ドラえもん のび太とスーパーロボット軍団 第二部


――パルチザンに参加した坂本は回想していた。まだ、グランウィッチとなる前の1940年の事だ。当時はウィッチのキャリアが絶頂に向かっていった昇り龍だったので、無敵を自負していたのだが、当然ながら、天下無敵のレイブンズのようにはいかず、部下から再起不能者を出すことも珍しくなく、部下の家族から『傷物にした』と叱責されるのも当たり前だった。軍隊である以上は当たり前だったが、当時はレイブンズの偉業を意識すぎており、それが当時の坂本には重荷だった。

「あん?リバウの時の写真か?」

「黒江か。今回はマリア・カデンツァヴナ・イヴの姿を借りているんだったな」

「まっ、調のホームシック対策もあるけどな。で、急にどした?昔の写真なんてよ」

「ああ、実はな。今からすれば大した事はないが、若い頃はお前らの後継になることを周囲の誰もが期待していたし、海軍上層部もそれを求めていた。この時期は、義子がグランウィッチでなければ、死んでいた局面も多かったからな」

「上は、お前らが無敵だってプロパガンダしてたけど、実際はそうでないからな」

「ああ。零式が新鋭機だった時代の40年ですら、かなり負傷者は出てたし、私らは義子以外、超常的な事象を巻き起こせるわけでも無かったしな」

「上から叱責が飛んだのか?」

「お前らみたいに、一人で大陸を統べられるほどの力があるわけでもないし、いるだけで勝利が約束されていたわけではないからな。出来たのは義子だけだよ」

黒江達は好き勝手大暴れして、『一人で大陸を統一できる』とまで謳われる伝説を残したが、舞台の役者が次世代である坂本達に入れ替わった大戦初期、クロウズは苦戦もままあり、真の意味で無敵を自負できるものは西沢一人であると、黒江へ吐露した。西沢は当時の時点でグランウィッチとなっており、黒江を『姉御はあたしの師匠のようなもんさ』と形容して、関係を仄めかしていたのを思い出す。

「今からして思えば、あいつは私達を護るために、グランウィッチとしての力を奮っていたのかも知れん。お前らが檜舞台に戻る日までな」

「それは適当じゃないな。若本もグランウィッチだぞ、その時点で」

「なにィ!?」

「ちょうどあいつが南方に赴任してた時期だったかな?グランウィッチに目覚めたって電話してきたんだよ。そしたら『ずりーぞ!最終的な技能でやり直ししてたなんてよ!』って怒られた。アイツを散々に揉んでやってたのを、少なくとも二回はやったから、その分怒られたぜ」

「あいつにしてみれば、一回は『分かっててやられた』って気持ちだろうし、扶桑海の頃は新兵だ。あの時点で限界突破していたお前らに遊ばれたのが悔しかったんだろ?」

「そう言えば、あいつ。ガキの頃から負けず嫌いだったな」

「ああ。醇子と違って、あいつはお前らに遊ばれる度に食い下がったろ?」

「覚醒を感情的な要因で制御できなくなって暴れた時は、智子が処理したかんな。アイツはガキの頃、後先考えずに突っ込む癖あったしな」

「今は菅野がそれを継いでるけどな。あの当時、お前らが好き勝手するもんだから、江藤さん、大いに困惑してたぞ?お前らがヤンチャしまくってるもんだから、どうすればいいかって」

「あん時は暴れまくったからなー。多分、江藤隊長のノートには撃墜記録だらけになってると思う。ああいうとこ几帳面だし」

「あの時、江藤さん。大先輩方にカチコミ食らって、積尸気冥界波食らってたぞ」

「若松の姐さんだな、それ。姐さん、蟹座で、積尸気使えるしなー」

「あの人、キャンサーなのか」

「ああ。その気になれば魂も消滅させられるぞ、若松の姐さん。まっつぁんより荒っぽいしな」

「その時、江藤さんに『儂の顔に泥を塗るつもりか、童?』とか言って脅して、江藤さん泣いてたぞ」

「黄泉比良坂に落とされればなぁ。可哀想に」

若松は、赤松と違う方向性で後輩に恐れられており、積尸気冥界波で黄泉比良坂に落として、文字通りに地獄を見せる手法で制裁を加える、恐るべき戦士である。彼女はデスマスクの後釜の蟹座の黄金聖闘士でもあり、その戦闘力はデスマスクを超える。デスマスクでは不可能な、魂を消滅させる奥義も使用可能であり、黒江と智子に聖闘士としてのサイコキネシスなどを仕込んだので、師の一人にあたる。彼女は当然ながら、当時の時点ですでにグランウィッチであり、レイブンズの振る舞いに寛容であった。何とかして押さえ込もうとした江藤を咎めたのも、レイブンズが神になっている事を知っていたからだった。

