――地球連邦軍はパルチザン化した後、次元世界の各地から志願者を募っていた。これは正規軍人の数が少なかった上に、兵器も足りないからであった。

――移動本部

「悪いわね、貴方達姉妹を呼ぶことになっちゃって」

キャプテンハーロックが去った翌日、圭子は自身のつてで、ある世界から志願者を募った。それは……。

「構いません。ちょうど家の問題も片付いて、落ち着いたところなので。しかし、あの日は驚きましたよ。まさか本当に旧日本陸軍の軍人とは……」

「今は空軍に転籍したけどね。いいの?今回は本式の戦争なのよ?」

「たとえ戦争でも、私達の星を好き勝手にされて黙ってはいられません。みほにもその旨を伝えておきます」

「頼む」

「突然、プラウダ高校から連絡がきた時は何かと思いましたが」

「あそこのノンナちゃんがウチの協力者でね。あの時は色々と便宜を図ってもらったのよ」

――地球連邦軍は便宜的に『ガールズ&パンツァー』と呼んでいる、戦車道という武道が存在する世界には、プラウダ高の戦車道部に活動拠点を設けている。ノンナが仮面ライダーストロンガーに救われた縁からで、バダンとの騒動が収まった後も活動拠点を残す必要があった事から、同校に諜報部(プリベンター含む)の構成員を教諭として送り込み、以後はそこを介して、バダンの動きを監視している形になっている。ちなみに、圭子が電話で話しているのは、ジャーナリストとして接触した時からの縁で連絡を取り合っていた『西住まほ』である。

「しかし、あの化物のような戦車が裏方になっている時勢に、私達の技能は必要でしょうか?」

まほは一連の騒動の際に、究極点に到達した主力戦車『61式戦車』を目の当たりにし、その攻防速に驚嘆させられた一人だが、その性能も、MSの汎用性の前には色褪せた存在でしか無いというのは、戦車が陸の王者とする時代の人間であるまほにとって『カルチャーショック』であったからだ。(ちなみに、戦車マニアである、まほの妹の西住みほの学友である秋山優花里は、61式が後方支援兵器として扱われている事実に憤慨し、『なんであんな巨大ロボットが、戦車を差し置いて花形になってるんですかぁ〜!』と嘆いていた)

「MSも万能じゃない。それが分かったから、戦車の開発が再会されたんだ。貴方達姉妹の戦略眼、戦術眼は上層部も高く評価してるわ」

「それはありがたい事ですが、私は確かに戦略や戦術には自信はありますが、武道としてでです。妹のほうが実戦には向いています」

まほは才覚面で自身が『西住流』に染まったというのを自覚し、妹のほうが実際の戦場向きであると告げる。みほは優しすぎるという欠点があるのを知っていたが、戦略的柔軟性は自らより優れていると自覚している故の一言だった。

