短編『グレートマジンガーの進化』
(ドラえもん×多重クロス)



――グレートマジンガーは西暦2199年時点に量産計画が立てられた。これは当時、メカトピア戦争が勃発し、地球連邦軍の戦力が減退していたために求められた。そしてメカトピア戦争には間に合わなかったものの、機体はブレーンコンドル含めて複数完成しており、複数がミケーネの手に渡った。科学要塞研究所はプリベンターに依頼した強制捜査で量産型グレートマジンガー数機、ブラックグレートを接収。ゴッドマジンガーの開発に役立てる一方で、グレートマジンガーの改良も怠ってはいない。しかし、西暦2201年時点で問題が生じた。抜本的にオリジナルグレートの性能をマジンカイザーやグレンダイザーに伍するレベルに引き上げるのは難しいという点である。この問題はグレートマジンガーの陳腐化を防ぐ対策に重くのしかかり、兜剣造はある選択を取った。



――西暦2201年末 科学要塞研究所



「オリジナル(元祖)グレートの改修が限界点に?」

「そうだ。グレートはZの弱点を補完する形で設計した故、限界点に達するのはZより速いのだ……完成度が高いというのは、時として仇となる場合があるのだ」

「確かに完成度が高いということは、後で改良としても却ってバランスを崩しかねないですからね……どうするんです所長?」

「更なる高出力エンジンを載せるか、超高濃度のゲッター線を浴びせて進化させるか手段はない」


そう。この時点では細かい改装が限界点に達したマジンガーの最終的な性能強化には二通りの選択肢があった。一つは光子力を捨てて反陽子炉に載せ替えて、装甲をゴッド同様に新開発の『超合金ゴッドZ』へ換装する、『真っ当な大改装による強化』。もう一つは高濃度ゲッター線をグレートマジンガーに照射し、マジンカイザー同様に進化させ、『グレートマジンカイザー』と生まれ変わせる荒療治。普通に考えれば前者が妥当かつ、安全だが、それにはフレーム段階までの解体が必要なために数年の時間が必要であり、暗黒星団帝国の進行が間近いであろうこの時期には非現実的でしかない。兜剣造は危険だが、ゲッター線による進化を選択した。ネーサーの神隼人と敷島博士の協力で、ネーサーの第7格納庫にて、それは実行された。


「ゲッター線、照射開始!」

施設のゲッター線照射装置から、ゲッタードラゴンが進化を起こした時のそれよりは低いものの、高濃度ゲッター線が浴びせられる。

「兜博士、あれを!」

「おおっ!」



――一同は息を呑む。グレートの変化はすぐに起こった。無人でありながら、グレートマジンガーの瞳に光が灯る。そして超合金ニューZの装甲が次第にマジンカイザーの超合金ニューZαと同様の形状へと変わってゆく。機体形状もグレートマジンガー元来の形状からマジンカイザー同様の形状へ変わってゆく。

「光子力エンジン部はどうだ!?」

「エンジン出力上限がグレンダイザーのそれを超え、更に上昇!エンジン構造そのものも変化を生じています!」

なぜ、兜剣造は危険とも言える『ゲッター線による進化』を選んだのか?既にマジンカイザーやゴッド・マジンガー、グレンダイザーとの性能差が生じ、敵に同等以上の性能を有する量産型グレートマジンガーが渡った以上、製造年度がそれらに比べて旧い元祖グレートでは総体的に不利である。そして、ゴッドやカイザーに対抗できる悪魔の魔神の存在が兜剣造を焦らせていた。





「兜博士、なぜ今回、こんなハイリスクハイリターンの方法を?普通に大改装したほうが確実だったのでは?」

「ミケーネが手に入れたのがわかったのだ……父が封印した悪魔を……」

「悪魔?」

隼人はこの時、初めてデビルマジンガーの存在を知らされた。かつて、兜剣造の父である兜十蔵がマジンガーZの試作機として設計しつつも、マジンガーの悪魔的側面を体現する存在となるのが確実となったために設計図を破棄したはずの機体。その設計図をミケーネ残党が入手していることが判明したのだと。




