ミッドチルダで巻き起こった動乱は殆ど日独戦とも言うべき現況と言えた。これはミッドチルダに到着した友好国らの軍隊の内、最も最初に到着し、大規模に軍隊を送り込んだのが扶桑皇国である都合もあったが、とにかく完全に日独戦争の様相を呈していた。


――ミッドチルダ 臨時飛行場

ここは元々、ヘリコプターを多数運用するために整備された基地であった。それを時空管理局への扶桑皇国海軍の要請により、固定翼機飛行場として整備し、使用していた。なのはは作戦前にここを見学していた。

「一尉、いかがです。この紫電改の山は」

「凄いですね。紫電改を200機以上揃えるなんて」


なのはの世界では紫電改は400機程度しか造られなかった歴史があるためか、紫電改がずらりと並ぶこの光景に圧倒されているようだ。

「山西航空機から紫電五二型として完成したものを直接空輸させました。空母搭載機としての運用もできる万能機です」

20代後半ほどの若い整備兵は誇らしげになのはにこの真新しい紫電改を説明する。紫電五二型とは、扶桑皇国独自の形式の紫電シリーズの事。発動機は高高度性能を改良されたハ43-11ル、武装は30ミリ砲六門と、一段と強化された。ジェット機の時代が扶桑皇国においても黎明を迎えつつあるため、恐らく“レシプロ戦闘機最後の輝き”となる機体だ。(因みにこの形式は当初の迎撃戦闘機としての紫電シリーズ最終発展型である故、運動性は前型より落ちるとの事。空母艦載機としては二一型の純正発展型である五三型のほうが高性能らしい)

「紫電の最終発展型、か……」

「そうなります。コイツがレシプロ戦闘機最後の雄です。30ミリ砲六門。これを食らえばメッサーシュミットだって翼が吹き飛びます」

紫電シリーズの最終発展型とも言える紫電五二型は計画段階で中止された陣風戦闘機の武装を実現させた機体。そのため従来型と一線を画する火力を持つ。これは計画段階での仮想敵機がB-29およびその後継機のB-36にランクアップしたためだ。

「搭乗員の練度はどうなんです?」

「それは私が説明するわ」

「加藤大尉」

航空隊との打ち合わせを終えたらしく、加藤武子がやって来た。整備兵となのはは敬礼する。

「航空隊の練度は平均的に見れば乙レベルよ。ドイツ空軍の連中に比べれば劣るけど、私達に帯同して空戦できる最低限のレベルで人数を揃えるとね、どうしても平均レベルが下がるのよ。問題はそこよ。機体が優れていても、練度がね」



航空隊の平均レベルは甲乙両で言うところの乙であると告げる。紫電改は確かに優れた戦闘機であるが、パイロットが敵に劣る状況では真価は発揮できない。そこが武子が懸念する点なのだ。最もなのはら+ウィッチ達のレベルが高すぎて、実戦経験が薄い通常部隊の搭乗員の腕が歴戦の彼女らに追いついていないというところも多分にあるが。




「あなた達のレベルが高すぎるんですよ。名を馳せた撃墜王だらけなんですから……」

「確かにそれは言えるわね」

武子は苦笑する。何せ扶桑陸軍で今回、ミッドチルダにいるウィッチ連中だけでも扶桑海事変を経験し、その後に名を馳せた者達が自分を筆頭に今のところ4,5人。その内の過半数は扶桑海事変当時に飛行第一戦隊の在籍経験者(武子、圭子、黒江)である。これだけでも陸軍内部からは派遣に異論が出るほどの逸材揃いだ。

「あなたのことは綾香や智子達から聞いてるわ。今回はアテにさせてもらうわよ、なのは」

武子は3人の親友らが手塩にかけて育てたという、なのはの腕前を今回の作戦で見極めるつもりらしい。その技術を自分の目で確かめたいのだろう。なのはもその腹の内を見ぬき、「ええ。任せてください」と笑みを返し、先行して出撃したハルトマンらを追って、紫電改部隊とともに勇躍、出撃した。この時、同行した紫電改部隊は10機前後。なのはらと共に飛行可能かつ、撃墜王と渡り合える腕前のベテランの飛行兵を集めて選りすぐったためで、その中でも武子がA級と認めた面々のみを選抜し、編隊に組み込んだためだった。



















