――フェイト・T・ハラオウンは青年期以降、異世界の文化の影響が大になり、言動が武士道的な何かになるなどの劇的な変化を起こした。その結果、別の可能性の自分に泣かれたと、後日、はやてに愚痴った。

「……というわけだ。参ったよ」

「そりゃ……言動がそうなっとる上に、バルディッシュの見かけが日本刀じゃねぇ。それにバリアジャケットも色からして、まんまあのアニメやん?」

はやては冷静に突っ込む。天羽々斬モードのフェイトの服装や武器の意匠は、とあるアニメを思い切りリスペクトしていると一目で判別可能である。そのため、別次元の彼女自身が泣きそうになるのもわかる。しかしながら実力は本物であるので、単なるコスプレではないのは理解可能だ。

「うむ。しかし、まさかあそこまで涙目になられるとは……」

「ハ、ハハ……」

フェイトは別次元の自分に泣きつかれた原因が理解出来ていないようである。はやては思わず苦笑する。ぶっちゃけると、コスプレとしか思えない姿と、『歌いながら戦う』行為が別次元の彼女自身から見れば、素っ頓狂な行為なのだ。『歌いながら戦う』という行為も、リン・ミンメイ以来、歌を戦場での手段に位置づけている地球連邦政府以外には理解不能な行為である。はやてはそれを理解しているからこそ苦笑したのだ。

「二佐、雑談はそこまでにしろ。艦隊戦が佳境に入りつつある」

「は、はい」

雑談を着任したてのインテグラ(インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング)がたしなめる。彼女はハマーン・カーンそっくりのドスの効いた声色、威圧感たっぷりの風貌などから、『大ボス』の貫禄たっぷりである。葉巻を吸いながら、衛星中継される扶桑連合艦隊とドイツ太海艦隊の艦隊戦を見守る。はやてとフェイトも思わず息を呑む。全長が数百mある海上の巨獣共が自慢の主砲を存分に撃ちまくるのだから、当然だ。しかもそれが造船科学が生み出した最後にして、最強の世代の超弩級戦艦なのだから当然だ。艦隊戦は戦艦での砲撃戦に入り、大和型とH級戦艦が互いに砲弾を撃ちまくる、その姿はまさに『古きよき砲撃戦』であった。



――海域

ガキィンと砲弾が弾かれる音と共に、波動カートリッジ弾の一弾が天蓋装甲に弾かれ、海へ落下する。命中したグロースドイッチュラントの第三砲塔は装甲貫徹こそ無かったが、衝撃で照明が消え、砲塔全体が激しく揺さぶられた影響で電路が切断されてしまう。

「C砲塔、使用不能!電路が切断された模様です!」

「何ぃ!再接続急げ!敵艦隊の頭を押さえる!全艦は回頭急げ!」



――現在、連合艦隊は補助艦艇を落伍、あるいは撃沈多数ながらも、ドイツ海軍の横合いから突撃。ドイツ海軍は港湾を防衛せんと、補助艦艇をあらかた撃沈した後は、艦隊旗艦である大和を狙って集中砲火を浴びせていた。信号や無電を駆使し、互いの艦隊が動物のように動きを読み合いつつ、艦隊運動を行う様は、艦隊戦の肝と言ってよかった。歴代の連合艦隊司令長官の中では慎重肌に属する小沢治三郎は情報を逐次確認しつつ、艦隊運動に気を使い、水雷出身者らしく、突撃の機会を伺う。

「長官!そろそろ突撃のチャンスです!敵艦は弱りつつあります!旗艦さえ弱体化すれば、もう怖いものなしです、突撃しましょう!」

「いや、敵はこちらより格上だ。下手を打てばこちらが大損害を受ける。今の距離は?」

「23000であります」

「よし、あと数千で一斉回頭、突撃を敢行する腹づもりでいたまえ」

「ハッ!」
「信濃、第二主砲塔に被弾!発砲不能です!」

「怯むな!敵も弱ってきている!!もうひと押しだ!!艦隊はこのまま突撃隊形を維持!持ちこたえろ!乙字運動を密に!」

海戦は乾坤一擲の突撃を敢行せんと動く連合艦隊と、その機先を制せんとするドイツ海軍の読み合いとなっていた。そして、小沢治三郎は残存主力艦での突撃を敢行し、機先を制した。

「距離は?

