-IS学園で繰り広げられる死闘。それは正に『正と邪』の争いと言っていい。バイオライダーとなったRXはその能力で残りの無人ISを翻弄。いや、もはや反則的でしかない。射撃武器を一切無効し、自在にゲル化できるというのは。


無人ISに加え、量産型ZXの最後の生き残りに襲われていた楯無はIS“ミステリアス・レイディ”と自身に相当な深手を負っていた。量産型ZXは射撃武器にはISと同等以上なほどの防御力を誇っており、ISの攻撃力でも倒すのは至難の業であった。それとコンバットノイドはZXと同等の武器を持っているのも大きく、無人ISを退けた直後の襲撃だったのも災いし、出力が低下しているのか、装備の一つ“蒼流旋”を以てしても一向に削れない。そこに『出力低下』との表示が出現する。

「出力低下……っ!?どうして……?」

ISの動力は通常、攻撃力低下が起きるような出力低下は起こさないはずである。損傷が動力伝達系統に及んだのか、それとも……。更にそれに搭載されるガトリングガンを撃ってはいるが、まったく堪える様子はない。敵は異形としか言いようのない姿。しかもその力は化物としか言いようがなく、螺旋回転する水流の勢いが弱まったその瞬間であった。


――なっ……!?

量産型ZXが蒼流旋に“一個”の爆弾を設置、起爆させた。衝撃波と爆発のエネルギーは操られたように、楯無にだけ炸裂し、彼女のISの防御装甲を無残に破壊していった……。









――さて、グレートマジンガーとゲッターロボ號の対決は白熱を極めていた。フィールドを縦横無尽に駆け巡る両機。身長25Mのスーパーロボットが大地を揺るがし、空に紫電を散らす。

「ブレストバーン!!」

「ぬうううう!」


グレートマジンガーの超兵器が摂氏50000度の超高熱を以てゲッターロボ號を襲う。その様子を引き続きモニターしている織斑千冬と山田真耶だが、グレートマジンガーとゲッターロボ號の見せる必殺技の数々はもはや兵器としての範疇を遥かに超えたものであるため、千冬と言えども驚きを隠せない。

「あの熱線の温度は50000度を優に超えてます!見てください、当てられたあのロボットの周囲の地面がガラス化していきます!」

「50000度だと!そんな高熱に耐えられる金属がこの世にあるというのか!?」

そう。この時代の金属ではISのアーマーでもそのような超高熱に耐えられはしない。太陽の表面温度でさえ6000度あまり。それの10倍近い温度を持つ熱線が放射されれば、地面がガラス化するのも当然であった。グレートマジンガーの超合金ニューZは当然ながらマジンガーZでも勝てない敵の攻撃に耐えるために超合金Zを更に硬化して生み出されたた。耐熱性・耐弾性・強度共に超合金Zよりも高次元の性能を持つ。なのでこのような芸当が可能なのだ。

「あ、青いロボットが装甲の一部を別ユニットにして、分離しました!」

「合体変形……か。もうここまで行くと昔のTVアニメでも見てる気分だな」

千冬はゲッターロボ號の合体変形システムを昔のTVアニメのようだと称した。合体変形というのは昔から男子が喜ぶ、『遊び心をくすぐる』ポイントである。千冬はどちらかと言えば、リアルロボット系のアニメのほうが好みだったが、それでも変形合体は見受けられるが、あれと比べれば単純かつ現実的なものだ。なのでゲッターロボとしては現実的な合体変形を行うゲッターロボ號も、いささかアニメ的なのであった。


「あ、赤い二番機が編隊の先頭に立ちました!合体変形を行うつもりのようです!」

「先頭の機体を組み替える事で別個の特性を持つロボットになる……アイツの言うことは嘘ではない、か。山田先生、データ収集を続けてくれ」

「分かりました」

ゲッターロボ號のデータ収集に取り組むIS学園の教師陣。しかし、ゲッターロボの名を冠するだけあって、その変形合体は度肝を抜くものであった。



「チェェンジ!!ゲッター翔!!」

機首がドリルになっている二番機を先頭にゲッターチェンジを敢行するゲッターロボ號。その第二形態が姿を現す。腕にドリルを付け。女性的なフォルムを持つゲッター“翔”へと。