「私たちは少しでも多くの同志が必要なの。その程度のことは勉強して補えばいい。私もそのクチだしね」

「そうなんですか?」

「私も、最初は右も左も分からない新米少尉だったもの。今じゃ中佐で、部隊の幹部してるけど」

「今でも信じられませんよ。あなたが私達の曾祖父母なほどに、年が離れているとは……」

「あ、あはは……」

圭子は実年齢で言えば、まほ・みほ姉妹とは90近くの差がある。その時を回想する。




――騒動終結後

「ケイちゃん。ここらでばらしちゃったら?この時代での本当の年齢」

「い、一文字さん!」

「でも、君が旧日本陸軍の軍服きてる上に、階級で呼ばれてる以上は言ったほうがいいだろう?」

「うぅ……。(え〜い。こうなったらヤケだ!)白状するけど、私の年齢、一部間違いがあるのよ。25歳ってのは本当なんだけど、それは1945年の時点での話なのよ……」

『……え!?』

一同はあっけらかんとし、固まる。1945年。それは太平洋戦争が終わった年であり、自分達の乗っている戦車が『現役の兵器』として使われていた時代だからだ。

「またまた〜1945年っていったら、太平洋戦争が終わった年で、もう70年以上も前の話だよ?やだも〜冗談きついって」

武部沙織が言う。1945年と言えば、自分たちの祖父母も生まれているか怪しい年代だからだ。だが、圭子の目が本気であるため、顔色が変わる。

「まさか、加東殿は本当に……でも、あり得ませんよ!?1945年に25歳を超えてるなら、今では90歳代のご老人になられてるはずです!」

「その辺の説明ややこしいのよ……。私の生まれは1919年。太平洋戦争には、若手将校として行った世代にあたるってわけ。アフリカにいたから、ロンメルに会ってるわよ」

「ふぉぉぉ〜!?」

圭子は、かのロンメル将軍と気心の知れた関係である。ポーカーで勝って、物資を融通させた事も一度や二度ではない。秋山優花里はこの一言で落とせたようだ。

「そ、それで、ロンメル将軍ってどういう方なんですか!?」」

この始末だ。圭子もこれには思わず笑ってしまう。

「えーと、ロンメルは前線指揮は申し分なしのオヤジよ。兵站とかの面は参謀長に任せてたけど」

「前線指揮はって?」

「基本的に、軍司令官以上の大役には向かないタイプなのよ、ロンメルの奴。前線で包囲されかけたりした事もあるから、後方の参謀としてじゃなく、前線指揮官としてのほうが才能あるわね。これはアイゼンハワーも言ってた事よ」

――エルヴィン・ロンメルは圭子が記憶している限り、大隊指揮官としては一級、軍司令官としては疑問符付きの男である。ロンメルがその才覚を見せられる軍事的才能は大隊か、大きくても旅団までの規模であると、アイゼンハワーは言っていた。本質的にロンメルは歩兵科出身なため、装甲部隊には補給が重要であるのを理解しきれないという盲点がある。その辺りが彼の限界であるが、それを差し引いても戦略的才能は大きく、アフリカ戦線敗北の責任を取って、後方に一時は回されるも、現在は欧州戦線を指揮していることからも、

「うわぁ〜本当に会ってるんですね、ロンメル将軍に!」

「モントゴメリーやパットンにも会ってるわよ。連合軍で同じ所に居たから。あいつら、仲悪かったから折衝が大変だったわ」

圭子は優花里と会話で盛り上がる。優花里以外に、歴女チームも、エルヴィン=松本里子(本名で呼ばれることは仲間内ではない)が目を輝かせているところを見ると、掴みは良かったらしい。咳払いし、説明の要点に入る。

「と、言うわけで、私の本当の年は、この時代だと90超えのおばあちゃんなのよ。あなた達の知る日本軍とはちょっと違うけど、一応上級将校よ。航空畑だけど」

「そういえば、航空胸章と航空用特別胸章をつけてますね」

「1930年代後半には飛んでたから、慣れてないんだけどね、これ」

圭子は皆の前に姿を見せるにあたって、珍しい軍服姿を見せていた。旧日本陸軍の昭和18年制式の軍服相当のものだが、女性であるのを反映して、スカート姿だ。

「えーと、よく分かんないけど、圭子さんってパイロット?」

「当たらずとも遠からずよ。パイロットではあるけど、そこから派生した兵科が本業だから。そういうところはあなた達の歴史とは違うわ」

武部沙織の質問に答えるなどし、少しづつ話を進める圭子。やがて話題は一文字隼人の正体に話が及ぶ。

「俺も普通じゃないからね。今一度お見せしよう!」

『変っ身!』

お馴染みの変身ポーズで2号ライダーとなる一文字隼人。その姿は正しく、自分達を窮地から救ってくれた7人の男たちの一人だった。

「仮面ライダー2号!」

見栄をバシッと決める2号ライダー。70年代的変身ヒーローというのがピッタリ来る、その風貌に皆、あっけらかんとしてしまう。

「え?今、何したんです!?ポーズ取ったら姿が変わるなんて、まるでTVの特撮ヒーローじゃないですか!?」

「それだよ。俺は改造手術で体の殆どを機械にされてるから、実質的に老化も止まってる。だから、俺もケイちゃんと同じで、実年齢はこの時代だと60は超えてるよ」

「え、ええ〜!?」

尽く、驚きの事実を知らされる一同。残りの6人ライダーも黒森峰女学園との話し合いが終わったらしく、2号のもとに集まってくる。

「本郷、そちらは終わったのか?」

「ああ。この子がみほちゃんと話したいそうだ」

「お姉ちゃん……」

「みほ……」

まほの表情は明るかった。家名に縛られていた都合上、母の言うなりになるしかなかったが、戦場で母という呪縛から開放された事で、まほは初めて、自らの感情に素直に生きる選択をし、妹を守ることに血道を上げ、相手方のポルシェティーガーやパンター相手に奮戦した。だが、ティーガーの文字通りの実弾による攻撃で、W号H型のシュルツェンが破壊される瞬間には、流石に「みほ!?」と悲鳴を上げ、狼狽の余り、『さっさと撃ち返せ!』と感情的に砲手を急かす場面も見られたが、事が終わると、平静さを取り戻し、対面となったのだ。