「デビルマジンガー……もしそれが完成された場合はどうなるのです?」

「並大抵の性能のスーパーロボットでは敵うまい……恐らくグレンダイザーでも無理だろう」

『宇宙の王者』の異名を誇るグレンダイザーをしても、抗うのは無理だろうと、剣造に言わしめるデビルマジンガー。普段は冷静沈着な彼をして、ここまで目に見えて恐れさせるあたり、重大な脅威であるのが伺える。隼人は真ゲッターロボと同等のパワーを誇るカイザーとゴッドがある状況にも関わらず、グレートをゲッター線で進化させようと決断したという事は、真ゲッターやカイザーらと対等以上に渡り合える力を有するというのは間違いないと隼人は直感的に見抜いた。



「おおっ!」

グレートマジンガーの姿はもはや原型を残しつつも、次第にマジンカイザーと同型機と見紛うかのような姿へ変貌を遂げつつある。数十時間の観察で、世代の変化が凝縮されたかのような課程でカイザー型へ進化していく様が観測された。数日後には、胸のエンブレムが無い以外は間違いなく、ほぼマジンカイザーそのものへ変化した。ブレーンコンドルもカイザーパイルダーに近い形状へと変化が生じる。最後まで残った胸のV字型放熱板も変化をした時、ゲッター線数値が急速に下がってゆく。進化が終わったのだ。つまりマジンカイザーと甲乙つけがたい能力を誇る姿―言わば、『グレートマジンカイザー』―へ。






「まさかここまで進化させるとは……」

「いや、ゲッター線を単に浴びせただけではこうはならんよ、兜君。つまり、お前さんの親父殿の想いがカイザーを生み出し、グレートを生まれ変わらせたとも言える。そして早乙女研究所付近のゲッター線数値も減少が始まっていると観測結果が出ておる。あの狸型ロボットの話では『ゲッター線に適応し、人類に友好的』な爬虫人類が世の中にはいるそうだ。つまりはゲッター線は選んでおるのだよ、進化させるべき相手を」

「グレートとドラゴンにはその資格があると?」

「最もそれは今となっては早乙女の奴が天に召された以上、憶測の域を出んがね」

ゲッター線は相手を選んだ上で万物の進化を促すというこの敷島博士の憶測は的を射ていた。無機物たる機械であろうと進化を遂げさせられるゲッター線。しかし必ずしも同様の変化が他のロボに起きるとは限らないと。

『神大佐、敷島博士。ゴップ連邦議会議長がお見えになりました』

「お通ししろ」


この実験の詳細を知るのは当事者以外はゴップとジョン・バウアー議員やプリベンター上層部と言った、ロンド・ベルの後ろ盾となっている機関や政界関係者のみである。これは既にこの時期には表向き、前年の早乙女研究所壊滅事件を受けてゲッター線開発は『凍結』扱いだからで、ゴップがやって来たのは、黙認したこの実験の成否を見届けるためだ。

「久しぶりだね、敷島博士、神くん。それに兜博士」

「はい。議長、あれが実験成果です」

「ほう。ずいぶん変わったではないか。まるでカイザーだよ」

「あれはもうグレートマジンガーではありません。グレートカイザーと呼んだほうが相応しいでしょう」

「兜博士、君もずいぶんと博打を打ったね。しかしここまでしてグレートを生まれ変わらせるほどの必要性はどこにあるのだ?」

「父が封印した悪魔の設計図が敵の手に渡った可能性は濃厚になりました。それが具現化すれば、グレンダイザーですら太刀打ちできないのは確実です」

「君が言うデビルマジンガーかね?」

「ええ。あれは負の心を増幅し、憎しみと破壊を振りまく『破壊の権化』です。父が生涯で唯一『失敗作』と断じた代物です。」

デビルマジンガー。兜十蔵と剣造親子が便宜上、そう名づけた一体の魔神。その出自は後にカイザーとなる個体に前後して設計していたマジンガーの一体。純粋な技術発展の系譜で言えばZの試作機の一体だが、カイザーが持つ機構の不完全型とも言える機構を持ち、悪の心で力を増幅する事から、兜剣造は『悪魔』と呼んでいる。そのカウンターパートとなるべく、ゴッドやグレートを設計したのだ。


