――扶桑軍はジェット機をライセンス生産し始める一方で、既存機の性能向上にも務めていた。その実効性検証のため、退役した零式艦戦五四型をベースに改良してのデータ取りを行っていた。

――ミッドチルダ とある野戦飛行場


ハ43エンジンの音が響く。しかしその主は当時の第一線機である紫電改や、ようやく配備され始めた烈風でもなかった。零式艦戦である。52型を54型相当に改修した機体へ試験的にハ43エンジンを搭載した機体がテストを受けていた。これは烈風や紫電改の性能向上へ向けるデータ取りと連邦軍のレシプロ機の改良方向性が正しいかどうかを実証するためのもので、重量配分の問題と試験機の都合上、武装はない。


「現在、610キロ……更に加速……」

テストパイロットの無線報告が地上の技術者らに伝えられ、技術者らは書類にデータを記していく。それを見つめているのは、加藤武子と加東圭子、それと501カールスラント勢であった。

「ゼロ戦を改造しまくって何してんのさ」

「既存のレシプロ機の性能向上に関するデータ取りよ。兵器の細かい改良は人同士の戦争じゃ当たり前に行われてる事なんだけど、うちらの世界じゃウィッチ用装備が優先されてた分、遅れてたから」

「確かに。ウィッチ用装備のほうが重要度高かった分、通常兵器はそれほど更新はされていなかったからな……最近は急いで進められる印象があります」

「焦ってるのよ、どの国も。未来世界の無知な連中からは『どうせ特攻させるんだろ!』、『技術軽視!』とか言って糾弾されるし、かと言って戦線からは『実用化されるのが時間かかる新兵器より既存兵器くれ!』と催促される。上の連中はその板挟みなのよ。特にウチは崩壊した未来があるから、未来人のリンチが横行しちゃってね……黒島、神、大西とかは真っ先にリンチされて病院送りよ」

「それはなんとも……」

武子と圭子はバルクホルンに説明する。未来世界に扶桑皇国軍は大日本帝国陸海軍と同一視されてしまい、特に悪印象を持たれていると。最近は未来世界の記録で特攻隊を推進したとされる高官らが私刑に処され、半年以上は病院から出てこれないほどの重傷を負わされたという事件が発生したことを話す。バルクホルンは人ごとではないと顔を曇らせる。それはカールスラント軍服で出歩いたらミッドチルダの住人からは少なからず怨嗟の視線を向けられてしまい、連邦軍の計らいでドイツ連邦共和国軍の軍服が与えられ、カールスラント組はそれで通すようになったという事があったからで、その後にミッドチルダ世論への配慮を考えたガランドによって、カールスラント組はドイツ連邦共和国軍の軍服で勤務するように通達された。これにバルクホルンは不服であったが、渋々従うしかなかったという。

「あたし達も住人からすごく睨まれてさー戦後西ドイツの軍服取り寄せてもらうはめになったけど、トゥルーデは不満そうでね」

「伝統の軍服を着るなと言われたのだぞ!?当然だ」

「大尉、それは無理あるわよ。奴らのせいでああいうデザインの軍服に嫌悪感抱く住人は多くなっちゃったし、軍隊だってイメージ戦略は大事なのよ」

「そういうものなのですか?」

「ええ。あたし達扶桑軍も未来世界じゃイメージ悪くてね。マスコミ対策も兼ねて、戦闘服で通すように通達出されたわ。普段から着慣れてるあたしはいいんだけど、武子はねえ」

「私は軍服で通してたから、どうも慣れなくてね」

「お互い大変ですね……」

「大抵の世界じゃ日本とドイツは第二次大戦の敗者だから、マスコミには白眼視されているの。上は対応に苦慮してるって聞いてるわ」

「マスメディアというのは無責任なものですね。煽るだけ煽っておいて……おまけに一方的なイメージで叩くなんて」

「ジャーナリストの使命を忘れて、会社内の出世にしか興味が無い者が時代を経るにつれて主流になっていき、ついには過去の時代を自分達の価値観で語ろうとする。そういう輩が政治家にも多いのよ……地球連邦の良識派も困ってるのよ」

――武子は未来世界で蔓延る認識に呆れているようである。そしてそのイメージに自分達が振り回されているのを示唆した。例えば、空軍設立後の軍服は陸軍出身者が主流になったのにも関わらず、アメリカ軍(リベリオン軍)ナイズされた空自の制服が採用された。これには多くの者が不満を漏らしたという。