「お姉ちゃん、あの時は心配してくれてありがとう。嬉しかったよ」

「そ、そうか……。お前に死なれては夢見が悪くなる……。それと母さんに合わす顔が無いからな」(ふぉぉ〜一年ぶりに聞いたぞ、これ!!感激だ!)

一見、平静を保っているようでも、心の中で万歳三唱であるためか、口元が緩んでいるまほ。ちなみに、まほが指揮していたティーガーTは各所に被弾痕が見受けられ、如何に、バダンの装甲部隊相手に奮戦したかが窺える。

「でも、お姉ちゃんのあんなに必死な表情、初めて見たかも。私やみんなを守るために、一生懸命に指示を飛ばしてたから」

「あ、あの時は無我夢中だったからな」

みほの指摘に赤面するまほ。そこに、7人ライダーの助けを呼んだ張本人がやって来る。プラウダ高校のカチューシャとノンナだった。

「大丈夫だった?ミホーシャ」

「カチューシャさん、それとノンナさん……?」

「俺達が君らを助けられたのは、この子たちのおかげだよ」

「ええっ!?どういうことですか?」

「話せば長くなる。実は――」

一号が説明する。カチューシャ達は県立大洗女子学園メンバーと二号の接触と時を同じくして、ノンナが助けられたのをきっかけに、プラウダ高校戦車道部ごと、自分らの『協力者』になった事や、ピンチのタイミングでみほたちを助けに現れた謎の戦車部隊や戦闘機部隊は、敵を追って平行時空の23世紀からやって来た、国連軍の後身とも言える軍隊所属である事を。直後は半信半疑だったみほ達だが、7人ライダーに状況報告のために『61式戦車』がやって来た事で、それは確信に変わった。

「一号ライダー、上は現地政府との交渉に入りました。ショッカーライダーなどの残骸の回収を始めさせます」

「お疲れ様。こちらも撤収準備を始める」

「了解です」

「うわぁ〜〜!なんですか、そのデカくて速い戦車は!」

優花里が声を上げる。61式戦車はこの当時の小型化の風潮が出始めていたMBTと比べると、かなり大きい。長さそのものは自衛隊の10式戦車と大差ないが、幅で3倍、全高で2mもの差があった。これは155ミリ砲の反動に耐えるための兼ね合いで、二次大戦中の軽巡主砲と同等の砲を積むに当っての開発陣の苦労が窺える。

「俺達が22世紀後半頃から使ってる、古い戦車だよ。もう40年物さ」

61式戦車は制式採用が2161年であり、2201年から2202年の時点では『古めの装備』に分類される。近代化改修は数度に渡って行われたものの、一年戦争でMSに太刀打ちが困難であると判定されたため、調達が打ち切られていた時期もあるほどだが、後継戦車の調達が進まない故、退役が先延ばしにされたのである。

「見せてもらっていいですか?」

「いいよ。足元に気をつけな」

優花里は61式を見てみる。22世紀中に造られた車両らしく、高度な電子機器がたんまりと積まれていたのだが、砲の形式が引き金式になっていた。

「あれ?タッチパネル式じゃないんですね?」

「ああ、22世紀後半の戦争から、高機能な電子機器の機能妨害を起こす微粒子が使われるようになったから、それ以前の方式に差し戻した改修がされたんだ。そこは『退化』したところかもな」

優花里は61式の主砲発射機構が『古めかしい』機構であるのに疑問を呈し、それに兵士が答える。一年戦争でミノフスキー粒子が軍事利用され、戦車に積むタッチパネルが誤作動で使い物にならなくなったため、それが実用化される前のアナログ形式を改良したものに変えられたという経緯がある。それを掻い摘んで説明する。