「21000であります!」

「機は熟した。全艦突撃!最大戦速!」

――波動カートリッジ弾というオーパーツを使う最終手段で攻める連合艦隊。波動カートリッジ弾は撃ち出す際の砲身の摩耗も凄いので、帰還したらドック入り確定だが、なりふり構ってもいられない。ドイツ海軍旗艦「グロースドイッチュラント」は大和型よりも格上の戦艦。最上の攻撃手段で迎え撃つ他はなかった。第一射で一発が相手の高射砲を吹き飛ばし、第五射で相手の副砲塔を潰す事に成功しているが、やはりドイツの装甲板は他国装甲板より頑丈であり、波動カートリッジ弾を以ても、バイタルパートを貫徹するのは至難の業であった。突撃を敢行し、ドイツ海軍艦隊の横合いに出、撃ちまくる。

「よし!速度はこちらが上だ!撃ちまくれ!」

砲術長が近代化完了後のCICのコンソールを操作し、ジョイスティックを動かして照準補正、発射トリガーを押す。砲塔の基本構造は大和型を宇宙戦艦に改装した、ヤマト型宇宙戦艦に準じるものだ。(バックアップで砲塔内からも統制射撃機構がある)改装で船体の強度が強化されたおかげで、9門一斉射撃が可能となった恩恵を受けた大和は、グロースドイッチュラントの横合いについた瞬間に斉射した。今回は船体装甲を貫通し、内部で爆発する。この際に機銃座がいくつか吹き飛ばされる。それでも速度が落ちる様子は見られない。

「さすがはドイツ一流のクルップ鋼……宇宙戦艦の装甲を貫徹可能な波動カートリッジ弾にこうも耐えるとは……。さすがに戦後の冶金技術の向上で改良されているな、参謀」

「ハッ。しかしながらさすがに第三砲塔の電路が切断されたようで、発砲不能の模様です」

「波動カートリッジ弾の残量は?」

「あと数斉射分であります。思いのほか使いましたので」

「よし、全艦は敵主砲塔に狙いを集中せよ。当たるも八卦当たらぬも八卦だ!撤退にさえ追い込めば、この戦は勝ちだ!そのまま同航戦だ!」

ここに至って、小沢の狙いはもはや撃沈でなく、撤退へ追い込む事に移っていた。記録では技術断絶によって、ドイツ海軍技術は三流へ堕ちたとされているが、技術断絶が発生しなかった場合は世界有数の海軍技術を保持していたであろう事を悟ったのだ。だが、ついに連合艦隊の主力艦に損害が生じる。甲斐のバイタルパートが貫通され、火災が発生する。

「甲斐、船体に被弾!火災発生!」

「超甲巡は!」

「筑波、第一、第二主砲塔を破壊され、戦闘続行不能!鞍馬は健在!」

「筑波を下がらせろ!甲斐を盾にさせるんだ!」

「ハッ!」

甲斐は被害担当艦となり、この時に超甲巡の盾となった。五発の48cm砲弾がバイタルパートを貫通するも、改装後のダメージコントロール能力により、なんとか致命傷は免れた。その後、半年間の修理と更なる改装のため、合計で一年は戦列を離脱する羽目となった。

「司令、敵艦の横に回りこみました!敵は転舵中の模様!」

「よし、全艦、目標はグロースドイッチュラント!撃てぇぇい!」

――そして、さすがのグロースドイッチュラントも、転舵中に大和の最後の波動カートリッジ弾が後部に命中、決定的に戦闘能力を減じる。ここに至り、エーリヒ・レーダー元帥は今回の海戦を『戦術的敗北だが、戦略的勝利である』と総括し、残存艦をまとめて戦略的撤退を敢行した。ドイツは複数の主力艦を失ったものの、連合艦隊の補助艦艇をほぼ撃沈、もしくは大破に追い込んだという輝かしい成果を挙げ、戦略的に見れば勝利と言える内容の海戦を繰り広げた。連合艦隊はその後、新造艦の竣工と完熟訓練の都合上、半年から一年近くは組織的作戦行動を制限されるという戦略的敗北を喫し、頼みの綱は陸戦の勝利のみとなった。