「自分達の後知恵知識でモノを語るなと……その知識が間違っていたらどうするつもりなのだ」

「さあね。マスコミなんて軍事には疎いから、帝政ドイツとなナチスドイツの区別もつかないんじゃない?」

それは当たらずといえども遠からずであった。ハルトマンのいう通り、未来世界のマスコミは帝政ドイツとナチスドイツの違いがわからずに批判している。マスコミは『帝国』を批判したいらしいが、人々から求められている体制を勘違いしているのだ。

「未来世界のマスコミ連中は帝国主義を批判するけど、民主主義がいい結果をもたらすとは限らないのにねぇ」


ハルトマンは大国が取る帝国主義を批判する未来世界のマスコミに懐疑的であった。自分達の世界は未来世界の過去とは状況が違うのに、ただ『帝国主義をやめるべきだ』と批判するのは間違っているからだ。未来世界にはあって、ウィッチ世界には存在しない国も多いし、多くの小国が連合したとしても、ネウロイの大攻勢に対抗できるとは限らない。それはネウロイに対抗できる列強諸国でさえ、今次大戦では国土喪失したところがあるのだから…。



――地球連邦軍はこのテストの他にも、なんだかんだで200年以上も空軍近接航空支援機として現役で飛んでいる(23世紀初頭時点の改修はOTMの導入具合を増やし、エンジンを熱核バーストタービンへ換装し、装甲もエネルギー転換装甲へ強化、機関砲の新型への換装)A-10を配備していた。旧時代の東西冷戦下で開発された機体ながらも、『それ以上がない』、『戦闘機に近接航空支援は無理』という戦訓から退役が先延ばしされ、ついには追加調達がされ、統合戦争で『日本軍に対抗できる数少ない手段』とされた事から、地球連邦軍設立後も生産ラインは閉じられなかった。そして、その細かい型番のF型と証する最新アップデート型が新規生産され、回されてきたのだ。



――最前線 最大規模航空基地

「A-10かぁ。随分大層な機体を呼び寄せたわね、空軍は」

「可変戦闘機に近接航空支援をやらせるのも酷だからねぇ。コスモタイガーはそういう任務には向かないし、東西冷戦の遺物なコイツが未だに重宝されてるのさ」

「でも、いくらなんでもコスモタイガーの生産が追いつかないからって、東西冷戦の時の戦闘機まで引っ張り出す必要あるの?」

「今の最新のを増産するより安価に調達できるのよ、昔のは。ティターンズの奴らに影響されて、正規軍もやり始めたよ。中には昔の生産ラインを復活させて作ってるのもある。例えばあれ。F-20。昔に試作されたのを、新規に生産してる。計器類とかはコスモタイガーのを流用してるけどね。東西冷戦下の時のは整備性もいいのが多いから扱いやすいのさ。それに実戦証明がされてるのが多い」

この基地に機材調達の手配にしていた智子は、マジンカイザーの調整のために来ていた兜甲児と再会、雑談していた。基地に配備されたジェット機が最新機種ではなく、東西冷戦下に開発されていた古い機種を近代化したものであるのを訝しむ智子。その理由を説明する甲児。東西冷戦下で作られた機体は実戦証明がなされていた機種が多く、扱いがし易いという点がある。そこを重視したのだと。

「ふぅ〜ん。で、あんたはなんの用で来たのよ?」

「カイザースクランダーの調整だよ。ゴッドはまだ最終組み立て終わってないし、なんとかネオゲッターロボが間に合ったけど」

「ネオゲッターロボ?」

「隼人さんが作った処女作のゲッターだよ。ゲッターロボ號が敵に作られてたから、ドラゴンの設計を取り入れて変更してできたんだ」

「そいやなんでゲッター線開発が凍結されたの?」

「智子ちゃんが色々行ってる間に早乙女研究所でゲッター線の暴走事故が起こったんだ。その時に弁慶はドラゴンと共に地下深くに沈み、真ゲッターは凍結された。その影響だよ。今でもゲッタードラゴンは進化している。真ドラゴンにね」