「あれ?二人乗りなんですね、この戦車」

「え、本当?優花里さん」

「西住殿」

みほが様子を確認しに来た。二人乗りであるというのは驚きで、しかも車長が砲手も兼任する形になっているのは、21世紀時点の彼女から見ると疑問に感じるらしい。

「あの、どうして二人乗りなんですか、この戦車」

「制式化当時の名残りだよ。当時は大戦が長引いてね。軍も人が足りなかったから、徹底的に省力化したんだが、後の実戦で仇になったんだ。」


――61式戦車は制式採用時には『少ない人数で運用できる戦車』というキャッチコピーだったが、頼みの電子機器がミノフスキー粒子で有名無実化すると、MS相手に醜態を晒した。そのため、一年戦争直後は『戦車の落日』の象徴ともされたほどの弱点とされ、再生産型や後継戦車は必要人数が3人に差し戻されている。

「コイツはその頃の名残りがある形式だよ。もっと後のモデルだと、自動装填装置は残されたけど、電子機器のスペースはだいぶ減らされてるよ」

そう。彼らが動かしている、この車両は一年戦争中に生産された『年季の入っている』もので、ミノフスキー粒子下で使われない電子機器が形だけ残されている。

「なんだか複雑です。もっと電子化されると思ってたので」

「ただ、それはその微粒子が発見された場合に限るよ。それがなければ戦車はもっと自動化されてると思うよ」

優花里に戦車長が補足を入れる。61式の苦戦はあくまでミノフスキー粒子とモビルスーツの実用化に伴う人型機動兵器の戦場への登場によるイレギュラーであって、もし、それがなければ戦車が『陸の王者』であり続けただろうとされる論調はアースノイド・スペースノイド問わず存在する。それ故に戦車長はそう言ったのだ。

「なんですか、その微粒子は」

「M粒子。我々はそう呼んでる。それで人型ロボットが戦場の主役に躍り出た」

「戦車を差し置いて、人型ロボットが戦場の主役ぅ!?あり得ませんよぉ〜〜!!」

悲鳴を上げる優花里。みほも複雑そうな表情を見せる。この時代の論理で考えればあり得ないが、宇宙にも進出が進んだ時代の技術ならば人型兵器を造り出すのも可能だ。それを考えると複雑だった。

「昔の騎兵科が機甲科に取って代わられたみたいに、ロボット運用部門が機甲科に取って代わったんですか?」

「いや、戦争が何度も起こる内に、それはそれで運用上の難点や弱点も多く見つかったんだ。だから機甲科がなんだかんだ言って、重宝されてるんだ」

「なるほど……」

「航空科も人型と鳥型に変形できる『可変戦闘機』が実用化されて、だいぶ変わったよ。お嬢ちゃん達を助けた戦闘機もその一種だ」

「あれがそうなんですか?」

「ああ、『VF-19エクスカリバーADVANCE』。23世紀で最高の機体の一つさ。」

――VF-19ADVANCEとは、相対的旧式化が現れ出したVF-19の延命プランとして、イサム・ダイソンが旧知のヤン・ノイマン博士を巻き込んでおっ立てた近代化改修プランである。勿論、その試作機はイサム・ダイソン専用機であり、ポテンシャルは最新鋭機のYF-29にさえ比肩し得るという化物になった。軍はこれに気を良くし、イサム・ダイソンに制式採用を通達。問題児ながら、彼のこの功に、S.M.Sに出向させ、現場で飛ばせる事で、彼の要請に応えた。同機種はエースパイロット用の最高機種の一つとして、移民船団や植民惑星よりも、むしろ熟練者が豊富な地球本国部隊(太陽系連合艦隊)に好まれたという。

「あれはすごいぞ。速度は大気圏でマッハ5.5も出るし、小回りもF-15が比較にならないくらいに良いよ」

「うへぇ……マッハ5.5……信じられないくらいに速いですね」

「どういう事、優花里さん」

「今の戦闘機は使ってる金属の耐熱限界の都合とか、過剰な速度は必要ないとかで、スペック上はマッハ2台で収まってるんです。5.5なんて、無人機でもないと出す必要がない速さですよ!」

――意外にも、戦車一辺倒ではない知識があるのを窺せる優花里。外では、カチューシャやノンナ、まほやその他の大洗のメンバーが61式の威容に驚いたり、感心したりな表情をし、話をしている。面々から質問もされるが、それにきちんと答えてあげる戦車長。彼が面倒見がいいのが分かる。

