宇宙戦艦ヤマト編その8


――地球連邦がイスカンダル救援に本腰を入れる頃、ウィッチ世界では21世紀世界からの横槍が激しくなり、地球連邦による歯止めがかけられるまでに生じた損害と変化は極大に近いものがあった。オラーシャ帝国の分裂、扶桑皇国の内乱、カールスラントとガリアの衰退が挙げられる。科学の異常発達はウィッチ達の疑心暗鬼を引き起こし、扶桑においては自分達が後々の内乱の原因となってしまい、日本による粛清人事を招く。だが、それが不幸なことに、太平洋戦争におけるウィッチの駒不足の伏線となるのだ。ウィッチは特権階級として遇されていたが、その特権が問題視されるのは予想外だったのだ。しかし、ダイ・アナザー・デイは航空機のジェット化、3次元レーダーと早期警戒管制機による長距離防空網構築など、既存ウィッチの能力を超える科学が続々登場し始めている。しかも、日本が自分達の技術で当時のリベリオンで試験中の電探が玩具に見える性能の電探をレシプロ機にも積ませたため、ますますウィッチたちが暴走してしまう。探知距離がケタ違いな上、後世の技術で作られているために敵味方識別装置もあるなど、部分的に21世紀の技術が入れられていた。また、射撃の直感性を上げるためという名目で、海軍機であろうと、操縦桿にトリガーをつけるように統一されたため、日本海軍系の義勇兵は一定の再訓練を必要とするという難点も生じた。――



――ダイ・アナザー・デイにあたり、海軍機も一律で機銃操作機構を陸軍機寄りに改装する事になった。これはジェット機と操作系統を統一する事、義手パイロットも動員するからだ。再訓練の必要はないパイロットは戦後に空自に転じたパイロットであったり、現地改修機で戦っていた者達であり、戦後に一般職だった者達が再訓練対象者だった。また、生え抜き扶桑軍の空母パイロットは練度不足を理由に、背広組が動員を渋った。しかし、義勇兵ばかりでは生え抜き組が不満を爆発させる事が考えられたため、数合わせという認識で予備員扱いとされた。また、百戦錬磨の義勇兵とのレベルの差から、各部隊のトップエースか教官経験者のみが選抜された。扶桑の母艦搭乗員は実戦で役に立たないとされていた上、ウィッチの補助とエスコートが主な役割であったため、義勇兵と隊列を組めるのがそれくらいだったのだ。別の問題もある。いざとなれば、空対空特攻すら辞さない義勇兵の敢闘精神についていけるのが古参のみだったのだ。そのため、翔鶴型と大鳳は64の指定母艦の一つかつ、義勇兵用に割り振られ、烈風や紫電改とF-8が同居する艦上機構成になっていた。陸上では、超重爆との交戦が第一と考えられたため、扶桑の参謀の考え出した『震天航空隊』戦術は却下され、乙戦とジェット機の大量生産が強行された。扶桑の参謀たちはこの時から次第に失脚を始める。B-29やその後継機『B-36』の性能が突きつけられて精神的に追い詰められたからだ。また、雷電や紫電改はそもそも似た形状の怪異の迎撃と専門ウィッチのエスコートを目的に造られたので、人相手に使うのは…というウィッチ出身者の反対もあったが、炎上する名古屋城の写真が突きつけられると、反対は萎む。本土を超重爆が焼け野原にした結果を見せつけられては、大西瀧治郎も井上成美も反対できなかった。大西に至っては『パイロットを鉄砲の弾代わりにした』という批判がつきまとうため、コメントを出すのを控えるなどの影響も出ている。弊害は野戦高射砲がこの時期から回収され始めた事で、B-29に効く高射砲以外は回収という極端もいいところな決定である。当時の最新型である三式12cm高射砲や五式15cm高射砲は要地防衛用の高性能砲で、価格も高価である。しかし、野戦防空は戦闘機だけでは追いつかない問題もあるので、制服組が『部隊防空装備の配置前に野戦防空装備廃止したら、陸上部隊が敵のCASの良い的になるぞ。少しは考えて発言してくれ』といい、背広組と喧嘩になり、制服組が巻き返し、M1/120mm高射砲で旧軍式野戦高射砲を代替し、携帯91式携帯地対空誘導弾、03式中距離地対空誘導弾を扶桑に造らせることで落ち着く。91式携帯地対空誘導弾はウィッチの火力増強にも用いられ、フリーガーハマーを代替する装備にも目される。それらを旧軍式装備の代替に配備するには、日本側の扶桑への生産設備建設の予算折衝が上手く行かず、思惑通りにはいかなかった。そのため、自衛隊の追加派遣が野党の妨害を乗り越え、現地の要請という形で成功するのだ。この強引な近代化はそれまで防空の主役と目された防空ウィッチの反発を招く。しかし、古参兵ほど、事変の苦戦を覚えていたため、機材更新をむしろ歓迎した。部隊設立理由の高速爆撃怪異を真っ向から上回り、カモにできたのは七勇士だけだったからだ――



