――ミッドチルダで起こった動乱で管理局への信頼は傷ついたとしか言いようがなかった。結果、ミッドチルダ行政府は管理世界に自衛用の軍備を容認せざるを得なくなった。結果的に動くことがなかった艦隊の人員は国民から『腰抜け!』『売国奴』などの罵声を浴びせらられる羽目になり、精神を病んで退職に追い込まれる局員が続出した。












――ミッドチルダ地上本部は指導者層が全滅した事で統制を失い、首都外に逃れられた部隊は暫定措置で扶桑陸軍の指揮下に入っていた。これは佐官クラスが殆ど内通していたりした影響で、陸の部隊である彼らは艦隊の指揮下に入ることを嫌う。かと言って、一介の二佐にすぎないはやてに上級者を含む軍単位の部隊を指揮させるのは荷が重い。折衷案で扶桑陸軍の将官がはやての補佐を受けるという形で指揮する事で、統制を取り戻す案が取られた。


「気をつけ――ッ!」

新たに着任した扶桑陸軍の将官「宮崎繁三郎」中将。海路(次元転移&輸送船)と空路(百式輸送機)を乗り継いで到着した。彼は史実で日本陸軍で数少ない名将と評価される野戦司令官で、かのインパール作戦に参加した。その指揮ぶりの評価は地球連邦軍に寄る『粛清人事』(扶桑陸海軍将・佐官にとって恐怖とされた粛清。これで史実で無能とされた多くの者が追放された)からも外されるほどであった。彼は野戦司令官としての手腕を買われ、機甲部隊及び、航空部隊の指揮権を与えられた。彼に与えられたの陸上部隊は、最新鋭の五式中戦車改二型、通称『チリU』(更なる改良で、史実自衛隊61式戦車以上の高性能を獲得した型。外見は61式戦車とレオパルト1の折衷のようなもので、主砲は105ミリライフル砲へ強化された。これは次世代のテストでもある)と、五式砲戦車ホリU(ホリの改良型。ただし、設計はヤークトティーガー型に変更、主砲を史実戦中型から戦後型へ換装し、装甲を全面的に強化)、装甲車や兵員輸送車を初めて全面的に装備された、言わば完全なる機甲師団。これは戦後米軍を基に編成されたもので、単純な『戦車師団』では無くなっている。ウィッチの装備も同じく、五式中戦闘脚(武装は75ミリ砲及びM2重機関銃、64式7.62mm小銃を扶桑技術で作ったもの)へ統一されているなどの優遇措置を受けていた。

「宮崎繁三郎中将閣下にぃ〜敬礼!」

「ご苦労!諸君らには只今を以って、私の指揮下に入る!優遇措置を受けたからには相応の働きを示す必要がある!奮励努力を期待する」


各部隊の人員が集まり、宮崎中将に敬礼する。宮崎中将は窓際族とさえ揶揄された我が身が一転して第一線に送り込まれた事に内心で驚きつつ、表面上は平静を装い、そのまま細見惟雄中将との協議に入った。



――最前線駐屯地内 作戦室

「宮崎君、まさか君が呼ばれるとはな」

「地球連邦軍は儂を高く買っとるようです、細見さん。窓際族の自分が最前線に送り込まれたのは人材不足な証ですかな?」

「例の人事で辻を始めとする連中が軍籍抹消や剥奪も含めたあらゆる手段で根こそぎ追放されたのは知っているだろう?それで前線指揮官が不足するようになってな、君のような者が呼ばれたのだ。」

「……なるほど」

細見中将は宮崎中将とは陸士の一期先輩後輩の関係である。年齢的には同い年であるが、陸軍の士官学校で期が上下関係にあると、同階級でも敬語を使うケースがままあった。彼らの場合も当てはまる。

「状況は?」

「練度も向上してきたものの、やはり損耗率は毎回15%を超える。三式中戦車は戦線から引き上げる事にしたよ。既に30両を撃破され、先ほども一個大隊が返り討ちにされたようだ」

