ドラえもん のび太とスーパーロボット軍団 第二部


――切歌は思い出していた。魔法少女事変の最終局面で現れ、物理法則無視で世界の理すら捻じ曲げた魔神のことを。ギアでも錬金術でもない、聖遺物ですらない、とびっきりの科学力で生み出された『兵器』でありながら、神と謳われるだけの力を発揮したのだから――

(あのロボットはマジンガーZの後継機種の一つだっていうけれど……なんなのデス……あの強さは。錬金術も、神様の奇跡もねじ伏せるなんて……)

Gマジンカイザーは『皇帝』の名を持つため、当然ながら、より上位のマジンガーであるマジンガーZERO以外は傷つけられない強度の装甲を誇る。光子力反応炉の膨大なエネルギーによるパワー、慣性の法則無視の機動力など、惑星を破壊できる威力を誇る。が、これでもマジンガーのカテゴリでは第二位の序列に属し、まだ上がいるのだ。挨拶を済ませて、割り振られた部屋でその事を知るため、データベースにアクセスしてみると……。

「これがマジンガーZの兄弟達……。マジンガーZ、グレートマジンガー、ゴッドマジンガー……、マジンカイザー……」

ZEROが認めなかった、マジンガーの発展の仕方。グレートのデザインを基に、更に強そうな外見になっていく『正常な進化』。兵器として見るならば当然の事だが、ZEROはマジンガーZが最強である『偶像崇拝』のような感情を持っており、ZEROを突然変異と位置づけて考えると、ZEROはマジンガーの異端児と言えるモノで、正常進化の究極であるZマジンガーやゴッドに勝てないのも当然のことだ。

「いったい、この世界はどうなってるデス?いくら戦争が起こりまくっても、こんな化物を生み出せるものデスか?」

「切ちゃん……来たんだ!」

「調!」

切歌が来たことを知り、調がやってきた。顔を合わせ、二人は瞬時に抱き合う。本来、二人一組のユニット扱いだったが、黒江が調に成り代わってからは、調単独で黒江に呼び出される機会が増加した事、調が聖闘士志願で正式に候補生になったのもあって、ここ最近はそうで無かったため、二人は久しぶりに旧交を温めたいのだが、そうもいかなかった。

「お、こいつがお前のダチか」

「調、このド迫力の人は?」

「あ、えーと、私の師匠の一人で、加東圭子大佐。今は変身で姿変えてるから、怖そうだけど、本当は温厚な人だよ。戦闘以外じゃ」

「戦闘以外って……」

圭子は修行をつけるため、レヴィの姿を取っており、口にタバコを咥えていた。ベレッタM92を右手に持っていたり、纏う雰囲気が普段の温和なそれでなく、外見通りのトゥーハンドな戦闘狂のそれであるので、まだ10代半ばの子供である切歌は自然と冷や汗をかいていた。

「綾香さんと同類の人って事デスか?」

「正確には、そのお目付け役だ。アイツより私のほうがもっと年上になる。生まれは大正8年、つまり1919年だ」

「!?」

「んなカタくなんな、緊張も過ぎれば毒になるからな!」

圭子も外見に引っ張られる傾向があるため、口調が普段より荒々しく、レヴィそのものになっている。手に持つ銃のおかげもあり、調と全く関連性が結びつかない。切歌にしてみれば『出る漫画違うデス!』とも言いたくなるほどだ。