――宇宙戦艦ヤマトが訓練に出発する数週間前の23世紀――

「大林かー?なんだ?あたしは訓練航海の準備で忙しいんだけど」

「先輩、夜分遅くに申し訳ありません。お伝えする事が」

訓練航海に参加する準備を勧める黒田のもとに、士官学校での後輩である大林照子が電話をかけてきた。黒田の一期後輩で、階級は同等の大尉(当時)であった。因みに、彼女、黒江の通った航空士官学校の後輩でもあるため、244F隊長ながら、実質は黒江と黒田の使いっ走りであった。

「何だ?」

「実はウィッチ予算の削減に若い連中が反発してまして」

「お前だって、まだ15だろ」

「これは手厳しい」

大林は扶桑軍史上最年少の13歳で飛行戦隊長を拝命された俊英で、黒江から数えて四期、黒田の一期後輩のウィッチで、扶桑のマルセイユとも謳われる美貌を持つ。子供の頃に式典で見た関係で黒江に心酔しており、熱心なレイブンズの支援者である。帝都防空の戦隊長でなければ、転属を願い出たと公言する。

「お前のとこの内部調査の結果か?」

「はい。ウチは私で持ってるようなものですから、ご安心ください。問題は84配備が遅延した連中です」

「だいたい見当はついた。お前のとこにVFを送るよう、先輩が今、便宜を図ってる。多分、11主体になると思う」

「11ですか?」

「仕方ない。お前にだけ17や19を与えるわけにもいかんだろ」

黒田は後輩相手では、口調が輪をかけてフランクになるようだ。また、この頃には操縦にオートマチック具合が上がっていたVF-171は交戦の可能性が低い地域のみへの供給に切り替えられ、本星では11がまだ生産されていた。11は後継機が現れたので、ウィッチ世界も移民星政府と同等の扱いであるため、11は調達しやすい事情がある。黒江達はメーカーへの直接発注だったり、イサム・ダイソンが便宜を図った関係で高性能機を得られるのだ。『VF-19は20世紀の戦闘機のように、体で覚えるセンスのある者にしか扱えない』とは、地球連邦軍のエースパイロットの共通認識であり、ステータスである。

「いいなー、先輩はハイエンド機に乗れて」

「ギャラクシーは今、不祥事で株価暴落中でサポートが怪しいから、新星インダストリーのほうがサポートいいぞ。黒江先輩はそれで乗り換えたんだし。シムでHigh-Gモードを鼻唄混じりでクリア出来る連中でなければ、真っ直ぐ飛ばすのがやっとなんだよな、AVFってヤツは」

「黒江先輩、確か空自で…」

「教導群とブルーインパルスの経験者だからな。お前はブルーインパルスには?」

「行きました。先輩と一年はご一緒させて頂きました」

大林も空自に在籍中であり、大人びた風貌で年齢を誤魔化しているが、黒江の後に防大に入り、2004年に卒業して任官されている。空自では童顔で通しているが、実年齢は10代なのである。

「シムはやっとけ。11の生産が縮小されれば、19をブレイザーでいいなら、回せるようになるかもしれない」

地球連邦も31のラインを確保するため、11の生産枠を縮小するのを検討していた。しかし、現場の要望もあり、見送られてきたのである。その関係で黒田は可能性を示唆したのだが、実際はカリバーンが彼女と彼女の護衛に回されたという。黒江がイサムに伝えたところ、『ブレイザーは生産が伸びなかったから、あまりねぇし、ありゃ宇宙用だぜ。んならカリバーンを回してやる』と言い、本当にヤン博士のラインで送ったのだ。これは黒江の後輩への贈り物であり、黒田も後でびっくりの代物であった。防空部隊はB-29に勝てなかったと白眼視されていることから、可変戦闘機の使用くらいしてやってもバチは当たらないとは、黒江の談。