「ゲッター2系!?甲児くん!あれはやばいわよ!」

「わかってる!ゲッター2系とは初めてなんだけどよ、隼人さんの動き見てるから分かるよ」

楯無達を助けに向かう途中の圭子がゲッター翔への警戒を甲児に促す。甲児もゲッター2系統が高速戦闘を得意とする事は長年、ゲッターチームと共に戦ったためにその恐ろしさは熟知していた。それは的中し、ゲッター翔は圧倒的なスピードを以てしてグレートマジンガーに迫った。



「トルネードアタック!!」

ゲッター翔の腕のドリルが超高速回転をしだし、機体も回転運動を行う。こうする事で貫通力を増し、あらうるものを竜巻の如く粉砕する。それ故にトルネードアタックと呼ばれているのだ。

「うぉおおっ!回避は間に合わねぇ!こうなったらあれだ!マジンパワー!」


この時、甲児は機体を一端、壁を使って隠れさせていたのだが、グレートマジンガーとゲッター翔を隔てていた幾つかの特殊合金製の壁をトルネードアタックで強引に破壊しつつ、迫ってくるゲッター翔のドリルを真っ向から受け取めるため、マジンガーの全てに備わっている一時的なパワー増幅機能であるマジンパワーを使用した。その時、グレートマジンガーの全身から一時的にであるが、エンジンに封じ込めきれない光子力エネルギーが装甲を通してオーラとなってグレートを包み込んでいた。この光景を目にしたセシリアはこう呟いたとか。


「あのロボット……あの方達は“スーパーロボット”と仰ってましたが……将来、人は本当にあのような鉄の勇者を造れるようになるんですの……?」と。

これがセシリアの“偉大な勇者”に対して漏らした気持ちであった。忽然と出現したヒーローと巨大ロボットのコンボに混乱する間もなく、巻き起こった戦い。来訪者達がもたらす情報。何もかもが信じられない事の連続。事が落ち着いたら更なる情報がもたらされるだろう。たとえどんな情報でも受け入れる覚悟はできている。グレートマジンガーの勇姿を見上げながら、そう独白するセシリアだった。そして、ややあって、甲児はグレートマジンガーの最大技である、ダブルサンダーブレイクを使った。マジンパワーを発動させた状態でサンダーブレイクを起こしたので、威力は通常時の倍以上であった。

「ダブルサンダーブレイク!!」

グレートマジンガーの指から誘導された、秒速500万V以上の電撃はゲッターロボ號の搭乗者を丸焼きにし、完全に沈黙させる。ゲッターロボ號は糸が切れた操り人形のように、その場に倒れ伏す。対決はグレートマジンガーが制したのだった。


「ぬぬぬ……おのれ兜甲児!そしてグレートマジンガー!!この恨みは必ず晴らしてくれるぅぅ〜!!覚えておれぇ〜〜!」

あしゅら男爵は甲児がマジンガー、それもグレートマジンガーを持ちだしてくるのは予測はしていたもの、グレートマジンガーの戦闘力を見誤っていた事に、思わずいつもの恨み節を吐きながら撤退を決断し、残存兵力を引き上げさせた。ゲッターロボ號を失ったのはかなりの痛手。彼にはお叱りが待っているだろう。

「へへーん!おとといきやがれってんだ!」

甲児もいつもの江戸っ子気質の口八丁で啖呵を切り、セシリアに対してグレートマジンガー越しにサムズアップをしてみせた。










――簪は姉の救援に赴いた。が、そこで見たのは無残にアーマーを破壊された姉の姿であった。



「いっ……いやあああああ!!お姉ちゃん、お姉ちゃんぅぅ!」

簪はその無残な光景に悲鳴を上げる。アーマーを破壊され、血を流して倒れ伏す姉の楯無と、姉を倒した張本人であろうバッタを思わせる仮面を被った怪人が簪の瞳に大写しとなる。姉を失うかもしれないという恐怖、姉を傷つけられた事への怒り。

