――智子は宇宙戦艦ヤマトへ向かう途中、自らの経歴に変化が生じるほどの歴史改変の結果に思いを馳せていた。

「どうした?考えこんだ顔して」

「いや……この間、昔の戦友って子からの手紙が届いてね。名前に心当たりが無くて、それで統合参謀本部から、私の経歴書を取り寄せたのよ。そうしたら……」

「そうしたら?」

「私の軍入隊年度が11歳くらいに前倒しされてて、『実働部隊での研修を経て、明野に入った』って書いてあるのよぉぉぉ〜!」

「お、おう。そりゃご愁傷様で…つまり、お前の記憶に無い戦友が何人かはいるってことだよな、それ」

「え、ええ。50Fや64F、1F時代は記憶あるけど、その前だと明野がせいぜいなのにぃ……どう書いたらいいんだろう……」


――歴史改変を行ったはいいが、見えないところで影響があった。その一つが智子の経歴が微妙に変化していたのだ。今の智子が遡れる軍での記憶は、明野飛行学校生時代まで。それ以前に『所属していた』とされる部隊のことは歴史改変で生じた事項であるので、今の智子は知らない。手紙にどう書けばいいのか困っている。

「うーん。『事変で記憶ぶっ飛びました、ごめんなさい!』なんて書くわけにはいかねーしなぁ。そいつは期待して書いてるだろうし」

そう。実際、彼女ら三羽烏と黒田は、扶桑海事変の後に『魔力の多量使用による消耗による記憶障害』と処理され、医療記録も残されている。それを言及してもいいが、ショックを受けてしまうと思われ、智子はどう手紙に書いたらいいのか悩んでいた。黒江にはそんな事は起きてはいないためか、アイデアが浮かばない。

「大尉、中佐〜」

「お、ドラえもん!いいところに来た!タイムテレビ貸してくれ!」

「え、なんでまた?」

「実はカクカクシカジカ……」

「分かりました。えーと、1935年くらいでいいですか?」

「違う次元のも見れるの?」

「前にやったことあるんで」

「お!」

ドラえもんにタイムテレビを操作してもらい、1935年前後の智子の様子が映し出される。14歳以後ほど背は無く、高飛車なところが見られる性格である。そこで黒江は見覚えがある顔に気づく。

「ん!?あれ、こいつ。1946年現在のトップエース『上坊亮子』じゃね?」

「ん、言われてみれば……」

上坊亮子。それは飛行戦隊トップエースとして名を馳せる古参である。智子の先輩で、黒江の一期上に当たる。撃墜数は76機で、この内の複数をティターンズのB-29で占めるほどの技量を持つ。なんと、歴史改変の効果で、彼女が智子と同じ部隊にいた事があるとされていたのだ。

「で、手紙の主の名前は?」

「えーと……。確か……竹内正子だったかな……?」

「どひゃああああああ!」

その名を聞いた途端に腰を抜かす黒江。

「お、お、おま……そいつ、確か紅海戦線のトップエースだぞ!?」

「え!?ま、ま、ま、マジぃ!?」

「大マジだ!噂に聞いた事がある。赤鷲型の撃墜マークを書き込んでて、黒田が助けられた事があるとか……。」

「……や、やばい。早く返事書かないと……」

さぁっと血の気が引いた顔で、錯乱気味の智子。

「落ち着け、馬鹿。しかし……よく考えると、この期の少女飛行兵には大成したのが多いって事だよな。後のエースがごろりといやがる。こいつは事故で殉職した青柳だし……」

タイムテレビに写る顔の多くは、黒江も音に聞く撃墜王達である。中には現役期間中に事故で殉職した者もいたが、殆どは名を成し、現在は教官に退いたりしているエースだ。

「そいや、貴方はそのままのエリートコースだったわね?」

「勉強はできた方だったんでな。まぁ、元々、減衰が遅い体質だったってのもあるけど」

――黒江は航空士官学校出で、少女飛行兵上がりに変わり、『叩き上げ』の経歴となった智子とは対照的に、エリートコースの経歴なのは変化無しだった。しかし、黒江は歴史改変の悪影響が大きかった。