「とにかく、先輩からの連絡を待て。また、情報が入り次第、教えてくれ」

「了解です」

このように、防空部隊はその主役と目されたはずの専門ウィッチがその座から引きずり降ろされ、代わりに通常兵器が主役とされていく。雷電は排気タービンを積まれ、紫電改でさえも排気タービンは必須とされた。それでも追いつかないB-36が現れれば、F-86とF-104が用いられる手はずとされた。富嶽の旧式化もこれで明らかになり、この頃にはジェット化した飛天に切り替えられたが、調達数は低調ぎみである。富嶽はレシプロ超重爆なので背広組には徒花と軽んじられていたが、実は空力設計がB-36より優秀であるためと、4000馬力超えのエンジンが六基もあるため、B36より優秀である。そのため、ジェット化も胴体を流用し、後退翼に変えるだけであった。飛天はジェット化という事で後継として生産されているが、延命のためにターボプロップエンジンに換装される既存機体が続々登場した。富嶽も少なからずが旅客機として払い下げされたが、大多数はターボプロップエンジンを積んだ場繋ぎの爆撃機として使用された。また、後継機の飛天は完全に爆撃機・空中給油機・早期警戒管制機用途で設計されていたため、ウィッチの空中母艦としての運用は想定外であるのもあり、富嶽が延命されたのだ。ウィッチ母艦はウィッチの軍事的価値の低下で当面は余剰の富嶽を充てるとされたが、アメリカの大型輸送機をベースに新造する案が出される。それは後にオスプレイを充てる事で決着するが、太平洋戦争でGウィッチの輸送が課題になったから、予算がついたようなものである。来る、ダイ・アナザー・デイはウィッチの軍事的価値の低下を最低限に抑えるための戦でもある。Gウィッチをウィッチ人員構成からして、支配層に君臨させる事はこの時に既に暗黙の前提となっていたのだ。上層部の間では、現場が何と言おうと、Gウィッチをウィッチの統率者として君臨させ、横槍から守らせるというレールが引かれていた。その過程で、扶桑では後付の理由での処分が続々と下され、江藤はとばっちりを食らった。上としては『強力なGウィッチ(転生した者)』を中核に、若手の発奮を期待したが、それどころか内紛の方向に向かってしまった。扶桑の広報戦略の完全な失敗である。そのため、江藤が往時の隊長級で特に槍玉に挙げられてしまったのだ。しかし、江藤は当時の軍紀に則れば、違法行為はしていないし、報告義務も八割は果たしていた。また、本来はGウィッチを各部隊に分散配置し、教官とするのが当初の案だったが、世代間対立が顕現し、Gウィッチから汲み取れる技を若手が汲み取って貰える様に、部隊を組もうとしたら、その仲介を期待されし中堅が若手を抑えてしまい、排除に動いてしまった。更にそのテストケースと看做された501で内紛が起こった事、日本の横槍がとどめとなり、Gウィッチの集中運用に舵を切ったのだ。そのため、Gウィッチの運用は一箇所に集めて、一騎当千をさせたほうが揉めないし、同位国のご機嫌も取れるという方向に固まってしまったのだ。64の特異な人員構成もその産物であり、武子としては納得しかねる構成であったのだ。ミーナはG化後、その事が腹に据えかねていた武子に謝罪、しばし使いっ走りとして過ごすことになったが、禊と言うことで、進んでメイド代わりに働いたという。しかし、64Fと244Fの交流で初期の意図は達成されており、黒江が引き合いに出して宥めたという。武子も智子のことで憶測を流され、苛ついていたのである。それがちょうどダイ・アナザー・デイの直前にあたる。武子はジャーナリズムの過剰な宣伝を嫌う気質であるが、転生でその重要性を思い知っていたので、板挟みになっていた。また、501に資料を送っても、形式的な対応であったのが武子を怒らせた原因であった。(これはミーナの対応ミスで、後でハルトマンに、覚醒前は彼女が大層な方とは知らなかったんだ…と釈明している。ハルトマンが大慌てで詳細を知らせたが、当時は引退したとされる世代のウィッチをお局様と見る風潮に染まっていたため、ハルトマンの忠告を聞き流してしまう。しかし、覚醒後は顔面蒼白で土下座する羽目になったので、覚醒前は実力に驕りがあったのは否定できない)