「……さない、絶対に許さない!!」

怒りが次第に大きくなっていった彼女はそれらが入り混じった激情に駆られた簪は量産型ZXに向けて武器である荷電粒子砲“春雷”を乱射しまくった。その着弾を確認すると、薙刀を振りかざして一気に両断すべく、突進した。が、その簪の怒りは無力であった。

「あ、ああああ……!!?」

――無傷、いや、多少の傷があるもの、みるみるうちに修復されていくのだ。これに簪は言葉を失った。そして、薙刀を振り払われ、マイクロチェーンよって逆に拘束され、電撃を流される。それも防御をも超える強力なものを。

――……そん……お姉ちゃん……!

意識が遠のいていき、自らの無力さを、姉を助けられなかった事を嘆く簪。しかしそんな彼女を救ったのは一夏であった。

「悪い、遅くなった」

「お、織斑くん……?」

「……ああ。コイツを抑えるぞ!」

「で、でも!」

「大丈夫だ、みすみすお前や鈴達をこんな化け物にやらせる訳にはいかねぇ。みんなは……俺が守る!」

その時、簪には姉が笑いかけてくれていると思えた。少なくとも簪にはそう思えた。彼女はこの時、確かに更識楯無の妹という自分を取り戻したのだ。

――一夏と簪は立ち向かった。が、相手は雑兵とは言え、この時代の科学を超越したテクノロジーで生み出されたサイボーグである。そのため、ある意味意表を突かれる攻撃の連続であった。衝撃集中爆弾、電磁ナイフ、十字手裏剣、マイクロチェーン……。まるで忍者を思わせる隠し武器の連続である。


――クソッ!体中に武器を仕込んでるなんて……忍者じゃあるまいし!

電磁ナイフで白式のアーマーに切れ込みを入れられる。ISのシールドを突き抜けてくるあたり、智子らの言葉は嘘ではないらしいと思わず舌打ちをしたくなる。その隙を簪が突く。

「この山嵐から逃れられる……!?」


彼女のIS“打鉄弐式”の持つ最大武装、複数のミサイルポッドから高機動ミサイルを一斉掃射する、山嵐。狭い空間で食らえばサイボーグといえど、ただではすまない。一夏が退避したのを確認すると、ミサイルを一斉掃射した。ミサイルは本来の全自動制御ではなく、マニュアルでの制御とは言え、高機動を以てして、痛撃を与えた。

「……!耐え切った…!?」

驚く簪を尻目に量産型ZXが衝撃集中爆弾を取り出そうとしたその瞬間であった。更に上空からRXらが駆けつけた。

「させるかぁ!飛天御剣流“龍槌閃”!!」

先陣を切ったのは智子であった。この時にはモノにしていた飛天御剣流の唯一の技である龍槌閃を放つ。これには一夏も驚きの一言であった。何かオーラは纏っているように見えたが、普通の大太刀でサイボーグの腕を切り裂いたのだ。

「行くわよ鈴!」

「Ok!……って何よその馬鹿でかいライフルは!?」

「何って、旧日本軍の対戦車ライフルだけど?」

「は、はいぃ!?」

圭子は飛び降りながら、軽量化改造を施した九七式自動砲を放つ。見かけはオリジナルと変わりないが、炸薬を高性能な後世のものに変えるなどの改造が施してある。それに圭子の魔法力が加わって、遥かに威力が向上している。それに鈴の衝撃砲を加えて攻撃する。そして止めは。


