――ミッド動乱は、なのは達を『軍人』と自覚させるには十分な戦だった。MSも使われ、ミッドチルダは地球となんら変わらない『戦争の場』となっていた。

「まさか、ガンダム乗って、戦争する事になるなんてな……」

なのはは強化型ZZを駆り、町中(と、言うものの、廃棄されたものだが)で戦闘を行う。レイジングハート・エクセリオンの補助もあったが、概ね連邦軍の平均技量を上回る戦闘を披露した。

「ザクも相当な数がバダンに横流しされたんだな。かなり多いぞ。でも、ジオンのドクトリンじゃないな」

ジオンがMSを基本、少数精鋭の兵器として運用するドクトリンであったが、ソ連邦との戦線で、数が必要と知るドイツ軍残党である『バダン』は連邦軍に近い運用ドクトリンを見せていた。そのため、MS小隊編成も連邦軍やジオン軍の確立させたそれとは異なっていた。

「だいたい、小隊で4機、中隊で8機、大隊で20機前後か。小隊と中隊は連邦やジオンと似てるが、大隊は数が多いな。戦車と戦闘機の運用を元にしたな」

――バダンはモビルスーツ運用はジオン軍と連邦軍のドクトリンに、ドイツ軍の戦闘機・戦車の運用ドクトリンを織り交ぜるものであった。MSは自前工廠によるライセンス生産もあるものの、世代的には第一・第二世代の混合で、シンプルな構造のものが多かった。これはバダン自身がナチス残党である故、過去にティーガーやパンターなどの複雑な構造の兵器を作り、運用していた経験によるものだ。ネオ・ジオンも外貨獲得のため、バダンに兵器ライセンスを出しており、バダンは前線にそれらを投入していた。やはり数が多いのは、毎度おなじみのザクだ。旧型であるが、製造保守は楽であり、電子部品などを連邦軍との共通にしてある後期型であるため、連邦軍のMSから部品取りする事も可能であり、一年戦争中のジオン軍が苦労した『兵站』分野では、バダンは楽だった。

「統合整備計画型のザクか……えーと……F2型ねぇ。本当、ZZの敵じゃないけど、多いんだから!」

20機ものザクと市街地で戦闘するなのは。ZZは強化型なので、スペックでは比べべくもないほどに優位だが、問題は地形だ。地上では、宇宙ほどは機動力が出せない(空中戦も出来ないわけではないが)故、意外に戦術の駆使が必要なのだ。

「どりゃ〜!」

ビルの影に隠れつつ、Wビームライフルを撃つ。歩兵戦術の応用だが、これを行える連邦軍兵士は意外に少ない。連邦軍の兵士は戦死率も高い上、ジオン軍などとまともに戦闘可能な練度の者は一部精鋭部隊に限られていた。そのため、よくゲームで見る光景である、『物陰に隠れながら戦闘するMS』を行える連邦軍部隊は意外に少ないのだ。

「おっ。一機やった。問題はどう突破するかだな」

ZZはその性質上、戦線の火消しなどに使用される事が多く、突破された戦線を鎮めるために使用されていた。その辺りは、旧ドイツ軍のティーガーに似ていた。

「さて、この通りにいる連中を片付けるか!」

コックピットのコンソールを操作し、ダブルキャノンとバックパックのミサイルランチャーを斉射する。同時にスラスターを吹かして、ホバリングの要領で疾駆する。ザク・マシンガンが撃たれるが、初期型のモデルでガンダリウムは撃ちぬけない(後期型でようやく、マガジン一個を使い果たす事で貫ける)。それが分かっているので、吶喊させる。

「ハイパーサーベルで!」

ZZのハイパービームサーベルは、ガンダリウムを容易に破断する出力を誇る。そのため、ザクの装甲程度は一瞬で両断できるので、一振りで、数機がいっぺんに斬り裂かれる。初期のMSであるザクで、ZZに勝てる道理はない。

「おっと!」

ZZのパワーは、ザクを問題にしないレベルであるため、押さえつけようとしたザクを容易に振りほどく事が出来る。そのため、振りほどく際に、腕を引きちぎられる機体も出る。

「さて、雑魚にはどいてもらうよ!」

ダブルバルカンを放ち、ザクのメインカメラなどを破砕する。60ミリ×4なので、MSの頭部バルカン砲としては高威力に入る。ザク程度であれば胸部装甲以外は貫通できるので、なのははこれで至近距離のザクを沈黙させる。

