――デザリウム戦役が第二段階に入った頃、傷の癒えた黒江は公言していた通り、聖域へ赴き、そこで数年の死ぬような修行を積み、数年後の夏頃、城戸沙織=アテナから正式に聖闘士としての資格を認められ、女性聖闘士としては珍しく、黄金聖衣を与えられた。

「これは……山羊座の黄金聖衣!」

「あなたに黄金聖衣を与えます。既にあなたの仲間のもとに射手座の黄金聖衣があるのは存じています。今回は特例措置で、それらも重ねて正式に認めます」

聖衣を纏って、畏まる黒江の前に立つ、この15歳ほどの年若き美少女は城戸沙織。オリンポス十二神が一人『アテナ』の現世における姿である。彼女は飛び入りで聖域へやって来た黒江の努力と素養を認め、その求道的性格も考慮し、山羊座の黄金聖衣を与えた。同時にある儀式を執り行う。

「あなたには新たに聖剣を与えます。山羊座本来の聖剣『エクスカリバー』はあなたも知っての通り、竜星座の紫龍に宿っているので、それとは別のモノになります」

黒江の前に剣の形の光が出現し、それが分解し、黒江の両腕に宿る。それは黒江がその身に、神をも斬り裂く聖剣を宿した事を意味する。

「アテナ、いや、沙織さん。これは……?」

「聖剣の原石とも言える姿―カリバーン―です。歴代の山羊座の黄金聖闘士達はそこから自分の形の聖剣を鍛え上げていきました。あなたもそうです。それをどう使うかは貴方次第です。」

沙織は聖剣の原石を黒江に与え、正式に山羊座の黄金聖闘士として認め、その地位を与えた。同時に箒の射手座の黄金聖衣装着も事後承諾し、箒も自動的に黄金聖闘士として認められた。本来、厳しい選抜試験がなされるはずの黄金聖闘士の地位だが、教皇及びアテナに直接任じられる場合もある。有事や有事直後に割合よく見られるケースだ。元々、育成人数の多さに期待が持てない聖域の都合上、むしろ上位聖闘士で選抜試験が行われたケースは聖戦が近くなると省略され、教皇及びアテナが直接任じる事が多い。黒江はその直後、パルチザンに帰還、肉体年齢の調整を受けた後、戦線に復帰した。


――長後の戦域

ここ、長後地域を制圧せんと陸戦を行うパルチザンだが、敵はパトロール戦車を大量投入した他、市街地に多数の歩兵を潜ませており、パルチザンの進撃は思いのほか鈍かった。

「長後も随分変わったわね」

「んな事言ってる場合!?あたし達、囲まれたわよ!圭子、弾は?」

「んなにないわよ。アンタが撃ちまくるからだろ!」

「制圧射撃のほうが向いてると思ったからよ!んわああああ!圭子、反撃して!反撃!」

「……あ。スマン。ジャムった」

「はぁ!?」

撃とうとしたら、手持ちの突撃銃が弾詰りしたと、顔面蒼白になる圭子。智子は圭子の銃を「このオンボロ銃!」と罵らずにはいられない。同時に敵の弾幕が放たれ、二人は一気にピンチに陥るが……。

『唸れ、聖剣『カリバーン!!』』

空間をも揺らめくほどの衝撃波が走り、地面ごと敵兵の一部が文字通りに『まっ二つ』になって沈黙する。智子と圭子は思わず目を白黒させる。

「え!?」

「ったく、何してんだよ?オメーら」

「黒江ちゃん?その姿は、まさか!」

「あなたも聖闘士の仲間入りしたってわけ?」

「その通り!今の私は山羊座の黄金聖闘士『山羊座(カプリコーン)の綾香』だ!」

そう宣言し、智子と稽古の前に颯爽登場する。黒江。形状は細かく違うが、山羊座の黄金聖衣に身を包んだその姿は、どことなく威圧感に溢れていた。両肩のパーツに山羊の角の意匠がされているのが、歴代の聖闘士との違いで、そこが黒江の独自点と言える。

「で?なにやってたんだ?」

「圭子の銃の弾がジャムったのよ」

「どれどれ。あー、予備の銃は持ってきてねーから、これ使え」

「コイツを使うのも久しぶりだなぁ。どれ、ゲッタートマホーク!」

圭子が扶桑海事変の改変の際に使った携帯型ゲッタートマホーク。黒江は武子から受け取っており、それを手渡したのだ。

「穴拭、お前はその刀でいいだろ?エネルギー転換装甲とニューZの複合素材製なんだし」

「あなたねぇ。気を利かせてさ、あたしにも何か凄いの持って来なさいよね」

「バーロー。こちとら帰ってきて、すぐにフジの奴に行かせられたんだぞ。んな余裕あるかよ。しかし、駅前なのに、なんでコンビニしかねーんだよ、ここ」

「隣の高座渋谷が相対的に栄えるようになったから、地盤沈下したみたい。駅前でこれだもの」

長後は年月の経過で衰退を余儀なくされた街である。かつては大和から藤沢間で最も繁栄を謳歌していたが、湘南台、高座渋谷と言った周辺の再開発事業が数度に渡って行われるうちに衰退。23世紀初頭時点では『かつて栄えたが、数々の失策で衰退した街である』という認識となっていた。

