―――地球連邦政府の軍備は数年で大きな革新を遂げた。白色彗星帝国戦時の最新鋭機であった『RGM-89 ジェガン』が相対的に旧世代機に属するようになったのがその証拠だろう。ジェイブスへの機種更新を行っている最中だ。そして多くの技術革新で実現した大火力火器がF91のウェスバーであり、その対抗馬として採用されたGバードであった。地球は外貨獲得手段として、意図的に後者の開発データの一部を次元世界に流した。それを入手し、およそ数年の歳月で自家のモノにしたのが「カレドヴルフ・テクニクス」というメーカーである。彼らは通常兵器へのアレルギー体質を持つ時空管理局へ兵器を卸すに当たって、時空管理局向けにそれをアレンジ。本星首都を失陥した時空管理局は地球連邦軍が大々的に兵器輸出をしてきたことへの対抗策を兼ねて、名目上は『強力な個人への強化策』として導入した。

――新暦75年頃。

「これがストライクカノンとフォートレスか……明らかに向こうの影響受けてるな。あからさまに」

ある日、なのはは上からの要請で新装備のテストを行っていただが、武装のレイアウトがどうにも、最新鋭のガンダム「ネオガンダム」のGバードの影響が見て取れる事に呆れてるようだ。管制室からその様子を観ているスバルも同じような気持ちらしく、ため息をついている。

「あれどうみてもパクッてますよ。アナハイムの連中、リークしたかな」

「だよねぇ……アナハイムの人たちって賢いからね」

「ウェスバーじゃないな。あれはネオのGバードですね」

「Gバードか。あれ確かに手持ち武装としては最強だからね」

フェイトとスバルはなのはがテストしている装備を見ながら会話をしている。話題は自然と装備についてになる。レイアウトなどにアナハイム・エレクトロニクスの影響が見て取れるからだ。

「本来の歴史だと、こいつは80年代にならないと出ないはずだし、登場が早まってますよ」

「うん。タイムテレビで『あの世界』の未来見たけど、どの内、質量兵器のある程度の解禁は起きるのか。いいのか悪いのか」


スバルは過去の経験からか、なのはの姉のような立ち位置にいる。それは帰還後でも変わらず、事情を知らない人々からは不思議がられている。フェイトもその事情を知る数少ない人間の一人。なのはに対しての気持ちが似ているので、あの事件の前よりフェイトと会話する事が自然と多くなっていた。フェイトも幼少期の不思議な体験の賜物、スバルと、改変前より打ち解けており、気軽に会話を愉しむまでに進展していた。

「あれが管理局が完成を急がせた装備かい?」

「アムロ少佐、いつからここに?」

「作戦会議が終わって、立ち寄ったのさ。しかし、あのレイアウトはだいぶISの影響を受けているな」

「やっぱそう思います?」

スバルは管理局が面子論で軍需産業に完成を相当に前倒しさせた『CW-AEC00X フォートレス』の姿に、アムロと同じ感想を抱いたようで、共に頷く。武装のシルエットは『ブルー・ティアーズ』や赤椿を思わせ、製造段階でISやコンバットスーツを意識したのが窺えるからだ。他の世界のそれと決定的に違うのは、なのはの要望で近接格闘戦用の刀が追加され、背部デザインが赤椿のそれになり、オールレンジ攻撃用端末が備えられた点だ。(そのため、全体的に赤椿にシルエットが近くなっている)

「うーむ……ISの模倣品的要素が強まってるな。メーカーは相当に対抗意識あったんだろう」

着込んでみて、なのはは感想を率直に言う。フォートレスは管理局の現実論と理想論の競り合いという政治的対立の末に完成が前倒しされたモノだからだ。


――本来は新暦80年代以後の完成を見込んで計画されていた『AEC武装』。これは地上本部と本局遺失物管理部が構想していた新世代の武装で、質量兵器に限りなく近い『魔法兵器』である。だが、地球連邦軍がパワードスーツ(ISなど)を持ち込んで使用し、戦果をあげた事に焦りを覚えた管理局右派が完成を早めさせたのが正確なところだ。そのため構想が進んでいない状態からの急な要請な故、地球製兵器を大いに『参考』にして完成させざるを得なかった。(本来の設計案での機体はその後、史実通りの年に完成したとのこと)そのため、右派にとっては『自国技術だけでは完成が不可能だった』という点で大いに屈辱感を味わったとか。