「戦術的には勝てたが、戦略的には大敗北もいいところだ。今後、一年は組織的作戦行動を制限される羽目に陥ってしまった。駆逐艦らがこうも脆いとはな……迂闊だった」

小沢治三郎は連合艦隊の駆逐艦が一発で轟沈していった今次海戦を振り返る。ブリタニア海軍は『多少の戦術的失敗は戦略で補える。海戦はクリケットの試合ではないのだ』という持論を持ち、戦果を外交に併用する手法が常用策であった。植民地へのプレゼンスの都合上、個艦能力の均等性を重視している。対する扶桑海軍は仮想敵国や国家財政の問題もあって、個艦能力に傾倒している。駆逐艦の脆さはそれに由来していると言えるが、脅威の生産力を持つリベリオン合衆国が敵になった都合上、個艦能力を上げなくてはならない『極東の海洋国家』故の宿命を憂いた。


――小沢はその後の連合艦隊司令長官の引責辞任後、しばしの待命を経て、統合参謀本部副議長に就任。航空軍備拡張と海軍中小型艦艇の生存性向上を研究し、成果を上げることとなる。



――揚陸作戦そのものは、陸戦隊が強襲揚陸を敢行。これについては海軍の支援もあって、大成功を収め、軍港となる港湾を確保し、時空管理局関係者等が施設を稼働させ、損傷艦艇の修理に取りかかる。甲斐については自力で連合艦隊本拠となる時空管理局の軍港へ帰投させ、その他は呼び寄せた工作艦明石による応急処置を併用しての待機となった。橋頭堡の確保には成功したものの、海軍の損害の大きさに顔面蒼白になった海軍軍令部は、補助艦艇設計の改善に躍起になり、統合参謀本部への改変後に結実し、本格的に戦後式船体設計へ改めていくのである。この海戦の様子を確認したインテグラは戦略的に見れば敗北と言わざるを得ないと断じた。





――機動六課 臨時隊舎

「今回の作戦は戦術的に見れば勝利だが、戦略的に見れば敗北だ。こうも補助艦艇を撃沈されては、作戦行動に支障を来す事になる。連合艦隊も誤算だったろうな」

「どういうことですか、インテグラ卿」

「海戦は戦艦や空母という、主力艦だけあればいいというものではない。補助艦艇の役割は大きい。船団護衛効率も低下するだろうから、連合艦隊は作戦行動を制限されるだろう」

「なるほど」

「ローマの頃から海の戦の基本は変わらん。空母が現れてもそれは同じだ。かつての大戦の際に我が大英帝国がドイツのUボートに手を焼かせられたが、補助艦艇の能力バランスというのは大事なのだよ」

アーカードもインテグラに同意する旨の発言をする。彼はドラキュラ伯爵その人である。1430年代にワラキア公ヴラド3世として出生。1476年頃にオスマン帝国との戦いのさなかに戦死したとされたが、実際は吸血鬼化することで生きながられ、19世紀頃にヘルシング教授に敗北し、以後は英国のヘルシング家に使役される関係となった。そのために出生以来の数多の戦争を目にしており、彼が『生前(ヴラド三世)』に統治していた国が陸軍国家とは思えないほど、海軍の重要性を理解していた。

「なるへそ……だから尖った能力になってもうた日本海軍の駆逐艦は簡単にやられるんやな」

「お嬢さん。昔から、君の国の海軍は植民地へのプレゼンスを気にせんでいいに等しい海軍だった故に、仮想敵国を見誤った軍隊となっていき、やがて質で量を補うために、個艦能力に傾倒していった。それは別の可能性でも同様だったようだ」

アーカードは冷静に、日本海軍が終生持っていた弱点を分析する。それは英国が日英同盟を結んでいた時代を知っている彼ならばの言葉でもあった。英国はかつて、広大な植民地を保有しており、その関係で海軍艦艇に『どの海でも植民地への示威が可能』な性能を持つ事が求められ、個艦性能は抑えられる傾向にあった。一方、日本海軍はアメリカやロシア帝国という強大な国家を仮想敵国と戦う事が想定されていたためと、国力の小ささ故に個艦性能を重視し、大和型戦艦を生み出すに至る。その傾向は大日本帝国よりも数倍の国力を有する扶桑皇国においても同様で、ネウロイへの火力確保を名目に作り出された。アーカードは日本海軍の傾向はたとえ平行世界と言えども、同じである事に半ば呆れているようだ。