「今のスーパーロボット軍団で勝てるかね?」

「真ゲッターロボが封印されている以上、現状で正面から立ち向かえるのはカイザーとゴッドなどの一握りでしょう……」

「ゲッタードラゴンが復活してくれば……」

「スーパー戦隊のスーパーロボットでは無理なのか?」

「一体一体では無理でしょうな。たとえ大関格のサンバルカンロボやバトルフィーバーロボと言えど苦戦は免れません」

スーパー戦隊のそれを含めればスーパーロボットは数多いが、デビルマジンガー相手では性能不足が否めない物も多い。スーパー戦隊ロボの大関格であるサンバルカンロボやバトルフィーバーロボであろうと、単独では危険だと兜剣造は踏む。デビルマジンガーはそれほどに脅威なのだと否応なく周囲に印象付ける。

「うぅむ……大問題だなそれは」

「それ故に私はこの実験案を実行したのです、議長」

「アレか。調整にどのくらいかかる?」

「武装やエンジン回り、アビオニクスの調査と調整も含めますと数ヶ月以上はかかります」

「マスコミにはグレートマジンガーの『後継機』として、然るべき時に公表する。ブンヤ共に嗅ぎつけられたら、君たちは『極秘事項』と言って躱せ。グレートガンバスターもそうだが、元から強力なマシーンの改良型の存在を知られると、奴らは大統領や政権の揚げ足を取ろうとするからね」

ゴップは現役時代から、軍人と言っても官僚型で、一年戦争中は前線指揮官から大いに陰口を叩かれた。だが、政治の世界で彼の真価は発揮された。今では軍人出身などの国防族議員の重鎮として、政府要職を歴任する大物である。ロンド・ベルの価値を固めたのも彼であり、旧トップ部隊及びエゥーゴ出身者の後ろ盾になっているのだ。(ちなみにブンヤとは、新聞記者などを示す単語。多少侮蔑の意も含むのであるが、23世紀においても使われている。あくまでタクシーの『運ちゃん』と同じ感覚で、ある)

「確かに。21世紀以降、体制に都合がいい情報や反体制的なことしか言わない古典的マスメディアは嫌われてますからね」

「だが、時にも嘘も必要だ。後で訂正すればいい。近代以降、マスメディアを抑えた結果、政権が生まれる例は数知れんからな」

そう。情報発信元を押さえた者達が政権を転覆させたり、国の道筋を変えていく例は古今東西の国に見られる。この地球連邦の世の中であってもそれは不変である。エゥーゴが官軍になれたのは、ティターンズを反対運動として盛んに宣伝した当時の政府やエゥーゴに迎合したマスメディアが一枚噛んでいるからだ。

「息のかかったTV局や新聞社などに近いうちにアレの情報を流す。上手くやってくれ」

ゴップはこの実験で産声を上げたグレートマジンカイザーを『新型スーパーロボット』として宣伝するつもりのようだ。戦争続きで疲弊する国民の士気高揚と来るべき新たな戦乱への心構えをさせるために。奇しくも亜空間では暗黒星団帝国の全軍の70%が太陽系めがけて進軍中であったため、ゴップの思惑は成功することになる……。





――地球連邦軍 横須賀宇宙軍基地

「これが宇宙戦艦ヤマトかぁ。でっかいなぁ。シャーリー、本当に乗ったのか?」

「そうさ。世話になったし、バルキリーの整備頼んできたんだ」

エーリカ・ハルトマンはシャーロット・E・イェーガーに呼ばれ、未来世界の横須賀軍港に来ていた。奇しくも、宇宙戦艦ヤマトが第二次イスカンダル遠征から帰還し、オーバーホールのために半年間ドック入りしていたので、その間はヤマトの巨体が観察できる。それを目撃したわけだ。

