――時空管理局武装隊は人員不足と強力な魔導師の不足という二重苦により、止むに止まれず、質量兵器の装備を行っていた。初のアサルトライフルとして『AK-47』が選ばれ、瞬く間に配備された。同時に扶桑陸軍による教練も開始され、ドクトリンの構築から始まった。なのは達が航海に出た日である。

「機甲戦力は何にするね?」

「MSは今の管理局のメカニックには高度すぎるから、戦車で良い。そちらで余剰となった戦車を供与する方向に調整を」

「宮菱が喜びましょう。重戦車などの多くがMBTの台頭で埃を被っていますから」

「それではよろしく。教練には私の配下も講師として参加させますので」

インテグラは扶桑陸海軍高官と会合を開き、共に時空管理局の武装隊の立て直しに追われていた。何せ時空管理局は警察と軍隊の特徴を持ちあわせているが、『どっちつかず』とも取れ、早急な立て直しには、時間の都合で、どちらかの機能により特化させる必要があった。ミッドチルダは対外戦争の都合上、軍隊としての機能強化を選択し、その任は地球連邦や連合軍に委託されたというわけである。会合では、扶桑で余剰となった旧式戦車『四式中戦車』や、MBTの台頭でその用途に疑問符がつけられ、試作止まりであった『オイ車』などの旧式兵器の供与などが協議された。オイ車については、MBTの登場で『従来型重戦車』の価値が無くなったため、計画が中止になっていた重戦車である。その計画を手直しし、『他国供与用』として開発を再開させる事が決議された。このように、とりあえずズタボロな陸からの立て直しが始められた。




――飛行64戦隊は同日中には、機材の入れ替えに追われており、ストライカーを火龍からセイバーへ機種転換し始めていた。黒江は副官として、亡命リベリオンに軍需物資の催促を電話でし終えたところだった。

「……ふう。生産の手配つけたぞ。これで20機は来週に納入される。火龍はエンジントラぶりやすいからなー。セイバーのおかげで予備機材に格下げできるぜ」

「ご苦労様。源田少将から、343空との事実上の統合が通達されたわ。明日にも彼女らがここに来るわよ」

「空軍設立準備業務の一環か。思ったより早いな」

「源田閣下が処方面に根回しして進めてるみたい。セイバーは宮菱でのライセンス生産が始まるまでは、亡命リベリオンでの正規品の購入になるから、圭子に予備パーツ含めた請求書作らせておいて」

「了解だ」

――ミッドチルダ動乱で初めて、343空と64戦隊は統合運用された。これは空軍設立準備の一環であり、64戦隊が343空を『飲み込む』形になることへの反発を軽減させるための措置でもあった。ただし、既に菅野が新501の一員となっていた事もあり、相当に人事交流が進んでいたため、反発は存外に少なかったとの事。この時は芳佳は予備役であったために参陣していない。そのため、343空の飛行隊長でもあった菅野は黒江、もしくは武子の直掩として任務に当たったとの事。それに決まるまで、武子は相当に悩んだ。

「綾香、直枝の扱いどうする?松田少尉の復帰はほぼ絶望だって、通達が来たわ」

「宮藤……あ、だめだ。去年(1944年)の独断専行で予備役でってんで、今は家にいるんだった。私か、お前が面倒を見ることになるなぁ。西沢がいれば良いんだが、アイツは神出鬼没だしなぁ」

「連絡取れないの?」

「無理だ。21世紀以降みたいに、携帯電話があるわけじゃねーんだ。電話も珍しい時代だぜ?私達の時勢は。かと言って、上に頼んで捜索隊出してもらうってほどのことか?昨日、竹井に聞いてみたが、あいつも連絡先知らないっていうし、諦めたよ」


「あの子、相当に反骨精神旺盛だっていうけど?」

「そうだ。アイツは階級とかの権威で従うような奴じゃない。実力で従えさせんとな」

菅野は反骨精神旺盛で有名で、気に入らない上官のいるテントを零戦のプロペラ(もちろん実機)の風圧で吹き飛ばしたエピソードが有名だ。大尉に任官されたのは、343空と502で功績を挙げたためである。坂本と殴りあった事もあるが、敬服した人物らと実兄、実姉には頭が上がらない一面もある(兄をお兄ちゃん、姉を姉さまと読んでいる。母が厳格であったため、精神的な母親の役目を姉が果たしたためであり、幼少期は文学少女であった)。そのため、黒江は実力で従えさせるしかないと武子に言う。実際、西沢はそうして尊敬を勝ち取ったのだから。