――こちらはナチス(バダン)側。ミッドチルダ中心部に整備された空軍基地にはズラリと持ちこまれたメッサーシュミットBF109GとK型が並んでいた。

「ヴォルター、あれは完成したのか?」

「まだ最終テスト段階だ。戦後の理論を当てはめて製造中とは言え、未知の機体だからな」

ヴァルター・ノヴォトニー少佐は同僚のエーリッヒ・ルドルファー少佐からの質問にこう返した。彼らが待っているのは、大戦中の旧態依然としたレシプロ機(フォッケウルフ Fw190系統含む)ではなく、メッサーシュミットMe262の発展型となる高速化機である。戦中に考案されていた高速化計画機“HG3”を戦後の軍需産業に潜り込ませていたシンパの協力で更に改設計した機体で、計画名は“HG4”である。エンジンが戦後型で、胴体内蔵になったために、262初期型とは似ても似つかわない姿だが、性能は戦後第3世代ジェット戦闘機相当に上がっている。機体性能的にはレシプロより遥かにマシ(彼らが待っている可変戦闘機はごく少数なため、おいそれと使えない)なので、機種転換を首を長くして待っているのだが……そうは簡単に問屋がおろさない.

「しばらくはクーアフュルストとグフタフで頑張るしかない、か。フォッケウルフ系はどうなんだ」

「閣下の話だと、あれは終戦前に確保できたのが全シリーズ含めてもBF109の半分以下でな。今はサザンクロス内の科学者達がリバースエンジニアリングで再製造を行っているが、歴代のライダー共に邪魔されて進行が遅れてるそうだ」


「ジェット関連は整備要員や操縦士の育成、生産工場の建設を新たにやらないと行かないからなぁ」

レシプロ機は政権が健在であった頃から慣れ親しんできてるため、整備要員の再教育の手間も省け、時空管理局から接収したヘリコプターの製造ラインを多少改変さえすれば保守部品が確保できる。そのため彼らはレシプロ機を前線で運用しているのだ。

「で、あの嬢ちゃんたちの援軍にカールスラントのウィッチがいるんだって?」

「そうだ。少なくともハルトマンとバルクホルン、ヴィルケの三人はあちら側だ」

「ほう……。面白い。“ブーヒー”とは空中で手合わせしたかったんでね」

バダンはドイツがカールスラントとして存在する時空の事も情報の手の内であった。エーリッヒ・ルドルファーは仲間内で“ブーヒー”(坊や)とのアダ名で呼ばれたエーリヒ・ハルトマンの事を思い出す。直接的な面識は無かったが、前人未踏の300機撃墜の大台に乗ったドイツ最強のエース。そのブーヒーが女性として生まれいでた世界。ルドルファーは興味を持つかのような素振りを見せた。

「公爵は私が引き受ける。お前はブーヒーをやれ。バルクホルンはクルピンスキー大尉がやる」

「了解だ」

ノヴォトニーらは今回はメッサーシュミットBF109K(塗装は東部戦線仕様。機体に航続距離改善及び、運動性強化の改造が施されているので細部の仕様は戦時中とは異なる)に乗り込み、改良型DB605エンジンを回し、アイドリングさせる。そしてエンジンが温った後、滑走路まで滑走し、離陸する。管制塔の指示に従い、護衛対象のJu87G改良型(航続距離改善中心の改造)の一個中隊を護衛しつつ、戦場へ向かった。この時の飛行隊は少数であるが、200機撃墜のエースで固められ、なのはたち時空管理局の精鋭、歴戦のウィッチとも対等に渡り合える猛者揃いであった。
































――先立って救出作戦に赴き、制空権確保のために上空待機していたハルトマン達は襲来してきた敵機に改めて驚きを顕にした。それは見慣れた友軍のBF109とJu87Gであったからだ。

「あれが敵だと!糞っ、どこからどう見ても友軍機にしか見えんぞ!?」

そう。カールスラント軍の国家識別標識はナチス・ドイツ及びプロイセン時代のドイツ、ひいてはドイツ連邦とほぼ同じである。そのため敵機だと言われても実感が沸かないのだ。

「集中してトゥルーデ!アレは私たちの知っている“メッサーシャルフ”じゃないのよ!」

「……わかっている!」


インカムを通してミーナに返す。バルクホルン。言葉の端々から自軍機と同様の姿を見せる敵機との交戦に戸惑う様が見て取れる。バルクホルンと対峙するはヴァルター・クルピンスキー大尉(ナチス・ドイツ所属時の階級)である。バルクホルンらの世界にも“ヴァルトルート・クルピンスキー”として存在する彼はゲルトルートの名を持って生まれた、“女性としての”バルクホルン”に挑戦した。

「よう、会いたかったよ“ゲルハルト”。いや、。こう呼ぶべきかな。ゲルトルートお嬢さんと」

敵機からの通信にこれまた困惑するバルクホルンであるが、自分の名が男性名であった場合の名詞を言った事から、敵のパイロットが並行時空の自分の事を知っている事を悟った。