「で、でも、この人から何か教わる事あるデスか?調はギアがあるから、意味ないような……」

「いや、師匠から受け継いだ銃のスキルをモノにしないといけないし、その関係で」

「なッ!?」

「アイツのスキルを引き継いだと言っても、咄嗟に出るものでもないからな。アタシが鍛えてんのさ。これでも二丁拳銃(トゥーハンド)の異名持ちだしな」

「と、トゥーハンド!?それに、銃って、人殺しの道具じゃないデスか!そんなのいるんデスか!?」

「軍用銃は殺すより死なせずに傷つける事に腐心してるんだよ?それに、レーザー銃より実弾の方が加減するのには向いてるし」

「散弾銃にもゴム弾あるしな。あれをシンフォギアに撃ってみたが、効いたろう」

「あれ、痛かったですよ、ケイさん…」

圭子は実験も兼ねて、23世紀最新の暴徒鎮圧用のゴム弾をシュルシャガナのシンフォギアへ撃ってみた。すると、肉体にはダメージはないが、かなり痛いというのが判明した。これはゴムが物理的に衝撃を与えるからで、いくらシンフォギアを纏っていても、痛いものは痛いのである。23世紀で開発された対装甲衝撃弾というモノも実験された。装甲服を着込んでいても衝撃を与えられるように工夫がなされているため、クラステクターやソリッドスーツ越しでもかなりの痛みを与えられる。その最新型を撃ったため、シンフォギアに効くのは言うまでもなく、調はかなりの痛みで五分も蹲っていた。生身であれば死傷する威力の対装甲用に位置づけられる特別な弾頭だ。

「それに、パワードスーツ鎮圧用まで撃つなんてひどいです。あれ、思いっきり痛かったんですよ?」

「23世紀の最新型だからな。何事も特訓あるのみだぞ」

よほど痛かったらしく、圭子を見る目が恨めしそうだ。

「なに、痛い以上はないから、このショックスタナーなら」

「うぅ……。そうだ。切ちゃんも……」

「へ!?」

道連れにするつもりらしく、調の目がギラリと光った。これは元の性格であれば、おおよそありえないが、黒江の影響で、性格が黒江に近づいたらしく、師に似たらしき行動を見せることが増えた。今回の場合もこれであった。

「い、いやぁ〜〜!」

「まっ、諦めな、ガキンチョ」

圭子は片手で切歌を引きずって、トレーニングルームに連行してゆく。切歌はイガリマのギアを咄嗟に展開して抵抗したが、圭子のパワーはそれすら意味のないほどのもので、打ち込んだアンカーを腕力でズボッと抜いて、そのまま連行していった。実は黒江以上のパワーであるために可能な芸当であり、ジタバタする切歌(ギア展開済み)を鼻歌混じりに引きずれる。ゲッターロボに乗っているため、腕力ではレイブンズ最強である。その為、切歌を引きずることは容易だった。この後、圭子に実験材にされ、トレーニングルームに切歌の悲鳴が響き渡ったという。





――こちらはのび太の部屋。のび太は大長編ドラえもんモードに入っていて、凛々しい側面を見せているが、戦い以外では普段と変わらず、黒江やガイちゃんと一緒にマカロニ・ウエスタンを視聴していた。黒江は少女期の性格がのび太に近い性質のものだった過去があるため、のび太とは良い友人同士で、のび太が成人しても変わらずに親交がある。(しずかとは、少女趣味すぎて、同性なのについていけないとのこと)黒江は少女期の反動か、男性的な趣味に、青年期からは傾倒しており、女友達より男友達が多い。数少ない女友達も性格が男性的だったり、自分に似た性格になった弟子などが含まれているため、黒江は小学生時代と違い、女同士の輪にいることはまずない。所謂、『漢女』枠だ。その事もあり、つるむのも男性陣(ドラえもん含む)であった。ガイちゃんは黒江が自分から絡む数少ない女子だが、ガイちゃんも熱血漢であるため、黒江と同類なので、女子枠には入らない。