「あーあ、ミーナの奴、あとで隊長に怒られても知らないぞー。先輩達の公にできる中では最大限開示された資料なのに」

黒田が未来でそう呟く。最後の揉め事を回避できるかもしれない最後の機会だったのに、だ。最後とは、整備兵との揉め事を乗り越えて、最後に残ったという意味合いでの一言だ。黒田の危惧は見事に的中したが、ミーナを擁護するなら、ダンケルクのダイナモ作戦当時に14歳で、志願時には戦史教育がされていない世代だったのだ。上層部も査問で『あのレイブンズを知らんとはどういうことだ?』と詰め寄ったが、知らなかったのは知らなかったのだ。その時、ミーナは坂本が擁護しなかった事で、身の破滅を考えたのか、ひどく取り乱した。坂本が見かねて気絶させるほどに。皮肉なことだが、その極大のストレスがG覚醒に残された最後の壁をぶち破ったと言える。まさにミーナが正真正銘のミーナ・ディートリンデ・ヴィルケとして生きた最後の時間、自縄自縛を地で行く選択を取ってしまっていたのだ。(ダイ・アナザー・デイ以後は実質、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケの容姿の西住まほであるため)

「でも、考えようによっちゃ、素養が目覚めるかもしれないな。坂本が予兆を感じ取ったとか言ってたし、多分、あいつの前世は――」

黒田は前史で出会った一人の女子高生を思い出す。西住まほ。西住流戦車道の正統継承者にして、黒森峰女学園の主将であり、エース。坂本が報告した予兆を纏めると、以前より囁かれた憶測は吹き飛び、彼女がミーナ・ディートリンデ・ヴィルケとして転生したというほうが適当と判断するに値する。黒田はそう考えた。






――ウィッチ世界に21世紀以降の軍事情報が一気に雪崩込んだ事はウィッチの立場を航空分野では特に危うくさせた。続々とターボプロップエンジンや高推力・低燃費のジェットエンジンが実用化され、通常兵器との交戦機会が増えると、当時の大多数のウィッチはそれを避けるようにMATに逃げた。芳佳が戦争ができないウィッチの当面の受け皿として、政治的取引の末に成立させた組織であり、前史で扶桑にできていた『自衛隊』のリメイク版でもある。芳佳は『数十年くらい持てばいい』として組織を作ったが、実際は軍役に忌避感のある世代が出たり、対人戦に従軍するウィッチを異端視する風潮が生じたことにより、21世紀になっても細々と存続している。軍ウィッチもMATとの住み分けのためにコマンドー化が推し進められ始め、主に軍に残った古参やトップエースたちは高度な陸戦技能すら求められた。そのため、レイブンズは手っ取り早く、空間騎兵隊で講習を受け、空間騎兵技能章を得て、それから自衛隊のレンジャー訓練を受けたのである。そのため、元から屈強な者たちを更に戦士として完璧にする事で、軍隊にウィッチが居られる大義名分を獲得せんとした。その過程で、列車砲のグスタフとドーラは史実よりも重量を増した榴弾やベトン弾の運用で固定され、魔導徹甲弾や超爆風弾はスーパーロボットに圧されて開発中止(アニメで怪異の再生能力が兵器の効果を無効化したことが示されたため、史実の用途に戻された)、三両目とされた『口径を52cmに減少させた代わりに砲身長を43mにまで増加した長砲身型を積む』計画は部品が完成しつつあったこともあり、中止はできず、計画変更に留まり、主砲の長砲身化に留めた。これはリトル・デーヴィッドという91cm迫撃砲の存在がリークされた事で、カールスラントの技術陣が対抗心を燃やしたためで、23世紀の高性能炸薬を詰め込んだ破壊力は危害半径においてあたりで、原始的な核兵器である『広島型原爆』と同等レベルに達するという。それらが配備予定になるにつれ、ウィッチの軍事的価値は相対的に低下していく。ウィッチの軍事的価値は対人ではムラのあるものであるのが、日本やドイツに嫌われたのだ。その見方は聖闘士やサムライトルーパーなどの超人、仮面ライダーやスーパー戦隊などのヒーローがいる状況下でのシンフォギア装者にも該当する。元の世界での神通力を削がれた状態の立花響はより上位の宝具にねじ伏せられるかもしれないという事実を向き合わければならない。正式に派遣される前、彼女は予知夢を見ていた。それは乖離剣エアにガングニールがねじ伏せられる夢であった。それはガイちゃん・ザ・グレートが実際に半分は実現させるのである。響にとっては神も貫く神槍だが、多くの世界では、ガングニールはグングニルであり、ロンギヌスと同一の存在ではない。それに伴い、元の世界での神がかり的な力は封じられる。黒江の要請も穿って見てしまう動きが年長組にはあった。また、エルフナインが論じた事で、響は認識はしていたが、哲学兵装は聖遺物の完全なる力にも通じるはずという希望的観測がなのはの荒療治の際に崩壊する事になる。また、現代兵器は凌駕するが、英霊の力には及ばない基本的に『人間の範疇』に収まる力(ギアのスペック頼り)なので、聖闘士から見れば『青銅の下位よりマシな鋼鉄聖闘士と同等』と見られている。戦力とは見られているが、黒江と智子は黄金聖闘士でも滅多にたどり着かないナインセンシズに到達しているため、大きく見劣りするのは否めない――

