宇宙戦艦ヤマト編その3『新たなる旅立ち編』

 

−地球 日本 

「黒江、久しぶりね」
「え、え……、え、江藤隊長!?どうしてここに!?喫茶店はどうしたんですか!?」
「休業だ。不本意だったんだがな……」

黒江は2201年初頭当時、丁度1年前に預かり、それ以来面倒を見ている篠ノ之箒と共に暮らす傍ら、
故郷の世界に戻った弟子の一人のフェイト・T・ハラオウン(2201年時はフェイトはなのはの世界で16歳を迎え、高校生活を送っている)に連絡を取って、
箒の故郷の世界を探させていた。
それで、フェイトとの連絡を終えて基地の建物から出てきたところを江藤とばったり再会したのだ。

「ウチに梅津閣下が来て、直々に懇願されて現役に戻ったのよ。それで訓練を受けに来たってわけ。それにしても可愛くなったわね〜」

小さくなった黒江の頭を撫でる江藤。黒江の元の身長を知っているぶん、今の姿は可笑しく見えるのだろう。犬の頭を撫でる要領
で黒江を撫でる。これに黒江は顔を膨れさせる。

「た、隊長まで!!からかわないでくださいよ!!穴拭やヒガシにもそれやられてるんですからぁ〜!気にしてるんですんからねっ!」
「ハハ、それは知らなんだ」

江藤のからかいに思わず顔を膨れさせる黒江。2201年当時はやっと外見上の年齢が15歳程度に見えるほどになったが、
それでも16歳ほどの外見を持つ戦友達には水を上げられている感があり、
3人でカラオケに行ったら一人だけ子ども料金だったという悔しい思いも経験しているとか。

「ちょうどいいところに来た。バルキリーの操縦法教えてくれ」
「……はいぃ?」
「もう一回言うぞ。バルキリーの操縦法を教えてくれ。嫌とは言わせないぞ」
「えっ、ち、ちょ……まっ、待ってくださいよ隊長〜!!」
「問答無用、隊長命令よ」
「えぇ〜〜!!」

江藤は黒江を有無を言わさず、格納庫へ連行していった。黒江は飛行第一戦隊の頃に戻ったような感覚を覚え、ちょっとだけ嬉しそうだった。

 

−格納庫

「ここです」
「へえ。中々面白いじゃないか」

黒江が案内した格納庫は地球連邦空軍飛行第64戦隊の機体が置かれている場所。AVFの両機種、VF−25S、G、Sの3種、はたまた、
この時期には黒江が自分用に新星インダストリーから取り寄せていた新型機「YF−29」も間借りする形で置かれている。

「隊長、電子工学と航空力学の講義は受けられました?」
「当たり前だ。そうじゃなければこんな事は頼まんさ。お前らのことは聞いてるぞ、今はお前と穴拭、加東の三人で「三羽烏」なんだってな。
「フジの奴が聞いたら文句言うぞ〜。元祖はアイツが入るんだから」
「電話で文句言われてますよ。`智子の僚機は私なんだからっ`って」
「そうか……だが、アイツも……」
「気づいてますって……隊長」
「……ふっ、お前らしいな」
「ええ。フジのやつは優しい性格ですからね」

江藤と黒江は互いに加藤武子の本心を見抜いていた。周囲には明るく振舞おうとしていているもの、時々本心が見え隠れする心情を。
連合艦隊の母港たる「呉」が壊滅的被害を受けた時に武子は教え子を大勢失っている。飛行教官としてウィッチとしての余生を送っていた
彼女にとって、悔恨以外の何物でもなく、教え子を死なせてしまった事を気に病んでいる。
江藤が営んでいる喫茶店へ来た時には勇猛果敢な彼女の面影が無いほどに憔悴しきっており、
江藤が思わず「加藤、どうした!?」と駆け寄るほどであった。

その時の武子は「隊長、私は……教官失格です……」と憔悴しきった表情であった。目には涙の跡がハッキリ残っており、
呉のあの惨状には優しい武子には耐えられなかったのがよく分かる。江藤は泣きじゃくる武子に対し、
何もしてやれない自分に初めて無力感を感じた。それが現役復帰を決意した一因でもあるのだ。

「私はその時初めて己の無力さを感じ、恥じた。それが話を受けた本当の理由さ」
「隊長……」

江藤は黒江に自分が現役復帰の話を受けた本当の理由を告げる。黒江はそれ以上、何も言わなかった。いや言わなくともわかる。
互いに(くつわ)を並べて戦ったものにしか分からない何かがそこにあった。

「黒江ちゃ〜ん。飯持ってきたわよ〜」

と、ドアが開いて加東圭子が入ってくる。近くの売店から買ってきた弁当を抱えている。

「ん、その声は加東か?」
「え、江藤隊長っ!?ど、どうしてここに!?あ、あわわわ〜っ!」
「わ、バ、バカ……!」

江藤の姿を見るなり圭子はびっくり仰天。あろうことコケて、弁当が宙を舞う。
これに江藤はすぐさま
反応した。
喫茶店を営んで隠居していたせいか、こういう時の反応速度はニュータイプ並である。
オリンピックにも出れそうなほどの手際の良さで弁当を全てキャッチする。

「加東、お前なぁ……人の姿見てひっくり返る奴があるか?」
「す、すみません……けど隊長がなんでここに?」
「カクカクシカジカでな」
「ああ、そういうことですか」

簡潔に圭子に経緯を説明する。こういう時に元・上官と部下の関係は役に立つ。

「ん、お前…髪の色薄くなったか?」
「アフリカにずっといましたから。今じゃ隊長ですよ」
「そうか……例のマルセイユ大尉のいる部隊だったな」
「はい」

その時の圭子は少し誇らしげだった。江藤は教え子が大成した様を喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

−いざ、ヤマトは発進した。イスカンダルを救うために。それに同行するウィッチ達も訓練に励んでいたが、
そのイスカンダルではガミラス帝国残存艦隊(主にタラン将軍配下のマゼラン星雲防衛艦隊所属であった艦艇)が激戦を繰り広げていた。