「チヌは場つなぎで採用された兵器にすぎんですからな。ドイツの優秀な戦車に比べればおもちゃでしょう」

「対等に戦える戦車である五式や四式は生産数がいまいち伸びん。やはり装甲戦闘車両の製造経験が浅いのが難点なのだ」

「ついこの間まで事変の戦訓にも関わらず、装甲戦闘車両の整備に反対する者が跳梁跋扈しておりました弊害でしょうな」

二人は扶桑の軍需産業が装甲戦闘車両の製造に不慣れである点を嘆いた。扶桑軍は海軍国家である国土の都合上、海軍が優先される。大陸領を喪失してからはその傾向が強くなり、ウィッチ装備が優先される都合もあり、装甲戦闘車両整備は遅れていた。だが、連合軍からのリベリオンの離脱や連合軍の各地での敗北は彼らに通常兵器の整備の必要性を痛感させた。兵器の整備を矢継ぎ早に行った。だが、決定的に運用ノウハウに欠け、大規模に製造する事に不慣れな国情が出てしまっていた。

「新型を補充し、野戦指揮に定評のある君が呼ばれた理由はこれで理解できたかね?」

「ハッ。上は儂に成果をあげよと申すのでしょう?お任せください」

「閣下、高町三佐と篠ノ之中尉が見えました」

「よし。通せ」

二人の下に、箒となのはが派遣されてきた。二人共、昇進辞令(箒も宇宙科学研究所での功績が評価されて、メカトピア戦争時に獲得していた軍籍を放棄してはいないため、中尉になった)が届いたために、この日までに進級している。

「君達、楽にしたまえ」

「失礼致します、閣下」

二人は出征した影響か、日本陸軍将官らの目の前に出しても恥ずかしくない陸軍式敬礼を見せた。中将達も答礼する。


「君達を招聘したのは他でもない。敵機甲師団を迎撃するための制空権確保と近接航空支援を行ってもらいたいからだ。連日の激戦で航空部隊の消耗が激しく、今すぐに動ける部隊がないのだ」

「ドイツのメッサーシュミットは航続距離が短く、日本機の航続距離なら燃料切れに追い込む事も可能と思いますが?」

「防弾性能が段違いなのが問題なのだ。ドイツ軍は対空装備や機関砲がアメリカに次いで
性能が高い部位に入る。それに我軍の防弾装甲の性能が追いついていないのだ。キ84を以ってしても容易く落とされている」

「キ84、疾風ですね?」

「そうだ。いかんせん九九式襲撃機が旧式化して役に立たなくなってな、比較的火力のある84を駆り出して一定の戦果は上げてはいる。だが、出血も大きい。君達の役目はその代行も兼ねている」

「分かりました」

「20分後には私もチリUを率いて出撃する。君たちは戦車隊の人員と協議して、行動計画を練るように」

「ハッ」

なのはと箒は外に出る。見てみると、ハルトマン達の言通りに装甲戦闘車両が急激に整備されだしているのが分かる。史実日本軍が見たら感涙必至な強力車両だらけである。しかしこれでも強大なドイツ装甲師団に比べると、力不足感が否めないというのが現実であるという。ドイツの陸軍力の高さに感心せざるを得なかった。


――なのは達は数十分の協議で中戦車隊と帯同しての上空制圧支援の役目が与えられ、出撃した。戦後第一世代型装備と戦争末期型装備が混在するという1950年代初期の軍隊にありがちな状況の扶桑陸軍は、徐々に史実戦後軍隊への脱皮を初めていると言っていいだろう。戦う相手が強力な戦車を用いる故か、歩兵隊の装備には、亡命リベリオン軍が持ち込んだと思われる89mmスーパーバズーカをライセンス生産した兵器が運ばれているのも見えた。

