――地球連邦軍は兵器開発において、ジオン公国系組織を一時除いて上回っていた。ジオン公国軍最後の制式量産型MS『ゲルググ』はカタログスペック上はガンダムを上回るが、実際に製造された個体の多くは内臓部品の精度が資源不足や工員の練度低下で、カタログスペックを満たさないものであり、真価を見せたゲルググはエースに回された初期生産型と初期量産型だけだとされる。その後はザクV、ギラ・ドーガなどが活躍したが、ザクほどの地位は得られずに消えていった。連邦軍は、18m級量産型通常MSとしては最後に採用した形のジェガンはザク以来の傑作機とされ、一時はアナハイム・エレクトロニクスの技術力のシンボルともされた。23世紀初頭時点では後継機種に座を譲りつつあるが、未だ一線には少なくない数が残存しており、連邦軍の財政難のシンボルとも揶揄されている。ミッドチルダ動乱にも複数が持ち込まれており、連邦軍本隊が使用していた。


――シナノ 格納庫

「ジェガンか。最後の18m級量産MSやな。でもなんでヘビーガンもジェムズガンもぶっ飛ばして、いきなりジャベリンとその後継機種なんや?」

「その2つ(ジェムズガンとヘビーガン)は『性能が中途半端!』って言うんで、少数生産に終わったらしいよ。早期にジャベリンが造られたからね。でも財政難であまり流通しないから、ジェイブスが開発されたみたい」

なのはは休暇に入る2日ほど前に、はやてをシナノに連れて行き、案内をしていた。なのはは連邦軍人でもあるので、連邦軍軍服姿だ。

「ビームシールド装備型って、んなに高いの?」

「ガンダムタイプにもなると、ジェガンでおよそ10機分のお値段だって。だから政府のお役人とかがケチつけるんだってさ」

――本来、MSの小型化は小型化は『全面戦争の無い時代、性能を維持したままコストダウンする』目的が多分に含まれていたが、設備投資などの値段と併せると膨大な金がかかるため、結果的に全てを代替するには至らなかった。これには小型機の耐久力や、宇宙怪獣などとの衝突を鑑みたりした結果である。F91やネオガンダムは確かに傑作機だが、アナザーガンダムなどが16m級であったなどの戦訓もあり、15m級MSは一時の流行に終わったと見る動きがある。

「コストダウンになってないような?」

「量産自体が、ジェガンの頃に比べると低調なせいもあるかもね。聞くに、ジェガンの頃は月に300機はされたっていうしさ」

「でも、そのくせ可変戦闘機とかバンバン作ってるやん?」

「うーん……航空機の製造設備が使えるとかかなぁ?それでもコストかかるの量産避けられてたしなぁ」

「そこのところ分からへんなぁ」

二人は傍から見ると、ミリタリー系女子のような会話をするが、当人たちは至って真面目な会話である。この日、はやては移動本部を欲しがっているのをなのはに相談、それでひとまずシナノを見学させたのである。

「さすが宇宙戦艦ヤマトの同型艦……格納庫広いで」

「コスモタイガー基準で80機近くは入るからね。MSやVF、スーパーロボット入れても75機は入る広さだよ」

「うーん。私達も移動本部がやっぱり必要や!なのはちゃん、どうにか出来へん?」

「ふぇ!?そりゃそーだけど……そうだ。いいツテがある。ちょっと待って。ブライト艦長に相談してくるから」

なのははブライトに報告し、それを受けたブライトが更に某所に連絡し、そこから更に…という複雑な連絡の果てに、ゴップ連邦議会議長に話が行き、ゴップ元・連邦宇宙軍元帥に相談を持ちかけた。はやての鶴の一声に驚いたと言うと、ゴップは笑い飛ばし、なのはは事情を説明する。


「と、いうわけであります。閣下」

「艦艇のトレード、もしくはレンタルか。近日中にヴィックウェリントン社と宇宙軍から動かせる艦艇のリストを回そう。ガンダムタイプの整備が可能で大気圏内航行可能な艦艇となると、ペガサス級やグレイファントム級などの型落ち艦になるだろう」