この艦隊は数年前まではガミラス帝国本土防衛を担っていたので、艦の質は高かった。
戦艦はデスラーの護衛のため、本土決戦用に温存されていた「改G型一等戦闘艦ドメラーズV級」
(かつてのガミラス帝国の名将「ドメル」将軍が座乗していた事で、連邦側にもおなじみの艦艇。
旧ガミラス帝国体制時の最後に設計・建造された宇宙戦艦でもある)が増員されている他、
老朽艦、ほどほどの艦齢の艦を含めドメラーズ三世級を除けば4隻であった。
空母は旧・ガミラス帝国時の新鋭艦「三段空母」や「戦闘空母」で固められていた。艦載機は結果的に実戦運用がなされることになった、
戦役末期に次期主力戦闘機としてプロトタイプが先行量産されていた、
「ゼーアドラーV」(後のガルマン・ガミラス帝国主力機の先行生産タイプ。艦載検討仕様)などの次世代機の他、
旧・白色彗星帝国が各地に残した生産ラインを転用して確保したイータUなどの同帝国機、過去に地球連邦軍から鹵獲し、
アグレッサー部隊で運用されてきたブラックタイガーも含まれる、まさにごちゃ混ぜの編成であった。(塗装はガミラス帝国仕様)
これは亡国の艦隊特有の物寂しさをただ寄せる航空部隊編成であった。

「タラン、戦況はどうか」

「ハッ……味方は奮戦していますが……」

デスラー総統……いや、国が消えた以上、その肩書はふさわしくないかも知れない。だが、彼は『総統』で在り続けた。
それは白色彗星帝国のズォーダー大帝が自身と対等な『国家元首』の礼を以て彼と同盟を結んだ事で証明されている。

デスラーの副官で、ヒス副総統亡き後はガミラス帝国の事実上のナンバー2の地位にいる元マゼラン星雲方面防衛艦隊司令長官「タラン」は戦況を報告する。
戦況は思わしくなく、駆逐艦隊の半数は中破以上の損害を被っているとの事である。戦艦群は無傷だが、新型含め六隻あまりでは数を処理しきれていない。
今は機雷群と空母艦載機で互角に持ち込んでいるが、航空機の性能はともかく、練度に限って言えば、地球戦役当時のベテランパイロットが頼みだ。
(空母艦載機の搭乗員には地球戦役の末期に緊急動員された少年兵も多数含まれており、タランたちとしてはいささか不安の残る平均練度である)
新鋭機などは優先的にベテランパイロットに回されているが、地球との戦争後は旧式化したガミラスファイターに少年兵を乗せざるをえないのは、
デスラー達としては悔しい思いであった。

それら少年兵達はベテランパイロットと隊列を組んで戦える猛者もいるが、
カモにされて暗黒星団帝国の円盤型戦闘機やイモ虫型戦闘機に叩き落される哀れな者もいた。

「戦闘機隊、帰還します」

兵士からの報告にデスラーとタランは顔を曇らせる。旗艦のデスラー戦闘空母を含めた空母に着艦する戦闘機隊の数は明らかに減っていた。
損害が多かったのは旧式のガミラスファイターで、ベテラン搭乗員を以てしても、損害は定数の40%に達していた。

「タラン、ガミラスファイターの数が減っているな。少年たちの命が多く失われてしまったな……私たちの失策だなこれは……」
「ハッ……残念ですな。前途有望な若者を多く失う事になろうとは……」

新鋭機や鹵獲機部隊に損害はないもの、整備のために当面の全力出撃は無理である。攻撃機・爆撃機もかなり被弾しており、
空母機動部隊の戦力は当面頼れなくなった。対して相手は艦載機部隊の奮戦でかなりの出血を強いたもの、空母部隊そのものは未だ健在で、
直掩機の数を超える敵機が襲来してくる可能性もかなり残っている。

「総統、タラン様!左舷より敵巡洋艦隊接近してきます!」
「全艦、砲撃戦用意!!我がガミラスの、そしてこの戦いで散った若者達の仇を取るのだ!」

デスラー戦闘空母を含む艦船が砲撃戦に入る。巡洋艦くらいで戦艦を含む艦隊は倒せないが、出血は強いられる。
その点をついた戦術であった。ガミラス指揮戦艦級に宇宙魚雷が複数命中、同艦を炎上させていく……。

ガミラス側も負けじと砲撃で巡洋艦隊を返り討ちにしていく。

「総統!!敵機がイスカンダルへ……!」
「何!?戦闘機隊は出せんのか」
「空母の戦闘機隊を何とか向かわせてもたせます!!予備機もこの際だから使います!!」

それは整備兵と搭乗員の意地がこの出撃を実現させたと言っても過言でも無かった。それは単純な忠誠心からではない、彼等の意志であった。

 

 

 

 

−宇宙戦艦ヤマトを含む地球艦隊は増援部隊との合流・部隊の指揮系統の明確化などのための再編を経て、イスカンダルへ急行していた。

『全艦へ告げる。イスカンダルはもう少しである。ガミラス残存艦隊が謎の敵艦隊と交戦している模様だと偵察機からの観測報告が入った。
全艦、戦闘配備。艦載機部隊は出撃準備にかかれ!!』

古代進の号令で地球連邦艦隊の全艦が戦闘配備を行なう。艦載機は発進準備を行なう。

古代自身も愛機の新コスモタイガーに乗り込み、艦載機部隊の先陣を切るべく準備をすすめる。そのヤマトの格納庫には菅野とニパの姿もあった。
今回の乗機はインファイト好きの菅野は制空権確保も兼ねてVF−19A、ニパは新コスモタイガーである。

