのだ。船長は不安だったが、長門と武蔵は事も無げに艤装に曳航用ロープを接続し、瑞鳳の合図で曳航を始めた。

「どっせい!」

ブリッジにいる船員全員が目を丸くした。『人が豪華客船を余裕で曳航する。しかも専用の機器を持たないで己の力で引っ張る』というのに驚愕の至りだが、長門は82000馬力、武蔵に至っては150000馬力ものパワーを誇る。そのため、たとえ自身の艦時代の姿よりも巨大な船であっても曳航は余裕だ。問題は制空権を争う海域に客船がいたがために、敵機の襲撃を受けないか、である。

「龍驤、上に空軍の出動要請を出せ。お前らの手持ちの艦載機では制空権は取れん」

「改装前だから零式とかしかないし、しゃーない。連絡とるで」


長門に促され、龍驤は上層部に連絡を取る。民間船救出は本来は海上保安庁の管轄であったが、戦時中に軽武装の海上保安庁の巡視船が軽々しく出て行っても撃沈されるのが関の山であるため、最近は国防軍が任務を代行していた。無論、この決定は海上保安庁を激怒させたが、軍相手に立ち回れるほど彼らの力は大きくなかった。元来は戦後、予定されていた軍解体後に日本の領海警備任務を引き継ぐ予定で終戦後一ヶ月で設立されたに過ぎなかった組織故と、軍が存続した故に、存在意義を問われる事も多々あり、歴代の巡視船の能力は軍隊のフリゲート艦や駆逐艦らに劣った。20世紀終わり頃から次第に強化されてはきたが、現・総理大臣は中国軍の容赦無い攻撃で海上保安庁艦艇が極度に失われ、左派政党による政権攻撃に使われるのを恐れ、海上保安庁の活動を当面は縮小すると決定した。その影響で、軍隊が海上保安庁の一部任務をも代行しているのだ。

――地方隊

「空軍司令官ですか?海軍の……であります。空軍に出動を要請いたします。……ハッ。ありがとうございます」

「提督、ご苦労様デース」

「コレで空軍の連中の顔は立てた。ウズウズしてるらしいからな」

「そういえば空軍っていつからあるんデスカ?」

「戦後に軍を再編する過程で、生き残った基地航空隊の連中がQHQ指令で統合、再編と独立させたのが始まりで、日本の国力が復興するに従って大きくなった。今じゃ昔の陸軍飛行戦隊や、海軍基地航空祭とも違う独自のドクトリンを確立させた。ただ共通してるのは『最高の戦闘機を持ちたい願望がある』ことさ」

――日本国防空軍は20世紀後半を通して、米軍のライセンス生産機を主力としてきた。だが、21世紀初頭に当時の米議会が日本に最新最強を誇った機種のライセンス生産を露骨に渋り、遂には自国で独占してしまった事をきっかけに自主開発を推し進めた。その成果の一つが現在の空軍主力機である。

私はこの日に休暇開けで仕事に復帰した金剛に空軍の機体の写真を見せた。姿は往年の第4世代ジェット戦闘機を連想させる流麗なものだ。これは米軍の第5世代機がステルスを過剰に重視しすぎたがために、搭載量に弊害が生じて用兵側が満足するような攻撃力が持てなかったことを憂慮した日本軍部の行き着いた答えは『前進翼戦闘機造ろうぜ!』であった。これは某ロボアニメのファンが軍部に多かったためもあり、当時最新最強の高推力エンジンを載っけてカナード翼と推力偏向ノズルをつけた結果、ジェット機としては破格の機動性能を得るに至った機体だ。

「なんかSFチックデスネー」

「SFアニメのやつを今の技術で大まじめに作ったって感じだ。機銃も四門装備、ステルスは最新のアクティブステルスを試験的に採用。空軍ご自慢の逸品さ」

この時期、次世代のステルスを日本は実用化に成功していた。アクティブステルス。能動的にレーダーを妨害する電波を出すなどの方策でレーダー妨害を行うもので、これにより、機体設計の自由度が第4世代機と同等にまで回復したという。空軍はこの機体のお披露目を伺っており、今回が初陣と相成った。


――岩国飛行場

ここには旧・第三三二海軍航空隊を前身とする航空隊が配置されていた。この基地は21世紀初頭には軍民共用空港になったが、今度は交通機関が整備されすぎて空港が余ってしまい、結局は再び軍事基地へ専念するようにされたという経緯がある。その名残りが今なお残るこの基地には、その機種が配備されていた。

「艦娘の要請だ!いいところ見せろよ、お前ら。帰ったら酒おごるぜ」

「了解だ!管制塔、ガンマ1、テイクオフ!」




――真新しい、前進翼を持った流麗な灰色の機体がエンジンを唸らせ、離陸していく。それは空軍でもまだ厚木、岩国、松山などの大戦中から伝統的に局地戦闘機を保有していた部隊の基地にしか配備されていない、新鋭機。それが一個飛行中隊で離陸する。それは艦むす達に空軍の力を見せるデモンストレーションも兼ねていた。



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