-地球連邦軍の艦艇のうち、最も速度性能と機動力に優れているのが波動エンジン搭載艦である。
露払い役の駆逐艦はその中でも高速で、フリーダムのオプション「ミーティア」ですら止まっているかのような動きを見せた。

「あんな速度が出せるなんて…それにあの機動性は本艦を遥かに超えているわ……
まるでモビルアーマーのような…」

哨戒中のザフト艦隊の虚を突くパトロール艦「神通」。連邦軍区分では軽巡に分類される区分であり、
その武装はあまり強力ではない。だが、それは西暦2199年での話。このコズミック・イラでは
技術格差により、戦艦レベルの攻撃力となっている。さらに戦闘機並の機動に目を見張るマリュー・ラミアスであった。

「これで虚は突いた。味方の奮戦を期待する」

と、アークエンジェルらに攻撃を促す。こういうところは自分たちの置かれた役割を理解している。
「自分らはこの歴史における花形ではない」。裏方の仕事こそが今回の任務なのだ。

その通信に呼応するように、M1アストレイやフリーダム、ジャスティスなどが発進する。
それを護衛する連邦のジェガンとジャベリンなど。この両種はサブフライトシステムを使用しての飛行であるが、
巡航速度はフリーダムと同レベルである。

「あのMS、私たちのMSより速いのに何であんな機体に乗ってんのかな?」
「ザフトのMSも地上で使ってたけど、宇宙で使う必要あるのかな」
「凄い性能なのにわざわざね……」

M1アストレイのパイロット達は口々にジェガンやジャベリンとの性能差を愚痴る。馬鹿げているのだ。
機体のエネルギーとは関係なしに連射可能なビーム、チタン系の堅牢な装甲、原子炉どころか「核融合反応炉」
の動力源……。どれもが量産型とは思えぬほどの性能だ。推進剤の消費効率しかM1側が優っているところがない。

「あれで廉価の量産型なんだからフリーダムやストライクみたいな高性能機は……やめた。考えるの馬鹿らしい」

 

‐そう。ジェガンは本来、M1と同じポジションに相当する廉価機。しかも旧型に分類され始めている機体である。
それでは技術の粋を集めた「フラッグシップ機」はどうなのか。
はっきり言って『次元の違う』性能差である。西暦2199年時点で初代ガンダム以来発展してきた技術の延長線上
のガンダムとしては後発の「V2ガンダム」はミノフスキードライブによりパワー重視の風潮で造られたZZすら上回る
驚異的パワーを発揮し、機動性も従来機を超える。それは模擬戦闘の際に見せた動きが全てを物語っている。

「アレは地球軍の機体か。何と言おうか似てるなぁ」
「ああ。ジムだ。世界が違っても考えるのは同じなんだな」

ストライクダガーの機体構成は一年戦争中の連邦主力機のジムととてもよく似ている。並行世界での偶然の一致であろうが、
ここまで似てると返って恐ろしい。動きに個性が無く、ビームを乱射しながらの隊列突撃は一年戦争当時の地球連邦軍でも
見られたが、ここまで同じ動きだと大昔の某国の軍隊のようで不気味だ。
一年戦争時のジオン軍の気持ちが少しだけ理解できた地球連邦軍兵士達であった。

‐ストライクダガーを落とすのは簡単至極。隊長機を目の前で一刀両断なり、ビームで狙撃するなりしてやれば戦意を喪失する。

(地球連合そのものは地球連邦に比べて設立された時の大義名分は薄っぺらなもの。
未だに西暦末期の超大国時代の対立が尾を引いているような状況では個々で優秀なザフトに押されるのも無理かしらぬ事だな)

ジェガン隊の隊長はこう独白した。地球連邦と地球連合の違いは設立時の目標。曲がりなりにも地球連邦政府は「人類の統一政府」
という夢を実現させるための受け皿として作られたが、地球連合はコーディネーターへの憎悪を大義名分にして設立されたという。
そのため好戦的な国家出身の兵士以外の兵士の士気は低いという。彼等地球連邦軍は地球連合軍内に潜む政治的な意図に反吐が出そうだった。