「真……ドラゴン」

「そう。その影響でゲッター線が使えなくなったからゲッター線を使わないゲッターの開発にシフトして、號をそのまま作るわけにもいかなくなったから、設計を変更したらドラゴン風になったのさ」

「ネオゲッターロボねえ……」

「ただ、ゲッター線でなくプラズマエネルギーで動くのが難点でね。恐竜帝国残党や百鬼帝国への絶対的な切り札とはなりえない」

――そう。ネオゲッターロボは所詮は場しのぎに過ぎない機体である。それは隼人が一番よく認識している。いくらゲッターロボGと同水準の戦闘力を持たせたと言っても、相当に無理を重ねているのは確かだからだ。

「それで真ゲッターの臨戦態勢が解除されてないのね?」

「そうさ。隼人さんはいずれ真ゲッターを必要とする時が来るのを悟ってる。だから真ゲッターをそのままにしてあるんだろう」

「なるほどねえ…。それにしても、なんで近代化されてるのが第4世代機までなのよ?第5世代機以降もやればいいのに」

「第5世代機以降は高度なネットワークの支援を受けたりするのが前提になってた。ところが逆に高度になりすぎると、戦線で整備がおっかなかったりしたんだ。そしてミノフスキー粒子が登場すると、そういうネットワークを活用することが前提だった戦闘機は時代遅れになり、コスモタイガーにしても、可変戦闘機にしても、MSにしても、その時代に比べたら運用が楽になってる」



――23世紀には、空戦が有視界戦闘+αの様相へ先祖返りしていた。ミノフスキー粒子の普及や、電子妨害手段が高度に発達したせいである。その為、超高度な指揮統制ネットワークという言葉は軍事的に過去の遺物になった。そのため、一年戦争以後は『ネットワークでの戦争』は過去の遺物として葬り去られ、戦場の様相は第二次大戦に毛が生えた程度に戻った。逆に言えば、『科学者達はボタン戦争を葬り去りたかった。そのためにミノフスキー粒子を表舞台に出し、電子妨害を極限まで発達させた』とも言える。

「高度に発達した機械を人間は恐れるっていうけど、そういうものなの?」

「そうさ。ドラえもんの時代に作られた多くのテクノロジーが『遺失物』扱いなのは、テロ行為を某国が手引きしたからだが、欧米人に取って、『日本が人権をロボットに与えるのは脅威でしかなかった』のさ」

「酷いわね、それ」

「昔の欧米人には宗教的に『人と同様のモノを作るのは神への冒涜だ』なんていう倫理観があった。それが日本へのテロ行為を容認する風潮になったが、逆にそれが統合戦争での報復に繋がったのさ。そして欧米は今でも日本に逆らえないのさ」

「負い目?」

「そうさ。コスモクリーナー持って帰ったのはヤマトだし、欧米諸国には戦後、日本をいいように使ってきて、使えなくなると冷遇した歴史がある。統合戦争で日本が爆発したのも、テロ事件以降に高まった欧米への不信感が一気に当時のフランス大統領のせいで怒りに変わったからなんだ」

「それでフランスが叩かれたのか……なんか哀れね」

「まあ、自業自得といえば自業自得なんだけどねえ。1960年代か70年代だか……ほら『鉄腕ア○ム』って漫画があったろ?」

「ああ、綾香の本棚から失敬して読んだことある。あの名作?」

「そう。この間、ドラえもんのおかげで完全収録の復刻版出た奴。それの一編に、『ア○ム還る』ってあるだろ?俺もシローの友達から借りて読んだだけなんだけど、アトムの世界はロボットと人間の果てない戦争の末に滅んで、そこから猿がまた進化し直して生まれた『第二の人間世界』が読者の世界だという事が掲示されてるが、欧米諸国やイスラム世界はこれになるのを恐れたんじゃないかと言われてる」

「つまり人間と同等に進化したロボットが地球の支配権を巡って最終戦争が起きて、共倒れすると?」

「日本人はロボットを友達と考えてたが、欧米人は『進化しすぎた機械は脅威でしかない』と考えていた。だから日本がロボットを進化させていくのを阻止しようとしたんじゃないかって、最近は歴史学者の間で囁かれてるし、その事への復讐が統合戦争が起こった原因じゃないかって」