「よっしゃあ実戦だぜ!!」
「コラ、初陣だからって浮かれるなよ」

張り切る菅野だが、古代は気を引き締めろと諌める。

「機体はいくら壊しても真田さんがどうにかしてくれる、派手にやってやれ」
「わかってますぜ古代さん。行くぜニパ!!」
「いっちょ派手にやってやろうぜ!!」

エンジンを温めて発進準備に入る各機。そしてモビルスーツ隊を含めた機体の作戦行動半径に艦隊が達したことが古代に報告される。

「艦長代理、艦載機の作戦行動半径にイスカンダルが入りました、全艦載機隊の発進準備OKです」
「よし、全機発進!!」

(コスモタイガーUとVFは航続距離は長いが、
モビルスーツは可変機を除いた汎用機の航続距離の問題で一番足の短いモビルスーツに合わせる必要があったので、意外に全体の作戦行動半径は小さい)

古代のこの号令は全空母に通達され、モビルスーツを含めた全部隊がそれぞれ全力発進。
最小限度の直掩機だけを残して、艦載機部隊は一路、イスカンダルを目指した。
その中には菅野とニパの他に、北郷とシャーリーの姿もあった。4人はそれぞれの任務を果たすべく、それぞれの愛機を操縦し、一路、イスカンダルへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

−地球艦隊はガミラス残存艦隊とイスカンダルの救援に赴き、遂に艦載機部隊が発進し、作戦行動をとれる距離にまで接近。
艦隊直掩部隊を除いた稼働機で全力出撃、モビルスーツ、VF、コスモタイガーUの各部隊は直ちにイスカンダルへ急行した。
この時の編成はモビルスーツが汎用型の18m級モビルスーツのジェガン(スタークジェガン含む)がおよそ20機、
14m級小型機のジャベリンが30機(空母・戦艦艦載分含め。小型機故にジェガンより多く積める)、
攻撃飛行隊を兼ねたZ系可変機がヤマト所属機を含め40機(可変機専門空母もいるので、それらの所属機が大半を占める)、
戦闘機のコスモタイガーUが60機(コスモタイガーのみを積む空母`インヴィンシブル`所属機とヤマト所属機を合わせた数)、
VFはVF−25及び19、22が50機(ヤマト機とその他の空母所属の攻撃飛行隊を合わせた数。
攻撃に振り向けられる全部隊の艦載機定数よりは2割ほど少ないが、
搭乗員の体調不良、機体が故障などを起こしたなどの様々な理由で定数通りの出撃とはならなかった)
これら大編隊は直ちにガミラス残存艦隊の援護に向かい、その力を以てして、暗黒星団帝国艦隊を痛撃した。

−暗黒星団帝国 マゼラン方面第一艦隊旗艦「プレアデス」 艦橋

「司令長官、後方より未確認編隊多数接近!!」
「何!?所属は!?どこだ!!」
「ガミラス艦隊のものではありません!ましてや白色彗星帝国でもない……出ました、これは例の地球軍のものです」
「何、あの地球連邦軍のか!?ええい田舎軍隊共め!!!」

司令長官のデーダーは呻いた。地球連邦といえばガミラスや白色彗星帝国をも最終的に屈服させ、
大昔の文明の遺物である戦闘種族をも手懐けた(……と彼らは認識している)ここのところ台頭してきた星間国家。
本星が銀河系・オリオン腕の辺境にある異例の国家である。新興国ながらその軍事力は宇宙随一。
主だった星間国家群さえまだ実用化していない人型機動兵器を保有しているのが強み。それ故に彼は呻いた。
それはモビルスーツなどの勇名は遙かな宇宙にまで轟いている事も現れでもあった。その彼の呻きとほぼ同時に攻撃は開始された。

 

「全機攻撃開始!!奴らを片っ端から沈めてやれ!!」

古代の号令一下、全部隊が攻撃を開始する。パルスレーザー、ハイマニューバーミサイル、ビーム・ライフルにビームスマートガンなどの火器が一斉に火を噴き、
電光石火の一撃離脱で暗黒星団帝国の護衛艦隊を屠っていく。

「おっし、でかい花火あげたるぜ!!」

スタークジェガンはモビルスーツ隊の隊長機として運用されているが、その重装備をいかんなく用いて護衛艦を屠る。肩部に装備されたミサイル・ポッドを放ち、
護衛艦の艦橋を破壊する。餌食になった艦は操艦不能に陥って他艦と激突、二艦まとめて沈没する。他の機には艦橋に取り付いてビームライフルを撃って終わらせるもの、
艦をビームサーベルで切り裂いていく猛者もいた。ハイパーバズーカで護衛艦のエンジンをぶち抜いて沈めるのは当たり前であるので、
この辺は人型機動兵器の利点を生かした地球連邦軍の勝利であった。

ジャベリンはジェガンよりも小回りの効くところを見せ、背中のショットランサーで次々に沈めていく。戦闘機はコスモタイガーやVFに任せ、
戦艦との艦隊決戦に邪魔な護衛艦を屠るのが対艦兵装を備えたモビルスーツの努めだ。

ZプラスはC4型を中心に、C1型、P型 、C1Bst型(ハミングバード)、C1/2型などがウェイブライダー形態で飛翔し、
その内のC1/2型は敵の眼前で敢えてモビルスーツ形態へ変形してみせ、敵将兵の心胆を寒からしめる。

「うわあああっ……ひ、人型になったぞ!!」
「あれが地球連邦軍の兵器の威力なのか……!」

ZプラスC1/2型はカラバが過去に用いていたA2型(メガキャノン装備機)の頭部と武装をC1型のボディーにすげ替えた機体。
大気圏内ではメガキャノンの性能はあまり発揮出来ず、更にジェネレーター出力がZZガンダムの半分以下であった関係で威力は高いとは言えなかったが、
カラバを地球連邦軍に取り込む過程で、改修の際に最新型の小型高性能のジェネレーターが積まれた事、
装甲素材の改善による軽量化と動力伝達機構の洗練化などで頭部メガキャノンの威力は高まり、ZZガンダムのハイメガキャノンの6割程度の威力にまで向上。
これにより有力な攻撃力を獲得したC1/2型は連邦軍によって新規製造された機体と既存機の改装をあわせてそこそこの数が稼働中。この戦闘にも2個小隊が参加していた。