「リボルケイン!!」

RXの伝家の宝刀“リボルケイン”である。この光の剣状のスティックはRXの無敵の必殺技である。これを食らって生きて帰った者はまずいない。高空から急降下してそのままぶっ刺してエネルギーを注ぎ込み……引きぬいてRXの文字を描きながら決めポーズを決める。これはもはやお約束である。量産型ZXは小型核融合炉を貫かれ、何も抵抗できぬままその生命反応をこの世から消し去った。リボルケインのエネルギーが核エネルギーと反応し、大爆発を起こし、強烈なクレーターがアリーナにできる。


「どうやら間に合ったみたいだな」

スゥっとバッタを思わせるRXの姿が一瞬光に包まれ、南光太郎のそれに戻る。驚く簪に彼はニコッと笑いかける。その姿は簪も見かけた、南光太郎だ。


「こ、光太郎さん……?」

「……ああ。一夏君や、君の姉さんには悪いけど、美味しいところを持って行っちゃったな」

光太郎は簪と一夏をねぎらうと、重傷を負って倒れていた楯無の無事を確認する。

「大丈夫だ。楯無ちゃんの命に別状はない。ISが守ってくれたようだ」

「よ、よかった……」

「光太郎さん、向こうのほうも終わったみたいです」

「甲児くん、マジンパワーでサンダーブレイク使ったな」


ダブルサンダーブレイクが炸裂したと思われる閃光と轟音が見えた。グレートマジンガーが勝ったようだ。そしてややあって、ゲッターロボ號を運んでくるグレートマジンガーの姿が確認できる。どうやらサンダーブレイクでパイロットだけを死傷させたらしい。


「ふぅ……手強い奴らだったぜ」

「あしゅら男爵は?」

「逃げたよ。ありゃブライ大帝や闇の帝王に叱られるだろう。で、グレートを収容できるスペース無いか、IS学園に問い合わせてくれない?敵の攻撃で無線がやられちまって」

「今、問い合わせる」

この日の戦闘でのグレートマジンガーの存在は流石その場にいた者らには隠し通せないので、甲児の要請で、この場にいた者らには箝口令が引かれた。後日、改めて甲児らによって箒と縁が深い面々に説明が行われた。

「まず一つしつも〜ん!あのスーパーロボットの装甲は何なのかな?」

「俺達の世界での富士山の裾に貯蔵されてるジャパニウムっていうレアメタルを加工してできる合金。格子欠陥の無い性質があるからとにかく頑丈な合金ッス。だから超合金って呼ばれてます。グレートマジンガーに使われてるのはその第二世代型の超合金ニューZです。思い切り頑丈だから戦艦の主砲も跳ね返しますよ」

束からの質問にそう答える甲児。高威力の攻撃を食らいまくったのに関わらず、グレートマジンガーは装甲に少しの凹みも見られなかった事にさしもの束も驚きを隠せないようだ。

「質問!あんた達の世界じゃあんなのが思い切り流通してるっていうけど、どういう世界なの?」

鈴からのこの質問には甲児達は映像を見せたかったもの、不幸にも映像を再生できる機器を甲児も智子たちも持ち合わせていなかった。なので圭子が本を書くための資料として持っていた、戦争写真を幾つか掲示した。一年戦争やグリプス戦役などの写真である。そこにはザクや初代、Zガンダムなどが写っているので、未来の戦争という雰囲気がよく出ているが、ロボットが戦争の主役であるというその光景はいささか現実味に欠け、最初はプラモデルのジオラマではないかという意見も出たほどであった。

「このヒーローチックなのは?」

「これはガンダムって言って、代々地球連邦軍のフラッグシップ機として扱われてる超高級機よ。ミノフスキー粒子っていう、レーダーを阻害する性質の粒子が戦争に利用されたおかげで、戦争の形態が第二次世界大戦の空中戦みたいなレベルにまで戻ったのよ。それで考えだされたのがこのモビルスーツって呼ばれてるロボット。これの影響で戦闘機も変形するのが当たり前になったの」