「なんか可哀想になってきた。孔雀座と蟹座って、すごい組み合わせだぞ…」

「今ならわかるから言うが、うん。可哀想だと思ったよ。今にも失禁しそうなくらいにブルブル震えてたし、思い切り泣いてたし、孔雀と蟹の幻影が浮かんでたし」

「白銀最強格と黄金に睨まれたら、普通は失禁間違いなしだが、隊長は持ちこたえたのか」

「ただ、顔から出すのは全部出ていたがな……。後で、私に見られたのに気づいて、呼び出されて、口止め料にクリームソーダ奢ってもらったよ。ウラジオの百貨店で」

「隊長……」

「件の直後、技能維持訓練飛行があるからってすぐに席を立ったから、もしかすると…」

「……だろうなぁ。クソ、あそこのクリームソーダ、滅多に飲めなかったんだぞ」

「そこか!……ははん、お前、縁日でのかき氷でもメロンシロップ選ぶタイプだろ」

「うっ!ど、どうしてそれを」

「だいたい想像はつく。私やお前が子供の頃はバナナでさえショーケースに入っていた。中産階級の私やお前の実家では、メロンを三時のおやつにするなんてのは不可能だ」

「当たってやがる……くそぉ〜」

黒江は図星だった。子供の頃に、長兄が仕事先から送ってくるメロンが楽しみだったため、大人になっても、メロンという響きに弱い。これは二度、転生しても同じであるため、坂本にズバーと指摘され、タジタジであった。また、小学高学年の時に某有名百貨店の食堂に次兄が連れて行ってくれ、そこで飲んだクリームソーダの思い出もあるため、クリームソーダ大好きになったという事も告白する。

「……ガキの頃、二番目の兄貴が、デパートで買い物した帰りに飲ましてくれたんだよ、く、く、クリームソーダ……」

「ハッハッハ!そうか、そういう事か。お前、意外に可愛い趣味もあるんだな」

「いーだろ!別に!」

「まあ、そう膨れるな。日本のメロンでも食うか?」

「って!マクワウリじゃんかよー!」

「青肉系メロンはマクワウリと交配したの多いし」

マリアの外見を取っているため、コミカルさが前面に出ている黒江。

「あ、山本提督からだ。長門にクリームソーダ奢ってやったとか、写メールしてきた」

「おっちゃん〜!」

山本五十六からの写メールには、嬉しそうにクリームソーダを飲み干す長門と山本五十六の姿が写っていた。自分の連合艦隊司令長官在任時の参謀長の宇垣纏に撮らせたらしい。山本は当時、赤城、加賀、長門と陸奥、それと大和を自分の邸宅に住まわせており、意外に海軍大臣、そして初代国防大臣生活を満喫していた。加賀がいるのは、空母としては赤城とセットだからで、ウィッチ世界では戦艦だが、艦娘としては空母なので、艦長経験者らを大いに悔しがらせたのは言うまでもない。加賀の歴代艦長は『なんで俺じゃないのだ』と、皆が大いに嘆いたとも伝わる。

「あ、続きだ。この文面は加賀だな」

「どれどれ。ぬぬぬ……加賀の野郎、美味しいの食いやがって」

加賀が自慢してきたものが何であるか。少なくとも、黒江の大好物なのは確かだろう。

「あんにゃろー!抜け駆けしやがって〜!」

膨れる黒江。と、そこに。

「あ、いたいた。おーい、あーや!」

「ガイちゃんか。何だ?」

「しらべの友達のきりかが来てるよ」

「あいつ、とうとう我慢できなくなったな?朝潮と葛城みたいな声してるから、聞き分け覚えんと…」

「揉んでやれ。お前が成り代わっていた子を求めて、お前に迷惑かけたのは事実だからな」

「ああ。調に依存してるからな、あいつ、聖闘士志望らしいから、揉んでくる」

ガイちゃんの案内で内火艇の格納庫に行くと、切歌がいた。保護者として、マリアもついてきていた。

「マリア、お前も来たのか?」

「私の姿を取っていたんですね?」

「あー、ちょっと待て、外見変える」

声を変えるのは面倒くさいらしく、箒の姿に戻した。

「挨拶は済ませたのか?」

「この子を連れて行くところよ。切歌がどうしてもと聞かなくてね」

「なるほどな。老師がワガママ娘と仰られたはずだ」

「そ、それは恥ずかしいからやめてデス……」

切歌は黒江に迷惑をかけた自覚があり、黒江には頭が上がらない様子を見せた。これはフロンティア事変の折、思い込みから、黒江にイガリマで斬りかかった事が何度もあり、しかも話を聞かずに絶唱を使い、殺そう(調を取り戻すつもりだったのだが)とした事もあるからで、味方になってからも、何かと突っかかっていたからだろう。

