短編『陸軍三羽烏と宮藤芳佳のとある一日』
(ドラえもん×多重クロス)



――地球連邦がもう一つの地球と交流を持ってからはや半年が過ぎ、1945年に年が変わった冬の終わりの日。今や連邦側から“扶桑陸軍三羽烏”と呼ばれるようになった穴拭智子、黒江綾香、加東圭子の三人は宮藤芳佳の家に遊びに来ていた。芳佳からタイムマシンで変えたい過去があるとしたらなんですかと問われると三人は満場一致で“扶桑海事変”と答えた。

「何でですか?あの戦いは勝ったんですよね?」

「勝ったには勝ったけど、あの時にベテランの多くが死んだりしたせいでこの戦いに影響を残したし、海軍に間違った思想を定着させちゃったからね。坂本はその犠牲者よ……実はあの子、今の若い連中の間で評判良くないのよ」



圭子は扶桑海事変の戦訓で編隊空戦に移行した陸軍と、その戦訓を曲解して巴戦重視の傾向が続く海軍の違いにため息をついた。海軍の若手の間で坂本の評判は良くないと芳佳に話す。

「えぇ〜〜!?ど、どうしてですか!?坂本さんはいい人ですよ!?」

「人間的には確かにいいやつなんだけどね、戦い方が巴戦偏重なのよ。今の世の中は編隊空戦だから若い連中の中には“老害”と蔑む奴らがいるの。扶桑海事変の時に自分の刀が勝負を決したからそれを今でも信じてる節がある坂本は今の苦戦の状況には当てはめられないとか言ってね」

――そう。坂本は単機での空戦技能を至上と考えている、言わば古き良き“練達の士”だが、時代はエレクトロニクス時代、編隊をを駆使しての集団空戦が花形だと解く進歩的な若手の発言力が増大していくにつれて坂本の発言力は小さくなっていったが、一年前のあの事件を機にそれが決定的になったと圭子は言う。

「そう言えばアフリカに行った時、ハルトマンさんが坂本さんがやたら愚痴ってたところを見たって言ってたっけ。あれもそうなんですね」

「そうよ。海軍航空本部にいる知り合いが聞いた話だと、あの子はあなたに試作機を与えようとしたらしいの」

「え?新型ですか?」

「そう。あの子は今そっちの主力になってる紫電系列を嫌ってね。それで別のメーカーが試作してたユニットをあなたに与えようとしたのよ」

「そう言えばハルトマンやマルセイユさんがそんな事言ってたっけ…あれって私のためだったんですね……」

「ええ。それであなたに与えようとしてたのがこれ。震電。持ち合わせの写真が戦闘機のものしか無いけど、こういう機体よ」

「あれ?これってどっちが前ですか?」

「コックピットがある方が前。エンテ型戦闘機とも前翼型とも言われる、野心作の局地戦闘機。火力は紫電改や雷電以上で、重爆迎撃を前提に造られた機体。あの子があなたに与えようとしたのがこれのユニット型よ」

「へぇ……」

震電。それはリベリオンの高性能爆撃機や重爆型ネウロイの迎撃用に試作されていた戦闘機なりストライカーユニットである。しかしティターンズが表れたせいでレシプロエンジン機の開発の必要性が薄れた影響でストライカーユニット、戦闘機共にプロジェクトが中止された悲運の機体。坂本はエンジンの馬力の大きさに惹かれ、“宮藤の魔力を受け止められる”と501への配備を熱望したが、海軍航空本部はジェット機の開発を重要視していたためにけんもほろろに断られた。それを坂本は愚痴っていたのだ。


「で、結局私に紫電が回ってきたんですね?」

「そういう事よ。ジェットが次代の主力になることが敵の戦闘機から見ても明らかだったからレシプロエンジン機の開発計画は軒並み中止になった。だから烈風がレシプロエンジン機としては最後になる」


圭子は海軍航空本部にいる知り合いから聞いた裏話を芳佳に教える。ティターンズがもたらしたのは混乱と破壊だが、科学技術の急速な進歩も実のところ間接的に寄与したのだと。

「複雑ですね……」

「そ。それであの子の思うような時勢じゃなくなったってわけ。乙戦も制空戦闘に使えって言ったとか言わないとか噂立っちゃってるのよねぇ……」

「坂本さんらしいといえば坂本さんらしいけすけど……」

圭子としては坂本を擁護したいのだが、話を聞くと若手に疎まれても仕方がない言動ぶりなのだ。なので頭を抱えている。芳佳も坂本の性格はよく把握していたのでなんとも言えない。