「よっしゃ、勝ったぞ〜!」

フランコ・○ロ演ずる『ジャンゴ』がガンプレイを見せるシーンで盛り上がる一同。のび太のセレクトは渋い映画も多く、『アラン・ド○ンの怪傑ゾロ』、マカロニ・ウエスタン三大スターの各映画、『ウエスタン』などの渋めのコレクションである。これは青年期以後の時代で買い揃えたもので、子供の頃の財力では無理である。また、子供の頃は、母の玉子が定期的に捨ててしまうため、黒江が自分のだと言って買い与えていたりする。(玉子は基本的に、のび太やドラえもんのものではない場合は捨てないため)玉子は『成人すれば好きにさせる』方針だが、子供のうちはある一定の管理が必要と考えており、そこがのび太に恐れられる要因だった。ドラえもんの道具も捨てた事があり、そのこともあり、黒江達を隠れ蓑にして、集めていた。玉子は実家ががけして裕福ではなかったため、結婚後も、夫の道楽や息子の遊びには厳しかった。それが原因で宝くじの当たりクジを逃した事もあるため、夫の宝くじ趣味には寛容になったという経緯もある。(その後に、のび助は100万円を当てた事がある)2000年に達すると、のび太はドラえもんや黒江の手を借り、欲しい玩具やDVDを買ってゆく手法を取っており、流石に玉子も諦めている。これは黒江と圭子が『断捨離にはまって家族の物まで捨てちゃうタイプ』と推察したためだ。のび太の父方の祖母の命日が近いある日、のび太のおばあちゃんとの思い出のクマのぬいぐるみを捨てそうになった(玉子は言われて思い出した)事で、のび太が家出した時には、圭子が見かねて、玉子を叱責している。それを知ったのび助も玉子を叱責している。玉子は義母の優しい性格がのび太の人格形成に大きな影響を与えた事は知っているが、母親の自分より慕っていたことに対しての複雑な気持ちを吐露し、『そんなつもりは無かった』と詫びている。のび太が10年近くたった今でも、祖母の死を引きずっている事にはショックを受けている。玉子は世代的に、受験戦争華やかりし頃に高校に入った世代であるため、戦中〜戦後直後の緩やかな教育を受けたのび助の母とは考えが違っていた。それがのび太と玉子との不幸と言えた。のび太は赤子の頃から何事も半歩遅れているという事を思い出したのだ。圭子にとっては、玉子は下手すると孫に当たるやも知れぬほど、年齢差がある。その事は当然ながら隠していたが、不思議な説得力があったという。

「なぁ、ケイから聞いたんだが、お前のかーちゃん、激しすぎね?」

「母方のおばあちゃんが教えてくれたんですけど、曰く、『癇癪玉の玉子』って言われてたくらい、怒りっぽい性格ですから」

「なーるほどな。だいたいわかった」

「どこのディケイドです?」

「お、トレーニングルールの様子見てみたんだが、遊んでるぞ、ケイのやつ」

「どれぞれ」

端末からアクセスして、映像で様子を確認すると、切歌が衝撃弾の実験材にされて悶えていた。今の調ほど頑丈でないのが運の尽き、あまりの痛みで悶え苦しんでいる。圭子はタバコを加えつつ、散弾銃を片手に笑っている。

「どうだ?暴徒鎮圧用の最新型銃弾の威力は?ええ?」

「痛いデス!シンフォギアを展開しているのに、こんな……まるでボクサーに腹パンされたみたいデス…!」

「さて、もう一発……」

「じ、冗談じゃないデス!もう我慢の限界デスよ!」

「お、戦う気か?」

「伊達にイガリマの装者じゃないってところを教えてやるデス!綾香みたいに聖闘士じゃないんなら……」

「甘いな。私もトゥーハンドと渾名されてるんでな。お前のようなガキに遅れを取るかよ」

その瞬間、イガリマの鎌を狙い撃ち、命中した衝撃で鎌をふっ飛ばしてみせた。圭子一流の二丁拳銃である。

「悪いな。シンフォギア持ってるくらいで優位に立てるほど、あたしは弱くないんだ」

「今の二発だけで、どうやって!?」

「当てる場所を工夫すればいい。あいにく、私は格闘じゃ、お前の得物には不利なんでな。さて、その真髄を味わってもらおう」

「!!」

切歌がこの後、どのような目にあうか。黒江は思わず『スプラッタになるぞー』と目を逸らす。そして、次の瞬間。圭子はベレッタにスタン弾を装填し、密着させる形でぶち込んだ。シンフォギア越しでも通じるように強めのパワーのを。結果。