「なんか史実のご先祖様たちが見たら噎び泣きするような武器持ってるなぁ。自衛隊みたい」

「確かに旧日本軍は三八式歩兵銃しか持ってないイメージが私たちの時代には定着してたからな……お前の言う通り、アンバランスだな」

「でしょう?どうもしっくりこないんですよ」

なのはと箒は眼下で進軍する扶桑陸軍機甲師団へ感想を漏らす。時代的な旧日本軍軍服をした兵士が戦後型小銃やらバズーカを持って進軍するというのはアンバランスさを醸し出している。扶桑軍も日本軍同様に軍服で戦闘任務についているらしく、戦後自衛隊のような明確な戦闘服がないのが伺える。しかしこのような軍装は自分たちの時代ではお年寄りを中心に悪印象が少なからずある。

――あたしたちも軍に籍を置くまでは悪印象があった。これも戦争映画の影響って奴かな?TVでやってるのって、たいてい旧軍が悪役だし。


なのはは自分達の世界で政治家に至るまで染み付いてしまった『旧日本軍=極悪非道』の固定観念に呆れるようになっていた。旧軍は確かに日露戦争の成功事例から抜け出せなかったが、全てが悪だったわけではない。悪いのはあの時期に実用化された新技術を軽視した守旧派の連中であると考えていた。


「扶桑の連中はなんで急に新技術を推し進め始めたんだ?」

「大日本帝国の破滅に怯えたんじゃないですか?ある提督なんて、『自ら電波を出すなど闇夜に提灯を点しているようなものだ』と言ったせいで皇国の破滅に繋がった事をマスコミに糾弾されまくって、ついには軍歴を入隊時に遡って抹消に処されたそうですし」


「まさか別世界の自分がそのような戯言を言ったとは思わんしな……。太平洋戦争の結末を見れば誰だって喧々諤々になる」

「扶桑の青年将校にゃこれで改革が進んで、自分達が親から教えられた文化が否定されるのを嫌がる風潮があるそうです。こりゃ青年将校の暴発来そうって噂です」

「まったく、世界が違っても『血気に逸る青年将校』というのはいるのだな……思慮が足りんとしか言い様がない」

箒は国を自分たちの思想で混乱に陥れる青年将校の行いを侮蔑しているようだった。史実の二大クーデター事件が日本に軍閥がのさばる土壌となった事を考えれば当然といえば当然である。



――このように扶桑海事変前から扶桑に芽生えた軍閥は『太平洋戦争敗戦』というもう一つの自分たちの未来がもたらされた事で粛清され始めたが、それでも『大日本帝国と自分たちは似て非なるもの』という理屈を振りかざし、支持を集める派閥は存在した。これが1946年に起こるクーデターの中枢を担うのである。このクーデターは鎮圧はされるものの、青年将校達の鬱憤が溜まっていたという事実を作るのには十分な役目を果たしたという。









――この時には首都近郊の街も次第にナチス・ドイツの支配下となっていた。撤退した時空管理局地上本部員を尻目に、ゆっくりと支配区域を広げていた。これは制空権を握っている故、いつでも地上を空爆できるという余裕から来るものでもあった。


――機動六課 隊舎 訓練場

「まさかナチス・ドイツ相手に銃持って戦争やらかすなんて思わんかった……」

「仕方がないですよ、部隊長。奴さんには魔法に耐えられるサイボーグやら非殺傷設定が無意味なヴァンパイアだとかがバンバンいるんですから。それに砲撃魔法は体に負担がかかりますからね」


スバルは――他次元での彼女自身とは異なる性質、銃という兵器に抵抗感がないのである――コルト・ガバメントを撃って、模擬標的に当てる。これは地球での戦いを経て、ロンド・ベルの荒くれ者達の影響を受けたためである。転移前の歴史でなのはが体を満身創痍にした原因の一つに、『砲撃魔法の撃ち過ぎ』というのがあるのも知っているため、なのはを格闘戦寄りのスタイルへ『転向』させた身としては、はやての事も心配なようだった。