「直枝はこれで大丈夫として、一番の問題は火力不足ね。通常装備だけじゃ、おっつかなくなってきてるわよ。手はあるの?」

「ネーサーとかの処方面に手当たり次第に助力乞いておいた。重火器が運び込まれる手筈だ」

「どんなのが?」

「連邦警察の管理下にあった『ギガストリーマー』、『パイルトルネード』、『ヘビーサイクロン』、『量産型オートデリンガー』とか、ネーサーの敷島博士が作った『ゲッターマシンガン』、『ゲッタービームランチャー』とか」

「横文字多くない?」

「しゃーない。これも時代ってもんだ。オートデリンガーはどうも量産計画があったらしいから、その時の試作品らしい」

――黒江の言う『オートデリンガー』は機動刑事ジバンが用いていた重火器で、パーフェクトジバン用の新兵器として使われている。当時、その性能に満足していた日本警察は、ウインスペクターの時代に、その新装備に当って、オートデリンガーのリバースエンジニアリングによる再生産、ひいては量産を目論んだ。試作品はどうにかジバン基地跡から回収したデータで完成したが、オリジナル同様のファイナルキャノン使用時の強烈な反動を当時のクラステクターでは抑えきれないことがコンピューターの試算で明らかとなった(そもそもサイボーグであるジバンでさえも反動で後ずさりするほどだったのだが)ため、それよりは反動が少ない(と、言っても、3.5Gの誤差だが)ギガストリーマーが完成すると、プロジェクトは放棄されたが、試作品は保管され続け、機動刑事ジバンの復活と時を同じくして再調整され、パワードスーツ用武装に転用された代物である。

「試作品が実戦で使えるの?」

「厳格な品質管理システムが確立された後の時代のそれだから、動作確実性は私達の常識のそれなんて比べ物にならんさ。威力は戦車やMSを一撃で粉砕できるほどなんだが、反動が強烈なんだ。この間、箒にISを使って試射させたが、反動で数メートルは後ずさりする。機体への負担も大きいから、一回の戦闘で多用はできないと判定された。まぁ、とどめ用だな。他に、敷島博士が送ってきたのは生身でも使える。あの人、マッドサイエンティストだから」

「あの人、なんて兵器造るのよ。危ないじゃない」

「あの人はイッちまってるが、兵器開発の能力は一流だ。味方にしとくに越したことはないさ」

――敷島博士は早乙女研究所の生き残りで、兵器開発のマッドサイエンティストである。竜馬に「ひひひひ……。わしは昔からわしの作った武器で死んだ者を見るのが一つの楽しみでねえ。こいつはなかなか芸術的な死に方をしとるわい。ぞくぞくするなぁ〜」と、完全にイッている台詞を吐くなどの筋金入りで、一度対面した武子はそのマッドサイエンティストぶりにドン引きしていたため、黒江が関係を持っていることにドン引きする。だが、黒江は神隼人に近いスタンスであり、兵器開発能力を活かした仕事をしてもらうという考えであるのが窺える。


「あなたねぇ……。で、偵察機の機種転換訓練はどうなの?」

「RF-86の機種転換訓練は順調だ。要員の高練度なやつから訓練させたおかげで、一個小隊は確保した。彩雲は順次、本国に戻してもらってるよ」

「紫電改や烈風とかのレシプロ機の配置転換は?」

「烈風が前線に送られたから、初期型の紫電改は本国に戻った。烈風とF-8で当面は持たせるってよ、海軍」

「烈風って、そんなに高性能なの?」

「連邦に製造してもらった機体も多いから、スペックは史実と段違いで、730キロ前後の速度を持つってさ。翼の兵装が強化されたから、爆戦代わりにも使えるそうな」

「ずいぶん高性能化してない?」

「ハ43よりも大馬力のエンジン積んで、翼の武装を強化したから出来た事だそうだ。原型通りだと、せいぜい660キロが限界だそうだから」

烈風。坂本が切望した零式の正統後継機である。燃料事情や部品精度の差から、性能は史実より数割上と見積もられていた。だが、世界のレシプロ戦闘機最終世代は軒並み700キロ台の大台をマークしており、それらの前には色褪せた存在でしかなかったため、地球連邦と交渉を行い、宮菱重工業の主力工場壊滅に伴う復興支援の名目で、地球連邦政府が扶桑海軍の要請で製造させたモデルの機体が流通しており、実戦証明のために配備され始めていた。その性能はF8Fを上回る速度と格闘能力とF4U並の爆装能力を備えるトータルバランスの良いもので、ジェット機の熟成までのつなぎで使用され、後に『太平洋戦争』でも爆戦として使用された記録が残っている。