「あ、あ、あああぁあああッ!?」

バチッと電流が走り、その場にへたり込む。サイボーグであるデザリアムの兵士を気絶させられるくらいのパワーのスタン弾を当てられた切歌は、シンフォギア越しであったのが幸いし、気絶は免れたが、地獄のような苦しみを味わう羽目になった。物理兵器に強力な耐性があるシンフォギアだが、流石に接射のからの強力スタン弾の効果は防御しきれなかった。黒江のサンダーブレークもそうだが、意外と電撃系攻撃はダメージが通るのだ。

「ほれ、残りの全弾持ってけ!!」

「ち、ちょっとぉぉ……ああがぉがぁああああ!?」

この点、サンダーブレークで、一瞬の苦しみで済んだ翼は幸運と言えた。

「せめて半分くらい避けろよぉ、ったく!」

「無理無理無理デス!!あんな接射で躱せるれるはずがないデス!」

「あの子は避けたぞ?」

「調が!?なんで!?」

「綾香の影響でセブンセンシズに到達しつつあるんだろう。弾丸が撃ち出される一瞬のタイムラグの間に、セブンセンシズを活用すれば弾は当たらん。それに、聖闘士なら半分以上避けて残りを弾くのが最低ラインだからな?」

「嘘ぉ……」

「まっ、銃弾は手段の一つだ。あたしの得物はこんなのもあるんでな」

「え!?は、ハルバードデスか!?ど、どこから……」

「お前が言うか?」

「そ、それは……」

「さて、お手合わせ願おうか?」

ニヤリと笑う圭子。切歌は底知れぬ闘争心を感じ、怯んでしまう。外見もあり、物凄く怖い何かを感じるのだ。今度こそスプラッタである。黒江はのび太の部屋から映像で見ていて、ハラハラドキドキであった。黒江は切歌の実力を知っている。その為もあり、スイッチが入った圭子相手に何秒持つか。それが心配だった。

「ハァ!」

空を切る圭子の真ゲッタートマホーク。その衝撃波も物凄い。切歌はアームドギアを拾い、バーニア込みで斬りかかるが、動きが単調かつ直線的であり、絶対的な経験不足を露呈した。

「ええいッ!」

鎌をなぎ払いで振るうが、それを斧で受け止められ、生じた隙を突いての蹴りに対応できずに吹き飛ぶ。

「ガハ……ッ!こ、このパワー……!」

「私は空手の心得があってな。綾香より力は上だぞ?日本拳法混じりだが」

「あり得ないデス!いくら空手をしてると言っても、司令みたいな――」

「悪いな。私もその領域でな」

「な…ッ!?」

「ムウン!」

オーラパワーの片鱗を見せつける。光戦隊マスクマンより授かった大いなる力。よく見てみると、圭子は開いている方の腕で印を結んでいる。そして、そこから左拳でゴッドハンドを放った。切歌は咄嗟にギアの機能でアンカーを打ち込んだが、それでもアンカーごと大きく吹き飛び、ブースター全力噴射でようやく止まるという威力だった。

「い、一瞬、天国が見えたデス……」

「これが日本に伝わる最大最強の大技『ゴッドハンド』。相応の力がある奴がやれば、ショッカー怪人も目じゃない。世の中には普通の日本刀で、暗黒組織の幹部斬った人もいるしな」

「いったい何がどうなってるデスかぁ……」

「上には上があるという事だ。上を見れば、一人で軍の一個中隊以上と謳われる剣の流派があったし、世界を渡る関係で新撰組の三番隊組長にもあったが、馬鹿みたいに強いぞ?」