「それぇ!」

更に蹴りを入れ、複数を吹き飛ばす。ジェネレータ出力にして、7860kWという数値を叩き出すため、パワー勝負では完全にZZの優位で、スラスターを吹かしたザクを、片腕で押し返し、更にそのまま地面に叩きつけるほどのトルクを見せつける。一年戦争のザクは基本、ジムライフルはともかく、ガンダム系の火器相手には一撃で大破確実なので、敵の戦意も次第に下がり、クラッカーで閃光弾を使い、撤退していく。

「こちら、なのは。B区域の撃退に成功しました」

「ご苦労。帰投して。敵機の残骸は付近の管理局部隊に回収させるわ」

「了解」

武子へ通信を入れ、変形して離脱する。この様に、なのはは出撃の機会が多いが、この時はまだ数日前の事件の懲罰として、大和型戦艦の甲板掃除をしている途中なのだ。その時の様子は以下の通り

「綾香ぁ――ッ!!」

「どわぁ!?開口一番、怒鳴るなよ!ブルったぞ!」

「そういう事じゃないでしょ!?どうして連絡しなかったのよ!!」

「スマン、素で忘れてた」

「わ・す・れ・て・たぁぁぁ!?」

武子にしては珍しく、ややヒステリック気味であった。黒江が別世界のミッドチルダに行った後、最初の連絡の後の定時連絡を綺麗さっぱり忘れていたため、武子は気が気でなく、円形脱毛症になってしまい、毛生え薬を使う事態になってしまった。

「こっちはね、連絡がいつ来るかって気にしてなきゃいけないから、落ち着いてコーヒーも飲めなかったのよ!おまけにフィルムを一本、感光させて駄目にしたし……」

「いや、フィルムはかんけーなくね!?」

「と・に・か・く!円形脱毛症にもなったし、どーしてくれるのよ!!」

「フィルムと円形脱毛症はかんけーねーぞ!?そりゃ、連絡忘れてたのはスマンかったけどさ」

「も〜怒った!あなた、減俸よ、減俸!!」

「なにぃぃ!?す、スマン!!悪かった!!本当に忘れてたんだよ!!」

「本当にそうかしら?」

「悪かったってば!!お、おい……おい……!」

「……」

「ご、後生だぁああああ〜!緊急避難と現地の要請だったんだよぉぉ〜!」

減俸。それは、趣味人には死よりも恐ろしい宣告。給料が生活費に消えてしまい、趣味に使える金がなくなる事は、趣味人には末期がんの宣告に等しいのだ。そのため、減俸が話題に出されると、黒江はこの世の終わりのような顔になり、泣きながら懇願する。

「そうやってごまかそうったって……」

武子は完全に怒っているのか、謝る黒江に冷淡だった。ひたすら謝る黒江だが、武子は完全に怒り心頭で、万事休すかと思われた。

「武子ちゃん、俺だ。入るよ」

「どうぞ」

光太郎だった。報告と、はやてBからの手紙を渡すためにやって来たのだ。この時、黒江には光太郎が救世主に思えた。

「報告と、この手紙を君に渡すよ」

「これは……向こうのはやてから?」

「そうだ。それと、綾ちゃんをそう責めるな。世界の特定に時間がかかって、俺もめげそうだったんだ」

光太郎は世界の特定が困難を極め、めげそうになったと告げ、黒江を庇った。光太郎から道中の事が語られ、光太郎を必死に励ました事、ある世界で密航者と誤解された時には、『リンディ・ハラオウン』の名を出す事で難を逃れた事もあるし、フェイトやその『姉』のアリシアの名を出して、国賓待遇を受けた世界すらある。それで時間がかかったのだと弁護する。

「〜〜……分かったわ。光太郎さんに免じて、連絡を怠った事は不問に付すけど、許可無く、現地の世界に介入したことについては、軽い罰を出すわ。はやてに感謝しなさい?あなたも甲板掃除、二週間よ」

「あいよ、了解」


――こうして、光太郎の助け舟で減俸は免れた黒江。減俸される位なら、甲板掃除がましだからで、鼻歌交じりに甲板掃除をしている。

「フンフンフン〜♪」

減俸を免れた嬉しさか、ご機嫌である。それをフェイトに指摘される。

「ご機嫌ですね」

「おう。減俸消えたしな。でも、お前、『同化する』つもりか?」

「小宇宙を目覚めさせるのには荒療治がいるんですよ。ちょっと長めにいるつもりです」

フェイトは黄金聖闘士になるには、素養のブーストが必要なためか、未来の自身が宿った状態のままだった。そのため、別れ際の模擬戦では一番暴れていた。

『ケイロンズライトインパルス!!』

アッパーで暴風を巻き起こす――

『スターダストレボリューション!!』

光の軌跡が撃ち抜き――

『ライトニングプラズマ!!』

見えない拳の乱打が舞った。そのため、一人で最も多くの数をノックアウトしていった。そのため、はやてBから「反則や、反則!」とやじが飛んだという。シグナムはその戦技から、三人と互角に渡り合ったが、シュツルムファルケンを放ったはいいが、なのはがフレイムソード・チャージアップで潰し、そのまま撃墜した。その時のシグナムは目が点になっていた。何せ、フェイトはともかくも、なのはに落とされた事が衝撃だったのだ。