「この間の『平行世界』じゃ、なのはちゃんは撃墜された時のトラウマを負ってて、オマケに体がボロボロになってたっつーやろ?確かに子供の時からスターライトブレイカーとかを撃ちまくってたから、ありえへんわけじゃない。それで手を回したんやろ?」

「ええ、ロンド・ベルのみんなにも協力してもらって、少しずつ誘導する形であのスタイルに。ここのなのはさんにはティアナとの間に起きた『あの事』は味わってほしくないですから」

それは今や歴史の狭間へ消えた『ティアナの暴走と、なのはの怒りの発露』の事だ。あの事件は下手すれば私的制裁と取らえられ、なのはは機動六課から放逐されかねない。普通の軍隊であれば、上官に殴られて独房に入れられても文句はいえない行為。ティアナ側にも非があったとは言え、やりすぎであるとスバルは思っている。はやてがなのはに表立った処分を下さなかったのは、なのはのトラウマに配慮したのと、機動六課を解散する口実を主流派に与えたくないという政治的理由からだと解釈していると、はやてに言う。

「うーん。なのはちゃんのトラウマかぁ。ここじゃ影も形もないから、私はなんとも言えへん。ただ、あのなのはちゃんが後先考えないでするほどのものだってのは分かる。子供の時の性格のままでいた場合に死にかけたら、自分の立場を顧みないでもティアの無茶は止めようとするやろからな。まぁ、今の性格ならどんなことにも吶喊するけど」

「そりゃ言えますね」

「大変やで。戦場じゃ自分から突っ込むわ、友人を罵った無能な上官を殴打するわ……『向こう』のなのはちゃん、泡吹いてたやろ?」

「そりゃもう呆然としてましたね。特にレイジングハートが剣になって、勇者立ちした時なんてもう、ねぇ。レイジングハートもなんと言いましょうか、もう諦めてました」

レイジングハート自身も完全に砲撃用に特化した後の自分から見たら、自分が剣やらハルバードへ超変形をするのは驚愕だったとなんとなく示唆する。これにははやても苦笑いを浮かべる。

「そうやろ。そうや。なのはちゃんと組んでるあの人、何者や?」

「ああ、箒の事ですね?なのはさんの妹弟子に当たる、別世界の子です。インフィニット・ストラトスってパワードスーツが実用化された世界からやってきて、私達と轡を並べて戦ったんです。戦いのあとは未来の地球の宇宙科学研究所に所属してると聞いてます。ほら、UFOロボグレンダイザーの」

「なるへそ。だいたい分かった。でも、未来世界の地球は多次元の存在を感知してるのなら、どうして進出しないんや?」

「今の自分達の軍事力なら神様にも打ち勝てるけど、力による支配は望んでいないんですよ。侵略される側の気持ちをよく分かっていますから」

「ガミラスに白色彗星、か……あれ、正に絶望的やもんねぇ。だから管理局に意見はしても、管理局の領分は侵さないんやな」

「それがうちらの改革派が極右勢力を抑えこむのに一役買ってるんですよ。自分達の領分を侵さないのに、気に食わないからって攻め込めばペンペン草一つ残らないほど殲滅させられると。あそこは『侵略者には死あるのみ』ですから」

――未来世界の地球は総じて寛容だが、侵略者には情け容赦無く殲滅を行う苛烈な一面がある。管理局がそれをしたらスーパーロボットやら、超能力者やら、聖人やら、スーパーヒーローを送り込んで殲滅戦に打って出る。そうすれば滅亡まっしぐらである。国家中枢を破壊された国家がどういう道を辿るのか。それは白色彗星帝国が証明している。それをリンディやクロノは分かっているからこそ、極右勢力の弱体化に力を注いでいるのだ。反感を育てれば、未来世界でのティターンズのように反対勢力が結集し、逆に滅ぼされる。完全平和主義も宇宙人の襲来で否定され、結果的に『汝平和を欲さば、戦への備えをせよ』という格言が証明された事で、軍事力を育てている。要するに地球が数多の戦でたどり着いた答えがこの格言である。平和を望むが、その一方であり得ないような有事に備えると。

