――ミッドチルダ動乱で連合艦隊は大量の補助艦艇を喪失した。そのため、元から補充の一環で建艦が進められた松型駆逐艦が補充された。松型駆逐艦とは、史実でも戦時量産型として造られる駆逐艦である。扶桑海軍水雷閥には『駆逐艦もどき』と侮蔑されていたが、装備面では当時の最新鋭のものが積まれ、その面では『陽炎型駆逐艦』も目じゃない充実ぶりだった。

――軍港

「松型駆逐艦、か。本当に使えるの〜?」

「まぁまぁ、そう愚痴らない。えぇと、川内さん」

「だって、駆逐艦ってさ。もっと大きくて、早くて、魚雷をドバーってするもんでしょ?」

川内がはやてに愚痴る。川内は水雷戦隊旗艦であったため、松型駆逐艦の性能に不満があるようだった。だが、実際は『二等駆逐艦相当の船体ながらも優秀』な駆逐艦である。

「でも、小さいけど結構優秀なんよ?高角砲が主砲と両用だし、耐久性は陽炎型駆逐艦なんて目じゃないで」

「う〜……」

川内は水雷戦隊魂を持つため、松型駆逐艦の遅さと小ささが不満なようだ。

「まぁ、そう不満がるな、川内」

「あ、木村さん」

「よう」

木村昌福中将が釣り竿を持った姿で現れた。二人は思わず敬礼する。

「ハハハ、そう固くなるな。儂も今、魚を釣っとったところだ」

大笑する木村中将。彼は今や、ミッドチルダの住民からも英雄視される身である。魔導師救出作戦を成功裏に終わらせた事が高く評価されたのだ。彼は『自分は一介の水雷屋』であると謙遜しているが、ミッドチルダで発行されている新聞の一面を飾ったのもあり、有名になった。カイゼル髭も強烈な印象を与えるため、扶桑皇国将官でも有数の知名度になったのだ。

「近頃は釣り堀も料金を引き下げてくれるようになりおったわい。儂は作戦を遂行しただけだが、そこまでとは思わんだ」

「あの操艦はお見事でした」

「木村さんはキスカの時だって、凄い操艦だったし、話に聞いたミンドロ島沖の海戦だって凄かったって、霞から聞いてるもん」

「ハッハッハ。最も、この儂はそれらは経験してはおらなんだが」

木村の『それら』に相当する戦歴は、この戦役に相当する。彼の強運と、操艦の手並みは小沢治三郎連合艦隊司令長官や、山口多聞機動部隊司令長官(当時)も高く評価しており、特に小沢は、『操艦は彼を手品にするべき』と絶賛している。

「ちょうどいい。こいつらを調理させるが、君らも食うかね?」

「うん、うん!行く行く〜!」

張り切る川内。マグロが意外にも好物らしい。はやても最近はレーションが続いて、飽き飽きしていたのと、インテグラの来訪で、中間管理職の悲哀を全開にしているため、息抜きしたいらしく、川内についていった。


――第二水雷戦隊旗艦『矢矧』

第二次ミッドチルダ沖海戦を生き延びた矢矧は第二水雷戦隊の旗艦を拝命していた。同艦の化身である矢矧は厨房で、次姉の能代と共に、料理を作っていた。

――厨房

「能代姉、おにぎりの具を追加して!」

「はいはい〜!」

阿賀野型はこの時、阿賀野、能代、矢矧が現れていた。阿賀野はなんと、彼女が現れたその日に実艦が沈没という悲運に見まわれた。そのため、同じく生き残った能代に間借りする事になり、能代が両艦を行き交う生活を送っていた。幸いにも矢矧はしっかりもので、大和の妹分を自負しているため、能代にとって、その点は安心だった。

「皿の用意は終わったわよー」

食堂から霞が声をかける。霞は木村中将の秘書官の一人で、駆逐艦ながら意外に面倒見の良いが、性格がツンデレなため、木村中将以外になかなか懐かないという点があった。

「ありがとう、霞」

「お〜い。木村閣下がマグロ釣ってきたぞ―。誰か開いてる奴がいたら捌いてくれ〜」

「私がやるわ」

「矢矧、大丈夫か?」

「料理の特訓のために、アルバイトした事あるから大丈夫よ。銀座のライオンとか、小松とか」

「意外に働いてるなぁ、お前」

「阿賀野姉を食べさせないといけないから、米内さんと吉田さんのツテで、色々とバイトしてるのよ。ほら、阿賀野姉、よく食べるから」

「あーーー、なるほど」

厨房を仕切る兵士と話す矢矧。長姉が天然な性格だと、下の姉妹がしっかりするという事は艦娘であろうと同じなのだ。数秒でマグロをさばき、盛り付ける。しかし、ここでアクシデントが起こる。

