――新暦75年 9月。新生なった戦艦信濃と甲斐は簡易改装終了と同時に、書類上においても“改大和型戦艦”へ分類された。簡易改装とは言え、機銃類や高角砲がCIWSと近接対空ミサイルであるRAMへ代えられ、臨時CICが設置されるなどの措置が取られた結果、総合戦闘力は改装前より飛躍的に向上。機関は超大和型戦艦のテスト代わりにCOGAG機関なので、重量増加に機関出力が追いつき、速力は大和や武蔵より高い。(COGAGとはガスタービンなどの混載型機関で、カタログスペック上は換装前より馬力は多少低下したが、機関始動にかかり時間が短縮され、操作レスポンスが大幅に改善されたこと、艦の全長が延長された事で、造波抵抗が減少。相対的に巡航・最大速度速度の向上と機動性の改善に成功した)

「ほう。“簡易”という割には随分変わったものだ」

「高角砲や機銃を後世の装備にそっくりそのまま替えましたからな。機銃群撤去で余った箇所はミサイルランチャーの設置場所になったり、CIWSやその弾倉などに替えているそうです」

小沢治三郎は改装なった両艦を視察する。近代化されてすっきりした姿であるが、戦闘力は以前とは比較にならないという参謀の言に満足気な様子だ。50口径46cm砲も地球連邦軍の支援で弾頭が複数用意され、かつての米軍が使用していた重量砲弾であるSHS弾の改良型や、ガンダリウム合金を弾体部、弾頭部にタングステンとガンダリウムの合成合金を使用用した、『ガンダリウム弾』、新生三式弾、波動カートリッジ弾などが用意されたと説明する。

「ん?副砲は取っ払ったのかね」

「はい。H級とぶつかり合う上で防御上の弱点となるので撤去したそうです。これで重量削減したそうです」



信濃と甲斐は副砲の全てが取っ払られ、外観が大きく変化している。これはVLSを設けたために副砲の必要性が消えたためと、格上の相手と戦う上での重大な弱点となりえるのを考慮に入れた故だった。副砲分の重量が削減された分、軽量化はされたそうである。

「水雷防御の強化が特にされたそうです。敵の例の新型魚雷に対抗するために」

「例の酸素魚雷よりも数倍速い新型魚雷か。その威力は我が国の輸送艦や駆逐艦程度は一撃で轟沈させられるというが……」

「ええ。その威力の前には金剛型程度の戦艦では無力です。本国は急ぎ、水中防御をハードとソフトの両面で大強化研究をしております。そのテストケースがこの二艦だそうです」


スーパーキャビテーション魚雷の出現はウィッチ世界の各国軍を震撼させた。自らの如何な手段でも迎撃不能な速度かつ、並の戦艦では一撃で撃沈、最新鋭の新戦艦であっても大ダメージ確実な魚雷の存在とその優位性をティターンズ残党とナチス・ドイツが同時に示したで、特に大ダメージを被ったのは扶桑海軍であった。平賀譲式の水中防御が無力化された事を身を以て思い知らされた彼等は急ぎ、未来の最先端技術でそれを帳消しにしようとしたが、未来においてもキャビテーション魚雷は研究があまりなされていなかった分野であるため、対抗策は模索中。とりあえずはそれに耐える装甲と三重の特殊液層防御、CIWSの最新型装備でお茶を濁したわけである。





「変えた装甲は何だね」

「バイタルパートは新式コーティング済みのガンダリウムγ合金の三層構造に一部換装済みです。建造段階で未来技術入れた甲斐があります」

信濃以降の新戦艦は予め未来技術を受けいられるよう、未来技術で建造された。そのため装甲の換装や電子機器の受け入れも容易である。その成果が表れたのだ。(ただし改装に次ぐ改装で扶桑原産の技術の割合は下がったが)