「ミヤフジとカンノはどした〜?」

「あいつらは黒江さんに呼ばれて、新型ジェットストライカーのテストに行ったよ。クルセイダーっつー空母搭載型の」

「F8Uのストライカー型?良く作れたね」

「ここ数年で未来世界やミッドチルダから技術が入ってきたろ?そのおかげで早期開発が出来たそうな」

「なるほどね」

「そそ、お前んとこ、F-104を検討してるってさ」

「ウヘェ!F-104!?また失敗するぞ!だからF-100にしとけと……ガランドにいっとこ」





この時期、1946年を迎えようとする扶桑は、紫電改と烈風の後継となる海軍次期主力機にF8Uを採用することを内定し、1945年中から生産ラインの構築を始めた。これは未来世界とミッドチルダの技術援助で連合軍の主要国軍は1945年中に史実1950年代相当の技術力を得たためだが、そのため史実第二世代ジェット戦闘機が1946年には出現も夢でない状況となった。それは一応ティターンズと組み合える空軍力を持つことでもある。未来世界で旧各国軍事産業の衣鉢を継ぐ企業らはビジネスチャンスとばかりにジェット戦闘機を売り込んでいる。例えば、扶桑海軍はジェット機の台頭で急速に旧式化した翔鶴型や天城、加賀などの空母でも運用可能な高性能ジェット機を求め、格闘戦を重視する用兵側との兼ね合いの結果、F8Uを採用した。比較対象としてF-11も検討されたが、レシプロ機の陳腐化に焦る彼らは汎用性と格闘性能を重視したのであった。

「あれ、確か未来世界のドイツ軍の記録だと『未亡人製造機』だもんな。けど、なんでお前が知ってんだ?」

「プラモ作ったんだ」

「おお……意外」

当時、ジェットストライカー『Me262』及びフッケバイン(戦闘機も含め)の後継探しを始めたノイエ・カールスラントにも未来世界の軍事産業からジェット機が盛んに売り込まれていた。ジェット機は高度な技術を用いる故においそれと開発出来ない。そこでメッサーシャルフ社は未来世界でスウェーデンの戦闘機として完成し、アイデアそのものはナチス時代に存在しているランセンを提案した(そもそもランセンの機体デザインは実際に一説にはナチスの計画機からだとも)。そして、未来世界の企業はF-100かF-104を薦めてきている。ハルトマンはF-104の旧西ドイツ軍仕様機のプラモを組み立てた事があると言い、F-104の導入には難色を示しているのだ。

「ランセン採用しちゃうか、F-100買ったほうがまだいいと思うよ」

「バルクホルンが聞いたら泡吹くぜ〜」

「ありゃ大丈夫だよ。ミヤフジの事で頭がいっぱいだし、ここ最近のトゥルーデ」

「言うねぇ〜」

「シャーリーはこれからどこ行くのさ?」

「百里基地だよ。バンキッシュレースの会場が今年はそこなんだって。三日後だからマシンの調整やりたいから」

「ああ、バルキリー使ったエアレースでしょ?出るの?」

「VF-11部門に応募したら当選してさ〜ドラえもんたちも見に来るから、あいつらにいいところ見せないと」

「ん?そういえばルッキーニは?」

「ルッキーニはのび太たちに呼ばれて、今は横浜だよ。あいつらちょうど政府主催のパーティー終えて、横浜のホテル泊まってるんだって」

「へぇ〜。んじゃあたしはシャーリーに付き合うよ。暇だしね」



ハルトマンは友達付き合いがいい。シャーリーの暴走のストップ役が必要だと踏んだのだろう。こうして、それぞれの生活を楽しむ一行とは裏腹に、水面下で進められる戦争準備。全ては暗黒星団帝国の本格的襲来へ、そして奪われたデビルマジンガーへ備えるため。次なる戦争の足音は静かに地球へ忍び寄っていた。グレートマジンガーをカイザー化させたのもその一環であった。日常にも次の戦争の足音が迫りつつあった。



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