「ん、今回はガンダム付きか」
「気をつけて下さい!あの3機のパイロットは普通じゃありません!」
「と、なると強化人間か……何、手はある」

ジェガンのパイロット達はフリーダムのキラからの警告にこう返す。彼等は旧エゥーゴ出身の猛者。
ティターンズやアクシズ(第一次ネオ・ジオン)の強化人間が跳梁跋扈する地獄を生き残ったのを誇りと自負する実戦派のパイロット。
強化人間といえど万能ではない。時には通常の百戦錬磨のベテランの方が戦力になるという事実がある。
それはグリプス戦役でロザミア・バダムよりヤザン・ゲーブルの方がカミーユ・ビダンを追い詰めた例が証明しているのだから。

‐ちなみにこの時、地球連邦軍の前に姿を見せたのは幾度かキラやアスランらを苦戦させている「カラミティ」を筆頭とするガンダムタイプ。
そしてその母艦「ドミニオン」。彼等はアークエンジェルやオーブ残党のクサナギ、見るからにド派手な戦艦を護衛する艦艇、
特に戦艦が前時代的(地球連合から見ても)な大艦巨砲主義の権化なことを冷笑していた。特にこの男は。

「くく、くくくっ。何でしょうかねぇ、あの艦隊は……大昔の大艦巨砲主義じゃあるまいし」
「アズラエル理事、見かけで判断されると痛い目を見ますよ。既に我が軍は彼等に出血を強いられております」

ムルタ・アズラエル。地球連合軍を裏で牛耳る反コーディネーター団体「ブルーコスモス」の盟主で、国防産業連合理事の肩書きを持つ。
本来、軍人ではなく、財界人である彼が軍の行動に口出しできるのには地球連合の凄まじい反コーディネーター感情の賜物であり、
シビリアンコントロールの原則が形骸化している地球連合の実状を示していた。因みに彼、若々しい外見とは裏腹に妻子がいるとの事。
彼は波動エンジン搭載艦の外見が20世紀初頭の世界で`アホのように`大きくなっていった戦艦群を再現したかのような塔楼を持ち、
三連装砲塔がいくつも備えられているのはモビルスーツが普及した時勢では「時代遅れ」もいいところだと冷笑した。

ドミニオン艦長であり、アークエンジェルの元・副長のナタル・バジルールは敵を侮る彼を諌める。何せあの戦艦群が前時代的な見かけとは裏腹の
超絶的戦闘力を備えているのは既に伝わっていたからだ。
そしてその艦載機の性能も。彼等のレーダーにMSとしては`過大`なエネルギー反応が捉えられるのはそれから間もなくであった。

 

「れ、レーダーに反応!!速い!!」
「モビルスーツか!?
「いえ、艦艇レベルのエネルギー反応です!!」
「何っ!?索敵は何をしていた!?」

その反応は彼等の知る範囲のモビルスーツのエネルギー反応の常識より遥かに大きかったため、`艦艇`と誤認した。
核エンジンで動くと思われるフリーダムやジャスティスよりもエネルギー反応が大きかったからである。だが、それは大きな間違いであった。
それは「一機」のモビルスーツだった。その名は「V2アサルトバスター」。歴代最速のスピードを誇るガンダムは、
その象徴といえる光の翼の羽ばたきと共にドミニオンを下部から奇襲。その大火力で一気に勝負に出る。

「行けっ!!」

ウッソはV2アサルトバスターの誇る火器たる「メガ・ビームライフル」、「ヴェスバー」、「メガ・ビームキャノン」を同時に斉射する。
これはザンスカール戦争中には不可能だった事だが、軍による改修を受けた際に正規の調整を受けた事で、
当初に想定された性能を発揮した。これを結集させた火力は歴代最高レベル。
(後のユニコーンガンダムのビームマグナム以上)
掠っただけでアークエンジェル級の誇るラミネート装甲を耐久限界温度にまで熱し、直撃を食らった部位の装甲は瞬時に融解してしまう。