「波動カートリッジ弾が連邦宇宙軍から提供されたのか。貫徹力はどのくらいかね」

「元々、洋上艦より遥かに頑強な宇宙艦艇のバイタルパートをぶち破るための弾丸ですから、撃ったら我が方の51cm砲をも超える破壊力を発揮するようです」

「凄いなそれは。つまり波動カートリッジ弾があれば、その気になれば宇宙艦艇も撃沈できるのかね」

「そこまで弾が届けば、ですが。宇宙では弾丸は初速を失いませんから、当たれば戦艦だろうが一撃轟沈も可能ですが、洋上では重力などの関係で弾速や弾道が相応になりますからね。それでも当たれば最強の破壊力だそうです」

そう。重力や空気がある星では弾丸は空気抵抗や重力などの関係で弾道が上がったり、弾速が低下する。第二次大戦時の艦艇の交戦距離は日露戦争時の倍以上に伸びている。これは人との戦争が久しく行われていないウィッチ世界でも研究は続けられていたので、理論上の交戦距離は史実第二次大戦と同様の距離に伸び、実際に戦う事で何が起こるのか、艦艇のダメージコントロールは上手く働くのか?実際にミッドチルダ沖海戦やティターンズ残党との闘いで実証されている。

「先の海戦で少なからずカールスラント式ダメージコントロール術が時代遅れであることが判明しました。超大和型戦艦に何故、リベリオン式が取り入れられたのか、これでやっと分かりましたよ」

「うむ」

カールスラントはダメージコントロール術の先進国と見なされていた。だが、その技術は実際は第一次大戦レベルと代わり映えしない旧式技術であった。これは異世界のカールスラントと言えるナチス・ドイツとの交戦で明らかになった。地球連邦の手で建造された新造艦はアメリカ及び戦後日本式のダメージコントロール術を前提にされているのを疑問に思う造船官や軍人が多かったが、実際に海戦をしてみると、そんな声は消え去った。

「この信濃と甲斐の『初陣』はいつですか、長官」

「ああ、管理局の次元航行艦隊との協議で決められた。孤立した地域の部隊を我が方の水雷戦隊で救出する作戦が可決された。キスカ島撤退作戦の要領だ。なので、救出艦隊は木村君に任せた」

「木村閣下に?よろしいのですか、長官」

「彼は実際にキスカ島撤退作戦を無傷で達成しているという記録が向こう側にある。それに万が一、敵と遭遇しても臨機応変に対応できる。我々はその作戦では、ビスマルク以下の戦艦部隊を引き付ける囮となる」

小沢は元来は水雷屋である。そのために木村昌福中将を高く評価していた。小沢は木村の地球連邦側からの評価が高いことを知ると、それを口実に、ハンモックナンバーがビリッケツに近い木村を重宝していた(これは海軍のハンモックナンバーが将来を左右する海軍の伝統によらない優秀な人材を使っていることを地球連邦に示すための小沢の策でもある。しかし実際に成果を出すので、小沢はいつしか策ではなく、本当に重宝するようになっていた)。これに反感を持つ者も当然ながらいた。代表的なのは、五藤存知少将であった。彼はハンモックナンバーの低い木村を馬鹿にしていたが、地球連邦軍から「サボ島沖海戦でポカした人」として、逆に自分が有名である事に憤慨。抗議したが、実際の歴史でそうなってしまったのは事実。タイムテレビで実際の映像を見させられると彼はシュンと大人しくなったとか。

「木村閣下の作戦を成功させる囮に改大和型戦艦を動員ですか?大げさすぎやしませんか?」

「陸奥などが戦線を離脱している以上、大和型を使わない手はない。それにせっかく艦政本部肝いりで、超大和型戦艦運用のテストベッド代わりにこの二隻を改装したのだ。実戦試験をしなければ艦政本部に良い報告が出来んよ」

そう。扶桑本国には、地球連邦軍との合作である超大和型戦艦がデーンと訓練中である。500m級の同艦は在来艦との共同運用は難しいと判断され、その護衛艦隊が整備されるまで実戦投入は見送られた。なので“ちょうどいい大きさと強さ”の改大和型戦艦を前線で積極的に運用する口実ができたという訳だ。