「コンビニから使える物資を調達するちゃねーな。こいつらは私が聖剣でぶった斬ってやるから、とっととやってこい」

「頼んだわよ!」

智子と圭子はコンビニに物資を調達しに向かう。黒江は黄金聖衣を纏う都合上、目立つことこの上ないので、敢えて突貫し、聖剣を鍛えあげる目的を兼ねて、暗黒星団帝国軍を蹂躙した。



「ほれほれほれ!」

カリバーンがパトロール戦車の一団を丸ごと細切れに粉砕する。オリンポス十二神の加護のついた剣の破壊力は折り紙付きで、ものの数分で敵を一掃し、コンビニに入る。

「どーだ?」

「食品類は暗黒星団帝国も食う都合上、電気は稼働させてたみたいだから、冷凍食品やペットボトル、スナック菓子とかなら大丈夫みたい。カゴに入れて、近くに止めたトラックに積み込むわ」

「分かった。娯楽品はどーする?」

「てけーとにぶっこんでいいわよ。レクレーションは必要だし」

――と、いうわけで、長後駅付近を山羊座の黄金聖闘士となった黒江の参戦で制圧したパルチザン。それと同様に、箒も射手座の黄金聖衣を使い、戦闘に参加していた。これは修復を重ねられた赤椿が原因不明の起動不可状態となったため、射手座の黄金聖衣を使用したためだ。

「ケイロンズライトインパルス!!」

箒は拳で暴風を起こし、パトロール戦車を巻き上げて粉砕する。アトミックサンダーボルトに比べ、小宇宙及び体力の消耗が少ないため、箒はこの技を多用しており、そこは先代のアイオロスよりも先々代(正確には数多い先々代の可能性の内の一人か)に近いと言えよう。

「綾香さん曰く、私の聖衣装着が公認されたようだが、そうなると自動的に、私は射手座の黄金聖闘士という事になるのか。自力で得た力でないから、どことなく後ろめたさはあるな……まぁ。赤椿からして、姉さんに不躾けに頼んだものだから、今更か。それにしてもなぜ起動不可になったんだ?皆目見当もつかん」

――赤椿がなぜ起動不可になったのか。その原因は射手座の黄金聖衣にあるのが真相である。赤椿は以前の散策の際、冥界から一時的に甦った、黄金聖闘士の中でも強者であった『双子座のサガ』、『山羊座のシュラ』、『水瓶座のカミュの必殺技を喰らい、コアを残して外装を破壊されていた。ギャラクシアンエクスプロージョンにより、外装を武装ごと全損させられたのだが、その際の無力ぶりが赤椿の意志の『怒り』を呼び起こし、更に射手座の黄金聖衣に全幅の信頼を寄せている事を感じ取った事から、『嫉妬した』のだ。修復の際に星矢の天馬星座の聖衣の破片が混じっていた事から、ISがその破片を取り込んで進化を起こしたというのが正解である。つまりは聖衣の領域に達するためだ。

「箒か?」

「隼人さん、どうしたんですか?」

「お前の機体だが、もの凄い事になったぞ」

「?どういうことですか?」

「平たく言うと、聖衣化だ」

「なぁ!?」

「通信じゃ細かい説明ができん。とにかく帰ったら格納庫に来い。アストナージさんもお手上げだそうだ」

神隼人はそれだけいうと通信を切る。『聖衣化』。謎の単語が箒の脳内で駆け巡る。


――前の事件の際に聖衣を目の当たりにした事が赤椿の対抗心を煽ったのだろうか?ISに意志があると入っても、真ゲッターやマジンカイザーのような、明確な意思があるのか?姉さんでも、それは解き明かしてはいないはずだ。どういう事だ?