「なんデス、なんデス、なんなんデスかぁ!まるでSF映画に出てきそうなのは!」

「それ着てると説得力ないぞー」

「うッ……!」

「それにお前、確か、ギアの展開時間に限りがあるとか聞いたが?」

「仕方がないデス、私は元々の適合率が低いんデス。リンカーって薬がなければ、マリアも、調も本当はギアでの戦闘は……」

「聖遺物を超えるんだな。聖闘士を目指したいんなら、そのくらいの心構えでやれ」

「聖遺物を超える?」

「そうだ。聖遺物を超えるんだ。調は綾香からのフィードバックを鑑みても、急激にそうなりつつある。努力もしてるがな」

聖遺物に『使われる』のではなく、聖遺物を超え、『道具』とすること。聖闘士はそれを日常とする。調は古代ベルカでオリヴィエを守れなかった悔恨の気持ちから、並々ならぬ努力を重ね、黒江から引き継いだ能力を自家薬籠中の物にしつつあり、エクスカリバーも手中に収めた。その裏では血反吐を吐くような修行を行っており、パルチザン参加の直前までは老師・童虎のもとで五老峰に滞在し、聖闘士としての正規の修行を積んでいた。それが今の切歌と調の間に横たわる『壁』であり、ギアの展開時間に制限は無くなっている。修行を積み、シュルシャガナの存在を超えたからだ。その為、紫龍の妹弟子に当たると言える。(紫龍の婚約者の春麗の田植えなども手伝っている)

「それじゃ、私に何ができるって……」

「なら、目指せばいい。この道をな」

「わざわざ山羊座着てきたのか?」

「その方が場面的に合うだろ?」

「黒江…綾香……」

黒江は箒の姿を取っているが、山羊座の聖衣を纏って登場した。黄金のオーラを迸らせ、如何にも強者の雰囲気を感じさせる。

「調と同じ場所に居続けたい、背中合わせに戦いたいのなら、選べ。自分が何をしたいか。このままくすぶっていても、何も変わらないだろう。何もな。誤解で周りを傷つけるままのお前のままで」

「それは……」

「切ちゃん……。私は切ちゃんと一緒に戦いたいよ。切ちゃんに会いたいって気持ちがあったから、私は古代ベルカを生き抜けたし、聖闘士になるって決められた。切ちゃんがいない世界なんて……寂しいだけだよッ……だから……」

「調……」

「答えを聞こうか?」

「決まってるデス。私は……聖闘士になるデス!」

「私のわがままに付き合わせちゃって……ごめんね……」

「良いデス。ここまで来たら一蓮托生、オリンポスでもなんでも忠誠を誓うデス」

「だってよ、ゼウスのおっちゃん」

「あいわかった。娘に伝えておこう」

ゼウスが現れた。マリアからセレナへの伝言を受け取り、帰るところだった。今の甲児をちょっと成長させたような姿での登場だが、神らしい威厳に溢れた声色だ。

「その心意気、見事。我が娘、アテナも喜ぶであろう」

「ハッ」

その場にいる全員が畏まる。オリンポス最高神『ゼウス』が自ら降臨しているのだから、当然だ。

「そなた達の頼みは、我が名の下に約定する。待ってておれ」

ゼウスは威厳を見せるが、黒江にはアイコンタクトを送る。前史以来、ゼウスは頭が上がらないのだ。何せ、娘の配下にまで、手を出したと知れたら、妻がまた激怒するのは目に見えている。前史では、黒江がなんとか納めてくれたので、難を逃れた経緯がある。それをネタにゼウスをこき使っている黒江も相当に悪どい。ゼウスの自業自得なのだが、黒江が口八丁で危うく、ヘラの怒りを買うところをどうにかしてくれた恩義のため、レイブンズに頭が上がらないのだ。ZERO関連でも迷惑をかけたため、レイブンズはそれを理由に、ゼウスをこき使っている。甲児と融合してもいるため、その当たりでもゼウスは弱く、黒江の指令であれば、善人の死者を蘇らせる事もやる。ゼウスの不覚、『娘の配下に手を出した』事が全ての要因であり、黒江はゼウスと『一夜を共にした』経験があるのだ。ある意味では、神話通りの絶倫ぶりである。(マリアの妹であるセレナ・カデンツァヴナ・イヴの蘇生も、レイブンズが極秘に頼んでおり、ゼウスは黄金聖闘士の第二陣蘇生のついでに行うと確約した)