「メガキャノン、発射ぁ!!」

頭部メガキャノンが火を噴く。護衛艦の脆い装甲はメガキャノンにぶち抜かれ、3艦まとめて沈められ、その威力を暗黒星団帝国に示す。

この地球連邦軍の完全なる奇襲にデーダーは地球連邦軍のモビルスーツの威力に焦りを見せた。
彼らは掃討三脚戦車などを実用化・配備に成功していたもの、
人型ではなく、地球で言えば「昔の米軍が実用化を目指したロボット兵器や、`スターウ○ーズ`のAT-ATみたいな」兵器である。
完全に人型をなしているモビルスーツはその汎用性や機動性を暗黒星団帝国に示したわけであるが、
皮肉にもこの事が、元からタキオン粒子文明を受け継いだ地球連邦へ抱く彼ら民族の恐れを更に増大させてしまい、
一年後に起こる戦乱で暗黒星団帝国が地球本星へ奇襲戦法を取る原因となってしまう。

 

VF隊にはウィッチ三人の姿もあった。北郷章香、菅野直枝、シャーロット・E・イェーガーの三人であった。

「まさかアンタまでVFの訓練を受けるとは……意外でしたよ、北郷さん」
「まーな。坂本の奴からお前と宮藤の様子を見てきて欲しいって頼まれて、そこでシャーリー大尉を誘ってお前らを追いかけてきたってわけだ」
「んで、わざわざVF−25Sを拝借したんですかぁ〜!?」
「ちょうどよく余っていてな。整備員に頼んで大尉のと一緒に塗装してもらったんだよ」

北郷はVF−25「メサイア」を乗機に選び、
日本軍機塗装(1943年以降のもの。部隊記号、ノーズアートは整備員が雷電を装備した事で知られる第三三二海軍航空隊のものとした)に塗ってもらった上で搭乗した。
シャーリーの場合は旧米陸軍航空軍(後の空軍)の第二次大戦中の第363戦闘飛行隊のものである。
これは彼女の並行時空での姿「チャック・イェーガー」氏が欧州戦線で所属していた部隊である事に由来する。

「それで運良く最新鋭機を確保したってわけ。カンノ、お前の19とほぼ同程度の速度出せるし、最高だぜこれ」
「なんでコイツの系統を選ばなかったんだよ、シャーリー」
「赤城で一回シミュレーターで動かしてみたんだけどさ、あんまり暴れ馬すぎて酔っちまったんだ。それで扱いやすいコイツにしたんだよ」

シャーリーは以前、501が連邦軍の空母「赤城」に間借りしていた時にシミュレーターでVF−19Aを動かしてみたことがある。
その時はあまりのじゃじゃ馬振りに悪戦苦闘。スピード・機動性の高さと引換の扱いづらさの前にシャーリーといえども音を上げてしまった。
それで今回は高性能と扱いやすさを両立させたVF−25にしたとの事である。

「そう言えばそうだっけ。とりあえず行きまっせご両人!」
「了解!思い切って暴れてやる!!」
「行くぞ2人とも!!」

北郷のVF−25Sを先頭に、まずは艦隊旗艦と思われる比較的大型の艦(戦艦では普通に400m級以上が跳梁跋扈している地球連邦軍の基準で言えば、
「プレアデス」と言えども「比較的」という修飾語がついてしまう)を直上から急降下爆撃した。
敵艦の機銃座や砲塔に最新のヘッドアップディスプレイとヘッドマウントディスプレイの利点を融合させたアビオニクスでロックし、ミサイルを放つ。
ハイマニューバミサイルは凄まじい速さの機動を見せつけ、「プレアデス」を襲った。

ミサイルはそれぞれの誘導に従い、敵艦に突入する。その破壊力でプレアデスの武装を破壊していく。
三連装主砲、副砲の内の各一機を損壊させ、対空砲を沈黙させていく。
更にVFの戦法でガウォーク形態になってさらにガンポッドの掃射を三機がかりで浴びせたので、プレアデスの左舷対空砲の殆どは薙ぎ払われたに等しい損害を負った。

「左舷対空砲、ほぼ沈黙!後部主砲に火災発生、一番副砲、仰角不能!」
「ええい、うるさいハエどもめ!!敵戦艦とやりあう前にこうもいいようにあしらわれるとは……!!」

暗黒星団帝国の誇るプレアデスは暗黒星団帝国の保有する戦艦では最強レベルの戦艦であり、
並の他国戦艦の主砲を弾けるほどのバイタルパートの堅牢さを持つ。だが、航空攻撃には意外に脆弱性がある事はこれでハッキリした。
だが、問題はそれまでにこの「ハエ」たちをどうにかしなければ。

「艦載機発進!!あのハエ共を叩き落せ!!」

彼は艦載機発進を命じ、50機程度の編隊が地球連邦軍航空部隊を迎え撃った。

対してそれらを迎え撃つのは古代直々の指揮をとるコスモタイガーUの編隊。
大気圏上層から大気圏内へ突入するコスモタイガー隊は暗黒星団帝国の艦隊をミサイルと機銃で撃沈しつつ、ガミラス艦隊の前に姿を見せた。

先頭の新コスモタイガーを駆る古代は航空隊と共にガミラス艦隊の元にその姿を見せる。古代は暗黒星団帝国の戦闘機を叩き落としつつ、
図らずもデスラーが座乗する戦闘空母の前を通過する。その際の一瞬でデスラーはコスモタイガーに乗るパイロットがかつての宿敵であり、
今は不思議な縁を感じる男−古代進−であることを確認し、一言だけ言った。

「古代……!」

それは『ヤマトが自身の言うことを信じて、イスカンダルへ馳せ参じてくれた』という嬉しさと、
かつては二度にわたり銃を撃ちあった宿敵との再会が間近であるという感情が入り交じる複雑なもの。
それはかつての仇敵同士が手を取り合い、共に新たな敵と戦うという新たな友情の芽生えの光景の具現化でもあった。

 

 

 

 

 

 