「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ、か。正にあの格言どおりやな」

はやては格言を噛みしめる。備えあれば憂いなしとも言うが、あり得ないと一蹴していた事が起きると人は誰かに責任を押し付け、罵り合う。自分の時代の日本もそうだ。高校に入る年に起こった『大震災』の時も、町が何個も津波に呑み込まれていった。時の政府機関や会社や教育機関の人間は現場に責任を押し付け合う姿が見られたし、日頃から備えを万全を期せと説いていた人らが支持を集めた。最近、人気がある講○社の救世主な某巨人の漫画でも、『長年の平和を破る有事が起こったら人は右往左往してパニックに陥る。そして目の前で大切なモノを理不尽に奪われた者は力をつけて復讐する事を望む』とある。

――あの漫画やないけど、世界は残酷なんや。それを心に刻むんや……。

はやてはこの時から護身術や銃やナイフなどの戦闘術を始めとする軍事訓練を本格化し始める。それはナチス・ドイツ残党の襲来という『有事』に右往左往して対抗策が遅れた時空管理局に失望したところがあるのかもしれない……。









――ナチス・ドイツ側も装備は全て万全とはいえない状態であった。例えば、陸軍の精鋭部隊やエリート部隊には最新鋭の中戦車やMBT、重戦車に、対戦車用の歩兵携行成形炸薬弾、自動小銃が行き渡っていた。しかしながら、二線級の国民擲弾兵が母体の部隊は自動小銃が行き渡らず、中には第二帝政の遺物であるGew98小銃が未だ残っていた。これが彼らの課題と言えた。



「小銃の更新はどうだ?」

「ハッ、大使。現在、装甲師団などを中心に更新を進めておりますが、二線級師団までは中々」

「うむ。工場の建設はどうだ」

「現在、各地で40%に進捗状況であります」

「StG44やG3の製造が始まれば、鉄血宰相殿の遺産を使わなくて済むのだがね」

大首領の命で視察に訪れた暗闇大使は我々の知る被り物をした怪人然とした姿でなく、かつて人間であった頃の軍服姿であった。これは彼が20世紀頃に存在した、アジアの小国『ガモン共和国』の将軍であった頃の姿である。ナチス・ドイツ残党が建国に協力した影響で、軍服はナチス・ドイツ風であった。

「例のインフィニット・ストラトスの情報とデータは揃ったか?」

「ミケーネ帝国から提供されたデータを基に複製を始めております。それとIs学園に潜り込ませたスパイから操縦者の情報を得ました。これです」

「開発者の妹か……篠ノ之箒。なるほど……面白い」

暗闇大使は手渡たれた箒のパーソナルデータを見るなり不気味な笑みを浮かべる。かつて、人間であった頃に「知恵のガモン」と謳われた頭脳は何を閃いたのであろうか。その表情から窺い知る事は不気味さだけであった。







――ナチス・ドイツ軍のとある戦車大隊。彼らは財政が厳しい時に編成された有り合わせの部隊で、二線級装備と第一線装備が入り混じった構成であった。主力は旧式化したIV号戦車F2型と、ベルリンの戦いで鹵獲したT-34-85という有様。しかし、総じてそれらの火力は日本軍が保有した試作中戦車よりも強力であったのが救いであった。