「貴方がまさか、アガートラームを使いこなせるなんて思わなかったわ、黒江綾香」

「私は神格だしな。聖遺物の違いはどうという事はないさ。調の戦闘記録は見たか?」

「ええ。まさかあの子がエクスカリバーを使うなんてね…。行く直前に届いたのだけど、翼が悔しがっていたわよ?」

「ん、なんでだ」

「貴方が翻弄してたのを思い出したからじゃないかしら。翼、負けず嫌いだし、あれで」

「あのガキとは年季が違うぜ、年季が。こちとらプロだぜ、プロ。免許皆伝だし」

「後で、私とも手合わせお願いできるかしら。」

「分かった。驚いたろ?出迎え」

「驚いたわ。旧日本海軍の軍服を着込んだ将校が迎えにきたもの」

「ウチは今、扶桑陸海空軍、三自衛隊、連邦軍のごちゃ混ぜでな。少なからずが自衛隊だったり、扶桑軍の軍人たちだ。自衛隊の隊員が出払ってたから、海軍軍人を行かせたんだ。陸軍軍人だと悪目立ちするしな」




――扶桑陸軍は、軍服と戦闘服を分けるかで連邦結成後も揉めていた。これは扶桑陸軍はプロイセン軍の影響が大きいのに対し、陸自は小さなアメリカ陸軍であるためであり連邦結成後も『妙にポジティブな陸軍と、ネガティブな陸自』とに意識的な溝があったため、パルチザン内部でも対立していた。これは陸自がアメリカ軍によって構築されたがため、帝国陸軍との関係を表向きは否定された事、長らく内務省出身者が実権を握っていた事もあり、気風が全く異なるのが要因であった。連邦結成に反対した勢力に、陸自の背広組が含まれていたのも、数の多い陸軍に飲み込まれるのを恐れたからだ。それに、政府が軍組織を完全に統一しなかったのは、片方に編入させる形で巨大化させるのは無理がある上、どうあがいても625万の陸軍軍人を食わしてゆくほどの財政の余裕は、日本政府にないからだ。軍組織の統一が頓挫した本当の理由は、『45年当時の日本軍を飲み込むのは、日本の財政的負担が大きすぎる』と、財務省が反対したこと、『統一後の東ドイツ軍の将兵らの少なからずが裏社会に堕ちていった』事実を鑑みた総理大臣同士の会談の結果だ。双方の組織が共存したのは、ドイツ軍の統一は失敗と言うべきで、西ドイツ軍は、東ドイツ軍の元軍人を退役軍人と認めていないという互いの対立という事実からの教訓だった。『下手に統一し、片方の軍備を処分する事で不利益をもたらすよりも、上部統制組織を一本化する事で共同軍とする』。これは日本の軍備の巨大化を恐れたアメリカ・中国も推奨する道だった。怪異戦に興味がない米中もそうだが、日本も怪異との戦いで戦死者が出ることを嫌がる世論がやはり存在していたため、扶桑軍の任務に深入り出来ないという政治的事情があったからだ。もちろん、太平洋戦争に『巻き込まれる』事での戦死者の取り扱いも協議されていた。軍隊の事実上の復活がなされたためだ。これは扶桑の靖国神社が『戦前の靖国神社』そのものであった事に由来する。(黒江達は死後、そこに祀られた事で昇神した)これはややこしいが、日本の野党が日本側の論理を扶桑側の靖国神社に押し付けようとするであろう事を警戒しての事だった。日本政府は『同じ名前の別個の組織があるだけ』とする見解を用意していた。これは扶桑の靖国神社は平行世界の別の存在であり、祀る対象も軍創立以来の歴代ウィッチ(女性)が含まれているからだ。更に、ウィッチ世界の扶桑は飛躍の社会的背景に女性が関わっている。近世では、森蘭丸が女性であり、魔女だったという歴史的背景がある。歴史的に女性が高い社会的地位に登りつめられる、近代でも軍人になりにさえすれば、高等教育が無償で受けられる社会だ。良妻賢母教育もなされていたが、軍人になった者はそのまま職業軍人で居続ける方が好意的に見られる国でもある。(その辺は扶桑独特の風習で、芳佳が軍人でい続けた事を、前史でリーネは不思議がっていた。最も、今回の芳佳は角谷杏でもあるので、前史以上に両立させることは容易に想像できる)その為、パルチザン内部で三自衛隊と扶桑軍はギクシャクしており、その間を取り持つのが、彼らの子孫である地球連邦軍という光景が出現していた。黒江はその辺りを憂慮しており、マリアたちの出迎えに、扶桑海軍軍人(自分らの信奉者であるが)を送ったのだろう。