「ところが、事変が終わって、審査部に行ったら、いじめにあったんだよ。グループぐるみで。それがきつくて、鬱になりかけた」

「え?なんでよ?あんたの元々の固有魔法なら……」

「技術者受けは良かったが、同僚や先輩達から睨まれたんだよ。それで一年くらい経った時に47Fに引き抜かれた。その時は『助かった…』ってマジで思ったよ」

――黒江が受けた陰湿ないじめは、それを知った高官が憤慨するほどで、後にその高官が一計を案じ、黒江が47Fに転属するきっかけを作った。智子にその話をしたのは初めてだった。

「だから審査部、私には後ろめたさがあったのさ。私が戦線復帰した時に文句言って来なかったしな」

「そういうことだったのね」

「とりあえず、手紙は『今度、会いましょう』にして誤魔化しておけ。会った瞬間に思い出すかもわからんし、帳尻合わせで今見てから、しばらくして思い出すかもしれねぇし」

「うん、そうするわ」

そう。飛行審査部は軍再編で再編されるまで、黒江の冷遇が高官に問題視された結果、良識派といじめた側が対立してしまい、本来の任務どころではなくなった事がある。結局、黒江は復帰後、実戦部隊に重宝され、再編された審査部には戻らなかったため、審査部は『貴重な人材を失った』。結果として、黒江を失った事が大きな政治的痛手となり、後に実戦部隊でテストも行われるようになったため、再編後の審査部の任務は縮小されたのだった。

「お、そうだ。お前の家って、お前を溺愛気味だろ?」

「何よ、突然」

「宇宙行く前の日にさ、うちの上の兄貴の家から、相談の手紙が来たんだよ。そろそろ子供が小学校なんだけど、どうしたらいいかって。つまり私の甥なんだが、義姉さんがちょっと厳格でな。兄貴と子育てでぶつかってるそうなんだ。こういうのって、娯楽を禁止すると、大人になってから反動が来るっていうだろ?」

「のび太の家も、母さんが厳格だけど、父さんが優しいからバランス取っているわけだしねぇ。厳しくしたら、大人になったら反動が来る事をお兄さんに教えたら?」

「そうなんだよ。あるだろ?温室育ちのエリートが挫折感を味わったら、テロリストにまで転落した例。ティターンズがそうだろ?義姉さんは良家の温室育ちだから、そこが分かんないんだよな。ほら、ブルボン王朝のマリー・アントワネットだって、そうだったろ?本人は良かれと思ったら、対立してる方に発言を利用されて、世間に自分が悪女とされちまったって」

――黒江の長兄は家庭を持つ年代であり、既に長男もいる。が、その子育てで夫婦間のいざこざがあるという手紙を受け取り、返事に困るという事を明かす黒江。ままあるが、厳格に育てられると、『一般的な価値観がわからなくなる』事が多い。かのブルボン王朝最後の王女『マリー・アントワネット』も、世の中に無知だった(当人は民衆への慈悲のある、相応の優しさを持っていたが、結果として、革命を煽ってしまった不運がある)故に、革命の業火に焼かれた。それを例にして、姉の妻(義姉)を説得しようとしているのが分かる。

「貴方も大変ねぇ」

「ああ。あがりを迎えた時、軍人で居続ける事にも、お袋や叔母さんたちが反対したくらいだしな。うちも順風満帆じゃないって事だ。サンキューな、ドラえもん」

「お安い御用です。あ、そうそう。真田さんがコスモストライカーの最終稼働テストしたいから、格納庫に来てくれって言ってました」

「分かった」

――コスモストライカー。それは真田志郎や大山俊郎がテストしている『地球連邦軍型空戦ストライカーユニット』である。コスモタイガーをストライカーユニットに落とし込んだデザインで、宇宙や大気圏内の双方で運用可能な万能ストライカーユニットである。後に、それは地球連邦軍からの貸与という形で、連合軍の統合戦闘航空団や本土防空部隊などに配備される。あくまで、連邦軍からの貸与という建前上、ウィッチ達には縁が薄いストライカーユニットとなったため、『幻の高性能機』として名を残す事になる。



――ヤマトのコスモゼロ用の第二格納庫(元の水偵格納庫、内火艇格納庫のスペース利用)には、地球連邦軍が独自に組み上げたストライカー用発進促進装置と、カタパルトが設置されていた。コスモタイガーらに先行して発進し、敵状偵察を行うのが前提のようだ。