「誰だぁ!醤油瓶をひっくり返したのは!!」

「す、すみましぇん〜!」

と、まだ少年と思われる若年兵が醤油瓶を盛大にひっくり返すポカをしでかしたのだ。年長兵は思わず修正しようとするが、能代が止める。

「騒いでる場合じゃないわ。今すぐに代案を考えないと」

「しかし、コーヒー豆をたんぽぽで代用するのとはワケが違うんだぞ、能代」

「う〜ん。塩振ってオリーブ油は?」

「マグロに合うか?」

「やってみる価値はあるわ。時間もないし、急ぐわよ。足りなかったら、代用の白絞め油(菜種油)かけてカルパッチョ風にするとか、手はある。木村さんはマヨネーズかけてたし」

「閣下は変わっておられるな……」

と、言いつつも、なんとか食事の時間までに間に合い、艦娘達も食事にありつけた。

「ほう。今日は変わっとるな?」

「申し訳ありません、閣下。若い者が醤油をぶちまけてしまい……それでこのような…」

「いや、これはこれで良い。同じ味では飽きるからな。その者には儂から一言言っとく。君らは手を出さんように。若い者にはミスはつきものだからな」

「司令にはなに言っても無駄よ、自分のペースでしか動かないんだから。みんな解ってないのよねー」

「は、はぁ」

霞の一言に困惑する副官を尻目に、はやては。

「いい女房ですやん」

と、言う。

「阿武隈からは愚痴られてるがね。女房より娘だろ、あの言い様は」

と返す。

――木村中将は海軍精神注入棒で死者が出ていることを知っており、いじめの温床として、海軍に後世の者から多大な批判が出ているのも知っていた。そのため、安易な私的制裁を禁止させたが、未だに悪習は残っているため、時々、こうして釘を刺していた。後に、その炊事兵はこの処置に感激し、木村に生涯仕えたのだが、それは未来の話。また、艦娘の存在が公然と明かされると、彼女らの精神衛生的にも良くないという判断と、医学的見地から、太平洋戦争開戦までに、全軍で『バッター』(精神注入棒によるしごきや制裁)が禁止され、それにもかかわらず行ったものに厳しい処罰がされるようになるのだった。

「うん。旨いで、これ。でも、閣下はなんで釣りをなされるので?」

「儂は南方方面の他に、北方方面にも赴任した経験もあるんだ。その時の癖という奴だ。副官どもからは止められているがな。黒江少佐に釣り竿を送っておいた。彼女が戻ったら渡すように」

「了解です」

「儂は若い頃から、ハンモックナンバーが下位である事を理由に、陰口を叩かれてきた。だが、兵学校でのハンモックナンバーなんてのは、実戦じゃなんの役にもたたん。大学校出てなくとも将官になった例はいくらでもある。栗田さんや西村さんだって、大学校は出とらん。現場をよく知ってなければ、統帥はとれんさ」

木村の凄いところは人心掌握術の巧みさで、扶桑海事変以後、反骨精神旺盛で、軍内で『厄介者』との陰口も叩かれていた黒江を容易く手懐けた事から、当時に設立準備中の統合参謀本部の準備委員会メンバーから尊敬されていたりする。マグロに舌鼓を打ちつつ、はやてと川内は食事を楽しむのだった。







――動乱はこの頃には、新たな局面に入りつつあった。扶桑海軍駆逐艦が松型駆逐艦や、改秋月型駆逐艦、有明型駆逐艦などの近代装備完備の新型に世代交代し始めた事、『東海改』といった最新鋭対潜哨戒機の配備もあり、徐々に扶桑海軍駆逐艦や輸送船の損害は減りつつあった。また、『戦巡』と正式に類別がなされた超甲巡が独軍の誇る『ポケット戦艦』に優越する事が判明した事から、積極運用に切り替えられ、(空母機動部隊閥からはコストパフォマンスの悪さが指摘されたが、戦艦が高コストの大和型で統一されてきている時勢故に容認された)増産が決定された。同時にカールスラント軍は、扶桑軍が鹵獲したXXT型潜水艦に調査団を送り込み、カール・デーニッツの後押しで中断状態の同艦を大量生産するなどの決定を下した。