「ラミネート装甲、限界温度!い、いえ、一部は限界を超えて溶けています!」
「一撃、一撃でだと!?馬鹿な……この艦の装甲は戦艦でも容易には……!?」

‐そう。アークエンジェル級を地球連合軍の従来艦と一線を画するのに一役買っているのがこの「ラミネート装甲」だ。
本来、ビーム兵器への耐性を強めるために造られたこの装甲はあくまで「耐性を強めるだけ」ではあるが、
アークエンジェル級は装甲厚があるためか、通常兵器への耐性もそれなりに持っているので、
これまでアークエンジェルを「不沈艦」たらしめてきた。それがいとも簡単に融解した。しかもアンチビーム爆雷の効果を無視して、である。
これは出力とビームの原理の違いだ。V2のそれはミノフスキー物理学に基づく高出力・高初速であり、この世界のビームを凌駕している。
ミノフスキードライブの大出力に裏付けられた威力はラミネート装甲を破壊せしめ、一瞬でドミニオンを通過し、離脱する。
その一瞬、ナタルとアズラエルは確かに見た。「光の翼を持つモビルスーツ」を。

「光の翼だと……馬鹿な……」
「何をやってるんだ!!撃ち落せよ!!」
「あの速度ではCIWS(イーゲルシュテルン)もミサイルも照準を合わせる暇もありません!!レーダーで追尾するので精一杯です!!」
「ぐ、ぐぐぐ……!あれが`ガンダム`の力か!化け物め!」
「`ガンダム`?」
「奴さんの持つあんな形のモビルスーツの名前ですよ。奴さんの捕虜になった兵士が断片的にですがデータを送って来たんです。
その結果、あの噂の要塞には今の科学では到底作れない技術、いわばオーパーツ的な何かがあると判明したんです」
「オーパーツ……!?」
「ええ。MS搭載型核融合反応炉があること、それと向こうではGと同形状の機体がフラッグシップ機としてある事位しか、
解析できなかったですが」

地球連合もルナツーの情報を非合法で一部入手している。如何な方法でも情報を入手しようとするのはむしろ当然で、地球連邦軍も
ある程度の情報漏洩は覚悟の上で戦いに臨んでいる。ザフトの幸運と地球連合の努力はこの世界に思わぬ技術向上をもたらすことになる。

 

‐アークエンジェル 

「何ィ、ストライクの整備が終わってない!?」
「ええ。向こうのなんとかコーティングが手間取ってるようで」
「たくっ、肝心な時に……」

ムウ・ラ・フラガは愛機のストライクが整備中という思わぬアクシデントに頭を悩ます。ストライクの反応速度、運動性能向上のために
マグネットコーティングが施されている(OSはキラやモルゲンレーテの技術者などがマグネットコーティングの反応速度向上に伴う最適化完了済み)
途中だが、出撃という時に`終わってない`と言われると出鼻を挫かれた気持ちだ。

「そうだ。奴さんから送られた戦闘機があったな?」
「あのコスモタイガーって奴ですか?いいんですか、あれで?」
「高性能モビルスーツが跳梁跋扈してる世界で主力張ってる機体だって話だ。こっちのメビウスとかよりマシだろ?」

ムウは急いで、地球連邦軍から提供された「コスモタイガーU」(従来塗装)に乗り込む。アビオニクスなどは、
「スカイグラスパー」や「スピアヘッド」などの機体より遙かに未来的かつ、洗練されている。エンジンの吹き上がりも良好。

「ムウ・ラ・フラガ、出る!!」
「ムウ、その機体で大丈夫なの?」
「戦闘機なんてどれも基本は同じだ、やるしかないさ」

報告を受けたマリューからの通信にこう答える。

‐こうなったら異世界のこの戦闘機に命運を託すしかねぇか!