「すげえ。わずか数日の間に、下手な統合戦闘飛行隊が霞むくらいの設備を造るなんて……」

「君らの世界の発進促進装置を、時空管理局と連邦軍の技術で再構築したものだ。それ故、相応に省スペース化と離陸速度への到達はグンと早まっている」

――設備はコスモゼロの発艦を阻害しない程度に省スペース化されており、一回で二人程度を発艦させる事が可能だ。

「コスモゼロのスペースを、私達が使っちゃっていいんですか?」

「構わんよ。元々、イスカンダルへの初めての航海の時は、量産が間に合えば、ゼロで統一する計画だったんだ。だが、高コストだったから製造に手間取って、間に合わなかった。その後はコスモタイガーが主力の地位を担ったから、ゼロ系列は指揮官用に少数生産されるだけの戦闘機になったのさ。今は新コスモゼロにしてるから、スペースが余ってね。折りたたみ式にしてあるから、古代の新コスモゼロの発艦には支障はない」

「なるほど。ん?あのパーツは?」

「三菱から送られてきた、元祖コスモゼロの改善型のパーツ一式だよ。予備機代わりに確保したものだ。」

「組み立ててないんすね」

「ああ。あれは独自規格の部品も多いしな。新コスモゼロは、新コスモタイガーの試作型でもあるからね。コスモタイガーと各種戦闘機のパーツ共有のテストも兼ねてるから、コスモタイガーの基本フレームに色々な戦闘機のパーツを肉付けしたものなんだ」

「つまり、VFとかのパーツも入ってるんですか?」

「外観からはわからんが、アビオニクスなどはVFと共通のものだよ。VFさえ動かせれば、小学生でも飛ばせる」

「なるほど」

そこまで、会話したあたりで放送とアラートが鳴り響く。

『総員戦闘配置!!艦載機要員は機に乗り込んで待機せよ!』

「いきなり実戦になってしまったな」

「え、真田さん、テストは?」

「今はそんな暇あるか!ドライテスト(機体無しの試験)は終わってる、大丈夫だ、行ってこい!」

「分かりました!」

アラートを聞いて、格納庫へやって来たハルトマンとシャーリーとで、臨時で1個フライトを編成し、古代からの『第7艦隊のいる方角への偵察』の指令を受け取り、艦隊戦の最中ながらも発進する事になった。携行する武器はダウンサイジング化されたMS用武装だ。

『よし、行くぞ!!』

発艦した彼女らはヤマトの援護射撃を背に、第七艦隊のいると思われる方角へ向かった。偵察機からの位置情報を受け取り、15分ほど飛行する。

「なんか不思議だよね〜。普通の格好で、宇宙飛んでるなんてさ」

「そうだな〜。こんなの、元の世界のロケット科学者とかは想像だにしなかっただろうし」

シャーリーもいう。

「フォン・ブラウンが聞いたら、発狂間違いなしだな。普通の格好で真空の宇宙をかっ飛んでるわけだし」

「そうよねぇ。普通の小具足とか軍服で宇宙飛んでるわけだし。20世紀から21世紀序盤の連中が聞いたら発狂は間違いなしだわね」

黒江と智子も同意する。光分単位の空間をかる〜くかっ飛ぶコスモストライカーの疾さは、地上で通常のストライカーで飛ぶのと同じ感覚で、第七艦隊のいる空域にたどり着かせる。そこで彼女らが見たのは、苦闘する第七艦隊だった。





――地球連邦宇宙軍太陽系連合艦隊/第7艦隊

『戦艦加賀、後部主砲塔全損!』

『戦艦ワイオミング、炎上!』

しゅんらんの艦橋に舞い込む凶報。艦隊は必死の防戦を行うが、波状攻撃の前に、主力の多くが中破以上の損害を負っていく。

『提督!我が方の戦艦は半数が損傷しました!』

『空母は!』

『4分の3が飛行甲板が大破し、着艦不能です!』

『本艦のスペースも利用し、損傷機の回収に努めろ!艦載機隊の奮戦あって、ここまで持ちこたえられたのだ!』

第7艦隊は航空戦力をフル活用し、波状攻撃を凌いできたが、それも限界に近づいてきていた。稼働機数も減っており、エアカバーの密度は薄くなっている。山南はいよいよ、艦隊の最後を考えたが、福音をもたらす天使は舞い降りた。追い打ちをかけようとしたイモムシ型戦闘機が彼らの目の前でビームに粉砕されたのだ。