「いよいよ50口径46cm砲艦での統制射撃ができるのですね」

「うむ。武蔵の仇を討てるぞ、君」

「砲術長も楽しみにしてるでしょう。私も興味があります」

この参謀は大砲屋のようだ。先の海戦で信濃が活躍したのに興奮したという。大砲屋が空母機動部隊の台頭で日陰に追いやられた分、発散できそうであると息巻く。所詮、14インチ砲艦のビスマルクなどは世界最強レベルを自負する大和型の敵ではない。派手に統制射撃で撃沈してやるくらいの勢いで挑む。それが大砲屋の意地なのだ。それが戦艦が本来の意味で活躍する舞台を用意してくれた神への恩返しなのだから。







――加藤武子は機動六課とカールスラント勢を率いてよく奮闘していた。ミーナが航続距離の関係で帰還し、指揮権を移譲されると、欧州流の編隊空戦に慣れている彼女はカールスラント勢も違和感なく戦闘を継続することが出来た。ただし、航続距離の関係でカールスラント勢は武子が駆けつけて数分で帰還を余儀なくされた。ハルトマンを回収した上で。なので、実質的には扶桑勢が引き継ぐ形となったが、武子達は中低高度での戦闘に専念した。これは扶桑皇国製の排気タービンは製造工程の未熟さと初期型故、ドイツ軍の誇るGM-1に代表される出力増加装置による一時的なパワーアップであろうとも、とても追従する事は出来ない。それは戦闘機であろうとストライカーであろうと変わりはない。初期型故に高高度性能を向上する用途どころか、扶桑皇国製発動機の通弊であった『中高度以後でのエンジン性能の激しい低下』を食い止める目的が主であったからだ。だから誉を押しのけ、(地球連邦軍の強い提言も大きいが)出力に余裕があるハ43発動機がジェットエンジンの安定生産化(ネ120など)のつなぎとして、生産されているのだ。これが最後のレシプロ発動機の華だ。だから武子は高高度戦闘をなのはたちに任せたのだ。


「ほう。今度は主に日本の魔女たちのようだ」

「日本か。格闘戦に持ち込まれると不利だそ。第三小隊、あとは任せる。高高度戦闘に専念しろ」

「了解」



フォッケウルフ隊は代わりばんこで威力偵察代わりに空戦を行っていた。アビオニクス(機体の見かけは第二次大戦中と代わり映えしないようだが、実は対魔導師用に転用できるように戦後技術とオーバーテクノロジーを用いた新型にこっそりとアビオニクス一式がマイナーチェンジされている。実はこの技術、ティターンズ残党にもシンパを通して、有償提供されており、ジェット戦闘機の対ウィッチ能力向上に役立てられたという)これが彼らの強みであった。



――高度8000m。初期型排気タービンを使う扶桑皇国製発動機では2200馬力のところが1800馬力にまで性能が低下する(史実では誉エンジンが高度6000mだと2000馬力が1600馬力にまで低下しているので、それよりはマシだが)。しかしドイツ側も昔と異なり高オクタン値の燃料が使用できるので、どちらが優位とは測れない。なので、それらに左右されないなのは達魔導師が高高度戦闘を担当したのだ。



「Ta152……。確かにコイツは高高度戦闘に特化してる。前に本で見た評判はアテにならないな」




なのはは高校時代にプラモを作るための資料として、ミリタリー関連本を釣って買い込んでいた。Ta152は標準戦闘機型と、高高度戦闘機型の2つがあるが、後者の方が自分に襲い掛かってくる。しかし航続距離の問題からか、二回ほど部隊がバトンタッチしているのが見えた。本で見た評価だと『究極のレシプロ戦闘機の泊付きで紹介されるが、実際のところは作んなくてよかったんじゃね?的な性能であった』とされているが、大戦末期の機体なので、真の評価は定かで無い。実際、大戦末期に投入された枢軸国の如何な機種も、もの他色々な理由で真価は推し量れないのだから。