「ところで貴方、私の容姿で何かしてないわよね?」

「それなんだが、それは遅いと言うべきだな。調が寂しいと言うもんだから、添い寝してやったんだけど」

「そ、それならなんとか……」

「何か問題が?」

「雪音クリスや立花響から聞いたけど、貴方、調に成り代わっていた時の『合流前』、シンフォギアを纏ったままで、好き勝手していたそうね?」

「ギアの展開時間の制限がないからな。それに逃げ出す時、着の身着のままだったし、そのままでいたほうが金の節約になったし」

「なぁ!?」

「な、なんデスと!?」

「金が貯まるまでは、ネットカフェで寝泊まりしたり、バイト場で寝泊まりしたな、ギア姿で」

「なぁ!?よく出来たわね」

「後で当人に怒られたけど。ネットカフェのシャワーで下着だけ交換すれば服代節約できるしな」

黒江が成り代わっていた時期はかなり長く、その時間内の際、黒江は生活費の工面のため、ギアをシャワーか風呂、用を足す時以外は展開したままにするという手法で節約していた。存在が聖遺物を超えているからこそ可能な芸当であり、ギアのカラーリングが適合率の高い『白』中心のカラーリングだった事もあって、響もクリスも、何度かパンや飲み物を抱えながら移動する黒江を遠目で目撃したのにも関わらず、確信には至らず、何度か見過ごした経緯がある。確信に至ったのは、捕まる直前、響らが通う学園の文化祭のカラオケ大会に出た上、優勝を掻っ攫った事でだ。(歌ったのは、シンフォギア世界にはない『eternal reality』、『only my railgun』、更にフェイトの声色を使って『禁断のレジスタンス』であった)からだ)『禁断のレジスタンス』の際には翼が取り乱すほど、自分の声にそっくりであった(フェイトの声色がそれだけ似ていた証)。更に、ギアが生成するメロディを明らかに自己制御していたため、それも二重の驚きで、ある意味ではシンフォギアの平和利用と言える。

「それと、貴方はシンフォギアの機能にまで干渉して、カラオケで使ったそうね?翼が私にボヤいていたのよ」

「へえ、どんな?」

「曰く、『黒江女史が私の声色で歌い上げていた時は我が耳を疑った。それに、ギア姿でッ!私も許されていれば、歌いたかったぞッ!』って」

「あいつ、アーティストだったな?」

「私よりキャリア長いから、あの子。それもあってライバル心あるみたいで」

シンフォギア装者は極秘の存在であった。それを知らぬ黒江の行為は、立場上、人前でギアを纏えぬ翼の心に火をつけた。この事以来、翼は黒江に剣技で勝とうとして、あえなく負けるなどしており、名前が同じ事もあり、未来で持つ自分の義娘と重なったのか、黒江から『背伸びしたガキ』と見られている。

「あいつのそういうところ、私の娘に似てるんだよなあ。未来で持つ、義理の」

「あなた、娘さんを?」

「三人いた兄貴の内の三兄の孫を引き取ったんだよ。そいつが私にとっての後継者で、家の当主の継承者だ。お前らがいる時代には30位になるな」

「なるほど。直系でないにしろ、子孫はいるのね」

「いるよ。私の家は、私からは聖闘士も兼任するから、嫡流だからって継承権は持てるとは限らないんだ」

黒江家は聖闘士も兼任するようになるため、綾香自身がそうであるように、その家の末席であるものに強い才覚が生じ、その者が次代当主になる事が風習として存在した。長兄が綾香に太平洋戦争後に家督を譲ったのも、その為だ。


「聖闘士、か。貴方は冥界にも行けるのよね?」

「ゼウスともタメで話せるから、ゼウスの口からお前の妹に伝えてもらうよ。冥界に世界の壁は関係ないしな」

「嘘……」

「いや、仕えてる神がアテナだし、それはな。それに仕事抜きなら、単なるスケベオヤジだし。」

冥界に眠るマリアの妹『セレナ』。享年13歳。生きていれば、18歳から19歳である。ゼウスは仕事以外ではエロオヤジであり、黒江の頼みは無条件で聞いてくれる。ハーデス死後のゼウスの権能であれば、死者に肉体を与えて現世で行動できるようにするのも容易だ。