「また会おう、少女たちよ」

ゼウスはかっこよく決めて去ってゆくが、黒江としては、前史の事もあり、『吹かしてやがるぜ、ったく』が本心であったりする。黒江なりのシンフォギア世界への手向けが『セレナ・カデンツァヴナ・イヴの蘇生』という奇跡なのだろう。それはマリアが望んだ事であるのも事実である。それができるのなら、風鳴翼は『天羽奏の蘇生』を懇願するだろう事も分かってもいる。翼は過去、奏と相互依存の関係にあり、それが奏の戦死で断ち切られた事で人間的に成長したため、セレナの蘇生を、翼の叔父である風鳴弦十郎に示唆した際、彼は『セレナ君は聞くところによると、悲劇的な最後を遂げているが、奏は望んで逝った……。その魂の眠りは妨げたくはない』と言い、『人の蘇生が可能な事を翼には言うな』と頼まれている。人の蘇生は神であれば可能である事は理解しつつも、蘇生は『不幸な最期を遂げた者に与えられる奇跡であって欲しい』という彼個人の考えを伝えられ、黒江も同意した。

『もし、翼がそれを知ったら、君に反発してくるだろう。その時は遠慮なく叩きのめして欲しい。人間、誰しも『大事な人がひょっこり帰ってきて、挨拶を交わす』のを望む。太平洋戦争の時代に生きる君には分かりきっていることだろうが…』

これが姪の翼の天羽奏への思いを汲み取った、風鳴弦十郎の言葉である。翼が唯一、ナーバスになるだろう事が天羽奏に纏わる事なのだ。彼の予測は『翼が知れば、奏の蘇生を望むだろう。だが、俺としては奏の魂を黄泉の国から呼び戻す事はしたくない』との事で、黒江は『なら、冥界へ連れて行けばいいだけさ。積尸気冥界波を使えばいい』と返したという。




――こうして、聖闘士志願を表明した切歌。それを知ったマリアも、自分の存在が聖遺物を超えれば、『ギアの展開時間に制限は無くなる』事や、二人だけを神々の戦の場に出したくない『親心』から、これまた聖闘士志願を表明する。聖域側の権益として、『欠員が過半数超えてるし、人材はいくらでも欲しい』事もあり、現役の黄金聖闘士である黒江と智子の推薦という事で、すんなりと聖闘士候補生になった。また、護るべき対象を明確に見出した事で、調も右腕のエクスカリバーを本格的に呼び覚ますことに成功した。

『因果を断ち切り、勝利へ結べ!約束の勝利の剣(エクスカリバー)!!』

これこそ、黒江から引き継いだ最大の武器。「聖剣・エクスカリバー」。この発現も聖闘士叙任の大きな助けとなる。そして、一同の前に、フェイトの肉体を借りているアイオリアが獅子座の聖衣を纏って現れる。オーラで背後に生前の姿を浮かべての登場だった。