「反応速度は多少遅いが、まあ、許容範囲だな。最終調整終わり」

なのはは管理局の現時点の持てる技術をフル動員させた機体に、当然と言おうか、冷淡な反応を見せた。ISなどの地球製パワードスーツの模倣の域には届いているが、それ以上でもそれ以下でもないからだ。反応速度に不満があるが、これは管理局のコンピュータの処理速度が地球製のそれに比べると遅いという技術格差があるからである。

「あれ、実戦で使えるのか?」

「急ごしらえの代物ですからね。使ってみないとわかりません。それに、なのはの使い方荒いですから、壊すかもしれません」

「データさえ取れれば、実機の破損は気にしないのが軍需産業だ。まあ、そのためにこしらえたんだろうし、管理局の存在感を見せるための『ハリボテ』と言っていいな」

アムロにしては辛辣な感想だが、実際、地球製兵器の模倣点が多いプロトタイプであり、上層部からの直接指令で使わざるを得ないという点では、管理局内部の改革派と右派の派閥抗争を連想させる。と、言うわけで、早速同機は敵空軍との小競り合いに投入された。




「はぁあっ!」

なのはは、フォートレスに備えられた刀を抜き、振るう。形状は日本刀で、ミッドチルダに日本刀の製造ノウハウが日本から消息を絶った刀鍛冶の誰かによって伝えられたのがわかる。その刀はメッサーシュミットBF109Gの主翼を根本から切り裂き、墜落させる。

「切れ味は悪くないが、どの程度の硬度が有るかは使ってみないとわからないか」


「マスター、上方にHe177の編隊です」

「よし、行くぞっ!」

背部ユニットを補助に使い、急上昇する。感触としては良好だ。だが、相当にコストがかかっているのも見て取れ、制式採用される際には、この機能は省かれる可能性が高い部分であるのを感じ、苦笑いする。数秒ほどで独空軍が大戦中に使用した四発爆撃機「He177」とその護衛機『ハインケルHe162』の改良型(戦後にエンジンを胴体内式に改良した非正式型)を視認した。

「来た来た。グライフを持ちだしてくるたぁ、渋い所つくな。サラマンダーは後回しにして……」

なのはは、優先目標としてHe177を痛打した。戦後に回転銃座を遠隔操作式に改良したようだが、B29のような火器管制システムを持たない同機では、なのはの邀撃に対応できるはずはなかった。ストライクカノンの射撃テストの標的にされ、まずは後方にいた一機が下方から撃ちぬかれて空中分解して果て、二機目は防御銃座からコックピットまで撃ちぬかれ、爆発する。三機目に射撃しようとしたところで、警告表示が出る。エネルギー残量が半分以下になったのだ。

「マスター、最大出力で撃ち過ぎです」

「なぁ!?最大出力で三発ぅ!?干上がるの早くない!?」

ぶーたれるが、バッテリー消耗が激しい弱点がここで実証された。元々、兵器関連技術が一度衰退し、魔力併用式で復興するのに長期間を要したミッドチルダの技術力では、23世紀地球のように『大容量・大出力・省電力』を両立しきれなかったのだ。人が携行する武装へ内蔵される程度まで小型化したものの、容量面での問題は解消できなかったのだ。

「こうなったら、本体のファンネル使うか!行けっ!」

試作機故、多くの機能が積み込まれたフォートレスには地球製のサイコミュシステムが組み込まれていた。これは攻撃端末の自立性にミノフスキー粒子の散布で疑問が生じ、機械の補助での脳波コントロールという点でミッドチルダの技術力では不安があったため、地球のサイコミュシステムを使ったのだ。なのはもそれは承知しており、端末は見事にHe177を包囲し、落としていく。