「660キロでも『どん亀』か。なんか感覚がおかしくなってきたわ」

「しゃーない。半年くらいで超音速にまで速くなるのなんて、本来なら起こりえない事なんだ。しかも、うちらが『軍人』として1945年8月を超えて過ごすこと自体も大抵の場合では起こりえないことのようにな」

「敗戦による軍備解体か……。大抵の場合、皇国は『1945年8月15日』にこの世から消えるってのも信じがたいけど、大抵の世界では必然的な出来事なのよね。それを考えると、幸運なのかしら」

「私は、こういう今の流れは『歴史の帳尻合わせ』と思ってるぜ。だいたい、超音速に飛行機の速度が達したのは史実だと、1948年。つまり再来年になる。科学と戦争の帳尻合わせが今、起きてるんだとな」

「そんな、あんな悲惨な世界大戦が私達の世界で起きると?」

「ヒトラーのちょび髭野郎や、スターリンの粛清しまくる人間不信野郎がいない分、マシだけどな。それでも100万から200万の犠牲が出るだろう。核兵器も、B29もB36も、V2ロケットも現れてるしな。史実の世界大戦は起きないにしろ、太平洋戦争が時期がずれるにしろ起こるのは避けられないだろう。アジアの大国はもう、扶桑しかいないしな」

――扶桑はアジアで唯一の列強国である。そこさえ屈服させれば、アジアを手中に収められる。これがリベリオンを傀儡にするティターンズの考えであり、太平洋戦争を起こすのは確実視(数年後に現実となる)されている。黒江は太平洋戦争については、達観している節があり、その範囲内での最善の方法を模索していたのだ。

「太平洋戦争って言っても、実質的には朝鮮戦争の帳尻合わせも含める戦いになるだろう。長くて6、7年の長丁場になる。戦闘機も最後の方には、ファントムになってるだろうから覚悟しとけ」

「ま、待って。戦闘機の世代交代がそんなに急激に起こるものなの?」

「戦時中のモデル寿命は2年前後だ。F4FがF8Fになったようにな。一機種を4年も使い潰すなんて真似は、その機種によっぽど拡張性があるか、後継機が作れないかのどっちかだ。ジェット戦闘機の時代は戦時中でも、機体単価の高騰化で世代交代は起きなくなったか、起きても緩やかだから、楽っちゃ言えば楽だが、それでも一世代は交代するからな」

――ベトナム戦争の例を見ると、空軍はセンチュリーシリーズを用いていた初期と、F-4Eが主力になった後期のように、一世代は交代する。武子は1944年には一線を退いていたため、最近の戦闘機の世代交代には縁が薄かった。若かりし頃に九五式から九七式、一式への交代は目にしていたが、この世界においては一式戦の配備完了は1942年の末と遅い。急激な技術進歩で四式戦までが配備され、更にジェット機までもが性急に配備される現状に疑念を抱いていたが、史実太平洋戦争では米軍の新型機登場のスピードを解説する黒江の言には納得せざるを得なかった。


「半年でモデルチェンジって、早すぎない?」

「そーいうもんだよ、戦争は。戦車も巨大化進んだだろ?技術は必要になると早いんだよ、進歩は」

「早すぎて目が回るわよ。レーダー、ミサイル、MBT、ジェット機……コンピュータ」

「コンピュータが出たら、進歩スピードも更に早まる。この分だと、史実より数年単位で『1950年代の兵器の登場』は起きるだろう。いや、幾つかは実現してるか」

扶桑皇国の兵器は一気に1950年代世界の水準に飛躍した。そのため、軍需産業が作っていた兵器が生まれる前に『役立たず』の烙印を押されて、泡と消えた例も多かったし、1943年に採用された三式中戦車は即刻旧型と判定され、五式中戦車の改善型が四式中戦車と共に緊急生産される(四式はMBTとしての任は五式シリーズに譲ったが、機甲部隊の旧型砲戦車の代替車としての需要に応えるために生産されている)などの珍事も起こった。既に史実自衛隊の装備も幾つか生産されつつある現状、黒江の言は正しかったと言えた。







――ミッドチルダ動乱により判明した各種戦訓は、扶桑皇国の軍備の方向性を近代化へ変え、戦車・航空機・艦艇などの正面装備だけでなく、電子装備などの防御装備を重視しだした。山本五十六海軍大臣は陸軍の今村均大将と共に、軍備バランスの調整を行っていた。