「あいつが今みたいになったのはいつの頃だ?」

「竹井さんの話だとリバウにいた時にはもう今の性格になってたそうです」


「するとあたしがちょうどスオムスにいた頃、かぁ。綾香、あんたってその頃まだ前線にいたっけ」

「確かあいつがリバウにいた時は41、2年頃だろ?私はちょうど減衰が始まった時だから前線から退くように言われてた頃だ。まっ、今となっちゃリンカーコアが出来たおかげで再減衰の心配ないけど、あの時はな。グハハ〜!」


黒江達三人には1945年現在、なのは達同様にリンカーコアが体の中にできている。そのため魔力の再喪失の心配は無くなった。どうして後天的にリンカーコアが出来たのかについては時空管理局や地球連邦の科学技術と医療技術を以ってしても解明されていない事例である。リンカーコアそのものがミッドチルダでも研究途上の分野なためだ。

「リンカーコアってなんですか?」

「時空管理局って聞いたことあるだろ?そこの魔導師は私達と違って魔力を一生使えるんだが、その要因に体の中に魔力を供給する器官があるという事がある。魔力の大きさとかには個人差があるが、総じてうちらより強力な魔法が行使できる。要するにリンカーコアつーのは魔力の核みたいなもんと考えりゃいい」



黒江はかいつまんでリンカーコアの事を話す。自身もなのはやフェイト達から聞いておいた事だ。

「その影響で私達は若いころの固有魔法の他に魔力を別のエネルギーに変換できるようになったり、別の固有魔法がつくようになった。私は魔力を電気エネルギーに変換できるようになったんだ。なんでもリンカーコアができる前に、ある人の放電を浴びちゃってた事が作用したらしいけど」

黒江は自身が得た新たな力が礼を示した二つの内の前者であると芳佳に何気なく自慢すすると、証拠とばかりに芳佳が置いといた愛刀を借りて鞘から抜く。すると。刀が金色に輝いていた。



「あれ?光が金色ですね」

「この色の違いは魔力の波長の形が具現化した奴だから特に意味は無いそうだ。だが、電気エネルギーを魔力と一緒に乗せて攻撃したりできるから便利だぞ〜見かけ的にもかっちょいいし」

まるで新しい玩具を買ってもらった子供のようにドヤ顔で芳佳に自慢する黒江。普段大人びた彼女もたまにはハメを外したいらしい。圭子と智子が意外そうな顔をしている事からも珍しい事であるのがよく分かる。 






「お、そうだ宮藤。お前、343空に配属されたんだって?」

「はい。坂本さんと入れ替わりで」

「予備役からの再召集にしては高待遇じゃないか」

「え、予備役ってそうなんですか?」

黒江はこの一言に目が点になった。芳佳が軍隊に関する知識に疎いとは竹井から聞いていたが、予想以上だったらしい。

「そ、そうか。予備役ってのは現役を引退したりした兵士が戦争とかで呼び戻されるのを前提に部隊とかでの生活を終える事を言うんだ。お前の場合は有事で呼び戻されたから退役とは違うぞ〜」

「へぇ〜」

黒江は芳佳に予備役の事を説明する。こういう時に大先輩(芳佳世代にとって智子ら世代は雲の上的の存在)である彼女らは先生のようなものだ。三羽烏も一途に目標に向けて邁進する芳佳が可愛いらしく、何かと気にかけている。

「ところで芳佳、今日はこれからどーすんの?」

「今日はお母さんたちから食料とか買うように言われてるんで買い物に行くつもりですけど……」

「そんならあたしたちも付き合うわ。久々に三週間くらい休暇もらったしね」


と、いうわけで芳佳の買い物のお供に陸軍三羽烏がついてきたわけだが、道中の横須賀の中心部の町並みが西暦2000年代以降の摩天楼が立ち並ぶ大都会と打って変わってレンガ造りの建物などが整然と立ち並んでいるあたり、時代を感じさせる。

「数百年するとこの辺はビルが立ち並んでるなんて思えないくらいのどかだわね。時々このギャップについてこれなくなるわ」

圭子は海軍の横須賀軍港近くの風景が西暦2200年や1999年当時と比べるとのどかである事に当たり前だがギャップを感じているようだ。

「ちょうどいいから宮藤に未来の新宿の様子見せてやれよ」

「そうね。将来この子も未来に行く可能性あるし…驚かないでよ?」

「どれど……!?」

その瞬間、芳佳は開いた口が塞がらなかった。この時代には有数の市街地にのし上がりつつあったとは言え、除水場があった新宿が完全にニューヨークを思わせる摩天楼が立ち並ぶ完全な大都市に変貌していたからだ。