「実戦で長口上は駄目ですよ、シグナムさん」

と、精神的にも撃墜されたのである。結果、なのはBはフェイトAのスターダストレボリューションとケイロンズライトインパルスでダメージを負ったのを押して、スターライトブレイカーで一発逆転を狙ったが、石破天驚ゴッドフィンガーで押し返される(パワー負け)を初めて味わった。

「あの時は多少は威力抑えたんですよ。ライトインパルスは風圧でも吹き飛ばせるから」

「だろうな。射手座は風属性なのか?」

「アイオロスさんの先代は。アイオロスさんは電撃でしたから、代によって変わりますね」

「なるほど。招来、私がなるって言われても、実感がないんだよな。なんで聖闘士になるんだろう?」

黒江は首を傾げる。だが、フェイトは『知っている』。ここよりそう遠くない未来において、黒江は『仮面ライダー』と同じ姿を持つ者に絶望と恐怖を味わされ、その恐怖を克服したいという気持ちから、聖域の門戸を叩いたのだと。

(智子さんが、『デザリウムの時』に言ってたとか聞いたな。『そ、そうか……また『見ちまった』のか……あの夢を。お前やヒガシの前では見せたくなかったのに……。ハハ…、この黒江綾香ともあろう者がなんてザマだよ……、とんだ醜態だぜ…』って。三号にやられたのが効いたんだろう。仮面ライダーを、この頃から心の拠り所にしてるし)

――黒江は、若返った直後の時期に、仮面ライダーストロンガー、次いでRXに助けられてから、仮面ライダーのヒーロー性に心惹かれ、それ以来、彼らを目標として生きてきた面がある。これは幼少期に鞍馬天狗に憧れていた名残りで、元来は冷静沈着で売っていた彼女が『熱血系』にシフトチェンジした最大の理由である。小さかった時の名残りで、二人が『綾香』、もしくは『綾ちゃん』と呼んでいるのも、その時の事に由来する。

「さて、そろそろ試作が出来るはずだよな、プルトニウス」

「プルトニウス?」

「Z系の第二世代型ですよ。Z系のネガを潰した機体だから、私達みたいな格闘系でも大丈夫なんですよ」

「何ぃ!?そいつはもう完成してるのか?」

「確か、もうすぐ試作機が完成するかと」

「よぉし、あとでアナハイムに問い合わせて、みようっと」

黒江は上機嫌で、甲板掃除を進める。この時に知ったことで、Z系ではプルトニウスを使うようになるのである。フェイトはこの状態でミッド動乱を戦う事になり、半ば同化した形となった。アイオリアの器になる運命を確定させるためとは言え、フェイトも大変な選択をしたのだ。




――この時、ミッドチルダの質量兵器導入の話は急速に現実化し、地球連邦軍からジムU、ネモなどが輸入され、急速に武装隊の警察部門・司法部門の独立と分業化が進められた。質量兵器も、『止むに止まれぬ事情』により解禁され、地球連邦軍製兵器で固められた。これは兵器技術が魔導兵器に傾倒した結果、質量兵器技術は衰退し、平均で21世紀地球の技術レベルと大差ないどころか、分野によっては、第二次世界大戦時と同等という、なんとも情けない有様であった。そのため、装備の自主調達を諦め、地球連邦から大量輸入するという手段を取らざるを得なかったのだ。また、完全な軍隊化に伴って、地球連邦軍から教官が招かれたため、後の『時空管理局武装隊(新)』は、日本国自衛隊に近い組織になったという。それに伴い、扶桑皇国軍も空軍設立に弾みがついた形となり、同時に、一部ウィッチが連邦から持ち込んでいるMS、VFの制式装備品化が決議され、同時にMS運用ノウハウを連邦から学んでいった。