「仮面ライダーの皆さん、これから報告しにいくんで、この子たちをタンクデサントさせながら行きますわ。エスコート頼みます」

「OKです」

と、いうわけで一同はタンクデサントで、連邦軍がベースキャンプを築いている地点まで移動する事になった。みほ達から事情聴取を行う必要が出たからだ。これにより、不整地でも時速90キロ超えの高スペックを持つ61式のタンクデサントをやらされる事になった一同は、悲鳴を挙げながら連れて行かれることになった。


――その後、地球連邦軍が富士演習場に作ったベースキャンプで一通りの事情聴取を受けた一同は解散の運びとなり、試合は大洗女子学園が勝った事にはなったが、消化不良気味が否めなかったため、後日の再戦を期することになった。

「それじゃ、また会おう」

「はい。また会えますか?」

「いつかまた会えるさ」

二号が代表して答え、富士山をバックに、颯爽とオートバイを駆って去っていく7人ライダー。その勇姿に見とれつつも、別れ際にみほがそんな事を言ったのを思い出すまほ。その時は存外、早く訪れたという事だ。


「各校から隊長格などを中心に、人材を集めているのですか?」

「車長とドライバーと砲手の優秀者が条件かな?だから各校の隊長格からナンバー3辺りまでに声をかけてる。余裕がある学校からは良い返事がもらえたが、アンツィオ高校や継続学園、マジノ女学院は芳しくない」

「あれらの学校は財政的に余裕が無かったり、人員の余裕がありませんからね。名目はなんとしているので?」

「戦車道を深めるための留学って題目で、文部科学省の協力を取り付けたわ。本当の事を言うと、防衛省の管轄になるからね」


「なるほど」

「んじゃ待ってるわ。迎えがそっち行くから」

電話を切る圭子。一息つくと、智子がやって来た。

「圭子、そっちはどう?」

「上手く行ったわ。明日辺りには着くと思う」

「綾香の具合だけど、だいぶ良くなったわ。あと一週間で治癒できるって」

「そりゃ良かった」

「綾香、治ったら聖域に行くって言い出したわよ」

「何ぃ、聖域に?どういう風の吹き回しだ?」

「なんか、敵の仮面ライダーに手もなくひねられたのが、よほど堪えたみたい。それで箒のツテを頼って行くとか」

「あの子、自分が微力な事を嫌うようになった節があるからなぁ。教え子を殺された事が、今の性格になるきっかけになったって言ってたし、塞ぎこんでた武子との違いはそこね。お前も意外と気が弱いとこあるが、武子はそれ以上に情に弱いけど、黒江ちゃんの場合は、教え子が死んだ悔恨を無力な自分への怒りに変えたのが違いだな」

黒江には根本的に、スーパーロボット乗りに近い熱血系の素養がある。経歴的にはインテリであるが、微力な自分へも怒りが向き、なおかつ未来を変えるために払った労力と努力を見れば、努力家であるのが分かる。

「綾香って、『死んでいった教え子のためにも、自分が強くある事』を自分自身の義務って考えてるとこあるものねぇ。そこら辺は求道的と言おうか、なんと言おうか」

「あの子なりの贖罪かもしれない。教え子を死なせたのは、ウィッチでなくなった自分自身の『弱さ』のせいだという強迫観念が、未来世界に行った事で、『ヒーロー達やエースパイロット達の強さへの羨望』へ変わって、その強さを自家薬籠のモノにして生きている事を『贖罪』として。そして、強くなったその分を更なる次代に残そうとしているのかも。」

「あの子、意外に泣けるとこあるじゃないのぉ……圭子、ハンカチ」

「はいはい。お前、本当に若い頃から変わってないな。」

感動し、目頭が熱くなったらしく、ハンカチを圭子からもらう智子。圭子は智子の若手時代から変わっていない側面を暖かく見守る。しかしながら、智子にも以前と変わったところがある。メカトピア戦争時から、仮面ライダーBLACKRX=南光太郎に憧れている節があり、光太郎に剣筋を鍛えてもらったりしている。光太郎も『妹分』と見ていると、圭子に言っているあたり、清々しいくらいのヒーロー気質である光太郎に智子は感じるものがあるのだろう。