「アーガマ級は駄目なのですか?」

「あれは年式は新しいが、ミノフスキークラフトのパワーが不足でな。自力で大気圏離脱不可能なのだよ。そうなると年式は古いが、実績のあるペガサス級の一族になる」

「わかりました。八神二佐に伝えておきます」

「サービスで、艦載機も回そう。確か、二佐は乗機をイーワックネロにしたね?整備の都合もある。二個小隊ほどのネロを積ませておこう。あと一機種は君の自由にしたまえ」

「ありがとうございます」

後日、はやてのもとにヴィックウェリントン社(連邦軍の艦艇需要を南部重工業と分け合う大企業の一つ。最近ではラー・カイラム級が有名)からゴップが用意させたカタログが届けられた。リストには型打ちの感はあるものの、連邦軍のシンボルとされたペガサス級の一族が載せられていた。


――臨時隊舎

「ペガサス級って、こんなに種類あるんやね……さすがにホワイトベースの完全な同型艦は載ってないか」

「年数が経ってるからね。ペガサスは博物館になってるし、初期のはホワイトベースみたいに戦没艦も出てるから、希少なんだ。中期型や後期型なら現存数も多いからって事だよ」

「なるほど……。グレイファントム級って、どう違うんや?」

「正確には改ペガサス級のこと。初期のから船体形状や主機を変えて改良した艦なんだけど、思いのほか核兵器に脆弱だったから、第二ロットのアルビオンタイプに移行したって話。アルビオンタイプも3隻くらいが造られたんだけど、軍はアレキサンドリア級に傾倒しだしたから、増加建造は見送りになったんだ」

カタログに載っていた艦種はペガサス級であったが、中期型から後期型のものであるのを残念がったはやて。だが、ペガサス級はエンジントラブルに悩まされた艦であるので、それをひとまず解決した中期型以降になるのは当然であった。ペガサス級は年数の経過で戦没艦も生じており、全ては現存していない。しかも『酷使されていない、程度の良い艦』の条件付きなので、必然的にグレイファントム級以降の艦になる。しかしながら、例外的にブランリヴァル、サラブレッドなどの初期型の艦影を持つ艦も含まれていた。


「サラブレッドなら聞いたことあるで。現存してたんやな」

「使われたのが、竣工から数える程度だからね。退役も表向きは一年戦争から数年後だから、程度がいいよ」

「このブランリヴァルってのは?」

「5番艦。ペガサス級随一の『ついてない艦』で有名。お世辞にも縁起がいい艦じゃないよ」

「なら、これはパスや。と、なるとグレイファントム級のどれかか、アルビオンの同型か、サラブレッドやな」

はやては候補を絞り込んでゆく。なのはの解説を聞きながら慎重に選んでゆく。ペガサス級の竣工数は准同型艦も含めれば、二桁に届くものの、戦没艦も複数生じたので、現存数は指で数えられる程度だ。結果、核兵器への防護力と機関の整備性を勘案に入れた結果、『グレイファントム級のトリビューン』(公式記録では戦闘で大破、処分されたとされているが、実はゴップが手を回して確保、一年戦争後に近代化されていた。その際に装甲は核兵器への防護力がある新型へ換装されている)となった。後日、同艦はゴップの指示で機動六課に運ばれ、時空管理局へのレンタルという形で現役復帰を果たした。


――某日 臨時隊舎近くの軍港

「これがグレイファントム級……確かにホワイトベースの一族やな」

「うわぁ……これが連邦軍の軍艦なんですか?」

「型落ちの軍艦だが、移動本部として十分な機動力と防護力はある。管理局の船じゃ、MSは運べないしな」

連邦軍の軍艦を始めて見たエリオを圧倒するグレイファントム級の威容。全長300mというのは、機動戦艦ナデシコ(第一世代型)と同等であるが、キロ単位の軍艦も珍しくない現在の連邦軍の中では『小振り』な軍艦である。メガ粒子砲や対空兵器は最新型に変えられており、サービスで艦載機は六機のネロと予備部品、それとZPlusC1型が一機と予備パーツが積まれていた。開いている2機分のスペースにZとZZが入れられ、イーワックネロも無理矢理入れられた。なのはとフェイトが休暇を二日後に控えていた事もあり、慣熟飛行という形で、管理局と連合軍が抑えている空域を一周する事になった。その間にMS整備のノウハウを叩き込むという事で、ロンド・ベルからアストナージが出向し、MSデッキで講義をしている。