「今度こそっ!」

なのははTa152の背後を取り、ショートバスターをぶちかます。今回ばかりは片方の翼を消滅させ、敵機は墜落していく。他はというと……。


「テメ、この、ちょこまかしやがって!」

ヴィータはTa152の細かい機動に翻弄されていた。スピードは上だが、レシプロ戦闘機の小回りの良さについていけないのである。これは意外な盲点だった。

「急降下から引き起こす一瞬を狙え!お前の武器だとそれが最善だ!」

小隊長の圭子が指示を出す。ヴィータの誘導弾の精度はベルカ式の騎士としては驚異的であるが、サイコミュシステムを稼働させられるようになり、連邦宇宙軍からニュータイプ認定された今のなのはと比べると低い。百戦錬磨のドイツ空軍航空兵はハンマーの特性を完全に見きっているからだ。

「あいよ!ったく、やりにくい相手だぜ!」

ヴィータは航空機という兵器を侮っていたが、戦ってみると、乗り手の腕にもよるが自分たちと渡り合える戦力を発揮する。おまけにドイツ機の大火力はAMF効果弾頭により自分たちにも適応され、当たれば腕の一、二本は確実にぶっ飛ぶから溜まったものではない。シグナムはそれを物ともせずに戦果を挙げているが、それは武器の特性と冷静さによるものだった。この後、圭子と武子も得意の戦闘方で戦果を上げることに成功し、友軍の撤退支援に成功した。が、一応は目的を達したものの、互いの連携に課題が残った。武子は血気に逸りやすい傾向を見せたヴィータを諌め、アドバイスするなどの配慮をしたり、シグナムの単騎突撃を諌め、連携を説くなど、帰還途中でも部隊の人心掌握に努めた。彼女一流の人心掌握術である。しかしその才覚故に、扶桑海事変を境に、上層部に疎まれ、出世が遅れたのは皮肉であった。







―― 機動六課 執務室

「地球連邦軍がもう極秘に援軍を?」

「ええ。極秘事項だから、あなた達幹部と地球連邦軍を知ってる奴らにだけ伝えとくわ。宇宙戦艦ヤマトを旗艦に、ロンド・ベルと臨時編成された第3航空戦隊として、もうそっちについてるわ」

「だったらなんでそれを味方に知らせないんです?智子大尉」

「敵を欺くにはまず味方からっていうでしょ?ヤマトの武勲は宇宙に轟いてるから、知れたら敵に間違いなく警戒される。だから存在を伏せるのよ。ガミラスと白色彗星帝国を滅ぼして、暗黒星団帝国の方面軍返り討ちにしてんだから、ヤマトは」


智子の言う通り、ヤマトの武勲は銀河系どころかアンドロメダ星雲とその周辺の伴銀河にまで轟いている。はやてもその武勲を故郷での懐かしアニメで目にしたことがあるが、単艦で銀河を跨ぐ帝国を根こそぎ滅ぼしたというのはオーバーなようだが、実際にガミラス帝国中枢を叩き、壊滅させて帝国を滅亡させたし、一時はアンドロメダ星雲を征服していた白色彗星帝国を辛くも倒した。その力は地球連邦が銀河連邦内で新参者でありながら、早くも列強諸国に数えられることの根拠になっているほどだという。

「でも敵のシンパがどこかからヤマトのことを知らせてる可能性がありますよ?それは考慮してるですか?



「だからロンド・ベルをヤマトの護衛につかせたのよ。スーパーロボットもたんまりのせてるからアイツらをギャフンと言わせられるわよ」

「スーパーロボットたんまりでギャフン?もっといけそうなもんですけど」

「いくらスーパーロボットが強力無比でも、兵站やパイロットの疲労の関係で安易な連続出撃は避けないといけないし、敵は人外だから疲労がなくて、昼夜問わず作戦行動できる。そこがうちらが押し切れない原因よ」

「なるへそ。大尉はこれから帰るんですか?」

「いや、新装備の最終調整であと一週間は未来世界にいなちゃならないの。困った事あれば圭子達に聞いてちょうだい」

「分かりました。それじゃ」


智子は未来世界の軍需産業の要請で、試着したパワードスーツの一号機の実戦調整のために未来世界に戻った。あと、一週間は帰れないとの談だ。はやては艦隊指揮を覚えるために連合艦隊の出撃の際には同行を志願しているが、そのお目付け役の役目は折衝や分隊指揮で多忙な黒江や智子に代わり、代理で圭子が引き受けている。3日後の朝には、裁可された救出作戦の旗艦である、『長良型軽巡洋艦』に乗艦するので、その準備もしなければならない。