「高射砲の更新は三式12cm高射砲と五式十五糎高射砲で早急に行うことにするが、高射砲の制式化はこれが最後になりそうですな」

「奮龍の開発が終わりそうですからな。旧来型の高射砲の出番は次の戦が最後でしょう」

――奮龍。大日本帝国海軍が、旧来型の対空砲がB-29にほぼ無力であったために開発していた地対空ミサイルである。その先進性は評価されており、最優先で開発が進められた。この装備の制式化は数年後の空軍設立後の太平洋戦争にまでずれ込んだため、陸海空軍共通装備とされ、MIM-3「ナイキ」ミサイルの設計を取り入れた設計修正が行われた後に制式化され、太平洋戦争の半ば以降に旧型高射砲を代替する装備として配備される。東西冷戦下から実戦になった暁に使われるはずの兵器が実際に戦線の矢面に立つ事は、地球連邦軍の歴史調査課のいい調査材料であったため、地球連邦軍は扶桑を援助しつつ、過去の兵器の実際の姿を確かめる調査を並行させているのが分かる。

「高射砲にしても、本土と南洋島、どちらかを優先すべきか……」

「南洋島に当面は優先配備で良いでしょう。本土がそう戦場になるとも限りませんから」

今村均大将のこの言葉は国防省に統合後の防空体制構築予算の一部として実現するが、本土防空部隊の横槍や、高価な新式砲の大量生産を疑問視する守旧派、ウィッチの力を絶対視するエクスウィッチ派閥の妨害により、中途半端な形になってしまった。その悔恨は太平洋戦争開始後に最悪の形で顕現してしまい、南洋島の中規模都市の全滅を招いてしまうのであった。

「陸軍の近代化はどうなのです?」

「戦車の整備は順調です。問題は馬の連中がうるさい事ですが」

――『馬』とは、今は過去の兵種となった、かつての花形兵種『騎兵』の派閥である。1944年厳冬時点では機甲科に取って代わられているが、転科者も相当数いるため、MBTを重視する軍備に反発していたりする。(重戦車よりも軽戦車の新型を!という政治的アピールも行っている)今村大将は、戦場で軽戦車が輝ける時代に非ずと説き、軽戦車の後継として、M41軽戦車とM24軽戦車を一定数調達して『ご機嫌取り』を行っているが、機動力重視の騎兵出身の将軍からは不満の声があり、九五式軽戦車や九七式軽装甲車の調達再開を説く声すらある。

「ウマキチの連中めが。今はもはや、MBTの時代だというのが何故わからんのだ」

山本は憤慨する。しかしながら騎兵突撃を夢見てきた将兵から馬を奪った結果の捜索連隊は、扶桑海事変で成果を挙げられずじまいであった為、騎兵の憤激を買っている。だが、古来の形式での騎兵の姿を保てないのは、彼らとて認識していた。新式外国製装備よりも、旧式でも慣れた国産装備を望むのは、彼らの持つ矜持かもしれなかった。

――この山本と今村の対談以後、なんだかんだで機械化の推進がなされ、機械化の試験と称した新装備が続々と送られてゆく。半年後には歩兵の機械化に成功し、その質は史実の黎明期陸上自衛隊を上回ると判定されるに至る。時空管理局に提供された銃火器も相当数に登り、とりあえず管理局で速成された歩兵部隊(主に魔力の素養に乏しい者で構成)は一個大隊となり、意外な成果を収める。その成功から、動乱で兵力不足に悩む管理局の一兵科となり、完全な軍隊化が進展した以後は、武装隊の一コースとして定着する。管理局を現実主義に変えるきっかけが、その体制を揺るがす動乱という皮肉は、管理局の管理体制の変容を齎す。そして、ナチス・ドイツを統率する黒幕が仮面ライダー達の最終的な敵『バダン帝国』であると判明し、単なる残党でない事を知らされるのであった。バダン帝国はその配下の軍団を駆使し、次なる一手を打つ。数ヶ月後、ミッドチルダ方面軍にフルスペックの『レオパルトT』戦車やF-4E戦闘機(西ドイツ仕様)などの戦後世代兵器が配備され、扶桑軍はその対策に追われる事になる。





――ある日の飛行64戦隊

機動六課が移動本部の試験航海を行っている二日間の二日目、飛行64戦隊は研修で、連邦軍から提供された『F-4E』戦闘機への機種転換訓練を開始していた。複座戦闘機である同機だが、機動性は1950年代当時に最高性能を誇ったターボジェットエンジン「J79」を双発で積んだためにセンチュリーシリーズを超え、概ね用兵側を満足させた。

「おし、機動性は確かに原型機より高めだ。バルカンの装弾数はもう100発は欲しいがな」

黒江はライセンス生産の暁には、機銃の装弾数を増やして欲しいと言いつつ、着陸させる。ジェット戦闘機の操縦に圭子・智子と共に最も熟練しているため、鮮やかである。ハンガーに駐機させ、機体から降りると、武子が出迎える。彼女も訓練に参加しているため、パイロットスーツ姿だ。