「こっちに新型こねーの?」

「精鋭やエリートに回すので手一杯なんだと。幸い、日本の戦車はイタリアのパスタ野郎よりも貧弱だ。俺の弟があの時に聞いた話じゃ軽戦車より弱かったとか」

「笑えるぜ」

「お、味方より入電。……了解」

「どうした」

「偵察機が日本の戦車師団を捉えた。今回はブリキと豆鉄砲のおもちゃじゃないらしい」

「面白い。相手してやろうぜ。市街戦になる。各車は位置取りや索敵警戒を怠るな」

彼らは市街地戦の妙を心得ていた。無人となった建物や木などの遮蔽物に主力車両を隠し、デコイのV号戦車を配置する。通信手達は偵察機からの入電に耳を傾ける。

『日本軍の編成は戦前型じゃない。戦後型の機甲師団編成だ。強力な駆逐戦車や新型中戦車を確認した。兵士も自動小銃を持っている』

「了解。本部に増援を要請してくれ。しばし足止めを引き受ける」

偵察機からの報告にこう返すと、日本側の先制砲撃に備えた。彼らの陣容は二線級部隊らしく、鹵獲したソ連戦車や、旧式化しているW号戦車F2型などが中心である。小銃も自動小銃が行き渡っていないあたり、彼らの台所事情が伺えた。














――扶桑側もなのはや箒の観測に従い、砲戦車、機動九〇式野砲などが展開される。新鋭砲戦車の数が少ない故、九〇式野砲も未だ現役である。そして、もっとも長射程の五式砲戦車の十糎戦車砲が観測に基づいて動き、水平に五度、プラスに二度仰角が取られる。次の瞬間、一斉に火を吹いた。

「よし、砲戦車隊の二分の事前砲撃の後、中戦車隊は各自、行動に移れ!敵はこちらを侮っているので、上手くやれば勝てる。だが、市街地戦は何があるかわからん。慎重に事を運べ」

宮崎中将はホリUの指揮車から指示を飛ばす。彼はドイツ軍のような機動戦闘は初めてであったが、意外にも適応性があったようだ。なのはと箒は先行して、低高度(建物の二階から三階程度)で敵の対空戦車を掃討したり、狙撃兵を排除していく。(この戦場ではAMFがないので、なのはは飛べる)


「穿千、行けっ!」

市街地の道路に陣取る、ヴィルベルヴィント対空戦車の射撃をバレルロールで回避し、すぐに穿千(この場合は速射性があるウェスバー式を使った。この時期には、背中の展開装甲の一部がF91のウェスバーと同形状に変形し、そこからアームを介して迅速に引き出されるもので、ガンダムF91のものと同様の構造へ進化していた。威力もインプット当初より向上している)を撃つ。二門のビーム(無段階移行と真田志郎の改修で当初の荷電粒子ではなく、より効率が良いメガ粒子に改良されている)は地面ごとなぎ払い、至近距離の爆発でヴィルベルヴィントは宙を舞う。見事までに。

「あたしはメーベルワーゲンを!」

なのははなんと、レイジングハートをハルバード形態へ変形させ、その空中機動で懐へ潜り込み、砲塔部ごと叩き斬る荒業を見せる。これは流竜馬がよく、真ゲッター1で行う戦法でもあり、彼の影響が垣間見える。

「おりゃぁ〜!ぶった切ってやる!!」

投げ出された乗員に対しても手加減なしに胴体泣き別れや、首チョンパするという荒々しさ。この情け容赦ない行動はメカトピア戦時に高濃度ゲッター線を浴びた影響地味に出ている証でもあった。もっとも昼間に作戦行動を取れるものはサイボーグ兵であるので、この程度では死なないのだが。

「やれやれ。捕虜は丁重に扱ってくれよ?」

「はいはい。換えのボディは与えられると思うから我慢しなさい」

首や胴体の上半分だけになった兵たちが愚痴をいう。なのは達は扶桑兵に捕虜の処理を任せ、作戦行動を続ける。5分ほどかかって対空戦車隊を突破すると、あちらこちらのビルからGew98小銃の狙撃が行われる。なのはと箒はこれに思わぬ苦戦を強いられた。