――黒江の電話――

「要請は受けてくれたようだが、それは仕方ないだろ。俺と智子は阿頼耶識も超えた神の領域にたどり着くほど修行してきた身だ。黄金聖闘士でも何代かに一人くらいの領域だ。お前らとは基礎が違うんだよ」

黒江はシンフォギア装者年長組と電話していた。要請は受けたが、黒江が在留中に手加減していたことを先代黄金聖闘士である天秤座の童虎から知らされたため、年少組に顰蹙を買ったため、その説明に追われていた。

「俺が本気出したら、お前ら、認識する前に肉体が残らねぇって。光の速さを超えた上にこの世のものじゃない雷に焼かれるんだぞ」

「この世のものじゃないって…」

「アーク放電で町ごと消し飛ぶのがオチだ。そもそも見えたら当たってるしな」

「あなたが私に撃ったあの電撃も手加減というの?」

「シンフォギア着てて幸運だったと思え。10億ボルトの電圧を纏ったコインをマッハ3以上で撃ったんだからな」

「あのさ、ばーちゃん。当たったから見えるってレベルだろ、あれ」

「ああ、お前もいるんなら言うが、クリス。お前が一番不安なんだ。並半端の銃火器は効かないのとドンパチすることになる」

「資料は見たけど、戦闘機の機銃も弾き返すって、どんだけかてぇんだよ!」

「米軍の重火器の殆どを無力化する程度だ」

改造人間はおおよそ、宇宙空間でも戦えるように造られているため、戦闘機の20ミリバルカン砲くらいではびくともしない。そのため、最低でも30ミリ砲以上相当の破壊力が必要である。仮面ライダーのライダーキックは相当な破壊力を持つ(厚さがm単位の鉄板を粉々にする程度)のがわかる。

「はぁ!!?」

「並のミサイルじゃ効果は出ない。再生されちまうからだ。高度なサイボーグってのは自己治癒能力が高いからな」

「侮るなって事か?」

「そうだ。並半端な攻撃じゃ倒れんし、必要なのは機械のところを動かす動力部を撃ち抜くストッピングパワーと初活力だ」

「動力部?」

「わかりやすく言えば、生体部分がある奴なら、生体部分の生命維持装置を破壊できればいい。サイボーグは生命維持装置のスペアがあれば生き返れる存在だからな」

「なんだよそれ!」

「ショッカーの頃から、再生怪人って触れ込みでやられている再生手術だ。ただし、再生すると、最初の時の能力が戻らないことも多い」

過去の強豪怪人でも、再生されると弱いのは、別個体だったり、能力をオミットしている場合があるからである。ゲバコンドルなり、サイダンプしかり、歴代組織で再生されたものは弱い。例外は蘇生手術であったアポロガイストのみだ。

「強いものもいるが、それは地位のある大幹部に限られる。死なすのは惜しいしな。雑兵は変えが効いても、幹部は効かないしな」

「悪の組織も世知辛いんだな…」

「用の済んだ奴は死ね!…なんてやらかすのは滅多にいないさ。知り合いの仮面ライダーのライバルだった野郎しかいない」

「いるのかよ?」

「勢いよく博士殺したら、蘇生手術が不完全だったってアホやらかしのドジがいてな、幹部に。聞くと笑いすらこみ上げるぞ」

アポロガイストは普段の冷静さが崩れると、みっともないほど狼狽えてしまう面があり、神敬介も『アポロガイストはもはやXライダーの敵ではない!』と本人を目の前にして豪語するほどに再生後は焦りが見え隠れしていたアポロガイスト。そのことを教える黒江。何気に残酷である。