「ふう。今日も終わった終わった。ありゃ?ヒガシ、フジはどこだ?」

「武子は休暇を取ったわ。だから、その分の仕事増えるわよ」

「何だって――ッ!?休暇!?」

「ミッドチルダ政府領内の保養ビーチに骨休めに行ったところよ」

「嘘だろおい……」

「今回は自業自得だから、諦めなさいな。武子から書類仕事は言いつけられてるから、処理お願いね」

「ぐぬぬ……」

椅子に座り、書類をとにかく処理する。その際は半ばやけくそになっていた。その中には、なのはの宇宙船操縦ライセンス取得のための合宿費用の申請も入っていた。黒江はそれを見、『よし、いいだろう』と承認した。そのため、なのははその二週間後、未来世界に免許の合宿に参加するためにミッドチルダを離れ、未来世界に向かったという。



――翌日

「ん、管理局のMS部隊か。まだまだよちよち歩きだな」

「ザニーを使ってた時の連邦もこんなものだったそうだ。ただ、違うのは、MSの機体が完成してるという点だ」

「そうなんすか?」

「俺も話に聞いただけだけどね」

錬成途上の管理局のMS部隊を視察したアムロと黒江。連邦の水準で言えば、多少の旧型で訓練を行う彼らは、実体弾式兵器の扱いに難儀していて、『狙ったところに当たらない』とぶーたれている。

「奴ら、遠距離の実弾射撃は偏差射撃技能必須という事、知らないんすかね?」

「言ってやるな。彼らは護身用の拳銃ですら持ったことないような者達なんだ。それをいきなり、モビルスーツに慣れろというのは、本来なら無茶だ」

そう。時空管理局の人間は、ミッドチルダ出身であれば、質量兵器に縁が無く、見下す者も多かった。そのため、質量兵器への不信も根強かった。だが、実は多数派である『魔法が使えない人間』に取っては福音であった。

「ジムUとネモだ。在庫整理じゃないっすかね……」

「しょうがないさ。ジェガンやジャベリンとかへ機種変更して余ったんだ。余剰機も多いから、第二の人生を送らせようとなったんだろう」

「ヌーベルは?」

「陸軍が嫌がった。あれは奴さんにとっては一線機だしな」

「と、いうものの、ウチのジェガンも相当に型落ちですよ」

「仕方がない。ジェガンは星の数ほどあるんだ。ジェイブスやジャベリンで全てが代替出来るとは思っちゃいない」


アムロは、ジャベリンやジェイブスが予想外に高価となり、ジェガンの全てを代替出来る機体に成り得ないと見ぬいていた。奇しくもアムロと同じ考えの者はメカニックに多く、それは後に、ジム系の異端児である『RGM-196』として結実する。のである。

「どうして、輸出用が型落ちなのか分かるかい?」

「外貨獲得とか?」

「それもあるが、新し目の形式の機体は酷使されて、状態が意外に悪いものが多い。だが、旧型の余剰品なら、中には新品同様の機体もある。整備ノウハウも100%あるから、信頼性もあるしな」

管理局のMSは行軍も覚束ない足取りだが、かつての連邦軍も通った道である。実戦に出せる練度には、最低でも一年、旅団規模投入となれば一年半は必要と見積もられていた。そのため、錬成部隊育成が重視されていた。そのため、ミッド動乱の重要な戦いには間に合わなかったが、役目は十分に果たしたのだ。

「俺はこれから、訓示してくる。君はその辺で待っていてくれ」

「了解」


訓示に向かうアムロを見送りつつ、黒江は持ってきた水槽の水を飲む。すっかり秋になりつつあるミッドだ。この空の下で殺し合いが起きているなど、信じられない気持ちになる・

「秋、か。鰯雲見るの何年ぶりかな……。ここんとこ入道雲しか見てなかったし」

ちょっとしんみりする黒江だった。



――圭子は、実機のキ100(五式戦)を駆り、メッサーシュミットBf109とドッグファイトの最中にいた。奇しくも、この時は寝癖がひどく、仕方がなく、ヘアピンをつけていたので、『紫電改のマキ』そっくりだったりする。

「落ちろ!!」

メッサーシュミットへ『ホ5』を叩き込む。ドイツ軍の内、メッサーシュミットは耐弾性能がフォッケウルフより落ちるので、圭子にとっては『御しやすい』。これはメッサーシュミットには機体設計に余裕が無い(これは零戦と同様)ため、拡張性に乏しく、武装はどうにか出来ても、防御力は変化がほぼない。『ヒットエンドラン』戦闘機の基本形と言われるほど、飛行特性がオーソドックスなので、概ね、格闘性能に秀でる日本機に取っては、御しやすい。それと液冷機は液漏れを起こさせたり、潤滑系を損傷させれば、エンジンを停止に追い込めたりする。問題は火力面のみであると言っていい。