――そう。日本人はロボットに寛容であったが、欧米人は機械の過度な進化を抑制しようとする考えが根底にあった。それはやがて統合戦争で欧米諸国が一部除いて、根こそぎ無力化される報復を招いた。皮肉にもその後にテクノロジーを過信した者達がモビルドールやゴーストの開発を進めた。鉄腕ア○ムのその話が間接的に欧米諸国に影響を与え、テロ事件を起こしたのかはもはや定かでないが、とにかく結果として、ドラえもんのいた社会は破壊され、その残滓は軍事兵器たる、MSやVFへ変化していった。それは確かである。時というものは技術体系そのものでさえ変化させるのだろう…。


「あんた達の世界も大変なのね」

「人間、些細な違いから争い事が起きるもんさ。宗教や思想とかでね……。ん、話は変わるけど、今日は休暇?」

「部隊の機材補充申請。古参連中が五式戦闘脚欲しがってね」

「あれ?ジェットストライカー配備されてるんじゃないの?」

「ジェットストライカーはちょっと扱いにくいのよ、それに燃料バカ食いで経費がね……


「金かぁ……いや〜に現実的じゃん」

「軍隊は金かかるとこだけど、最新兵器は運用経費とか高いのよ。それに整備兵が泣いちゃって……武子や圭子に文句がいってねえ。もう使い走りよぉ」

智子は部隊の台所事情を話す。新兵器は試行錯誤も入るので、運用経費が高くなりがち。しかもジェットとレシプロの違いに難儀する整備兵から泣き言言われて、レシプロストライカーを新たに調達する必要に迫られたと。智子はここの所、前線司令官でありながら使い走りをされているのにうんざりなようで、負のオーラが出ている。

「まぁまぁ。リベリオンやブリタニアからも派遣されてくるんだろ?」

「連合軍内の派閥争いがあったけど、リベリオンは本国が占領状態だから割とすんなりいったんだけど、ブリタニアがねえ、揉めたのよ」

「ブリタニアが?」

「ええ。どこも大変なのに、精鋭を送る余裕はない!とか言って渋ったのよ。そこで連邦は恫喝も兼ねて、ヘルシング卿を送り込んだらしいわ」

「ヘルシング卿を?」

「ええ。彼女、ブリタニアの上層部をガクブルさせまくって、見事に精鋭を送る事を可決させたそうよ。可哀想に」

「されたほうはションベンちびってそうだよなあ……なにせアーカードを引き連れてるし……おまけにその下僕の吸血鬼……うん。死ねる」

――地球連邦は対化物機関を大真面目に保有している。旧大英帝国のそれをそのまま存続させている『大英帝国王立国教騎士団』がそれである。政府以外は宗教も十字教のカトリックがヴァチカン法王庁特務局第13課を保有している。13課は地球連邦の誇る『異端殲滅命な人外』の巣窟として、この時期にはロンド・ベルを始めとする有事即応部隊には知られていた。その戦闘力は凄まじいの一言で、時空管理局のレジアス・ゲイズが対立派閥が地球を管理下に置く計画を立てていたのを阻止させることを決心させる要因となったという。智子もどんな脅しがあったのかを知っている故か、なんとなく身震いしている。何せ吸血鬼ドラキュラが実在したのだから怯えも当然だろうし、日光が致命打にならない不死性に慄いたのだろう。しかし彼らが動くというのは、人外による事件が起こった時のみのはずだが、連邦政府がこの侵攻を重く見ているのが伺えた。


「つか、地球連邦はなんで一気に叩き潰さないのよ」

「バダンの総兵力は歴代組織最高だ。ヘタするとこっちの陸軍が消えちまう可能性が大だ。スーパーヒーロー達の行動便りが現状」

「……侮れないってことか。そいや、マジンガーZを復元する計画はどうなったのよ?カイザーは強力すぎて封印がどーたらしたって……」

「残骸を回収して、復元に成功したところだよ。ただ、そのままじゃ性能的に型落ちだから改修中だよ。カイザーを使えてるのはデビルマジンガーへの対処だよ」

「例の悪のマジンガー?」

「そう。あれはもう悪魔さ……対抗できるのは現状、カイザーやダンクーガとかの一部のみ。グレートやダイザーでは戦力不足。たとえコンバトラーとボルテスが直っても焼け石に水だろうな」