「MSの整備は、諸君らの整備していたヘリコプターとはまるで違う。手っ取り早く、核融合炉やビームライフルなどの即席講座を始める……」

という光景がMSデッキで繰り広げられ、部隊の隊長クラスには自室が割り振られ、なのはとフェイトはそれぞれ個室になった。休暇までの二日の航海とは言え、それなりのものは持ち込んである。二人は出港後、訓練時間までの空き時間を一眠りして過ごしたが、はやてなどの艦橋要員は連邦軍規格品の計器や通信方などに苦戦していた。操舵や通信なども、操舵への応答性の速度差、ミノフスキー粒子下での通信方法などから、慣熟にはそれなりの時間を必要とする事が分かった。



「まあ、いきなり規格が根本的に違うもんを動かすんや。形だけでもサマになってるだけマシか。どう思います?箒さん」

「そこで私に振るか?言わせてもらうと、お前もだが、レーダーに安易に頼るなよ?ミノフスキー粒子下では、監視がより重要視されるからな」

「ええ。問題はこの天馬を上手く手懐けられるか……この先、MSに襲われる可能性も大きいし、今の状態じゃ初陣で轟沈ですわ」

「しょうがないが、管理局の船は機動兵器に襲われる可能性は低いから、そもそも対空戦闘という概念が育っていないからな。言うならば、『第一次世界大戦以前の戦艦を第二次世界大戦でそのまま使おうとする』状態に等しい。管理局が旧時代のノウハウを捨てた事が仇になったな」

「ええ。旧時代には戦闘機もあったようなんですけど、今の体制になる時に全てのノウハウを捨てたと聞いてます。戦車も次元漂流者が持ち込んだ第二次世界大戦中のをそのまま使う有様ですからねぇ」

はやては、なのはのお目付け役である箒に対しては、敬語を使って接していた。これはなのはとフェイトの兄弟弟子であるという事実と、『出会った時に箒のほうが年上だった』ためという都合もあったりする。

「そうだ。なのはがお前にSガンダムを没にされた事を愚痴ってたぞ?」

「Sガンダムはオプション込みでの導入費用がお高くて……それとディープストライカー付きにすると、艦艇扱いになってややこしいんですわ……なのはちゃんには悪いけど、ZZで我慢してもらったんです」

「なるほどな。ロンド・ベルに人員を出向させてもらったのは、艦載機フル動員のためか?」

「そうです。全力出動可能にするには機動六課だけじゃ、どうしても確保不可能ですし」

パイロットはロンド・ベルから旧エゥーゴやカラバ出身のベテランパイロット達が出向し、Z系を動かすことになり、なのはとフェイトのVFも連絡機名目でコスモシーガルと一緒に積み込んでおり、機材は連邦系で統一されていた。これに異論を唱える者もいたが、はやての一喝で黙らせたという。

「みんな。これからはこの船も本部や。地球製の質量兵器に戸惑う者も多いと思う。でも、ミッドチルダの危機を救うには、質量兵器の廃止云々に拘ってる場合じゃない。魔法の力を過信した結果が今回の動乱になった事はみんな、もう分かってると思う。過ちは正せばいいんや。今ならまだ間に合う。ミッドチルダを取り戻すためには、過去の恐怖や強迫観念を捨て去って、友人たちと手を取り合って協力しあうことが必要や!みんなの命、私が預かる!」


と、できるだけ関西弁を廃した演説で鼓舞を図る。これは関西弁が珍しくなったであろう連邦出向組に配慮してのものだろう。その苦労やさるもの。はやては内心では、冷や汗タラタラで、ブライトに影響を受けたと思われる一文もあったが、箒ははやてに合格点を与えた。

「まあ、合格点だな」

「ありがとうございます…。はぁ。疲れた」

「演説くらいでバテてどうする。お前は艦長なのだぞ?」

「分かってますって」

と、言うわけで、はやては艦長としての責務をも担う事になった。この後、自室で休憩を取っていると、なのはと箒が訪ねてきた。自衛火器を持たせようという話で、はやては銃の訓練を積んでないので、デリンジャーにしたとの事だった。