「まるでニューヨークじゃないですか!これが未来の新宿なんですか?」

「そうよ、この写真は向こうの世界での西暦2200年での姿。戦争からの復興途中だけどね」

その写真は西暦2200年時の旧・新宿副都心付近のもの。新しいカメラを買いに行った時に手持ちのライカで記念で写した一枚。未来の新宿の様子が垣間見れる。ところどころ建築中のビルがあるあたりは復興中である事を裏付けている。

「へぇ〜……」

「取り敢えず商店街で食品買うぞ〜」

と、いうわけで三羽烏の三人は1945年と2200年の金銭感覚の違いを頭に再インプットしながら芳佳の買い物を手伝う。(この時代では円の下に銭が存在しているために、色々と異なる点がある。例えば西暦2000年頃の10円の価値に相当する物がこの時代で言うと10銭くらいに当たるなど)




「これだけ買って10円にも行かないんだから金の価値って変わるんだなぁ」

「未来じゃ円で統一されてるからね。今の価値だと確か一億円もあれば大和型戦艦作れるわよ」

「未来の感覚で考えるとリーズナブルな値段だよな〜疾風も確か5,6万くらいだろ」


2時間後、黒江達が基地から乗ってきて、そのまま買い物に使った一式半装軌装甲兵車(ある意味、買い物に装甲兵車を使うのはゼータクである)に荷物をたんまり載せて帰路につく。たんまり買っても未来の金銭感覚から見ると小さい金額ですんだ事に驚いている。帰りの運転は圭子がしている(未来世界で免許取得したとの事)


午後の2時頃に芳佳の自宅につくとちょうど坂本がやって来た。なんというタイミングの良さだろうか。

「なんだこれ!一式半装軌装甲兵車だと!?」

「ちょうどいいわ。坂本、あんたも荷物下ろすの手伝って」

「なにィ!?ま、まぁそれは構わんが……何故お前らが宮藤の家にいるんだ!?」

「休暇よ休暇。芳佳から聞いたけど、あなた週に二回も飯食って風呂入っていくのね?たまには何か手伝いなさいよね」

「そりゃ無理だ。医学のことは殆どちんぷんかんぷんだし、食事作ろうにもおにぎりすら三角に握れんし……」

バツの悪そうに坂本が俯く。食事すら満足に作れないというのは智子は初耳なようで、意外という顔をした。

「それじゃ勝ったわね」

「何だとぉ!?」

「未来で自炊する機会多かったからカレーとか作れるもんね。うどんも」

「殆どレトルトだけどな〜」

「る、るさいわよ綾香!」

「へいへい」

「ぐぬぬ……!」


智子は未来生活で自炊する機会が多いため(三羽烏の勤務時間がそれぞれ違うために食事は各個で作っていた。なのはに料理を教わったとの事)にレトルトや簡単な料理程度なら作れるようになった事を坂本に勝ち誇る。何気にみみっちい自慢だが、おにぎりすらまともに握れない坂本に取っては正に屈辱であり、対抗心をメラメラと燃え上がらせた。……と言う事で芳佳と智子達が付き合いがある事を改めて知った坂本はこれまた驚いた。

「それじゃお前たちは去年の秋か冬頃から付き合いがあるのか?」

「はい」

「そういうことだ」


(……これはまずい!実にだ!昔の私のあーんな事やこーんな事を宮藤に知られたら……は、恥ずかしい〜!!)

坂本は先輩格である三人が芳佳に自分の赤裸々な過去の事を話していないか不安になった。自分より先輩である三人の前ではいじられる役目だからだ(坂本が新兵時代に三人は既に士官だった)。

「坂本。横空に異動になったんですって?」

「そうだ。343空での役目は終わったんでな。宮藤と入れ替わりで移動になった」

「あなた……343空での事は……」

「知っているさ。義子の奴に教えられた。まぁ私は若い連中をしごいたから恨まれても仕方がないさ。私は源田大佐に色々意見具申したし、巴戦重視の教育をしてきたからな……」