『え〜と、第七艦隊旗艦『しゅんらん』のみなさん、聞こえます?こちら地球連邦宇宙軍、第13独立艦隊『ロンド・ベル』所属、エーリカ・ハルトマン少佐』

多少ぎこちないが、彼女なりに努力した証の見える通信だった。

『しゅんらん艦長兼、第7艦隊司令の山南修だ。援護に感謝する!詳しい事情は後ほど聞こう。本艦隊の状況は見ての通りだ。そのまま戦線に加わってくれ』

『了解。データリンクチャンネル3でヤマトに接続出来ます、当機とギラン円盤で中継するのでコード3で送信してください」

『了解した。通信長と航海長にやらせよう』

損傷で長距離通信が困難になっていたしゅんらんは、ハルトマンとギラン円盤がリレーする形で、戦術データ・リンクシステムでのやるとりでヤマトへ自らの座標を通達する事に成功した。データを受信したヤマト艦隊は直ちに急行、随伴するドルギランも、ギラン円盤を切り離し、電子星獣ドルに変形し、戦闘態勢に入った。

――宇宙空間に木霊する、電子星獣ドルの咆哮。地球での竜を連想させる、その威容はある意味ではインパクト大であった。その頭部に仁王立ちする宇宙刑事ギャバン。

『ドルレーザー!!』

目から赤いレーザーを照射し、暗黒星団帝国の艦艇を粉砕するドル。

『ドルファイヤー!!』

口から火炎を吐き、相手を燃やし尽くす。宇宙空間で炎と言うのは、地球の科学ではおかしいが、地球よりも進んだ面が大きいバード星では『当たり前』な光景である。ドルの援護を受けたヤマトからは、各種機動兵器が発艦していく。第7艦隊の救援のために。





――ハルトマンらは、第7艦隊の援護のため、群がる敵機相手に空戦を行う。ビーム兵器やレーザー兵器が使えるため、従来と違って『火力不足』にはならなかったため、果敢に敵艦にも挑む。

「空母を見つけたら飛行甲板を狙え!一機も飛び出させるな!!」

黒江は敵空母の発進口にライフルをぶち込み、内部の艦載機を破壊し、弾薬も誘爆せしめる。暗黒星団帝国型空母は、地球や白色彗星、ガミラスのそれと異なる構造で、あるものは『中央に一本の滑走路を持つ構造』、またあるものは『発進口から艦載機を射出』する構造を有する。その内の後者については、駐機中の敵機を破壊すれば、その衝撃で搭載弾薬も誘爆するという致命的な弱点があり、前者の空母よりも脆い。その為、歩兵サイズのビームでも、致命打になるのだ。

「各機は残弾を確認しつつ、敵機及び敵艦を相手しろ!全てを倒す必要はない、友軍と協力して、制空権を確保しろ」

「了解!」

黒江は一個小隊でできる範囲の戦闘を行い、それを指揮した。火力の都合上、対艦戦では、防御力に優れる戦艦は相手せず、空母や巡洋艦以下の艦艇に狙いを定めた。(この時に携行していたダウンサイジング火器は、黒江がZガンダム系のロングライフル、シャーリーがリガズィ・カスタムのビームアサルトライフル、智子とハルトマンは、ジェガンタイプのショートバレルライフルだった。)

ハルトマンと智子は、編隊の中でも一撃離脱戦法を重視するので、一撃で敵機に致命打を与えるように腐心していた。その為、エンジン部を狙い撃つなどの戦術上の工夫を行い、制空戦闘において、卓越した戦果を挙げる。

「これがコスモストライカー……。魔力増幅率もジェットより格段に上だわ……これならいける!」

智子は火力、機動性、防御力ともにISに劣らない高性能に仕上がったコスモストライカーにご満悦であった。武器はIS用のそれの流用であるので、ストライカー用としては、いささか大ぶりだったが、それを補って余りある火力は、彼女の辿り着いた一撃離脱戦術を体現するのに充分だった。リンカーコアの形成で、最盛期で固定された彼女の魔力を大きく増幅させたコスモストライカーは彼女に、故郷での部下である宮藤芳佳と同等レベルの防御力を与えていた。(逆に言えば、芳佳の潜在魔力量は時空管理局のエース級魔導師に匹敵する事でもある)