「私の感想は、旋回半径が大きめね。まあ、マルヨンよりは小さめだけど、低速の安定性が悪いわね」

「ミサイル万能論が蔓延ってた時代のミサイルキャリアーだからな、こいつは。機銃を撃ちあう事態には適応しきれないから、次世代機が機動性重視になったのさ」

「これじゃガンファイトには向かないわね。当面はクルセイダーとの並行運用続けるしか無いわね」

「まあ、当然だな。こいつには攻撃機乗りか艦爆乗りの転科も多く乗るだろう。菅野みたいなガンファイターはクルセイダーを好むだろう。ミサイルキャリアーな所、大だしな。お前のように射撃安定性が高いのを好むのは次待ちだよ。イーグルかバイパーか、トムキャットだな」

「ああ、この次の世代の機体ね?どうなの?」

「あそこまでいくと使い勝手良くなるが、感覚は違うぞ。テストパイロットでもないかぎり、2つ乗るのは避けろよ。私もシミュレータで苦労したからな」

「あなたが?珍しいわね」

「操縦幹の方式が電気式だから、叩くだけでも操縦できるんだよ。それで、私とした事がミスっちまって落ちそうになったんだ。イーグルはすぐに慣れたが、バイパーはむずいぞ。お前がやる時はどっちかにしろよ」

「分かったわ」

黒江もF16に手こずったと吐露し、『次の機種転換訓練』の時への注意を促す。武子はこの時の言葉を守り、後にF16の方を選んだという。

「それじゃ、写真取るわよ〜」

「圭子、あなたライカをまだ使ってるの?」

「いいじゃないの。良いライカ買ったんだし」

「コンタックスにしろと言ったでしょ?まったく」

「お〜い。早くしてくれよ」

「はいはい」

黒江がその場を収める。圭子と武子がカメラで揉めると長いからだ。黒江のため息は、その日の夜に現実となった。

「コンタックスよ!」

「いーや、ライカだ!!」

「そりゃ両方共良いカメラだけど、なんでそこまでこだわるんだよ!意味わかんねー!」

「カメラと言えば、カールスラントよ、カールスラント!シャーリーはすっこんでなさい!」

「んだとぉ!」

インフルエンザが完治し、遊びに来たシャーリー(シャーロット・E・イェーガー)がニコン党という事が判明し、三人で口論を初めてしまったのだ。シャーリーは仲裁しようとしたらミイラ取りがミイラになったの要領。もはや三人ともムキになっており、自分では手がつけられないと判断した黒江は仲裁を諦め、執務室から出て行き、菅野とハルトマンを伴って、隊舎近くの街に買い足しに出かけた。

「ありゃ、当分おわんなさそうだ。エーリカ、菅野。買い足し行くぞ」

「いいんですか?」

「ありゃだめだよ。数時間は続くよ」

「すまねーな。お前ら付きあわせて」

と、ジープに二人を載せて、近くの繁華街に向かう。黒江は三人の気持ちは理解できなくは無いが……と肩を落としながら、ジープを運転していった。喧嘩は結局、数時間後、武子の持っていたコンタックスの形式が1970年以後の日本製コンタックスであることに気づき、こうつっこんだ事で終局する。

「ン、ん?お、おい、それ……よく見たらヤシカのコンタックスで、1970年代以後の日本製じゃねーか!」

「なぁ!?」

武子はハッとなって、ロゴを見てみる。するとと……1961年以前の頭文字だけが大文字のそれでなく、70年代以後の日本製の文字が全て大文字のものであり、黒江が買ってきた土産の未来製品だったのだ。武子はこの世の終わりのような表情に見る見るうちに変わり、半泣きになる。

「武子、お、お前……」

「か、……か…か、カメラのれ、レンズはカールスラント製よっ!」

「レンズだけかい!!」

圭子のツッコミに半泣きになって開き直る武子。自分のミスとはいえ、口論してしまったことの引っ込みがつかなくなってしまったのだ。普段、冷静沈着な武子にしては珍しく、感情を露わにし、好きなカメラのことで意外なミスをしてしまい、半泣きになるその姿は、彼女の歳相応の貴重な姿だった。その後、買い足しから帰った黒江が「綾香ぁ〜〜!!」ととばっちり受けてしまって、今度は『1961年以前のモデルを買え』と約束させられてしまい、釣り竿と餌用資金がぶっ飛んでしまい、こちらも「そりゃね〜よぉ〜!」と涙目になり、ハルトマンに泣きついたとか。



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