と、考えつつも敵をぶちのめすため、拳を振るう。

「アトミックサンダーボルトぉ!!」

すっかり技名の叫びもこなれてきた箒。完全に技能を自家薬籠のモノにしつつあるのが分かる。

「しかし、この姿……『あいつ』が知ったらなんて言うのだろうか?」

射手座の黄金聖衣はヒロイックな姿である。織斑一夏はヒーロー的なモノを嫌う傾向があり、これにあまりいい思いはしないだろうと考える。千冬からは、『一夏は甲児や南光太郎へ失礼な発言をして叱責され、その懲罰も兼ねて、派遣メンバーから外した』と聞かされている。

「あいつは幼少の頃の体験が原因で、自分の力だけで道を切り開こうとする側面がある……。他人に頼ることをあまりしない。まったく頑固なやつだ。偶には他人を信じてみてもいいはずだぞ、一夏……」

織斑一夏を改めて分析して見ると、決して他力本願ではないが、自分の力で道を開こうとする余りに視野が狭くなっていると気づいた箒。それ故、『グレートマジンガー』や『仮面ライダー』という強大な力に頼りたくなかったのだろうが、命の恩人へ無思慮であると千冬が怒るのも当然だ。愛しているからこそ、『もっと仲間を頼るべきだ』と叱咤したくなった箒であった。

「さて、この当たりの奴はこれで始末する!」

黄金の矢を背中から取り出し、柄に番える。この黄金の矢こそ、かつて、神々をも打ち倒してきた強力な武器にして技。星矢が後に纏う際に、一説には『コズミックスターアロー』という名をつけられたというが、星矢オリジナルの技を借りるというのは、流石に気が引けたため、名にアレンジを加えて使用した。

「コズミックサンダーボォォガン!」

直前に『勇者ライディーン』をウリバタケに付き合って、彼の部屋で視聴した事もあり、ライディーン風の名にしたのが分かる。星矢の時と違うのは、矢が光の他に、大神ゼウスを思わせる『雷』を纏っている事で、箒の小宇宙がアイオロスのそれから離れ、独自のものへ変質し始めた証でもあった。

「ふう。自分の意志で放ったのは、これが初めてだな。これで宇宙に行ったフェイト含め、三人の黄金聖闘士、か……凄いと言うべきか?」

箒はため息をつきつつ、長後の東区域を制圧したと報告する。黄金聖衣を用いると、正に尋常ではない力が得られる事が確認されたのである。ただし、同時にそれは他の地球系勢力から脅威視されるだろうと心配もするのであった。



――格納庫では、その赤椿の分析が行われた。結果、装甲の素材がオリハルコンに変質している事や、翼型スラスターが神々しいデザインの翼へ完全に変わっている、デザイン性が総合的に神聖衣に類似したモノへなっているなど、聖衣の特性に限りなく近くなっているのが確認された。

「うーん。こりゃこれはもうISとは言えないですよ。聖衣ですよ、これ」

ドラえもんは各種ひみつ道具で分析した結果を神隼人に伝える。隼人も『先方になんて言えばいいんだこれ』と半分お手上げの状態。ウリバタケや救出に成功したアストナージをして『わけわからない』と言わしめるほどの変化である。しかもアテナの血を浴びた最終青銅聖衣の状態の破片だったので、小宇宙が極限に達すれば、完全に神聖衣化する可能性が高い。

「どうします、隼人さん」

「先方には俺が説明しよう。幸い、向こうにも聖闘士星矢はあるようだから、じっくり説明すればわかるだろう。やれやれ」

聖衣を得たパルチザンだが、その対価に聖域の危機には必ず馳せ参じるべきという血の献身を求められ、黒江はそれに応じた。そのため、彼女は皇国と聖域、地球連邦と、3つの国と領域に忠誠を誓い、、二足の草鞋を履いた状態にその後の生涯を費やした事になる。扶桑皇国の21世紀中盤に差し掛かった頃の記録によれば、三羽烏はその頃にも、合計数度の若返りの効力もあり、未だ健在である事や、実年齢の問題もあり、扶桑軍の表舞台には立たなくなったものの、裏で軍へ影響力を行使している事、黒江はその頃には戦神『アレス』配下の狂戦士(バーサーカー)との聖戦で、黄金聖闘士となった星矢たちと轡を並べて戦い、そこで戦功を上げ、『二拳二刀の綾香』と呼ばれ、先々代の山羊座の聖闘士『以蔵』以来の異名持ちの山羊座の聖闘士となったという。






――ちなみに、三羽烏のその後の結末は三者三様であった。聖闘士となった黒江に付き合う形で智子、圭子の両名も200年の月日を生き、圭子がゲッター線に取り込まれる形で2115年にゲッターロボを運転中、敵を倒すためにゲッター炉を臨界状態にし、そのまま取り込まれる形で、最初に世を去り、22世紀中頃に残りの両名も世を去ったとされる。だが、実際は智子は死の際に、使い魔と魂が同化した結果、神に近い高次の存在へ昇華しており、ウィッチを見守り続ける存在となった。10代の姿で子孫の前にちょくちょく姿を見せるため、子供らに「大ばーちゃん」や、「大ばあば」と言われるのを嫌がったとの事。黒江は聖闘士として生涯を終えた都合上、残留思念が聖衣に残り、聖闘士としての後継者となった子孫らに力を貸したという。