「あいたぁーー!!バリアジャケット着てるから貫通しないし、血も出ないけど、痛いんだぞ、ちくしょうぃ!」

――なのはは7.92mm×57弾がバリアジャケットに命中する感触にこう不快感を露わにする。ちょうど人間が頭や足を金槌で殴られる程度の痛みである。何度もやられていいものではないので、なのははディバインシューターを、箒は背中の展開装甲をファンネル(本来はビットだが、未来世界ではビットよりファンネルの名称が普及しているので、ファンネルと呼ぶようになった)にして、それぞれ沈黙させていった。だが、そこで思わぬ通信が舞い込む。

「こちら第二中隊!!なんてこった、敵にKV-2がいるぞ!支援求む!」

「ギガントがいる!?馬鹿な、ありゃソ連の重戦車のはず!」

「おおかた、ベルリンの戦いの時に鹵獲していたもんだろう。あ、チリUが2両ぶっ飛んだ!」

さしもの新鋭、チリUもソ連軍が誇った152mm榴弾砲の火力の至近弾を食らって横転したり、装甲を叩き割られて乗員が死傷し、沈黙する物が出始めているのが分かる。この152mm榴弾砲はあのケーニッヒティーガーの重装甲にさえ打撃を与えうるもの。それを設計思想が異なるとはいえ、レオパルト1と61式の折衷のようなチリUでは抗しきれるものではない。

「私が行く!なのははそのまま行け!」

箒は超音速で友軍のもとに向かう。数分でギガントと無線で叫ばれた、いささか不格好な重戦車が目に入る。事前に敵がソ連軍製兵器を数合わせで使ってくるのを考えて、資料に目を通しておいたのが吉と出たようだ。

「行くぞ……空裂!」

射程に入ると、居合の要領で刀を振るってエネルギー刃を飛ばし、横合いから切り裂く。赤椿の出力向上で地面を大きく抉るほどの威力を発揮。KV-2を破壊する。

「ありがとう!これでこの区域の安全は確保!第一中隊と合流する!」

「念の為に私も同行します」

「頼む」

箒は念の為にチリUの第二中隊に帯同することにした。そして宮崎中将直卒の第一中隊はドイツ軍主力戦車隊とぶつかろうとしていた……。










――※あとがきと解説

兵器解説 

※61式戦車(実在) 陸上自衛隊初の国産主力戦車。開発当時には旧日本軍出身者が自衛隊や民間に大勢おり、その派閥と実務者との議論や官僚の思惑などの末に完成した。完成時には既に次世代戦車が米ソに現れ始めた時期なので、一周遅れの感のある戦車であったが、敗戦で失われた日本戦車の技術を取り戻すのに貢献した。

※五式中戦車『チリ』 日本陸軍の試作中戦車。見るに耐えない性能で有名な日本陸軍戦車の中では貴重な、カタログスペック面でm4シャーマン戦車に比肩しうる水準となった中戦車。試作のみだが、ポテンシャルは欧米列強中戦車に伍するらしい。

※三式中戦車『チヌ』 日本陸軍最後の量産中戦車。系統的には、かの有名な『九七式中戦車』の最終発展形に属する。75ミリ砲を持つなどカタログスペック面では従来型より飛躍的に強力であるが、有り合わせの部材で作った間に合わせ兵器に過ぎないため、宛にならない。これでもm4とはまともに打ち合えないと判定されているあたり、哀れである。



※レオパルト1 ドイツ連邦軍初の主力戦車。装甲は大戦末期の中戦車より薄かったが、対戦車ミサイルの出現した当時としては正解とされたらしい。

※T-34 たぶんソ連軍で一番有名な戦車。第二次世界大戦でドイツ軍を敗北に追いやった名車で、バランスの良い性能と物量でドイツ軍を震え上がらせた。生産数がとにかく多く、未だに動いてる個体もあるらしい。映画『鬼戦車T-34』、アニメ『ガールズ&パンツァー』などに登場。

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