西沢から裏話を教えられて自分に自信が無くなってしまったのか、どこか自虐的な物言いだった。いつもの豪快な姿も鳴りを潜めており、その場にいた全員が坂本を心配するほどの意気消沈ぶりだった。


「……思えば私はお前達のようになりたかったかもしれん。若いころにお前らが見せてくれたようにな。今度もし、501が再結成されるとすれば最後に一花咲かせるさ……零式と共に」

それは坂本が扶桑海事変での智子たちに憧れていた事を暗に当の智子達自身に示す一言だった。自分達は今の坂本を形作るのに一役買っていた。それを強く自覚した智子と黒江は複雑な心中であった。


――確かにあの時、あたし達やんちゃしまくったけどさ。まさか、まさか坂本が…………。

智子もこれには驚きだった。坂本が自分らに憧れていたなど、これまで微塵も感じた事はなかったし、若いころはそんなに付き合いが無かったので、坂本の事は気にとめていなかった。必死に記憶を辿っても思い当たるフシは見当たらない。

「お前……最後に一花咲かせるって……なんでそこまでするんだよ!?」

坂本が零式に愛着を持っていることは知っていたが、敵と刺し違えるとも取れる発言に黒江は思わず立ち上がってしまう。


「分かるだろう黒江。アレは私と宮藤博士が育てた機体なんだ。それが欠陥品の烙印を押されて消えていくのに耐えられないんだよ」

坂本は自分が試作機時代から関わってきた機体で、しかも宮藤博士の遺産となった機体が、急激に入ってきた未来情報や情勢の変化で“使い手の命を考慮しない欠陥品”の烙印を押された事に坂本は反感を持っていたのだ。

「零式はあの時、海軍最良の戦闘脚だった。宮藤、お前の親御さんが心血を注いで作ってくれたおかげで多くのウィッチに戦う力を与えてくれたし、私もエースになれた。私の手で零式は欠陥品なんかじゃないことを証明するんだ」

それは坂本が芳佳の父、宮藤一郎博士に対し他のウィッチがよりも恩義を感じている事の表れであった。次世代機への乗り換えにも宮菱系の機体にこだわっているのもこれが原因なのだ。

「どうしても乗り換えろというなら烈風をどうしかして手に入れたい。同じチームが作った機体だからな。義子にも諫められたが、やはり紫電は私の性に合わん」

坂本は“ウィッチに不可能はない”を座右の銘にしている。そのためそれを体現してくれた存在である、宮藤博士の愛娘であり、遺児の芳佳を妹のように見ている。そのために零式の開発チームが作った次世代機である烈風を欲しているのだ。だが、烈風は東南海地震と未来情報によって零式と紫電系列を完全代替するほどの数が大量配備される可能性は潰えていると黒江は教えてやりたかったが、言えなかった。坂本の純朴な目を見ると言えないのだ。





















――その日の夜、坂本が帰った後、智子達と芳佳は話し合った。

「坂本さんに烈風のこと教えられませんでしたね……」

「あいつは素直だからなぁ……それにあいつが扶桑海事変の時の私達に憧れてたなんて……参ったよ。こりゃ私たちのせいかもしれん。責任とりてぇが、過去は変えられない……。クソッ、どうすればいいんだ!?」

黒江は頭を掻き毟りながら大問題にぶち当たった受験生の如く悩む。坂本にある意味、影響を与えたのが自分たちとあれば責任重大だからだ。





「タイムマシンで変えられません?」

「その手はあるにはあるが、ど〜やって過去の自分と入れ替わるんだよ……できるものならあの時に今のままで戻りたいよ。いわゆる逆行ってやつ。こういうこと言うと未来だと笑われるけどさ」

黒江はこの時、過去に現在の状態で戻りたいという願望を口にした。小説でもたまに見るネタだが、実際にこういうことを口に来ると“痛い子”に見られてしまう。未来だとその傾向が強い。しかしできるものならそうしたい。そう思った。それは智子、圭子も同様であった。

「ああ。こういうのを詰んでるって言うのよね…ええいくそ!」


現状ではもはや手詰まりであった陸軍三羽烏。黒江が願望を口にするのも無理かしらぬ事。未来にはドラえもんが野比家の運命を変えた事例があるが、今回はそれとは違うのだ。しかし……この願望はこの後に思わぬ“一念岩をも通す”が具現した一種の奇跡によって叶う事になる……。上空を通過するジェット戦闘機のエンジン音が宮藤家を揺るがす。その音は次世代の翼を意味する福音なのか……?それは誰にも分からない。



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