「あんたにしては悲観的じゃない?」

「そう言わざるを得ない威力があるのさ。デビルには……だからカイザーを封印できないのさ。政府は」



――マジンカイザーは甲児でさえ扱いにくいマシーンである。暴走の危険がある故、政府は実のところ、真ゲッター同様に封印措置をする予定を立てていた。だが、グレートマジンガーやグレンダイザー程度では太刀打ち出来ないデビルマジンガーの存在が明らかになったことで封印が立ち消えとなったという。

「これが前の時に辛うじて撮影に成功したデビルマジンガーの姿だよ」

「……!?」

――そこには、辛うじて頭部や胸にマジンガーの意匠があるものの、ロボット然としたすべてのマジンガーとは異質の生物的な禍々しさを持つ何かが写しだされていた。おぞましいというのが第一印象である。


「これ、本当にマジンガーなの…?」

「ああ……悪の心に強く反応して育つ悪魔の魔神。声はドクターヘルのそれだったそうだ…」

「ドクターヘルって、数年前にあんたが打ち倒した地下帝国の首領で……それで……」

「ミケーネの地獄大元帥でもあった…そして、俺とシローのおじいちゃんの仇でもあり、親友でもあった男だ。まさか生きているなんて……あの時、鉄也さんとの同時攻撃で無敵要塞デモニカは確かに木っ端微塵になったはず……いくら地獄大元帥の身体が戦闘獣だったとしても耐えられるはずはない」

「でもデビルマジンガーの声は地獄大元帥、いや、ドクターヘルの声だったんでしょ?」

「そうなると、どうやって奴は生き延びたんだ……?」

――甲児は知る由もない。ドクターヘル=地獄大元帥が脳髄だけになって生き延びさせられ、その姿でデビルマジンガーに組み込まれたという事を……。そうしてまで自分や剣鉄也に復讐を近い、闇の帝王の手足となっているなど…。ミッドチルダの動乱に身を投じた甲児の心に蘇るのはかつて、二度に渡り自分らに敗れた彼の呪詛だろうか。





――しかしドクターヘルとて、最初から極悪非道ではなかったのだ。ここでドクターヘルの過去に触れよう。彼は23世紀初頭時点からおよそ60年か70年ほど前の旧ドイツは、ライン地方で生を受けたが、『偶然産んでしまった』と母親が面と向かって言うほどの劣悪な家庭環境や彼への周囲の無理解が彼を歪ませ、青年期に兜十蔵と後の彼の妻、つまり甲児の祖母と出会ったことで一時は平穏を得るも、大学在籍中に兜十蔵に勝てなかった事、十蔵が自分の思慕していた女性と結婚したなどの理由で更に屈折。20代半ばの頃に歴史書のアドルフ・ヒトラーの記述にシンパシーを感じ、ナチス残党のシンパになり、その仕事の最初として、保存されていたナチ将校の遺体をサイボーグ化させて蘇生させた。これがブロッケン伯爵である。そして、表向きは大科学者として名を欲しいままにしていた彼はやがてアドルフ・ヒトラーの野望を自らの夢にし、2190年代後半頃までの数十年間を独自軍備構築に費やし、発掘した古代ミケーネの遺産から機械獣を創りだした。当時、MSはまだ連邦軍にはそれほど出回ってなかった事から、世界征服は容易とされた。だが、彼が行動を開始したのと時を同じくして、兜十蔵はZを完成させていた。そしてZに毎度辛酸をなめ続け、ついには『戦死した』。それでも上半身だけの状態で辛うじて生き長らえた彼はミケーネ帝国に忠誠を誓い、地獄大元帥としてマジンガーZの後継者であるグレートマジンガーに戦いを挑んだ。この時期からは中間管理職になったせいか、蘇生の際に何らかの人格操作がなされたか、かつての情のある側面は見せなくなった。そして剣鉄也の脆い精神に漬け込み、一時は勝利目前に持ち込めた。だが、これも今度はゲッターロボGに阻止され、グレートマジンガー、ゲッターロボGの合体攻撃の前に敗れ去った。それでも彼は生きていた。地獄大元帥としてのボディが緩衝材となり、頭部だけは無傷であった。あしゅら男爵に回収された頭部から取り出された脳髄はデビルマジンガーの制御中枢となり、三度の蘇生を果たしていた……。