「おっと!低空で日本機に勝てると思うなよっ!」

圭子は低空に誘い込み、そこから得意の格闘戦に移行する。一撃離脱戦法の大家であるドイツ空軍相手には、昔ながらの格闘戦に追い込んだほうが落とせるのだ。(ドイツ空軍は機体の都合上、横方向の空戦に弱い)

「いけぇ!!」

必中のタイミングで機銃を一斉射撃し、落とす。比較的練度が低い搭乗員だったようだ。

「練度が低い部隊だな。大戦末期のヒトラーユーゲント出身か?こいつら」

ドイツ空軍も、全てが各戦線を生き延びた百戦錬磨の兵士ではなく、大戦末期の出撃の機会がないまま、戦後まで生きた者も含まれる。そのため、圭子はそのような部隊との遭遇で撃墜スコアを稼いでおり、また、超視力による見張り能力から、『ミッドの緑の悪魔』と呼ばれていた。

「まっ、こういう時こそが金一封の稼ぎ時なのよね」

圭子はこの日、格闘戦に引き込む事で、6機を撃墜スコアに加えた。また、新たに『凶鳥』と、敵に無線で言われたのが嬉しかったらしく、上機嫌で帰投した。

――ハンガー

「えらく上機嫌じゃね?それにどうしたんだよ、そのヘアピン。それやると、まるで『マキ』そっくりだぞ」

「あ、やっぱり?言われると思った。寝てたのを警報で叩き起こされたから、寝癖直す暇がなくてね。それであの子の事が頭に浮かんでね」

「それしてると、服装が違わないと見分けつかねーぞ。みやびや蛍でも分からねえかも」

「でしょうね。言われたし、似てるって」

圭子は、別世界にいる『紫電改のマキ』こと、羽衣マキと姉妹かと思われるほど似ている。違うのは圭子が標準語を話し、マキが方弁混じりな点だけだ。

「私は五式と四式乗りだから、言われたのよ。えーと、フライングシャークスの」

「鮫島はるかか?そいや、あいつ、お前に突っかかってきてたな」

「ええ。『紛らわしいんだよ、テメー!!』とか。返り討ちにしてやったけど。五式にP-40で勝てるかっての!それにオバハン言いやがって、あいつ……今度あったらコテンパンにのしてやる。ぐうの音も出ないくらいに」

「オメーにしては、根に持ってるな?」

「だって、26歳って言ったら『オバハン』って言いやがったんだぞ、あのガキ!大人を舐めたらどうなるか、を教育しないとねぇ……」


圭子は以前の出来事を思い出す。その時は見事に現地の『フライングシャークス』を返り討ちにしたのだが、紛らわしいと言われた上に、オバハンと言われた(26歳)のが、よほどカチンときたらしく、また会ったらコテンパンにしてやると息巻く。

「ハハハ。でも、『蘭』は本物だったぞ。私らを相手にして帰投したからな」

「藤堂蘭、か。西東京四天王の一角にして、スピットファイアの蘭の異名を持つ……あの子は手強い相手だったわね」

「私らの背後を取ったのは、あいつに、蛍、それとマキくらいなもんだからな」


――そう。圭子や黒江達の『背後』を取れた者は、その世界でも名うてとされる者らだった。特に藤堂蘭については、最強のマーリン搭載型『Mk.IX』とはいえ、大戦末期、あるいは史実未成のバリエーションの日本機とは機体性能差があるはずながら、三羽烏を驚愕させるほどの戦技を見せた。その経緯から、蘭には一目おいているのだ。

「帰る時、蘭に『なんで、グリフォンスピッツを使わない?』って聞いたわ。そうしたら『グリフォンスピッツは速度と機動性がトレードオフだから、Mk.IXの方が使い勝手がいい』って返してきたの。あれは本物よ」

圭子は『飛行機はカタログスペック』が全てでない事を藤堂蘭との邂逅で思い知らされ、レシプロでは五式を主用するようになり、蘭に一目おくようになったと話す。

「あの子達の手も借りられれば借りたいわね。あれほどの乗り手は中々いないわよ」

「私もそれを考えてた。あいつらが加われば、空戦で苦戦はないだろう。それに、穴拭の奴、マキのマニューバに感動してたしな。『昇龍』とか」

彼女らから見ても、紫電改のマキらの戦技は第一級のものであると認めている会話であった。わりかし呼びやすい世界ではあるが、問題がある。ティターンズとの戦闘でも、この戦にしても、ジェットへの過渡期に入りつつある故、レシプロ戦闘機乗りの腕の必要性は薄れてきている。