「貴様がそう呼びたければ好きにしろ。……何者だ?」


「私は元・ドイツ国防軍空軍、第44戦闘団所属、ヴァルター・クルピンスキー大尉だ」

「貴様がクルピンスキーの……!?」

「その口ぶりから察するにそちらでも私がいたようだね」

クルピンスキーはバルクホルンとの空戦をこなしつつも会話を愉しむ。元44戦闘団同僚の好という奴だろう。バルクホルンはMG151機関砲を構え、やがてBF109Kの後ろを取った。

「クルピンスキーの男としての姿に出会えたのは驚きだが、私の前に立ち塞がるのなら落ちてもらうぞ!」


「フッ、君のような若者にこの私は落とせんよ」

トリガーに指をかけ、撃とうとしたその瞬間、クルピンスキーはそもそもが80歳の老人であった故の老獪さを見せる。とっさにBF109K改の馬力を生かし、急上昇に移った。バルクホルンもそれを追うが、エンジン馬力と高高度性能の差からか次第に引き離されていく。

「馬鹿な……!?戦闘機とストライカーの違いはあれど、基本的にはほぼ同じ機体の筈だ。こうも離されるはずがない!」

バルクホルンは敵機と自機にそれほどの差がないはずだと焦りを見せる。この日のバルクホルンは機材調達上の不都合でメッサーシャルフBf109G型を使用していた。バルクホルンは知る由もないが、実は敵の方がそもそもの機体形式が一世代後なのである。そこをクルピンスキーはうまく活用したのだ。バルクホルンのユニットが高度10000Mで息をついた所で、をクルピンスキーは更に数千m上から急降下、20ミリ砲(MG151/20機関砲)および30ミリ砲(MK108機関砲)を一斉射撃する。この一斉射撃はB-17どころかB-29をも落とせる。

「コ、コイツは不味い!」

バルクホルンもこれには肝を冷やした。うっかり攻撃を食らえば一発でユニットをおしゃかにされるからで、バルクホルンは回避行動に専念した……。

























――こちらはハルトマンと対峙したエーリッヒ・ルドルファー。こちらの場合は天性のセンスを見せるハルトマンと、老人に至るまで旅客機のパイロットとして空を飛んだルドルファーの経験がぶつかりあった。

「こっちの攻撃が読まれてる……!」

さしものハルトマンも熟練されたルドルファーの空戦機動に翻弄されてしまっていた。人同士の空戦に不慣れな彼女と、東部戦線やバトル・オブ・ブリテンなどの歴史に残る激戦を生き抜いてきた、百戦錬磨の彼との差がここで表れたのだ。が、ハルトマンはその天性のセンスで善戦する。

「ほう。MP40で空戦をするとはな。さすがにブーヒー……いやこの場合はフロイラインか」


ルドルファーはフラップ、ラダー操作も活用してハルトマンのMP40の射撃をいなし、躱す。彼はMP40の射程の長さ、弾数を知っているのだ。空中で撃てばそもそも空戦用の機関銃でないこの機関銃では、空戦に用いれば近接しなければ装甲目標に効果が期待できない事も含め。

「距離が詰められない……なら!」

「シュトゥルム!!!」

ハルトマンは敵機が降下に入った瞬間、そこが突けいるチャンスだとばかりにユニットを加速させ、左腕に風を集束させ、まるでゴッドガンダムの爆熱ゴッドフィンガーの如く、暴風をその手に宿す。これが普段、ハルトマンが突撃や空戦機動補助に使うシュトゥルムである。今回、ハルトマンはこれを敵機への直接攻撃に使ったのだ。(もっとも、この時のハルトマンがそれらモビルファイターの必殺技を知っているのかは定かで無い)エーリッヒ・ルドルファーの熟練された妙技とハルトマンのウィッチとしての意地。どちらに軍配が上がるのか。



















――西暦2201年 小惑星イカルス

ここ、小惑星イカルスで極秘の近代化改修の第一段階を終えた宇宙戦艦ヤマト。初航海時からの古参クルーは白色彗星帝国戦時にその大半が失われたため、新世代クルーがヤマト乗組員の中心となっていた。


「ここでヤマトの整備を私と一緒にしてくれていた。……誰かに似ていると思わないか?」

ヤマト技師長の真田志郎の隣に立つ人物に古代はすぐに直感的にこういった。

「死んでいった加藤にそっくりだ……」

古代がそう言った人物は新たにコスモタイガー隊の補充要員として乗り込んできた、若き有望株。再度転属した坂本茂の後継者と期待される逸材。

「加藤四郎大尉です。兄の意志を継いでヤマトに志願しました」

彼はかつての初代コスモタイガー隊長である加藤三郎の弟。ほとんど一卵性双生児と言えるほどに酷似している容姿、戦闘機乗りの腕前など、殆ど生き写しとも言える弟。

「そうか、加藤の弟か……!」

古代は生前の加藤三郎と親しかったが、弟がいたとは聞いてなかったらしく、驚きの表情を見せた。

「加藤は坂本が藤堂軍令部総長に推薦するほどの逸材だ。が、兄貴や坂本と違って実戦経験が無い。訓練生時代にハワイ沖海戦に動員されただけだ。コスモタイガー隊の隊長をやらせるにはまだ早い」