「うっさいわね、性分だもの……」

「ふーん。昔、映画の鞍馬天狗に憧れて、怪我した事あるって、光太郎さんに言うわよ?」

「うぐぐ……あ、あんたねぇ…。」

智子にもかわいい幼少期があるもので、幼少期に映画の鞍馬天狗に夢中になり、ごっこ遊びで怪我したという、年相応の過去がある。智子や黒江らが幼少の頃は『鞍馬天狗』がバカ受けだった時代であったので、当然のことだが、彼女らが覆面ヒーローである『仮面ライダー』にシンパシーを感じたのは、彼女らの思い出の中の鞍馬天狗と同じ何かを感じ取ったからかもしれない。(なお、史実では幕末頃の話だったので、扶桑でどのようになっているかは連邦側も興味津々の模様)

「あんたのご両親から聞いといたわよ?映画見たその日は興奮し通しで、近所の子達とごっこ遊びしてたんだって?」

(うわぁ〜〜〜!よりによって、『あの事』を〜〜!圭子や綾香には知られたくなかったのにぃ〜!)

ニヤニヤ顔の圭子だが、すぐにしっぺ返しが来た。

「なに言ってやがる。ヒガシ、オメーだって、銀玉鉄砲で撃ち合いにのめり込んでたって、お兄さんから聞いてるぜ?」

「く、黒江ちゃん!?いつからそこに!?」

「今さっきだよ。午前のリハビリが終わったとこさ」

(あ、兄貴ぃ〜〜!)

と、これまた同じことをしていたのをバラされ、圭子もまた赤面する。黒江は車椅子ではなく、松葉杖姿なので、だいぶ回復が進んだのが分かる。


「そういう黒江ちゃんはどうなのよ!?」

「あん?ヒロイン役だけど?」

「……は?」

圭子と智子は呆気にとられ、思わず二度見してしまう。目をこすったりしているので、大らかな黒江もこれにはむかっ腹が立ったらしく、「オメーらなぁ……人を何だと思ってやがるぅ〜!」と突っ込む。

「え?だってさ、あんたの今の性格じゃヒーローやりたがるだろうし、ノッポはヒーローか悪役にされるだろうしさ」

「これでも昔は可愛かったんだぞ?そもそもそれは三番目の兄貴に巻き込まれたんだよ。だからヒロイン役しかさせてくれなかったんだよ、兄貴の奴。当時から背が高い方だから、家のかーちゃんやおばさん達からは『ヅカへ入れば?』なんて言われてたんだぞ。歌うまいしな、私」

某人気歌劇団の音楽学校への入学を10代に入る前から勧められていた過去を告白する黒江。それへの反発心と、ウィッチ能力に覚醒したのを大義名分に、当時は設立間もなかった航空士官学校に志願。優秀な成績で卒業し、そのまま第一戦隊に配属されたのが黒江の前史というべきモノだ。ちなみに軍への志願年度は智子や武子より数年早く、圭子よりは二期遅めだったそうな。

「確かに、その身長なら男役狙えるしな」

「だろ?だからさ、軍に志願した時におばさん達や、かーちゃんにがっくりされたのを覚えてるよ」


黒江はこの頃には、身体的には元々の長身さを取り戻しており、173cmに達していた。(前年度は167cmほどだった)元々が170cmと長身だったため、この身長は『より栄養状態がいい環境』で成長期を迎えた結果の産物といっていいだろう。成長で10代半ばから後半頃の肉体年齢に達したために、当初の10代前半時の姿より遥かに大人びた容貌に成長していた。その為、その当時の姿を知る連邦軍将兵からは驚きの目で見られたりする。

「だから、今でも、おばさんの一人が『軍をやめて女優になれ』なんてしつこく言って来るんだ。こちとら職業軍人だぜ?」

「ご愁傷様」

「うるへー」

そう。ウィッチへの扶桑での一般の認識は『10代過ぎたら市井に戻る、一時的な国家への奉公』である。そのために職業軍人として、その後も軍に残り続ける者は一般から奇異の目で見られることが、扶桑ではままある。坂本も近年は実家にあまり帰省しないのは、近所で妙な噂が立てられるのを嫌っているからだとの噂があるほどだ。黒江は職業軍人として生きるつもりなので、今年も『叔母をどうあしらうか』なんて考えてたりする。