「でも、今はジェットへの過渡期だしねえ。呼んでもなぁ」

「そこが問題なんだよ」

「だよなぁ。他には、前に、光太郎さんが行ったとかいう世界を探すとかないかな?」

「ああ、高次物質化能力者達がいるっていう?」

「ライドロンの航行記録だと、かなり遠い世界らしいから、特定が難しいけどね」

「問題は光太郎さんも久しく行ってないっていうから、その世界で何年経ってるか」

「光太郎さんの知るその子らが生存していない時間軸になっているかも知れないからな。行ってみないと、わかんねーか」

「ただ、分かっているのは高次物質化能力者がHiME』と呼ばれているくらいなのよ」

「HiMEねぇ……」

前に、光太郎の記憶を投影してもらって見た『HiME』達の戦闘能力は個人差があるが、概ね、時空管理局の魔導師換算でトリプルAランクは固い。その世界がどういう行末を辿ったかは分からない。光太郎もそこが気になっていたのだ。

「今度、光太郎さんに付き合って、行ってみようか?」

「それがいいかな?」


――その結論に達した二人は、後日、光太郎に付き合う形で、その世界に向かう。そこで目撃した、彼女ら『HIME』と別の形の能力『乙HIME』。様々な要因で文明レベルが後退しても、戦う人類。そして

「教えてくれ、ミウちゃん。あの子――アリカ・ユメミヤ――は……」

「そう。あの子は――あなたがかつて出会った、我が主の末裔です――」

――光太郎に知らされる、ある事実。それはかつて出会った少女と、新たに出会った『アリカ・ユメミヤ』という少女にある、揺るぎない事実。


「私は戦います。それがみんなや、お母さん、ばっちゃの願いを叶える事になるのなら――マテリアライズ!!」


その少女――アリカ・ユメミヤ――が、ミッド動乱を休戦に持ち込む鍵の一つとなるが、それはちょっと先の事である。




――その日、三軍の間で戦略会議が開かれた。会議の進行は艦娘『大淀』が担当し、連合軍からは小沢治三郎とその幕僚達、地球連邦軍からは古代進、真田志郎、ブライト・ノア、アムロ・レイ、メラン。時空管理局からはクロノ・ハラオウン、はやてであった。時空管理局側は人員の数の都合もあり、実働部隊指揮官でもある、この二人が参加した。


「では、会議を始めます」

大淀の一声で、会議は開始された。錚々たる面々が会議場に集まっているため、はやては平静を保っていそうで、内心は逃げ出したいほど震えていた。

(なんや、この濃い空間!私がいる意味あるん?もう帰りたい〜!)

「では、小官から説明致します。我が軍の偵察機『彩雲』が、敵泊地を撮影しました。写真によれば、敵は巨大戦艦の追加建造にとりかかっている模様です」

矢野志加三少将が写真をプロジェクターに投影する。それは管理局の旧水上艦艇ドックを修繕、稼働させ、新たな戦艦の建造に入った様子の写真だった。

「竜骨の基礎部分の長さと、全幅から推測するに、H44級の二番艦を建造し始めたと見るべきでしょう」

「H44級か。ずいぶんとでかいな」

「主砲は20インチ砲であり、和が軍の大和型では格落ちは否めません。なので、貴国から得た三笠型を投入する事と、大和型戦艦の主砲を格上げすることを検討しております」

矢野少将は、大和型戦艦の主砲の格上げを検討していると告げた。ここで、真田が声を上げる。

「少将、改善したとは言え、18インチを積むギリギリにサイズを縮小した大和型では、格上げは難しいかと。20インチなど積んだら、反動で横転しかねません」

「艦政本部からも同様の意見が出されておりますが、砲術からは20インチの搭載が強く推されています。折衷案で19インチを積む案も出されていますが、新規開発となるので、時間がかかると、工廠から提言が出されています」

「でしょうな。小官の思いつきなのですが、砲を我が方の技術で速射砲化させる、というのはどうでしょう?」

「速射砲化?」

「大口径砲の速射砲化は、20世紀後半のデモイン級重巡で、ある程度の道筋は立てられています。それをリファインし、ガンキャノンで行われた『強制冷却ジャケット』を装着し、冷却問題を解決します」

「ふむ。必要な時間は?」

「必要な部材はヤマトやシナノの艦内工場で製造するので、それほど時間は要りません。後は大和型の砲塔を改修すれば済みます。新規に機材を作る必要も無いので、兵站を圧迫する事はありません」