この辺は圭子が説明する。歴代のガンダムを初めとする、モビルスーツや可変戦闘機によって戦争の様相が変化していった未来世界のことを。ビーム兵器は当たり前、BT兵器のようなオールレンジ攻撃端末も存在し、最も強力な部類の機体では東京やニューヨークなどの世界都市の一日の消費電力量に相当するエネルギー量のビームを撃てるものも存在するという言に、IS学園側の誰もが、天才を自負する篠ノ之束ですらも開いた口が塞がらないようだ。

「そんな凄い量のエネルギーを発生させられるエンジンがあるんですか?」

「基本的にモビルスーツはレーザー核融合炉よりも高効率のミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉を使ってます。つまり高出力の小型核融合炉です。放射能とかの問題が解決されててるんで、人類史上最も安全な核エネルギーです。なので木星とかが重要な資源供給地になっています」

「木星……というとヘリウム3か?」

「ええ。あれが23世紀じゃ重要資源です」

千冬も核融合炉のエネルギー源としてこの時代から知られるヘリウム3ガスの事を知っていたので、それが重要な資源となっている事は予想の範囲内だったようだ。その後も説明は続けられ、宇宙戦艦ヤマトの事、歴代の仮面ライダー達らヒーロー達の事……南光太郎が仮面ライダーBLACKRXであり、その体はもはや通常の人間とも、一般的な機械式のサイボーグとも異なる改造人間としても異質な存在となっていると説明されると、一同は言葉を失ったとか。また、当然ながら箒の消息についても伝えられ、箒に会いに行く、もしくは合流する人員を一人は必要だろうと判断した千冬の判断と、上層部の承認で代表一人が派遣される事になった。
立場上、動けない千冬や一夏、重傷を負っている楯無、下手に動くと各国を刺激してしまう束もこれまた×である。そのため、箒と縁がある4人の代表候補生の内の誰かが行く事になった。しかしそこに至って揉めてしまい、結局あみだクジで雌雄を決する結論になった。その結果……

「よっしゃー!!今回はあたしね。立場的にも似てるしね」

箒と一夏の幼馴染という共通点が運を引き寄せたらしく、当たりクジを引いたのは鈴であった。

「悔しいけど……今回は鈴に任せるよ」

「ええ……任せましたよ、鈴さん。箒さんにギャフンと言わせてきてくださいな」

「って、古いわよアンタ。1970年代じゃあるまいし……」

「安心しろ。一夏は私が守る」

「一夏を頼んだわよ、アンタ達」


その翌日、正式に鈴が代表して未来世界に赴く事になり、滞在期間が長期に渡る場合を想定して、休学届を出しておいたほうがいいだろうとの判断で、鈴は休学届を出す事になった。鈴の本国たる、中華人民共和国にも通達がされた。万全を期すため、万が一のIS学園の護衛として圭子と甲児がグレートマジンガーと共に当面、この世界に滞在する事になった。グレートマジンガーの補給と整備については随時実施され、科学要塞研究所から専門スタッフが派遣される手はずとなった。


「んっ、休学届も出したし、ISのパッケージ一式も積み込んだし……。いいですよ〜……なんです?この変な形の車」

「俺の相棒の一つ“ライドロン”さ。時速1500km出せるんだぜ」

「お、音速超えてるじゃないですか!ナンバー取ってるんですか?」

「当たり前だろ。そうでないと公道走れないじゃないか」

「ヒーローでもナンバーつけるんですね……」

「市街戦も多いからね。俺の知ってるヒーロー仲間なんて駐車違反切符切られて泣いてたよ。それに悪の組織だってナンバープレートつけてるぜ」

「えぇ〜!?」

鈴は妙に納得する面と、ヒーローや悪の組織と言えどもお国柄に合わせた問題はきちんと処理せねばならないという現実的な事情に幻滅感を感じてしまい、微妙な気持ちとなった。しかしヒーローと言えど違反切符を取られるというのは、なんとも寂しい。そう思った。