「あ、ヤマト艦隊の連中ね。防衛は成功よ、綾香」

「おし、ご苦労。みんな、今のうちにEパックを変えとけ。これからが本番だぞ」

「了解!」

――彼女らの奮戦のおかげで、ヤマト艦隊の艦載機部隊の増援まで、しゅんらん以下の艦艇を守り通す事に成功し、ヤマト以下の艦載機部隊が、ボロボロな第7艦隊所属艦載機隊に代わり、敵との戦闘を引き受ける。ヤマト艦隊の艦載機隊は、練度が地球圏最強クラスと言っても過言ではない精鋭中の精鋭であり、使用機材も真田志郎らの逐次改良で、性能向上がなされたため、暗黒星団帝国の兵器へ『赤子の手をひねる』かのようなキルレシオを叩き出す。また、宇宙刑事ギャバンの参戦もあり、一瞬にして、シリウス宙域は暗黒星団帝国兵器の『調理場』と化する。その中には、機材の都合上、コスモタイガーで出撃したドラえもんとのび太の姿もあった。

「ん?ドラえもんとのび太の奴も出てんのか?あのエンブレム、どら焼きか〜、あいつらしいな」

ドラえもんとのび太の駆るコスモタイガーの垂直尾翼には、どら焼きが描かれており、ドラえもんの好みが反映されているのが分かる。シャーリーはどら焼きのエンブレムがドラえもんの好みである事を看破し、微笑む。だが、ドラえもんとのび太の操縦技術はかなりの高水準で、プロの職業軍人のシャーリーの目から見ても優秀と判定するほどのものだった。

「それにしても、ドラえもんの奴、よくペダルに足が届いたよな……?」

そう。ドラえもんはコンプレックスにしてるほどに短足なのだ。シャーリーはそれに気づく。そんな彼女を尻目に、ドラえもんは意外に繊細なラダー操作を行い、敵機の背後からの銃撃を回避し、更に高機動バーニアを用いて、強引に機体を横滑りさせながら、背後を取るという、高度な戦術を取る。

「お、すげえ。あいつ、意外に高等戦術を使うんだな……。手慣れてやがる。でも、どこで覚えたんだ?あいつ、一応、子守り用だよな……?」

ドラえもんの本来の製造用途からはおおよそかけ離れた分野で、プロ級の腕を持つというのは疑問だが、ドラえもんの過去の冒険譚を聞いてはいたので、それを思えば納得ではある。

「のび太の奴も上手いな。動きは並だけど、射撃するタイミングが神がかってる。いっぺんに5機をやるなんて。射撃はのび太、操縦はドラえもんって感じだな」

のび太の射撃の読みは、自分達以上と認めるシャーリー。それだけのび太は射撃が卓越していたのだ。

「おっと、あたしもいいところ見せないとな。せっかくの宇宙戦だ。やらせてもらうぜ!」

シャーリーはビームアサルトライフルを駆使し、敵機を落とす。リガズィ・カスタムのもののダウンサイジングだが、形状は連邦軍制式小銃『AK-47』を想起させる。Eパックも同自動小銃の弾倉を模しているため、同小銃に慣れていれば、扱いやすい。

「ほんと、AK-47大好きな奴が設計したな、これ。ここまで形似せるか?ふつー」

と、ビームアサルトライフルの使い勝手はともかく、時代かかった外見なのを突っ込む。人類史上最多生産の小銃をリスペクトしたい気持ちはわかるが、細かい配置までもほぼ同じと言うのは『やりすぎ』と思うのであった。



――この時に第7艦隊が失った艦艇は無人艦が多いが、有人艦も損傷艦が多く、しゅんらんでさえ、通信装備を破損している有様だった。空母搭載機も着艦成功も、後に廃棄した数が全体の4割に達していた。