−暗黒星団帝国と戦闘状態に入った地球連邦軍。攻撃部隊に配置されているモビルスーツは一線級の機体群であったが、
後方防衛用のモノは比較的旧型のものも多く、それらは直掩任務に就いていた。ジェガンを初めとする系統のモビルスーツの祖に当たる、
旧・エゥーゴの主力機「ネモ」の直系後継機で、
当初はロンド・ベル隊などの特務部隊の主力機としての運用が、
ジェガン以前に検討されていた「MSA-004 ネモU」やペズンの反乱時に運用された記録のある「MSA-007 ネロ」もその一つ。
これらはより高性能のジェガン系統の機体が第一線機として運用されるようになると、一線の任務から外されたが、
防衛戦力や予備役宇宙軍などに充てがわれる二線級部隊では一年戦争中のジムのバリエーションモデルすら多くが現役という状況であり、
それはそれらの配備でひとまずは改善された。艦隊に途中から同行してきた輸送艦隊の自衛用として積み込まれていたそれら旧型モビルスーツらは直掩部隊に組み込まれ、
久方ぶりに実戦運用されていた。

「全艦に告げる。これよりイスカンダル地表に降下しつつある敵残存艦隊を攻撃する。私はコスモタイガーから指揮をとる。我に続け」

古代はコスモタイガーUの乗ったまま各艦へ指令を発する。護衛艦隊に大打撃を与えつつある艦載機部隊の奮戦の勢いはそのままに艦隊も突撃を行う。
ショックカノンなどの艦砲射撃を行いつつ艦隊が突撃するが、直掩部隊が露払いをする。

「あの艦隊を潰す!!全機続け!!」

直掩任務に駆り出されたネモUの中隊は対艦任務での確実性を重視したのか、実弾射撃中心の兵装を積んでいた。
中には第二次ネオ・ジオン戦争でνガンダムが用いた事で有名なニュー・ハイパー・バズーカを持つ機体もいた。
彼らはバズーカを艦橋などに叩きこんで撃沈させていく。彼等は一年戦争時にボールで対艦任務につき、
最後の軍歴であったグリプス戦役ではネモで戦い抜いた経歴を持つ予備役パイロットたちであるが、
攻撃任務についているパイロットらからは「ロートル」、「年寄りの冷や水」などと嘲笑されていた。(特に若手)
だが、彼等の仕事ぶりは本物であった。

「撃て、あのロボットを叩き落せ!!」

「フン、この程度の対空砲火が当たるかよ」

ネモUのパイロットはコントロールレバーとスロットルを巧みに操作し、暗黒星団帝国の艦砲を回避していく。
新兵なら命中確実なタイミングでも、彼等は経験則で攻撃を見切り、避けていく。

暗黒星団帝国側の必死の努力も虚しく、

モビルスーツはその圧倒的な機動性の高さで敵艦を翻弄する。
外宇宙運用に耐えうるよう、今回参戦しているモビルスーツは真田志郎を中心にした技術者らにより、
新旧の例外なく全てが推進系を中心に各部に強化改修が加えられている。そのため地球圏運用モデルと比べると推進器などに形状的な差異が多く、
通常の汎用型でもコスモタイガーUやVFの速度に十分に追従可能となっている。そのため旧型と侮る無かれとばかりに、意外な活躍を見せる機種も多かった。
ネモ部隊の支援に充当されたGキャノン(サナリィ製造型。運良くヴェスバーを装備しているタイプであった)や、
より旧型のジム・キャノンUの支援を受けながらネモU部隊は突貫し、
下手なコスモタイガーUやVF部隊よりも鮮やかな仕事ぶりで護衛艦を沈めていく。ある機は主砲の斉射を寸前でバレルロールで回避し、エネルギーを発射し終えた瞬間に主砲塔を爆撃し、
そのまま艦橋に取り付いてハイパーバズーカを発射する。またある機は艦橋を起点にビームサーベルで一刀両断し、戦艦斬りを行ってみせる。
機体そのものは旧式ながらもベテランパイロットの高い技量で新型との性能差を補って余りある働きを見せた。

 

 

 

 

 

 

 

―護衛艦隊の生き残りらは地球連邦軍の攻撃にいいようにされ、戦力は壊滅寸前に追いやられた事に愕然とする。

「ええい……あんなどこの馬の骨とも知れぬ輩にいいようにされるとは……我が軍も墜ちたものだ」

護衛艦隊の数少ない生き残りとなった艦の艦長は地球という、たかがオリオン腕の田舎国家の軍隊に、
大帝国の暗黒星団帝国がいいようにされるとは思いも寄らなかったようで、憮然とした態度を見せる。
だが、護衛艦が如何に装甲が薄いとはいえ、紙のように装甲を撃ちぬかれるというのはおかしい。

「まさか奴らはタキオン粒子を使っているのか……?」

彼はここで恐るべき結論に気づく。彼ら―暗黒星団帝国―の実用化した金属素材や母星の元素組成はタキオン粒子と異常までに反応し、
下手をすれば母星が一発で滅びかねないほどの危険性を持つ。ガミラス艦隊の時もそうだが、地球艦隊の時はさらにそれが顕著である。
ガミラス同様に地球もタキオン粒子文明として発展してきた国家と認識せざるをえない。

「艦長、プレアデスが敵旗艦―ヤマトに砲撃戦を挑む模様。残存部隊は支援に当たられたしとの通達が出されました」
「何!?これだけの残存部隊でか……無謀すぎる」
「いえ、メルダーズ司令から通達があります。`アレ`を使うとのことです」
「とうとうアレを使うハメになるとは……司令も焦っておいでだ。ここままではグレートエンペラー様がお怒りになられるからな」

暗黒星団帝国はあまりにも地球連邦軍の独壇場とばかりに蹂躙される戦闘に業を煮やし、遂に切り札を始動させる決意を固める。
それは後に近年、連邦軍を最も苦しめる兵器の一つとして戦史に名を刻む事になる機動要塞。連邦軍の兵器開発を促進させる一つのきっかけをつくる原因となる強敵との邂逅であった。

 

 

 