「そのような理由か、事情は飲み込んだ」

「アイオリアさん」

「それにしても、聖闘士のヘッドハンティングとはな。大神ゼウスを使うとは。思い切った手を使ったものだな」

「あの御方は子供にあまいようですから…(目そらし)。聖域は白銀も壊滅状態、青銅二軍連中じゃ物の数じゃないし、星矢はハーデスの呪いで廃人だし」

「そうか、ハーデスを打ち倒した事で生じた呪縛という奴だな……。君が我が兄アイオロスがたどり着いていたという境地に達していると言うが、本当か?」

「ええ。私は貴方の兄であるアイオロスがたどり着き、貴方が生前に成し得なかった『獅子座の奥義』を体得しています」

黒江は頷く。アイオロスは生前、14歳にして、ナインセンシズにたどり着きつつあり、アイオリアに教えるべき『獅子座の継承奥義』の修練を控えていた。ライトニングプラズマとボルトの発展形に位置する上位技だ。アイオリアはそれらを知らずに獅子座に叙任されたため、獅子座の全ては習得せぬままに戦死した事になる。黒江は、智子のグランウィッチとしての能力である『記憶の引き出しと再生』の恩恵、自らの昇神でアーク放電の自己制御に成功したのである。

「アーク放電のアークプラズマ、最上位のライトニングフレイム、ライトニングボルトの最上位のライトニングテリオス。それが貴方に伝えられなかった、貴方の兄上の遺した遺産です。そして、貴方が遺した『フォトンバースト』」

「そうか。兄も草葉の陰で喜んでいるだろう。そして、シュラも」

「ええ。彼とは別のエクスカリバーにはなりますが」

アイオリアはフェイトの肉体を器として用いている都合、声などはフェイトのそれだが、立ち振る舞いは生前の彼そのものである。事後、フェイトの立ち振る舞いがアイオリアに近くなったのは、この時の憑依現象の名残りである。また、アイオリアの意識と強く同調し続けていたため、『聞け、獅子の咆哮を!』と、彼のキメ台詞が感染り、聖闘士としても『雷刃の獅子』を自称するなど、明らかに混じったらしき節があると、後に八神はやては語る。

「ほう。それは興味深い。他人の肉体を借りている身だが、俺と手合わせ願おう」

「ええ。黄金の獅子を謳われた貴方とやり合えるというのは、貴方の次の世代の黄金聖闘士として、光栄の至りです」

「なんデスか、この流れ」

「バトル漫画にありがちな展開だよ、これ……切ちゃん、ギアは解除しないほうがいいよ。正直言って、普通の格好だと……死ねるから」

「ちょーっと待った!ならさ、思いっきり出来るようにシミュレータールーム使えば?ミッドから持ち込んだヤツ有るよ。ご両人、ここ、戦艦の中だよ」

「お、そうか。忘れてた」

「実はと言うと、あたしもだ」

「ケイさん、あんたがノると、これだよもう〜」

場に居合わせている圭子も、止めるのをすっかり忘れていたようで、ハルトマンは呆れた。最近はツッコミ役が板についたらしく、芳佳にマッサージしてもらう事が日課である。結果、ミッドチルダから持ち込まれたシミュレータールームが使用された。なのはたちのトリプルブレイカーに余裕を持って耐えられる強さを持つ最新型である。何気に凄い設備なのだが、見学にギアが必要だと真顔でいう調に、切歌はキョトンとする。これはライトニングプラズマのぶつかり合いの余波だけで普通の人間は死ねるからで、エクスカリバーの発現でエクスドライブ状態の調、通常ギアであるが、切歌も展開状態のままで見学した。話を聞きつけたマリアが普通の格好で入ろうとするのを、ハルトマンは『待て!そんな格好じゃ消し炭になるぞ』と脅し、アガートラームを展開させた上で、入室させた。入室すると。

「きゃあああ!?な、何よこの暴風は!?」

「アレを見ろ」

「!?」

アイオリア(フェイト)と黒江の二人がライトニングプラズマを上空で撃ち合う。その余波だけで台風の暴風域のような嵐が巻き起こっている。マリアは黒江からライトニングプラズマを食らったりした経験がある事、ギア展開による身体能力向上の効果で、ライトニングプラズマの軌跡は視認できた。