「え!?冥界ってハーデスの領分のはずじゃ」

「そのハーデスが戦に負けて、肉体が滅んで、冥界の秩序が崩れそうになったから、ゼウスが兼任して維持してるんだ。善人であれば、生き返れるチャンスもある。後でうすら格好いいにーちゃんか、おぢさんが来るかも知れないから注意しとけよー」

ゼウスは善人には総じて寛容であり、先代黄金聖闘士を幾人か蘇らせたのも功績によるものだ。これが自身の元々の姿がマジンガーZであることに由来している。ただし、パイロットの甲児の浮気グセが伝染ったか、神話の通りの絶倫ぶりであり、話をしたら、セレナに手を出す事も考えられたからで、それに気づいたマリアは怒気混じりのオーラを出しながら、こう叫んだ。

「例えオリンポスの最高神でも、私の妹に手を出すのは許さないわよ―!」

「いや、お前の妹死んでるやん」

「あの子は死んだ時で13歳よ!死んだ子の年を数えたくないけれど…」

「落ち着け、冥界で肉体のまま動けるのは限られた存在だけだ」

「よ、良かった…」

「むしろ返事を届けに来てお前に手を出す可能性が高いな」

「!?」

「あ、マリアがオーバーヒートデス!なんてこと言うんデス!」

「事実だよ、事実。あの親父には貸しがある」

さらっと重大なことを言う黒江。ゼウスの相手を前史でした経験を持つため、それを貸しにしてることを明言もする。ゼウスが黒江に甘いように見えるのは、『神の相手をした』のを貸しにしているからだと。ゼウスも、娘のアテナの配下に手を出したのがバレると威厳がアレなため、貸しを作ってしまったのは後悔している。

「あーやも何気に顔広いねぇ」

「阿頼耶識に目覚めてるから、冥府にいる明治の元老達にも会えるしな。山県有朋には会ってきたよ」

ガイちゃんに言う。連邦結成に文句を言う陸軍の高官を黙らせる大義名分を得るため、阿頼耶識を使って、扶桑陸軍創設メンバーである元老『山県有朋』とゼウスを介して話をし、『山県有朋公の遺言』という形で黙らせている。扶桑軍過激派の暴走を抑える最良の手段は『国軍を作った世代の人間の威光を使う』事である。山県有朋は国軍の父であり、竹井の祖父の志願時、既に高官だった。元老中の元老ともされる彼の言葉は、陸軍最強の錦の御旗である。黒江は阿頼耶識を使い、彼と対面(黒江との対面時は壮年期の姿を取っていた)し、隠されていた遺言という形でそれを現世に伝え、過激派を霧散させた。山県有朋も、現世から会いに来た黒江に『ワシなどでなく、なんなら信長公の言葉でも言えばどうだ?』と大笑している。生前に敵が多かったのを自覚していたらしい。が、自分が死んだ後の陸軍の進路を案じていたらしく、大日本帝国の敗北は『起こしてはならんのだ』という悔恨も見せた。その為、扶桑皇国には『大日本帝国の末路を辿らすな』と強く要望していた。それが今村均大将らに伝えられたのは、この一日前のことだ。

「混乱するんじゃない?」

「山県公の遺言が『現在進行系の言葉』なんて、私らの事情知ってるY委員会のメンバーしか信じないよ。表向きは『最晩年に書き残していた遺言』で通してる。そのほうが主流派も過激派も黙るからな。山県公に『変化を怖れるべからず。現状に満足するな。 国防に此で善しは無い』って言葉を考えてもらって、私が生まれる時代、最晩年の山県公の家に置いたんだ。もっともらしいし」

「すんごい工作」

「まぁ、冥府にいる人の力でも借りねぇと、ウチの陸軍は言うこと聞かない野郎多いからな」

「凄い会話ね、あなた達…」

明治の元老の力も借り、扶桑陸軍の手綱を握る黒江。Y委員会の設立メンバーとしての初の働きがこれだった。先輩の若松に頼み、冥府にいる元老に面会しに行く事も企画するなど、荒っぽい手法で軍の手綱を握っていくY委員会。山本五十六が残す最大の遺産と言えるY委員会は、デザリアム戦役にも絡んでゆくのだった」



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