「流石、地球製のサイコミュシステム。タイムラグも動作ミスもないな。あとは雑魚だけだな」

なのはの機動力はフォートレスの補助により、旋回半径が縮まり、改良型サラマンダーに優位に立てる程になった。これは思わぬ嬉しいところで、元々、巴戦には向いていない機動特性であるのを『無理矢理、やっていた』ので、普通にやれるというのは思わぬ利点だった。

「でえいっ!」

サラマンダーを攻撃し、撃ち落としていく。だが、熟練者の駆るそれは攻撃を回避し、なのはに痛打を与え、フォートレスの浮遊砲台を撃ち落とし、盾に弾痕を刻んでいく。

「クソ、意外に動きがいいぞ、あいつ!大戦経験者だな」

ドイツ軍の人員も戦後に志願した層、戦前からの軍歴を誇る長老、戦中志願の中堅層に分かれており、ヒトラー・ユーゲント出身の若年層は組みやすいが、コンドル軍団出身の長老層は管理局教導隊をも脅かす腕前であり、それでなのはは苦戦したのだ。

「MG151/20!?うわわっ!」

ドイツ軍が誇るマウザー砲は米軍機の防御をも貫く威力を有した。なのはもその威力は目にしていたり、自宅に保存してあるので、百も承知。慌てて回避する。

「なんとか背後をとらないと勝ち目ないぞ、こりゃ」

なのはは背後を取ろうとループ、シャンデルと言った戦闘機でも行われる空戦機動を行う。だが、相手はハイ・ヨーヨーからのシザーズでなのはの裏をかき、更にヴァーティカルローリングシザースで振り切る。

「ああ、もう!逃がすなんて、なんてこった!」

なのはの動きはコンドル軍団出身者から見れば『青二才』と言えるもの。まんまと逃亡に成功された。珍しく、舌打ちして悔しがる。だが、多少被弾はしたものの、結果として、フォートレスの有効性のアピールにはなった。この後、戦闘データから友好と判断され、プロトタイプが数機導入された後に、いくつかの過剰性能と判断された機能を省かれた正式型が生産され、後の事件で使用されたという。


――はやてはこの戦闘の報告書に目を通すと、ため息を付いた。今度は上層部の自己満足に付き合わされる事を意味するからだ。

「お疲れ様」

「疲れた―――!感触は悪くないが、バッテリーの持ちが悪い。あれじゃ数発撃ったら砲撃には使えなくなるぞ」

「今のミッドチルダの技術じゃ、あれが限界なんよ。最大出力だと射撃回数減るのは当たり前やで。70%以下に制限すればもう少し持ち良くなるで」

「それじゃ火力がねぇ。ビックファルコンか南原コネクションに技術提供してもらおうか?」

「制式採用の会議が行われるから、その会議如何やな。多分、採用されると思うから、その後なら好きに改造できるで」

――フォートレスは元々、後々に管理局を悩ませるであろう犯罪者らや、魔法無効化への対策として構想されていた武装端末の一端である。原案では比較的軽装だったが、重武装になったのは、持ち込まれたISなどの影響が大であった。欠点に『バッテリーと魔力の併用式動力であるため、稼働時間は短い』、『取り回しが難しい』という点があり、『長物は接近戦には適さない』という重大な運用上の難点も見受けられ、後に登場する『正式型』より洗練されていない点が多かったものの、機能的にはむしろ後に制式化されたものよりも優れた点が多かった。これは動乱で開発予算に補助が入った事、管理局がプロパガンダとして『地球が作れる兵器程度、管理局は容易く作れる』という事実を既成事実としたがったためである。ミッドチルダ政府高官はこの動きに苦言を呈しており、「子供みたいに友軍の兵器を欲しがるのはどうか」と嘆いたが、旧体制下の軍亡き後の国防を担う立場の管理局としては、管理世界への面子があり、管理世界への求心力維持のために用意したと言っても過言ではなかった。政府は首都失陥で『管理局の権威低下は看破できないものになった』と判断し、財政面の問題と、人材面の問題から、管理世界独自の軍備をある程度認める緩和政策を打ち出し、管理局の質量兵器保有制限を緩和するなどの施策をこの日以後、始めた。