「あれは……前に私が食らった……」

「ライトニングプラズマ。一秒間に一億の拳の乱打をぶつける技だ。軌跡だけでも視認できりゃ大したもんだ」

ハルトマンはグランウィッチ化で問題なく視認できるが、マリアはセブンセンシズがないため、軌跡しか見えなかった。が、数字が明らかにおかしいので、ツッコむ。

「い、一億!?嘘でしょ!?人の肉体の反応速度の限界は……」

「それを超えるのが第六感を超える第七感だ。光速だから、視認したら当たってるから、それ以前に動いてるのさ」

光速拳の領域だと、見えたら命中しているというのが当たり前であり、いくら視覚を強化したところで、視覚した瞬間に当たっているのだ。その為、それを打ち合っているように見える二人は、人としての領域を超えたところに立っていると言える。

『ジャンピングストーン!!』

黒江はジャンピングストーンをかけ、アイオリアを投げ飛ばす。すぐに態勢を立て直したアイオリアはライトニングファングを放ち、雷を黒江へ落とす。黒江はライトニングファングを押し返すべく、アークプラズマを放った。ライトニングプラズマを超えたライトニングプラズマである。

「こ、これは……!」

「超光速拳!アーク放電を起こせば、その速度は光速をも超える!!『アァァク!プラズマァァァ!!』」

光を超えた速さのアークプラズマ。電撃だけでも、アイオリアのライトニングプラズマを超える速さを誇る。その為、ライトニングファングはエネルギー量の違いもあり、押し返され、黒江はアイオリアに一撃を加えた。

「何……、今のは……青白い光が……雷を押し返したように…」

「アーク放電だ。通常の電撃より遥かに威力がある。今のを見れたのは幸運だぞ?同格以上でないと、中々放たんからな、アヤカさんは」

「あれが黒江綾香の本気……。通りで私達が束になっても……」

「まっ。お前らが歯が立たないのは自明の理だ。あの人、小宇宙抜きにしても歴代屈指の剣術の達人だしな」

「貴方もそうでしょう?エーリカ・ハルトマン。黒い悪魔と謳われた、貴方の同位体のプロフィールは確認させてもらったわ」

「まっ、あたしはビスマルク時代のままのドイツの軍人だけどね」

「本当なの?」

「ああ。あのちょび髭アドルフはあたしらの世界には居ないか、別の道を辿ったし、ヨシフ・スターリンもいないし、そもそもソ連すら存在がないしな」

「そうなら世界秩序は……」

「1910年代のロシア革命以前の状態で落ち着いた世界だ。まっ、今はややこしいけどな」

「信じられないわね。貴方は私達の時代ならば……」

「お前の時代なら、90に手が届くよ。45年で17歳だしな、あたし」

「本当なら、私達から見たら祖父母の世代に当たる……。本当、なんだが不思議ね」

「23世紀にいる時点で、それはお互い様だろ?」

「確かにね」

マリアはハルトマンがドイツ軍最強の撃墜王である事を知っており、見かけでは自分が年上ながら、軍歴に敬意を払う形で、ハルトマンへは年下として接していた。また、グランウィッチ化により、マリアを一蹴できる戦闘力があるのも要因だった。

「今のお前なら、あたしでもお釣りが来るさ。あの領域に行くのは容易なことじゃない。だけど、目指すんだろ?」

「ええ。あの子達だけを神々の戦場に立たすわけにはいかないし、世紀末の世界に行くかも知れないし」

「あそこは下手な実力だと死ぬぞ?せめて南斗六聖拳級はないとな」

「いや、ファルコ級のほうが……」

「元斗皇拳かよ、お前、読んでたな?」

「に、日本でライブした時に偶々、コミック文庫があって…」

「なるほどな」

とある漫画のことを知っていたマリアとハルトマン。意外な共通点である。黄金の輝きを放ちながら、自分たちのもとに降り立つ黒江とアイオリア憑依のフェイトの二人を出迎えながら、マリアは二人の『領域』に至ることを強く願うのだった。



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