「確か5500トン級の軽巡の中じゃ古参の老朽艦だったはず……。金無いのやろか?おっと、そんな事言ってもられないんだった。」



はやては長良型軽巡が大正期登場の老艦であることを差して『古い』と言う。 だが、実際は当時、最新鋭の阿賀野型軽巡洋艦は四隻しかない。更にその次世代型として連邦軍の援助の下で、戦後装備を持つように設計され、タイプシップを戦後自衛隊時代の第二世代目護衛艦である初代あきづき型護衛艦とし、サイズを旧軍軽巡サイズに強化した“天神型軽巡洋艦”はまだ計画承認段階であり、建艦には至っていない以上、大正期建造の軍艦を酷使しなければならないという裏事情がある。なので、彼女の表現は適当ではない。航空隊が帰還したら報告を受け次第、乗艦準備をしなければならない。扶桑海軍は後発航期(海軍用語。日本では、帝国海軍時代から国防軍時代に至るまである単語。乗員が遅刻する事を意味する)の規定が厳格であり、下手すれば銃殺刑も適応される。はやてが柄になく緊張しているのはそのためだ。

「同時に囮作戦で戦艦信濃がでるっつー話やけど、囮のために大和型戦艦を使うのは日本海軍やったら考えられへん事や。出し渋って負けたんやし。燃料事情、いいんやなぁ」

はやては日本海軍での大和型戦艦が決戦兵器と称された割には機会を逸して海の藻屑と消えた事は知っていた。扶桑海軍は対照的に日本海軍がその滅亡まで泣き所としていた燃料事情が遥かにいい。四隻の大和型戦艦が全て動いても意に介さないほどに。これは近所にいた元海軍兵の老人が聞いたら噎び泣くものだとはやては思った。





――翌日 朝5時

戦艦信濃と戦艦甲斐が護衛水雷戦隊を率いて、先行して抜錨、出港する。その威容は竣工時の面影を残しつつも、所々が未来的に変わっている。高角砲と機銃が撤去され、CIWSや各種ミサイルランチャーが仮設されている。近代化の代償に、副砲は撤去され、仮説の装甲板が追加されている。


「艦長、目的は海域を封鎖しているビスマルクを撃退、あわよくば撃沈です。しかし目的海域は荒れるそうですが」

「なに、扶桑海の荒れ狂いかたに比べりゃ大した事はない。荒天は願ったりかなったりだ」



信濃艦長の阿部俊雄大佐は荒天を想定して訓練を組んできた乗組員がミッドチルダの海でへこたれる訳はないと大笑する。それに荒天での安定性では列強諸国の戦艦では随一を自負する大和型戦艦はちょっとやっとの波で動揺しないという自信故だった。

「ビスマルクなど所詮は遅れてきたバイエルン級戦艦にすぎん。最新鋭の大和型戦艦の敵ではないよ、副長」

「それは分かっています。ですか、用心に越した事はありません」

「君は用心深いな。あんな旧式艦如き鎧袖一触で粉砕してみせようぞ」




信濃は意気揚々と甲斐と護衛艦隊を引き連れて出撃していった。その出撃は当然ながら、ドイツ軍側にも察知されていた。強行偵察行に出ていた改XXI型(U-2612)によって占領区の海軍臨時司令部(旧・時空管理局沿岸部隊司令部の建物を使用)に打電された。

「Yamato Schlachtschiff Artが出港してきます、艦長」

「大和型か。何処に向かっていく?」」

「ビスマルクが封鎖を担当している北北西地区へ向かっています」

「うーむ。司令部に打電だ。Yamato Schlachtschiff Art、出港。目的地は北北西海域と思われる、だ」



このUボートから打電された情報は直ちに本部へ打電された。大和型戦艦はH級と対等の戦闘力を誇る、日本艦隊最有力艦。そんな戦艦が向かっているのではビスマルクでとても対抗できるものではない。レーダー元帥は対応に追われた。臨時司令部ではH級を急派させようという意見も出たが、ビスマルクは今のドイツ軍にとっては、日本にとっての金剛型同様のポジションとなっているため、喪失も想定内だという意見でまとまった。