「よし、んじゃ飛ばすぞ!舌をかまないようにしてくれ」

「い、いぃやあああああ〜!」

時速1500キロで世界の境界線を超え、2201年の世界の地球へ転移する。光太郎はライドロンで鈴を未来世界へ送り届け、宇宙科学研究所に預けた。宇門博士と宇門大介=デューク・フリードに事情を説明。すぐさま迎え入れられ、箒の隣の部屋が宛てがわれた。箒が赤椿の整備から帰ってきたのは、ちょうど鈴が食堂で食事をしている時であった。







――宇宙科学研究所 

「ふぅ……今日は疲れたな……大掛かりだったからな」

箒はこの日、この間の円盤獣との戦いで勝利に貢献したもの、機体にかなりの負担を強いたため、オーバーホールのために地球連邦の科学技術省にいる真田志郎の基に赴いていた。自分の世界を助けに行った甲児の事が気にかかっていたが、どうする事もできないので、報告を待つ身である事に歯がゆさを感じていた。

「箒ちゃん、お帰り」

「ただいま、大介さん」

「君にお客さんだよ」

「え?私に……ですか?」

「ああ。食堂にいるから挨拶でもしといで」

「は、はぁ」



大介に言われるまま、食堂に行ってみる。すると……見知った顔がそこにはあった。恋のライバルの一人と言おうか、仲間といおうか……の凰鈴音だった。



「な、なっ、なっ!?な、何故お前がここにいる!?鈴!」

「久しぶりね、箒。事情は光太郎さんや甲児達から聞いたわよ。一人で抱え込み気味なのは変わんないわね」

「何っ……!?」

その瞬間、箒の顔に平手打ちが飛んだ。

「これはあたしや一夏達を心配させたから、そのお返しよ。まったくアンタってヤツは……人に心配かけてさ!」

鈴は目に僅かに涙を浮かべていた。箒がいなくなった事で落ち込んでいた一夏の気持ちを、一番箒に近い立場な故、よく理解していた。箒がいなくなった事で、シャルやラウラ、自分もそうだが、一夏が一番、箒のことを案じていたのをよく知り、見てきたからだ。

「それは私もだ、鈴。私は突然、この世界に飛ばされ、戦争になし崩しに巻き込まれ、戦っていた。あの時、お前らに何の挨拶も無しに姿を消してしまった。偶発的とは言え、すまない……。」

箒は鈴のこの思わぬ姿に驚くと同時に、仲間に何の挨拶も無しに姿を消す形となってしまったことを改めて詫びた。それは箒にとっては一年越しに言えた言葉。一言でもいい、箒は心にずっと引っかかっていた突っかかりがようやく取れたような気持ちになれた。

「そうだ、鈴。お前がここにいるという事は、甲龍も持ってきたのか?」

「当たり前じゃない。パッケージ一式も持ってきたわよ。だから荷物が結構大きくなっちゃって、今、光太郎さんが格納庫に置いてるところよ」

「そうか。だが、ISにかなり実戦経験を積ませないとこの世界の兵器には通用しないぞ。私の赤椿でさえ数ヶ月以上の時間がかかったからな」

そう。今の赤椿は通常の倍以上に実戦経験を詰み、戦闘用に進化を重ねている。第4世代型の赤椿でさえ少なくとも数度に渡る、無段階移行による性能強化を行っているのだから、第三世代型の甲龍では相当の強化、あるいは第二段階移行を起こす必要がある。それを箒は案じたのだ。

「とりあえず、今の時点でどの程度の戦闘力がこの世界の兵器に対して出るか調べる必要があるって事?」

「そういう事だ。……それは今は置いといて……。また会えるとは思わなかったぞ、鈴……」
「あたしもよ、箒」

箒の声からはなんだかんだ言って、同じ世界の仲間と再会できた嬉しさが滲み出ていた。鈴も箒の気持ちを察し、はにかんで見せた。それが箒にとって、何よりのプレゼントであった。



押して頂けると作者の励みになりますm(__)m


<<前話 目次

作品を投稿する感想掲示板トップページに戻る

Copyright(c)2004 SILUFENIA All rights reserved.