ムウはアークエンジェルから発進する。カタパルトから射出されるコスモタイガーであるが、その加速性に彼も顔をしかめるほど。
それほどにコスモタイガーは速かった。

 

 

-さて、フリーダムは3機の連合製Gと交戦していた。部分的に2199年の技術が加えられ、マグネットコーティングが施された
フリーダム、ジャスティス(この処理は2199年時には量産型にも施されているほど普遍化しているので彼等への援助の範囲に入る)
は以前よりも動きに速さが増し、戦闘では有利に働いた。が、機体構造などにかかる負荷が増加、整備班を泣かせる要因となる。
(後にフリーダムの後継となる`ストライクフリーダム`にフェイズシフト装甲フレームが採用されたのにはこの時の経験から
彼らが行き着いた方向性……かもしれない。

 

「コーティングにあわせてOSを再調整したけど、まさかこんな効果があるなんて……」

元々ザフトが一騎当千の`剣`として造っていた機体とは言え、フリーダムは別段「キラ専用機」として造られてはいない。
(一説によればイザーク・ジュールか、特務隊用)そのため秘めた能力を発揮した時のキラの反応速度に対応しているとは言えない。
そのためマグネットコーティングで反応速度を早める(サイコミュシステムは提供できないので、その間を取った援助策)事で
キラの反応速度に追従させたのだ。ロール速度も以前より速くなり、攻撃を避けやすくなった事に驚く。
と、感心する間に相手方のGの一体‐レイダー‐から攻撃を受ける。モーニングスターのような武器だ。

「そぉりゃあ!!滅殺!!」

このような具合で攻撃される。キラはこの武装に割合苦労する事が多く、吹き飛ばされる事が多い。
そして今回も例に漏れず、直撃を喰らって吹き飛ばされる。何とか態勢を立て直すが、他の2機の追撃を受ける。
相手は通常動力のモビルスーツではあるが、その性能は侮れない。

「くっ!」

防御力重視型の一機(フォビドゥン)の鎌を頭を下げる事で回避し、砲撃型(カラミティ)の射線からスラスターを噴射し避ける。

「動きが読めないっ……」

キラは相手方をそう評した。相手は向こうで言えば「強化人間」という部類のパイロットだという。こちらと向こうでは方向性が
違うとはいえ、やることは似ているらしい。こちらでの研究は初期段階との事なので、薬物中毒にすることでバーサーカーのように
仕立てあげる事が考えられるとか向こう側の人間は言っている。実際、その通りだ。

鎌を持つ機体のビームが湾曲し、フリーダムを狙ってくる。これに対応が遅れたキラは防御しようとシールドを構えるが……。

「えっ……?」

ビームに別のビームがぶつかり、相殺し合う。それから間もなくその主が現れる。

「…ん?」
「なんだありゃ?」
「光の翼ぁ?」

カラミティ、レイダー、フォビドゥンの3機のパイロット達も思わずそう漏らす。戦場に現れたその光の翼は大きく、
宇宙なのでアークエンジェルなどからも観測出来、その翼に驚きを禁じ得なかった。

「あれは……翼……?」
「ビームでできた翼ですよアレは。通達が来ましたよ、向こうの誇るガンダムが来たようです」
「ガンダム……あちらでの`時代すら変えた最強の剣`……あれがそうなんですの?」
「ええ。我々から見れば光の翼を持つモビルスーツなんぞ馬鹿げてますがね」

エターナルの艦橋ではバルトフェルドとラクスが「光の翼」へそんな感想を漏らす。

「光の……翼?」
「奴さんの言うガンダムのものだよ。あそこまで行くと、もう化物じみてくるよ」
「15m級の小型なのにあんな芸当が出来るなんて、ガンダムっつーのはどんな化物が揃ってんだ?」

クサナギでも同様である。味方でこれなので、敵側がどんな状況かはもはや想像がつくもの。

‐この時、V2アサルトバスターが見せた光の翼は敵味方双方に多大な印象を残し、
特にザフトがあらうる技術でその光の翼を再現しようと躍起になるきっかけとなる。

‐宇宙にVの字を描きながら飛来するV2アサルトバスターの姿は味方には勝利の女神、敵には悪魔に見えた。
ウッソはこの時、コズミック・イラにて`ガンダム`の名を一躍、知らしめることになる。

 

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