「元帥殿、ビスマルクの喪失は想定内です。新造戦艦も続々と戦列に加わっている以上、習作であるビスマルク程度は惜しくはありません。大和型の威力偵察代わりに使いましょう。乗員は死にませんから大丈夫です」

「うむ。そうしよう。ビスマルクに回しておいた例の新型徹甲弾と主砲は?」

「理論上は長門以前の戦艦はバイタルパートをぶち破れる貫通力はあります。フランスから得た1935年型38cm砲に試験的に換装しておきましたから」

「よろしい。大和型の装甲と我が同盟国のヴィシーフランスから得た、1935年型 正38cm(45口径)砲の威力の勝負だな。いささか想定害だがな…。」

実はドイツ軍はかつてのヴィシーフランスから当時、フランス最強を誇った1935年型 正38cm(45口径)砲の製造ノウハウを得ていた。ビスマルクはミッドチルダ海戦後、試験的にこの換装を受け、海域封鎖に参加していた。本来は長門型以前の戦艦をボコボコに叩きのめすための改装であったので、長門型より遥かに強靭な船体構造と装甲を有する大和型に対しては対抗できるかは微妙である。

「ええ。イセタイプやムツを叩きのめしたらヤマトタイプを出してくるのは想定外できたから……」

「ヤマトタイプの出港と前後して、5500トン級軽巡を旗艦とする水雷戦隊が出港したようです。どちらが作戦の本命かは図りかねると報告が」

「あいわかった。付近の潜水艦に水雷戦隊の追尾を通達せよ。攻撃はするな。あくまで偵察任務に専念せよ」

「閣下、奴らはキスカ島撤退作戦を再現しようとしているのでは?」

「キスカ島撤退作戦だと?確かにあの地域には管理局の一個部隊が孤立しているが……あれを再現しようというのか?」

ドイツ軍はキスカ島撤退作戦のことを知っていた。出身世界によっては、『太平洋方面にドイツ軍が進出成功した』世界の兵士や士官がいるからだ。目的を察した彼等はビスマルクに信濃と甲斐の迎撃使令を、Uボートには水雷戦隊の追尾を通達する。こうして、ミッドチルダにてキスカ島撤退作戦の再現が行われようとする最中、なのは・フェイト・スバルはフェイトがウィッチ世界より帰還するタイミングで次元転移に巻き込まれてしまう。これを阿武隈艦内で知らされたはやては直ちに仮面ライダーBLACKRX=南光太郎へ捜索を依頼。光太郎は黒江を伴って、ライドロンでなのは達の捜索の任務につく。戦線をその間は仮面ライダーストロンガー、スカイライダー、ZXの三人が支え、管理局部隊の撤退を助けた。彼らの奮闘により、管理局の合流部隊平均練度は大きく向上。末端部隊でも平時における精鋭部隊級の練度に達した。だが、AMF装備に苦戦するケースは依然として多く、戦線では新装備の配備が熱望された。地球連邦軍からはパワードスーツの提供も打診されたが、彼らは自らの堅持からか、これを固辞。独自の武装を開発し始める。これはAEC武装という形で結実する。なのはは後にテストに関わるも、連邦軍人としての視点から、「より高度な技術を持つ連邦軍からISやレーヴァテインなりを提供してもらったほうが良かったんじゃね?」と散々に酷評したという。





――後々の(なのはが27歳頃)記録によれば、『習作としては上出来だが、地球連邦軍のISやレーヴァテインに比べて、全体のコストパフォーマンスに優れるとは言いがたかった』とされ、かけたコストの割にはあまり使用されなかった事が示唆されていた。そしてその頃、依然として10代後半頃の肉体を保つなのはは、一等空佐として戦線で先陣を切って突撃していたとか。その若々しさはミッドチルダで大きな話題となっていたとか。



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