「XXT型が生産再開だと?本国のウィッチ閥共がうるさくなるぞ、ミーナ」

「彼女らは潜水艦を人員輸送艦としか見なしてないのよ。反発は当然だわ。だけど、ドイツ軍が通商破壊戦で巧みな戦術を見せている以上、上は無視できないわ」

「異世界とはいえ、我が軍に相当するからな、奴らは。まさかデーニッツ提督が提唱していた群狼戦術をこうも実践されると、ウィッチ閥の連中は政治的に追いつめられるだろうな。奴らには、グラーフ・ツェッペリンを護衛できなかった負い目もあるし」

カールスラントにもウィッチ閥はもちろん存在した。それが海軍航空隊の設立などを妨害したのだが、扶桑から大金をはたいて購入したグラーフ・ツェッペリン(旧・天城型巡洋戦艦『高雄』)が敢え無く撃沈された事、ミッドチルダ動乱でドイツ軍の悪い所が、バダンの捕虜(海軍出身)から暴露された結果、空軍ウィッチ閥は徐々に追いつめられてきていた。ミーナ達は彼女らに与せず、ガランド派に属しているため、敵対者からは『ガランドの腰巾着』と揶揄されてもいた。

「そうね。しかも彼らは水上では扶桑に押され気味だけど、水中では無敵に近い。それと、仮面ライダーからの極秘情報だけども、グレーテ・M・ゴロプ少佐は知っているわね?」

「ああ、オストマルク撤退戦を戦ったベテランだろう?ガランド閣下をライバル視しているとか、スパルタだから、兵たちからウケが悪いとか……いい噂は聞かんが。その人がどうかしたのか?」

「敵に内通しているという情報が、仮面ライダーXから入ってきたのよ」

「なんだって!?」

「彼女は黒江少佐の直近の上官でもあるわ。仮面ライダー達からは『伝えたほうがいい』といわれたけど、とても残酷なことだから、言えないのよ。ショッキングな事だから、これは」

ミーナは残酷な宣告を躊躇う気質がある。それはある時、坂本に引退を進言するも、坂本に信念を言われ、言い返すことが出来なくなったように、強い信念を持つ者に反論が出来なくなる事がままある。そのため、この事はミーナの意向もあり、ミッドチルダ動乱中は伏せられ、後に黒江自身が城茂から聞き出す形で直接知るところとなる。ミーナの懸念とは裏腹に、黒江は彼女の裏切りに激昂し、かつての上官に面と向かって、『テメェええええええっ!』と吠え、『怒りに呑まれるな』と、本郷猛に諭されたとの事。



――なお、黒江は聖闘士に覚醒する前である、この時期から歴代仮面ライダー達に殺人級とも言える特訓を受けており、ここ最近は某ウルト○マン宜しく、ジープやライダーマシーンの全力疾走をすんでで躱すなどの殺人級特訓を課されていた。

「そう言えば、仮面ライダー達が少佐に課してる特訓を見たんだが……殺人級だぞ」

「どうして?」

「リベリオンのジープがあるだろ?」

「ええ」

「あれの全力疾走を、すんでで躱す特訓をしていた……!」

「なぁ!?」

流石のミーナもこれには腰を抜かした。ジープの全力疾走をすんでで躱すなど、如何にウィッチであろうとも、極めて無謀である。それを課しているなど、ミーナにはとても信じられなかった。

「扶桑人って……」

思い切り引くミーナ。だが、バルクホルンはクリスや芳佳のために特訓に加わろうかと思っており、飛び入り参加。しかし後で二人共、凄まじい特訓の末に、本気で死にかけたとの事。(特訓が凄まじ過ぎて、その結果、骨折は一度や二度でなく、ある特訓では肺炎になりかけた)