「と、言うわけで俺がコスモタイガー隊も兼任しなければいけないといけないというわけですね?」

「そういうことだ」

真田は加藤の経験の無さを理由にコスモタイガー隊を指揮させるにはまだ早いと断言した。これは加藤四郎自身も了承済みで、当面は古代の僚機を努めさせるとのこと。こうして、ヤマトクルーの世代交代も着実に進んでいる事を示すかのように、コスモタイガー隊だけでなく、砲術分野でも旧日本地区の砲術学校で主席卒業の坂巻浪夫、副席の仁科春夫が配属され、機関部に輸送艦出身の赤城大六が転属されるなど、人員の入れ替わりも進められ、クルーの八割が新世代クルーになった。


「ヤマト、発進!!」

こうして宇宙戦艦ヤマトはテスト航海も兼ねてのミッドチルダ救援に赴いた。地球衛星軌道上で此度から僚艦を努めることになった姉妹艦で、航宙戦艦として生まれた信濃、イスカンダル救援時からヤマトと行動を共にする空母らと、ロンド・ベルと合流。時空管理局との技術交流によって衛星軌道上に設置された次元移動のためのゲート装置(地球の保有する技術では波動エンジンや高出力フォールド機関を搭載しない民間船までの安定した次元移動は困難であったため、時空管理局がメカトピア戦役後に交流促進のために技術と資材を提供し、地球と共同開発した転移装置)を潜り、ミッドチルダへ転移した。



――この地球連邦の動きはバダンに察知されていた。バダンの行政区長官のマンシュタイン元帥は宇宙戦艦ヤマトという強大な敵がやって来る事を報告され、思わず立ち上がって大声を上げてしまった。

「ヤマトが動いただとぉぉぉぉぉ!?」

「ハッ。小惑星イカルスに潜り込ませたシンパから緊急連絡がありました」

「うぅむ……ヤマトの奴らは単艦で恒星間国家を複数血祭りに上げ、マクロス以上に宇宙にその勇名を轟かせている“モンスター”だからな…」

ヤマトはヤマトでも、宇宙戦艦としてのヤマトは他とワケが違う。ガミラス帝国、白色彗星帝国という恒星間国家を血祭りに上げ、宇宙にその勇名を轟かせる戦艦。現に暗黒星団帝国“デザリアム”は恐れおののいているし、銀河連邦警察を持つバード星すら一目置いている。ヤマトを舐めきっているのは帝政が革命で倒れ、共産主義国家となったばかりの“ボラー連邦”くらいなものだ。

「大首領に裁可を仰ぐ必要がある……波動エンジン艦が欲しい」

冷静沈着なマンシュタイン元帥をして激しく狼狽させるヤマトの勇名。宇宙戦艦ヤマトに対抗しうる艦艇を欲するのも仕方がない。彼から連絡を受けた暗闇大使も思わず“うぅぅむ……ヤマトか”と唸らせられ、大首領と評議を余儀なくされる。長い評議の結果……。

「こうなれば連邦が公試運転間近のビスマルク級宇宙戦艦を使うしかあるまい」

「アレをですか?」

大首領直々に名を言ったビスマルク級宇宙戦艦とは、地球連邦の旧ドイツ連邦が艦隊旗艦級の次期モデルのテストケースの一つとして建造した波動エンジン搭載戦艦。武装が艦体外面に装備されていないという異色の設計の戦艦だ。

「既に一番艦は就役したが、二番艦と三番艦はまだのはずであろう。デルザーを使って強奪せよ」

「ハッ。元帥、成功の是非はまた連絡する。それまではシャドームーンと協力して戦線を維持させよ」

バダンも宇宙戦艦ヤマトという強敵には手を焼いているのが分かる一幕である。ヤマトがその力を振るえば下手な惑星くらいは軽く全滅させられるからで、大首領もヤマトに一目置いているのがよく分かる。こうして、バダンも戦略転換を余儀なくされるほどのヤマトの勇名。こうして、ミッドチルダ動乱はこうして、バダンも予期せぬ状況を呈する。宇宙戦艦ヤマトという存在の大きさが実感できた。



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