― 暗黒星団帝国 機動要塞「自動惑星ゴルバ」 作戦室

「まさか地球などという田舎人らのためにこの自動惑星ゴルバを使うハメになるとはな……手こずらせるものだ……」
「司令、間もなくイスカンダルの空域へワープアウトいたします」
「ウム。総員戦闘準備、無限ベータ砲の実戦投入は可能か?」
「まだです。問題が解決できておりませんので……」
「そうか……残念だ。あれさえあればあのような田舎軍隊なんぞ蹴散らしてくれるものを」

彼は部下からの報告に残念そうに一言言う。彼らの切り札の一つ「無限ベータ砲」は地球連邦軍の波動砲やガミラス帝国の「デスラー砲」に相当する殲滅兵器。
彼らはそれを切り札とし、要塞砲として試作タイプが完成し、ゴルバに試験的に搭載されたが、試作兵器ゆえのトラブルが続発し、実戦投入は見送られてしまったからだ。
だが、ゴルバの戦闘力はそれを差し引いてもあの戦闘種族―ゼントラーディ―の機動要塞レベルの戦闘力は備えている。
そんじょそこらの宇宙戦艦が太刀打ちできるものではないと自負するほどに。

一見するとメルダーズの乗艦たる、この機動要塞の外観は日本のこけしのように見える。だが、その戦闘力は脅威的であり、
あの白色彗星帝国すらも恐れさせた代物。一説にはズォーダー大帝をも唸らせたというほどのポテンシャルを持つ。
その大きさは地球連邦軍屈指の巨艦である「バトル級」をも遥かに凌ぎ、地球の六分の一を超える巨大さを誇る。
その名は自動惑星ゴルバ。暗黒星団帝国の切り札である。地球連邦軍にゴルバの恐ろしさを見せつけるべく、メルダーズは乗艦と共に戦場へ赴いた。
彼らの自信はどこから来るのか。それはまだうかがい知る事はできない。ゴルバの前には地球連邦軍最大のヱルトリウム級(70q)でさえも笹の船程度にしか見えないほどの、
とてつもない巨大さはゴルバの持つ圧倒的なまでの力を暗示していた。

 

 

 

 

 

宇宙戦艦ヤマトは友軍艦隊と共にイスカンダル救援に訪れたが、そこに最大の敵が立ち塞がる事になる。

「私は何度も2人を説得しようとしたが……」

デスラーはイスカンダルから脱出させようと幾度と無く説得したが、尽く失敗に終わったと告げる。
古代もヤマト第一艦橋の面々共に2人の説得を試みるが……。

だが、その時、ヤマトと地球艦隊の前に強大無比な敵が現れる。それは……。

「あっ、何者かがこの空域にワープアウトしてきます!!」
「何、敵の援軍か!?」
「待って、エネルギー反応が艦隊とは桁外れよ!」
「白色彗星帝国のような超巨大戦艦か!?」
「それよりも遙かに巨大よ、惑星レベルのエネルギー反応が!!」
「馬鹿な!?惑星レベルだと!」

レーダー担当の雪からの古代は驚愕した。それほどのエネルギーを持つものとは何者なのか。
かのゼントラーディ軍の機動要塞でさえ、そこまでのエネルギー反応はなかったと記録されている。
それは地球艦隊とガミラス艦隊の前に突然と出現した。地球型惑星とその近縁種に分類されるイスカンダルと並べても見劣りしない陣容。
「衛星」と見間違う程に巨大であり、ヤマトやその他戦艦・空母群が「子供のおもちゃ」以下のものにしか見えないほどであった。
つまり、「自動惑星ゴルバ」が遂に到着したのである。

「嘘だろ……ネウロイの巣が可愛く思えるくらいの大きさなんて……!?」

VF−19を駆る菅野は自動惑星ゴルバの圧倒的な威容に息を呑む。
以前、空母にいた時に資料で見たゼントラーディ軍のボトルザー機動要塞がとても小さく見えてしまう。
自分の世界での『街や国の上空を覆うほどの巨大なネウロイの巣』もこれと比べれば赤ん坊と思えるほどの可愛さである。
それほどに自動惑星ゴルバは凄まじい威圧感を醸し出していた。

「ゼントラーディの機動要塞よりも遙かにでかいモノがこの世にあるなんてな……信じられん……」
「ああ。あれも600qあったって聞いたけど……これは更に桁外れだぜ……」
「ギネス記録モンだな…これは」

この場に参戦している北郷、シャーリー、ニパなどのウィッチ達も口々に自動惑星ゴルバの威容に驚きと戦慄を禁じ得ない。
ゴルバはこけしのような形はともかくも、大きさは人工物としてはこの時点では史上最大級なのだから。

−自動惑星ゴルバはその名に恥じない巨大さを誇り、その全長は2000qに達する。
これは冥王星の衛星「カロン」と同じ大きさであり、これより巨大なものはこの時点では全宇宙を探しても無い。
あの白色彗星帝国のズォーダー大帝をすら唸らした暗黒星団帝国の切り札は悠然と連合艦隊の前に立ち塞がったのである。

「地球艦隊の旗艦に通信をつなげ」
「ハッ」

その主であるメルダーズは地球艦隊の旗艦と思われる、かの有名な宇宙戦艦ヤマトに通信を繋げた。
それは暗黒星団帝国と地球人のファーストコンタクトでもあった。

「地球連邦軍所属、宇宙戦艦ヤマトの諸君、お初にお目にかかる。そして諸君の見事な戦いぶり、見事であると言っておこう」
「お前があの艦隊の親玉か」
「そうだ。私は暗黒星団帝国マゼラン星雲方面軍司令長官`メルダーズ`。
我々はイスカンダルに蓄えている鉱物資源「イスカンダリウム」の採掘に来ただけである。それだけのことだ。
即刻お引取り願おう。第三国の貴官らには関係のないことである」
「メルダーズ司令、それはイスカンダルの国家主権を侵害している。許可無き採掘は侵略行為と見なされてもしかたがないことであるが?」
「イスカンダルは国家としては滅んでいる。よって我々はイスカンダルを国家とみなさぬ」