「なんでデリンジャーなんや?なのはちゃんにみたいにコルトかスミス・アンド・ウエッソンを……」

「お前は銃撃った経験がないだろう。拳銃はのび太のように天性の才能があるか、ある程度の訓練時間が必要だ。デリンジャーなら、お前のように小柄で、手が小さくても扱えるからな」

箒が言う。箒もメカトピア戦後に予備役になっていたとは言え、一定の訓練は受けたので拳銃の扱いに慣れた。(銃器のセレクトはのび太に頼んだが)そのため、はやて用に銃を選ぶことは出来たわけだ。なお、サイドアームはなのはは、コルト・ピースメーカーを、箒はM1911及び、S&WのM29(44マグナムのロングバレル版)にしている。艦の銃器は最新型である『AK-01』の他に、実体弾を使うご先祖のAK-47(連邦軍の制式小銃の一つで、1949年からポピュラーなロシア製自動小銃。M16と並んで、200年現役の小銃)が常備されている。

「それに、機動六課の人員はモノホンの銃火器に触ってもいない人員が大半だからね。あたしやフェイトちゃん、スバル、それにティアナくらいなもんだよ。地球製の銃火器に抵抗ないの」

「せなな。銃火器にアレルギー持ってるのも多いしなぁ」

はやては溜息をつく。銃火器にアレルギーを持つ者は管理局の魔導師や一般局員に多いが、訓練さえ受ければ一定の戦闘能力を持たせられるという軍事上の利点は、人員不足に喘ぐ管理局や、管理世界へ寛容性を見せたいミッドチルダ政府にも魅力で、実のところはある一定の範囲での解禁が進められている。なのはがピースメーカーを持ち歩くようになったのも、その一環だ。

「だから、防衛要員の育成が急務なんだ。魔法は砲撃は艦内だと使えないし、闇雲に接近戦も挑めないし」

「うーん。訓練の継続は必要やね」

「あたしはあと20分でMSの飛行訓練だから、準備しに行く。あとは箒さんとよく相談して」

「わかった。箒さん、みんなのサイドアームはどうしたら?」

「とりあえず、ガバメントで良いだろう。アレなら故障も少ないし、頑丈だ。あとでなのはに手配させる」


――このように課題は様々な点で多いが、機動六課はどうにか、連邦軍と時空管理局の次元航行艦とのトレードで、ペガサス級強襲揚陸艦を与えられた。純粋な質量兵器に抵抗感を持つ者も多いが、現状を鑑みての決定故、反対意見を述べるものは末端隊員含めていなかった。こうして、グレイファントム級(改ペガサス級)の員数外になっていた『トリビューン』は機動六課移動本部としての第二の人生を歩む事になった。この時の運用データは良好で、連邦軍に提出された。後にパルチザンがデザリウム戦役で移動本部としてペガサス級を選定する要因は、この時の機動六課の運用データにあったのだ。護衛艦として、ロンド・ベルの艦艇が二隻ほど派遣され、機動六課は時空管理局の最高戦力としての力を得、ミッドチルダ動乱を戦い抜いてゆく。




――この時の運用データは時空管理局にも影響を及ぼし、XV級次元航行艦の第二ロットからは、機動兵器の格納庫や常備火器などの設備が加えられた(そのために大型化した)。皮肉なことに、時空管理局がその体制の中興を迎えるのを引き起こしたのは、戦乱であり、かつて禁止したはずの質量兵器であったのが動乱で克明に証明された結果、管理局は更に顕著となった戦闘要員の不足の対策に躍起となり、止むに止まれぬ実情との勘案で、質量兵器の規制緩和を段階別に実施(機動六課がペガサス級を得たのも影響した。)し、なのは達が20代半ばに差し掛かる頃には、管理局の新規局員訓練課程に『銃器の扱い』も必須項目として加えられ、『動乱以前世代』との局員の世代交代が始まったという。なお、管理世界にもそれは通達され、新暦80年代には銃器程度ならば『田舎の世界』でも見られるようになった。その輸出で地球の銃器メーカーは膨大な利益を得、久方ぶりに大規模な設備投資や記念モデルの製作が可能になったとか。



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