「うへぇ……さすがアーカードさん。詳しいですね」

「アーカードは1000年近い歳月に渡って存在している。君の国の事も把握している。ただし、我が国が国交を結んだ頃からだがな」

「そう考えると、日本が世界史に出てくるのはだいぶ近世になってからなんですねぇ」

「日本は中国よりも東にあったので、中国人の話に出てくる程度の認識だったんだろうな。欧州に知られるようになったきっかけはマルコポーロの東方見聞録だし、江戸期から100年足らずで五大国の一角にまで上り詰めたバイタリティは我が国でも高く評価されている」

インテグラも、日本人が幕末期から太平洋戦争敗戦、統合戦争に至るまで、廃から這い上上がろうとする不屈のバイタリティを高く評価しているようである。あのスターリンでさえも『日本はいずれ這い上がってくるだろう』と予見していたほどだ。それほどのバイタリティを保有するのなら、ミッドチルダにかなりの日本文化が伝わっているのも理解出来ると。

「インテグラ様、詳細な損害報告が来ました」

「よし、読め」

「はい。軽巡以下の損害は78%を超えています。無傷な軽巡はアガノタイプとその派生タイプのみです。駆逐艦は軒並みやられてますね……無事な艦を探すほうが難しいくらいです。空母は無傷ですが、戦艦はカイがドック入りが必要なようで、帰投してくるそうです」

「ドイツのグロースドイッチュラントは予想以上に強力なようだな。連合艦隊司令部はなんと?」

「切り札のミカサタイプを回航させるそうです。既に大神を出港し、二、三日もあれば到着の見込みとの通達が来ました」

インテグラの秘書のような役割を担っているのは、アーカードの従者のような立ち位置の吸血鬼『セラス・ヴィクトリア』である。彼女は人間だった頃は婦警であり、その名残りの技能を備えている。今回の出向では、執事のウォルター・C(クム)・ドルネーズだけでは足りない仕事に駆り出されて、疲労困憊している模様。

「ご苦労」

インテグラはセラスの報告に頷いた後、葉巻を吹かす。弱冠23歳で英国の名家を担う身な故か、この時期のはやてとは3、4歳程度しか違わないはずなのに、+10歳にも見えるほどの貫禄を見せる。インテグラに比べれば、はやてなど、『青ちょろいガキ』にしか見えないのである。

(あ、あかん……完全に雰囲気に呑まれるで、私……。頑張るんや!)

はやての内心はヒヤヒヤであった。インテグラやアーカードの圧倒的な貫禄に呑まれ、冷や汗出まくりである。だが、見敵必殺をモットーとするインテグラの強さを垣間見、自分も『かくありたい』と、インテグラへ仄かなあこがれを抱くようになるのである。はやてが如何に、この動乱での力不足を痛感していたのかが分かる。同日中に、別方面の陸軍反攻作戦も橋頭堡の確保に成功したと連絡が入り、ミッドチルダの動乱は新たな段階へ進むのであった。



――モニターに写し出される、傷ついた連合艦隊の姿は、扶桑海軍の思わぬ誤算を象徴していた。動員された在来型駆逐艦で無傷な艦は高練度の一部の艦のみで、後は中破、大破艦が多数。撃沈された船も多く、組織だっての作戦行動に支障を来すほどの損害であった。これにより、残存する陽炎型、夕雲型駆逐艦の多くは主砲を六五口径九八式一〇糎高角砲へ換装され、ボフォース40ミリ機銃の増備、VT信管の導入、機関構造の改造も施され、新型艦の竣工までの次善策として行われ、残存艦の中には、試験的にレーダーピケット艦化されたものも存在したとか。(戦後第一世代防空システムを担う『Mk33 3インチ砲』は開発計画がリベリオンの分裂でストップ状態であり、用意不能だったのと、稼働率不明の新型兵器よりも、動作実証済みの既存兵器の増備を望んだ用兵側の切望、既存型扶桑駆逐艦では、Mk33を載せられるスペースがそもそも無い故の妥協案だった)ボフォース40ミリ砲はその後、mk33やその派生型のmk34が開発され、前線に配備され始める1950年代前半まで戦艦から駆逐艦までの多くの艦艇に搭載され続け、第一線からの引退後は海防艦の自衛装備として長らく愛用されていくのであった。