――しかしながら、黒江はその特訓が功を奏し、後に聖闘士になり、バルクホルンもその後、『武闘派』としての地位を確立。晩年期に、甥(妹のクリスの息子)が起こした自動車事故で半身不随になるも、亡くなる三年前には必死のリハビリで杖をついて歩けるまでに回復していたとの事(若年期に鍛えていたおかげと、ウィッチであったため、老いても回復速度が常人より高かったため)。そのため、車椅子生活を送った時期があることは親しい人間しか知らず、本人の希望で、公の場では『年で足腰が弱った』と通したため、そのことはバルクホルンが墓まで持っていったという。また、その頃も若さを保っていたシャーリーはバルクホルンの死に号泣し、棺の前でへたり込んで泣いたという。(その様子は、周囲にはシャーリー自身の孫と思われたとか)




――後年 1995年前後

1993年前後に死去したミーナに続いて、バルクホルンがその2年後に亡くなり、妹のクリスから連絡を受け、欧州に赴き、クリスとともに遺品整理を手伝っていた芳佳と黒江、シャーリーはバルクホルンが若かりし頃から撮り溜めていた写真を発見した。

「見てください、これ。」

「あー、若い時の特訓の写真か。懐かしいぜ」

芳佳は当時、60代前後。かつての祖母を思わせる風貌となり、既に孫も生まれた年相応の生活を送っていた。それに対し、それよりも更に8歳年上の黒江は74歳である。しかしながら、聖闘士である都合上、20代頃となんら変化無しの外見を保っていた。

「その外見で、『若い時』って言っても全然説得力ないですよ。若い時と全然変わってないじゃないですか。私より8歳も上なのに」

「聖闘士になったから老けねーの。戸籍上は74歳だぜ、私も」

「ずるいです、それ。私なんて、近頃は白髪染め使ってるのに。TVで見た時は、お茶吹き出しましたよ?」

「ハッハッハ、お茶目なジョークだよ、ジョーク。きちんと20代してたろう?」

「アカデミー賞もんですよ、あれ」

ぶーたれる芳佳。この歳になると、すっかり『おばあさん』という言葉が似合うようになったが、黒江は外見が20代なので、TVの街頭インタビューで平然と『20代女性』を演じていたりする。

「でも、凄い特訓してたんですねぇ」

「マジで死ぬかと思ったぞ。これ。全力疾走のジープに追い掛け回されるんだし」

バルクホルンが生前に激写した『仮面ライダー二号=一文字隼人が乗るジープに追いかけ回され、必死の形相で逃げまくる黒江。黒江はこの時、『ウルトラセ○ンに同じことをされるウルトラ○ンレオになった気分だったぜ』と赤裸々に語り、芳佳を引かせた。

「お、バルクホルンの奴の特訓の写真だ。これは誰が撮ったんだ?」

「ヒガシだよ。偶々、その時に居合わせてな」

「へぇ……」

それは仮面ライダースーパー1=沖一也の飛び蹴りを迎え撃たんとする、若かりし頃のバルクホルンの勇姿だった。今となっては懐かしい、若年期の凛々しい姿だ(晩年は半身不随のショックで塞ぎこんでいた)。

「姉は若い時の写真を眺めては、自由が効かなくなった体を嘆いていました。その頃が人生で最も充実していたとも言っておりました」

「だろなぁ」

シャーリーにクリスがいう。50代後半になった彼女、既に息子と娘もいるのだが、息子は伯母を半身不随にしてしまったショックで鬱病を患い、精神科医にかかり、娘は軍の高級将校となっていて、母のもとに顔をめったに見せられなくなっていた。バルクホルンが若年期を懐かしがったのは、失意の晩年であったからだろう。

「あいつはあいつで、苦しかっただろうな。自分のせいで妹の家族をバラバラにしちまったようなもんだし……」

「姉は晩年、そのことを私にずっと詫びていました。あの子の心を壊したのは自分が半身不随になったせいだと……。だから必死にリハビリをしていましたのですが……」

「運命はそれを待ってくれなかったってのか……ちくしょう…」

シャーリーの目に涙が滲む。バルクホルンの願いを神は聞き入れてはくれなかったのだ。シャーリーは友の死を実感し、泣き崩れた……。それを抱きかかえる黒江と芳佳。クリスは姉が人生で掴みとったモノを実感し、姉を弔ったという。



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