――パルチザン移動本部(ペガサス級強襲揚陸艦『グローリアス』)ブリーフィングルーム

『こ、これは……』

IS学園との定時通信はいきなりの波乱だった。聖衣化した赤椿の姿に、千冬は言葉を失い、束さえも、その場にカクンと崩れ落ちた。

『え、えぇ〜〜!いったいどうなったのぉ〜!?これぇ〜!』

束が恐らくは初めてであろう、素っ頓狂な声を上げる。自身の最高傑作が『原型がない』姿となったのだから、当然だった。

「説明しにくいが、赤椿はもうISではない。なんと言おうか……『聖衣』になったとしか言いようがない」

『……は?』

意味を理解しかねた千冬が声を上げるが、束はその意味を理解し、続けた。

『もしかして、聖闘士星矢のあれ?』

「そうだ。その世界を我々は発見し、接触した。赤椿はその世界で破壊され、修復はしたのだが、こうなったというわけだ」

『誰に攻撃されたの?白銀聖闘士くらいなら問題ないはずだよ?』

「黄金聖闘士だ。黄金の攻撃速度は光より速い上に、神をも穿てる攻撃力を持つのだ。破壊されるのは当然のこと。ましてや三強であるサガ、シュラ、カミュの前では、赤椿などは玩具に等しい」

『う〜〜……』

束も、箒が神をも屠れるかと謳われし、黄金聖闘士の中でも強者とされた三人と相対する事は全くの想定外だったらしい。

「なっちまったもんはしょうがない。諦めろ」

『そ、そんなのありぃ〜〜!?』

隼人に言われ、狼狽えて落ち込む束。束がこれほどまでに狼狽えるのは、千冬も初めて見ることだった。しかも最高傑作が『聖衣』へ変貌してしまったというのは予想外もいいところ。普段は飄々とした束も、こればかりはまったくの想定外で、ただただ泣くしかなかった。








――ペガサス級であるグローリアスはMSを6機+3機の予備機を積む設計だったが、昨今の小型化と可変機の普及でスペースに余裕が生じ、艦載数は10機前後に増えていた。圭子がこの時期に使用していたZPlusには、脚部などに64Fのマーキングが描かれていく。

「よし、んなもんか。後であやちーに確認してもらうか」

ウリバタケは64F保有の機体に、同隊の識別のため、識別章を脚部に書き込んでいた。作業は順調で、あと30分もあれば全機に描きおわる。暗黒星団帝国の機動兵器との戦闘は張り合いがないとパイロットは言うが、楽である分には越したことはない。

「さて、Zにとりかかるか」

グローリアスはデラーズ紛争時代に設計された古い艦である。そのため、大型機を積むことが前提だったため、可変機を除く、小型機を積むと、スペース容量に余裕が生じる。そのため、設計時の想定よりも多く艦載機を確保し、他艦とは違う方法で可変機と小型機を同時に整備していた。

「さて、リョーコちゃん達はうまくやってるかな?」

10分前、ネェル・アーガマの支援にナデシコBが向かったと報告を受けたウリバタケ。ちょっと心配そうな表情を見せた。







――私はここから長い歳月を軍人・聖闘士として生きる事になった。聖闘士の引退時は200歳がボーダーラインという。戦死率が高いが、小宇宙や秘術で数百年は寿命を伸ばせるという点に参りつつ、私は二足の草鞋を履くことにし、戦った。いつしか子供を残すことなんて、頭からすっぽ抜けちまった。もうあの時から何年経っただろう?軍の同期は遠い昔に死に絶え、もうその遠い子孫の代になった。生きてるのはあいつらだけだ。あいつらを付き合わせた分、生きなくちゃなんねー。あいつらを知ってる人間がみんな死に絶えた曾孫の時代まで付き合わせた罪滅ぼしだ…。

――黒江はこの時から山羊座の黄金聖闘士としてのキャリアを積む事になり、以後の人生を聖闘士として、戦うことになった。だが、同時に普通の人生を捨てることにもなり、長命を保ったのと引き換えに、家族や友人を見送ったのも数え切れないほどになる事でもあった。先の分は2040年頃に黒江が著した回想録の一説だ。黒江は聖闘士として長い年月を生きる事になり、その半ばに差し掛かるであろう2040年代と、そのほぼ112年後の死期を悟った年の二回ほど、自身の回想録を著し、そこには圭子と智子を自分に付き合わせてしまったことへの罪悪感、そのことへの懺悔が記されており、聖闘士としての長い年月に友人を巻き込んだ事に罪悪感を少なからず抱いていたのが分かる内容であったという。



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