「よし、それで行こう」

小沢の一言で、その案は採用され、大淀がヤマトやシナノのメカニックらに連絡を取る。速攻で実行されるのは、大本営などの上部組織の裁可を必要としないからで、そのメリットが有効に働いたのだった。

「次は、敵のMSについてですが、これについては旧ジオン系のものが多く確認されております」

次いで、ブライトがプロジェクターにザクからギラ・ドーガまでの歴代のジオン系MSの写真を投影する。

「ジオン公国解体時、それとネオ・ジオンの解体時に流出した機体群と思われますが、数が多く、自前の工廠で生産した個体もあると思われます」

「して、その性能は?」

「ザクやグフ、ドム、ゲルググであれば、ジムUで対処可能ですが、ガサD、ザクV、ギラ・ドーガあたりになると、我が軍の第一線級に相当するので、これらの一団に出くわした場合は、Z系などで対処しなければなりません」

「我が方の魔導師は数も少なく、全ての戦線をカバー出来るほどではありません。我が方としましては、空中支援に万全を期す事ができません。なので、MSの迎撃については、古代中将、ブライト司令、そちらに八割方お任せする事になってしまいます」

「そちらは組織の立て直しに専念して下さい。この戦は、元は私達の世界の争いが招いたことですので」

「ええ。貴官には、この世界の行く末がかかっている。おいそれと命を捨てられる体では無いということですよ」

「肝に銘じておきます」

こうして、会議は進んでいく。まだ、会議では海上輸送路の安全確保が急務である事が指摘され、連邦側から『ソナー』、『アスロック』などの優秀な対潜装備の提供、海自護衛艦型艦艇の建造促進が提案され、双方は受け入れられた。また、扶桑軍は、あきつ丸からの知見で強襲揚陸艦、おおすみ型輸送艦などの優秀な艦艇の装備が急務と判断、輸送艦は徴用船で急場を凌ぎつつ、杵埼型給糧艦の増産などが決議された。本来はRO-RO船の大量整備が望ましかったが、同型船に懐疑的な声も多く、それを実証する時間が必要と判断され、調達は1946年度に先延ばしされた。そのため、既存艦の増産でお茶を淹したのだ。それともう一つの理由があり、大和型戦艦五番艦の建造や龍鶴型二番艦の購入で予算枠に余裕が無くなったため、多大な金を海軍増強に費やすことが、財務省(大蔵省から改編)から文句が出そうだったからだ。

「いや、まだ手はあります。民間からカーフェリーを徴用しては?」

「おお、そうか。構造がRO-RO船だったね」

「そうすれば、そちらの財務官僚も文句は言わんでしょう」

真田の一言で突破口を見つけた扶桑海軍は即日、民間RO-RO船を庸船契約した。未来世界からの輸入であったが、これが大活躍であり、扶桑軍は1947年から1949年までの間、大量発注することになる。

――会議は着々と進む。管理局武装隊の制式拳銃はどれがいいか、ストライカーユニットの扱いをどうするか、など……。会議は5時間以上に及び、その間には間宮の作った和菓子やアイスクリームが振る舞われ、好評だったとのこと。また、連合軍は大々的にMSの導入を決め、会議の途中でアナハイム・エレクトロニクス、ヴィックウェリントン社の担当者とTV電話が行われ、ジェガンや、ラー・カイラム級などの輸入が決議されたという。




――また、この日、黒江はアナハイム・エレクトロニクスにZプルトニウスのことを問い合わせ、見事、量産機完成の暁には納入を勝ち得た。

「今頃は会議中か。さて、どうなる事やら」

ミッドチルダ動乱。この戦いにおいて、ターニングポイントとなる、フェイトの黄金聖闘士としての覚醒のし始め。それは黒江にも影響が出ていた。

「腕が疼く……フェイトの奴の小宇宙に共鳴してるのか?」

フェイトが小宇宙を宿した事で、黒江も両腕が疼き出し、小宇宙が目覚め始めていた。共鳴である。左が強めであり、この時には左腕で雲耀を放つと、魔力が制御しきれず、刀が折れるようになっていた。

「『あいつ』が言っていた未来が本当なら、特訓し始めようかな?」

黒江は探究心から、小宇宙を活用すべく、扶桑海事変時の『未来のお告げ』を信じ、特訓をし始めることを決意する。この時から体作りを始めていた事により、本格的な修行に耐え、聖闘士に任じられる年数が比較的短くなり、短期間で黄金聖闘士となる。フェイトが示した『道』へ、彼女は突き進みつつあった。