「でも、あんた。モブで出たわよね、あれ」

「あれなー。私は断ったんだぜ?先方が無理にでもとかいうから、モブで出たけど」

「数十年後にリメイクされたらどーすんの?」

「その時は兄貴の孫かなんかが出るだろ?」

その言葉は黒江がいる1946年から数十年後の2000年代後半に実現し、後輩の軍司令の要請もあり、黒江はその映画に携わることになるのだが、それはまた別の話。




――同時刻


「この辺は被害はないな…」

なのはは扶桑軍から払い下げされていたレシプロ戦闘機「J改(紫電改)」を操って、敵状偵察に出ていた。同機は扶桑皇国のF8Uの配備拡大で空母から下げられた形式である。その名残りで着艦フック等がある。飛行空域は大和市のお隣の藤沢市である。

「まあ、軍事的にどうこういうような街じゃないからって言えばそれまでだけど」

なのはの紫電改は民間のスポーツ機を装いつつ、敵状偵察を行う。紫電改の操縦系統は陸軍機と統一されていたおかげもあり、すぐになのはも動かせた。

「あー、ビ◯クカメラの屋根がぶっ飛んでる。爆撃されたんだな」

藤沢駅前のビ◯クカメラの屋根が丸ごと吹き飛んでいた。爆撃で破壊されたらしい。フロア的に言えば本屋の付近が被害を受けているのは容易にわかった。

「何冊燃えたんだ?もったいない」

と、愚痴りつつも藤沢市街の様子を確認するなのは。藤沢市には目立った敵はいないが、湘南台付近に部隊の陣地が立てられていた。

「敵の陣地だ。陸軍の……中隊はいそうだ」

撤退した部隊なのか、新しく補充されたかは不明だが、陸軍の部隊が駐屯していた。ヤマトらが中間補給基地を叩いたおかげで、兵站上の不都合が増したであろうが、依然として劣勢であるのは変わりない。

「藤沢・鎌倉、海老名を抑えるのが当面の目標ってことだけど、綾瀬は自動的に奪還したって事になったのか。まあ、あそこは電車の駅もないからな」

綾瀬市は23世紀になっても鉄道が通っていない。そのため、自動車だけでは兵站の負担になるとも思ったのか、綾瀬市は暗黒星団帝国からも軽視されていたらしいのを悟り、納得する。なのはは厚木基地にに講習の際に訪れた事があるが、綾瀬市は市内散策の際にも、自動車で移動しなければならないため、どこか『片田舎』感がある。

「さて、厚木に帰るか」

操縦桿を動かし、厚木に引き返す。紫電改を動かしてみた感想は『運動性があり得ないくらいにいい重戦闘機』というもので、キ84(四式戦闘機)よりもドッグファイト向けの性質があるのを実感する。

「やっはり海軍はドッグファイトに拘ってたんだなあ。ドッグファイトじゃ疾風より良いかな?日本海軍が最後の希望にしたの分かるよ」

そう。ドッグファイトでの小回りの良さでは紫電改が疾風よりも分がある。そこが日本海軍を惚れさせた理由でもあるのだ。厚木へ着陸する。尾輪式は前輪式よりも難度が高く、23世紀では、一部の好事家以外は尾輪式で離着陸を行うことは無くなった。なのはは戦間期に小遣い稼ぎも兼ねて、キ44(二式単座戦闘機)で練習してレシプロ戦闘機の操縦を覚えた。動乱でキ100などを動かし、今では自家用機にA7M(烈風)を用意するまでになった。紫電系統を動かすのは初めてだったが、この世代辺りになると、機種別の差をあまり感じない。レシプロ戦闘機の進化が限界点に達する世代のためだろう。

「紫電改も烈風も、操縦感覚はあんま変わらないなぁ。ただ、烈風のほうが動かしやすいかな?慣れればいいだけだし」

着陸し、紫電改を基地に駐機する。すると、のび太とドラえもんがエプロンで話をしていた。

「あれ〜、何してるの?」

「ああ、家に0点のテストを大量に置いてきたままなの忘れてたんだ〜!」

「あ、あらぁ〜」

「僕は今から証拠隠滅に行こうとしてるんだけど、ドラえもんが行かせてくんない〜!」

「どのうち先生の口から言われれば、自動的にバレるから諦めろ!」

「あ〜ん!」

と、ここだけいつものギャグ空間のようで、このやりとりが戦線の清涼剤だ。

「おっと、報告に行くから後でね」

なのはは足早に司令室に報告しに行き、司令部に報告を行う。なのはの報告で藤沢市に多少の戦力を確認したパルチザンは藤沢市へ航空攻撃を敢行した。



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