「第7艦隊の空母搭載機はかなりやられてるな……脚が折れたり、胴体着陸で翼が折れたりしてるコスモタイガーやブラックタイガーがあっちこっちの空母にあらぁ」

黒江は戦いをしつつ、星域にいる空母の様子を確認する。どのバトルキャリア(戦闘空母)の甲板にも放棄された機体の残骸が何機か転がっている。

『黒江中佐。こちらしゅんらん副長の古代守だ』

『黒江です。なんですか?』

『ヤマト艦隊に、こちらは増援を出せないと伝えてくれ。今、ハルトマン少佐にリレーしてもらって、全空母の搭載機の稼働状況を問い合わせたが、どの空母も修理機が多く、攻撃隊の定数を満たせそうにないのだ』

『それほど損傷機が多いのですか?』

『ヤマトに伝言を頼む、データリンクで把握しているだろうが、損傷機多数で、艦隊の防空隊の編成で手一杯だ。 そちらの部隊に敵本隊の攻撃を託す。 力になれず済まん、と』

『分かりました、伝えます。』

――多数の空母を有する第7艦隊だったが、これまでの激戦で、稼働機数はわずか30機に落ちていた。防空に必要最低限の数は残ったが、攻撃に兵力を裂ける余裕は無くなっていた。ヤマトの古代進は残念な表情を浮かべたが、元より一対多の状況に慣れているため、冷静さを崩さない。

『よし。黒江中佐、俺も行こう』

『え、艦長代理が出ちゃって大丈夫なんすか?』

『真田さんと島に任せてある。それに神通くんが戦闘システムをコントロールしている。俺が出ても大丈夫さ』

『そうか、神通が乗ってるんすね?あいつ、最近見ないなと思ってたら、そっちに出向してたんすね』

そう。ヤマトには神通がいるのだ。第二水雷戦隊の旗艦を張っていたため、凛々しめの外見相応に砲雷撃戦にめっぽう燃えるのである。これは史実での最期の海戦がメンタルに強く影響を与えたためで、神通は現在、戦闘副長席で、ヤマトの戦闘システムをコントロールしつつ、ヤマトの砲塔要員に檄を飛ばしているが、何か思いついたようで、島に意見具申する。

「機動戦で敵艦隊をかき回しましょう。島さん、舵を頂けませんか?」

「流石は華の二水戦。外見に似合わず、大胆不敵な事を考えるもんだ」

「姉や妹からも、よく言われます」

神通は島へ微笑み、この一言を言う。島が古代へ了承を求め、古代は了承する。神通はこの時、コロンバンガラ島沖海戦の時以来の高揚感を感じていた。しかも自らが、戦友である大和の後身とも言える宇宙戦艦で戦うという、連合艦隊としての奇妙な巡り合わせなのだ。これには昂揚を感じずにはいられない。神通は戦闘班長席に座る。女性としては初の快挙でもあった。

「神通くん、舵を渡すぞ!」

「舵、いただきました!」

神通が戦闘班長席に座ると同時に、神通に呼ばれた重巡娘の鳥海(高雄型三妹)が砲術長席に座る。

「砲術は私に任せて下さい。神通は操艦に専念して!」

「分かりました!古代艦長代理のコスモゼロの発艦後、援護射撃終了と同時に最大戦速!敵陣をかき回します!山崎機関長、波動エンジンの調子は?」

「エンジンの状態は良好です。いつでも最大戦速を出せます」

『全艦に告げます。我が艦隊は突撃隊形で敵陣をかき回します!……今です、全艦、突撃!!本艦に続いて!!」

神通はヤマトと艦隊を操り、水雷戦隊流の突撃を敢行する。ヤマトはミサイル兵装も充実しているため、神通の戦い方がそのまま適応できるという幸運、鳥海の熟練した砲術もあり、ヤマトは艦隊の先頭にいながら、被弾しない。神通はこの時、『微笑った』。これは数百年越しに、『レーダーに葬り去られた前時代の遺物』とさえ揶揄されていた二水戦の雪辱と言わんばかりに。月月火水木金金を謳われた二水戦の血は、神通の戦闘本能を呼び覚ましたようだ。


――二水戦の血が騒いだか、普段と打って変わって、不敵な微笑みすら見せる神通。鳥海はそんな神通をサポートしつつ、砲術を披露する。鳥海の砲術、神通の度胸ある操艦と雷撃戦は、歴戦のヤマトクルーも唸るほどの出来栄えで、医務室で腹痛に倒れ、唸る南部康夫はそれを佐渡から聞かされ、思わずいきり立って、『本当なら、俺の見せ場なのにぃ〜』と悔しがったとか。



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