――そして、フェイトの中で、静かに雷刃の獅子は目覚めつつあった――。

「フォトンバースト!!」

この日、フェイトは自身最大最強の闘技『光子破裂』(フォトンバースト)を使い、周囲数キロを塵に帰す。これは掌に小宇宙を集中させ、相手に無数の星々を放ち、体内から内部破壊する技で、発動に時間がかかるが、神をも屠る威力を持つ。

「バダンの黒幕は『神』だ。それに対抗出来る力は、あればあるだけいい。貴様の思うようにはさせんぞ、『JUDO』……」

フェイトは、バダン大首領が名乗った『JUDO』の名を呟く。黄金聖闘士となってからも、フェイトはバダンの野望を追っているのが分かる一幕だ。彼に対抗し得る力を集めることが、彼女の目的となっているのだろう。

「さて、後は……」

フェイトは次なる行動に出る。未来の記憶を頼りに。

「光子力研究所に働きかけて、グレートマジンカイザーの誕生を早めるか……あれは『全てを零に還したがる』悪の魔神に対抗できる『カイザー』だからな……」


フェイトは近い未来に出現するであろう、もう一体の悪の魔神を屠るための一手を打つ。それはグレートマジンガーのマジンカイザー化である。それは全てが他の魔神とケタ違いの破壊力を持つ悪の魔神達に対抗し得るための手段である。

「『マジンガーZERO』……あのきかん坊、いや、ジャイアニズム野郎をどうにかせんことには始まらん。アイツはマジンガーZが無敵であることを望んだ、兜十蔵博士の願いが歪んだ形で生まれた。それを制し得るのは――」

――偉大なる皇、あるいは帝。それがグレートの後身である。その誕生に深く関わっているのが、高次次元の存在にまで進化した、マジンガーZの良心の集合体『Z神』(ゼウス)である。彼はマジンガーZの良心が生み出した存在であり、ある意味ではギリシア神話のゼウスの、大神としての理想像の体現と言えた。

『ZEROを止める。そのために我は皇を産んだ』

「それじゃ、魔神皇帝の誕生はあなたの……」

『そうだ。あれは我の子と言える。その弟であり、兄である、偉大な勇者にも皇になる権利はある』

有る時、黄金聖闘士となり、高次空間にたどり着いたフェイトは、その神と出会った。それは黄金の甲冑を纏ったマジンガーZというべき姿を持っており、彼自身は『Z真神我』とも名乗った。

「Z神、あなたは何を憂いているのです」

『ZEROだ。あれは我と相反する心が、創造主の願いを歪んだ形で具現化させた。それを止めるために二体目の皇を生み出したのだ』

彼は、他のマジンガーの全てよりも更に巨大であった。マジンガーZの良心の集合体である事を示すかのように、頭部の形状はマジンガーZと同様だ。

『二体目のカイザーを?どのようにして?』

『人の憧れ、生命力。それを形にし、全ての生命力を活性化させるエネルギーであるゲッター線を浴びせる形で生み出した。年月はかかったが』

そして、ゼウスはGカイザーを『ZEROを止めるために加護を与えし子』と言い、グレートに加護を与えんとしていると言った。グレートの存在をゼウスは賞賛していたのだ。

『勇者は誠に、人々の希望となった。ならば、その姿に相応しい称号が必要である』と。そのため、グレートカイザーの誕生を促す必要がフェイトにはあった。


――後日、グレートカイザーが誕生した後、鉄也は『運命に導かれたようだな』と称した。それはプロトZに宿った心が『Zは無敵であるのだ!』という心が歪んだ形で暴走し始めた事の暗示でもある。プロトZはその頃から、時々『誤作動』を起こし、付近に置いてある超合金ニューZの装甲板を執拗に殴りつける暴走を起こすようになる。そして……。

『我コソ唯一無二ノスーパーロボット!!マジンガーZERO!!』

その意思が暴走し、遂に世界を滅ぼそうとする時、勇者は偉大な皇となり、立ち塞がる。それはそう遠くない未来のことである。また、無敵を誇ったマジンカイザーが明確な損害を受けた初めての戦闘ともなり、その際にカイザーはZEROと相性が悪い(暴走ギリギリのカイザーノヴァでなんとか撃退出来るほど)事が判明したため、もう一体の魔神であり、Zの後身であるゴッドマジンガーで対抗する事になる。これがZEROに対しては、思いがけない効果を生み出すこととなるのだが、それは未来のこと。



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