メルダーズの言うことは目的としては正しいが、イスカンダルのものはイスカンダル人のもの。
イスカンダルの貯蔵資源には即ち旧・イスカンダル国家での正当な王位継承権を持つスターシャに正統な所有権がある。
スターシャに無許可で採掘するということはイスカンダルの主権を踏み躙る行為と解釈されても仕方が無い。
そしてイスカンダルの国家主権についても、
暗黒星団帝国側は「旧王家の女王足り得たスターシャが存命しているとしても、国民が一切死に絶えている以上、国家として見なさない」という見解を告げる。
地球連邦政府や旧・ガミラス帝国などが「スターシャの存命を以て、イスカンダル国家の国家主権は存続していると見なす」と解釈しているのとは180度異なる。
古代とメルダーズはこれで互いに相入れぬと判断。
古代の言葉はこの場の地球連邦政府の国家全権(ヤマト艦長ともなれば元々移民船であった関係上、外交権も有している)としての言葉である。
メルダーズは古代との交渉決裂を持って、地球連邦政府に対し、暗黒星団帝国はこの日より地球連邦と戦争状態に入る事を通告した。
既に軍が互いに交戦しているので、この通達は外交上の慣例に過ぎぬのだが、これで双方は正式に敵になったのであった。
しかしこれは軍人が自分の一存で国家の重大事を決めたという、地球連邦政府が定めた「文民統制」を逸脱する行為であったがため、
それを事後承諾した大統領や軍部高官の藤堂軍令部総長やレビル将軍への議会の野党による追求の格好の標的となってしまうのであった。

 

 

 

 

 

メルダーズは地球艦隊にゴルバの力を見せつけるべく、部下に指令を発する。

彼の号令と共にゴルバの要塞砲に火を入れられ、その威力の一端が示される。
近くを航行していたガミラス艦隊の戦艦(艦隊旗艦級戦艦)がその標的となった。要塞砲はその威力を見せつけ、
ただの威嚇射撃一つでガミラスの艦隊旗艦級戦艦はパイタルパート部の装甲ごと船体を貫かれ、船体がひしゃげたと思った次の瞬間に真っ二つに折れ、轟沈した。

仮にも老朽化が進んでいたとはいえ、水雷艇や駆逐艦ではなく、攻撃への頑強さが売りのはずの戦艦である。それが文字通りに一撃でおもちゃのように轟沈したのだ。
地球艦隊以上に、ガミラス艦隊の受けた衝撃は凄まじいもので、あのデスラーがしばし言葉を失うほどであった。

「轟沈か…………!」
「そ、総統!このままでは!」
「タラン、我が母星ガミラスの仇を討つ時が来たぞ!!全艦突撃せよ!!」
「そ、総統、まさか!!」
「そうだ。……万が一のため、デスラー砲の整備を急がせ!」
「ハッ!」

デスラーは母星を破壊したに等しい敵の親玉の出現に俄然、闘志を燃やす。デスラーは全艦に突撃命令を発し、
座乗艦たる旗艦の戦闘空母にはガミラス帝国の切り札たる、デスラー砲のチャージを始めさせる。
だが、タランにはゴルバには`デスラー砲とて蟷螂の斧に過ぎぬのではないか`という思いが頭から離れず、一抹の不安を禁じ得なかった。
そしてガミラスで最も普及した戦艦が一撃で沈むというのは、それを基準に改良された新鋭艦でも危ないという事の表れでもあった。

 

 

 

 

さて、自動惑星ゴルバはその威容だけで周囲を圧するだけの効果を上げ、暴走が一時的に小康状態のイスカンダルの前に堂々と居座る。
その前に護衛だとばかりに、攻撃から生き残っていた旗艦と少数の護衛艦が立ち塞がる。

「前部主砲、目標は敵旗艦!!各戦艦群にも打電してください」
「分かった、目標、敵旗艦!!」

ヤマトと護衛についている戦艦群の40cm〜46cmショックカノンが一斉に仰角や向きを変え、
暗黒星団帝国の旗艦「プレアデス」に狙いがつけられるが、座乗しているデーダーは余裕の一言であった。

「し、司令!!このまま突っ込んでは敵艦隊の良い的です!!」
「馬鹿者!!敵がタキオン粒子をエネルギーに使っている事が分かった以上、本艦の敵ではない!!小うるさい艦載機に構わず、ヤマトを狙え!!」
「は、はい!!」

データーはヤマトがあそこまで強い理由を見抜いていた。
ヤマトに限らず、地球連邦軍の外洋航海用艦船は警備船に至るまで「イスカンダル」が隆盛を誇っていた時代にその力の象徴としていた
「波動エンジン」を動力機関としているのだ。波動エンジンはタキオン粒子をエネルギーとし、それを応用した攻撃手段を持っているのだ。
巡洋艦までの護衛艦と違い、その対策がしっかり施された旗艦「プレアデス」はそれに耐えうる防御力を持つ。それ故の計算した行動であった。

現在、ヤマトの戦闘指揮は再びコスモタイガーで出撃した古代に変わり、本来は航海班所属の北野哲が階級の差を超えて指揮を執っている。
それ故にヤマトの攻撃手段に絶対の自身を持っていた。その理由は波動エンジンにあった。
現在、地球連邦軍の持つ波動エンジンはイスカンダルが滅亡寸前に作っていた最高性能の波動エンジン(つまり、ヤマトに積まれているモノ。
それ故にヤマトは同じ波動エンジンを積むガミラス艦相手に優勢に戦えた)を基に独自に開発された第二世代型が大半である。
その攻撃力は白色彗星帝国相手にも優勢に砲撃戦を戦えるほどであり、地球連邦軍が波動エンジン艦の攻撃力に絶対の自信を持つ根拠でもあった。
だが、それも`ここまで`であった。

 

 

「発射!!」

北野の指揮通りにヤマトを初めとする各戦艦から一斉に艦砲たるショックカノンが放たれる。40cmから46cmまでの大口径砲だ。
この斉射に耐えられる戦艦はマクロスやヱルトリウムなどに限られる。
そのため各艦の砲術班は、特にショックカノンの製造元である南部重工業の御曹司であった南部康雄はこれまで、
ガミラスや白色彗星帝国の如何な艦船をも粉砕してきた実家の技術の結晶を信頼し、確信していた。だが……。