――ミケーネ帝国 居城

「地獄大元帥。うぬをデビルマジンガーとして再び蘇生させた意味はわかるな?」

「ハッ……。この私めにこのような体を与えてくれるなど、感謝の言葉もありません」

デビルマジンガーとしてのボディを与えられた地獄大元帥=ドクターヘルは甲冑を着込んだと思しき主、ミケーネ闇の帝王に謁見する。闇の帝王はお馴染みの炎の巨人としての姿ではなく、実体を得ていた。闇の帝王はバダンと繋がりがあるらしく、バダン製兵器が周囲に置かれている。

「儂は古代ミケーネの時代よりも更に前から生きてきたが、その中で宿敵と言えるのは兜一族だけだった。十蔵、剣造、甲児……三代にわたり儂の前に立ち塞がりおる。そして剣鉄也、デューク・フリード、流竜馬……。もはや戦闘獣の数は希少だ。彼奴らと戦うために、儂は『体』を得たのだ」

「まさか帝王御自ら陣頭指揮を?」

「諜報軍も亡き今、それしかあるまい。ヤヌス侯爵やゴーゴン大公などの遺骸の破片を回収してはいるが、蘇生には困難が伴うだろう。あしゅら男爵には奔走してもらっておるが、剣鉄也らに再戦を本格的に挑める規模ではない」

そう。量産型ゲッターロボGや量産型グレートマジンガーを得たとはいえ、ミケーネは寡兵である。防衛は可能ではあるが、攻勢に出れるほどの戦力へは回復してないと自ら認めた。グレートマジンガーとの戦いで実働戦力の90%を失ったミケーネ帝国はその回復が困難であり、バードス島から回収した機械獣の戦闘獣化を推し進めているものの、基本戦闘力は古代時代の軍人をベースにした往年の7大軍団には及ばない。

「その為にうぬには軍団再編を当面は進める事を命ずる。兜甲児らとの一戦はそれからで良い」

「ハハッ」

デビルマジンガーは闇の帝王に敬礼する。ドクターヘルとしての人間味がある部分が蘇ったか、地獄大元帥時代の傲慢で、陰険な部分は薄れていた。これはまたも『死んだ』事で、人格操作が解除されたおかげであるのかもしれない。









――こうしたやりとりを露知らぬ甲児は智子に付き合って、5式戦闘脚配備申請を手伝った。そして、扶桑皇国空軍向けに採用される事が内定したF-86と、その後継機の売り込みが活発なのを二人は目撃した。

「ぜひうちのF-100を……」

「いやいや、うちのF-104を……」

「うちのF-106を……」

「何アレ」

「アナハイムハービック、ヴィックウェリントン社、ゼネラル・ギャラクシーとかのセールスマンだろう。うちらの時代だと、各国の軍需産業は統廃合進んでるからねえ」

各国の軍需産業の多くはこの時代、ブランド的意味で名は存続しても、実体はこの時代の最大手企業らの傘下に収まったのも多かった。その為、扶桑空軍の司令級に収まる将校らに売り込みを行うセールスマンは親会社の所属だった。

――話を聞くと、1950年代を担う新鋭機(史実第二世代機)の売り込みのようだった。扶桑は既にF-86を『旭光』(機体愛称は史実通り)として採用したものの、すぐに第二世代(超音速)機の時代になるのを見越しているようだ。

「でもあの辺のはミサイル万能論に凝り固まってたんでしょ?あたしらの要求満たせるの?」

「改良点増やすってさ。第三世代の機体はまだ技術的ハードルあるし、造れないからねえ。それでも40年代に、本来なら50年代半ばに現れる機体の話してるんだから、昔の航空自衛隊とかが聞いたら噎び泣くぜ」

「確かに。今じゃ本来の戦中世代ももう最後期世代が現れたし、それからジェット機への脱皮が開始されてるんだもの。信じられないわ」

そう。通常兵器の発達が5年遅れていたウィッチ世界はジェット機の配備は1950年代以降と見積もられていた。しかし、ティターンズ出現より、史実よりも急速に航空技術が進歩し、1944年末から1945年初春頃には、戦後第一世代ジェット機の初飛行が始まっていた。後退翼ジェット機が急速に実用化されたことで、『作られなくなった機体』もいくつか存在する。扶桑は自国製戦闘機の火器発射機構が陸海でバラバラだったが、未来情報によりリベリオン式へ統一するいい機会と、積極的にF-86の導入を進めているが、他国はと言うと……。