「でもよ、ナチス・ドイツ発祥の組織って割には呪術要素がないか?」

「ショッカー首領の人間体はチベットの呪術使いだったって噂もあるしな」

「呪術使い?」

「表向きは確か、チェン・マオとかいう呪術師として一定の地位を1940年代に築いていて、ナチス・ドイツとは元から深い関係だったそうだ」

「それがどうして首領に?」

「彼がナチスの黒幕だったんだよ。アドルフ・ヒトラーなんて、彼の傀儡に過ぎない小物だ。アドルフ・ヒトラーは扇動力を買われたスピーカーとしての価値しかショッカーには無かったって事さ」

「その世界じゃ、だろ?」

「いや、ヘタすると、平行世界にも影響を与えていた。チェン・マオの本当の姿はスサノオノミコト。日本神話の神だしな」

「待ってください、黒江女史。ナチス・ドイツを束めていた存在がなぜ日本神話と?」

「翼か。ちょうどいい。元々、地球の生命体の進化を見に来た存在なんだよ、彼は。最初に降り立ったのが、後の日本に当たる地点だった。彼らはヤマトと呼んでいたが」

大首領は日本をヤマトと呼び、聖地としていた。つまり日本神話は彼らとその同族を日本人に神と崇めさせて作らせた…とも言える。日本が人類の聖地であった。もはや、大首領とその器として作られたZXしか真偽はわからないが、とにかく、大首領にとっては日本が聖地であり、その他の地域は養豚場に等しい価値しか無いのだろう。

「ヤマト、だとッ…!?」

「大首領にとって、日本こそが聖地で、他は養豚場くらいの価値だ。だから、日本陸軍にもシンパを作ってたんだろう。辻政信参謀とか怪しそうだし」


「天照大神もそうだと?」

「スサノオノミコトに味方し、邪馬台国が滅ぶくらいの時代にツクヨミノミコトに倒されたそうだ。スサノオノミコトの姉だったらしいが」

「……それでツクヨミノミコトは?」

「スサノオノミコトを封じ込める結界を維持するために力の大半を使っているそうだ。ただ、殆ど相打ちに近かったそうで、上半身しか体の実体は残っていないそうだ」

「……なんと」

「天津神は当時に地球に立ち寄った銀河系の覇者だった宇宙人で、国津神は日本に土着したそれ以前の時代に栄えた宇宙人と各地から来た人間との混血、あるいは宇宙人そのものって研究も出たからな、その世界」

「信じられん……」

「その証拠が磁光真空剣だ。あれは遥か昔に宇宙人が聖徳太子の時代の日本に立ち寄った折に齎した金属を使って作られた刀だ。宇宙人の血がどこかに入っていないと隠し機能は使えない」

「なっ!?月詠は……まさか…」

「本人も腰抜かしてたぞ。あれを扱える血筋は日本にもそんなに残っていないはずだしな」

「平行世界を隔てているのに、そんな偶然が?」

「私の知り合いの科学者曰く、どの平行世界にも似た出来事は起こり得るらしい」

「似た出来事?」

「第二次世界大戦とか、関ヶ原とか、起きない可能性もあれば、似た出来事が形を変えて起こる場合もある。小田原征伐も俺の故郷じゃ生き残った織田信長が率いて起こしたし」

「バタフライ効果だろ?SFで割に見るぜ。ばーちゃん、映画好きなら知ってると思ってたよ」

「ど忘れしてた。SFは偶にしか見ないからなあ」

「スペースオペラ以外も見ろよな」

「ミステリーゾーンでもダチから借りるよ」

SFというと、スペースオペラを思い浮かべる黒江。クリスは意外そうに、また、呆れつつも助言する。サイエンス・フィクションがある意味では実現した世界に滞在しているため、広義のSFという分野にはあまり触れていないらしい黒江は意外であった。

「あ、あの、黒江女史。エヴェレットの多世界解釈はご存知ないので?」

「うん?前、なんかで聞いたような…」

「パラレルワールドやタイムトラベルのある種の理論の根幹の理論の一つです。まだ破綻はありますが、他の理論と補完し合えば、説明はできます」

話がSFで使われる理論の話になっていく。黒江もその理論の一端を別の自分との邂逅という形で見ていたりする。ある意味、平行世界間の交流が実現すると、世界ごとにSFで提唱された理論がある程度は説得力を持つようになる。パラレルワールド間の電話もそうで、それを実現させた時空管理局はその方面では抜きん出ていると言えよう。黒江と翼たちの電話は続く。ある意味では不思議な光景であり、時空管理局の技術が地球連邦に伝わり、ミノフスキー粒子の影響を受けない通信として、携帯電話が次第に復興し始める切っ掛けを時空管理局が作ったことになる。



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