螺旋状に渦巻く何本ものエネルギーの束は暗黒星団帝国の艦隊旗艦に向けて突き進んでいく。そしてそれは今までと同じように敵を破砕するはずであった。だが、敵大型戦艦はその装甲にモノを言わせ、エネルギーを装甲で拡散、無効化してしまった。

「おおっ!?主砲がまるで通じない!!」

南部が思わず悲鳴を上げる。これまでショックカノンは地球連邦軍が手にした艦砲の中では最高レベルの攻撃力を誇る『矛」として、いくつもの『盾』を撃ち貫いてきた。だが、兵器の宿命故、ついにその攻撃力に拮抗する装甲がついに現れた事を示されたのであるのだから当然であった。

『艦長代理、見ましたか!!』
『ああ。ショックカノンが通じないとなれば艦載機で集中砲火を浴びせるか、波動砲しか無い』
『待ってください、古代艦長代理。ここから波動砲を撃てばイスカンダルがぶっ飛んでしまいます!』
『大佐、それはわかっている。波動砲を撃つとしても敵もそうやすやすと撃たせてはくれんだろう……どうするか』

古代は通信越しに北郷からの意見具申にうなづく。主砲や副砲はこれで敵に通じないことがはっきりした。波動砲を撃つにしても、イスカンダルに影響がないように射線を確保しなければ発射不能である。どうすべきか。ヤマト含めた各艦戦闘班を束ねる古代と現在は艦載機での戦闘指揮の指揮権の次席にある北郷章香は頭を悩ませる。

 

 

「ふはは!!どうするヤマト!!グフフ……」

デーダーは不気味に微笑み、生き残っている主砲を全てヤマトに向け、発射させるよう指令を発する。他の地球連邦の艦はヤマトに触発されて奮戦しているに過ぎない。『英雄』であるヤマトが倒れれば地球でその昔あったという「武田信玄亡き後の武田家」のようにただの烏合の衆に成り果てる。それを理解していたからだ。

「全砲門、ヤマトに向けて斉射!!蜂の巣にしてやれ!!」

プレアデスの砲塔がついにヤマトに向けて火を噴く。その光は赤く、鋭いエネルギーとなってヤマトの装甲を穿ち、ヤマトの内部を炎に包んでいく

 

ヤマトの船体が激しく揺さぶられる内部ではミサイルなどが誘爆したり、電子回路の爆発などで各所で火災が発生し、負傷者が続出する。宮藤芳佳は医務班に臨時で加わり、負傷者の応急手当に追われていた。

「痛い、痛いぃぃ……」
「俺の腕が、俺の腕がぁ!!」

……と、各所から聞こえる阿鼻叫喚の悲鳴。芳佳はウィッチとしての力と家で培った医学的知識を駆使し、負傷者達を癒していく。

「大丈夫です、私が治しますから!!」

たとえ酷い火傷を負っていても、芳佳の高度な治癒魔法が癒していく。そして骨折した腕などの箇所はきっちりと包帯で固定し、自力で歩けるものはある程度傷を治した上で、付き添って医務室に連れて行き、佐渡酒造に改めて診察してもらう。

医療班の大病室では男性、女性問わずの医務班のスタッフと佐渡酒造が負傷者らの手当に当たっていた。

「おい、誰か気づけ薬をもってこんか〜!」
「これでありますか?」

医療班の男性スタッフが持ってきたのは普通の包帯と消毒液であったが、佐渡はそれを叱りつける。
どうやら意味が違ったらしい。

「バカモン!!ワシのじゃ!」
「こ、これでありますか!!」
「ご苦労!」

それは佐渡酒造一流の気付け。通常なら酒、それも日本酒を一升飲んで医療に当たるのは危ないのだが、地球連邦きっての酒豪であり、いつも酒を抱えている彼には何のことはない。
むしろ気力充実の効果を生む。そこに芳佳が更なる負傷者をつれてくる。

「佐渡先生、連れてきました!」
「おお、ありがとさん!」

と、てんやわんやの医療班ではあるが、芳佳の治癒魔法と今は戦闘に出ているニパの悪運のおかげか、不思議と命に関わるような重傷患者は出ていない。
死亡フラグで有名な第3艦橋においても、だ。ある意味ではこれはニパのおかげであった。

だが、戦闘班は顔面蒼白の事態であった。ショックカノンが一切通じないとあればどうすればいいのか。ヤマト戦闘班の面々は悲鳴をあげるほどであった。
再度の挑戦で、至近距離で主砲と副砲を一斉に撃ってもかすり傷程度しか負わせられないというのは、かつてのヤマト登場以前の悪夢の再来であった。

南部らは狼狽するも、真田志郎はすぐに工作室に走った。

「みんな設計段階のアレを作るぞ」
「例の`T`弾を!?間に合うんですか!?」
「間に合わせるのだ。このままでは我々は有効な攻撃手段もないまま壊滅してしまう。事は急を要するのだ」

真田はすぐに地球連邦軍のショックカノンの仕様書にエネルギー弾が通じない時の保険に超電磁砲の容量で実体弾を撃てるようにしてあるのを思いだし、
白色彗星帝国戦の直後から研究段階にあったタキオン粒子エネルギー封入カートリッジ弾頭(コードネームは旧日本軍の成形炸薬弾になぞられたT弾である)
を急ぎ製造することを部下に告げ、急ぎ製造に取り掛かる。真田志郎の『こんなことはあろうかと』は唐突にも思えるが、裏には技術者ゆえの苦労があったのである。

 

この時、真田志郎を始めとする工作班が作った弾頭は翌年の2202年の戦争で軍から注目され、「波動カートリッジ弾」として艦砲の重要装備として制式採用され、
地球連邦軍の主要装備に躍り出るに至る。それははとっさに用意されたわけではなく、前々から研究されていて、この時にテストされた上で翌年に制式採用版が実戦初投入されたのである。

 

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