「でも、ブリタニアは憤慨してるんじゃね?完全な自国製制空戦闘機は確か第二世代の頃で打ち止めだし」

「ええ。なんかさる高官が憤慨して、政治家達を怒鳴りまくったらしいわ。それで政治家達も『リベリオン製戦闘機がロンドンの空を守るのは沽券に関わる』との認識を持ったみたい」


「沽券に関わる、ねぇ……なんか考えるのはどこも変わんねーなぁ」

「そりゃそうよ。うちらの世界じゃ史実ほどブリタニアの軍事費膨れ上がってないから、国家規模も史実第一次世界大戦以前の状態を維持できる見通しだそうだし、小国じゃネウロイに対処できない現実的問題があるから、植民地の独立はよほど平和が続かない限りは起きないでしょうね」


――智子の言う通り、ウィッチ世界では、かつて強国と名を馳せた『明国』(中国)が属国である李氏朝鮮ごとネウロイに滅ぼされ、消滅した(荒野にされた)史実があり、史実での小国となる地域の人間達の多くは明国と李氏朝鮮の運命を恐れた。その為に大国の庇護下を離れたい者は殆どおらず、ティターンズ勢力圏に置かれた以外の地域では、その後も新国家は永らく生まれなかったという。





-―余談だが、未来世界のイギリスが1960年台以降、設計段階からの完全な自国製戦闘機(戦闘爆撃機などでない)を作らず、地球連邦時代を迎えた事に、チャーチルを初めとする者達は多大な危機感を抱いた。1950年代末期に入る頃、史実の30年分の進化を12、3年ほどで成し遂げた世界で、ブリタニア軍は史実でのトーネードIDSとADVの統合型(ADVの要撃機能力とIDSの対地攻撃力を持つ。姿はADV)を自国だけで作り、初飛行させた。同機はその後、ブリタニア連邦主力機の座に収まったという……。





――二人で歩いていると、整備中の紫電改の姿が見えた。コックピット周りに手を加えているようだが、計器類の類を整備しているようには見えないため、気になった智子は整備兵に尋ねた。

「何してるの?」

「ハッ、実戦部隊からの要請で火器発射機構を操縦桿に移しているのであります」

「実戦部隊から?」

「実戦部隊も扶桑海を経験していない若いのが増えまして、零式で普及したスロットルレバー式トリガーでは誤操作が続出したのです。それに片手が無くなったりした者への配慮もありまして」

――そう。スロットルレバー式トリガーでは戦傷で腕を片方でも失えば操作不能に陥る。この戦でそのような事例が増えた事、若手への世代交代に伴う平均練度の低下を補う目的という大義名分のもと、扶桑海軍は独自方式を現地で取りやめる事例が続出した結果、翌年に正式に改修を公認した。戦傷で機動兵器の搭乗資格を剥奪される例は古今東西で見られる。ジオンではアナベル・ガトーの親友でもあったケリィ・レズナー大尉の例が著名だ。

「なるほどね……それでこの機だけ?」

「いえ、自分がいる航空隊の装備機全てを対象にしております。他の部隊でも同様の動きがあります」

「ご苦労さん。ところで、この紫電改、ハ43のモデルじゃないわね?カウリングの形が違う」

「初期生産型のハ45モデルですよ。ハ45は気難しいですが、良いエンジンですよ。整備部品さえあれば」

「長島に自分の学生の頃の悪友がいるんですが、軍民共同プロジェクトで作ったのに、切り捨てられたから在庫が余ってしょうがないそうです。不良在庫抱えちゃって、自動車メーカーに売りさばく計画があるそうです」

「誉を?ラリー車用でもパワー過剰よ?」

「デチューンするようです。それでほら、未来世界の富士○工業と手を組んで提携するとか……」

「名前違うけど、『ルーツは同じ』だもんなあ。いいんじゃない?」

――つまり、旧新のルーツが同じ会社が提携するというのは、ある意味、奇跡でもあった。長島飛行機は不良在庫とまった誉エンジンを提供し、未来世界側はそれをラリー車やレーシングカーのエンジンの母体にする。ただし元来の開発目標としては失敗したと言わざるを得ない。悲劇の発動機は新天地で輝けるのであろうか?智子は暗い中にあって、この明るいニュースに久々に安堵したという。



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