――明くる日

「質量兵器が公式にある程度の制限緩和になった。自衛用の銃器は持てるようになったで。まあ、こうなるとは思っとったけど」

「おお、そりゃ良かった。のび太くんに送ってもらったこいつが大手振って持てるな」

「もうかいな!」

「うん。のび太くんに頼んで、銃器選んでもらったんだ。コルト・シングル・アクション・アーミー。通称、ピースメーカー。西部開拓時代から由緒ある回転式拳銃なんだけど、のび太くんが『反動も小さいし、これなら初心者向けだよ』って勧めてきてさ」

西部開拓時代を舞台にした映画でお馴染みのピースメーカー。のび太は西部開拓時代に行った時や銀河超特急の事件などで実際に使用しており、その信頼性に惚れ込んでいる。それ故、なのはに勧めたのだ。はやては受け取って、手にとってみる。

「装弾数は6発、シングルアクション式、弾は45LC(ロングコルト)弾……。古典的やな。のび太くんって、コルトの回し者かいな?」

「うんにゃ、好みがコルト社だってだけで、スミス・アンド・ウエッソンのも使うってさ。長銃身モデルのM29やM500、M27をサイドアームにしてるから、オートより回転式が好みだね」

のび太は子供でありながら、映画の影響で銃器にある程度、精通している。そのためか回転式拳銃を好む傾向にあるのが窺える。好みはコルト社寄りで、コルト・パイソンやピースメーカーを愛用しているのがその証明であった。はやては、なのはにピースメーカーを返すと、ため息を付いて落ち込む。

「西部開拓時代に行った話、今度の休暇で聞きたいなぁ。高校の時に何回か顔合わせただけやし」

なのはとフェイトは仕事柄、のび太達と会う機会が多いが、はやてはデスクワークが主体のため、のび太達と合う機会には恵まれず、はやてが高校の時に数回会っただけだ。そのため、ドラえもんらの冒険の話に興味があり、聞きたがっているのだ。

「今度の長期休暇で、綾香さんたちと一緒に、のび太くん達に会いに行くことになってるから、日日合えば、はやてちゃんもどう?今はインテグラ卿が仕切ってるから、休んでもいいし」

「いつや!?」

「のび太くん達がゴールデンウィークに入る来月。のび太くんの父方の叔父さんが宝の地図見つけたから、一緒に誘われてね」

「有名な、インドの叔父さんだっけ?」

「その更に二個下の弟さん。ムナシさんって言って、売れない映画俳優なんだけど、趣味がトレジャーハンターなんだ」

「へぇ……」

のび太の父方の叔父の一人である「野比ムナシ」は野比のび助の三番目の弟で、30代前半の売れない映画俳優。俳優をしながらトレジャーハンティングで一攫千金を夢見ており、2001年の正月にのび太とドラえもんを巻き込んで、宝の地図を見つけた。その暗号の解読に成功したと電話があり、ゴールデンウィークを使って、宝探しをしようと持ちかけてきたのだ。なのはは面白そうなので、メンバーに加わる事にしたのだ。それを聞いた箒が「心配だから、私も行くぞ!」と乗り気で、更にそれを聞きつけた黒江が……という具合で、メンバーが膨れ上がったのだという。

「日日合ったら、私も行くで!」

――管理局の維持が達成される一方で、背に腹は代えられず、質量兵器の解禁が進められる。また、その動きに反目する強硬派が動く。そんな政治的流れを見せつつ、戦いは第二幕を迎えようとする。そんな中での清涼剤とも言えるのび太からのお誘い。命の洗濯をしようと張り切るなのはとはやてであった。



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