――同時にこの海戦でF8Uの運用に自信を持った彼らは、自前の大型空母を建造する計画を立て、機体の導入数を増大。以後、1950年代に導入された次世代機のF-4E共々、『太平洋戦争』を通しての主力艦載戦闘機機として運用されていくのであった。

――瑞鶴 飛行甲板

「どうだ、フジ。ジェット時代の空戦は」

「覚えれば楽なものね。ただ、無線符号を暗記しないといけないのは難しいわね」

「ミサイル撃つときとかには言わないといかんから、覚えておけよ。ストライカーにも携行できないか研究が始まってるそうだし」

「本当?急速に変わっていくのね。必要は発明の母というけど」

「大戦に備えて、こいつの更に次世代機の選定が取り沙汰されてるって井上さんから聞いたが、多分、F-4Eになるだろうな」

「なんでなの?」

「第三世代ジェット機は空戦機動を余り考慮されてない設計なのは前に話したと思う。その中じゃ良好な機動性を持ってるのがF-4なんだよ。本当はその次の機体を調達したい声もあったらしいが、技術的ブレイクスルーの問題で選ぶしかないんだと。それで二人乗りになるから、レーダー員としても使えるパイロット育成も必須なんだ」

「機種転換訓練の予定は?」

「来年から、連邦軍基地で実機とシミュレータでの機種転換訓練が始まるそうだ。私等にも当然、声かかるそうだから、やってみるか?」

「面白いわね。いいわ」

「おっしゃ、井上さんに言っとく」

飛行甲板上で、更なる次期戦闘機の事を話題にする黒江綾香と加藤武子の二人。二人はジェット戦闘機に乗り込むことに抵抗感が無くなったため、このような会話をするようになった。扶桑海事変時に知己を得た海軍提督や長老達からの覚えも目立たかったため、空軍三羽烏となった穴拭、黒江、加東、それと加藤の4人は空軍黎明期から激動期に至るまで実働部隊と裏方の双方で活躍し、黒江は最終的に空軍少将、圭子は1970年代に第11代空軍総司令となり、当時、最後までもつれ込んでいた次期主力機の選定、本土防空網の第二世代型整備に尽力したのが特筆すべき業績であろう。



――空母航空団の育成が始まって間もないこの時期、空母機動部隊の戦に空軍軍人が駆り出されることは珍しくなく、二人は太平洋戦争中に至るまで、しばしば空母航空団を率いて出撃する機会を得る。海軍航空隊の本格育成が実り、ウィッチ運用専門部隊設立後もしばしば空母航空団を率いたという記録が後年に発見されており、彼女らの定年退官後の時代、空軍と海軍航空隊の人材交流の促進の正当性を議会に説得させるための材料として使われたという。



――そして、大神海軍基地から、ついに地球連邦政府の援助で建造された『五十万トン戦艦』の具現化となった超弩級戦艦(海上移動要塞)『三笠型戦艦』が、軍艦マーチと共に送りだされ、抜錨する。500mを超える、水上艦史上空前絶後の巨体に載せられた22インチ(56cm)主砲の巨大さが映える(強化策に24インチ連装砲への換装も俎上に載せられている)。大和型の強化発展型であることを示す登楼とマストデザインとレイアウト、核ミサイル、衛星軌道上からのビームにも耐える防御力を備えた『不沈戦艦』が護衛艦を率いて、次元ゲートを使った次元転移を行う。目的は現れるであろう『H44級』、ライバル視される『H45』の万が一の完成に備えて。ブリタニア海軍上層部が少なからず持つ『戦艦は戦艦と事を構えるべきではない』という戦略的認識をよそに、扶桑海軍は艦隊決戦の主力兵器としての究極点として作り上げてもらった三笠型を活用する。改大和型と合わせ、『大和型ファミリー』と敵から分類分けされ、扶桑海軍の海軍力の象徴として、今後の新聞記事を賑わしていくのだ。1945年以後のチャーチルが、しばしの間、戦艦の増備と能力向上に精力を傾けるようになった要因も、大和型姉妹やモンタナ級の登場で戦艦戦力が相対的に見劣りするようになったという『見栄』と、彼の追い求める信念の具現化の象徴を欲したというのが真相であるため、後年の戦史研究者達は三笠型をこう評したという。『未来人が扶桑に送った最高のプレゼントにして、チャーチルを嫉妬させた存在』と。



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